小さな輝き、ふたつ

作者:雨音瑛

●密やかな目標
 時計の針が12時を過ぎたのを確認して、少女は標本箱をそっと開く。中に入っているものを壊さぬよう、息を止めて。
 箱の中は、12の小部屋に仕切られている。そのうち二つの小部屋にだけ、赤と青の小さな石が入っていた。ラベルには「ルビー」「ラピスラズリ」と描かれている。
 だが、宝石にしては形もいびつで、輝きも少ない。
「いつか、誕生石ぜんぶの原石を集めるんだ……!」
 そう、これは原石。
 にこにこしながら蓋を閉じようとした少女の手から木箱が奪われ、次いで粉々に砕けた。数秒ののちに自体を把握した少女は、目を見開いてその場に崩れ落ちる。
 やがて原石だったものの欠片が目に入ると、やにわに立ち上がり。
「どうしてこんな酷いことを……!」
 箱と原石を壊した者たちに向け、怒りをぶつける。しかし、破壊者――第八の魔女・ディオメデスと第九の魔女・ヒッポリュテはどこ吹く風。魔女たちは、手にした鍵で同時に少女の胸元を貫いた。
「私達のモザイクは晴れなかったねえ。けれどあなたの怒りと、」
「オマエの悲しみ、悪くナカッタ!」
 そうして、少女のかたわらから新たなドリームイーターが生まれる。それは、赤みを帯びた岩と青みを帯びた岩。2体のドリームイーターは、ゆっくりと転がり始めた。

●ヘリポートにて
 パッチワークの魔女がまた動き出したようだと、ウィズ・ホライズン(レプリカントのヘリオライダー・en0158)はタブレット端末から視線を上げる。
「動き出したのは、怒りの心を奪う第八の魔女・ディオメデスと、悲しみの心を奪う第九の魔女・ヒッポリュテの2体。どうやら、この魔女たちは、とても大切なものを持っている一般人を襲うようだ」
 そして大切な物を破壊し、それによって生まれた『怒り』と『悲しみ』の心を奪ってドリームイーターを生み出す。生み出されたドリームイーターは2体連携して行動し、周囲の一般人を襲ってグラビティ・チェインを得ようとする。
「2体が人間に遭遇すれば、悲しみのドリームイーターが『物品を壊された悲しみ』を語り、その悲しみを理解できなければ『怒り』でもって殺害するらしい」
 戦闘においては、怒りのドリームイーターが前衛、悲しみのドリームイーターが後衛の位置につくという。
「被害が出る前に、生み出された『怒り』と『悲しみ』2体のドリームイーターを撃破する。これが、今回君たちにお願いしたいことだ」
 戦闘となるのは、被害者である少女の暮らす家付近の住宅街。2体のドリームイーターが少女の家を出たばかりの頃に遭遇できるため、探索は不要だ。
「戦闘となるドリームイーターは2体で、それ以外の配下はいない。言葉は話せるが、悲しみを語ることと怒りを表現すること以外はできないようだな。まあ、言ってみれば『特定の言葉しか話さない九官鳥』のようなものだ」
 敵は体長2メートルほどの原石の形をしており、赤いルビーの原石が前衛を、青いラピスラズリの原石が後衛を務める。
「ルビーは高い攻撃力を持っており、ラピスラズリは高い回復力を持っている」
 ルビーの使用するグラビティは3つ。赤色の石を振らせて武器の威力を下げる攻撃、赤色の光線を放って動きを阻害する攻撃、相手の精神を直接揺さぶって催眠状態にする攻撃。
 ラピスラズリの使用するグラビティも3つ。モザイクで包み込むヒール、黄鉄鉱の粉を相手に吹き付ける攻撃、敵軍の足元を青い絵の具で満たして動きを阻害する攻撃。
 戦闘に必要な情報は以上だと、ウィズが締めくくる。
「しかし、大切な物を目の前で壊される、か……悲しみも怒りも、相当のものだろう」
 少女が失ったものはヒールで修復できるが、元通りの形にはならない。まずはケルベロスにしかできないことをと、ウィズはケルベロスたちを見渡した。


参加者
天壌院・カノン(ペンタグラム・e00009)
ゼレフ・スティガル(雲・e00179)
月織・宿利(ツクヨミ・e01366)
姫百合・ロビネッタ(自給自足型トラブルメーカー・e01974)
暁・万里(呪夢・e15680)
鴻野・紗更(よもすがら・e28270)
鬼灯・こよみ(カガチの裔・e39618)
チフユ・クラルティ(水底・e41618)

■リプレイ

●輝いていた夢、ふたつ
 月に似た光を放つ外灯が、住宅街を照らしている。静まりかえった住宅街を征くケルベロスたちは、およそ不釣り合いな音を耳にして歩みを止めた。
 重量のあるものが、傾斜のある道を転がってくる。音は次第に大きくなり、『それ』はケルベロスたちの前でぴたりと止まった。
 赤みを帯びた岩と青みを帯びた岩。予知にあった、ルビーとラピスラズリの原石から生まれたドリームイーターだ。
 もとは少女の手にあったルビーとラピスラズリの原石は、魔女たちに破壊されて粉々になった。それだけでも十分に許しがたいが、こうしてドリームイーターとなって人々を襲うとなればなおさら放っておくわけにはいかない。
 何より、大切なものを壊される悲しみは、計り知れないものだ。
「彼女の心もケア出来れば良いのですが……と、まずはドリームイータの討伐が先ですね。全力で参ります!」
 すかさず動いたのは、天壌院・カノン(ペンタグラム・e00009)。ドラゴニックハンマーから砲弾を撃ち出し、ラピスラズリの動きを阻まんとする。
 それにしても、と、鴻野・紗更(よもすがら・e28270)は装着した片眼鏡に触れた。
「ドリームイーターによる被害は留まるところを知りませんね。ですが、ひとつひとつ潰していけばいつかはきっと本命にたどり着くことでございましょう。それまで、わたくし達にできることは欠かさず行うつもりでございます」
 手持ちのグラビティでは、後衛の癒やし手には届かない。ならば先に攻め手を削ろうと、紗更は大鎌を手にルビーへと迫る。その様子たるや、落ち着き払ったもので。
「それでは参りましょうか、正常な世界へと戻すために――この世に、真なる救済を」
 振り降ろし、ルビーの表面に斬撃を刻み込んだ。
 続くのは、月織・宿利(ツクヨミ・e01366)。日本刀「雪白」を閃かせ、同じくルビーに一撃を叩き込む。師である父譲りの剣技、その一端が垣間見える。
 オルトロス「成親」が睨むのは、ラピスラズリ。青に、鮮やかな赤が灯る。
 それを更に鮮烈なものへとするのは、ゼレフ・スティガル(雲・e00179)の放った炎弾だ。
「ごめんよ、折角大事にして貰えてたのにね」
 困ったように笑うゼレフであるが、彼自身は物事への執着が薄い。だから、少女の「宝物」である原石はもちろん、「宝物」を大事にする少女の存在は類希だと思える。
「アア、悲シイ……大事ニシテイタ原石ガ壊レテ、トテモ悲シイ……」
 ラピスラズリは嘆き、ルビーへとヒールを放った。ルビーの輝きが増し、赤色の光線を放つ。その瞬間たるや一瞬、警戒していても回避は難しいだろう。
 とはいえ、適切な防具さえあれば回避、あるいはダメージを軽減できる。
 光線を受けた姫百合・ロビネッタ(自給自足型トラブルメーカー・e01974)は受けたダメージはなんのその、素早くリボルバー銃「シェリンフォード改」から弾丸を撃ち出した。削れた岩の表面を見遣り、ロビネッタはルビーを指差す。
「宝石は怪盗が狙うお宝の定番だね。勿論盗まれたなら取り返すのが探偵のお仕事っ」
 探偵、それも名探偵に憧れる少女の言葉は、どこか弾んだ調子だ。
「今回は壊されちゃったけど、こっちも犯人を退治する事なら出来るよ!」
「そうだね。いま僕たちにできるのは、このドリームイーターの撃破だものね」
 へらりと笑い、暁・万里(呪夢・e15680)はロビネッタと共にルビーの牽制にあたる。手にした槍は稲妻を帯び、素早くルビーを穿つ。
 ラピスラズリに竜砲弾を撃ち出せば、鬼灯・こよみ(カガチの裔・e39618)のつややかな黒髪が爆風に揺れた。
「耐性を付与できるグラビティがあれば良かったのだけれど」
 つぶやき、チフユ・クラルティ(水底・e41618)はロビネッタを霧で包んで癒した。オルトロス「イズル」を見れば、心得たもの。ラピスラズリを睨み、またひとつ炎を灯した。

●修復不能な宝物
 後衛である、癒やし手から撃破を。
 そう作戦立てていたが、近距離のグラビティは後衛には届かない。結果、後衛に3人、前衛に4人が攻撃を仕掛ける形となっていた。
 それでも戦線を維持できているのは、ケルベロスたちの回復を担うチフユと、戦線維持に努めるこよみのヒールがあったからこそ。
 オーラの癒しがロビネッタを包み、桃色の霧が万里を癒す。
 イズルがラピスラズリへ瘴気を送れば、紗更がグラビティ・チェインを柳煤竹に載せてルビーを削る。
 ケルベロスたちのグラビティによって表面が削れゆくルビーの攻撃力はなおも高く、ラピスラズリの援護を得ていっそうのものとなっていた。
 かといって、怯む宿利ではない。
「貴方たちに、誰かの宝物を奪うことも、壊す権利もないの。ささやかな少女の夢を砕いた代償は、せめて貴方達の命を以て償って貰わなければね」
 成親の放った瘴気が霧散するが早いか、宿利は踏み出した。
「華よ、散るらん」
 ルビーに見えた「死の形」が斬られ、赤い破片が飛び散る。
「それでも、彼女の宝物が……戻ることはないけれど」
 刀を収め、宿利は俯きがちにつぶやいた。
「そう……ですね」
 同意するカノンの脳裏に浮かぶのは、大切な友人からの贈り物。
 宝石の装飾が施されたそれを壊されてしまう、そう考えただけで耐えられない。
「直せるなら直したいですけれど……」
 たとえ想像の上でも、辛く苦しいこと。カノンはラピスラズリに弾丸を放ち、青の表面に氷を纏わり付かせた。
 そう、壊れたものは元に戻らない。壊れたのなら、仕方が無い。でもそれが、故意なら。
(「許せないな」)
 小さく歯噛みし、万里はルビーへと殺神ウイルスを投射する。
 仲間が厳しい表情を敵へ向けるなか、ゼレフはゆるやかに微笑む。
「綺麗な色だね、もう一度砕いてしまうのは可哀想だけど」
 そうしてラピスラズリに向けるのは、惨殺ナイフ「冬浪」の刀身。
 ゼレフとて、少女に思うことがないわけではない。
「磨かれる前にしかない光だってあると思うんだ。折角の夢の始まり、壊されたままじゃ悔しいもんね」
 銀の刃を収め、確かに口にした。
 悲しみを叫びながら、ラピスラズリはケルベロスの前列、その足元を青一色に染め上げた。続くルビーも、怒りを口にし。
「オ前タチニ、私ノ気持チガ解ルモノカ……!」
 赤色の石を、こよみへと降り注がせる。直後に動いたのは、ロビネッタ。
「よーし、ここにサインを印そう!」
 ルビーの表面に「R.H.」のサインを描こうと、意気揚々と弾丸を連射する。が、狙いとは異なる痕跡を描く弾丸に痺れを切らし、サインの描かれたカードを投げつけたのであった。

●ルビーとラピスラズリ
 戦いは、少々長引いていた。
 それでも攻撃力の高い二人がラピスラズリを攻めることで、ルビーよりもダメージを蓄積できている、ように見える。
 ならばこのままルビーを攻め続けても問題ないだろうと、万里は囁くように口にする。
「開幕だ「Arlecchino」」
 呼ばれるのは道化の手、「アルレッキーノ」。アルレッキーノがルビーに触れると、その場所が手の形に消失する。
 少女の原石も、既に失われている。
(「大切なものは、失ったあとが一番、その値打ちが分かる、と思う」)
 それはきっと、物でも、人でも。大事な何かが無くなったり、大事な誰かがいなくなったりした経験は、チフユにもある。
 だから気付いた。それまではどうでも良いと思っていても、自分で思っていたよりは大事に思っていたんだ、と。その時に怒ることも悲しむこともなかった、が。
(「壊れたからといって、値打ちがあがることはあっても下がることはないと、思う」)
 少女もそうであれば、少しは気が楽になるだろうか。そんなことをぼんやり考えながら、チフユはゆるりと舞う。
 耐性を与えられなければ、逐次癒し、状態異常を消してゆけばばいいだけ。前衛の仲間へと花弁のオーラを降らせ、傷を消し去ってゆく。
 一方、イズルはひたすらにラピスラズリへと攻撃を。睨みつけ、いっそう青を赤に染め上げる。
 ルビーの攻撃力を高めている加護を打ち砕こうと、宿利は音速の拳を繰り出した。
 落ちた攻撃力で、ルビーは万里の精神を揺さぶろうとする。が、ルビーと万里の間に成親が入り込み、代わりに攻撃を受ける形となった。成親はそのままラピスラズリを見遣り、新たな炎で燃え上がらせる。
 間髪入れず、ラピスラズリも攻撃を仕掛ける。ゼレフに到達するかと思われた黄鉄鉱の粉は、身を挺した宿利の体力を削る。
 宿利はまだ大丈夫だ。それに、癒やし手ならいる。紗更は目を伏せ、掌にグラビティ・テインを集め始めた。
「この木に花を咲かせましょう」
 やがて掌に咲くのは、白い花。夜の闇に浮かぶように咲く花は、紗更の呼吸ひとつ、ルビーへと放たれた。
「少し、痛いかもしれませんね」
 白い花を象ったエネルギー体はルビーへと到達し、表面を大きく削る。
 落ちた赤色を、その後ろにいる青色を、ロビネッタはじっと見る。
 ロビネッタの誕生石は、ルビー。そして一番好きな友人は、名前がそのままラピスラズリの和名。けれど。
「それが怒りと悲しみだなんて納得いかなーい!」
 怒りも悲しみも、まったくもって輝いていない。
「あたしとるりちゃんのコンビが並んだら、あなた達よりもっと輝く自信があるよ」
 元気な笑顔を浮かべ、ロビネッタはリボルバーから弾丸を射出した。
「さあ、決めちゃって!」
「まかせて」
 ロビネッタの視線と言葉を受け、ゼレフはうなずく。
 炎の弾丸はラピスラズリの中央を貫通し、大きなヒビを入れてゆく。ヒビはラピスラズリ全体を覆い――砕け、消滅した。
 あとは、ルビーのみ。カノンは祈りの言葉を紡ぎ始める。
「神の小羊、世の罪を除き賜う主よ、彼らに安寧を与え賜え」
 上空に集うグラビティ・チェインを雷雲へと昇華、そのまま一気に凝縮。光を帯びて弾けた雲が雷撃となり、ルビーを強かに貫いた。

●失われた輝きの
 1体を撃破すれば、あとは容易い。ルビーを癒し、援護をするものは失われている。
 宿利は容赦なく、ルビーを斬り上げる。主の動きをなぞるように、成親もまたルビーへと斬撃を加えた。
 薄青の炎の腕が、虚空に踊る。
「―――つかまえた」
 どこか楽しそうな、悪戯めいたゼレフの物言い。ルビーの表面が、また大きく削れた。
 硬質な赤色の雨がこよみへと降り注ぐが、本人は落ち着いたもの。
「このまま一気に畳みかけちゃおう!」
 ロビネッタはリボルバー銃から弾丸を精製し、ルビー目がけて撃ち込んだ。
「牽制時に与えたダメージも蓄積しているだろうから、ね」
 万里が稲妻を纏った槍でルビーを陥没させれば、こよみが日本刀を構える。
「鉄も鋼も、デウスエクスでさえも……。金剛不壊とはゆかぬもの」
 繰り出すは、どう見てもただの斬撃。しかし刃はどんなものにも通ると、経験が、父祖の技が解を示している。
「あと少しなら……なおのこと、回復しておかないとね」
 チフユの放つ霧が、こよみを大きく癒した。
「イズルも、もう少し頑張ってね」
 主に言われ、イズルは尻尾をぶんと振って飛び出す。咥えた剣で斬りつけ、主のそばに戻ってはまた尾を振る。
 地獄化した翼から炎を移し、カノンは一撃を叩き込んだ。
 不意にルビーが傾く。これを逃す理由はないと、紗更はルビーに迫った。
「どうぞ、おやすみなさいませ」
 蹴りつける威力は、確かなもの。ルビーは真っ二つに割れ、ラピスラズリと同じように消滅した。
 あとには何も、残さずに。

 周辺をヒールした後、ケルベロスたちは少女の家に向かう。そして少女の家族へ事情を話し、少女の部屋へ。
 目を覚ました少女は、砕けた原石を見て涙ぐんだ。震える手で欠片を拾い集めようとする少女を手伝い、ゼレフがぽつりと口にする。
「砕けてしまっても綺麗だね」
 うん、とごく小さくうなずいた少女は、パジャマの袖で涙をぬぐった。
「原石にはヒールをしますか?」
 元の形には戻りませんが、とカノンが遠慮がちに問う。
「……ルビーは、ヒールをお願いしてもいいですか? ラピスラズリは……このままでもきれい、だから……」
 徐々に小さくなる少女の声。それを聞いて、ゼレフと万里が小さなガラス瓶を差し出した。
「不器用に修復するよりはいいかもしれないしね」
「うん。片方は家に置いて、もう片方はアクセサリーやお守りにすれば、一緒に居られる。これで、ラピスラズリの方は『生まれ変わる』んじゃないかな。姿形は変わっても、君が大事にしてたものには変わりないでしょ?」
 二人の申し出に、少女はやっと笑顔を見せ、手にしたかけらを差し出した。欠片は、ガラスの中におさまる。
 心の痛みはぬぐえないかもしれないけれど。こよみはヒールを施したルビーを差し出した。赤色をつなぐに黒や青に、炎のような輝きが時折見える。
 壊れたものは、二度と同じにはならない。けれど、と宿利はかがみ、少女と視線を合わせる。
「ラピスラズリには怒りを、ルビーには悲しみを癒す力があるの」
 大切なものを理不尽に奪われた悲しみと怒りは、傷になるかもしれない。癒えるには、時間も掛かる。それでも、と続ける。
「密やかな夢を抱いた幸せな時間も、宝物を慈しむ心もどうか忘れないで。いつかまた、二度と壊されることのない大切なものが貴女におとずれますように」
 と、宿利は少女に向けて優しい笑みを浮かた。
「幻想的になるのも、いいんじゃないかなってあたしは思うけど……それと! 誕生石の原石、きっと集められるよ! 大丈夫!」
 励ますように言うのは、ロビネッタ。
「十二の輝き、いつか、ちゃんと完成するといいよね」
 彼女のなかの憧憬が砕かれてないなら、きっと。ゼレフもそっと告げる。
「……壊れた後も、大切なものなのは、変わらないとおもう、よ」
 礼を述べて見送る少女に、チフユは小さく声をかけた。

 ケルベロスたちは、少女の家をあとにする。
 元気になってくれるといいんだけど、とロビネッタは少女の部屋を見上げた。部屋の明かりは消えている。少女はもう眠りに就いたのだろう。
 チフユは大きくため息をつき、独りごちる。
「……はじめての仕事、疲れた。やっぱり働きたくない。イズル、かえろ」
 冷え始めた指を一度だけ見て、二人は帰路についた。
 戦闘を終え、少女へのフォローも終え、ゼレフは改めて思う。
 だいじなものに、ついて。
「かたちは何も残っていないけれど――」
 瞼の裏、微かに灯る輝きにゼレフは笑みを漏らす。
 不意に空を見上げれば、輝きをなぞるように星が瞬いた。

作者:雨音瑛 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年10月29日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 0
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