お菓子作りのドリームイーター~召しませメシマズ!

作者:青雨緑茶

 モザイクに包まれた海底のような場所。ワイルドスペースの中に設置されたガーデンテラスから、4姉妹が去った後――。
「……うん、悪くない」
 なめらかなパンプキンクリームをたっぷり絞って、チョコで出来た繊細なクモの巣をあしらったハロウィン仕様の特製カップケーキ。
 『王子様』はその長い指先でケーキを摘まみ、洗練された所作でお口に運ぶ。
 ちらりと覗く舌、目を細めて頬張る恍惚とした表情。
 咀嚼して、味わって、嚥下する喉仏の上下に至るまで、まるで愛おしい恋人を可愛がるかのようにゆっくりと惜しみなく、それでいて捕食者の情熱すら感じさせる官能的なお姿。
 ティーパーティの給仕をしていた『パティシエール鈴音』は、自分が作ったスイーツをそんな風に食べる王子様のお姿を目にしただけで、狂気にも等しい恋心に囚われて言葉も失くし動けなくなってしまった。
 王子様は席を立ち、そんな鈴音の耳元に唇を寄せて囁く。
「ママには負けるが、良いケーキだ。君も行き給え」

 一方、ここはとあるお屋敷。
「ふふっ、この私に手作りのスイーツでおもてなしして貰えるなんて、なんて幸せな方々なのかしらっ」
 綺麗な広いキッチンで一人の少女が、楽しそうにハロウィンのお菓子を作っている。
 作っている、のだが……その作られている代物に、少々、いやかなり問題があった。
 表面だけ真っ黒で中は生焼けらしき平べったい物体、その上にべちゃあっとぶっかけられた、モザイクのかかりそうなドドメ色。多分、ジャム……? か何か。
「……あら? おかしいですわね、パンケーキって、こんな感じだったかしら」
 不思議そうに首を傾げる少女はお嬢様である。それも、生まれてこのかたお菓子作りどころか卵一つ割った事もなかったような、それはそれはベタなお嬢様である。
 そんなお嬢様だが、今日というハロウィンに、生まれて初めて出来た仲良しのお友達方を自宅に招いたのだ。そして自ら作るお菓子でもてなして差し上げたいと思って台所に立ってしまい、作り方なんて一切知らないお菓子作りに手を染めてしまい、ご覧の有り様だよ! な現在の状況に至るのだ。
「作り直した方が良いのかしら……材料なら、まだありますし……」
 そんな迷えるお嬢様の心臓を、突如現れた鈴音がその手に持つ鍵で一突き。
 意識を失って倒れたお嬢様の傍らに、ずるり、とドリームイーターが現れる。
「♪ララン、ラララン。ワタシ美味しいお菓子ナノヨー。
  みんな大好き、お菓子ナノヨー」
 現れたドリームイーターは、調子の狂った音程で楽しそうに歌い出す。
「♪子供が大好き、お菓子ナノヨー。子供を大好き、お菓子ナノヨー。
  こんなに美味しいお菓子ダモノ、美味しい子供をペロッと食べて、
  モ~ット美味しいお菓子にナルノヨー」
 音程がおかしい上に、歌詞も狂っている。だが、もっと狂気の沙汰なのはこのスイーツなドリームイーターから発せられて、立ち込めるニオイ。
 そう。こんな状況から生まれたもんだからこのドリームイーター、セクシーキュートでアハーンで美味しそうな見た目を裏切って、死ぬほどマズいのである。
 台所を飛び出してゆく、残念スイーツのドリームイーター。美味しいと信じて疑わない自分に食べられる、美味しい美味しい子供を求めて!


「ケルベロスのみんな! ハロウィンの力を求めて、ドリームイーターの魔女達が動き出したみたいなんです!」
 笹島・ねむ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0003)は慌てた様子で、集まったケルベロスに事件の概要を説明する。
 なんでも、ハロウィンのためのお菓子を作っていた少女が、突如現れたドリームイーターの鍵に貫かれて倒れドリームイーターを生み出してしまう事件が起こっているらしい。
「生み出されたドリームイーターは、子供を食べてしまおうと行動します! 子供が襲われて食べられてしまう前に現場に向かって、ドリームイーターを撃破して下さい!」
 続けて、ねむは資料を配る。
「敵はスイーツのドリームイーター1体で、現場はドリームイーターが生み出されたお屋敷のエントランスホールになります。避難勧告済みなので、人払いは大丈夫です!
 それで、この敵なんですけど……えっと、綺麗なのは見た目だけで、身体もグラビティもすごくマズいスイーツで構成されているんです。攻撃を受けるとマズいスイーツを強制的に味わう羽目になります。ニオイもまるでドブをさらったか、生ゴミをどうにかしたかのようらしくて」
 どうやら、ドリームイーターが生み出される元となった少女が不幸にもメシマズであったがために、スイーツのドリームイーターにそのメシマズ要素がギュッと濃縮培養還元されてしまったようなのだ。
「攻撃方法は、隠しきれない隠し味の詰まったジャム爆弾、味見しないで完成と言い張ってナイフやフォークで無理矢理お口に突っ込んでくる破壊、根拠のない万能感で自由を履き違えたアレンジの施された物体を遠距離からダイレクトシュートしてくる魔法、ですね。
 どれもすごーく厄介です! 精神的に!」
 一通りの説明をして、ねむは真剣そのものでケルベロス達にエールを送る。
「この残念スイーツのドリームイーターを撃破した後は、襲われた女の子を手伝って美味しいお菓子を完成させてあげても良いかもしれないです。いえ、するべきです! こんなひどいドリームイーターの元になったお菓子なんてお友達に食べさせたら、きっと嫌われちゃいますよ!」


参加者
エイダ・トンプソン(夢見る胡蝶・e00330)
山之内・涼子(おにぎり拳士・e02918)
皇・絶華(影月・e04491)
輝島・華(夢見花・e11960)
盛山・ぴえり(超電波系アイドルぴえりん・e20641)
旭那・覇漠(元引きこもり系レプリカント・e26922)
クロウ・リトルラウンド(ストレイキャリバー・e37937)
常祇内・紗重(駆け出し拳士・e40800)

■リプレイ


「観念することだ、コイツは少々執念深い!」
「さあ、このままサクッと倒しちゃうよー!」
 常祇内・紗重(駆け出し拳士・e40800)の竜閃砲(ドラゴニックレーザー)が炸裂し、山之内・涼子(おにぎり拳士・e02918)の流星煌めく飛び蹴りが襲う。
 エントランスホールにてドリームイーター・残念スイーツを捕捉したケルベロス達の戦いは、順調に佳境へと差し掛かっていた。
 スナイパーの紗重を中心に寄ってたかっての足止め技がよく効き、敵はもうすっかり攻撃を避けられない。
 更に、メディックのエイダ・トンプソン(夢見る胡蝶・e00330)によるキュアのみに頼る事なく、ジャマーの輝島・華(夢見花・e11960)や紗重のボクスドラゴン小鉄丸が付与するBS耐性、更に他の者も敵の毒を警戒してキュアの持参など抜かりなくあったため、毒を受けた時もケアは万全だ。
 ――そう、ケアは万全、なのだが。
「♪ムムッ、生意気ナノヨー、コレ食べて素直になるノヨー!」
 残念スイーツが自身の一部である凶悪なパンケーキをフォークで突き刺し、皇・絶華(影月・e04491)の口に無理矢理突っ込む。
 常人なら凄まじい味に蒼くなる事請け合いの味覚の暴力。にも拘わらず、絶華は特に気にせず咀嚼してしまう。
「特に味に問題はないのではないか? ――ぐふっ!?」
 そう、何故か彼には味覚の暴力は効かないらしい。だが忘れてはいけない、これはただ味に問題のある物体ではなく、れっきとしたグラビティ攻撃。味覚ダメージがなくとも、グラビティとしてのダメージや毒は受けるのだ。
「いや待て待て、なんで絶華はアレの味が平気なんだ……!?」
 盾役として特に攻撃を食らってきた旭那・覇漠(元引きこもり系レプリカント・e26922)は自身の口にダイレクトシュートされた際を思い出し、うっかり内容物の推測までして口を押さえ、当然の脅威を発する。
「ある種の特技だよね! ほーら覇漠ちゃんっ、でも今はぴえりんと一緒に――元気があれば、何でも出来る!」
 盛山・ぴえり(超電波系アイドルぴえりん・e20641)が色々な意味で将来性たっぷりの大器晩成撃を叩き込む。38歳男性、ちゃん付けで呼ばれて動揺しつつも、覇漠も倣う。
「デウスエクスを倒す、スイーツの作り方も教える。どちらもしないといけないのがケルベロスの辛いところだね……!」
「見るからにまずそうなのに、自分は美味しいと思って勧めるのは私には理解出来ません……とても食べられません、ごめんなさい!」
 クロウ・リトルラウンド(ストレイキャリバー・e37937)が炎纏った蹴りをお見舞いすれば、華が謝りながらも容赦なくライトニングボルトをほとばしらせる。
「手作りスイーツでハロウィンパーティー、そんな素敵なひと時を邪魔するなんて相変わらずドリームイーターは無粋ですね。めっ! ですよ!」
 キリッと言い渡しつつも、エイダはサキュバスミストの桃色の霧で的確に絶華を癒す。
「♪違うノヨー、ワタシの邪魔するワンワン達が無粋ナノヨー!」
 残念スイーツが壮絶な謎ジャム爆弾を後列へと放つ。エイダはからくも避けたが、紗重とクロウがまともに食らった。
「うぐっ!!」
「うぅっ!!」
 二人とも食べ物を粗末にしてはいけない意識が強く、咄嗟に吐き出す判断が出来ない。だがそれゆえ、もろに味わってしまい悶絶する羽目に。
 これはいけない。紗重の兄弟のような存在である小鉄丸が、彼女の腹にタックル!
 勢いよく飛び出すモザイクまみれの劇物。ドリームイーターの特徴たるお馴染みのモザイクだが、状況が状況、まるで放映禁止映像かのようだ!
「クロウさんも! 今だけは、吐いても誰も怒らないから!」
 涼子が真剣に心配する声を投げるが、クロウは一歩も退かない。
「平気……! 食べ物に、もったいないことするくらいなら、自分が……!」
 涙目になりながらも、ごくん――モザイクジャムを飲み込む。
「そんな……自らを犠牲にしてまで、食べ物の大切さを……!」
「なんて奴だ……私もやはり、飲み込むべきだったか……!」
 涙ぐむ華と感服する紗重に、蒼い顔でサムズアップするクロウ。
 その意気や良し! だがダメージは大きいぞ!
 クロウのボクスドラゴンのワカクサが回復させる傍ら、小鉄丸は「落ち着け、紗重まで飲み込んでたら回復対象が増えるだろうが!」と言いたげな目を向けていた。
「♪サァサァ、モットモ~ット、召し上がれ!」
 ズタボロのくせに調子づく残念スイーツが、今度は華を狙って『インスピレーション・アレンジ』を撃ち出す。覇漠がすかさず、それを庇う!
「きゃあ! ありがとうございます、覇漠兄様……!」
「に、兄様……?!」
 肩代わりした味覚のダメージよりも、呼ばれ慣れない呼び方にまたしても動揺するおっさん。若い子に囲まれる中で頑張れおっさん!
「華さん、ここは合わせて参りましょう……『さぁ踊りましょう、蝶のように』!」
「は、はい! エイダ姉様……『さあ、よく狙って。逃がしませんの』!」
 二人が息を合わせ、蝶の戯れ(エフェ・パピヨン)と風に舞う花弁(カゼニマウハナビラ)を繰り出す。魔力から生成された無数の紅い蝶と花弁が舞い、敵の体力を奪い、切り刻む。夢のような美しさは、実に残念な敵との戦闘中だという事も忘れそうになるほど。
「やるね二人とも! よーし、ぴえりん特製スペシャルドリンク! お・い・し・い・よ……?」
 テレビウムのチャウやんに覇漠へのキュアを任せ、ぴえりは残念スイーツの背後に回り込み捕獲して、特製☆ぴえり汁(トクセイ・ピエリジル)をぐいっと強引に飲ませる。
 古今東西の薬草や精力剤やなんかそこらへんにあるものを適当に混ぜ合わせ、なんやかんやして作った名状し難き飲み薬。それを飲ませられた残念スイーツは――。
「――いやぁぁぁっ! マズゥイ!」
 効いている! 自らがマズい代物の化身であるがゆえ残念スイーツも相応に味音痴ではあったが、だが許容可能なマズさの閾値を――ぴえり汁は、凌駕していた!
 なまじ味音痴なのが災いして卒倒出来なかった事が、残念スイーツを更なる地獄へと追いやる事となる。既に重なる数多くのバッドステータスとも合わさって動けない敵の正面に、現れたるは絶華。
「多少の毒はあるようだが、だが貴様の御菓子には足りない物がある。それは圧倒的なパワーだ!」
 そんなものは子供を食べたところで得る事は出来ない。絶華は力強く説き、グラビティで圧縮したカカオ10000%チョコレートに更にグラビティ強化した漢方薬を添えた狂気の産物、心が篭もったバレンタインチョコレート(ジゴクヘミチビクコントントヤミノカタマリ)をお口へ捻じ込む。
「さぁ!! 真に圧倒的なパワーを宿した我がチョコを食して、圧倒的なパワーを得るがいい!!! 括目しろ! 圧倒的なパワーに……あれ?」
「ヒギィィィッ! マズイッ、マズゥイッ、死ンジャウ……ッ!!」
 目をぱちくりする絶華の前で、残念スイーツは金切声と共に血反吐を吐き、内側から膨れ上がる「圧倒的なパワー」によって全身から血の華を咲かせる。
 もはや敵は虫の息。涼子がそこへ肉迫し、ブーストナックルを放つ。
「色んな意味で恐ろしい戦いだったけど――これで終わり!」
 中心を捉えた高速の重拳撃が最後の一撃となり、残念スイーツは塵と消えた。


「本当にあれはパンケーキだったのか? 魚の内臓のような味がしたぞ」
「良ければ食べてみてくれ。口直しだ」
 交戦したホールをエイダがヒールし、一行は台所へ向かう。真剣にぼやく紗重など味覚の暴力を受けた仲間達にフロッグ・タブレットを配る覇漠。すっきり爽快な緑のカエルのミントタブレットが皆の口中を整えてくれる。
 戦闘前は正直、周りが若くて可愛い子ばっかりなんで肩身が狭い……などと思っていた彼だったが、そんな考えはあえなく吹っ飛んだ。何とは言わないが、特にドリームイーターの悲惨な末路に。
 台所で倒れていたお嬢様はドリームイーターの撃破により意識を取り戻し、華、クロウによって介抱され、諸々の事情説明を受け――。

「楽しい楽しいハロウィン! それでは改めて、お菓子作りのお手伝いをしましょう♪」
「私も指南出来るほどではないので、今日は一緒に勉強するつもりで来ました。美味しいお菓子を作れるように頑張りましょう!」
 片付けられた台所で、エイダや華達ケルベロスはお嬢様にスイーツ指南をするべく並ぶ。
「ケルベロスの皆様、よ、よろしくお願いしますわ……!」
 お嬢様も大切なスイーツの作り直しに気合い充分、フリフリの可愛らしいエプロン姿で張り切って番犬達を頼りにする。なお皆にもお屋敷から同じエプロンが貸し出された。
「とはいっても私も料理はその……苦手なので、一緒に教えて貰う側ですね。皆さんのアドバイスや手捌きを動画に撮っておきます。ほら料理動画ってやつです」
 そうエイダはスマホを構え、撮影係を買って出る。
「なるほど良いアイディアだな。なら俺はアイズフォンでレシピを表示しよう」
 覇漠がデフォルメした可愛いカエル付きのレシピを出して、皆に見えるように立体映像とする。
「それじゃまずは、簡単にできるお菓子から一歩ずつ覚えていこう!」
「いいか……調理というのはパワーだ。身体にパワーを得る為の儀式こそ調理といって良いだろう」
 涼子と絶華に励まされ、お嬢様も心強そうだ。片方の言葉には少々不安しかないが、だが彼もやる気に溢れている事には間違いないのだろう。
「お菓子は化学! しっかり計って手順通りこなせば必ず美味しく作れるんだ。習い事と同じで、アレンジの前にまずは基本を覚えることも肝心だね」
 クロウが彼女らしい観点から述べると、そういうものとは知らなかったとお嬢様は素直に聞き入る。
 幸いお嬢様が作ろうとしていたパンケーキは計る・混ぜる・焼くと基本を抑えていて、かつアレンジも効かせやすいもの。では改めて、レシピ通りにパンケーキを焼いてみよう、となる。
「そう、ちゃんとふるいにかけて分量を図って……フライパンは生地を入れる前に一度濡れ布巾に下ろすと、むらなく焼き目が付くよ!」
「粉は混ぜ過ぎずさっくり……火は弱火にしてじっくり焼いて泡が出たらすぐ裏返して、これで上手く焼けるはずです……どうでしょうか?」
 クロウと華がそれぞれアドバイスしつつ、一緒に実践、と懇切丁寧に指南する。覇漠は裏方に徹して、名実ともにお嬢様の手作りとなるように配慮してあくまでお手伝いとして、次に何をすればいいのかを教えていく。
「こういうのは家庭科の授業以来だな。ああこら、つまみ食いをするな小鉄丸!」
 紗重は生クリームを泡立てたり果物をカットしたりと、トッピングの準備。練習がてら簡単なものを切ってみるようにとも勧め、かなり不揃いではあるがお嬢様が一生懸命切った苺やバナナもそこに並ぶ。
 おおよそ堅実な方向性で上手く指南が進むが、しかし中には反面教師も存在する。
「デザートといえど栄養が足りなくては意味が無い。故にこういう場合は体に良い物を食材として使わねばならないぞ。あ、試食自由だ!!!」
「古今東西の何か健康によさそうなのを『適当に』混ぜ合わせたのがこのぴえり汁! こんだけ成分てんこ盛りにしたらきっと体に良いはz……ウボァー!!」
 身体に溢れるパワーを宿し、一日を圧倒的なパワーを宿し乗り切る事こそ大切な事だと、絶華は手際よく食用の虫や青汁を使いパンケーキを作り、冬虫夏草を捻じ込みカカオ1000%チョコを乗せる。
 ぴえりはぴえりで、先ほどの戦いで残念スイーツに大打撃を与えたぴえり汁を自ら豪快に喉に流し込み、自爆する悲鳴が台所に響く。
「絶華ちゃんのパワフリャなチョコもつまみ食い……ムギャー!!」
「見ろ……ぴえりも私のチョコを食して更なるパワーを……、……ほら、歓喜の叫びをあげているだろう?」
 懲りないぴえりの悲鳴。倒れるぴえりをその度キュアするチャウやん。キリッと何事もなかったかのように真顔の絶華。
「アレは放っておいても良いのだろうか……?」
「まぁ、ぴえりが全部先回りして飲み食いしてるしな……」
 その光景を周囲、特に紗重は唖然としながら見守る。なお覇漠が言う通り、何だか大変なものが生成されているにはいるがそれが他者の口に入る事はないため、騒がしい以外の実害はない。
「……料理にせよ何にせよ、知る事はとても大事です。基本を押さえずアレンジしたり適当に作ると、大惨事になります」
 あのように、と口に出しはしないが、真摯にアドバイスする華。自分の失敗を軽く上回るダークマターの生成光景に蒼褪めて、こくこく頷くお嬢様。
「みんなは……真似しちゃ……ダメだぜ……」
「あぁっ、ぴえりさーんっ!」
 がくり。意識を失うぴえりに、ヒールを追加するエイダ。
「気を取り直してこう! ほらこんな風に、おにぎりを使ってお米のパウンドケーキも作れるんだよ!」
「まぁ、元がおにぎり? とてもそうは思えませんわ!」
 仕切り直し。涼子が作ってみせたケーキに、目を丸くするお嬢様。
「新鮮な苺もあるね、ジャムも作ってみよう。ヘタを取って砂糖と一緒に煮詰めて、仕上げにレモンの果汁を加えて……」
「他にもトッピングを用意しようか、アイス、チョコ、ヨーグルト、餡子……あなたは何が好きだ? そうか、蜂蜜か」
 クロウと紗重が準備を手伝って、焼き上がったパンケーキに皆でトッピング。
「わぁ、お上手ですの!」
 お嬢様と一緒に挑戦し、上手く出来て手を取り合って喜ぶ華。お嬢様も嬉しそうだ。

 出来上がったパンケーキを皆で試食。
 お嬢様が作った分はちょっと不格好だが、それでも皆の適切な指導やアドバイスおよび反面教師を受け、初心者にしては申し分ない味だった。
 よほど嬉しいのだろう、何度もお礼を言うお嬢様に、クロウと覇漠が微笑みかける。
「食べ物を作るときに一番大切なのは心なんだ。食べさせたい人の笑顔を思って作れば、きっとおいしくなるはずだから」
「友達のために頑張ろうとするその気持ちがあれば、必ず上達する。俺も今でこそお菓子作りは得意だが、以前は作り慣れないものに手を出して大失敗した事もある」
 温かい言葉に勇気づけられ、胸が一杯になる顔を見せるお嬢様。もう二度とレシピも見ずに作ろうなんて考えないだろう。
「撮った動画や音声は送っておきますからねー。勿論、華さんにも。これでいつでも見返して確認できますよ♪」
 撮影動画を確認して、エイダがにっこりする。役立つと同時に、良い思い出にもなる。
 お友達方が集まる時刻まで、あと僅か。心優しいケルベロス達のほんの少しの手助けのお蔭で、一人のメシマズが救われた。きっと楽しいハロウィンパーティーになる事だろう。

作者:青雨緑茶 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年10月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 6
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