●カボチャのば……しゃ
魔法使いに狼男。フランケンとゾンビ。
……ミイラに幽霊に海賊に戦国武将とナースさんと宇宙飛行士その他諸々無国籍何でもありの仮装行列。
至近の距離に攻性植物の根城はあれど、その地で暮らす人々はたくましく、ハロウィン当日の大阪市内は大賑わいだった。
昨今のハロウィンは本来の形式・意味合いから外れた単なるコスプレパーティじゃないか、と言う声も少なからず聞こえるが、そこはそれ。
普段とは全く別の奇抜な衣装(コスチューム)を纏いハロウィンを存分に楽しんで、年に一度だからと羽目を外せば財布の紐も緩み、するとどうだろう。市内に数多ある商店街も必然潤う書き入れ時がやってくる。
小難しい理屈はこの際捨ててしまおう。みんな笑顔になれるのならそれでいいのだ。
が、そんな和気藹々とした雰囲気の仮装行列に迫る影が一つ。
そう! それこそは見た目ちょっとファンシィな南瓜の爆車――攻性植物・ハロウィンキャレイジだ!
ハロウィンキャレイジは持ち前の機動力で仮装行列に肉薄すると!
疾風怒濤の勢いそのまま行列を追い抜き!
呆気に取られる人々を尻目に神速で商店街を駆け抜けた!
「え……え!? 何だいまの!?」
かぼちゃ過ぎ去りし後、追い越された人々は困惑しながら周囲を確認するが、特に人的な被害があったわけでもないらしい。謎だ。
精々、店先のショーウインドウが数枚割れた程度だ。本当の本当に通り過ぎただけなのか。
「暴走族とか……?」
怪訝に思いつつ、化け猫姿に仮装した女性がスマートフォンへ目を落とす。
ネット上では、今し方と同様の遭遇談がリアルタイムで追いきれない程ひっきりなしに書き込まれ続けていた。
●体は資本
「……とまぁ、南瓜の爆車達が大阪市内を走り回ってるらしいっす。主にハロウィンの飾りつけをした商店街や、ハロウィンパーティーの会場、仮装行列目掛けて。ざっと百台以上」
南瓜の爆車は単体で移動しており、一体一体の強さはそれほどでも無いので、大阪市内を警備しつつ出来るだけ多くの爆車を排除してほしいと黒瀬・ダンテ(オラトリオのヘリオライダー・en0004)は言った。
爆車達は、人を殺してグラビティチェインを得る、と言った直接的な行動を起こすつもりはないようだが、爆走の余波として怪我人や器物損壊などの被害が出始めている。
何れにせよ、放っては置けない。
「複数のドリームイーターが各地で同時多発的に行動を開始したみたいっすけど、この事件の裏――ハロウィンキャレイジを操っているのは、ヘスペリデス・アバターという名のドリームイーターすね」
ヘスペリデス・アバターは、かつてカンギ戦士団に所属してた第11の魔女・ヘスペリデスの力を受け継いでいる可能性が高く、おそらくその力をもって爆車達を従わせているのだろう。
この爆走事件は、ハロウィンの魔力を集める為に行われているようで、南瓜の爆車達は、十月三一日の深夜一二時に自爆して、集めた魔力をヘスペリデス・アバターに届けようとするのだという。
この魔力を受け取る為、アバター自身も大阪市内に潜伏していると思われる。
うまく見つけ出せば、彼女を撃破する事も可能かもしれない。
「最良なのはヘスペリデス・アバターと爆車の全撃破。難しいかもしれないっすけど……」
ヘスペリデス・アバターを撃破すれば、爆車達が集めたハロウィンの魔力の受け取り手は居なくなる。
ただし、彼女の実力は爆車達とは比較にならないほど高い点には注意が必要だろう。
そして仮にアバターを撃破したとしても、ハロウィンキャレイジ達の時限自爆は解除されない。爆発を許せば当然、周辺への被害は免れない。
故に、やはり、虱潰しに見つけ出しての全撃破が望ましい。
「さっきも言ったとおり、爆車達はハロウィンぽい雰囲気の場所に現れる可能性が高いすが、会場から会場へと移動中の爆車を見つけて撃破する事もできるっす」
逆に、攻性植物が制圧している大阪城付近では一切活動していないようだ。
今回、市内に敵の妨害電波等は無く、ケータイ、ネット、アイズフォン等の通信機器が問題なく使用出来る。
その為、市民からの爆車目撃情報があれば、随時、付近にいるチームに連絡が入るようになっているが、爆車達は足が速い。敵は常に移動している為、通報を受けてから駆け付けるのでは間に合わない可能性も高い。過信は禁物だ。
「足には足、ケルベロスは体が資本、本命の情報は足で稼げ、ってやつすね」
また、少人数で行動するのは控えたほうがいい。単独あるいは少人数と見るや、付近の爆車達が寄せ集まって数を頼みにこちらを戦闘不能へ追い込もうと動くかもしれない。班員全員がひとかたまりとなって行動したほうが不測の事態にも対応しやすいだろう。
「年に一度のハロウィンに、悲しい話は似合わないっす。だからどうか……よろしくお願いします!」
参加者 | |
---|---|
リコリス・セレスティア(凍月花・e03248) |
ミザール・ロバード(ハゲタカ・e03468) |
文丸・宗樹(シリウスの瞳・e03473) |
二藤・樹(不動の仕事人・e03613) |
ヒメ・シェナンドアー(白刃・e12330) |
ペル・ディティオ(破滅へ歩む・e29224) |
アリア・ホワイトアイス(氷の魔女・e29756) |
ノクス・カーフェイ(クロックレイヴン・e38400) |
●眺望絶佳
日本有数の超高層ビル、その天辺に位置するヘリポート。
ケルベロス達が地上三百メートルのそこに立てば、文字通り大阪市内を一望することができた。
一見すればまさしく絶景。だが実際には、大阪市内全域を爆車達が所構わず走り回っているのだ。看過できる景色ではない。
文丸・宗樹(シリウスの瞳・e03473)が携帯電話で時刻を確認すると、午前九時を少し回っていた。
恐らく人間が――都市が目覚め始める時間を見越して爆車達も動き出したのだろう。市民からネット上に寄せられる爆車の目撃情報も九時を境に増えており、その数を見るに、自班を含む十数チームが大阪市内を巡回して居るとは言え、爆車の全撃破には数時間以上の長丁場を覚悟しなければいけないかもしれない。
「全く。今年も、相変わらずハロウィンは忙しいか」
「うん……まあ、予想してたこと、だけど……」
宗樹の嘆息に、アリア・ホワイトアイス(氷の魔女・e29756)が相槌を打つ。
爆車に加えて、市内のどこかに潜んでいるヘスペリデス・アバターも探し出さなければならない。
仮に、『彼女が自ら現れるようなシチュエーション』があれば、と、アリアは宗樹の弟分・ボクスドラゴンのバジルを撫でながらぼんやり考える。
「慌ただしいのは予想通り。だけど、ここにアバターがいないのはちょっと予想を外したかな」
二藤・樹(不動の仕事人・e03613)が確認した限りでは、このビル内外にアバターの姿はない。
大阪随一の高層建築物。多勢を指揮するにはお誂え向きのロケーションだと思ったが……。
「……色々気になる事はあるけど、何にしても見過ごすわけにはいかないし、皆が不安に駆られず楽しいハロウィンを過ごす為にも頑張らなければね」
ヒメ・シェナンドアー(白刃・e12330)が今一度市内を見渡せば、四方でちかちかと輝く光がある。グラビティの残光、既に爆車と交戦を開始した班が居ると言うことだ。
アバターの手掛かりが見つからない以上、この場に留まる理由はない。
ヒメは愛刀二振りを鞘からちらりと覗かせて、通天閣を見据える。次の目的地は……あそこだ。
「では、行くとしようか。アバターの探索を優先したい所だが、位置と敵の数を考えるなら、短距離とはいえ薙ぎ払いながら進む事になるだろうな」
ノクス・カーフェイ(クロックレイヴン・e38400)の言葉を皮切りに、オラトリオ達はあっさり防護柵を乗り越えて、五対の翼が宙へ飛び出す。
目指すは地上。ノクスのモノクルは既に、付近で爆走する南瓜達の姿を捉えていた。
数は二。こちらに気付いている様子はない。ならば先手は頂戴するべきだろう。
ノクスがケルベロスチェインを放つと、鎖は硝子張りの壁面を這うように地上へ伸び、南瓜達の頭部を穿つ。
「氷の精霊、私の武器を、導いて」
アリアが召喚した氷の精霊をその身に宿すと同時、氷で創られた武器達が彼女の周囲に出現し、縦横無尽の軌道を描きながら鎖の終端目掛けて降り注ぐ。
リコリス・セレスティア(凍月花・e03248)は純白の翼を羽ばたかせると、全方位に伸びる鎖と無数の氷を潜り抜け、瞬く。
攻撃を受けようとも、南瓜の爆走(あし)が止まる気配はない。童話の中には南瓜の馬車が出てくるものもあるが、あれほど威勢良く走り回ってる様子を見ると、このまま放置すれば建物のみならず、子供の夢まで壊してしまいそうだ。
既に大小の事故は起き始めている。これ以上の被害を防ぐためにも、除かなければなるまい。
「申し訳ありませんが……此処から先は、通行止めとなります」
リコリスが携えるナイフはきらりと光を反射して、刀身に映った惨劇の鏡像は南瓜の精神を抉る。
立て続けに攻撃を受けた南瓜達はようやく上空(こちら)を仰ぐ。そうして爆車たちが見たものは、地上を睥睨する竜の幻影だった。
竜語魔法によって宗樹が操るそれはバジルと同時にブレスを放射し、一拍遅れて爆車の一体も、ぽっかり空いた南瓜の眼より熱線を放つ。
天地両方より発した炎は互いを避けるように交差して、天のブレスは爆車を焼き、地の熱線は花火の如く、虚空で爆ぜた。
「はは! 祭りに花火とは洒落てやがる!」
ミザール・ロバード(ハゲタカ・e03468)は魔導書片手に大笑する。
百を超える爆車相手にどこまで自分の『ドレイン』……グラビティが通じるか、力試しの始まりだ。
ミザールが重力に身を任せながら、仰向けの態勢で禁断の断章・脳髄の賦活を詠唱すると、オラトリオ達の背を追うペル・ディティオ(破滅へ歩む・e29224)はそれを受け取って加速し、地上に迫り、
「硬い皮だろうが割り甲斐があるだろう? 砕けろ」
電光石火の蹴撃を以って南瓜を頭から踏みつぶす。通天閣へと向かうための、強烈な『はじめの一歩』だった。
「クク。一つ。南瓜の収穫時だ、まずは大人しくなるといい。野菜が反抗してくれるな」
●雑多雑然
蛇行、速度違反、信号無視。人に危害を加えないとは居え、爆車の奔放な暴走は市内に混乱を齎していた。
「かぼちゃの馬車っていうのはさ、ファンキーじゃなくファンシーであるべきでしょ」
何処かの時報が午前十時を告げる。
それを背景音に、敵の蔓に絡め取られながらも、樹はなんと、人間砲弾となって南瓜にぶつかり爆発する。
ヒメは樹が作った隙を利用し、万一にも一般人へ被害が及ばぬように、彼らの盾となるような位置を計算し、取る。
緋雨・緑麗、二つの魔動機刀を同時に抜き、十字の衝撃波が地を疾れば、爆車は四つに解体され、これで通算、三台目だ。
「……それにしても、こんなに大勢の前で戦うのは幾分違和感があるわね」
通常の、人払いをした戦場を考えれば、何て賑やかなのだろうかとヒメは思う。
同時に、いつ怪我人が出てもおかしくない不安定な戦場でもある。
戦闘が終われど人を励ますプリンセスモードは欠かさずに。気も抜けない。
「我はどちらでも構わん。しかし……百体以上か……クク、その辺の暴走族より遥かに数が多そうだな」
ペルの口元は愉悦に歪む。
時限爆弾の暴走とは敵ながら派手にやる。流石はハロウィン、退屈せずに済みそうだ、と。
全身に塗れた南瓜をクリーニングで払い落とし、樹は通天閣を見上げる。
結論を先に言うなら、アバターは通天閣内部にもいなかった。
しかし、梅田やその他地域に向かったチームからもアバター発見の報告はなく――うまく潜伏しているのか、このエリアに居ないと判断するの早計かもしれない。
とりあえず、ここからは通天閣周辺を拠点に爆車の探索を優先しよう、と言うミザールの方針に頷き、樹はフルフェイスのカボチャヘッドを被る。敵を誘引できそうな物は何でも利用するまでだ。
「おお! 樹もそれか! 実はな、俺もそうなんだ!」
ミザールはGPS代わりの地図を一旦懐に仕舞い込み、事前に用意していたカボチャの仮面を披露する。
「おおう。本当だ。奇遇にもかぼちゃの被り物が二人とも被ってしまったね」
通天閣の地に誕生したかぼちゃ男二人。
被り物のご利益があったか、はたまた単に進路が被っただけか、早速南瓜爆車が現れる。
「栄養補給だ。魂も南瓜の味がしそうだな……クク」
が、哀れペルの放った降魔の一撃が初手を攫って爆車の魂を喰み、
「花火も良いが、やっぱ祭りの華と言えば喧嘩だろう。そっちの意思は関係ねぇ。無理やり買ってもらうぜっ!」
連携の最終撃。前衛に立ったミザールは蒼黒の大鎌を具現させ、残りの命を根こそぎ刈り取った。
●壊走
日が傾き始めると同時、爆車の目撃情報が減少しつつあることに安堵してか、市内では仮装に興じる人の姿が増え始める。
現状は良いとも悪いとも言えない。爆車の総数が減少しているとはいえ、これ以上人が増えれば必然、不測の事態が起こる確率も高くなる。
現に。商店街と、そこで休憩中の仮装行列を諸共に荒そうと目論む爆車がケルベロスの前に三つ。
「なんにせよ、人に被害が行くのは頂けない。だが、これ以上時間を掛ければ守りきるのも難しくなる、か」
日没前の全撃破が望ましいだろう。
宗樹はオウガメタル・プルを己の腕部に纏い、自身に迫る毒の粉塵を意に介さずと突っ込んで、そのまま鋼拳を思い切り爆車に打ち込んだ。南瓜の顔が鋼の硬度に耐え切れず飛散し、これで丁度十体目。
十一体目の爆車へ向けて、アリアは優しく九尾扇を扇ぐ。戦ぐような風が小さな氷塊を生みして、その弾丸が爆車に接触すると、命ごと爆車の時間が凍結し、壊れた。
「いささか君らの顔を見るのにも飽きてきたな。疾く……消え給え」
構えた槍の切っ先に雷が迸った刹那、ノクスは一息接近し、神速の一撃によって爆車を穿つ。
雷槍を受けた南瓜は火花を吹き出し焼け落ちて、十二体目。
以降、爆車の情報は途絶える。
全て終わった――のだろうか。アバターの行方が気になるが、爆車をすべて失ったのなら既に撤退している可能性もある。何を企める訳でも無いだろう。
「だったら……ゆっくりとハロウィンを楽しめる、のかな……ノクスの恰好なら、きっと今すぐ行列に飛び込んでも違和感ない……よ」
「私は世事に疎いが、おそらく君の魔法使い然とした衣装もそうだろう。しかし、面白いな。ハロウィンパーティーに本物の魔法使いが紛れ込んでいるとは。一体どれほどの人間がその事実に気づくだろう」
市内は祭りの賑わいを取り戻し、敵を倒し終えた何時ものように、アリアとノクスが戯れながら周辺にヒールを施す余裕すらある。
「そうですね。こんなに動き回ったのは、久々かもしれません」
念の為、リコリスが鎧に変じた御業を宗樹に下ろし、癒す。
「あまり体力が無いので最後まで持つか少し不安だったのですが……」
……頑張れました、と、そう言いかけた刹那。
リコリスのスマートフォンが振動し、その液晶をとある情報が埋めつくす。
そこにあったのは、爆車『ではない』デウスエクスの目撃情報。場所は通天か――。
「いいえ。あなたのすぐ後ろよ」
聞きなれない女の声が、リコリスの耳朶に響いた。
●逢魔が時
リコリスを狙ったヘスペリデス・アバターの斬撃。人を、仲間を『守る』という一念が通じたか、奇跡的なタイミングで宗樹が庇い受け止める。だがこの黒杖、触れれば力が封じられる代物だ。
加えて、これまでの連戦で蓄積していたダメージが宗樹を蝕んで、直前にリコリスから回復を受けていなければ、どうなっていたか想像したくない。
「疲労が顔に出ているわ。いつまで立っていられるかしら」
「さあ、な。だが……ハロウィンは街も人も楽しそうだからな。俺はそれを見るのが好きだから、出来る範囲でやるだけだ」
バジルが兄貴分の窮地を救うため、ブレスを吐いて牽制し、黒杖を逃れた宗樹は即座、全身にプルを装着しオウガ粒子を前衛へ放出する。
「クク! 大当たりだ! 爆車をすべて破壊され、その償いは命をもってか! 良いぞ! 責務なぞ二の次だ! 我は愉しい、それが全てだ……!」
姿を現したということは、そう言うことだろう。
ペルは己が拳に白き魔力で生み出した強力な白雷を収束する。
「視界を灼き、白き光景を刻み、瞬間に砕けろ!」
ペルの白。アバターの黒。アバターへ叩きつけられた白く眩い雷光の災拳は一瞬世界をモノクロに変える。
そこへ割って入るのは、撃破したはずの爆車達。よくよく見れば先ほどの物よりも少し青い。
「何の能力もない、ただの爆弾としての型(タイプ)なら、たんとあるわ」
どうぞ召し上がれ。アバターは黒杖でこちらを指し示すと……。
がんばれと、声が聞こえる。連戦を経て疲弊しきった八人を支えていたのは、誰とも知れぬその声だった。
負けるな、と応援するその声は、誰のものだったか。
……否。違う。『誰』『誰か』ではなく。
これは……『皆』の声だ。
今日この日、全てのチームが力を合わせて援けた皆の声が、自分達の体を支えてくれている。
「はは。みんな弱い癖に……大怪我しても知らねぇぞ。なぁ!」
――ハゲタカが影を落とすのは、死肉以外にあり得ない。
祭りを台無しにされかけた借りは返す。
再び後衛へと戻ったミザールは、練ったオーラをヒメへと譲渡する。
「成程。ハロウィンがかくも華やかな祭りとは……それを無碍にするとは、悪し事」
狂った時計の音が聞こえる。ノクスが奏でるその音が連れてくるのは、最も向き合いたくない幻影――カナシイオモイデ。
アバターのトラウマがどんな形をしているのか、ノクス自身にもわからない。しかしそれは確実に、彼女の精神を蝕むだろう。
「普通のハロウィンとは……ちょっとだけ、違うかも」
剣・戟・槍・斧・矢。アリアの周囲に現れた氷の武器たちは、氷の導き手に従って、再び踊る。
「でも、うん……心地いい……よね」
「何てこと。この魔力を収集する術が無いなんて……!」
氷の刃に刻まれながらしかし、アバターは本来手中に収めるはずだったその『熱』にも、身を焼かれているのだろう。
「終わりにしましょう。ヘスペリデス・アバター。……幕引きは、任せました」
リコリスが護殻装殻術を樹に付与すると、アバターもまた爆車を樹へ差し向ける。
お化け南瓜と形容できるほど巨大で、威力も、恐らくは。
大爆車が爆ぜる。耳を劈く轟音が周囲の音を奪い、もうもうと黒煙が爆心地に立ち込める。
が。
「なっ――!?」
アバターは驚愕する。あらゆる事象が想定外。そんな表情だ。
音も無く樹と入れ替わり、その場所に立っていたのは……ヒメだ。
赤色の軽装鎧――プリンセスモードが煤に塗れようともその効果は衰えず。
あるいは。これに励まされた人々が、勇気を振り絞ってエールを返してくれたのかもしれない。
だから動く。ミザールから貰った気力のおかげで辛うじて動く体に鞭打って、アバターの急所を切り裂き、
「……樹」
樹は満を持して、腕部装着型業務用爆破スイッチ、そのボタンに指を置く。
「……トリック&トリート(悪戯するしお菓子もよこせ)って、それは欲張りすぎでしょ」
爆破ならば、樹にも一家言ある。
「というか悪戯ならまだしも、珍走団からの爆破テロなんてしてたら、そりゃ犬のお巡りさんも出てくるって」
リコリスが施してくれた護殻装殻術。鎧型の御業が樹の身に巣くっていた悪性を吹き飛ばしてくれたおかげで、体はすこぶる快調だ。
アバターの急所は、ヒメが先ほど暴いてくれた。同じ箇所に破鎧の爆発を叩きこめばそれでいい。
「十二時過ぎたら魔法は解けて、悪夢(ユメ)はおしまい現実に」
八時間ほど早いけどね。そう言って、樹はスイッチをゆっくりと、確実に押し込む。
……ごめんなさい。幽かに唇を動かし、彼女が最後に遺したのは、魔女たちへの謝罪の言葉。
――そして、一瞬後。
割れんばかりの歓声が、通天閣に木霊した。
作者:長谷部兼光 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年10月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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