ハロウィンティーパーティー～優越者のティーパーティ

■リプレイ

●優越者への招待状
「やぁ、こんにちわ、丸岡さん」
　招待状を片手に道を歩いていた男に、ロストーク・ヴィスナー（庇翼・e02023）が声をかける。
　その男の名は丸岡。高級ブランドの服で身を固め、そのことに優越感を抱いている男である。
「素敵な服だね。高級ブランドの服って特別感があるよね？」
　ロストークが、おだてるように言った。まずは相手の自尊心をくすぐる。
　得意げな顔になる丸岡に、ロストークはつづけた。
「僕も今日着ている服は自慢の一揃えなんだ。実は僕専属でデザインから仕立てまでしてくれる腕のいいブランドを抱えていてね。もちろん全部フルオーダーの一点物なんだ」
　そう言って、あえて見せびらかすように、ポーズをとった。
　シックながら、ロストーク専用にあつらえたその衣服は、着る者のポテンシャルを最大限に引き出すデザインである。ロングコートと細身のスラックスはロストークの長身と長い脚を引き立てる。
　これぞ、オーダーメイド故にできる、着る者と、洋服による合一。両者を掛け合わせて生まれる芸術だ。
　肩に乗り、襟巻役をしている、ロストークのボクスドラゴン、『プラーミァ』も、どこか得意げな顔を見せる。
（「……まぁ、仕立屋見習いのおとうと二人が作った服なんだけどね。ブランド持ちと言うのも、嘘は言っていない」）
　内心舌を出しながら。しかし、これほどのデザインの服を作れるのだ、事実、ロストークのおとうと二人は、確かな腕を持った職人であるのだろう。
　ロストークのアピールは、丸岡には衝撃的であった。
　何せ、所詮は『ブランドに価値を求めた』に過ぎないのだ。ロストークのような、『ブランドに価値があり、さらにブランドによって価値を認められた』存在は、丸岡にとってはまさに雲の上の存在。
　焦りを見せる様子の丸岡に、ロストークはダメ押しの一言。
「『特別』を着るのは楽しいね」
　少しだけ意地悪気に、ロストークは微笑んだ。
　これには丸岡も完全にノックアウトだ。
　フラフラと、何かに操られるように、招待状を差し出す。ロストークは、
「うん、ありがとう」
　招待状を受け取る。丸岡はとぼとぼと歩いていってしまったが……まぁ、すぐに立ち直るだろう。ブランドの価値だけを求めるのではなく、今度は自分にしっかりと合ったファッションを楽しめるようになってほしい物だ。
「さて、他の皆は上手くいっているかな……？」
　ロストークは招待状を弄びながら、仲間たちの首尾に思いをはせた。
　さて、その他のケルベロス達も、首尾よく招待状を手に入れていった。
　槙野・清登（棚晒しのライダー・e03074）は、『家が広い』ことに優越感を持つ少女、美川に接触。
「我が城は「白い紫陽花荘」というアパートメント。中庭＋駐車場×2の2棟2階建て！」
　自らの聖域、自宅のすばらしさを熱く語る。とりわけ、少女が食い入るように聞いたのは、他の住人と生活スペースを共用する日々の賑やかさについてだ。
　家族と暮らすのもいいけれど、気の合う仲間と一緒に暮らす、そんな物にも憧れるのかもしれない。そして、少女の心に一番響いたのは、
「パーティーなら君の自宅で開いて、友達を呼んであげたらどうかな？　その方がきっと楽しいぞ？」
　きっと、そんな一言だったのだろう。
　かくして、清登も、招待状を手に入れたのだった。
「あらあらあら！　凄いのね！　お嬢ちゃん！」
　『お野菜袋詰め販売で誰よりも多く袋に詰めた』ことに優越感を感じる細呂木という女性を担当した円城・キアリ（傷だらけの仔猫・e09214）は、アイテムポケットから50cmほどの大きなカボチャを取り出すパフォーマンスで説得を試みる。細呂木は流石に度肝を抜かれた様子だが、そんな細呂木よりも驚いたのは、おばちゃんの高いテンションにさらされたキアリかもしれない。
　キアリも首尾よく招待状と……ついでに沢山お菓子を貰った。
「わたくしはお店の中、最前列よりも前で、一番最初にそのスマホに触れ、一番最初に購入しましたわ。つまりあなたが並んでいるよりも遥かに先……わたくしは開発中という言葉を聞いてからすぐにお店の中で待機しておりました」
　『最新のスマホを誰よりも早くゲットした』。そんな優越感を持つ小松という男性の説得にあたるは、エフェメラ・リリィベル（墓守・e27340）だ。
　いや、それは本当なのだろうか、とは思うものの、堂々としたエフィメラの勢いに、「もしかしたらこの人、本当に開発中の時点で並んでたのかもしれない」と、小松は思わされてしまうのである。
　かくして、エフェメラも無事に招待状を手に入れる。ちなみに、誰よりも先に招待状を手に入れた……かどうかは、定かではない。
「確かに、あなたの成績は素晴らしいわ。模試の結果も。でもね」
　塾講師へ、詳しい事情はぼかしつつ、ケルベロスの作戦の為である旨を説明し、マキナ・アルカディア（蒼銀の鋼乙女・e00701）は、「模試で一番の成績を収めた」森田という男性学生と面談していた。
「他の団体が主催した、あなたが受けていない模試。それでも、私は高い成績を収めている。あなたはどう？」
　森田は押し黙った。そもそも、勝負の舞台に立ててすらいないのだ。
　マキナは招待状を手に取る。抵抗はされない。何か特別な効果が起きる事もない。それは、森田が、マキナを認めたことの証だ。
（「できれば、ここで折れず、今に満足せず、頑張ってほしいけれど……」）
　と、マキナは思うが、悔しがりつつも、あきらめの色は、彼の表情にはない。
　ならば、安心だろうと、マキナは思うのだ。
　シェイ・ルゥ（虚空を彷徨う拳・e01447）の説得方法はシンプルだ。
　明峰が『自分がモテていると思っている』と思っているなら、その上を見せてやればいい。
　シェイはスマホに入っている女性の連絡先や、一緒に撮った写真などを、明峰に提示した。その手の仕事もやっている、と自称するシェイだ、そう言った交友関係も手広いのだろう。
　ダメ押しとばかりに、パーフェクトボディで自身の魅力もアピール。
　明峰は降参。招待状を差し出し、
「パネェっす、マジ尊敬っす。オレもシェイさんみてーな男になります！」
　と、言い出したので、シェイは内心、苦笑した。
　『どんなものよりも美しい宝石』を持つと自称する松任の説得には、クロノ・アルザスター（彩雲のサーブルダンサー・e00110）が当たった。
　クロノはまず、自身が宝石やドレスで着飾り、負けじとアピール。
「あら素敵な宝石ですね！　でも、残念だけど……それだけ。ただ、その宝石が美しいだけ。宝石の煌きだけに頼って、あなた自身が磨かれていない」
　松任は呻いた。なるほど、一理ある。自分はこの宝石に見合っているのか？　ただ宝石の美しさにかまけているのではないか……？
「どう？　今回は自身を磨きなおす事にして出直さない？」
　クロノの提案に、松任は頷いたのだった。
（「……やば、思った以上にすごい宝石だったわ……ヨダレとか出なかったかしら……」）
　なんてことは内心に秘めつつ、あくまでエレガントな女性を演じるクロノであった。
「問題、キミよりもっと早くゲームをプレイ・クリアできる人って一体誰でしょう！」
　『友達の中で一番早くゲームをクリアした』という福井という少年の説得にあたったのは、キャスパー・ピースフル（壊れたままの人間模倣・e00098）だ。
「……答えは開発者！　僕実は作り手側なんだよね。自作ゲームでお食事処けるべろすでお呼ばれしたこともあるんだよー」
　得意げに言うキャスパー。福井は、ゲームを先にクリアされた事はもちろん、ゲーム開発者に会えたことに興奮気味だ。開発者に出てこられたら勝ち目はない……というより、もう優越感なんて吹っ飛んでしまった。
　福井少年から招待状を受け取りつつ、キャスパーは小声で、
「まあテストプレイってすり抜けがないか壁に向かって歩き続けたり延々とボタン連打したり苦行なことが多いんだけど……でも、やっぱり楽しいんだよね」
　と、苦笑しつつ呟くのだった。

●決戦・優越感のアリス
　アリスはそわそわしていた。
　もうすぐお茶会の始まりの時間。
　たのしいたのしい、優越者たちのマッド・ティーパーティ。
　参加者たちに、美味しいお菓子とお茶をお出しして。
　お代はハロウィンの魔力でいただきます。
　さぁ、お茶会が始まるわ。
　お客さんがやってきたみたい――。
「パーティーは嫌いじゃないよ。それが美人さんからっていうなら尚更ね。……さて、私からのプレゼントは重い一撃でいいかな？」
　出迎えたアリスを待ち受けていたのは、シェイによる重い一撃だ。加速した『東海竜王・如意真鉄』より放たれた一撃は、アリスに直撃。吹き飛ばされたアリスは、空中で受け身をとるように回転、着地する。
「ケルベロス！？　どうして……！？」
　驚愕の色に染まるアリスの表情。
　答えたのは、クロノだ。
「あら、招待状をくれたのはあなたよね？　今度はこちらがお誘いする番。幻影道化が舞い踊る、剣舞踏会へのご招待よ」
　ゆらり、と、クロノの姿がぶれた。それはクロノが纏いしグラビティ・チェインが、霧状に変化したが故の物。あたりに散った霧は、クロノに似た姿をとる。それは、各々が剣を持ち、一斉にアリスに斬りかかる。アリスはクナイで剣をさばきつつも、全てをさばき切れるものではない。体中に切り傷を作り、呻く。
「招待状を……まさか、あなた達が……」
「なかなか面白い体験だったわ」
　マキナが星を蹴り上げる。星はアリスに直撃し、服にダメージを与えた。
　キャスパーとミミック、『ホコロビ』が駆けた。ドリルめいた一撃と、ミミックの噛みつき。
「ゲームって言うのは楽しい物だよ！　悪いことに利用するのは、良くないね！」
「う、うるさいです！　この、吹き飛びなさい！」
　ケルベロス達の前に、モザイクの塊が発生する。それがもこもこと徐々に大きくなり、
「発破！」
　アリスの掛け声とともに、爆発した。ワイルドスペース内に、モザイクの煙がもうもうと立ち込める。
「ふふ、やりましたか……？」
　つぶやくアリスが見たものは、大量のヒールドローンの編隊だ。だが、彼らが齎すものは癒しではない。破壊である。
「残念、そう言う言葉を言う時は、大体やってないものだよ」
　ロストークが、白手袋に包まれた指を、アリスに向けて指した。その指揮のもと、ヒールドローン達が一斉にアリスに襲い掛かる。
　そんなドローンに負けじと、プラーミァは、ケルベロス達を援護する。
「本物の忍の技、とくと味わいなさい、パチモンくノ一！」
　ドローン編隊による攻撃もやまぬ中、相手に息をつかせず、ガトリング掃射をぶち込むキアリ。
「あなたはお強いのかしら？」
　エフェメラがつつ、と、魔導書を指でなぞる。開くは38頁。そこに眠るは闇竜の力。
　『38頁の霧（トランクイロ・ネッビア）』による、闇竜により吐き出された毒の霧が、アリスを包み込んだ。たまらずむせ返るアリス。
「メイド忍者……アリだな。だが、おもてなしの心が足りないッ！」
　清登が叫びながら、スマートフォンのアプリを起動する。『音声検索（レディ・ナビゲーション）』は、可愛いミニ天使が何でも調べてくれるアプリ。前衛のケルベロスを支援するため、メイドについての情報を詳しく教えてくれるよ！
「しまった、また誤検索か！　効果は発揮してくれるからいいのだが！　相棒、フォローを頼む！」
　エンジン音を吹かせ、ライドキャリバー、『雷火』がガトリング砲を掃射。アリスへ弾雨をふらせる。
「その「王子様」よりも私の方がカッコいいと思うんだけど……どうかな？」
　シェイは言いつつ、青龍刀による乱撃をお見舞いする。青龍刀の重みを生かした、目にもとまらぬ重い一撃の連撃！　アリスは防ぐことすら許されない。
「お、思い上がらないでください！　足元にも及びません！」
「おや、それは残念だね」
　飄々と言い放つシェイである。
「さぁ行くわよエア！」
　ライドキャリバー、『エア』に騎乗したクロノが、ドレスの裾をはためかせ、ワイルドスペースを駆ける。はしたない？　いいや、これはこれで絵になる姿だ。
　エアのタイヤによる一撃と、クロノの達人の一撃が、アリスを捉える。
「Code A．I．D．S……，start up． Crystal generate．……Ready，Go ahead」
　マキナが呟くと、青いひし形のクリスタルが複数生成された。
「搦め手に囚われさせはしないわ。その為に私がいるのだから」
　それらは飛び、ケルベロス達へと向かうと、怪我の治療と、行動阻害に対処する防御シールドを展開する。
「ありがとう、マキナのお嬢！」
　礼を言いつつ、キャスパーはホコロビと共に、息の合った連携攻撃でアリスを追い詰めていく。
「うう、何でですか、どうしてこんなことにぃ……！」
　泣き言を言いながら、モザイクを使って自身の身体を治療するアリス。
「恨むなら、王子様を恨むんだね……！」
　言いつつ、ロストークがルーンアックスと『ледников』の二刀流で斬りつける。プラーミァも負けじとブレスでロストークに追従する。
「本当は噂の王子様にぶち込みたかったのだけど」
　キアリが言った。アリスへ思いっきり接近すると、
「さよなら、パチモンくノ一！」
　勢いを付け、スピードを乗せ――思いっきり股間を蹴り上げた。衝撃に体を浮かせるアリス。キアリが後方へ飛びずさると、アリスの身体は地に倒れ伏した。
　その一撃がトドメとなった。
「そんな……こんな事って……」
　徐々に、アリスの体が消滅していく。
「王子様……アリスの皆……ごめん……なさ……」
　完全に、その身体が消滅する。
　それと同時に、世界が一瞬、ぶれるような感覚がケルベロス達を襲う。
　次の瞬間には、そこは、上野のとあるビル、そのからっぽの貸しテナントとしての姿を取り戻していたのだった。
「どうやら、終わったようですね。もう少し楽しみたかったですが……仕方ありません」
　エフェメラが言った。強敵との戦い、彼女としてはまだ戦い足りない、といった所だろうか？
「メイド忍者……悪くはなかった……敵じゃなければ……」
　と、若干遠い目をして言う清登である。
「そういえば、『ママのココア』や『ママのアップルパイ』って、あったのかしら……確認する暇がなかったわ……」
　キアリが呟く。
「あ、確かにちょっと気になるよね。どんなやつななのかなぁ」
　キャスパーが、言った。
「まぁ……ドリームイーターの攻撃もこれで終わりじゃないわ。いつか、本命と会う事もある。楽しみは、その時に取っておきましょ」
　クロノの言葉に、ケルベロス達は頷いた。

　こうして、ハロウィンの日に起きた一つの事件は、ケルベロス達の活躍により、無事解決したのであった。

作者：洗井落雲	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2017年10月31日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
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