●花のいろ、魔女と南瓜
煉瓦で舗装された路の傍らには大きな南瓜。
大通りに並ぶ色鮮やかな花々。そして、少し不思議で妖しいハロウィンの魔法使いやおばけ達の愛らしい飾り、哂うジャック・オ・ランタン。
ハロウィンの前夜祭を迎えたとある街はいま、賑わいの最中にあった。
「ねえ、パパ。向こうにおっきな狼男さんがいる!」
「そうだな、じゃあ挨拶しにいってみようか」
「やだ、ちょっとこわいもん! でも……ふわふわのしっぽ、さわりたいなあ」
仮装をした人々が行き交う街中、或る父娘が交わす言葉は穏やかで平和だ。きっと明日は大通りがこれ以上にたくさんの人であふれる。
わくわくした気持ちを抑えきれない少女が駆け出した、その頃。
人気のない街角で妖しい者達が動き始めていた。
「ハロウィンの力を感知しました。おそらくあの集団を襲撃すれば、ハロウィンの魔力を持つ魔女と遭遇する可能性が高いはずです」
静かな瞳に青い髪。小さな帽子を被った少女――否、半人前魔女・チオニーは街を見つめていた。双眸を薄く細めた魔女は路地裏から一歩踏み出し、背後に引き連れていた三体のキョンシー達に命じる。
「あなた達、屍隷兵……パンプキョンシーはこのときの為に量産されたのです。さあ、ここで力を見せてみるのです」
暴れて、暴れて、ハロウィンの力を持つ魔女を誘き出しなさい。
その言葉を聞いた配下たちは命じられるがまま人々で賑わう街中へと向かってゆく。それらの後姿を見送りながらチオニーは呟く。
「赤や緑では超越の魔女になっても『ジグラットゼクス』の皆さまのお役に立てません。だから……私こそが、超越の力を手に入れて超越の魔女にならなければならないのです」
そして――その日、街は本当の化け物によって壊された。
●じゃんぴんぐトリックオアトリート
ハロウィンの力を求めてドリームイーターの魔女達が動き出した。
そのような予知が視えたと告げた雨森・リルリカ(花雫のヘリオライダー・en0030)は事件について語りはじめる。
「皆様にお願いしたいのは、赤、青、緑の三人の魔女が起こす騒動の解決です」
彼女達はこのときの為に量産していた屍隷兵・パンプキョンシーを使ってハロウィンを楽しむ人々を襲撃させるようだ。その目的は『ハロウィンの力を持つ魔女を探し出してその力を奪うこと』だという。
敵はどうやらハロウィンで盛り上がる人々を屍隷兵が襲撃することで目的の魔女が現れると考えている。リルリカは首を傾げて疑問を浮かべた。
「ハロウィンの力を持つ魔女がどういうものかは分からないのでございます。ですが、街の人たちが屍隷兵に襲われると知っていて放っておくわけにはいきません!」
急ぎ屍隷兵に襲撃される街に向かって欲しい。お願いします、と頭を下げたリルリカは作戦内容を説明していく。
パンプキョンシーの目的は『魔女を探し出す』こと。
そこで自分達こそがハロウィンの魔女であるように見せかけて気を引けば、敵は一般人を放置してケルベロスを攻撃してくるはずだ。これを利用すれば被害を出さずに屍隷兵を撃破することが出来る。
パンプキョンシー達は連携を重視し、多彩な動きで襲い掛かってくる。
しかし、ケルベロスが協力しあえば怖い相手ではない。余程のミスをしなければ討伐できるだろう。けれど、と僅かに俯いたリルリカは懸念を話す。
「でもでも、要注意です。きっと三色の魔女は皆さまの戦いの様子を見ています。もし彼女たちが皆さまのうちの誰かをハロウィンの魔力を持つ魔女だと判断したら、戦場に現れて力を奪おうとするかもしれないのです」
三色の魔女が戦場となる街に現れた場合、可能ならば魔女の撃破も行って欲しいとリルリカは願った。また、もし最初から三色の魔女を誘き寄せる心算ならば『ハロウィンの魔女』としての雰囲気をどう醸し出すかが重要になる。
そして、リルリカは全てを現場に向かう者達に任せると告げた。
「リカは少しだけ思ったのです。もしかしたら、ハロウィンの魔力というものはドリームイーターにとって重要なものなのかもしれませんです」
未だそれがどんなものなのかは謎のまま。
だが、罪もない人々が血を流し、花で溢れるはずだった街が穢されることだけは許せない。屍隷兵の撃破に三色の魔女への懸念。
全ては番犬達の意思と行動、そして――その手に宿る力にかかっている。
参加者 | |
---|---|
ミライ・トリカラード(獄彩色鉄鎖・e00193) |
セレナ・アデュラリア(白銀の戦乙女・e01887) |
隠・キカ(輝る翳・e03014) |
シィラ・シェルヴィー(白銀令嬢・e03490) |
霧城・ちさ(夢見るお嬢様・e18388) |
尾神・秋津彦(迅狼・e18742) |
ルト・ファルーク(千一夜の紡ぎ手・e28924) |
ダンサー・ニコラウス(クラップミー・e32678) |
●南瓜の彩
花の街角にて、元気な声が響き渡る。
「ハッピーハロウィーン! 甘くて美味しいトリートはこっちだよー!」
とんがり帽子にふんわりスカート。明るい調子で両手を広げるミライ・トリカラード(獄彩色鉄鎖・e00193)の側にはファミリアの黒猫と蝙蝠がいる。
襲撃の危機が迫る街の中、現れたパンプキョンシー達はその声に反応した。
来ましたわ、と小さく囁いた霧城・ちさ(夢見るお嬢様・e18388)は周辺にお菓子をばらまき、敵を引き寄せるように派手なローブをくるりと翻す。
隠・キカ(輝る翳・e03014)も敵を大通りから引き離すべく、手にしたランプを掲げた。黒の三角帽子が揺れ、赤いドレスが妖しく舞う。
「たのしいお祭の場はここかしら。わたし達のジャマするのはだぁれ?」
「ふふ、ハロウィンはこれからですのに」
緑で統一した魔女の衣装を纏うシィラ・シェルヴィー(白銀令嬢・e03490)は薄く笑み、ファミリアの黒鴉を使い魔の如くキョンシー達の前へ解き放った。
其処に合わせてダンサー・ニコラウス(クラップミー・e32678)が小さなトナカイから変身し、今まさに召喚された使い魔のように現れる。
「かぼちゃの使い魔、参上かも」
ジャックオーランタンを被ったダンサーの傍らには、大きな南瓜を装着したシャーマンズゴーストのストーカーも居た。
その間にセレナ・アデュラリア(白銀の戦乙女・e01887)が近くにいた一般人に此処から離れるよう告げていく。
「皆さん、この辺りは危険です! 今すぐに逃げてください!」
大声で呼びかける彼女の誘導によって街の人々は逃げ出していく。だが、凛と通るセレナの大きな声が一体のパンプキョンシーを引き寄せてしまったようだ。
そんな矢先、魔女の仮装をした少女が転んで泣いている光景が見えた。
「パパ、どこー? うわーん!」
「こちらへ!」
敵の出現による混乱の中、セレナは少女の手を引いて駆け出す。
三体のうち二体はミライやちさ達の方へ、残る一体はセレナ達を追って別々に移動していく様に尾神・秋津彦(迅狼・e18742)が逸早く気付いた。
「む、セレナ殿の声と魔女姿の少女に引き寄せられているようですな」
「オレ……いや、私……ええい、オレ達は向こうに行くぞ!」
秋津彦に続き、ルト・ファルーク(千一夜の紡ぎ手・e28924)も二手に分かれるべきだと瞬時に悟る。悪夢の敷布を翻したルトは口調に若干戸惑ってしまったが、少女に危機が迫っている今、そんなことには構っていられないと判断した。
異変に気付いたダンサーは掌を握り、走っていく仲間の背を見送る。
「ダン達まであっちに向かったら、ダメかも」
二体は人気のない路地裏の方にまで誘き寄せている現状、自分達まで街中の方へ行ってしまうと更なる混乱が起きるだろう。
ダンサーは近付いてくる敵を引き付けるようにして花の舞を踊る。ちさも同意を示し、ミライもそうだねと頷く。
シィラとキカも視線を交わしあい、一同は路地で二体を相手取ることを決めた。
「致し方ありません。わたし達は此処で戦いましょう」
「きぃたちはこっちを、全力で倒すしかないね」
少女達は跳ねて近付いてくる屍隷兵達を見据え、覚悟を抱く。
そして、其々の地での戦いが幕あけた。
●強襲
逃げ遅れた少女の手を引き、セレナは大通りを走る。
屍隷兵は魔女の仮装をした少女を狙っているのだと思ったが、どうやらセレナ自身も標的として見做されているらしかった。
「迂闊でしたね……」
別の仲間が敵の気を引かなければならない時に自分が大声を出せばどうなるか。その結果がこれだと感じたセレナは背後から敵が迫る気配を悟った。
せめて、この子だけでもと彼女は少女を抱き締めて庇う。そのとき――。
「させるか!」
「背面から襲い掛かるなど無粋の極み。斬り捨ててくれましょう」
ルトと秋津彦の声が響き渡り、パンプキョンシーに気咬の弾が襲いかかる。同時にルトが開いた異界の扉から無数の手が伸び、敵を引き裂いた。
「……っ! 皆さん!」
セレナは敵の蹴撃を受けてしまったが少女は無事だ。怯える少女を背に秋津彦が逃げるように視線を送り、ルトも敵の前面に回り込んで身構えた。
「此の隙に彼方に走ってくださいませ!」
「う、うん!」
「後はオレ達に任せろ。この街も、皆も絶対に守ってやるぜ!」
しっかりと駆けて行く少女の気配を見送り、ルトは気合いを入れる。これで通りに一般人の姿は見えなくなった。
駆け付けた秋津彦達の機転に感謝を覚えつつセレナも体勢を立て直す。
「我が名はセレナ・アデュラリア! 騎士の名にかけて、貴女を倒します!」
そして、彼女は星月夜の剣を大きく振り上げた。
――片や、路地裏。
少し離れた所から剣戟が聞こえ、ミライはあちらも戦っているのだと感じた。離れた仲間との距離はそう遠くはない。だが、路地一本でも違えば戦場は別のもの。
敵からの連撃が繰り出される中でシィラは茨の棘の如き電極針に口付けを落とし、ひといきにばら撒いていく。
「油断せずに参りましょう」
「こうなっちゃったからには速攻で片付けないとね!」
ミライは杖から燃え盛る火を放ち、パンプキョンシー達の間で爆発させる。僅かに揺らいだ敵の隙を突き、キカが幻影竜の炎を戦場に舞わせた。
「わたし達以外の魔女なんてニセモノよ。つぶれて消えちゃえばいいんだわ」
戦いの最中、キカは仮装の雰囲気を保つ為に意地悪な魔女を演じる。
ちさはウイングキャットのエクレアに尻尾の輪を飛ばして攻撃するよう願い、自らは幻影を顕現させていく。
「回復と援護はお任せくださいませ」
ちさはミライに加護を付与しながら仲間を後方から支える決意を固めた。
其処へストーカーによる原始の炎が与えられる。続けてダンサーが弓を引き絞り、狙い定めた矢を一気に放った。そんなときも戦うダンサーの姿の撮影を忘れないストーカーはまさにストーカー。
だが、南瓜屍隷兵達は連携して炎の一撃を重ねて来る。
咄嗟に前に踏み出したダンサーは身体を蝕む炎に耐え、ぐっと掌を握った。
「負けたくない、かも」
「大丈夫ですわ。すぐに癒しますから!」
痛みを堪える仲間に気付き、ちさはすぐさま幻朧影の癒しを施す。その間にミライがファミリアを解き放って敵を穿っていく。
戦力が分断された今、シィラは援護を厚くするべきだと察していた。
「甘美な実りを召し上がれ」
黄金の果実をみのらせたシィラは双眸を細め、敵と仲間を交互に見遣る。
されど未だ戦いの行方は分からなかった。
●大通りにて
パンプキョンシーが跳躍し、ルトを狙って腕を振りあげる。
だが、其処に飛び出したセレナが敵の一撃を代わりに受け止めた。
「騎士として皆さんを守ってみせます」
決意の言葉を抱いた彼女はそのまま精神を極限まで集中させて爆発を起こす。その爆風の影から駆けたルトは銃を構え、氷の一閃で敵を穿った。
「秋津彦、今だ!」
「心得ております。吼え立て、牙を突き立て、駆除してくれましょう」
ルトの呼び掛けに応えた秋津彦は葵崩之太刀を振るい、雷刃の突きを見舞う。
三対一とはいえ戦いは此方の不利かもしれない。だが、敵の連携がなくなったと思えば好機とも捉えられた。
「私が受けて耐えます。お二人は攻撃の手を緩めないでください」
セレナはたとえ己が倒れても良いと覚悟を決め、シャウトで己を律する。分かりました、と答えた秋津彦は気を練り上げ、ルトも掌を胸元にあてた。
「斯様な木偶、我らが力で捻り潰しますぞ」
「お前たちに前夜祭の邪魔はさせるか!」
刹那、気咬の一撃と心臓から溢れ出す地獄の炎が戦場に迸った。
●路地裏にて
「――みなさま、勝利を掴みにいきますわよっ」
ちさの凛とした声が路地に響き、舞踏による癒しの力と加護が広がってゆく。
更にはエクレアが清浄なる翼で仲間の守りを固める。
パンプキョンシー達の連携も激しいがケルベロス達の協力姿勢とて負けてはいなかった。シィラはちさの舞に合わせる形で地を蹴り、跳躍する。
「一緒に踊りましょう」
跳ねる敵を翻弄するようにシィラは流星めいた蹴りを放った。其処に続いたキカも敵の動きを捉え、更なる蹴撃で以てその身を穿つ。
「さっさとたおしてわたし達のハロウィンを続けるのよ!」
高慢な魔女を演じるキカは強い口調で言い放ちながらも、こっそりと魔女帽を被った玩具のロボ、キキに「きぃ、ちゃんと魔女役できてる?」と問いかけた。
明確な答えは返ってこないが、首がこくりと揺れた様は肯定のように思える。
その様子を見ていたダンサーはちらとストーカーに視線を移した。
「……」
相変わらず自分がカメラで撮られていたのでダンサーは眼差しを敵に向け直す。そして気を取り直した彼女は戦場に舞い踊り、癒花のオーラを降らせた。
ミライも二本の杖を掲げて幻影の獣を具現化させる。
敵に対する怒りや不安はあれど、そんなものは胸の内にしまっておこう。どれほど不利でも笑顔を絶やさぬことがきっと勝利の道標になる。
「ハロウィンはみんなが楽しみにしてるんだ! ドリームイーターの影響なんて欠片も出してあげないよ!」
ミライの決意が言葉になった刹那、獣が敵を穿つ。
そして、一体目のパンプキョンシーがその場に倒れた。ちさとキカはすぐに残る敵に向き直り、シィラとダンサーも身構え直す。
このまま押し負けぬよう努めたいと願い、ミライは強く敵を見据えた。
●ハロウィンの為に
一方、大通りの三人はやや苦戦を強いられていた。
連携がないといっても敵の一撃は重く、しかもそれをセレナがすべて背負っているのだから負担が大き過ぎるのだ。
「……楽しいハロウィンや前夜祭を、悲しい思い出にさせるわけにはいきません!」
あの少女の為にも、とセレナは剣先を敵に差し向けた。
次の瞬間、屍隷兵が放った炎が三人を包み込む。叫びの気合いだけでは体力を補うことが出来ず、セレナは遭えなくその場に伏した。
「その思い、オレ達が継ぐからな」
炎に耐えたルトは仲間を守るように踏み出し、再び地獄の炎弾を放つ。秋津彦も轟竜の砲撃で敵の動きを阻んだ。
屍隷兵は更に跳ねたが、秋津彦はひらりとそれを躱す。
此方とてこれまで容赦などしなかった。倒し切るならば癒しは考えずに全力の一撃を叩き込むだけ。
「キョンシーが如き、筑波峰の狗賓が黄泉に送るのは造作もないこと」
そして、秋津彦は葵崩之太刀に真空の霊力を纏わせ、絶速の抜き打ちを見舞った。刃傷より浸食する虚空が敵を蝕む中、ルトが短剣を鍵として異界の扉をひらく。
「――これで、」
「決めてやりましょう、ルト殿」
「ああ、終わりにするぜ!」
秋津彦の声を受け、ルトは冥府の扉から影のような腕を喚ぶ。次の瞬間、引き裂かれた南瓜屍隷兵は扉に引き摺り込まれ――戦いは静かに終結した。
同じ頃、路地裏でも戦いが佳境に入っていた。
「魔女の怒りを喰らいなさいな」
シィラは緑の魔女を演じ続けたが、この街に狙いの三色魔女が来ることはないと悟っていた。おそらくこのような状況で魔女の襲撃があったとしたら大変なことになる。
これで良かったのだと感じたシィラは破鎧の衝撃で屍隷兵を打つ。
「悪いお化けは焼き菓子になっちゃえ!」
ミライは敵が間もなく倒れるだろうと予想して地獄の炎で魔法陣を描いた。召喚された三本の鎖は其々の色の炎を纏い、迸ってゆく。
守りたいのはこの街にあふれるはずだった笑顔と喜び。
皆で支えあい、繋いできた戦いの結末はもうすぐ訪れる。
「エクレア、参りますわよっ」
「ダンたちも、いくよ」
ちさは翼猫を呼び、ダンサーもストーカーを手招いた。
炎の蹴撃と猫引っ掻きが敵を左右から穿つ最中、ひといきに解放された矢が戦場に舞い、神霊の一撃と重なる。
ちさとダンサー達の見事な四連撃によって敵の身体が揺らいだ。
キカは次が最後の一閃になると感じて屍隷兵を見つめる。シィラとミライも仲間に終わりを託し、キカを見守った。
「だいじょうぶ、だって今日はハロウィンだから」
――きぃ達がおくってあげるよ。
囁いたキカは理力を籠めた星の力を解放してゆく。その煌めきは敵を葬送するかのように優しく、最期を齎す。
こうして平穏を乱す南瓜屍隷兵はすべて倒れ、日常は取り戻された。
●花と南瓜の街
戦いは終幕を迎え、街には平和が訪れる。
「何とか倒せましたわね。あちらの皆様は無事でしょうか?」
ちさがはたとして大通りの方を見遣ると、セレナを支えたルトと秋津彦が戻ってくる所だった。多少の怪我はあったが、合流を果たした双方は互いが無事に敵を倒せたのだと知って安堵を抱く。
そうして暫く、仲間達は街をヒールで修復していった。
すっかり元通りになった花飾りと南瓜の路を眺め、キカは微笑む。
「わ、とってもきれい」
戦いの最中ではよく見られなかった花の街を見つめ、キカは双眸を淡く緩めた。シィラも目を細め、ミライも笑みを浮かべる。
「戦いはこれで終わり! でも、ハロウィンはまだまだこれからだよ!」
きっともうすぐ街の人々も戻ってくるだろう。ミライはキカ達を誘い、折角だから残ったお菓子を子供達に配ろうと提案した。
「それでは、行きましょうか」
「自分も少し混ざりますぞ。今宵は楽しんでこそです故」
微笑んだシィラが歩き出し、秋津彦も賑わい始めた街に向かう。そのとき、此方に向かってくる人影が見えた。
「む? あれは……」
「いた、もふもふのお兄ちゃんだ! パパ、あたしこの人たちに助けてもらったの」
それは先ほど避難させた少女と父親だった。丁重に礼を告げる父親に秋津彦はやるべきことをしただけだと首を振る。
その最中、少女はルトの側に寄ってぺこりと頭を下げた。
「お姉ちゃんも助けてくれてありがとう!」
「おねえ、ちゃん?」
「あれ、お兄ちゃんだったの?」
きょとんとする少女はどうやらルトの服装から性別を判断してしまっていたようだ。
「ち、違うんだ……オレだって好きでこんな格好してる訳じゃねーんだよ!」
慌てて説明しようとするルトだったが、少女はおかしそうにくすくすと笑っている。
そんな和やかな光景をのんびりと見つめていたダンサーは大通りから楽しげな音楽が流れてきたことに気付いた。
前夜祭の続きが始まったと知り、少女は音に乗って踊り出す。それに合わせてぴょこぴょこと動くリズム感ゼロのストーカーは不思議な踊りを舞うダンサーの姿をしっかりと撮影していた。
「トリックオアトリート、トリックオアトリート……♪」
ダンサーの淡い声によってハロウィンを歓ぶ即興歌が紡がれる。
お菓子をくれなきゃ悪戯するぞ。
けれど悪戯なパンプキョンシーが去ったなら、後に残るのはお菓子だけ。妖しくも賑やかな時間が訪れる予感の中、番犬達は花と南瓜の街の彩を楽しんでゆく。
作者:犬塚ひなこ |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年10月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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