お菓子作りのドリームイーター~羊羹コウモリ大暴走

作者:遠藤にんし


 モザイクに包まれたそこは、まるで海底のよう。
 ガーデンテラスのテーブルの上にはお菓子。パティシエール鈴音の作ったそれを『王子様』は指先でつまみ、食む。
 見つめるパティシエール鈴音は声も出せず、その様子をうっとりと見つめることしか出来ない――菓子を飲み込んだ『王子様』は、パティシエール鈴音に囁きかける。
「ママには負けるが、良いお菓子だ。君も行き給え」

 ――そして、所変わって。
 ある一軒家の中で、一人の女性がお菓子作りに精をだしていた。
「あとは固めて、型抜きで……っ!?」
 楽しそうな独り言が途切れたのは、背後からドリームイーターの鍵で貫かれたせい。
 女性が倒れると、彼女が手にしていた型抜き――コウモリ型も共に床に落ちる。
 型抜きを拾い上げたのは、ゴスロリの愛らしい衣服に身を包んだ、ツインテールのドリームイーター。
「私はおいしいお菓子です、おいしいお菓子はおいしい子供が大好物!」
 調理台の上のお菓子――羊羹に型抜きを押し込めば、羊羹はコウモリ型にくり抜かれる。
「おいしいお菓子がおいしい子供をおいしく食べちゃいましょう」
 歌うようにつぶやいて、ドリームイーターは外へと赴くのだった。


 ハロウィンの力を求めるドリームイーターが動き出したと、高田・冴(シャドウエルフのヘリオライダー・en0048)は告げる。
「ハロウィンのためにお菓子を作っていた女性が襲われ、ドリームイーターを生み出してしまう事件も起こっている。おそらく、この流れに関連するじけんだろう」
 生み出されたドリームイーターは、子供を食べたいとしきりに口にし、その通りに行動する。
「実際に子供が襲われてしまう前に、このドリームイーターを撃破してほしい」
 ドリームイーターが赴くのは、近所の広場。
 町内のハロウィンイベントが行われる予定の場所で、幸いにもまだ人はいないが、あと一時間もすれば人々が集まってきてしまう。
「そうなる前に、撃破してしまいたいね」
 ドリームイーターは手にしたナイフやフォークを使っての近接戦闘のほか、甘い香りのコウモリを飛ばして遠くの相手にも攻撃をするらしい。
「自分を『お菓子』と言っており、子供を食べようとしている敵だ、というところにも注目したいね」
 子供――または小柄な相手や、持ち物や服装の中にお菓子を模したものがあると、ドリームイーターの注目を集めやすいだろう。
「作戦を考える上で有効になるかもしれないね」
 楽しいハロウィンに必要な美味しいお菓子が子供を食べるというのは、なんともおかしな話。
「誰もが楽しく過ごすためにも、このドリームイーターは倒してしまわないとね」


参加者
朽葉・斑鳩(太陽に拒されし翼・e00081)
生明・穣(月草之青・e00256)
望月・巌(昼之月・e00281)
鵺咬・シズク(黒鵺・e00464)
クローディア・ワイトマリア(ムネノコドウ・e19278)
スノー・ヴァーミリオン(深窓の令嬢・e24305)
伊織・遥(滴るは黒染めるは赤・e29729)
ダスティ・ルゥ(長い物に巻かれる・e33661)

■リプレイ


(「フフッ……お菓子ねぇ……」)
 キープアウトテープを貼りつつ、スノー・ヴァーミリオン(深窓の令嬢・e24305)は思う。
(「『お菓子は可笑しいわ!』とか言ったら小さい子は喜んでくれるかしら……」)
 思いに、スノーの表情には笑顔が浮かぶ……そんなスノーへ、ダスティ・ルゥ(長い物に巻かれる・e33661)は不思議そうな表情。
「む……武者震いってやつよ!」
 慌てて誤魔化すスノーと、パンケーキ型クッションをぎゅっと抱きしめて縮こまるダスティ。
『じゅんび中です まっててね』と書かれた看板を取り落としてあたふたするダスティにそこはかとないトキメキを感じつつ、スノーの準備は完了だ。
 看板を立てたダスティは会場の隅でクッションを抱きしめ、祭りを待つ子供のふり。
(「早く終わらせたいお菓子食べたい……あっこのクッション出来いいな!」)
 緊張にそわそわ落ち着かず、ふわふわのクッションの感触へと現実逃避するダスティ。
 そんなダスティへと、生明・穣(月草之青・e00256)はかぼちゃのマフィンを差し出す。
「うちの厨房の者や私が作ったのや色々と有るんだ、気に入って貰えるかな」
 穣の手にはお菓子と風船。ウイングキャットの藍華を呼び、その体に風船をくくりつける。
「もうじき子ども達が沢山来るからね~」
 滑らせた視線の先には望月・巌(昼之月・e00281)。スイートコーデにかぼちゃ容器でお菓子感満載の巌は周囲をそれとなく眺め、敵の出現を警戒していた。
(「猿が人類と入れ替わる映画があったけど、そんな作り話みてぇな事件は見過ごせねぇな」)
 悪巧みを打ち砕いてやろうと思いながら、巌は指先でもふもふのぬいぐるみを撫でる。
 今回の敵は子供やお菓子に惹かれる、ということもあって、ケルベロスたちのほとんどがお菓子を用意していた。
 クローディア・ワイトマリア(ムネノコドウ・e19278)も服のポケットからちらりとお菓子を覗かせて、警戒させないような微笑と共に辺りを歩いている。
 伊織・遥(滴るは黒染めるは赤・e29729)は黒×紫の衣装で着飾り、コウモリと星の旗飾り――ガーランドで会場を飾っている。
 これならケルベロスたちが会場に集まっていることの不自然さも取り除けるし、戦いが終わった後の会場でも使える。ミニハットとポニーテールを揺らしながら、遥は準備を進めていた。
 ――そして、遥が会場を飾り終える頃、『ソレ』は現れる。
「私みたいにおいしいお菓子があるのかしら?」
 声色こそ愛らしいが、凶暴さがにじみ出た声――。
 鵺咬・シズク(黒鵺・e00464)はそちらへと素早く向き直ると、二本の斬霊刀を振り抜く。
「残念だが今日の主役はてめえじゃねえ。その腹を満たしてやるつもりはない!」
 衝撃波が大気を揺らせば、彼女はキラキラ輝くナイフとフォークを手に、シズクを睨む。
 しかし。
「欲しいものはこれかな?」
 朽葉・斑鳩(太陽に拒されし翼・e00081)はエアシューズから炎を生みながら、籠の中のお菓子を見せつける。
 クッキー、マカロン、チョコレート……とりどりのお菓子に目を奪われるドリームイーターは、迫る炎に気付けない。
「君はどれが好きだい?」
 クリームブリュレを仕上げるように、ドリームイーターの体が炙られた。


 シズクの斬撃は霊魂を、斑鳩の炎は体表を傷つける。
「甘い甘いお菓子がこんなにたくさん!」
 ケルベロスたちの衣服や装飾の中に潜むお菓子たちに気付いて、ドリームイーターは歓声を上げる。
「素敵素敵! 誰から食べちゃおうか迷っちゃうぅ!」
「子供を食べるって、まるで童話で聞いたお菓子の家に住む魔女だね」
 斑鳩の声には、どこか呆れの色が感じられる。
 ハロウィンは子どもたちが楽しむためのものであり、子供を傷つけたり、命を奪ったりするためのものではない――それは、スノーも同じ気持ち。
「食べさせませんわよ!」
 スノーの蹴りがドリームイーターの手首にヒット。流星の煌めきを受けて鈍く光ったフォークが、スノーめがけて振り下ろされる。
 見た目にはただのフォークだが、食器と侮れないほど先端は鋭い。
 リボルバー銃を持つ巌はドリームイーターに迫ると、銃口をぴたりと押し当てる。
「腹を空かせているのなら、これを喰らいな。鉛弾をお前の胃袋に直接ご馳走してやるぜ!」
 腹部への連射、あらん限りの銃撃、折り重なる銃声――逆方向から迫るのは、藍華の風に後押しされた穣の青い衝撃波。
「消えぬ炎は怨嗟の色」
 穣が呟けば、衝撃波に晒されたドリームイーターの背中に青い炎が宿る。
 消える気配もなく盛る炎。
「いいぜ、燃えちまえ!」
 高らかに叫ぶシズクの声が響いた――眩く辺りを照らす火の真上へと、ダスティは薬液を降り注がせる。
 炎を消すためではなく、仲間の受けた痛みを消すために……フェイスガードとゴーグルに覆われてダスティの表情は分からないが、仲間を気遣うように見回しているのが動きからは感じ取れた。
「共食いでもなさっていてはいかがですか?」
 ミニサイズの羊羹を差し出す遥の言葉に、御業が紅蓮の弾丸を撃ち放つ。
 穣の炎もまだ尽きず、そこに紅蓮が加わる形だ。意図せずして自身の衣服と同じツートンカラーとなった炎に、遥は喉の奥で笑う。
 他の仲間たちがお菓子での挑発を行っていることを確認して、クローディアは自身のお菓子をそっとポケットの奥へ押し込む。
 今回集まったケルベロスたちの中で、自分が一番体力が心もとないということは知っていた――だからこそ、突出しては他の仲間を危険にさらしてしまうかもしれないということも。
 ならば距離を取り、確実な攻撃をするだけ。
 半透明の御業は、一直線にドリームイーターへと向かう。
 全身を鷲掴みにされたのか、ドリームイーターの喉の奥から苦しげな声が漏れる……その様子に目を細めながら、クローディアは呟く。
「恐怖で食いつくしてしまうのは少々いただけないわねぇ……」
 薄い微笑は、しかし怒りに満ちていた。


 遥の刃をドリームイーターがナイフで受け止めれば、硬質な音が響く。
 肉薄したまま何度かの打ち合い――そのたびに響く音は、なぜだか徐々に歪んでいく。
「綺麗なものが見えて来たでしょう? そのまま惑わされていてくださいね」
 反射する光は万華鏡のように姿を変え、ドリームイーターは酩酊したかのように体を揺らす。
 まるで子供がお酒の入ったチョコレートを食べすぎた時のよう――そのまま尻餅をついてしまうドリームイーターへと、スノーは急接近。
 コートのポケットに秘めた白兎&黒兎クッキーの香りにドリームイーターが顔を上げた瞬間を突いて、スノーは刃を向ける。
 斬撃がドリームイーターの豊満な胸を引き裂いた――ドリームイーターの悲鳴に応じるかのように、敵の背後からコウモリの群れが姿を見せる。
 羊羹で出来ているからかその身は薄く透け、甘い香りすら漂わせる。
 コウモリどもが斑鳩へと襲いかかるのを見て、ダスティは短刀をしまってオウガメタルを呼び起こす。
「いっ今、助けます!」
 言葉こそどもるが動きは的確。
 オウガ粒子の噴出が斑鳩の身を包み、与えられた戒めを無効化した。
「ダスティ、助かるよ」
 微笑みと共に白い翼を広げた斑鳩は、火炎と雷をその拳に宿し。
「高貴なる天空よりの力よ、無比なる炎と雷撃にて全てを焼き尽せ」
 甘く焦げた香りを残してコウモリが溶け消え、拳はドリームイーターへ。
「あらあら、綺麗ですね」
 バチバチと爆ぜる炎と閃光。宝石の輝きにも似ているとクローディアは微笑み、ドリームイーターが体勢を立て直す前にとガトリングガンを構える。
 連射――立て続けに大気を揺らす轟音、衝撃、反動と藍華の風によって大きく膨らむロングヘア。
 攻撃の方に目を向けようとしたドリームイーターを背後から襲ったのは穣。
 サキュバスちゅっちゅフォンM+による将来性アリアリにしてマジカルな一撃を叩きつけた穣は素早く後退、巌と手の甲を合わせる。
(「お仕置きしてやってくれ」)
(「ああ、任せろ」)
 接触テレパスによる会話は一瞬、即座に巌は日本刀で迫り、ドリームイーターへと斬撃を浴びせかける。
「っしゃ! ケリつけるぜ!」
 ニッと笑ってシズクも刃と共に接近――ドリームイーターはフォークをシズクへ向け、牽制の一撃を放とうとするが。
「甘いぜ! 匂いも動きもな!」
 掲げた刀による斬撃がフォークを弾き飛ばし、傷口を抉る。
 悲鳴と共に発生するコウモリ……しかしそれすら斬り伏せれば、それ以上のことは何もなかった。


 ……戦いが終われば、お祭りはつづがなく始まる。
 穣は風船を身にまとう藍華を連れてお菓子を配って回り、ダスティへもお菓子を渡す。
「一緒に楽しもう」
「あっあ、ありがとうございます!」
 ダスティ自身が持ってきたお菓子もあるので、鞄の中はお菓子でパンパンだ。
(「やっぱり、食べられるお菓子がいいなぁ」)
 食べられない上見た目も人間に近かったドリームイーターは、お菓子を名乗っていたがもはやお菓子ではなかった。
 そんなことをしみじみと思いつつ、ダスティは貰ったお菓子を口に運ぶ。
「それにしても巌は随分とまた沢山持ってきたねぇ」
 お菓子を配りながら巌は言い、そっと穣へと耳を寄せる。
「ハッピーハロウィン、穣」
 これからもよろしく、という言葉は、お菓子を配り終えて、二人きりになったら言うことにした。
「大丈夫、このお菓子は噛み付いたりしないよ」
 子供へと笑いかける斑鳩は、コウモリ型の羊羹を持って現れた女性へとそっと声をかける。
「きっと君のお菓子を楽しみにしている人もいるよ。良いハロウィンを」
 呼びかければ、女性は微笑を浮かべる――子どもたちも顔見知りなのか、女性の姿にわあっと歓声を上げた。
 スノーはといえば、販売されているお菓子をルンルン気分で買い漁っている。
「たくさんですわぁ♪」
「ええ、大量ですのよ!」
 楽しそうに笑うクローディアへと、力強く返すスノー。
 大好きな弟のためを思えば、抱えるほどのお菓子であってもまだまだ足りないのだった。
「ちゃんとハロウィンが出来るようになりましたね」
 遥が呟けば、シズクはうなずく。
「本物の主役……子供も来てるしな。なんとか終わって良かったぜ」
 ハロウィンに水を差す邪魔者がいなくなって、後に残ったのは楽しいお祭り。
 賑わいと共に甘い香りが、町へと広がっていった。

作者:遠藤にんし 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年10月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 1
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