その理知を牙にして

作者:幾夜緋琉

●牙突に埋もれた苦しみ
 都心にある、とある理工系大学。
 ある程度偏差値が高い学校からして、その学校の学生達は総じて頭が良い学生達。
『……ここ、か……誰も居ないじゃないか……』
 と、その校舎の一つの屋上に立つ、一人の男性。
 眼鏡に白衣、オマケに中々のイケメンという彼……女性達からの声も多いが、研究に一途な為、浮いた話しは一つも無い。
 ……まぁ、興味は無い訳ではないのだが……それはさておき。
「しかし……個々から見る夜景は、やはり綺麗だな……」
 夜風に当たるように、欄干に背を預け、目を閉じる……と、それを見つめるは、何処かミステリアスだが、露出度の高い服装に身を包んだシャイターンの一人『赤のリチウ』。
「……中々、格好良いの。それに頭もよさそうで……好みなの」
 と言うと共に、静かに彼の元へと接近。
『……ん?』
 と、その気配に気づいた彼が僅かに目を開くと……次の瞬間、その視界は赤い炎に包まれてしまう。
『う、うわぁ!!』
 取り乱し、炎に包まれる彼……全身を紅い炎が覆い尽くし、そして……焔が消えると共に、そこには中世の騎士の様な格好に身を包んだ、先ほどの男。
 いや、顔立ちはそうなのだが、明らかにその背丈は3m近くに伸びており、巨大化している……エインヘリアル化していた。
 そして、そんなエインヘリアルに。
「ん、やっぱり、エインヘリアルは騎士が似合うの。さぁ、選ばれた騎士として、その力を示すんだよ」
 と指示を与えると、エインヘリアルは頷き……その身を屋上から翻し飛び降り、キャンパスへと降り立つのであった。

「皆さん、集まって頂けた様ですね。それでは、早速ですが説明させて頂きます」
 と、セリカ・リュミエールは、集まったケルベロスに軽く一例し、早速。
「最近、有力なシャイターンの者達が動き出す事件が次々と発生している様なのです」
「このシャイターンの彼女たちは、死者の泉の力を操り、その炎で燃やし尽くした男性らを其の場でエインヘリアルにする事をしている様です」
「そして、出現したエインヘリアルらは、グラビティ・チェインが枯渇した状態になっており、人間を殺しグラビティ・チェインを奪わんと暴れ出してしまう様なのです」
「そこで、皆さんには急ぎ現場へと向かい、暴れるエインヘリアルの撃破をお願いしたいのです」
 と、セリカはそこまで言うと、更に。
「今回のエインヘリアルは、都内の某理工系有名大学の大学院生が元となっている様です」
「曲がったことは大嫌い、正々堂々と、その力を使い敵を討ち倒す……というのが基本軸にある様です。その手に持ったゾディアックソードを振り回しながら、敵を追い詰めるにはどうすればいいか、というのを計算しながら闘う知識的なエインヘリアルの様です」
「勿論、その巨躯から放たれるゾディアックソードの一閃を喰らえば、重傷の危険性があります。又、周りは夜とはいえ、大学のキャンパス内ですから、卒論やサークルなどで遅くまで残っている学生達も騒ぎを聞きつけて現れてしまうかもしれません。そういった人達を確実に避難させる事が重要になるかと思います」
 そして、セリカは。
「何にしても、この様なエインヘリアルの虐殺暴走を放置しておく訳にはいきません。皆さんの力で、確実に仕留めてきて頂けます様、お願いします」
 と、もう一度深く頭を下げるのであった。


参加者
エレ・ニーレンベルギア(追憶のソール・e01027)
スウ・ティー(爆弾魔・e01099)
空鳴・無月(宵星の蒼・e04245)
黄檗・瓔珞(斬鬼の幻影・e13568)
リーナ・スノーライト(マギアアサシン・e16540)
黒江・神流(独立傭兵・e32569)
ポエット・バークスウィート(やる気のない妖精使い・e41253)
ライラ・キャメル(従順なメイド・e41254)

■リプレイ

●正々堂々たる心に
 都内近郊にある、とある理工系大学。
 そこに『赤のリチウ』が現れ、格好良い理系男子を赤い炎へと包み、覆い尽くし……エインヘリアルへと変えてしまう事件。
「抗いようのない被害者か……可哀想だね……」
 と、黄檗・瓔珞(斬鬼の幻影・e13568)の言葉に対し、こくり、と頷くは空鳴・無月(宵星の蒼・e04245)。
「……うん……エインヘリアルにした、なんて、許せない……だから、彼は、被害者、なのだろうけれど……だとしても……虐殺は見逃せない……だから、ここで、止めないと……」
 と、覚悟を決める。
 ただ、そんなケルベロス達の言葉の中には、その巨大化されてしまったエインヘリアルへの同情の他、今迄のエインヘリアルとは違う特徴に警戒する者も……。
「理知的なエインヘリアルですか……初めてですね……こういった者は……」
 とエレ・ニーレンベルギア(追憶のソール・e01027)が思慮すると、それに黒江・神流(独立傭兵・e32569)とスウ・ティー(爆弾魔・e01099)、リーナ・スノーライト(マギアアサシン・e16540)らも。
「知略に長けたエインヘリアルとは、面倒な戦いになりそうだな。まぁ無計画に暴れるような相手は御し易くて好きなんだが」
「んー……まぁ単純だからこそ、扱いやすいってのはあるよね? でもまぁ、今回のエインヘリアルは、そこまで扱いやすい、って所じゃなさそうだけど」
「……うん……頭が良いって事は……こっちも……しっかり……作戦を考えないと、ね……?」
「ああ。なんだかんだぼやいてても仕方が無いからな。やるだけやってみようか」
 と、それにポエット・バークスウィート(やる気のない妖精使い・e41253)とライラ・キャメル(従順なメイド・e41254)の二人が。
「そうだわ。犠牲者を出さないために、全力で戦わせてもらうのだわ、後味が悪いもの。初戦から強者、一切の不服無し。本気で行かせてもらうのだわ」
「ええ、必ず全員生還して帰りましょう。可能なら、誰も傷つく事なく」
 と頷き合う二人、そしてエレも。
「ええ……知略に優れるというのは、被害者の、もともとの性格を示している様にも思います。ですが……何にせよ、これ以上の被害は出ないようにしなくちゃいけませんね」
 と、優しく微笑む。
 勿論、心の中では不安一杯ではあるが……きっと大丈夫である、と信じているから……。
「まぁ……被害が広がる前に、黄泉路に送り届けてあげましょうか……」
 と、瓔珞も笑みを浮かべ、そしてケルベロス達は、大学のキャンパス内に立ち入るのであった。

●知識と巨躯の壁
 そして……すっかり暗闇に包まれたキャンパス内。
 エインヘリアルが現れる、と予測された校舎の近くまで来ると共に、スウは一端。
「それじゃ、俺は話しをつけてくるよ。エレちゃん、見つけたら宜しくね」
「ええ、解りました」
 と声を掛け合い、そしてスウは一端、大学の防災センターへ。
「ああ、ごめんね。俺はケルベロス。申し訳無いけど、ちょっとこの校舎内にデウスエクスが現れるという予知を貰ってきたんだ」
 と……デウスエクスが現れる旨を話し、更に二つのお願い。
「俺の合図と共に、火災報知器を発動させて欲しいんだ。それと、館内放送で、避難誘導を促して欲しい……いいかな?」
 と依頼。
 勿論、被害が出ない様にしてくれるなら、積極的に協力を受け入れてくれる訳で……解りました、と頷く。
 そうしていると……程なく。
「……スウさん、現れました!」
 と、アイズフォンを通じて、エレから敵の遭遇が通知される。
 すぐさま、スウは防災センターの職員に指示を与え、火災報知器の信号を発報させ、更に避難誘導放送。
 ……突然の放送に、次々と避難していく学生、教授、等々……。
 残るケルベロス達は、空から降下してきたエインヘリアルを真っ正面から対峙。
『……ん? 何だ、お前達は……』
 と、何処か上から目線で言い放つエインヘリアル……それに正面から立ち塞がる無月と、瓔珞の声。
「力無き人を、殺すのは、騎士なんかじゃない……」
「そうだね正々堂々と戦うその意気やよし……まあ、だからと行って見逃すつもりはないし、負けるつもりはないけどねぇ」
「そう……悪い奴に、悪い人として……選ばれて、満足……?」
 と瓔珞、無月二人の言葉に続けて、神流、ポエット、ライラやエレも合流し、立ち塞がる。
 が……そんなケルベロス達に対し、エインヘリアルは。
『はっ……何を言ってるんだかな? ……刃向かうのならば……倒す迄だぞ……?』
 と、ニヤリ、と笑みを浮かべ、構えるゾディアックソード。
 ……が、そんなエインヘリアルの後方から迫るリーナと瓔珞。
 隠密気流で気配を隠した二人……残る仲間達が注意を惹きつけているからこそ、彼はまだ、気づいていない。
 そして……。
「……!」
 背後からの一撃を叩きつけるリーナの絶空斬と、瓔珞の月光斬。
『ぐっ……!?』
 その巨体を揺るがし、距離を取り直したエインヘリアル。
 だが、そんなエインヘリアルにリーナが。
「奇襲も立派な戦法……卑怯だとは、言わないよね……?」
 と言い放つ……言いたい事を先に言われてしまった様で、唇を噛みしめ、睨み付けるエインヘリアル。
 そんなエインヘリアルに、更にリーナが。
「人間の心を失ってしまったのなら……貴方はここで、わたしがっ……! さぁ……貴方の命、刈り取るよ……」
 と言い放ち、再度構えるリーナ。
 そして、他の仲間達、更に数も合流し、対峙していく。
 一方のエインヘリアルは、ケルベロス達の言葉に対してクスリ、と笑みを浮かべた後。
『面白いじゃないか……ならば、退治してやろう!』
 と言うと共に、その手のゾディアックソードを取りあえず一閃し、ケルベロス達を威圧。
 風圧による動きの制限をしつつ、その動きでケルベロス達の進路を塞ぐ。
 それに対し、スウが。
「さぁ、行きましょうかね」
 とニヤリと笑みを浮かべながらバレットタイムを放つと、続く神流がフォートレスキャノン、そしてライラが走ってくると共に。
「あっ、危ない!」
 と『槍術『すってんころりん』』で、死角からの槍の一撃がぐさっ、と突き刺さってしまう。
『っ!?』
 と、流石に、予想不可能な動きに攻撃を喰らってしまうエインヘリアル。
 とは言え、エインヘリアルはそのゾディアックソード一つで威嚇。
 と、リーナがシャドウリッパー、ポエットが星天十字撃と連続攻撃、更に瓔珞が絶空斬を穿ち、無月は地砕槍。
 一方、エレとラズリの二人は、仲間達の強化。
 エレのスターサンクチュアリが後衛にBS耐性を付与すると、ラズリは清浄の翼で前衛にBS耐性付与。
 行動一巡し、次の刻。
 エインヘリアルは知略で対抗し、動きを剣筋で制限。
 しかしその剣筋を一度受け流し、行動順を遅らせる事で、その制限を躱す。
 そして、スウが。
「させんよ。邪魔するのが俺の仕事さ」
 と、遠隔爆破を飛ばすと、神流も。
「止まらない砲声、降り注ぐ鉄の雨、此処ではアンタも矮小な存在にすぎない」
 と『Shell shock』の一斉放火。
 更にポエットが雷刃突、ライラが稲妻突きで息の合った連携攻撃を仕掛けて、体力をガッツリ削り行くと、リーナが今迄のバッドステータスを一気に倍増させる絶空斬。
 そして瓔珞も更にジグザグスラッシュを集中砲火し、更なるバッドステータスで苦しめる。
『くっ……からだが、重い……!』
 と、舌打ちし……どうにか対処を試みる。
 が、ケルベロス達の動きに対し、無月が稲妻突きを一閃。
 そしてエレがスターサンクチュアリで強化付与、ラズリがその肩口から清浄の翼を飛ばして回復、BS耐性付与。
 ……そんなケルベロス達と、エインヘリアルの攻防は続く事十数分。
 少しずつ少しずつ、体力を削りつつ……8人周りから包囲する事で、退路も塞ぐ。
 いつの間にか包囲網が築かれており、気づいた時には……包囲されていて。
『くっ……! な、なんだとぉ……!』
 と苛立つ言葉を叫ぶのだが……ケルベロス達の方が一枚上手。
 そして……無月が。
「……」
 無言で、鋭い動きから放つ竜爪撃の一閃。
 その一閃に、エインヘリアルは地面へと叩き伏せられる……そして。
「そろそろトドメの頃合いか?」
 とニヤリと笑みを浮かべたスウが放つは、稲妻突きの一閃。
 その一閃を、エインヘリアルの身体に強く刻み込むと……エインヘリアルは、苦悶の叫びを上げて、崩れ墜ちるのであった。

●被害者の影に
 そして、巨躯のエインヘリアルを討ち倒したケルベロス達。
「……ふぅ、終わった様だね……取りあえず、みんなお疲れ様」
 とスウが仲間達に労いの言葉を掛けつつ、汗を拭い、ほっと一息。
 と、その言葉の横で、リーナは、消えたエインヘリアルの遺骸の痕に跪いて。
「……本来、エインヘリアルになった人に罪は無い……だから……安らかに眠れる様、祈るよ……」
 と手を合わせ、冥福を祈ると、それに頷き瓔珞も。
「そうだね……せめて、輪廻の輪に戻れますように……」
 と、六道銭の首飾りをその場にお供えし、エインヘリアルの冥福を祈る。
 ……そんなケルベロス達の祈りは暫し捧げられ……二人が再び立ち上がった所で。
「しかし……これ以上の被害者を増やさないためにも、あの炎使い達を何とかしなくちゃいけませんね……」
 とエレの言葉に神流が。
「そうだな。直接遭遇出来ない事には、後手後手に回るだけだ。とは言え、予知を受けて動いているからには、中々難しい事だけどな」
「そうですね……」
 目を瞑るエレ……ともあれ今は、エインヘリアルの暴走を止めた事は事実であり、その結果、一般人への被害も制止できた訳で。
「ともあれ、後片付けをしておきましょうか。ここは大学のキャンパスですしね」
「……うん……」
 エレにこくりと頷く無月。
 そしてケルベロス達は手分けして、エインヘリアルが壊してしまったアスファルトの地面やら、建造物をヒールグラビティでヒール。
 又、瓦礫などを端っこに運んで、一通り片付けを実施。
「ふぅ……これでよさそうね」
「ええ……」
 ポエットにしずしずと頷くライラ。
 そして、ケルベロス達は防災センターに立ち寄り、無事に終わった事を館内放送で伝えて貰い……学生達が集まる前に、帰路へとつくのであった。

作者:幾夜緋琉 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年10月28日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 2
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