三色魔女のハロウィン~赤魔女の悪魔的スタンプラリー

作者:青葉桂都

●仮装スタンプラリーと赤の魔女
 ハロウィンを明日に控えた夕方、市街中心部にある複合商業施設は盛況だった。
 客の中に思い思いにハロウィンの仮装をした人々が混ざっている。
 おそらくはまだ十代であろう若者たちが中心だが、小さな子供に仮装をさせた親子連れもちらほらいるようだ。
 大小いくつかの建物からなる商業施設に、近くにある商店街なども加えて、数日前からスタンプラリーが開催されているのだ。参加条件は18歳以下で仮装をしていること。
「ねえねえ、豪華景品ってなんだと思う?」
「お菓子の詰め合わせとかじゃない? ハロウィンなんだし」
 おそらくマントのつもりなのだろう黒い大きな布を羽織った少女が、顔を白塗りにしてゴシック調のドレスを着た友人と言葉を交わしながら歩く。
 達成者には抽選で景品が当たるほか、映画やカラオケなどの割引券が必ずもらえるとあって少なくない学生が参加しているらしい。
 行き交う人々は、この建物が狙われていることなど、知る由もなかった。
 建物から少し離れた街角に、魔女がいた。
 とんがり帽子に、モザイクのかかった炎を飾っている少女。
 炎の詰まったフラスコを手にしており、スカートから覗く脚には試験管をはめこんだベルトが巻き付いている。
「ようやくアタイたちの、赤の見習い魔女フォティアの時間が来た。待ちに待ったハロウィンの季節だよ! さあパンプキョンシーたち、存分に暴れろ! 派手にぶち壊せ!」
 フォティアは商業施設へ、突き付けるように指先を向けた。
 魔女の背後にはかぼちゃのランタンを手にして、お札を顔に貼り付けたキョンシーたちが並んでいた。
 号令を受けたキョンシーたちが、飛び跳ねながら指さされた商業施設へ向かう。
「暴れまくって、ハロウィンの魔力を持つ魔女を誘きだすんだ。そいつを倒せば、アタイは超越の魔女になれるんだよ」
 まるで化け物のように歪んだ笑みが浮かぶ。
「青や緑にだって負けるもんか! 超越の魔女になって、いずれは『ジグラットゼクス』にだってなってやるからな!」
 そして、高らかな笑いが、街角に響き渡った。

●ハロウィンの町を守れ
 ドリームイーターの魔女たちが動き出したと、石田・芹架(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0117)はケルベロスたちに告げた。
「魔女はハロウィンの力を求めています。皆さんにはそのうち、三色の魔女による事件を阻止していただきたいのです」
 赤、青、緑の3人の魔女は、この日のためにパンプキョンシーという名の屍隷兵を量産していたらしい。
 魔女たちはハロウィンのイベントが行われる場所に屍隷兵を送り込んでくる。
「目的は『ハロウィンの力を持つ魔女』を探し出して、その力を奪うことのようです。ハロウィンで盛り上がる人を襲えばその魔女が現れると考えているのでしょう」
 それが一体どんな存在で、どんな力があるかはわからないが、なんにしてもイベントを楽しむ人々が襲われるのを見過ごすわけにはいかない。
「パンプキョンシーの目的は魔女を探すことなので、皆さんのうち誰かがハロウィンの魔女であるかのように装うことで注意を引き付けることができると考えられます」
 そうすれば、一般人には被害を出さずに屍隷兵と戦うことができるだろう。
「また、うまくふるまえば、三色の魔女自身も皆さんがハロウィンの魔女だと考えて姿を見せる可能性もあります」
 その場合は、できれば魔女も撃破して欲しいと芹架は告げた。
 芹架が襲撃を予知した場所は、とある街の複合商業施設だという。ハロウィンにかこつけて仮装スタンプラリーが行われているらしい。
 イベントを中止すれば、パンプキョンシーは別のイベントが行われている場所に襲撃すると思われる。もちろん事前の避難活動も行えない。
「ヘリオンですぐに向かえば襲撃が行われる前、入り口付近で敵と遭遇できるでしょう」
 いくつかあるうち一番大きな入り口で、3階まで届く吹き抜けのホールになっている。
 先ほども言った通り、そこで『ハロウィンの魔女』としてふるまえば敵はケルベロスたちへ攻撃の矛先を向けるだろう。
「襲撃してくるパンプキョンシーは5体になります」
 噛みついて攻撃することにより、毒を与えることができる。また、手にしたカボチャのランタンから鬼火を放つ攻撃も行えるようだ。
 広い袖口の中にグラビティで暗器を生成し飛ばして攻撃することもできる。手元を見せずに投げてくるそれらは命中率が高い。
「三色の魔女については、残念ながら能力や攻撃手段についての情報はありません」
 本物のハロウィンの魔女がこの場にいない以上、予知では当然姿を見せないのだ。少なくともバンプキョンシーより弱いということはないだろうが。
 このチームの前に出現するとは限らないが、もし遭遇する場合、屍隷兵との戦いが終わってすぐに接触することになるだろう。戦闘の合間に何かする暇はないと考えていい。
「もしかすると、ハロウィンの魔力はドリームイーターにとって特別な意味があるのかもしれませんね」
 だが、敵にとって重要であるならば、なおさらその目論見を阻止しなければならない。
 そう言って、芹架は頭を下げた。


参加者
雛祭・やゆよ(ピンキッシュブレイブハート・e03379)
神白・鈴(天狼姉弟の天使なお姉ちゃん・e04623)
祟・イミナ(祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟・e10083)
アト・タウィル(静寂に響く音色・e12058)
クリームヒルト・フィムブルヴェト(輝盾の空中要塞騎士・e24545)
ライラット・フェオニール(旧破氷竜姫・e26437)
宮口・双牙(軍服を着た金狼・e35290)
櫻田・悠雅(報復するは我にあり・e36625)

■リプレイ

●魔女たちの饗宴
 ハロウィンの前日からにぎわう複合商業施設を目指すケルベロスたちの幾人かは、普段とは異なった姿をしていた。
 黒いローブで全身を包んだ祟・イミナ(祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟・e10083)は、黒い三角帽子をかぶっている。
(「……和装以外は久々な気がするな。……さて、祟リックオア祟リートだ」)
 内心考えつつ、実際彼女が口に出していたのは奇妙な呪文らしきもの。
「……南瓜を媒介とせしハロウィンの呪い、其の力を我が魂に……」
 片手に持つ三つ又の燭台はともかく、もう一方の手にあるのは南瓜頭の藁人形。平常時ならなんと嫌な和洋折衷かと思われそうだが、ハロウィンなので問題ない。たぶん。
 イミナ以外の女性陣も、1人を除き三角帽子にローブという魔女スタイルに身を包んでいる。
「ハロウィンの魔女様がお通りになる、道を開けろ!」
 つけ角につけ羽、つけ尻尾で使い魔に扮した青年が魔女たちを先導する。
 宮口・双牙(軍服を着た金狼・e35290)の隣に、魔女を守る騎士が並ぶ。
 南瓜の意匠を施したオレンジ色の鎧を身に着けたクリームヒルト・フィムブルヴェト(輝盾の空中要塞騎士・e24545)は近くにいた若者に近づいた。
「魔女様からの贈り物なのでありますよー」
 まるで虚空から取り出したかのように見せかけつつ、小さなポケットからクリームヒルトはお菓子を取り出し、人々に配っていた。
 赤いロングヘアに角や翼を生やした悪魔メイドにかしずかれ、ハロウィンの魔女たちは商業施設へ移動していった。
 ハロウィンの歌がケルベロスたちと共に響く。
「今年もこの季節が巡ってきたのよさ。沢山の仮装にお菓子、ハロウィンの力がどんどん集まってくるだわさ……」
 歌っていた雛祭・やゆよ(ピンキッシュブレイブハート・e03379)は、敵を引き付けるためにときおりそれっぽいことを呟きながら身に着けたオーブを掲げている。
「ハロウィンを楽しもうというときに、その魔力を狙う魔女が出るとは……。ふふ、ここはひとつ、楽しみながら迎え撃ちましょう」
 眠そうな目をしたアト・タウィル(静寂に響く音色・e12058)も赤い衣装の魔女に扮して、不気味なカブのランタンを掲げて見せた。
「なぜカブなんだ」
 赤毛のメイドが問いかけた。
「ネットで起源を調べました。ジャックオーランタンって、元々はカブだったらしいですよ? ほら、この写真を見てください」
「へえ……アトさんは物知りなんですね。どうしてカボチャになったんでしょうね」
 誰にともなく告げた言葉を聞いて、神白・鈴(天狼姉弟の天使なお姉ちゃん・e04623)は手にしていた南瓜のランタンをしげしげとながめる。
 鈴はサーヴァントであるボクスドラゴンのリュガにも、ゾンビ犬のコスプレをさせて従えていた。
「ハロウィンの元の形を再現したら魔女の気を引けるかもしれないと、思ったんですが」
 結果は今のところまだわからない。
 商業施設が用意したイベントの一環だと思ったか、ケルベロスたちの周囲には一般人たちが集まってくる。
 狙うべき相手ももうすぐ集まってくるはずだ。
(「ハロウィンの力を持った魔女、ね……てか魔女の格好してたらいつも通り戦えないじゃん!」)
 掌サイズの南瓜のランタンをジャグリングして見せるライラット・フェオニール(旧破氷竜姫・e26437)はふとそのことに気づいたが、もうすでに遅かった。
 ハロウィンには不似合いな中華系の服装にカボチャのランタンを手にしたバンプキョンシーたちがホールに入り込んでいるのが見えたのだ。
「……出たか。……丁度南瓜の呪いを与える相手が出来て有難いことだ」
 イミナが呟き、皆は敵を追ってホールに駆け込む。
 5人の魔女に引き付けられたらしく、屍隷兵たちはケルベロスたちに向かって身構えた。
「これより、戦闘を開始する。直ちに避難を始めてくれ」
 魔女を引き立てるべく仕えていたメイドが大きな声を出した。
「慌てず、怪我をせぬように避難をしてくれ」
 櫻田・悠雅(報復するは我にあり・e36625)の言葉を聞いた一般人たちが、慌ててその場から離れ始める。
 他の者たちも、口々に一般人たちに逃げるように告げる。
「いきなりわらわらと……。楽しいハロウィンのためにこいつらにはさっさと倒れてもらうだわさ」
 近づいてくるバンプキョンシーたちに向かってやゆよが告げた。

●魔女たちの歌声
 バンプキョンシーたちは無事にケルベロスたちを魔女だと判断してくれたらしい。
 鈴は近づいてくる彼らを見て、思わず強く腕をつかんだ。
(「行動から思い浮かぶハロウィンの魔女の力というと……やっぱり、死者を操る魔女、でしょうか……」)
 死者を操るという行為から、嫌いな死神を思い出してしまったからだ。
(「屍隷兵は嫌いです。死神だけでなく、あらゆるデウスエクスが死を弄ぶ。演じてみせますよ、未熟な魔女が操る死者を送り返す魔女を……」)
 襲いくるバンプキョンシーたちに向けて、南瓜のランタンを掲げてみせる。
「ハロウィンは西洋の収穫祭にしてお盆……。冥界の門が開き、死者と共に魔物が現れる夜。その魔女とは如何なる者か。死者を魔物を従え練り歩く彼らに供物を収穫の喜びを」
 白く輝く闘気は狼の形をとっている。
 それに似た姿をした群れが鈴の周囲に現れる。
「未熟な魔女に従えられし哀れな魂、このハロウィンの魔女が導きましょう。ランタンの火は道標――安らかに冥界へ戻れますよう」
 実体のない狼の群れには、攻撃能力もない。ただ、外敵の追跡を得意とする彼らは、敵が未来に移動する先を照らし出すという。
 炎に導かれた狼は前衛に出ている仲間たちを取り巻いて、彼らを支援し始める。
 バンプキョンシーたちのうち1体が炎を放ち、別の1体が噛みついてくる。
「やらせないでありますよー」
 クリームヒルトが盾を構えて、噛みついてくる敵の前に立ちはだかる。
 ドローンを展開して仲間を守る彼女へ、サーヴァントのテレビウムがさらに回復。
「屍隷兵か。ならば菓子も悪戯も要らんな」
「……お菓子をくれても祟ってやるまで……」
 飛び交う暗器や炎をくらいながらも接近して、イミナの縛霊手や双牙の飛び蹴りが敵へと命中する。
 他の者たちもそれぞれに支援や攻撃をしかけていた。
「その動き、阻害させる」
 エアシューズをはいた悠雅がスカートをひるがえしながら跳躍し、1体に重力を操った蹴りを叩き込む。
 敵のうち1体の動きが鈍る。
 屍隷兵たちは決して強くはないものの、なにしろ5体もいるのが厄介だ。
「まずは敵をまとめて氷漬けにしてあげましょう」
 アトは仲間たちに声をかけると、魔術を発動し始める。
 前方で、黒とオレンジを基調にした魔女が、静かに頷いて同じく術を使い始めた。
 ライラットとアトの使う魔術が連続して発動し、氷河期の精霊が5体の敵のうち3体までを凍り付かせる。
 雷の壁を生み出して、やゆよが前衛の仲間を守っていた。
 ケルベロスたちと違い、回復手段を持たないバンプキョンシーたちは削られる一方だ。
 数分が経過したときには、敵のうち1体がぼろぼろになっていた。
「炎の息吹」
 悠雅が召喚した竜の幻影が前衛である3体をまとめて焼いた。
 イミナは呪いの視線をその屍隷兵へと向けた。
 格好はいつもと違う黒いローブの魔女姿。けれどやるべきことはいつもと変わらない……祟るだけだ。
「……ハロウィン魔法はお前たちを歓迎している。……パーティというやつだ、愉しめ」
 戦場と化した近代的な商業施設の床に、イミナの呪いが沼を作り上げる。
 沼から現れるのはあらゆる恨みを持った亡者たちの腕。
 バンプキョンシーたちの3体を捕らえた腕は彼女たちを沼へと引きずり込もうとする。
 うめき声と共に、傷ついていた1体が引きずり込まれて力尽きた。
「……蝕影鬼、お前もトリートをしてやるといい」
 命じられたビハインドは、別の敵へポルターガイスト現象を起こして攻撃した。
 1体が倒れたことを、屍隷兵が気にする様子はなかった。ケルベロスたちも、手を緩めることなく攻撃を仕掛け続ける。
 残る敵はとにかく近づいてきて打撃を与えようとするものが2体と、距離を取って確実に当ててこようとするものが2体。威力に関してはまだ侮ることはできない。
 とはいえ、鈴と彼女のボクスドラゴン、リュガの回復に加え、クリームヒルトが展開した光の翼も前衛たちを休むことなく癒し続けている。
「皆さんが動きを止めぬよう、私から送る曲です。どうぞ……」
 アトのハーモニカも時折行進曲を奏でて仲間を鼓舞していた。
 やゆよは雷の壁を全員に展開した後、歌いながら戦っていた。
「今宵は数多の魂に 精霊も魔女も集う夜。
 揺らめくランタンの灯に ちょっと悪い子になって練り歩く。
 さあトリックオアトリート!
 なんでもありの日に、お菓子を囲んで騒ぎましょう!」
 ヒーローものの主題歌のように、熱く歌い上げる自作の歌。
 その激しい歌声は、目に見えぬ歌声の刃となる。
 死体から作られた屍隷兵に果たして心があるのかはわからない……けれど、少なくともバンプキョンシーはそのやゆよの歌に切り裂かれたようだった。
 2体目の敵が倒れて、残る敵は3体となった。

●消え去る橿屍たち
 残り3体の敵へとケルベロスたちは一気に攻撃をしかける。
「……凍てつく呪いの魔法を食らうといい」
 イミナの放つ氷結の螺旋が敵を凍り付かせたかと思うと、炎を纏った双牙の手刀が咆哮のような音と共に敵を引き裂く。
 悠雅は地獄の力を集めて鎖を形成する。
「煉獄の鎖、かの者を切り刻め」
 バンプキョンシーへと飛んでいく鎖は敵を捉えて縛り上げる。
 それを思い切り引き抜くと、赤いロングヘアと共に鎖が宙を踊った。
 深く抉られ、傷ついたバンプキョンシーの体へ炎と氷はさらに深く食い込んでいく。
 楽しい祭りで死傷騒ぎを起こすのはさすがに気が引ける。
 仲間たちの後方から確実に敵を狙い撃ち、悠雅は敵を弱めていく。
 とはいえ、3体の敵のうちクラッシャーが1体に、スナイパーが2体。その攻撃力は決して侮ることはできない。
 クリームヒルトはカボチャのランタンから飛ばされた炎の前に、盾を構えて飛び込む。
 戦乙女の騎士が構えているのはコンクリート製の巨大なタワーシールド。
 無論完全に防ぎきることはできない。カボチャを思わすオレンジ色の鎧を炎が包み込む。だが守りを固めていることで威力は減衰する。
 残る2体からの攻撃もクリームヒルトのサーヴァントであるテレビウム、フリスズキャールヴと蝕影鬼が防ぎきる。
「翼よ、治癒の光を纏うのです」
 ヴァルキュリアの翼が輝きを帯びて広がっていき、本人を含めた前衛の仲間たちを包み込んで癒す。
「皆様が楽しむハロウィンのイベントを悲劇にはさせないであります! パンプキョンシーを倒して皆様を護るのであります!」
 力を込めて、クリームヒルトは叫んだ。
 やがて、悠雅が振り下ろした斧の一撃が3体目の敵を撃破した。
 残る2体からの攻撃は続いたが、もはやケルベロスちの優位は決まっていた。
「……祟る祟る祟る祟祟祟祟祟……」
 イミナの呪いが敵を爆散させて体力を削り取る。
「最後まで、油断せずにいくでありますよー!」
「わかってるだわさ。ここまで来て倒れるつもりはないだわさ」
 余裕ができてきたと判断したクリームヒルトも敵の弱点を見極めて攻撃を叩き込み、彼女のすぐ後ろからやゆよも時空凍結弾を放つ。
 ぼろぼろになりながらも、バンプキョンシーは暗器を作り出して狙いをつける。
「おっと、好き勝手はさせないz……よ!」
 ライラットは身に着けたオウガメタルから暗黒の太陽を生み出した。
 絶望の黒い光は残る2体をまとめて巻き込み、傷ついていた方の1体を焼き尽くす。
 無事に敵を倒すことはできたものの、彼女にとって気疲れのする戦いは続く。
(「赤の魔女をおびき出すのに戦闘中も猫被んなきゃいけないのめんどっ!!」)
 そもそも、彼女は10代や20代の仲間たちほど仮装ではしゃげない30代子持ちのケルベロスである。
 頑張っても、赤の魔女が出てくるとは限らないことがさらにきつい。
(「どっちにしてもあと一息だ。やってやるさ!」)
 内心ため息をつきながらも、彼女は最後の1体へ向き直る。
 最後のバンプキョンシーは仲間たちが倒れたことを気にも留めずに攻撃を続ける。
「その武器を阻害する一撃」
 最後に倒されることのないよう、悠雅が螺旋手裏剣でカボチャのランタンを打ち抜く。
 アトがチェーンソーでジグザグに切り刻み、さらに攻撃を弱める。
 数分とかからず、ケルベロスたちは最後の敵を追い詰めた。
 最後の反撃とばかりに爪を振り上げるバンプキョンシー。
 だが、それよりも早く鈴が南瓜のランタンを揺らした。
「この道は冥界への道標。越えし貴方を送ります。安らかな死の眠りへと、哀れみを抱いて……」
 回復に注力していた彼女だが、もう回復は必要ないと判断したらしい。
 ランタンから放つように見せかけて、不可視の御業から放つ炎が敵を包み込む。
 双牙は炎の道を追いながら、地獄化した腕を突き出した。
「……今の俺は、魔女に喚ばれし炎の悪魔、と言ったところか」
 燃え上がる腕で札がついたバンプキョンシーの顔をつかむ。
「……捕らえたぞ。――ガルム・ブランディング!!」
 そのまま引きずり倒しながら、近くにいたクリームヒルトの盾へ乱暴に叩きつける。
 鈍い音とともに、腕を包む地獄の炎がタワーシールドをあぶる。
 後にはただ、頭を砕かれた屍隷兵の残骸だけが残っていた。
「お祭り騒ぎに参加するのは得意ではないが、見ているのは楽しいものだからな。邪魔者には遠慮してもらおう」
 倒れた敵を投げ捨てると、周囲を油断なく見まわす。
 他のケルベロスたちも同様だ。
「なにも起こらない」
「……赤の魔女はここには来なかったようですね。魔女の姿で戦うのも、なかなか楽しい経験でしたが……ふふ」
 悠雅の呟きにアトが頷く。
「……今日の祟りはここまでか……」
 イミナがはなおも暗い目をしていた。いや、単にいつもそんな目をしているだけか。
「残念ですけれど、犠牲が出ないうちに終わったことを喜びましょうか。リューちゃんもお疲れさまです」
 鈴が傍らにいたゾンビ犬をねぎらう。
「くそっ。出てこないのかよ。猫かぶって戦って損したぜ!」
「まあまあ、無事に終わるのにこしたことはないのでありますよ」
 三角帽子を乱暴に脱ぎ捨てたライラットをクリームヒルトがなだめた。
「楽しいハロウィンが取り戻せてなによりだわさ」
 やゆよが言った。
「イベントが続けられるのかが心配だな。手が必要なら手伝いたいが」
 戦場となったホールを双牙が見まわした。
 ハロウィンの本番である明日、人人が楽しめることをケルベロスたちは祈った。

作者:青葉桂都 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年10月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
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