お菓子作りのドリームイーター~食べてみたいお菓子

作者:白黒ねねこ

●恋するパティシエは
 モザイクに覆われた海底の様な世界、そこに作られたガーデンテラスを王子様が歩いている。かの四姉妹達に命令を残し、退席して来た。
 その帰りしな、一つのお菓子が目にとまる。王子様は取り皿とフォークを手に、食べ始めた。
 パクリパクリと、だが、味わう様にゆっくりと。その様は、ただ食べているだけだというのに、艶やかで官能的だ。何かいけないものを見ている様な気がするのに、目を離せない。
 それはお菓子の製作者も同じだった。パティシエール鈴音はトレーを持ったまま、顔を真っ赤にしている。
 刺激が強かったため、手からトレーが落ちた。その音で気が付いたのか、王子様はパティシエール鈴音を見る。
 フッと見た者を釘付けにしてしまうような笑みを浮かべ、彼女へと近づいた。
 真っ赤に染まった耳に、王子様は囁きかける。
「ママには負けるが、良いケーキだ。君も行き給え」
 その一言を残し、王子様は去っていく。その後ろ姿が見えなくなるまで、パティシエール鈴音は立ち尽くしていた。

 ここはとある一軒家。三浦 紗奈はハロウィン用のお菓子を作っていた。オーソドックスにカボチャプリンとカボチャのクッキーの二つ。
 カボチャプリンを冷蔵庫に入れた紗奈は、楽し気にクッキーを作る準備に取り掛かった。それもこれも長く会っていなかった高校時代の同級生達に振舞うためだ。
 そんな紗奈の背中は何者かによって貫かれる。正体を確かめる前に紗奈は意識を失い、犯人も何処かへと立ち去る。
 残されたのはお菓子をモチーフにした姿を持つドリームイーターだけだ。
「ふんふん、お菓子、お菓子、私はお菓子♪ 生まれて食べられ繰り返す。でーもー、たまには私も食べてみたい。人の様に食べてみたい」
 歌いながらドリームイーターは移動を始める。
「人を食べたら美味しいかしら? 大人は駄目ね、硬いものーなら子供にしましょう、そうしましょう」
 楽し気な歌声を残し、ドリームイーターは街へとくりだした。

●お菓子は何処へ?
 ケルベロス達を迎えた黒瀬・ダンテ(オラトリオのヘリオライダー・en0004)は真剣な面持ちで資料をテーブルへ置いた。
「ハロウィンの力を求めてドリームイーターの魔女達が動き出したみたいっす! これに関連すると思われる事件で、ハロウィンの為のお菓子を作っていた女性が、突如現れたドリームイーターの鍵に貫かれて倒れドリームイーターを生み出してしまう事件が起こっているっすよ! 生み出されたドリームイーターは、子供を食べてしまおうと行動するんで、そうなる前に現場に行って倒して欲しいっす」
 資料を広げたダンテは何か所かを指さした。
「このドリームイーターは子供を優先的に狙う性質があるっす。その中でも小さい子供、だいたい幼稚園児くらいの子供を狙うっす。そして、被害者の家の近所には幼稚園があるっす、そこへ到達してしまう前に倒す事、それが大前提っす。おびき寄せするなら、公園をお勧めするっすよ。昼間でも人払いが簡単っすからね」
 言い切った後、別の個所を指さした。
「性質の話はしたっすね? 実はこれ、幼稚園児くらいの子供が近くに居なければ、子供とされている年齢の人物の元へ行く法則性があるんっすよ。なので、十代でもおびき寄せが可能っす。囮役は大人が居ない状態で、歩いている必要があるっすけど……」
 言い終わったダンテは深く息を吐いた。
「血のハロウィンとか勘弁して下さいっす。子供達が安心してハロウィンを楽しめるよう皆さん、協力して下さいっす!」
 姿勢を正したダンテはケルベロス達に向かって、一礼したのだった。


参加者
ミケ・ドール(深灰を照らす月の華・e00283)
天矢・恵(武装花屋・e01330)
浅川・恭介(ジザニオン・e01367)
天矢・和(幸福蒐集家・e01780)
ピアディーナ・ポスポリア(ポスポリアキッド・e01919)
月影・環(神霊纏いし月の巫女・e20994)

■リプレイ

●人喰いお菓子を誘き出せ
 ハロウィンで賑わう街からも、幼稚園からも少し離れた公園、それでも普段なら人気のあるその場所は今、緊張感が漂っていた。
 天矢・恵(武装花屋・e01330)とその手伝いをするテレビウムの安田さんによって、柵や一部の出入り口にキープアウトテープが張られている。
「此方ケルベロス、デウスエクスが出現しています。近くの幼稚園から引き離すための誘導中です。誘導地点の公園から離れてください!」
 己のライドキャリバーであるタイムチェイサーに乗った、ピアディーナ・ポスポリア(ポスポリアキッド・e01919)が拡声器を片手に、近隣住民や通行人の避難誘導を行い。
 天矢・和(幸福蒐集家・e01780)はビハインドの愛し君と共に、遊具の後ろに隠れている。彼女の白いドレスの端が見えているのはご愛嬌だ。
 同じくエリヤ・シャルトリュー(影踏・e01913)も植えられた木の後ろに隠れているが、眠いのか若干うつらうつらとし始めている。
 そのころ、避難誘導により人気の無くなった公園までの道を、囮役の面々が歩いていた。
「安田さんは良い子にしているでしょうか……してるな、僕よりは確実に」
 公園に手伝いという名の待機をしている相棒の心配をして、逆に複雑な気持ちになった浅川・恭介(ジザニオン・e01367)の隣を歩く月影・環(神霊纏いし月の巫女・e20994)は彼の様子を見て、不思議そうな顔をした。
「ドルチェ、ドルチェ……ハロウィンはすばらしいイベント……」
 花を飛ばしそうな雰囲気を漂わせたミケ・ドール(深灰を照らす月の華・e00283)を横目に、リネーア・フェルンホルム(睡彩・e22178)の表情も緩んでいた。その腕には翼猫の昴が抱かれている。
 しばらく歩いていると何処からか、歌声が聞こえてきた。
「ハロウィン、ハロウィン、子供は何処かしら?」
 少女の様な女性の様な不思議な歌声は、ドンドン近づいてくる。そして四人と一匹の真後ろから。
「みぃつけたぁ」
 全員が振り返ると、巨大なパンケーキに腰かけ、大きなナイフと鍵型のフォークを持った女性の様なドリームイーターが、恍惚とした表情を浮かべていた。
「子供、子供、おいしそう。目はキャンディーみたい、髪も花飾りも砂糖と飴の細工で出来てるみたいね。みんなみんな、食べたら甘いのかしら?」
「いえ、人間は美味しくないと思うのです」
「トリックオアトリート! 私たちにお菓子をください、ですよ?」
 恭介と環がそんな反応を返しても、ドリームイーターは変わらず笑うだけだ。
 正直、不気味だ。なんにせよ敵は現れたのだ、ならば作戦通りに公園に向かうだけ、もちろん逃げるのを装って。
「悪いお化けにさらわれちゃう……逃げなきゃ」
 そんなミケの緊張感の無い声がしたが、ドリームイーターは獲物を逃がさんと追いかける。
 半ば転がるように公園に駆け込み、振り返れば勝ち誇った様な表情をしたドリームイーターがこちらを見つめていた。
「逃げるなんて、だぁめ。悪い子ね、悪い子はちぎって食べてしまいましょう?」
「おっと、そうはさせないぜ」
 恵の言葉を合図に、残りの仲間達が姿を現し、ドリームイーターを取り囲んだ。

●戦闘開始
 大人の姿を見つけたドリームイーターは途端に、その表情を歪めた。
「大人……美味しくなさそう。失敗したスポンジケーキみたいに堅そうな体、髪と目は食べられそうだけど、他は全部だめ。焦げたクッキーは願い下げよ」
「それは僕も同じだよ。だけど、ね」
 銃を抜き、和はドリームイーターに向かって早撃ちをする。ドリームイーターは咄嗟に体を捻るがナイフを持つ手の甲をかすり、細い赤のラインが走った。
「お菓子の本分はおいしく食べられて人を幸せにする事だ。子供の幸せを奪うなんて許せない」
「……っ、やったわね!」
 ドリームイーターは手のひらサイズのパンケーキを生み出すと、お返しとばかりに彼に投げつける。が、攻撃の動作を注意深く観察されていたが故に、避けられてしまった。
 畳み掛けるように、愛し君が小石に念を込めて飛ばすが、ドリームイーターは体を右にずらす事で避けた。
「食べられるお菓子をくれないんだし、悪戯していいよね? 今だよ!」
「おう!」
 恵の答える声が聞こえた直後、ドリームイーターの腰かけたパンケーキの真下から、溶岩が吹き上がる。
 小さな悲鳴の後、溶岩から解放されたドリームイーターに安田さんがフラッシュを浴びせ、その隙を狙った恭介が殴りかかるが、気が付かれ避けられてしまった。
「ドルチェを食べるのは好き、だけど、食べられるのは嫌……」
 ミケは紙兵を大量に宙に放る。それぞれの仲間の元へと飛んでいくと、守るように紙兵は輪になって仲間を囲んだ。
「痺れていてください、です!」
 稲妻を纏った突きを環はドリームイーターに放つ、左肩を狙った一撃はひょいと避けられてしまった。
「見た目は甘そうだけど、やろうとしている事は、ぜんぜん甘くないよ。君の言葉を借りるわけじゃ無いけど、悪い子にはお仕置きだよ」
 ふわりとエリヤのローブがはためいた。
『我が邪眼、影を縫う魔女、仇なす者の躰を穿て、影を穿て。重ねて命ず、突き刺せ、引き裂け』
 ローブの模様の一つから有刺鉄線の様な影が生み出され、とぐろを巻いた後、ドリームイーターの四肢へと伸び、縛り上げて消えた。
「いくわよ、相棒」
 ピアディーナがハンドルを強く握ると、答える様にエンジンが唸った。
 急発進したタイムチェイサーが炎を纏うのと同時に、相棒を足場にして跳躍する。タイムチェイサーはそのままドリームイーターに突っ込んでいくが、かわされてしまった。
「こっちよ、こっち」
 楽し気な声と共にドリームイーターを足蹴にして、彼女は相棒へと着地した。
 ドリームイーターの可愛らしい攻撃に、少し和んでいたリネーアはフルフルと首を横に振った。その隣では昴が主人を含む、前衛組を風で守っている。
「人を食べてはいけないわ」
「……どうして?」
 鼻をさすり、涙目ながらもドリームイーターは聞き返す。
「人は私達を食べるわ。なら人の姿を得た私だって、食べたって良いじゃない」
「駄目よ、このままでは誰も喜ばない」
「何でよ!」
「あなた達を食べる時と違って、皆の笑顔が生まれないでしょう?」
 この言葉に目を見開いたドリームイーターは、口をつぐんだ。
「楽しいハロウィンの夢の中に、どうぞ戻って」
 杖から放たれた雷がドリームイーターへ向かって走る。それを避けたドリームイーターはどこか、泣きそうな顔をしていた。

●人のマネをしてみたかったお菓子
 それからの戦いは一進一退となった。すばしっこいドリームイーターになかなか攻撃が当たらず、こちらもダメージを受けたからである。
 特に、攻撃を庇っていた恭介やリネーア、サーヴァント達はクリームやパンケーキが多く付いている。
 そして時間が流れ、ケルベロス達は今、ドリームイーターを追い詰めていた。
「うぅ、食べちゃダメ……でも、食べたい、食べてみたいの!」
 髪を振り乱し、ドリームイーターはうわ言の様に呟き続けている。
「だって、お菓子のままじゃ食べるなんて事、できないもの。でも、今ならできる。できるのなら試してみたいと、行動するのは悪い事? お菓子はお菓子を食べられない、なら、人を食べるしか、無いのに」
「……何であれ、食って良い人は居ねぇよ」
 恵の返答にドリームイーターはポロポロと、涙を流した。
「人のマネをしてみたかったの……」
『これで終わりだ』
 何処からか呼び出された刀を構え、彼は振るう。弱ってきていた事もあり、ドリームイーターは神速の一刀両断から逃げる事ができなかった。
 切られた場所から崩れて消えていくドリームイーターは、小さくごめんなさいと、呟いて消えていったのだった。

●手作りのハロウィンパーティー
 戦いの場となった公園の修復と片付けを終え、被害者である三浦 紗奈の元へと訪れていた。倒れていたのはキッチンだったが、刃物と火を使ってなかった事もあり、紗奈本人に外傷も無く、大事にはなっていなかった。
 事情を知った紗奈はまず驚き、助けてくれた礼を言った。そして今、ケルベロス達の手を借りて、紗奈はハロウィンパーティーの準備をしている。
「甘いのは嫌いじゃないですけど、甘ったるいのはちょっと……」
 と、言いつつも恭介は、室内の飾りつけを安田さんと一緒にしている。さらにその手伝いが愛し君とエリヤだ。昴はソファーの上で寝そべっている。
 タイムチェイサーは室内に入れなかったため、庭に停められ、ガラス戸から中の様子を覗いている。
「Ms紗奈、クッキーはどれくらい作るのかしら? 子供達にトリートしても足りるよう、沢山に作ったほうがいいよ……なんてね?」
「……そうですね。二色で沢山、作ります。あ、でも材料……」
 ピアディーナの提案に考え込んでいた紗奈は頷いた。が、食べきりくらいの材料しか用意していなかった事を思い出し、表情を曇らせる。
「大丈夫よ、紗奈。私からも融通できるから」
 リネーアは用意していた材料とハロウィン仕様の様々な型を取り出した。それを見た紗奈はほっとしたように、笑った。
 こうして女性陣と二人の男は、カボチャクッキーと普通のクッキーを作り始めたのだった。しばらくして、クッキーが焼き上がり始めた頃にはキッチンは料理教室と化していた。
「だから、こうすれば綺麗にできるだろ?」
 アイシングとパンプキンシードを飾ったクッキーを実践しながら、恵は女性陣の前に完成品を置いた。
「凄い、もしかして料理……詳しい? なら、ミケさんに甘さ控えめのドルチェ……教えて?」
「あ、わたしも知りたい、です!」
 変化は乏しいものの、目を輝かせたミケが尋ねると、環も便乗する。そんな賑やかな準備が終わり、そろそろ帰るかとケルベロス達が帰り支度を始めた頃、紗奈が声をかけた。
「あ、あの! 皆さんもパーティーに参加しませんか? 手伝ってもらっておいて何ですが、私にできるお礼ってこれしか思いつかなくて……友達は事情を話したら良いって言ってくれましたし、気にせず参加して下さい!」
 紗奈の様子に顔を見合わせたケルベロス達は、ふっと笑った。
 参加すると答え、喜んだ紗奈と共に彼女の友人を待つ。そうして始まったハロウィンパーティーに出されたカフェオレには、和お手製のカボチャや黒猫、魔女のラテアートがされていた。

作者:白黒ねねこ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年10月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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