南瓜爆車大阪の陣~カボチャ暴走、アバターは嗤う

作者:かのみち一斗

 大阪市、生野区。
 ここ生野本通商店街は、地域の人々の暮らしを支えるアーケード商店街である。
 源ヶ橋から生野八坂神社、環状線寺田町駅へと東西1kmに渡って昔ながらの個人商店が連なり、人情の街、古き良き大阪下町の雰囲気を色濃く残している。
 10月31日、日没も過ぎハロウィン本番を迎えたその日。
 街路にまではみ出した陳列棚──下町商店街につきものだ──には、ジャック・オー・ランタンの飾り物や、風船で作られた巨大なキャンディーが飾り付けられ、傍らには外国の墓をイメージさせる置物が並べられている。
 買い物をしながらも立ち話に夢中な主婦たち、帰宅がてら今夜の夕食を物色するサラリーマン、買い物客を縫うように走り抜ける自転車。
 下町特有の喧騒の中に西洋風のハロウィンの飾りが、どこか自然に溶け込んでいる。
 そんな中、店先で立ち話に興じる若い母親に連れ立つ仮装姿の幼い兄妹が、待っているのに飽きたのか、とんがり帽子のつばを持ち上げ口を尖らせて不満の声を漏らした。
 店主の老婦人が破顔して小さなお菓子袋が付いたジャック・オー・ランタンを差出すや、たちまち満面の笑顔を浮かべた子供達が歓声をあげた。
 と、その時。
 兄妹が何かに気付いたのか、お菓子の飾りと見比べて、
「あ、おんなじだ!」「おんなじだね!」
 声をあげるなり街路の向こうを指差した。
 無邪気な子供達の姿に目を細めていた老婦人と母親が、何の気なしに指差す方へと顔を向けた次の瞬間、その目が驚きに見開かれた。
「な、なんだぁ!」
 同時に気付いたのか、周囲からも驚嘆の叫び声があがる。
 街路の人ごみがモーセの海割りの如く左右に分かれる中、一台の車両がこちらへと爆走してくるのだ。
 ハロウィンで日本でもすっかり馴染みになった、くりぬいた南瓜で作られた行灯──ジャック・オー・ランタン。
 大きさは1.5m程。
 爛々と空洞の眼差しの中で鬼火が揺らめくそのままの姿が、これまた古風な馬車めいた車体に乗せられ、引く馬もないまま車輪の音も高らかに、街路のど真ん中を走り抜けて来るのだ。
 慌てて避けようとして陳列棚につっこむ自転車。転んで泣き出す子供。あっけに取られる人々を尻目に、カボチャの馬車はハロウィンの街を駆け抜けていく。
 先々で巻き起こる騒動と共に──。
 
「ハロウィンの力を求め、またもドリームイーターの魔女達が動き始めたようです」
 集まったケルベロスたちを見渡して礼を述べると、セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)は、己が予知した光景を語り始めた。
「大阪市内で、攻性植物由来のカボチャの馬車が──『南瓜の爆車(ハロウィンキャレイジ)』と呼称しているようです──大量発生して市民に被害がでています」
 幸い死者はでていないが、ハロウィンの飾りつけをした商店街や、ハロウィンパーティーの会場、コスプレした人々の行列など目掛けて暴走を繰り返しているようだ。
「今回の事件で動いているドリームイーター。新たにパッチワークの魔女に加わったそれは、名をヘスペリデス・アバターと言うようです」
 ヘスペリデスの名に鋭く反応したケルベロスたちへとセリカが静かに頷く。
「昨年のハロウィン事件を引き起こし、カンギ戦士団に加わった未、倒された第11の魔女・ヘスペリデス。その力を受け継いでいる可能性が高く、今回の事件を引き起こしているものと考えられます」
 この暴走もまた、ハロウィンの魔力を集める為に行われているようだ。
 そうして十分に魔力を集めた上で、同日の深夜12時に一斉に自爆し、集めた魔力をヘスペリデス・アバターに届けるのが目的なのだろう。
 許す訳にはいかない。
「南瓜の爆車の総数は不明ですが、概算100体以上が大阪市内を駆けまわっていると見られます」
 全てが単体で移動しており、一体一体の強さはそれほどでも無いので、大阪市内を警備しつつ、出来るだけ多くの撃破を目指すことになるだろう。
「同時多発的に出現した南瓜の爆車は、ハロウィンの雰囲気を色濃く漂わせる場所を次々と襲撃するようです。直接現場を押さえるに限らず、そこへの移動中の敵を補足し撃破を狙うことも可能でしょう」
 現在、大阪城付近は攻性植物に制圧されているが、その周辺では南瓜の暴車は活動していない。
 幸いなことに携帯電話などの通信手段は健在な為、市民から目撃情報があれば随時、近い場所に展開するケルベロスチームに連絡が入るようになっている。
 だが相手は常に移動し続けている──通報を受けてから駆けつけるのでは間に合わない可能性も高い。何らかの工夫が必要になるだろう。
「また、気をつけて欲しいのですが、少人数で活動をつづけた場合、付近の南瓜の爆車が集まって逆に少人数のケルベロスを戦闘不能に追い込もうと動く可能性があります」
 作戦行動時は全員で固まって行動するのが良いだろう。
「全ての南瓜の爆車を撃破するのが理想ですが、難しい場合は──」
 そこまで言って、口元に指をやったセリカの瞳に思案の光が浮かぶ。
「直接、ヘスペリデス・アバターを狙うのも良いかもしれません」
 南瓜の爆車が爆発しても、魔力の受け取り手が存在しなければ、そのまま四散してしまうと想定される。
 つまり、ヘスペリデス・アバター自身は大阪市内に潜伏しているはずなのだ。
 そこをうまく見つけ出せば撃破も可能かもしれない。
 
 そこまで話したセリカ、
「新たな敵の出現に加え、これだけの規模での作戦で集めた魔力を奪われてしまえば、影響はどれだけでるか解りません。どうか食い止めてください」
 ケルベロスたちへと、深く、頭を下げるのだった。


参加者
十夜・泉(地球人のミュージックファイター・e00031)
山之祢・紅旗(ヤマネコ・e04556)
玉榮・陣内(双頭の豹・e05753)
大原・大地(チビデブゴニアン・e12427)
ムジカ・レヴリス(花舞・e12997)
黒木・市邨(蔓に歯車・e13181)
ドラーオ・ワシカナ(赤錆た血鎧・e19926)
北條・計都(凶兆の鋼鴉・e28570)

■リプレイ

●生野本通商店街
 商店街はハロウィン当日を向かえ、朝から買い物客でごった返していた。
 その喧騒を破り、芝居がかった声が響き渡る。
「さあ、このデッドヒートを制するのは我々ケルベロスか、ハロウィンのドリームイーターか……その結果は皆さんの応援次第! どしどし投稿してくださいね!」
 最徐行で人込みの中を進むライドキャリバーこがらす丸を駆り、満面の笑顔の北條・計都(凶兆の鋼鴉・e28570)だ。
 幕末志士の仮装にスタイリッシュモードを重ね、一身に通行客の注目を浴びながら抱えるビラをばら撒いていた。『#南瓜爆車』で投稿しよう! の文字が躍る。
 と、頭上から切迫した声が。
「見つけた! こっちに来るよ!」
 アーケードの天井ギリギリで翼を羽ばたかせた大原・大地(チビデブゴニアン・e12427)がハロウィン飾りを器用に避けながらこちらへと飛んで来る。
 山之祢・紅旗(ヤマネコ・e04556)──こちらは魔導師のローブ姿だ。魔導書を片手ににんまりと笑う──の叫びが続く。
「ちょいと派手なドンパチ始まるよ! 南瓜から離れてね!」
 割り込みヴォイスの力を借りた落ち着いた声に、通行客が路地や店舗の奥へと慌てて駆け込んでいき、それでも興味津々で成り行きを見つめている。
 その野次馬根性に小さく苦笑した紅旗の眼前、南瓜爆車が高速で迫る。
 爆車の正面、十夜・泉(地球人のミュージックファイター・e00031)が立ち塞がった。
 自然な動作でブルースハープをしまいながら、
「馬車にはトリックオアトリート? 定番ですが何かくださいます? 出来れば少し──」
 耳元に手をやるや、魔術のように生成したステッキを一閃。黒髪が揺れる。
「隙を下されば嬉しいですよ」
 同時に翼の羽ばたきも高らかに、泉の傍らに着地する影。
 ムジカ・レヴリス(花舞・e12997)だ。とんがり帽子に黒ローブドレスの魔女姿。深いスリットの裾を翻し、着地と同時に構える。
「一体に時間は掛けられないわ、ネ」
 迫る爆車を鋭く睨むムジカに、泉が小さく頷き、同時にアスファルトの地面を蹴る。
 泉が斉天截拳撃を、ムジカがスターゲイザーを打ち放ち、次の瞬間、南瓜爆車と正面から激突した。
 ぐしゃりと南瓜の表皮が大きく凹み、空洞の口から悲鳴のような叫びが響き渡る。叩きつけられた衝撃に互いが逆方向に僅かに弾き飛ばされる。
 すかさず黒木・市邨(蔓に歯車・e13181)、
「草、出番だよ。往っておいで」
 攻性植物を解き放った。殺到する蔓の群れが車体へと纏わりつき、着地した南瓜爆車の車輪が激しく空転する。
 玉榮・陣内(双頭の豹・e05753)が撮影を終えたスマートフォンをしまいながら指し示すや、ウイングキャットの猫が放つキャットリングが南瓜爆車を捕らえ、
「今だっ!」
 叫んだ。
 和装のドラーオ・ワシカナ(赤錆た血鎧・e19926)が太い笑みを浮かべるや、歌うような詠唱を開始。

 ──闇より産まれ光を定めし星の子ら。肉に輝石を、血を光に、眩き鱗の放つ虹環は夜さえ怯え退いた──

 ドラーオを中心に地面が揺れ動いた。土煙が巻き上がり、轟音と共に周囲の路面を次々と貫いて輝く宝石柱が現れる。
 危機を察した南瓜爆車の鬼火の眼が怪しく瞬くや、生成された炎の槍が轟音を上げてドラーオへと打ち出され、即座に反応した大地が飛ぶ。
「これで防ぐ!」
 掲げる太陽の大盾が瞬時に倍化。炎の槍とドラーオとの間へと身を躍らせた大地が、路面に突き刺さし構えた盾で炎を見事に受けとめた。散らされた炎の余波が周囲を焼け焦がす。
 その炎の向こう、ドラーオの詠唱が、

 ──悠久を刹那に埋め、時の奇跡を現さん!

 完成した。
 土煙の向こうから咆哮が響き渡る。
 光が煌いた。
 その向こうに現れたのは──虹喰らいし光翼の龍。
「終わりじゃ!」
 ドラーオの叫びと共に、泉、ムジカが左右にサイドステップで跳んだ次の瞬間、巨龍のあぎとから放たれた光の息吹が、一瞬で路面を走りぬけた──南瓜の爆車ごと。
 走りぬけた筋が赤熱し、爆発した。アーケードがひとたまりもなく吹き飛び、看板、陳列棚、止められていた自転車が爆風に舞う。
 爆炎が収まった時、最早、南瓜爆車の姿はどこにも無かった。
 一瞬の静寂。
 次の瞬間、息をつめて見守っていた人々の歓声が響き渡った。

●探索
 崩れそうな店舗へ当座のヒールを手早く終えた陣内。頭を下げて口々に礼を言う店主の老夫婦に一瞥も与えないまま、こちらも仮装のとんがり帽子を深く被り直し歩き始める。
「猫、いくぞ」
 老婦人に抱かれていた猫が陣内の元へと駆け寄るのを待つ。
「本格的な癒しが必要だ……また後で来る」
 それだけ言うと、今度こそ振り返らずに仲間たちの元へと歩き出した。
 傍らのコインパーキングへ戻ると、市邨へと手持ちのスマートフォンから画像データを送りながら、
「どうだ?」
「ここから手近なのは生野-東住吉にかけて二件だね、やっぱり、バイク移動が必要かな」
 受け取った市邨が、アイズフォンを使いながら答えた。市邨の視界に半透明のウインドウが次々と開かれ、手早く南瓜爆車の画像をアップロード。ケルベロス本人による直接戦闘シーンを燃料にさらに勢いを増したのか、次々と新たな情報がUPされていく。
 既に目で追うのも難しいと見るや情報の妖精さんを呼び出した。ネット上のお祭り騒ぎに、妖精さんの僅かに困ったような仕草に苦笑を浮かべる。
 ドッドッドッ……。
 響くエンジン音、ドラーオが腹の底にまで響く重低音を轟かせる大型バイクに跨り、豪放に笑う。
「くかかっ、バイク運転なんぞ久しいのぉ。大陸横断した血が滾るわいっ!」
 その後席に紅旗が乗り込み、大地がボクスドラゴンのジンを預けながら、
「自分たちは計都さんと先行しますね」
 飛行する大地とライドキャリバーに騎乗する計都はバイクとの速度差を小回りで埋めるべく、索敵効率向上も兼ねて先行することを決めていた。
 大地のかぼちゃ姿に可笑しそうに笑うジンへ、「飛ぶからいいんだよっ」と少し拗ねたように言いかけて、走り出した計都を慌てて追いかけるように飛び立つ。
 続いて陣内、泉も各自のバイクへと乗り込んでいく。市邨も用意したバイクに軽快に乗り込み、
「──ムゥ、いこう」
 呼ばれたムジカ、差し伸べられた手に礼を言いながら、後席へとタンデムへ。市邨の仮装を改めて見直して、くすりと微笑んだ。
 ムジカとお揃いの魔法使いのローブ姿。羽織るマントには、これまた念入りに大書された『KERBEROS』の文字が。
「これならすぐにわかってもらえるかなって……変、かな」
 ほわんと、やわらかく笑いかける市邨に、小さく首を振って、そうして今度は自分のローブドレスの裾をつまんで見せた。いたずらっぽく笑いかけて、
「似合う?」
 頷く市邨。小さく笑いあう。
 ケルベロスたちが一斉にスロットルを煽った。
 鋼鉄のエンジンが甲高い音を立てながら、騎乗するバイクが次々と車道へ飛び出していく。

●走る
 ──平野駅近辺住宅街
 傷ついた南瓜爆車がアスファルトを切りつけてUターンすると、猛然とケルベロスたちへと突進する。狙いは──泉!
 泉が衣装を翻し、身をかわすと同時。
「ヒトツメ、行きますよ?」
 それは囁くような。だが、力ある言葉。
 グラビティが変じる。より速く、より重く、より正確に。ただ、それだけの魔の理──『Genau und Geschwind eins(セイカクニハヤクヒトツメ)』
 すれ違いざまに叩きつけられた衝撃に、南瓜爆車の左車輪が吹き飛んだ。バランスを崩した南瓜爆車が、電信柱をなぎ倒しながら、ブロック塀へと突っ込み、止まる。
 嘆くように魂に響く叫び声を上げた南瓜爆車のカンテラを支える蔓が伸び上がった。一斉に正面の紅旗へと襲いかかり、バックステップで間合いを取る紅旗との間へ横合いから計都がライドキャリバーごと切り込んだ。
 空中でライドキャリバーの車体で蔓を遮りざま、リトルリボルバスターを打ち放つ。車体が僅かに浮き上がるほどの出力の氷蒼色のレーザーが南瓜の鬼火を貫き、硬質の音と共に体表が氷に覆われいく。
 僅かな動きの停止をチャンスと見るや紅旗、
「市邨くん!」
 叫びざま付与を投げる。受け取った市邨、僅かに眼を閉じた。次の瞬間、見開いた鋭い視線が南瓜爆車を貫く。
「春夏秋冬、七のいろ。ようこそ、彩る夢幻へ。現を離れ、良い旅を」
 殺到する虹の円が南瓜馬車を包囲する。それは四季という円環、現から解き放たんとする煌き。
 一筋の輝きが朧に光った次の瞬間、爆ぜた──『四季に虹色(シキニニジイロ)』
 南瓜の皮が吹き飛んだ。残った鬼火が燃えさかりながら、南瓜爆車が飛散する。
「三体目、だね」
 笑いかける紅旗に、小さく頷いた市邨。撃破報告をネット上に手早くアップ。次の情報を周囲へと伝えると、歩き始めようとして、代わりに立ち止まった。
 振り返った。
 まだ小さく燃え続ける南瓜爆車へと、小さな呟き。
(「よいこは寝る時間だよ。──おやすみ」)

 ──あべのハルカス近郊
 広がる低層住宅を足元に雑居ビルの間を飛ぶムジカが、ドラゴニアンの翼を羽ばたかせ、周囲を見回した。進行中のハズの南瓜爆車の姿は見えない。
 と、突然、背後から声が。
「ケルベロス!」「お嬢さぁぁん!」
 驚いて振り返ると、立ち並ぶ雑居ビルの窓ガラスが開け放たれ、背広を着たサラリーマンたちが、一方を指差して口々に叫んでいる。
「でっかい南瓜が、あっちの路地に入っていきました!」「今さっきです!」
 顔を輝かせたムジカ、口元に両手でメガホンを作って叫び返す。
「ありがとう!」
「頑張って!」「気をつけて!」
 見送るサラリーマンたちに、親指を立てて返すやムジカが翼を翻す。
 一方、地上では、バイクを駆るケルベロスたち。
「阪神高速14号から直接地上へ降下したみたいだね」
「……ふむ、ハルカスまで直線経路を進行中、といったところじゃな」
 インカム越しに受けたムジカからの連絡と目撃情報を合わせた市邨の報告に、ドラーオがGPSと合わせて推測する。
 陣内、顎をひとなでしながら僅かに眼を細めるや、矢継ぎ早に指示を出していく。
「一番近いのは俺たちだ、押さえるぞ。先行中の計都、ムジカ、大地はそのまま、あべの筋を直進して回りこめ。ハルカス前で捕捉できるはずだ。俺たちは後方から追撃に移る」
「「「「了解!」」」」
 一斉にインカム越しに返事が戻るや、陣内もギアを上げた。

 あべのハルカスの威容を背に、計都がライドキャリバーで路面を焦がすようなターンを決めて停止。正面路地を睨みすえた次の瞬間、金属を踏み潰す音が響き渡る。
 路地に停車していた乗用車を踏み台に、南瓜馬車が宙を飛ぶようにしてこちらへと向かってくる。
 頭上の爆車に向かい、リトルリボルバスターを抜くと同時に打ち放った。両カンテラ、車軸、鬼火の眼へと弾丸が叩き込まれる。計六発──『ヘキサバースト』
 悲鳴を上げながら着地した南瓜爆車が、大きくバウンドしながらハルカスのコンクリート壁を横走りしながら、明らかに計都へ敵意を向け、鬼火が燃え上がった。
 スピードローダーでリロードと同時に、アクセルを全開。アスファルトに薬莢が跳ね返る音を背後に南瓜爆車へと走る。
「南瓜に負けるようなやわな走りはしてないさ!」

 ──天王寺駅構内
「止まれぇぇぇ!」
 ジンのボクスブレスを打たれながらも暴走を続ける南瓜爆車を、大地が渾身の力で受け止めた、だが──止めきれない。
 大理石の床を削りながら一気に押し込まれていくその背後には、通路の壁を背に、逃げ遅れたのか足がすくんで動けない幼い少女の姿が。
 即座に紅旗、ドラーオが飛び込んだ。
 紅旗が少女を庇うように抱え込みながら跳び、交差するドラーオのドラゴニック・ハンマーが砲撃形態へと変わるや、轟音を上げて連射。
 叩き込まれる竜砲弾に、絶叫を上げながらよろめいた南瓜爆車がドラーオの背後の壁に突っ込み、崩れ落ちる瓦礫の下へと消えた。
 一息ついた紅旗が腕の中で震える少女へと笑いかけるも、怯えの色が濃いと見るや、
「ヤマネコさんの魔法だよ?」
 すかさず懐から、ハロウィンの飾りが付いた小さな駄菓子の袋を取り出して見せると、目を丸くしていた少女が小さく笑った。
 と、その時、南瓜爆車が突っ込んだ瓦礫の山が小さく揺れた。闇の奥に、鬼火が光る。
 ゆらりと。
 少女の背を通して、笑顔のまま紅旗がリボルバーを向けた。銃撃音。紅玉の弾丸を打ち込まれ、瓦礫の奥の鬼火が消える。
 背後の銃声に驚いた少女が振り返った時には、もうリボルバーはしまわれ、代わりに大きな手で少女の頭を撫でた。そうして、
「お祭っていうのは、楽しいのが一番さ」
 笑いかけた。

●夕日の中で
 日が沈もうとする頃、撃破数は13体に達していた。
 そうして飛び込む一つの報告。
「ヘスペリデス・アバターの撃破に成功したようだね」
 情報収集を続けていた市邨が頷いて言った。
 終わったのだ。
 ガードレールに背を預け、小さくため息をつく。と、その眼前に何やら差し出された。たこやき8個入り。眼を丸くして顔を上げると、
「おつかれさまっ」
 笑顔のムジカで。
 見ると、路上のあちこちで休憩と決め込んでいた仲間たちも、何やら食事中だ。
 天王寺駅の豚まん屋さんから貰ったのだという豚まんの箱をドラーオが次々と取りだしたのを、受け取った大地がジンと一緒に並んでほお張っていて。
 その一方では、ハルカス前で貰ったたこ焼きについて、紅旗が何やら解説を入れていた。曰く、生地にだしがしっかり効いているから、冷めても美味しいのだそうな。
 計都が、食べながらいちいち素直に頷いているのに、微笑んだ市邨も爪楊枝をつまんで一つ食べてみた。
「すごく皮が薄いんだね」
 冷めてしまってはいるが、確かにだしの味がよくしみていて、美味しかった。
 ちょっと行儀は悪いが、まぁ、何せ一日中駆け回ったのだ。これくらいは大目に見てもらおう。

 すっかり一休みな雰囲気に、肩に猫を乗せた陣内が呆れたように、
「よし、食べ終わったらヒールにいくぞっ、皆も手伝ってくれ」
 言われたケルベロスたちも頷いて立ち上がる。
 きっとハロウィンを楽しむ時間もあるだろう。少しくらい観光する時間もあるに違いない。
 言われた大地が嬉しそうだった。

 と、泉のブルースハープの静かな演奏が聞こえた。
 遠くにハロウィンの飾りつけと、喧騒が、日が落ちゆく中に光と共に揺れている。
 葬送曲なのだろうか。
 眼を閉じて、何かを祈るように。

 彼らにも魂があるのなら、救われるように。

作者:かのみち一斗 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年11月12日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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