暗い暗い、路地裏の闇で

作者:坂本ピエロギ

 万華鏡のようなモザイクの夜空が見下ろす路地裏に、細長い影法師が伸びた。
「この場所は……やはり、案の定にござったな」
 影法師の主、忍足・鈴女(にゃんこマスタリー・e07200)は小さな声で呟いた。
 引き寄せられるように足を向けた先で、彼女は偶然、この場所を発見したのだ。
(「このような面妖な場所、いったい誰が、何のために……?」)
 アスファルトにへばりついた粘液を避けながら、歩を進める鈴女。
 寂れた夜道に、鈴女の足音だけが小さく響く。
(「それに……先程から感じる、この突き刺すようなプレッシャーは……」)
 サッと辺りに視線を走らせても、人影はない。だが鈴女は、確かに感じる。
 ここに足を踏み入れてから、ずっとこちらを伺う『誰か』の気配を。
 と、その時。
 鈴女の行く手を塞ぐように、眼前の地面に黒い針が突き立った。
「あれは、飛針……!? 何奴!」
「……索敵の結果、侵入者は単独と断定されました……」
 闇の中から現れた『敵』の姿に、鈴女は絶句する。
 黒い軍服に身を包んだ、緑色の瞳の少女。その顔かたちは鈴女と瓜二つだった。
「……外見上の特徴より、侵入者は本ワイルドスペースと相関有意の可能性あり。機密保持を最優先とし、保護システムを起動します……」
「これは……戦うしかないようでござるな!」
 1対1で勝てる相手ではない、と鈴女は思った。だが、やるしかない。
「……ワイルドハント、戦闘モードに移行。これより侵入者を排除します……」
「くっ……!」
 暗い夜の路地裏で、死闘が始まった。

「お集まりいただき、ありがとうございます」
 ヘリポートに集うケルベロスたちに一礼すると、セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)は依頼の説明を始めた。
「ワイルドスペースの調査に向かっていた忍足・鈴女さんが、街外れの路地裏でドリームイーターの襲撃を受けています。直ちに現地へと急行し、敵の撃破をお願いします」
 ワイルドハントと名乗るそのドリームイーターは、路地裏をモザイクで覆い、『極秘裏の何か』を行っていたようだ。そこへ偶然、鈴女が調査に訪れ、敵と遭遇したという。
「戦闘はすでに始まっています。到着には若干のタイムラグが発生すると思って下さい」
 ワイルドスペースとなっている路地裏は、両脇をビルに挟まれたアスファルト敷きの道。横幅は十分に確保されていて、視界や行動を制限するような要素はない。現場へは一本道で到着するので、捜索なども不要だ。
 到着後は、即座に戦闘が開始される。
 ドリームイーターの使用能力は3つ。機動力を活かした格闘攻撃。影のような強化繊維を用いた締め付け。飛び道具の針を駆使した範囲攻撃だ。針攻撃は特に攻撃力が高く、パラライズ付与の効果がある。十分な対策をして臨んだ方が良いだろう。
「敵の目的は、未だ不明のままです。ワイルドスペースを発見した忍足さんを襲撃したのも、自分達の力を調査されることを恐れているのかもしれません……」
 セリカはそう言うと、ブリーフィングの資料を閉じた。
「どうか無事に忍足さんを救い、ワイルドハントを撃破してください。ご武運を!」


参加者
コロッサス・ロードス(金剛神将・e01986)
琴宮・淡雪(淫蕩サキュバス・e02774)
紅狼・蓮牙(紅茶の人・e04431)
ルージュ・ディケイ(朽紅のルージュ・e04993)
忍足・鈴女(にゃんこマスタリー・e07200)
鈴原・瑞樹(アルバイト旅団事務員・e07685)
ルチル・ガーフィールド(シャドウエルフの弓使い・e09177)
綺羅星・ぽてと(耳が弱い・e13821)

■リプレイ

●モザイクの街を駆けながら
 暗いビルの外壁にへばりついた粘液が、街灯に照らされて七色の光を放っている。
 夜空で輝くモザイクの星明かりが、夜道を走るケルベロスたちを静かに照らしていた。
(「どうか、無事でいてください……」)
 友の無事を祈り、鈴原・瑞樹(アルバイト旅団事務員・e07685)は夜道を駆ける。
 自分が走っている今も、友達の忍足・鈴女(にゃんこマスタリー・e07200)はたった一人でデウスエクスを相手に戦っているのだ。不安にかられる瑞樹の青白い顔が、路地裏の暗闇に浮かんだ。
「友達が窮地に陥っているのは辛いよね。もうすぐだ、急ごう!」
 先頭を走るルージュ・ディケイ(朽紅のルージュ・e04993)が、励ますように言う。敵の撃破と味方の救出、どっちも達成して見せようじゃないか――そんな決意を秘めた表情で笑ってみせる。
「前衛は任せて。デウスエクスになんか、絶対に負けないから!」
「ケルベロスの姿を模倣した存在……こちらの情報を集めているのでしょうか?」
 行く手の暗闇を見据え、影を切るように疾走するのは紅狼・蓮牙(紅茶の人・e04431)。
 彼の愛銃『白閃』『紅蓮』は今日もご機嫌だ。ひとたび敵を見つければ、二丁の銃から弾丸が飛び出し、あっという間に標的を蜂の巣にするだろう。
 磨かれたモノクルの奥で、蓮牙の瞳が剣呑に光った。
「……さて、疑問は尽きませんが、まずはこちらの脅威を取り除くと致しましょうか」
「そうだよねー。戦うの、すっごく楽しみ☆」
 綺羅星・ぽてと(耳が弱い・e13821)は弾む声で、粘液に覆われたアスファルトを駆けている。
 彼女が足に装着しているのは、『股間モザイクを絶対切り落すエアシューズ』。いろいろ名前に勢いのあるぽてと愛用の武器だ。これでドリームイーターを全身モザイクに変えて、いっぱい調査しちゃうぞ――と、戦う前から意気込みを見せている。
「予知の場所はすぐ近くです、急ぎましょう!!」
 ルチル・ガーフィールド(シャドウエルフの弓使い・e09177)は、殺界形成を展開しながら走っていた。周囲にいるかもしれない民間人の人払い、そして戦闘中の二人に、自分達の存在を知らせるためだ。瑞樹同様、ルチルにとって鈴女は大事な仲間だ。その表情は不安で曇っている。
「大丈夫、彼女ならば必ず持ちこたえてくれる」
 そんなふたりを力づけるように、コロッサス・ロードス(金剛神将・e01986)が力強く頷いた。要塞のごとき巨体を誇る武人であり、鈴女が『だんちょ』と慕う男だ。
「でも、平気かしら? 今回の敵って、忍者様にそっくりの姿なんでしょ?」
 琴宮・淡雪(淫蕩サキュバス・e02774)が、細い腰を振って走りながら、悩まし気に嘆息した。忍者様、とは淡雪が鈴女を呼ぶときに使う名だ。
「ロードス団長、戦うことに躊躇いはないかしら?」
「ない」
 淡雪の問いに、コロッサスは即答した。
「姿形を似せようとも所詮は別物。ならば振るう刃に些かの迷いも無し!」
「あら頼もしい。……それにしても忍者様の偽者、ノーパンなのかしら……気になるわ」
 鈴女のあらぬ姿を妄想する淡雪の話題を、そっとスルーする一同。
 沈黙が続くかと思われたその時、前方に小さな人影が見えた。
「やっほ~、ぽてとだよ~。生きてる~?」
 一呼吸おいて、闇の中から弾む声が返ってきた。
「来たあああああ! メイン救援来た! だいごろー、助かったでござるよー♪」
「良かった……何事もなくて」
 鈴女と彼女のサーヴァントの無事を知り、瑞樹はほっと胸を撫で下ろした。
「再開を喜ぶのは後だ。まずは敵を片付けよう!」
 いっぽうルージュは、敵のドリームイーター――ワイルドハントに目を凝らした。
 黒い軍服に身を包み、緑色の目が容赦も慈悲も感じさせずに狙っている。その容姿は、確かに鈴女と瓜二つだった。
「敵の増援を確認。殲滅が可能な戦力と分析します……」
 殺気を纏うワイルドハントが、冷酷な口調で告げた。
 対するケルベロスも、武器を手に次々と配置に着く。
 いざ、戦闘開始だ。

●死闘、ワイルドスペース
「……戦闘システム、モードBに移行します……」
 敵は瞬時に動き、前列の間合いへと飛び込み渾身の蹴りを放った。
 狙いは蓮牙だ。察知したルチルが即座に割り込み、一撃を受け止めた。衝撃でルチルの両足が浮き上がり、吹き飛んだ体がビルの壁に打ち付けられる。
「……攻撃命中を確認……これより標的の排除に――」
「させるか! 僕が相手だ、偽者め!」
 ヘビのような冷酷な声を響かせ、再び攻撃態勢に入ろうとするワイルドハント。
 そこへ動きを察知したルージュが、させじと牽制に動く。
 握りしめたチェーンソー剣の『Die Sterntaler』のマフラーを歓喜に震わせ、ビルを震わす騒音と共に一文字に薙ぎ払う。ワイルドハントはガードを試みるも、ダメージを殺しきれずに体を切り裂かれた。
「ヒャッハー、化けの皮剥いでやるぜぇ☆」
 ぽてとが呪いの釘を握りしめて跳躍。敵の足に突き刺した釘に全力で拳を打ち付けた。
 可愛らしいぽてとの笑顔からは想像できない痛烈な一撃。その激痛に、ワイルドハントは思わず顔を歪める。
「アップル、盾は任せたわよ!」
 淡雪は相棒のテレビウムを前列に送り出すと、前列めがけてかざした縛霊手から紙兵を散布し始めた。負傷した仲間の体に人型の紙が張り付き、傷口を癒す。
「皆さん、お怪我は平気ですか?」
 同じく後列の瑞樹も、仲間の支援に徹していた。
 温和な性格ゆえ、親しい仲間と同じ姿の敵には、どうしても躊躇を覚えてしまう。
 瑞樹は励ましの言葉を送りながら、白銀のペンダントを高くかざした。前列の仲間達をオウガ粒子で覆い包み、命中率を強化してゆく。
「鉄式銃闘技、推してまいります」
 前列では蓮牙が愛銃を派手に打ち鳴らしながら、派手な掃射を敵に浴びせていた。
 雨のように降り注ぐ銃弾が、ワイルドハントの機動力を奪う。
「……回避率低下。戦闘続行に支障ないレベルと判断します……」
 一方のワイルドハントも、怯むことなく凶刃を振るう。ケルベロスから浴びせられる嵐のような猛攻撃を捌き、返す刃で針を射出し、淡々と戦いを続けている。
 その時、ふいにその周囲を取り囲むように、犬の唸り声が轟き始めた。
「暗技……黒狗乃……輪舞曲……」
 弓を引き絞るルチルの口から、呟くような詠唱が漏れた。これによって傷を受けた者は禍々しい黒犬の幻に追われ続ける、呪いの矢だ。
 ルチルの眼光が、野犬の輝きを帯びた。普段の彼女からは想像できない、捕食者の目。
 この距離なら外さない。必中の確信を抱き矢を射ようとした、その時。
「――!」
 ほんの僅かな一瞬、敵の顔に鈴女の顔が重なった。
 刹那の躊躇に、ルチルは手元を狂わせる。呪いの矢が敵の脇をかすめて消えた。
(「仕損じた……!!」)
「ルチル殿、遠慮は無用にござる!」
 エアシューズの火花で敵を焼き焦がしながら、鈴女は呆然とするルチルを励ました。
「鈴女はここにいるでござる!! 偽物に手加減は無用! やーっておしまい!」
「その通りだ、ガーフィールド。目の前にいるのは、俺達の敵だ」
 頷いたコロッサスが、手本を示すかのように攻める。
 雷の霊力を帯びた一撃が命中し、ワイルドハントの軍服の切れ端が宙を舞った。
「如何なる時も目を離さず、守りの薄い箇所を集中して攻める。これが大事だ!!」
「ちょっ、だんちょ、ストップでござる!! ガン見は厳禁でござる!!」
「馬鹿を言うな! 戦闘中に敵から目を離すわけにはいかんだろ!?」
「い、いや、そんなの鈴女に言ってくれれば……」
 真顔で返すコロッサス。真っ赤な顔の鈴女。二人のやり取りを、ある者はワイルドハントと切り結びながら、ある者は味方の負傷を治癒しながら、微笑ましく見守っていた。
「あらあらうふふ♪」
「あはー☆ 青春だねー☆」
「ご安心ください。口が堅いことは、執事の美徳のひとつです」
「わーっ! わーっ! 皆ちょっとは加減するでござる!」
 こうして戦闘は後半戦へもつれ込んでゆく。

●晴れゆくモザイクの下で
 連携を意識したケルベロスの動きによって、ワイルドハントは次第に劣勢に追い込まれ始めた。
 だが、ワイルドハントの火力も思った以上に高い。嵐のように浴びせられる攻撃を微塵も介さずに、ケルベロス達を繊維で締め付け、体の自由を奪う飛針で刺し貫いてゆく。
「……ダメージレベル、許容範囲内……戦闘、続行します……」
 ワイルドハントが幾度目かの針を掌に生成し、一斉に射出した。
 モザイクの星明りを覆い隠すほどの黒い針が飛び乱れ、前列に襲い掛かる。
「……っ! 皆、怪我はないか!?」
 降り注ぐ針から身を守り、ルージュは必死に耐えた。
 幸運にも急所は外れたようだが、針の刺さった右腕が焼け付くように痺れる。
「お心遣い、感謝いたします……ですが、この程度なら支障ありません」
 同じく前列の蓮牙が、傷口を抑えながら言う。肩と脇腹には血が滲んでいた。
「……敵の戦力低下を確認。これより、標的を殲滅します……」
「させるか……!」
 好機とばかり攻撃体勢に映るワイルドハントに、ルージュは飛んだ。チェーンソー剣を振り回し、猛烈なラッシュで敵を防戦に追い込んでゆく。
「少しの間、僕が食い止める! 今のうちに回復を!」
「やっほ~♪ 加勢しちゃうよ☆」
「わたくしも、お手伝いします!」
 ルージュの後に、ぽてととルチルが続いた。エアシューズの摩擦で生じた炎を帯びた蹴りを、敵の露出部めがけて容赦なく叩き込む。
 回避に失敗し火に包まれるワイルドハントめがけ、ルチルが簒奪者の鎌を振り下ろした。虚の力を帯びたひと振りが容赦なく敵の生命力を奪いつくす。
 敵は明らかに弱ってきている。好機だった。
「気持ち良いマッサージ、大サービスよ!」
 淡雪はありったけの想いをピンクのスライムに込め、負傷した蓮牙に放つ。
「もう一息です。頑張って下さい!」
 瑞樹の放つ七色のオーロラ光が前列の仲間達を覆い、癒していく。だいごろーも、清浄の翼で味方の回復をサポートだ。
「だんちょ!」
「ああ、分かった!」
 瑞樹の応援に背を押されるように、鈴女とコロッサスが一緒に仕掛けた。
「刺し穿つ! 止めてみろでござる、秘孔針術・呪縛の儀『金鎖』!!」
「我、剛撃を以て獣心を討つ――」
 狙いを定めた鈴女の飛針が敵に迫る。息を合わせるように、コロッサスが跳んだ。
 ワイルドハントはコロッサスの一撃を脅威と見定め、左手を犠牲に飛針を受け止める。
「……回避不能。防御態勢に――」
 と、ワイルドハントの体が、ふいに傾いだ。
 飛針に貫かれた腕が、体が、言うことを聞かない。
「秘孔針術とは人体の急所を的確に射抜く……っ!」
 緑の瞳から放たれるふたつの視線が交錯した。鈴女が、高らかに勝利を宣言する。
「お主は、ただ闇雲に撃っているだけ……ヘボヘボでござるな!」
「……貴……様……!」
「やはり、『本物』の方が強かったようだな――!!」
 夜明けを思わせる明かりが、路地裏を照らした。コロッサスの『黎明の剣』だ。
 闇をまとった炎が一閃し、敵の体を袈裟懸けに切り裂く。身体を焦がし、原形を留めないまでにダメージを負い、ふらつく足で立ち上がるワイルドハント。そこへ、
「そろそろ、終わりと参りましょう」
 蓮牙が、尻尾に仕込んだ弾丸をリロードした。
 懐に飛び込み、ワイルドハントの体を思い切り上空へと蹴り上げる。
「此れなるは地獄の扉を開く焦熱の魔弾也……墜ちなさい!」
 蓮牙の必殺技、『CQCインフェルノ』。
 愛銃をフルバーストし、弾倉のすべてを敵の体に叩き込む。それが、とどめだった。
「……ダメージ……限界……査……不可……」
 ドリームイーターの輪郭がぐにゃりと歪む。
 顔が、胴が、手足が、モザイクに包まれ、破片となって砕け散った。

●任務達成、そして……
 主たるドリームイーターを失い、ワイルドスペースは崩壊を始めた。
 街を覆うモザイクと粘液が、ワイルドハントの遺骸がゆっくりと蒸発してゆく。
「任務完了だね、みんなお疲れ様」
「あーあ、結局手がかり見つからなかったなー☆」
 戦いを終えたルージュは、仲間を笑顔で労った。しばらく経てば、今いる路地裏は元の姿を取り戻すだろう。一方ぽてとは蒸発していく手がかりに、肩を落として残念がっている。
 そんな二人の後ろでは、目を輝かせた鈴女が仲間達に感謝を述べていた。
「いやもう本当にありがとうでござる! 各々方、鈴女は感謝感激にござる!!」
 時刻はちょうど、夕飯の頃だ。戦ってお腹もすいたので、帰りにどこかへ寄って行こう。一緒に来たい人は是非どうぞ――そんな話の流れになっているようだ。
「今日は鈴女の奢りでござる! 好きな物、じゃんじゃん頼んで良いでござるよー!」
「はいはーい! ご一緒するよー!」
 ぽてとが名乗りを挙げた。どうやら近所に、気になるメニューを出す店があるようだ。
「甘口イナゴスパ! 名前からして地雷なんだけど、ぽてとちゃん気になっててさー!」
「私もご相伴に預かろうかしら。どこまでも付いていきますわ~♪」
 淡雪も、それに続いた。
 限界突破の準備は万全だ。こんな事もあろうかと、キッチリ胃薬は常備してある。
「ではわたくしも~♪ ご無事をお祝いがてら、たくさん奢っていただいて♪」
「私もご一緒します。どんなお店に行くのですか?」
「それでしたら、私も是非。紅茶のある所が良いですね」
 ご機嫌で鼻歌を歌い始めるルチルと瑞樹。
 野良執事の腕、存分にお見せいたします――そんな表情で微笑む蓮牙。
 こうして一行は戦いを終え、きらびやかな街の通りへと繰り出した。
(「だんちょ、だんちょ」)
 コロッサスが最後尾を歩いていると、誰も見ていないのを見計らうように、そっと鈴女が歩み寄ってきた。
(「どうした? 何か話でも――」)
 チュッ。
 言い終える前に、鈴女はぴょんと飛び跳ね、コロッサスの頬にキスを贈る。
(「ありがとね、だんちょ♪」)
(「あ、ああ」)
 狐につままれたような、信じられないような思いで歩いていると、振り向いた淡雪がそっと冷やかしてくる。
(「団長様も隅に置けないじゃないの」)
 淡雪はその瞬間を見たわけではなかった。
 だが二人の雰囲気を見れば、サキュバスならずとも察しはつく。
(「どうかしら? 私も半分払うから、ここは団長様の奢りってことで!」)
(「なっ……!?」)
(「いいじゃない。恰好良い所みせてあげて♪」)
 仲間達とはしゃぐ鈴女の背中に、優しい視線を向け、ウィンクを贈る淡雪。
 夜空に浮かぶ月明かりが、ケルベロスたちの笑顔を優しく照らしていた。

作者:坂本ピエロギ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年11月3日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 5/キャラが大事にされていた 0
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