ボクにボクの歌を聞かせてやるデース!

作者:なちゅい

●白金の竜姫の姿をした敵
 神奈川県某所の工場跡。
 そこは、山の麓という辺鄙な場所だった為、利便性を考えた企業は工場を移転しまった。その後、引き取り手も見つからずに放棄されている。
 そんな工場跡の前になんとなくやってきたのは、シィカ・セィカ(デッドオアライブ・e00612)だ。
「胸騒ぎがするデス!」
 不穏な空気すらも、彼女は胸騒ぎの一言で済ましてみせる。そして、彼女は臆することなくその工場へと入っていく。
 入り口から入ってすぐ、建物内がモザイクに包まれていた。
 その中は、放棄された機材や内壁などがあちらこちらに浮かんでいる。また、纏わりつくような粘性の液体に包まれていた。
 不思議な空間だが、呼吸、行動に支障はないと判断したシィカはその中をずんずんと歩いていく。
 程なく、シィカは自分と同じ背格好の姿をした人物を発見して。
「ボクがいるデース!」
「……貴様は、この姿に縁ある者か」
 ギロリと睨みつけてきたのは、自身の姿だとシィカはすぐに気づく。
「ワイルドスペースについて知られるわけにはいかない。ここで死んでもらう」
「なら、ボクにボクの歌を聞かせてやるデース!」
 侵入者を排除しようと襲ってくるワイルドハントへ、シィカはバイオレンスギターを手にして歌い始めるのだった。

 このところ、頻発しているワイルドハント事件。
 どうやら、ワイルドハントの調査に向かったケルベロスが再び襲われてしまうらしいと、リーゼリット・クローナ(ほんわかヘリオライダー・en0039)がヘリポートに集まるケルベロス達に話す。
「シィカ・セィカがドリームイーターの襲撃に遭ってしまうようだね」
 自らをワイルドハントと名乗るドリームイーターは、『事件の場所』をモザイクで覆い、その内部で何らかの作戦を行っているらしい。
「このままだと、モザイク内部に入った彼女の命が危険だよ」
 その為、ワイルドハントを名乗るドリームイーターを早急に撃破したい。
 現場は、神奈川県で使用されなくなった食品工場だ。
 工場移転の後、どの企業も使うことがなくなった影響なのか、人があまり立ち寄らない場所である。
「工場の建物内はほぼモザイクに包まれてしまっているようだね」
 とはいえ、工場は1階建て。中小企業が使っていたこともあり、100坪程度とそれほど大きくはない建物だ。
 モザイク空間は工場内に残された機材、内壁などがバラバラに混ぜ合わせたような特殊な空間になっている。ただ、戦闘には支障がない為、安心して敵の撃破に当たってほしい。
「現れるワイルドハントの姿は、暴走したシィカと非常に良く似ているよ」
 元々、ドラゴニアンである彼女の種族特徴を強めに出す形となっており、ドラゴンの角、両腕、尻尾を出し、身体の所々は硬い鱗に覆われている。
 シィカに似た相手ではあるが、相手はその外見を奪ったドリームイーターでしかない。
 攻撃グラビティも彼女が使用するものとは異なり、クラッシャーとして立ち回る敵は竜の腕での攻撃、灼熱ブレス、焔を全身に纏ってからの乱打の3種を使ってくるようだ。
 説明を聞き終えたケルベロス達は、それぞれがワイルドハントについて持論を語り合う。
「ワイルドの力が如何なるものか、わかるといいのだが」
 その中で、雛形・リュエン(流しのオラトリオ・en0041)が語る。
 シィカが調査によってワイルドハントを発見できたのは、相手の姿と関連があるかもしれないが……。
 気になることは多いが、それより先にシィカを救出、支援せねばならないだろうと、別のケルベロスが主張したのに、リーゼリットも頷く。
「どうか、彼女を助けてあげて欲しい」
 そう告げた彼女は、ケルベロス達にヘリオンへと乗るよう促すのだった。


参加者
シィカ・セィカ(デッドオアライブ・e00612)
目面・真(たてよみマジメちゃん・e01011)
ドローテア・ゴールドスミス(黄金郷の魔女・e01306)
マードック・ガンズフォール(鈍色の鋼竜騎士・e03055)
峰谷・恵(暴力的発育淫魔少女・e04366)
ククロイ・ファー(ドクターデストロイ・e06955)
シェーロ・ヴェントルーチェ(青空を駈ける疾風・e18122)
フィオ・エリアルド(鉄華咲き太刀風薫る春嵐・e21930)

■リプレイ

●ワイルドハント討伐、仲間の救出
 神奈川県某所、山の麓を歩くケルベロスのチームは、現場となる廃工場を目指す。
「やれやれ、またワイルドハントか」
 一見、男性のようにも見える容姿の目面・真(たてよみマジメちゃん・e01011)が呆れ気味に声を出す。
「ワイルドハントに揺さぶりかけて、何か分かれば良いんだが」
 何か情報が分かれば良いがと呟いたのは、色黒の肌を持つククロイ・ファー(ドクターデストロイ・e06955)だ。実際、ワイルドハント事件において、有力な情報が得られないのが現状である。
 ワイルドスペースがそいつらの領域ならば、広げ続けることでいずれ日本全土が乗っ取られる危険もあると彼は考えて。
「広げるワイルドちゃんはここで切除といこうかァ!」
 軽い口調で叫ぶククロイに、しばし考え込む真が頷く。
「どこから湧いて来るのかは知らないが、退治しなければならないのだろう」
 己の騎士道に基づき、真はこのワイルドハントの撃破をと小さく意気込んでいた。
「ともあれ、早い所、助けに行かねばならんな」
 雛形・リュエン(流しのオラトリオ・en0041)がそこで、危機に瀕しているはずの先行メンバーを気遣うと、皆それに同意する。
「一度会ったら友達だ! ……なんてね!」
 ぼさぼさの髪を揺らし、シェーロ・ヴェントルーチェ(青空を駈ける疾風・e18122)が叫ぶ。成人男性ほどの身長を持つ彼だが、その見た目はやや子供っぽい。
「同じ旅団の仲間でもあるし、助けに行かなきゃ嘘だってもんだろ!」
「まずはこの状況を切り抜けないと、だね!」
 兎の耳と尻尾を生やすフィオ・エリアルド(鉄華咲き太刀風薫る春嵐・e21930)がそこで、シェーロに同意する。
 そばで彼らの言葉を耳にしていた、ドローテア・ゴールドスミス(黄金郷の魔女・e01306)。バー『黄金郷』を営む自称魔女の彼女は、どことなく、今回の先行メンバーに親近感を抱いていた。
(「同じ空気感というか、趣味というか」)
 それは、ケルベロスカードなどから漂う雰囲気みたいなもの、らしい。
「さて。それじゃあ張り切っていきましょ」
 そこで、フィオは「『Let's rock!』って感じ?」と首を傾げる。
「……私もギター用意してこればよかったかなぁ……って、そんなこと言ってる場合じゃないか」
 芸能人の端くれであるフィオだが、今回は敵の対処を優先して銃剣のみ所持してきている。
 一行の目の前に程無く、工場跡が見えてきた。メンバー達は早速、その中、モザイクに覆われた内部へと突入していく。
「まずは最速での合流を目指すワ。歌ってるなラ、音でわかるかしラね?」
 そんなドローテアと同じことを考えたククロイ、峰谷・恵(暴力的発育淫魔少女・e04366)は先行メンバーが残した痕跡、歌声を頼りに、彼女との合流を急ぐのである。

●白金の竜姫の姿をとるモノ
 目の前に竜を強く出した自身と対するシィカ・セィカ(デッドオアライブ・e00612)は、愛用のバイオレンスギターを携えた。
「行くぞ」
 猛然と迫り来るワイルドハント……偽シィカは、硬化した腕で本物のシィカへと殴りかかってくる。
 シィカは防御態勢をとって受け止めるものの、ドリームイーターとしての力も相まってかなりのダメージを受けてしまう。
 だが、至って前向きであり、自信を崩さぬシィカはピックを操って激しくギターを弾き始めた。
「ソロでもロックに盛り上がっていくデスよ! ケルベロスライブ、スタートデース! イェイ!」
 歌には……世界を変える素敵な力がある。
 歌う彼女は、『白金の竜騎』の末裔たる力を引き出す。向かい来る偽物の力を遠ざけるだけでなく、泣き虫な自身に勇気を与える為に。
 その歌を聴きつけ、複数の足音が近づいてくる。
「義に篤いのが俺のいいところだァ!」
 以前、一緒に戦った程度の仲だというククロイだが、ピンチならば助けるのは当たり前だと、彼は緑と黒、2色で彩られた如意棒を振り回して偽シィカへと叩き込んでいく。
「間に合ったかな? 加勢に来たよ!」
 続くフィオも奇襲代わりに、雷を纏わせた刃をワイルドハントへと突き入れる。
 その刃を受け、ワイルドハントは僅かに痺れさせながらも後方へと飛びのいた。
「全く、無茶をする……」
 仲間達が攻撃を仕掛けてワイルドハントを抑える中、【神裏切りし13竜騎(ノブレス・トレーズ)】の同士であるマードック・ガンズフォール(鈍色の鋼竜騎士・e03055)が傷つくシィカを気遣う。
「銀色の翼よ、皆を癒せ!」
 オラトリオの翼を広げた真はシィカを中心にオーロラの光を発し、仲間を包み込んでいく。
 黒ビキニにケルベロスコートといった出で立ちの恵もまた、光の盾を展開することでシィカの体を癒す。
「なるほど。話には聞いていたが、これがワイルドハントであるか」
 改めて、マードックは偽シィカを見つめて告げる。
「ワイルドスペースには、失われた物や可能性があるのであったか? それが関係しているのであろうか」
「そんな憶測は無用だ。貴様らはここから出られぬのだからな」
 マードックは相手へと呼びかけるが、ワイルドハントは全く答える素振りを見せず、構えを見せる。
「イカしたメンバーの到着よ。ジャムセッションといきましょう」
「セッションなら任せてくれ」
 ドローテアの提案にシィカへと緊急手術を施していたリュエンが乗り、ギターを構える。
「Are you ready? Everybody scream! Rock n roll!」
 ロックの本場、イングランド出身のドローテアは「ノっていくワよ!」と仲間達へと呼びかけた。
「【神裏切りし13竜騎(ノブレス・トレーズ)】が一人、【鈍鋼の竜騎】……マードック・エスター・ルレイ・ガンズフォール。参る!」
 名乗りを上げるマードックは、仲間に似た姿の敵へと攻め入るのである。

●その考えは正しいのか
 シィカの姿を取ったワイルドハントは竜の翼を羽ばたかせながら、ケルベロスへと襲い来る。
 だが、ケルベロス達も、簡単に攻め入られたりはしない。
「この蹴りが避けられるか、それっ!」
 飛び上がった真が先に強く蹴りを繰り出せば、ワイルドハントを正面から蹴りつけて相手の態勢を若干崩す。
「ヤツをパラライズさせるだけの簡単なお仕事だ。任せたぞ」
 真の連れていた半纏を着たナノナノ、煎兵衛がハート光線を発射して、ワイルドハントの体を痺れさせようとしていた。
 仲間達のシィカに対する手厚いカバーもあり、恵もこの場は攻撃に出る。
「暴走姿を知っているケルベロスの姿を取るのは、誰かが暴走した姿を知らなければその姿を探してこられないからじゃないかな」
 そんな推論を相手に告げ、彼女は古代語の詠唱を始める。
 恵は、ワイルドハントの主張するワイルドスペースがシャーマンズゴーストの飛来してきたような失われたときの世界だと仮定しており、ケルベロスの暴走姿は「そのケルベロスが暴走して果てた世界」から引っ張ってきていると推測していた。
 詠唱を完了した恵は、石化光線をワイルドハントに浴びせかけていく。
「暴走したことがないし、暴走するとどうなるかボクにもわからないボクの暴走姿、出せないでしょ?」
 だが、恵の問いかけにワイルドハントは口をつぐんで何も答えない。
「……いくよ」
 多少身体が石のように硬直せども、敵は猛然と襲い来る。
 その身を炎に包んだワイルドハントは、前衛陣目掛けて竜の拳、爪、蹴りを連続して浴びせかけてきた。
 最初に敵の襲撃を受けて体力をすり減らしていたシィカは、後方に下がることで難を逃れていた。
 だが、彼女は闘志まで捨ててはいない。仲間達の背後から目を光らせ、攻撃態勢を整える。
「お前達のモザイクはほぼ内側で、しかも望んだ姿じゃないなら、欠損してんのは自己や存在理由……あるいは夢や希望か?」
 前列メンバーが敵の猛攻を凌いだタイミング。ククロイはワイルドハントとの対話を試みる。
「そもそも、お前達自身が失われた存在なのか?」
 チェーンソー剣を振るい、斬りかかるククロイ。だが、ワイルドハントは憤怒の形相を浮かべ、言葉を返す。
「それをなぜ、ボクが貴様らに語らねばならない」
 シィカとはまるで口調の違うワイルドハント。だが、ククロイは敵の反応も含めて確認するように持論を展開する。
「ワイルドスペースが失われた時の世界なら、オラトリオの『巻き戻し』で失われた滅亡した地球や、そこにいた『ケルベロス』が生まれなかった場合の存在もありそうだと思ってな」
「…………」
 やはり、ワイルドハントは何の反応も見せない。語る気がないのは間違いないが、何も知らないのか、それとも……。
 そこへ、敵の乱舞を耐え切ったメンバーが態勢を立て直し、ワイルドハントへと攻撃する。
 銃剣付き重力粒子バヨネットを携えるフィオは、グラビティの命中率は問題ないと判断して空間内を立ち回る。
 周囲で浮かぶ壁や機材の一部が身を隠すほどの大きさがなかったこともあり、彼女は仲間との連携を考えつつ相手の死角を突こうと意識していた。
 その上で、フィオは仲間が攻撃した箇所目掛けて大きく刃を振るい、傷を抉るようにして切り込んでいく。
 同じ前線のマードックは、封印箱に入ったボクスドラゴンの風竜セフィールがタックルを仕掛けるのに合わせて、ワイルドハントへと日本刀で切り込む。
 竜の鱗が硬そうだと判断した彼は、鱗に覆われていない首から鎖骨付近を目掛けて斬りかかる。
 確かに敵の体を切りつけ、その傷口からモザイクが零れ落ちるが……、さすがデウスエクス。そう簡単に仕留めることができない。
「さ、ノリよくいきましょ」
 この場はシィカのオンステージと考えるドローテア。彼女は後方より戦況を俯瞰しながら、敵の挙動などを隈なくチェックする。
 もちろん、見ているだけではない。ドローテアは高く跳躍し、渾身の蹴りをワイルドハントへと食らわせていく。
「足止めは大事でしょう?」
「全くだぜ!」
 それに同意するシェーロ。今回、刀を持たぬ彼はオウガメタルを刀にも似た形状にした後、空の霊力を纏わせてからワイルドハントの体を大きく切り裂いていく。
 そのシェーロの要望を受け、リュエンはギターを手に歌い始める。
「もし願うのなら 願うのなら 引き金を引いてみせてよ……♪」
 それは、生きる事の罪を肯定するメッセージ。前線でワイルドハントの攻撃に耐えるメンバーへと癒しの力を与えた。
 抵抗するケルベロスを睨みつけるワイルドハント。次なる攻撃をというタイミングでさらにケルベロス達が駆けつけてくる。
 壁となるべく飛び出したのは、【神裏切りし13竜騎(ノブレス・トレーズ)】の1人、ウォーグだ。
「【神裏切りし13竜騎(ノブレス・トレーズ)】の御旗の元に、集え我が盟友(とも)達よ!」
 同士でもあるシィカを気遣い、庇う態勢をとるウォーグはそのエムブレムが刻まれた旗斧を振りかざして仲間を鼓舞していく。
 次に現れたのは、同じ旅団の括だ。
「シィカの明るさ、ろっくな魂はまさしくあの路に響く元気の源、じゃからの」
 彼女は熊となった腕で、偽シィカを殴り付ける。
 駆けつけてくるサポートメンバーに負けてはいられない。真は摩擦で燃え上がるエアシューズでワイルドハントを強襲した。
「この一撃で燃え上れ!」
 うまく燃えればいいがと考えつつ、真がワイルドハントの体を蹴りつける。
 引火する炎は、ワイルドハントが纏うものとは別種のもの。焼かれる炎に苦しむ敵へ、シィカもまた炎の蹴りを自らの偽物へと浴びせかけていく。
「まだまだ、ロックはこれからデース!」
「いえ、ここで終わらせる」
 盛り上がるステージ。ケルベロスとして誇りを使命感を抱いてこの場に立つシィカに対し、彼女の姿を取っただけのワイルドハントは険しい表情のまま大きく息を吸い込み、灼熱のブレスをケルベロス達へと浴びせかけてくるのだった。

●最高にロックなフィニッシュを!
 サポートメンバーも駆けつけ、さらに盛り上がるワイルドスペース内のステージ。
 ケルベロス達はワイルドハントの苛烈な攻撃を上回る勢いで、敵を攻め立てる。
「ジャマーするぜェ! BS感染拡大ィ!」
 仲間達の攻撃に介入するようにして、ククロイはチェーンソー剣を唸らせ、ワイルドハントの体を切りつけた。
 その一撃は敵を怯ませ、身体を焦がす炎を大きくする。
 数の利はケルベロス側にある。斬撃が効いている感もあるが、フィオは自身を狂月病発症にも近い状態へと変貌させ、相手に向かって駆け出す。
「喰い千切る……!」
 凶暴性と身体能力を刹那大きく跳ね上げた彼女は、尾を引くような眼光を残して相手の後方から猛獣の如く強襲し、敵の身体へと食らい付いていく。
 フィオの持てる最大火力を受けて、ワイルドハントの体が僅かに揺らぐ。
「この程度で、ボクを倒せると思うな……」
 相手は次なる攻撃の構えを見せるが、数で攻めるケルベロスは敵を攻勢には出させない。
「まだまだ、ロックはこれからよ」
 ゲシュタルトグレイブに稲妻を纏わせたドローテアが相手を止めるべくその身体を貫く。痺れを与えるのもまたロックだ。
 ギリッ……。
 ワイルドハントは竜の翼を広げて飛び出し、竜の爪を唸らせる。その手前へ、マードックがセフィールと共に立ち塞がった。
 さらに、敵は竜の脚で続けて蹴り上げるが、彼はそれをゲシュタルトグレイブで受け止めて見せた。
「効かぬ!」
 完全に防ぐとは行かないが、ワイルドハントの連撃を凌いだマードックは槍を手に大声で叫ぶ。
「眷属よ、その力よ、荒れ狂う風よ! 我が竜鱗の力となれぃ!」
 手にする槍に竜の鋭爪の如き暴風が纏わせ、マードックは前方へと跳躍する。
「その意、その忠、その魂をくべた嵐を以て、奴の脚翼を切り裂いてくれようっ!!」
 セフィールのブレスの直後、彼は敵へと暴風と共に突き、薙ぎ払いを食らわせ、ワイルドハントの態勢を崩す。
 その隙に、コートをはためかして素肌をさらす恵は桃色の快楽エネルギーを発し、仲間の傷を癒していく。
 歌声を響かせていたリュエンもまた、緊急手術で前線の仲間の傷を塞ぐ。
「その企て、力の限りに邪魔させていただく! ……のじゃ!」
 仲間の態勢が整うまでは。括がフェアリーブーツから星座のオーラを撃ち出す。
 指示通りにめろめろハートを撃ち出す煎兵衛の手前から、真が凛然とワイルドハントへと飛び込む。
「一気にカタをつける。耐えられるものなら耐えてみよ! ……破ッ!」
 敵の懐に潜り込んだ彼女は、無影の一蹴でその顎から強く蹴り上げる。
 しかし、ワイルドハントは竜の脚で強く踏みとどまった。
「あああああああああっ!!」
 吠える敵はまたも炎を全身に纏い、ケルベロス達へと乱打を仕掛けてきた。白金に煌く光がケルベロス達の体を蹂躙する。
 ただ、後方支援も行き届いていることから、それに耐えたメンバー達は気力を振り絞って攻撃を続けた。
 ククロイは両腕をドリルのように変形させて殴りかかれば、オウガメタルと心を通わせたシェーロが相手に肉薄して。
「響け! 俺達の心!」
 流星の如き軌道を描き、シェーロはグラビティの波動をワイルドハントへと叩き込む。
「最高にロックなフィニッシュ、任せたぜ!」
 それに応じ、シィカはエアシューズを滑らせ、相手に向けて躍りこむ。
「本物のロックが偽物なんかに負けるわけないのデース!」
 燃え上がるエアシューズで敵の体を蹴り上げ、さらに、シィカは飛び蹴りを食らわせて相手の体を地面へと沈める。
「くっ……」
 起き上がろうとするワイルドハントだったが、その身体は徐々にモザイクに包まれ、姿を消していったのだった。

●消えるワイルドスペース
 ワイルドハントが消える中、改めてメンバー達は自分達の状態を確認する。
「オツカレサマ。シィカクンもとんだ災難だったね」
 真が相手の姿に見覚えがあるかと尋ねたが、シィカは「あれはボクの偽物デース」と答えただけだった。
 マードックが彼女の体調を気にかけ、気力を撃ち出していく。その彼らへ、ウォーグが同じ旅団の仲間達へと労いの言葉を掛けていたようだ。
 消え行くワイルドスペースの中では、メンバー達ができる限りの調査を行う。
 ククロイが周囲を見回す横で、恵は小さく唸る。
「シャーマンズゴーストなら、ここも調べられるかも」
 恵はそんなことを考えるが、生憎とシャーマンズゴーストを連れている者はおらず、それを実証することはできない。
 やがて、ワイルドスペースは完全に消えてしまったが、真はこの場所がまた不安定な状態ではないと考えて。
「さっさと離脱しなければね」
 真が仲間達へとそう促し、ケルベロス達はこの廃工場を後にしていくのだった。

作者:なちゅい 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年10月26日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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