華麗なる白鳥拳！ その舞は死を呼ぶ！

■リプレイ

●飛ぶ鳥
　紅葉を日の光が照らす村へと続く山道にケルベロス達が降り立った。
「水鳥のように華麗に舞い、相手を翻弄するとな……。なんぞ、格好良さそうな武術じゃが……どんなものか敵ながら楽しみなやつじゃのぅ……」
　美しい武術を思い描いたアデレード・ヴェルンシュタイン（愛と正義の告死天使・e24828）は、楽しみにしながら敵の到着を待つ。
「白鳥の如き象形拳……見た目に目をつぶればまぁ見る価値はあるじゃろ、うむ」
　見た目よりも中身が大事だろうと、ソルヴィン・フォルナー（ウィズジョーカー・e40080）はのんびりと脇の切り株に腰掛けた。
「プロのダンサーの身のこなしは確かにただものができるものじゃないわよね」
　ダンスも大変な練習が必要なのだとエディス・ポランスキー（銀鎖・e19178）はその努力を想像する。
「そこまで修練を積んだ人間に、虐殺なんかさせるわけにはいかないわ」
　ドリームイーターとはいえ、元となった人の姿と技で殺しはさせないと気を引き締める。
　暫くすると飛ぶように駆け下りてくる男が見える。白い全身タイツを纏い、美しく脚を撥ね上げて駆けるドリームイーター武道家の姿だった。
「またれぃ！　そなたの企む悪行なぞとうにお見通しよ！　神妙に覚悟するのじゃ！」
「そこの変質者止まりなさーい！」
　アデレードが呼びかけ、炎の顔を持つベルベット・フロー（母なるもの・e29652）が行く手を塞ぎ、強引に敵を止まらせる。
「チャーチャララララーララー……」
　男は立ち止まり口ずさむメロディに乗って優雅に踊る。
「白鳥ねぇ……モノにできたらとても優雅でしょうけれど、アンタはまず格好をどうにかした方がいいんじゃないかしら？」
　じろじろとその姿を下から上まで観察した霧祓・天美（妹至上主義・e09726）が眉をひそめる。
「形から入るにしてもそれは……ねぇ？」
　あからさまに嫌悪の混じった声で相手を侮蔑する。
「美を理解せぬ者よ、何用か？」
　武道家が踊りを止めずに問いかける。
「ちょいと喧嘩売りにな。自信あるなら買ってくれんだろ？」
　拳を固めていつでも掛かって来いと相馬・竜人（エッシャーの多爾袞・e01889）が喧嘩を売りつける。
「我が最強の白鳥拳、空手とダンスの融合、白鳥の舞を見よ！　ヒョォウ！」
　甲高い声を上げくるりと回転しながら蹴りを放ち、まるで刃物で切断したように綺麗に木を両断した。
「白鳥を模した姿に、空手を組み合わせたということだな。柔よく剛を制す、その真髄を見極めさせてもらう」
　試させてもらうと、エング・セナレグ（重装前進踏襲制圧・e35745）は刀を抜き放った。
「くぁ、素晴らしき赤ペン神拳の前に……白鳥など、唯の白い鳥に過ぎないのオチね～♪」
　などと意味不明な台詞を自信満々にヒナタ・イクスェス（世界一シリアスが似合わない漢・e08816）は言い放ち、着込んだ赤いペンぐるみの手でクイクイッと手招きした。

●白鳥拳
「ヒョーー！」
　嘶いた武道家は足を伸ばし、その見た目とは裏腹に、軽やかに舞うように飛び跳ね蹴りを放ってくる。
「見た目はアレだけれど、身体能力は高いみたいね」
　天美は全身に禍々しい呪紋を浮かべる魔人と化して敵の攻撃を受け止める。そこへビハインドの霧祓・天祢が周囲に転がっている石を弾丸のように念で飛ばして敵の腹を貫いた。
「まずはその自慢の足を奪う戦法でＧｏのオチね～」
　ヒナタは砲弾を敵の着地地点に撃ち込み敵を衝撃でよろめかせる。
「また随分と愉快なカッコと動きしやがってまあ……外連味溢れるのは嫌いじゃねえが、正直見苦しいぜ、テメエよ」
　髑髏の仮面で顔を隠した竜人は右腕を黒竜の腕に変え、姿を消すように間合いを詰めて顔が変形する勢いで殴りつけた。
「アタシの相手もしてもらうわ」
　その反対側から挟撃するようにエディスは飛び蹴りを浴びせ地面に叩きつける。
「ヒョゥ～ヒョォ！」
　跳ね起きた武道家は手刀を舞うように振るい、周囲のケルベロス達を切り裂いていく。
「見た目と違い威力は馬鹿にできんのじゃ！」
　アデレードはオウガ粒子を放って仲間達の血を止め超感覚を呼び起こす。
「技は格好いいのに何でそんな格好してるかなー。台無しって感じ。その格好を人様の前に晒すわけにもいかないし、ここで退治させてもらうよ！」
　ベルベットも手にしたスイッチを押し、色鮮やかな爆煙を起こして仲間達を鼓舞する。
「まずは一手、試させてもらう」
　エングは敵の胸中央を狙い鋭く突きを放つ。ひらりと身を翻し敵は肩で刃を受け止め急所を避けトゥキックでエングの腹を打ち抜いた。
「タイツ姿はアレじゃが、なかなか華麗なもんじゃのう。じゃがわしの気を受けても踊ってられるかの？」
　魔法によってソルヴィンの体が一瞬だけ若返り、凄まじい気を放出して敵を飲み込み動きを止めた。そこへテレビウムの彼はモンキーレンチで殴りつける。
「タララララー」
　武闘家は彼を蹴り飛ばし、竜人の脇腹にも蹴りを突き入れた。
「な、なんぞ……確かに、華麗な動きじゃが……あの格好はウケ狙いなのか……！？　妙に気になって動きがまるで頭に入ってこぬぞ……。それともそういった効果を狙ったものなのか……！？」
　驚愕の表情で視線を奪われながらも、アデレードは粒子を放ち続けて仲間を包み込み傷を癒していく。
「白鳥だか何だか知らねえが、焼き鳥にして食ってやるよ」
　痛みを無視して竜人はハンマーを叩きつけ、砲身へと変形させると零距離から砲弾をぶち込んだ。
「アタシの名前を言ってみろー！」
　どこかで聞いたような台詞をノリノリで言いながらベルベットは無骨な槌を投げつけ、よろめくところに爆発を起こして敵を薙ぎ倒す。
「貴方ほど軽やかに動けないけど、しばしご一緒しましょうか」
　エディスは地を蹴ると素早く間合いを詰め、起き上がろうとするところに回し蹴りを放って肩の傷口を抉った。
「ヒョォ！」
　軽やかに跳躍した武道家が飛び蹴りを放つ。
「くぁ、空中でも赤ペンさんの方が上だ！」
　それに合わせてとうっと空高く跳んだヒナタは獲物を狙う鳥のように蹴りを放ち、両者が交差し武道家が着地と共に膝をつく。だがヒナタの胸は一文字に裂け血が流れ出た。
「恐るべき切れ味のようだな」
　仲間が素手で斬られたのを見てエングは唸る。
「だが、前線を守るこの壁、全てを切り裂けるとは思わないことだ」
　斬れる者なら斬ってみろと前に出て周囲に小型ドローンを飛ばし防壁と化す。
「ヒョォゥッ」
　舞うように手刀を繰り出しドローンを次々に落としながら前進していく。
「わしはそんな繊細な技は苦手じゃからの、ダイナミックにいかせてもらうのじゃ！」
　その死角から接近したソルヴィンは目の前で竜の幻影を生み出し、炎を放って敵を燃やす。
「アタシも蹴りには少し自信があるわよ、見せてあげるわ」
　続いて天美は鋭く下から蹴り上げ、爪先を鳩尾に突き入れて相手を前屈みにさせると側頭部に蹴りを叩き込んだ。
「ヒョ～ゥ！」
　武道家は衝撃を逃すように側転しながら蹴り上げ、天美の体を斬り裂く。更に回転が続き反対の脚が下から迫る。
「テメエの攻撃はこんなもんか？　それで最強なんざふかしすぎだろうが！」
　竜人は黒竜の右腕で攻撃を受け止め、足首を掴んで振り回し木に叩きつけた。
「ヒョゥッ」
　掴む腕を蹴り裂いて拘束を解き、武道家は飛び跳ねケルベロス達を幻惑するように動き回る。
「むぅ……目が離せなくなるのじゃ……これが白鳥拳！？」
　だが手は休めまいとロッドを手にしたアデレードは電撃を飛ばし、ヒナタの体を活性化させて力を漲らせる。
「くぁ、ワ～タシの背後に立つな」
　くるりと振り向いたヒナタは砲撃を行い、飛び跳ねる白鳥を撃ち抜いた。
「むさ苦しい全身タイツの男がやっていると思うと、優雅というにはほど遠いわね」
　天美は気弾を放って姿勢を保とうとしている敵の体を吹き飛ばし撃墜する。
「シャオゥ！　シャオシャオシャオゥ！！」
　そこへ突っ込んだベルベットは切り裂くような手刀を連続で放ち、体中を切り裂く。
「ヒョ～ヒョォウ！」
　それに対抗するように武道家もまた手刀を放ってベルベットを斬りつけながら回転して着地した。
「アタシは一人じゃないからね、守ってくれる仲間を信じてアタシはアタシの仕事をするわ」
　そこを狙い低くスライディングするようにエディスは飛び、敵の脚を刈り姿勢を崩す。
「それ、鳥らしく鳥肌を立たせてやるぞい！」
　一時若返ったソルヴィンは天を貫く気の奔流を叩き込み、敵を金縛りにかける。
「流麗な動き、まずはその源である足を斬る」
　踏み込んだエングは刀を低く払い脛を斬りつけた。

●死の刃
「見事。ならばこちらも奥義をお見せしよう！　ヒョォオオオッ」
　ゆらりと流れるように腕を回し、爪先立ちで小刻みにステップを踏むと、残像を残しながらケルベロス達の間をすり抜ける。
「奥義！　白鳥の湖！」
　エングの周囲をくるくる回転しながら手刀と蹴りを連続で叩き込み、全身を斬り刻んでいく。
「飛ぶ鳥は落とされるのオチね～」
　そこへヒナタはブンブンと振った鎌を投げつけ、高速回転する刃が敵の体を斬り裂いた。
「この壁を突破せぬ限り、自由に刃を振るえると思わないことだ」
　その隙に持ち直したエングは刀で蹴りを受け止める。その後ろからはテレビウムが元気の出る動画を流して応援する。
「そろそろ見慣れてきたのじゃ！　あまり見慣れたくない気もするがのぅ……」
　アデレードは電気ショックを飛ばしエングの生命力を増強する。
「まだまだ、ダンスの時間は終わらない！　ヒョゥッ」
　血を流し白いタイツを赤く染めながら、武道家は跳ね舞い踊る。
「天祢には指一本触らせないよ！」
　天美は蹴りを合わせて攻撃を逸らし、天祢は折れた木を槍のように飛ばして体に突き立てた。
「ダンスでは追いつけないけど、戦いでは勝たせてもらうわ」
　足を止めたエディスは竜の幻を生み出し、その口から吐き出す炎で敵を燃やす。
「いいからさっさと死んどけや、なぁッッ！！」
　斧を担いだ竜人は跳躍して頭上から刃を振り下ろした。刃は肩から深く食い込み血が噴き出す。
「白鳥拳は死を招く拳。死の刃に切り裂かれろ！」
　武道家はそれでも蹴りを放ち竜人の腰から肩へと斬りつけた。そして振り上げた足が死の鎌のように上から襲い掛かる。
「小器用な技ごと叩き潰せば問題ないのじゃ！」
　跳んだソルヴィンは頭上から炎の息を浴びせた。
「じいちゃんのゆーとーり！」
　その炎に突っ込み纏わせながらベルベットは槌を叩き込んで吹っ飛ばした。
　華麗に回転し武道家は着地して足を上げ、竜巻のように回転しながら向かってきた。
　天美は腕で蹴りを受け止めようとするが、勢いに負けて吹き飛ばされる。
「柔軟でしなやかに蹴るわけね、こうかしら？」
　禍々しい呪紋を更に浮かび上がらせて立ち上がり、もう一度敵の前に立ち塞がって今度は蹴り返した。脚が交差し互いの動きが一瞬止まる。
「第陸術色限定解除。原初の赤、猛る血潮の本流、アタシの声に応えなさい！」
　エディスは自らの血を固めたペンダントを触媒とし、赤に覆われた拳を握って真っ直ぐに敵に放つ。だが同時に敵も蹴りを放ち拳と蹴りがぶつかりあった。
「彼の戦士としての矜持を守る為にもここで引かないと心に決めてるもの！　貴方も、力ないものを屠るために強くなったわけじゃないでしょ」
　気迫を込めてエディスが拳を押し切り腹にめり込む。
「ヒョォオッ」
　よろめきながら何とか武道家は手刀を放つ。
「アタシを舐めてると承知しねーぞ……！」
　その攻撃を軽く受け止めベルベットは全身から炎を発し、槌で殴りつけると敵に灼熱の炎が燃え移り白いタイツが黒く焼け焦げた。
「最後はこんがり焼いてやるかのう、白鳥の丸焼きじゃ！」
　拳に炎を宿して突っ込んだソルヴィンは、敵の顔面を殴りつけ拳の形に焼き目を付け燃え上がらせた。
「どうした？　もう終わりってんじゃねえだろうな？　命も何もかも振り絞ってかかって来い！」
「はぁ～ヒョア！！」
　その挑発に乗って奮起した武道家が真っ直ぐに蹴り出すと、竜人は避けもせずに蹴りを腹に食らいながら黒龍の右腕を無造作に叩きつけた。
「ぐっ……く」
　その一撃に腕と体の骨を何本も折られ、千鳥足のようにふらつく。
「ヒョァアアアア！」
　絶叫した武道家が最後の力で優雅に舞い始め、蹴りが周囲の草木を斬り飛ばす。
「見切ったのじゃ！　惑わすような動きでも決まった拍子があるのじゃ！」
　アデレードは光の盾を生み出し蹴りの始動を妨害して舞を止めた。
「我が飛燕とどちらが速いか、勝負！」
「ヒョゥゥッ」
　切っ先を向けたエングは飛翔する鳥の如き速さで突きを放ち、敵もまた蹴りを放つ。互いの刃が交差し刀は胸を、蹴りは腹を貫いた。口から血を流しながら武道家は蹴りで押し退ける。
「くぁ！　燃え上がれ！　赤ペンさんのステキなオーラ！　今こそ見せよう必殺奥義～～！！」
　好機と炎纏うヒナタの背にユラユラと蠢く不死鳥のオーラが顕現し、右の拳に集め燃え盛る一撃を中心点に打ち込んだ。炎が武道家の全身を包み、炎が消えるとその姿も消滅していた。

●武の道
「……ここは、確か修行中に」
「おお、目が覚めたようじゃの。怪我はないようじゃが、意識ははっきりしとるかのぅ」
　目覚めた男に介抱していたアデレードが声をかけ事情を説明した。
「そうでしたか、ご迷惑をおかけして申し訳ない」
　深々と頭を下げ感謝の意を伝える。
「今は悪魔が微笑む時代？　冗談、アタシたちがいるじゃない♪」
　こういった事件は自分達ケルベロスの仕事だから構わないとベルベットは笑う。
「どこぞの戦隊モノに触発されたのか？」
　何故ダンスと組み合わせようと思ったのかと竜人が尋ねる。
「確かに子供の頃にダンスを使う特撮を見た事もありました。詳しく調べればダンスもまた体を虐め鍛えるスポーツ。その脚は格闘家も驚くほどです」
　男は起き上がり爪先立ちで立ってみせる。
「ダンサーとしての修練を積むのも大変だったでしょう」
　エディスは鍛えられた体を褒める。
「ちょっと見ててね……こんな感じ？」
　攻撃を何度も受けた天美は、見よう見真似で足をしならせ蹴りを放ってみせる。天袮はそれを見て上手く出来ていると頷いた。
「おおっそうです！」
　自分の武術が伝わる事に男は嬉しそうに笑みを浮かべた。
「とらえどころのない動きに、目視も困難な鋭い斬撃。柔の強さ、確かに見せてもらった。感謝する」
　エングは武人らしく新たな武との出会いに感謝を述べた。
「さて、帰るとするかのう。避難しとるもんにもう大丈夫だと言ってやらんとのう」
　ソルヴィンは後始末をして帰ろうと山を下り始める。
「くぁ、赤ペン神拳こそ最強のオチね～♪」
　マイペースにヒナタは着ぐるみの短い手足で、白鳥とは程遠い動きでぴょんぴょんと山道を飛び跳ねた。

作者：天木一	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2017年11月2日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
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