舞う美味と滝の音

作者:幾夜緋琉

●舞う美味と滝の音
 群馬県北群馬郡吉岡町。
 その近くにある山中には、多くのマイタケが栽培されており、夜、次の日の出荷分の為に収穫に山へと入る。
 ただ、山の中の広くに栽培場所は広がっており、基本的に収穫は二人一組。
 ……ヘッドライトに灯を照らしながら山を進み、育っているマイタケの所に到着しては、刈り取り収穫を繰り返す。
 が……そんな収穫現場に突如、見慣れないもの。
 見慣れたサイズよりかなり大きく育ったマイタケの茎。
「……おい、これ……見てみろよ!」
「すげえな……こんな大きさ、見た事無いわ!」
 と興奮し、そのマイタケの写真を撮ったりしている二人。
 ……そんな二人を、くすっと笑いながら眺めているのは、鬼縛りの千ちゃん。
『ふふっ……』
 とその声に続けて、彼女は鞭のような物を振るうと……それに従うかの様に、マイタケのなるミズナラの樹が、その幹を伸ばして……写真を撮る彼を、不意を突いて捕獲。
 強く縛り上げられた仲間に。
「ひ、ひいいい!!」
 もう一人の男は恐怖に我を忘れ、其の場からさっさと逃げていく。
 そして置いていかれた男は……ミズナラの幹の中に半ばからだを埋められる。
 その光景を見て、千ちゃんは。
「人は自然に還るのが一番なんだか。これって人助けよね!」
 と笑いながら、満足気に彼を放置し、帰って行くのであった。

「ケルベロスの皆さん、集まってくれたッスね! それじゃ早速ッスけど、説明させて貰うッス!!」
 と、黒瀬・ダンテは、集まったケルベロスにいつもの通り元気よく挨拶すると、早速。
「今回ッスけど、群馬県の吉岡町って所に、植物を攻性植物に造り替える謎の胞子をばらまく、人型攻性植物が現れてしまった様なんッスよ!」
「そして、その胞子を受けた植物の株が攻性植物へと変化して、その場に居た一般人を襲い、宿主にしてしまった様なんッス」
「つまり、ケルベロスの皆さんには、急ぎ現場へと向かい、一般人を宿主にしてしまった攻性植物を倒して来て欲しいんッスね!」
 そしてダンテは。
「ちなみに、この攻性植物を作り出した『鬼縛りの千ちゃん』は既に其の場を立ち去ってしまっており、被害者の男性を捕獲しているのは彼女によって作り出されたミズナラの木の攻性植物の様ッス」
「男性は、半ば身体をその幹の中に取り込まれるようになっており、普通にこの攻性植物を倒そうとすると、彼も一緒に死んでしまう様ッス」
「しかしながら、攻性植物に対しヒールを掛けながら戦う事で、戦闘終了後、攻性植物に取り込まれていた人を救出出来る可能性は出てくる様なんッス。出来れば、彼を救出出来るように頑張って欲しい所ッスよ!」
「又周囲はマイタケの栽培が行われている所で、深夜の灯の灯っていない山の中が戦場になる模様ッス」
「またミズナラの木自体は、その幹を大きくしならせて弾くような攻撃を主に取ってくる様ッス。モーションが大きい代わりに、一撃の攻撃力はかなり高い様ッスから、要注意ッスよ!」
「こんな攻性植物に寄生されてしまった人を救うことは難しいのは間違い無いッス。でも、皆さんの力で! どうにか救出してやって欲しいッス!! 宜しく頼むッスよ!!」
 と、力強く拳を振り上げるダンテであった。


参加者
セレスティン・ウィンディア(墓場のヘカテ・e00184)
緋薙・敬香(ガーネットダーク・e02710)
葛葉・影二(暗銀忍狐・e02830)
アバン・バナーブ(過去から繋ぐ絆・e04036)
ラリー・グリッター(古霊アルビオンの騎士・e05288)
ジュリアス・カールスバーグ(山葵の心の牧羊剣士・e15205)
セラ・ギャラガー(紅の騎士・e24529)
ライ・ハマト(銀槍の来訪者・e36485)

■リプレイ

●隆々しく
 群馬県は北群馬郡吉岡町にある、マイタケを栽培している山中。
 その山中に、収穫に来ていた職員が、巨大に育ってしまったマイタケを見て、驚いている処に……鬼縛りの千ちゃんが捕獲し、マイタケの成育する水ならの攻性植物を巨大化させ、捕獲してしまうという話。
「む、むむむむ……これはわたし達にとって大事な食料生産者を狙った犯行……これは新手の戦略なのでしょうか!?」
 と声は大きく、明後日の方向に深く深読みしてしまうラリー・グリッター(古霊アルビオンの騎士・e05288)。
 そんなラリーに苦笑するはセレスティン・ウィンディア(墓場のヘカテ・e00184)。
「ふふ……まぁ、これが新手の戦略だとしたら、面白い所だけれど……まぁ、そんなに難しい事を考えるような相手ではなさそうね」
「あら、そうですか! ……うーん、ともかく、生産者にとって何より辛いのは、自分の作ったモノを台無しにされる事、攻性植物に取り込まれたとは言え、自らの手でそんな事になるなんて、あってはいけません!」
 更に力強い言葉で声を上げるラリー……実家が農場であるからこそ、農業に関する気持ちは、人一番強い。
 ともあれ、そんなラリーの言葉を聞きつつ、ライ・ハマト(銀槍の来訪者・e36485)が。
「しかし鬼の何某は、一体何が目的だ……? グラビティチェインの搾取が第一目的であろうが……」
 と小首をかしげると、葛葉・影二(暗銀忍狐・e02830)とアバン・バナーブ(過去から繋ぐ絆・e04036)が。
「……地球のグラビティを奪う連中が、自然を語るとは、詭弁も甚だしい。其の上、不埒極まる所業が人助けとは笑止千万。これ以上被害を及ぼさぬ様、此処で切り取らせて貰おうか」
「ああ。鬼縛りとか何とかが何もんかは知らないけど、見殺しなんて真似はゴメンなんでな。キッチリ助けて、完璧なめでたしめでたしで終わらせてやるぜ!」
 と気合いを入れる。そしてセラ・ギャラガー(紅の騎士・e24529)が。
「まぁそれにしてもマイタケか……秋といえば色んな茸があるわよね。エノキダケにヒラタケ、シイタケ、シメジに並ぶ秋の味覚の代表格ね。そうそう、鴨肉を一緒に入れたキノコ鍋っていうのも美味しいわね」
 と言うと、尻尾をパタパタと揺らしながら緋薙・敬香(ガーネットダーク・e02710)が。
「わうっ、まいたけ美味しいよねっ。マイタケ、マイタケ~っ……きゃうん!?」
 と何か奇妙な踊りを踊ると、そのままぽてん、と転んでしまう経過。
「大丈夫ですか?」
「わうぅ……だ、大丈夫ですっ」
 とジュリアス・カールスバーグ(山葵の心の牧羊剣士・e15205)が手を差し伸べて、立ち上がらせる。
 そのメイド服のスカートについた誇りをパンパンと叩きながら、尻尾がちょっと低く垂れ下がってしまう敬香。
 そしてジュリアスは、まぁ、と苦笑しつつ。
「それにしても、最近はマイタケも高くなってしまいましたしねぇ……料理人としては、腕の鳴る食材なのですが……そんなマイタケを滅ぼそうと言うのならば、確実に止めねばなりませんねぇ……」
 と言いながら、大量に持ってきた灯をじゃらじゃらと鞄の中から取り出す。
「ああ、皆さん。もし宜しければ私の灯りをどうぞ? 特にこれ。作業用メットにつけるランプです。丈夫で頑丈ですよ!」
 何だか、何処かの通信販売の様な売り文句を口にするジュリアス、敬香が。
「わうっ! それは凄いですねっ! それじゃ、お借りするですっ!」
 とメットをぱこっ、と被る。端っこから耳がピコピコと動かしつつ。
「それにしても人を自然に還す、今回の鬼縛りの千ちゃんさん達のはやりすぎっ。敵の思惑は読めないけれど……犠牲者は無くさないとねっ!」
 尻尾をピーン、とさせる敬香、そしてセラが。
「そうね。人を取り込むようなオバケマイタケなんて要らないわ。という訳で、必ずやキノコ……いや、ミズナラの攻性植物を倒すわよ」
 と拳を握りしめ、そしてケルベロス達は山中へと急ぐのであった。

●漆黒の中弓なりに
 そしてケルベロス達が分け入る山中。
 現場へと急行したケルベロス達は、暗い山中を、灯りを頼りにして山の上の方へと向かう。
 と……そんな山中を暫し進んでいると……。
『う、うわあああ……!!』
 と、悲鳴を上げて此方の方へと逃げてくる、作業服に身を包んだ職員。
 これ以上無い恐怖に憔悴しきった彼は、ケルベロス達の姿にも、立ち止る事は無く、そのまま山を下っていってしまう。
「……どうやら、この先の様ね……」
「わうっ……大丈夫かな……? あの人……?」
「山を下りて行く方向だから、きっと大丈夫よ」
 敬香の言葉に、セレスティンは肩を竦める。
 そして、先ほどの職員が走ってきた方向へと、更に向かう。
 すると……。
『た、たすけ……っ……!!』
 と、必死な声が上がる。
 ……その声の下に急行すると……雄々しくそそり立ったミズナラの樹。
 更に、その樹に抱かれるようにして……職員の男性が、半ば木の幹に吸収されるようにしてしまっている。
 ……そして、それを抱くは攻性植物……ケルベロス達の姿に、威嚇行動を取る。
 そんな攻性植物に真っ正面から対峙すると、早速セレスティンがライティングボールを撒いて、周囲を明るく照らす。
 更に敬香も。
「……Temps pour le lit」
 と小さく呟き、眼鏡を外し、冷静な表情に切り替わる敬香。
 ……そんなケルベロス達に対し、攻性植物は伸びる枝を振り回して、威嚇する。
 そんな攻性植物に対し、先陣を切ってセラが。
「さぁ……それでは始めようか」
 と「寂寞の調べ」で、前衛陣に破剣を付与。
 そして、ライが。
「河の神より授かった力の槍、とくと喰らえ!」
 と、『河伯槍』の鋭い槍の一撃を投擲。
 その身体に深々と突き刺さるが、攻性植物はさほど怯む風もない。
 更に続く、クラッシャーの敬香と影二。
「行くわよ!」
 と、今迄とは全く違う雰囲気で以て、敬香がヒールドローンを前衛陣に掛けると、それを受けた影二が。
「先ずは、堅実に……」
 と、敵を鋭い瞳で見つめながら、狙い澄ましたデスサイズシュートの一閃を叩き込み、確実なダメージを与える。
 そんなケルベロス達の攻撃に対し、枝葉をしならせて攻撃。
 ただ、それら攻撃、取りあえずはアバンとラリーが前に出てのカバーリング。
 其処までのダメージを喰らわない様にカバーすると、ジュリアスは。
「善き霊よ、力を貸して下さい」
 と『ヒールゴースト』で自分に癒アップを付与し、後に備える。
 そして、セレスティンがクイックドロウで撃ち抜き、更にアバンも。
「おおおおおおおお!! おおっ!? おおおおおおおお!! うおおおらあああああああああ!!』
 と、奇妙な掛け声を上げながら『高速回転して勢いで出す技』での攻撃を叩き込み、そしてそこまででラリーは敵の状況を見据え。
「一端、止めましょう!」
 と、声を上げ、敵の体力を見定めた上、気力溜めで敵を回復。
 ……様々に喰らっていたダメージを回復。
 そして、次の刻。
 セラが攻性植物の体力を回復する為に、ウィッチオペレーションを飛ばし回復する事で、回復可能なダメージはほぼ全快。
 そんなケルベロス達の行動に、攻性植物の枝葉から繰り出す攻撃は、僅かに緩やかに。
 ……そんな攻性植物へ。
「美味しい舞茸を楽しみにしている人が大勢居る。今年のマイタケはさぞかし良く育っているんだろう。あなたを生かす為に、私達が頑張るから。また、立派で美味しいマイタケを育ててくれないか!」
 と、敢て声を上げるのだが……攻性植物は、聞いている風ではない。
 そして、そんな攻性植物に対して稲妻突きの一撃を放つと、敬香がフォートレスキャノン、影二が月光斬を放つ。
 更にセレスティンが。
「いい流れよ。影二さん、任せて!」
 と言いながら、接近してのフロストレーザー。
 そしてアバンも、マインドソードを真っ正面から喰らわせると、その横でラリーは、隣の樹へと三角飛びで昇り、跳び蹴りの一閃を喰らわせる。
 勿論、樹が大きく横倒しになる事は無いものの、裂け目が生じる。
 が、そんな攻性植物の中に囚われている職員男性も、その攻撃に苦しそうな表情を……。
「大丈夫ですか? ……もう少し、耐えて下さい」
 とジュリアスが声を掛ける。
 とは言え、その言葉を攻性植物が聞く訳も無く……ケルベロス達の攻撃への反撃、反抗を続けていく。
 ……それら攻撃を一つずつ喰らわせながらも、セラとジュリアスが、囚われの職員の体力を注視して、回復の必要に応じてヒールグラビティを飛ばしていく。
 そして、戦闘開始から……十数分。
 ケルベロス達の攻撃は耐える事無く続き、回復不可のダメージは蓄積しており……かなり、攻性植物も、被害者の職員も、かなり厳しげな表情。
「……そろそろ、危険か?」
 と影二が言うと、それに頷く敬香。
「そうね……ジュリアスさん」
 と敬香の言葉に頷き、一層のヒール体制を整えるケルベロス。
 そんなヒールで、回復した瞬間を狙い……敬香が。
「偽りないアイの炎で、その因縁、断ち切ってあげる!」
 と『朱巻双縛狼尾』の一閃を叩きつけると、そして更に影二が。
「実は虚であり、虚は実……我が刃は影を舞う」
 と、その刹那、敵の死角へと回り込み、『葛葉流・螺旋虚影刃』の一閃を叩き込むと……攻性植物の樹皮が、大きく弾け飛ぶ。
 そして……。
「そこまでですっ!!」
 と、ラリーが職員の腕をぐっと握り、引き剥がすようにし……攻性植物と強制分離させられた中、攻性植物自身は崩壊し、崩れ墜ちていった。

●死の後に
 そして、攻性植物の姿も消え失せた後。
「……ふぅ、終わったわね。さて、と……」
 とセレスティンは、男性の元へ……傷も無く、呼吸もしっかりとしている所を確認した上で。
「……もう、大丈夫よ?」
 と、優しく、柔らかな声を掛けるセレスティン。
 宵闇の中に照らされた彼女の姿は、何処か神秘的な美しい女性に見える。
 そして……更に敬香も再び眼鏡を付けて、尻尾をぱたぱたっ、と振りながら。
「わうっ。大丈夫、かなっ?」
 とヒールグラビティを掛けて、傷を癒す。
 そんな傷を癒された男性は、程なく意識を取り戻す。
 そして……二人から説明されて、恐怖を抱きつつも、助けてくれた事に感謝の言葉を紡ぐ。
 セレスティンと敬香の二人が、彼を送り出し、そして……他のケルベロス達は。
「さて、と……無事に終わりましたし、地主さんに状況報告を行いたいのですが……この時間ですとねえ。マイタケも買えそうにないですし……」
 と、ジュリアスが残念そうに言うと、ラリーも。
「そうですね! でも折角ですし、栽培場の状況確認をしていくとしましょうか! 腐葉土の状況も折角ですから確認したいですし!」
 と、ラリーの言葉に頷きつつ、ケルベロス達はそれぞれ行動。
 一通り、自分の想う行動が終わった所で……セラが。
「そろそろ終わったかしら? ……なら、折角だし、キノコ鍋、食べに行かない? 秋のキノコ鍋、美味しいわよ!」
 とセラの言葉に、ジュリアスが。
「それはいいですねぇ。秋の味覚に舌鼓を打つのもいいでしょう」
 と提案に従い、他のケルベロス達も頷いて……そしてケルベロス達は、山を下りて行くのであった。

作者:幾夜緋琉 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年10月29日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 3
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