コスモスと共に自然に還ろう

作者:なちゅい

●人は自然に還るのが一番
 コスモスは、秋桜とも表記される秋を代表する花の一つ。
 白、桃、赤といった色の花を咲かせ、一面の花畑で生育していることが多い。
 語源はコスモ。ギリシャ語における秩序ある宇宙を意味する。
 その名の通り、整然と咲かせた花々は秋の風物詩であり、見る者の目を楽しませてくれる。

 奈良県某所。
 日も傾き、空が赤く染まる頃、住宅地の郊外で、1人の少女が駆け回っていた。
「わぁ、きれーい!」
 走って自宅へと戻っていく小学生の少女、佐藤・美保。彼女はちょっとだけ近道をし、にこにこ笑いながらコスモス畑の真ん中を駆けていく。
 赤、桃、白と多数の花が精一杯花びらを広げ、自らの存在を主張する。その様子はなんとも美しく、思わず目を奪われてしまう。
「ちょっと見ていこーっと」
 美保もまた、しばし家に帰らねばならないことを忘れ、コスモスを見つめる。
 そんな中、コスモス畑に黄色の花のような羽根を背中に生やした少女が現れ、コスモスへと謎の花粉を振りかけていく。
 見る見るうちに巨大、異形化していくコスモス。美保は突如現れたデウスエクスに戸惑いを隠せない。
「な、なにこれ……っ」
 キシャアアァァァッ……。
 その間にも、コスモスは完全に攻性植物となりはてて奇怪な声を上げ始めた。そして、慌てて逃げ出す美保へと迫り、そのまま彼女の体へと寄生してしまう。
「人は自然に還るのが一番なんだから。これって、人助けよね」
 コスモス畑に現れた羽根を持つ少女の正体は攻性植物……鬼縛りの千ちゃんは能天気に笑ってみせ、その場から消えていったのだった。

 ヘリポートのあるビルの屋上。
 その片隅には花壇があり、数輪の桃色のコスモスが花を咲かせている。
「綺麗な花だね。できるならしばらく見ていたいけれど……」
 リーゼリット・クローナ(ほんわかヘリオライダー・en0039)はそう呟くが、集まるケルベロス達を確認してゆっくり立ち上がる。
「コスモスの攻性植物が発生するそうだね」
「うん、説明始めてもいいかな」
 中性的な見た目をした凪沢・悠李(想いと共に消えた泡沫の夢・e01425)の言葉に、リーゼリットは頷き、ケルベロス達に一言問いかけてから話を始める。
 なんでも、奈良県の住宅地郊外に、コスモス畑に植物を攻性植物に作り替える謎の胞子をばら撒く人型の攻性植物が出現するという。
 その胞子を受け、一輪のコスモスが攻性植物へと変貌し、畑にいた少女を襲って宿主にしてしまう。
「被害が広がる前に、この攻性植物を倒して欲しいんだ」
 現れる攻性植物は1体のみで、配下などを従えてはいない。
 少女の身体を苗床にした攻性植物はその身体から葉や根を生やし、頭上に赤い花を咲かせている。
 戦いにおいてはスナイパーとなり、光花、捕食というよく見る形態の他、一時的に身体のあちこちに咲かせた花を飛ばし、相手を切り刻む形態も合わせ、攻撃を仕掛けてくるようだ。
「取り込まれた少女は攻性植物と一体化していて、普通に攻性植物を倒すと彼女の命まで奪ってしまうよ」
 助けるには、相手にヒールをかけながら粘り強く戦い、攻性植物を攻撃していく必要がある。そうすることで、戦いの後に取り込まれた少女を救出できる可能性が生まれるのだ。
 現場は、住宅地郊外に広がるコスモス畑。その中央を通る道で攻性植物は暴れている。ほとんど人が通らない場所なので、人払いの必要はない。
「あと、人型攻性植物の姿はその場にはもうないようだね」
 そちらも気になるが、今は現れたコスモスの攻性植物の対応に尽力したい。
「心情的には、少女を救出してあげたいけれど……、寄生された彼女を救うのは簡単ではないよ」
 あくまで依頼としては攻性植物の討伐だが、少女の救出を目指すのであれば、皆で連携を取ってしっかりと辛抱強く対応して欲しい。
 リーゼリットはそうして、この一件をケルベロス達へと託すのだった。


参加者
戦場ヶ原・将(ビートダウン・e00743)
ウォーレン・ホリィウッド(ホーリーロック・e00813)
デレク・ウォークラー(灼鋼のアリゲーター・e06689)
ユーロ・シャルラッハロート(スカーレットデストラクション・e21365)
流水・破神(治療方法は物理・e23364)
卜部・泰孝(ジャンクチップ・e27412)
キアラ・エスタリン(光放つ蝶の騎士・e36085)
モヱ・スラッシュシップ(機腐人・e36624)

■リプレイ

●秋桜に捕らわれた少女
 奈良県某所に降り立ったケルベロス達。
 一行は攻性植物の対処の為、現場へと急ぐ。
「小さい頃は、近道や寄り道が楽しいのよね」
 ツインテールを揺らす、ユーロ・シャルラッハロート(スカーレットデストラクション・e21365)がそんなことを語るが、大きな胸を持つ以外はまだまだ子供っぽい見た目の少女である。
「そんなところで襲われるなんてかわいそうだし、助けてあげないとね」
 長身の男性が多いチームだが、その内の1人、褐色の肌を持つデレク・ウォークラー(灼鋼のアリゲーター・e06689)がそこで鼻を鳴らす。攻性植物が攻性植物を生むなど、つまらない冗談だと。
「お仲間増やして、花畑でも広げようってか?」
 話によれば、『人は自然に還ろう計画』なるものに基づいて、人型の攻性植物は動いているという。
 ただ、ユーロはそれに対し、インドア派だからそうは思わないと首を横に振る。
「自然に帰ったら、ネットもゲームも出来ないじゃない!」
 綺麗な自然は、たまに見るくらいがユーロには丁度いいらしい。
 そこで、モヱ・スラッシュシップ(機腐人・e36624)は無表情のまま、『自然』という言葉に反応する。この状況は端的に言えば不自然だろうかと。
「自然とは共生スルモノ。自然に還るとすれば、死した後であるべきデス……」
 そして、寄生された少女について「マダ、死ぬ時ではアリマセン」と、モヱは断言する。
「ケッ、迷惑極まりねえ人助けもあったもんだぜ」
 やや苛立ちげな態度で頭をかくデレク。その矛先は、元凶となる人型攻性植物へと向いている。
「連中の狙いは知らねえが、企みをとことんぶっ潰してやりゃあ懲りるだろうよ」
「おっし、正義の味方の面目躍如といくかね!」
 戦場ヶ原・将(ビートダウン・e00743)は奇声のようなものを耳にし、仲間と共にコスモス畑へと突入していく。

 畑の真ん中を走る道。
 そこを、青い髪のヴァルキュリアであるキアラ・エスタリン(光放つ蝶の騎士・e36085)は仲間と共に走る。
「秋の桜と書いて秋桜(コスモス)ともいうくらいに、美しくも儚げな秋の風物詩……」
 左右には、風に靡くコスモスの花々が精一杯に花を咲かせていた。
 キシャアアァァァッ……。
 ただ、前方に目を向ければ、赤い花を咲かせて奇妙に蠢く、巨大化したコスモスの攻性植物の姿があった。
 それを目にした流水・破神(治療方法は物理・e23364)は明らかに不機嫌そうな態度で敵を睨みつけ、くわえていたシガレット型のお菓子をバリバリと噛み砕く。
「その花弁が悲しみと血に染まる前に、コスモスを愛した少女を救ってあげましょう!」
「エスタリン嬢ちゃんのいうとおりだな」
 金に輝く蝶型の光の翼を広げるキアラ。彼女と旅団でちょくちょく話す仲である卜部・泰孝(ジャンクチップ・e27412)も、左腕を構成するジャンクアームに内臓したバスターライフルを構えた。
「最近は助けられない事件が多かった、から――。今回は必ず助けるよ」
 緑の髪のウォーレン・ホリィウッド(ホーリーロック・e00813)は、攻性植物の苗床になってしまった少女を見つめた。意識を失った少女はぐったりとしてはいるが、まだ生気はある。
「ガキにゃ興味ねえが、死なせるとそれはそれで寝覚めが悪ィしな」
「何より、被害者の生存を最優先!」
 めんどくさそうな態度を見せながらも、しっかり前線で身構えるデレク。その後方から、将が長期戦に臨む仲間達へと気合を入れる。
 キシャアアァァァッ……。
 意気込みを見せるケルベロスに対し、攻性植物は少女の頭上にある花を大きく蠢かして襲ってくるのだった。

●秩序は混沌になりて
 コスモス……秩序の名を冠する花。
 しかしながら、今は攻性植物に操られ、秩序の欠片もない。カオスに捕らわれた少女は完全に混沌、カオスに捕らわれてしまっている。
「すぐに助けるから、ちょっとだけ待っていてね」
 動き出す攻性植物。ウォーレンは寄生された少女を助け出す為の準備として、彼は前に立つ仲間の足元と鎖を展開し、仲間を護る魔法陣を展開していく。
 ユーロもまた、自分の位置取る後方メンバーを包むように、オウガメタルを粒子として飛ばす。
 そのタイミング、前方メンバー目掛けて攻性植物が襲い掛かる。
 コスモスの花が歪に変化して中央部から裂け、大きく口を開く。食らいついてきた敵を防いだのは、モヱのミミック、収納ケースだ。
 プラスチックにも似た見た目だが、収納ケースはそれだけで砕けるほど柔ではなく、逆にかぶりつき返して抵抗していた。
 モヱもまた前線に立って「Magical i-Land」を振るい、仮想魔法空間のアーカイブにアクセスして力を行使し、雷の壁を前面に展開していく。
 壁役になるつもりだった破神はそこで、立ち位置を誤っていたことに気づいて前に出る。
「腹くくれ、しんどいぜ。……助けるのも、それまで耐えるのも」
 少女の救出が最優先。前に立つ破神は仲間に呼びかけ、攻性植物の攻撃に備える。
 前線メンバーらが地固めをしていたこともあり、回復役として位置取るキアラは初手、攻撃に出ることにした。
「天空の蒼の呼び声に、私は応えます。あなたの力、ここまでです!」
 相手は花をメインに攻撃してくる敵。
 ならばと、天空の蒼い加護を得たキアラは同じ色の光を蝶夢光槍に宿す。
 さらに彼女は光の翼を広げ、勇猛果敢に攻め立てて敵の花を散らせようとする。
「手間は掛かるが、仕方ねえ」
 これも、少女救出の為と、仲間の壁となることにしたデレク。
 まだ敵への攻めは始まったばかりだが、彼は攻性植物の……少女の回復に回る。
 本来、拳銃のシリンダーに通常、治癒、2種の弾を装填して撃ち出す技だが、この場において拳銃を持たぬデレクは直接治癒弾を相手へと撃ちこむ。
 元々、イカサマ技術で通常弾と使い分ける技。治癒弾だけ飛ばすなど動作もないことだ。
 幾分か少女の表情が安らいだが、ケルベロスはそれで攻撃を止めるわけにはいかない。
「さて、お嬢ちゃん。僕らの声が聞こえてるかな。少し痛いけど、我慢してくれ」
 将が後方から少女に呼びかけながら高く跳躍し、少女の頭上の花を目掛けて強く蹴りつける。
 少し怯んだ攻性植物を泰孝が続けて狙う。
「くれてやる、拾いな」
 攻性植物の気を引く為、彼は黄鉄鉱で作られた偽りの金貨を投げ飛ばす。
 地面に落ちた金属音は攻性植物の足を止め、さらに黄鉄鉱が相手の体の動きを阻害していく。
「大丈夫、すぐに助けるから」
 仲間達の攻撃が続けば、ウォーレンが少女の回復に当たる。
「痛みが真珠に変わるように、涙が罪を雪ぐように――。傷も恐れも躓きも、光の雨になるように」
 自らの頭上に雨を降らせ、少女の痛みと同調するウォーレン。掌に真珠色の光を現した彼は、その光を投げかけることで少女の傷を癒す。光に照らさせた雨粒は、煌く真珠のように見えた。
 そこで、ユーロが悪魔の翼を大きく広げて。
「全て焼き尽くす! この真紅の炎で!!」
 両手に炎の剣を具現化し、ユーロは翼から炎を噴射して突撃する。そのまま、彼女は炎の剣で敵の体を切り刻んでいく。
 だが、攻性植物も寄生する少女に対する回復の影響で、まだまだ体力は万全に近い状態だ。そいつは次に頭上の花へと光を集め、前方へと光線を撃ち放って来る。
 その一撃を、飛び出た破神が受け止めた。
「ま、俺様的には純粋に殴り合いが出来る相手の方が好みなんだが……。仕方ねえ、たまにはこういうのもやってやるぜ」
 高出力のエネルギーにも彼は怯むことなく、凌ぎってみせる。
「ハッ、その程度か、クソ植物」
 だが、傷は浅くない。破神は自身に強力な自己暗示をかけることで、自らの肉体をもそのように認識を捻じ曲げて傷を塞いでいく。
 まだまだ、先は長い。破神は仲間と共に前線の維持を優先させ、攻性植物の弱体化の為の時間を稼ぎ、少女救出の機会を待つのである。

●長期戦の果てに
 攻性植物は形態を使い分け、ケルベロスを攻め続ける。
 捕食、光線の他、身体中に咲かせた花々が飛び、メンバー達の体を回転しながら切り刻んできた。
「ハッ、その程度か、クソ植物」
 破神は同じディフェンダーのメンバーと連携を取りつつ、それらの攻撃から後方メンバーを護るように動く。
「ったくよ、手間かけさせやがる」
 同じく、前線で敵の放つ攻撃に耐えるデレクも、敵味方の回復の手に過不足がないよう声がけを意識しつつ、自分達の前面に光の盾を展開した。
 仲間達は少女を気遣いを、グラビティを発している。それを確認した将は捕らわれの少女を見つめて。
「……信じろ。僕は、僕らは。必ず君を助ける」
 とにかく、現状は攻性植物の体力をすり減らし、動きを止めたいところ。
「そのアクションを封じる。そのテキストは打ち消す。そのカードは無効だ。抵抗は許さない」
 普段からトレーディングカードのバトルを行う将は、そのカードの中から無効化の効果を持つ物を組み合わせて具現化し、相手の行動を阻害しようとする。
 泰孝も相手に偽りの金貨を投げつけながら、ジャンクアームから射撃を行う。少しずつ、攻性植物の攻撃手段の威力を削ぎ、プレッシャーを与える狙いだ。
 攻撃が続くと、少女の表情が陰る。ダメージによって追い込まれているのは明白だ。
「もうちょっとだけ、僕らと一緒に頑張ろう」
 ウォーレンは少女を元気付け、再度、真珠の光で彼女を癒す。
 現状は、ダメージと回復のバランスはうまく取れていた。少女と仲間の状態を幅広く気にかけるメンバーが多い事が功を奏しているのだろう。
 一方で、ケルベロス側の被害は決して皆無ではない。
 モヱは自身のミミック、収納ケースに対する回復援護を遠慮するよう仲間に呼びかけていた。催眠を避けるなら、頑健攻撃しかできなくなる為、収納ケースはジリ損になってしまうとの判断からだ。
 再度攻性植物に食らいつかれた収納ケースが消えていくのにもモヱは毅然と振る舞い、仲間へと癒しの雨を降らしていた。
 少しでも早く、少女を救出できるように。ユーロも少女を元気付けつつ、ファミリアを飛ばす。
 ただ、攻性植物はなかなか、動きを鈍らせない。しぶとく攻撃を繰り返す攻性植物はケルベロスの体に食らいつき、光線で貫き、さらに切りかかってくる。
 キアラはコスモス畑に舞う蝶のように光る翼をはためかせ、花びらのオーラを舞わせる。
 癒しを受けたケルベロスはまた、攻撃、回復。また攻撃と、目の前の攻性植物へグラビティを繰り出す。
 硬直する戦況にもケルベロス達は少女を気遣いながら耐え続けていると……。やがて、攻性植物の体が徐々に茶色へと変色していく。
「弱ってきているね」
 将は攻撃を止め、傷つく仲間へと桃色の霧を振り撒き始める。
「花が飛んで来るぞ」
 ある程度、敵の予備動作を把握した泰孝。前線の仲間に気力を撃ち出しつつ、彼は仲間達に告げた。
 敵味方の回復を請け負っていたウォーレンだったが、この場は加減しながらケルベロスチェインを操り、攻性植物の体を軽く締め付ける。
「ゆっくりしんでいってね!」
 ユーロは敢えて同じ攻撃を重ね、見切りさせることを意識して遠隔爆破を起こす。
 爆風に煽られる攻性植物は、泰孝が予測したとおりに全身に咲かせたコスモスの花々を回転させ、メンバーを切りつけてくる。
「異常を確認。複製モードに入りマス」
 微調整を行おうとモヱは相手に魔術的なコードを注入し、その体内で不具合を増幅させていく。
「うぁ、あぁ……」
 意識はないものの、呻き声を上げる捕らわれの少女。破神が武装白衣をはためかせながら飛び込み、少女に対して緊急手術を施す。
 少女の命を繋ぎ止めた一方、その体から突き出す花や根は徐々に枯れてきている。攻性植物には、少女の体に取り付く力すらも失われてきていた。
 ならば、あとは攻撃するのみ。キアラは構えた光明砲台から、主砲を一斉発射させる。
 それを全弾受けた攻性植物が態勢を崩しかけたところで、デレクが攻め入った。
「とっとと枯れ落ちな!」
 右目と左腕を地獄の炎で燃え上がらせた彼は、振り上げた鉄塊剣を勢いのままに振り下ろす。
 シャアアァァ…………。
 少女の頭上の花が寸断されると、攻性植物は剥がれるようにして崩れ落ち、土と同化してしまう。
 その跡に、気を失った少女の体が残される。安堵の表情を浮かべるメンバー達の後ろで、内気なキアラだけはほろりと涙を流していた。

●こんなに綺麗な花だから
 徐々に宵闇に包まれるコスモス畑の中で、ケルベロス達は助け出した少女、佐藤・美保を介抱する。
「ん……」
「悪い夢は覚めたかい、お姫様?」
 将の言葉に、泰孝もまた同じ問いかけをして。
「もう日が落ちる、早く帰らねーと親御さんが心配すんぞ?」
 そこで、美保は断片的に、攻性植物に襲われたことを思い出したようだった。
「頑張ったね」
 ウォーレンが笑顔で真珠の雨を降らせ、輝く光で美保の傷を癒す。
「君、ケルベロスに助けられるなんて、けっこー貴重な体験したぜ」
「コスモスが美し過ぎて悪い夢をみていたようですね、美保さん、もう大丈夫ですよ」
 敢えて詳細を語らないことに決めたようで、将がはぐらかす。キアラもまた優しく微笑んで美保を安心させようとする。
 それでも、帰宅が遅くなったことと、服がヒールによって幻想に包まれている事実の説明に美保は困ったようだ。
「何があったか、とか説明できねーなら、ケルベロスに助けてもらった、とでも言っとけばいいさ」
 親御さんに信じてもらえないかもと泰孝は笑う。
 なおこの後、一行は美保を自宅へ送り届け、泰孝のジャンクアームによって彼女の両親は嫌でも理解する羽目になるのだが、それは別の話である。
 それならと将は記念写真を撮ればと促し、シャッター中へと代わる代わるメンバーと撮影を始めた。
 その際、デレクが美保の怪我を気遣おうとするが、ちょっとだけ怖がられてしまって。
「……チッ、だからガキは嫌いなんだよ」
 舌打ちした彼はその場から離れ、一服がてら元凶の痕跡を探ろうと動いていたようだ。
 残るメンバーはしばしの間、コスモスを眺めてから美保を送り届けることにする。
 周囲に桃色の霧を発していたユーロは紅茶とビスケットを嗜む。彼女はそれを美保にも分けていたようだ。
(「コスモスは僕も好きな花だから、怖い花って思われないようにしたいな」)
 花屋でバイトをしているウォーレンはそう考え、ケルベロスと触れ合う美保に声をかける。
「ここのお花達もね、ずっと頑張れって応援してくれてたよ」
「うん」
 あれは悪い夢。だって、こんなにも優しくて綺麗な花なのだから。
 ――やっぱり、コスモスは綺麗な花。
 少女はそう実感しながら、その花々を背に帰宅していったのだった。

作者:なちゅい 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年10月28日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 5
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