怒りと悲しみのストライプ仮面

作者:雷紋寺音弥

●誕生、ストライプ仮面!
 時刻は深夜。その日のアルバイトを終えて帰宅した皆守・始(みなかみ・はじめ)は、徐にベッドの下に隠していた本を引っ張り出し、そっと布団の上に並べ始めた。
「ふぅ……今日も疲れたな。こういうときは、やっぱりお気に入りの同人誌を読んで癒されるに限るよ」
 ちなみに、本をベッドの下に隠しているのは、中学時代からの習性である。独り暮らしの彼にとって、大した意味もない行動なのだが、それはそれ。
「よし! 今日の相棒は、お前に決めた!」
 そう言って同人誌に手を伸ばした瞬間、始は背後に何かの気配を感じ、思わず本を後ろに隠しながら振り返った。
「な、なんだ、お前達は! 俺の家に、勝手に入っていったい何を……!?」
 いつの間に侵入していたのだろう。始の前に立っていたのは、巨大な鍵を持った二人の魔女。彼女達は混乱する始を軽く払い除けると、布団の上に置いてあった本に手を伸ばし、底意地の悪そうな笑みを浮かべて破り捨て始めた。
「あぁっ!? お前達、なにやってるんだ! それは、俺が今までの人生で集めた、選りすぐりのパンチラ本なんだぞぉぉぉっ!!」
 他人に聞かれたらドン引きされそうな台詞を叫びながら、始はせめて最後の一冊だけでも守ろうと手を伸ばす。しかし、そんな彼の抵抗も虚しく、お気に入りの同人誌は全て修復不能なまでに破り捨てられ、代わりに胸元を鍵で貫かれ。
「私達のモザイクは晴れなかったねえ。けれどあなたの怒りと……」
「オマエの悲しみ、悪くナカッタ!」
 第八の魔女・ディオメデス。そして、第九の魔女・ヒッポリュテ。二人の笑い声が部屋の中に響き渡る中、いつしか青年の傍らには、その身を全身タイツのようなモザイクで多い、頭に縞模様のパンティを被っている、二体の怪人が姿を現していた。

●魔女達の仕業だ!
「えぇと……パッチワークの魔女が、また悪いことをしているみたいですね」
 その日、ケルベロス達の前に現れた笹島・ねむ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0003)は、なんとも微妙な表情のまま、自分の垣間見た予知について語り始めた。
 今回の事件で動いたのは、第八の魔女・ディオメデスと第九の魔女・ヒッポリュテ。それぞれ、『怒り』と『悲しみ』の心を奪うドリームイーターで、大切な物を持っている人を襲い、その大切な物を破壊することで生じた『怒り』と『悲しみ』から、新たなドリームイーターを生み出すようだ。
「えっと……今回の事件で襲われちゃう人なんですけど……。あの……お、女の子の……その……パ、パンツが見えちゃうシーンがたくさん出てくる、薄い漫画の本を持っているお兄さんで……」
 そこまで言ったところで、ねむの歯切れが徐々に悪くなってきた。
 まあ、そりゃそうであろう。パンチラ満載の同人誌など、ねむにとっては色々な意味で刺激が強過ぎる。
 ちなみに、生み出されたドリームイーターは連携行動を得意とし、『怒り』のドリームイーターが前衛を、『悲しみ』のドリームイーターが後衛を務めている。一般人を見つけると、悲しみのドリームイーターが『物品を壊された悲しみ』を語り、その悲しみを理解できなければ、『怒り』でもって殺害するのだとか。
「て、敵のドリームイーターは……そ、その……全身タイツみたいなモザイクで身体を包んだ人間の姿をしていて……うぅ……し、縞々模様のパンツを頭から被った格好をしています!」
 途中、言葉に詰まりながらも、ねむは顔を真っ赤にさせてケルベロス達に言った。
 なんというか、色々な意味で酷過ぎる姿である。恐らく、被害者の青年が持っていた同人誌の内容の影響を受けているのかもしれないが……それにしても、もう少しなんとかならなかったのかと言いたくなる。
 ちなみに、この2体は自らをストライプ仮面と名乗っており、『怒り』を元に生まれた方がキャスターの、『悲しみ』を元に生まれた方がスナイパーのポジションに着いている。
「戦いになると……『怒り』の方はモザイクのパンティを固めて剣を、『悲しみ』の方は銃を作って攻撃して来ます。他にもパンツ……じゃなくて! ……パンチとか、変な質問をしながら身体を伸ばして飲み込む攻撃とか使ってくるので、気を付けてください!」
 前衛を担当する『怒り』は自身の身体もある程度自由に変形でき、回復行動もお手の物。後衛を担当する『悲しみ』は、見掛けによらず打撃も強いので要注意。
「ねむには、お兄さんの持っている漫画の、何が面白いのか解りません。でも……どんな本でも、汚したり破いたりするのは、よくないと思います」
 たとえ、それがちょっとエッチな感じの漫画であったとしても、やってはいけないこともある。
 色々と困った容姿の敵だが、なんとか退治して欲しい。そう言って、ねむは改めてケルベロス達に依頼した。


参加者
陶・流石(撃鉄歯・e00001)
水無月・鬼人(重力の鬼・e00414)
イピナ・ウィンテール(眩き剣よ希望を照らせ・e03513)
機理原・真理(フォートレスガール・e08508)
リィナ・アイリス(もふもふになりたいもふもふ・e28939)
デリック・ヤング(渇望の拳・e30302)
モヱ・スラッシュシップ(機腐人・e36624)
シーラ・クロウリー(氷槍・e40574)

■リプレイ

●参上、パンツヒーロー!?
 夜の帳が落ちた街の中。ドリームイーター出現の報を受け、ケルベロス達は被害者の青年が住んでいるアパートに面した、裏通りへと直行した。
「……パンチラ本……宝物、みたいに、ダイジに、してたのかなぁ……」
 どこか寂しげな表情になりながら、リィナ・アイリス(もふもふになりたいもふもふ・e28939)が言葉を切った。
 サキュバスの彼女からすれば、パンチラだろうとパンモロだろうと、それで快楽エネルギーを得られるなら重要なものだ。
「今時分、パンチラで満足するとはマニアックな上級者デスネ……」
 同じく、薄い本コレクターを自称するモヱ・スラッシュシップ(機腐人・e36624)にとっても、今回の敵の所業は許し難いもの。できることなら、被害者の皆守・始を励ました上で、一緒に飲み交わしたいとさえ思っていた。
「そういうのに、全く興味がねぇよりはいいんじゃねぇか。あんましオープン過ぎんのも、どうかと思うけど」
「まぁ、なんだ……男の業って奴だな、うん」
 思ったよりも周囲の反応が好意的だったことで、陶・流石(撃鉄歯・e00001)と水無月・鬼人(重力の鬼・e00414)の二人は、何とも言えぬ微妙な顔に。
 少女のパンツが見える同人誌。あまり、人前で堂々と読める代物ではない。しかし、それにも関わらず許容する者がいるというのは、意外と需要があるジャンルなのだろうか?
 兎にも角にも、今はドリームイーターを退治することが先決だ。バケツの転がっている角を曲がり、通りの奥へと目を凝らすと……果たして、そんな彼らの前にブロック塀の上から舞い降りたのは、全身をモザイクに包んだ二つの影だった。
「俺は怒りの戦士! ストライプ仮面1号!!」
「俺は悲しみの戦士! ストライプ仮面2号!!」
 頭に縞パンを被った姿の、誰がどう見ても変態な怪人が二人。否、この場合はヒーローと言った方がいいのかもしれないが、如何せん見た目が酷過ぎる。
「ああ……本当に被っていますね、パンツ……。あれさえなければ、割とヒロイックなデザインのようにも見えるのですが……」
 案の定、イピナ・ウィンテール(眩き剣よ希望を照らせ・e03513)が、早くもドン引きして言葉を失っていた。だが、当のドリームイーター達は、そんなことはお構いなしに、拳を握り締めながら熱弁している。
「秘蔵のパンチラ本を破られた悲しみ、お前達には理解できるか?」
「理解できないというのであれば……俺はお前達を、許すわけにはいかない!!」
 いや、なんでその流れで、こっちが悪者になるんだよ。どう考えても、悪いのは同人誌を破った者のはず。あまりに酷い曲解と八つ当たりに、なんとも頭が痛くなってきた。
「まったく、大の男がパンツだパンチラだと軟弱極まりない……。日本男児ならふんどしだろうが、このド変態どもがッ!」
 とうとう我慢できなくなったのか、『漢』と書かれた白ふんどし一丁の姿で、デリック・ヤング(渇望の拳・e30302)が奇妙なポーズを決めて颯爽と現れた。だが、それを見た二体のドリームイーター達は、負けじとばかりにモザイクで作られたパンツを取り出すと、それらを固めて武器にし始めた。
「な、なんですか、あれ!? ……パンツが武器、なのでしょうか?」
 想像の斜め上を超えた武器の取り出し方に、シーラ・クロウリー(氷槍・e40574)の目が思わず点になっていた。
 古今東西、パンツを防具として使うという話は、一万歩くらい譲れば聞けるかもしれない。しかし、パンツ材料に武器を作るとか、もう色々な意味でのっけから無茶苦茶だ。
「確かに、珍妙な技ではありますね。ですが、油断は禁物ですよ」
 それでも、相手は正真正銘のデウスエクスだと、機理原・真理(フォートレスガール・e08508)は気を抜くことなく身構える。そんな彼女の予想は正しく、全ての準備を終えたドリームイーター達は、それぞれ剣と銃になったパンティを構え。
「行くぞ! パンティックシューター!!」
「食らえ! パンティクルカァァァット!!」
 銃口から放たれる光弾や、凄まじい切れ味を誇る刃を武器に、ケルベロス達へと襲い掛かって来た。

●禁断の問い掛け
 頭にパンツを被り、全身モザイクの格好をしたドリームイーター。その姿だけ見れば、どう考えても単なる変質者にしか見えない存在。
 だが、それでも彼らとて腐ってもデウスエクス。やはりというか、パンティを固めて作った銃の威力は一撃でブロック塀に穴を開け、剣の切れ味は電柱を容赦なく両断するレベル。
「……見た目に反して、なかなか面倒な相手ですね」
 ライドキャリバーのプライド・ワンにガトリング砲で敵を牽制させながら、真理もまたアームドフォートの一斉射撃で敵の動きを抑えようと奮戦していた。
「ハーッハッハァッ! そう簡単に、やられはせぬ!!」
 だが、そんな猛攻にさらされながらも、ストライプ仮面1号を名乗るドリームイーターは、俊敏な動きで立ち回る。時に身体を軟体術の如く変形させて攻撃を避ける様は、見ているだけで気持ちが悪い。
「この野郎……キモい動きでちょこまか動くんじゃね……おわっ!?」
 敵の身体が元の形に戻った瞬間を狙い、流石がリボルバーを乱射する。だが、それと同時に敵の2号が放ったピンク色の光線が被弾して、彼女の視界が途端にぼやけ始めた。
「くっ……な、なんだこりゃ? どいつも、こいつも、全員パンツ被ってやがるぞ!?」
 どうやら、敵の攻撃の効果で、流石にはこの場にいる全員がストライプ仮面に見えているようだ。
「しっかりしてください、流石さん! ……ちょっと痛いですけど、我慢してくださいね」
 すかさず、シーラが手にした杖で、斜め45°の角度から流石の頭をぶん殴る。強制的なショック療法により、なんとか正気に戻せたのは幸いだ。
「イテテ……。この、パンツ野郎……絶対にぶっとばす!!」
 頭をさすりながら、改めて流石はパンツの権化どもをぶちのめすことを決意した。そうしている間にも、目の前では二体のストライプ仮面を相手に他の面々が奮戦していた。
「このなんだ、名状し難きマスクマンをさっさと倒さなきゃなぁ……。つーかよ、お前らもこう、もう少し真面に生まれたかったって後悔、ない?」
「何を言う! このストライプパンティの素晴らしさが解らない、貴様こそ万死に値するのだ!」
 パンティの剣と斬霊刀を切り結びながら尋ねる鬼人だったが、相変わらず1号はブチ切れたままだ。まあ、こんなんでも一応、怒りを象徴するドリームイーターなので、仕方ないといえばそうなのだが。
「いい加減にしやがれ! さっきから、口を開けばパンツ、パンツと……。本当に至高なのは、褌であると教えてくれるわ!」
 パンティなど、所詮は女の下着。男だったら褌一筋こそが正当派。そんな想いを込めて、デリックは敵の脇腹に鋭い蹴りをお見舞いした。
「ぐはっ! ……だ、だが、この程度では、まだ負けん! そういう貴様達こそ……ぱんつくったこと、あるのか?」
 攻撃された部位をぐねぐねと変形させつつも、唐突に謎の問い掛けをするストライプ仮1号。殆どの者が唖然とする中、何故かイピナだけは思わず目を輝かせ。
「ええ、それなりに! 色々試しながら焼いていますよ!」
 いや、それ違う! たぶん、敵の聞きたいのは、パンを作ったかどうかではなく。
「価値の有るマテリアルと判定し、鹵獲したことがアリマス」
 突っ込みが入るよりも早く、今度はモヱが、何故か過去のエピソードを真剣な顔をして語っていたが……パンティに価値を感じて鹵獲した過去など、それはそれで問題大ありのような気が。
「なんと! 貴様……神聖なパンティを焼くなどと、そんな暴挙を働いていたのだな! ゆ”……る”……さ”……ん”……!!」
 もっとも、そんな彼女達の答えを聞いた1号は、何故か勝手にブチ切れ始めると、身体を大きく変形させてイピナの方へと迫って来た。
「えぇっ! ちょ、ちょっと、なんで私の方に……って、きゃぁぁぁっ!!」
 哀れ、半分ゲル化したような1号の身体に、イピナは正面から飲み込まれてしまった。自慢の攻撃を決めた1号は、股間を無駄に強調するようなポーズでドヤ顔を決めているが、しかしこれは酷い。知らない者が見たら、どう考えても可憐な女性を変態が襲っているようにしか見えない光景である。
「……みんなに、攻撃するの、ダメ……だからね……?」
「ついでに、これも持って行くといいデス」
 見兼ねたリィナが掌底で螺旋の力を叩き込み、ドサクサに紛れてモヱがウイルス入りのカプセルを敵の身体の中に放り込んだ。おまけに、ミミックの収納ケースが敵の尻に噛み付いたことで、ようやくイピナは敵の身体から放り出された。
 もっとも、拘束こそ解かれたものの精神的なダメージは相当のもので、未だに身体に力が入らなかったが。
「ふざけたなりですが、力量は本物。それだけ犠牲者の受けた心の痛みも、大きかったというわけですか……!」
 半ば強引に解釈し、イピナは覚悟を決めて大鎌を振り被る。投擲された刃が激しく円弧を描いて1号へと迫り、頭に被っている縞パンを容赦なくズタズタに破り捨てた。

●粉々パンティ
 路地裏に置かれたポリバケツが吹っ飛び、夜の街に斬撃と爆発の音が響く。
 格好だけなら単なる変態なドリームイーター達であったが、しかしその戦闘力はなかなか高く。
「くっ……! プライド・ワンも、限界ですか……」
 敵の頭をチェーンソー剣で斬り付けながら、歯噛みする真理。長引く戦いの影響で、既に相棒のライドキャリバーは消滅してしまっている。
 俊敏な動きを誇り、おまけに自己回復能力まで持つストライプ仮面1号には、なかなか有効なダメージを与えることができない。この手の相手は機動力を削いで戦うことが定石なのだが、それを行えるのがイピナしかおらず、攻撃の起点になる者が他にいないことが、戦いを長引かせてしまっていた。
「えぇい、面倒臭ぇ! チマチマ削ってなんかいられるか!」
 とうとう、業を煮やした流石が、その辺に向かって銃を乱射し始めた。だが、一見して滅茶苦茶に撃っているように見えたそれは、しかし周囲の電柱や壁により跳ね返り、一斉に1号の背中に向かって飛んで来た。
「なっ……あががががっ!!」
 さすがに、これだけ多数の銃弾を死角から撃ち込まれれば、避けることはできなかった模様。削りによる作戦が通用しないのであれば、奪える時に、一気に体力を奪うのみ!
「やれやれ……煩悩退散とでも、言っておこうか? ……刀の極意。その名、無拍子」
 続けて、鬼人が極限にまで研ぎ澄ませた刀術の極意により、1号の頭を滅多斬り!
 哀れ、顔面を覆う縞パンを失った1号は、もはや何だか良くわからないモザイクタイツマンでしかなく。
「うふふ……最後に、悪夢、見せて、あげる……♪」
「なっ……うぁぁぁっ! 止めろ! 俺のパンティを破かないでくれぇぇぇっ!!」
 止めはリィナの撃ち出した漆黒の弾丸を食らい、消えぬ悪夢に捕らわれたまま消滅して行った。
「お、おのれぇっ! 貴様達、よくも1号を! ゆ……ゆ”る”さ”ぁぁぁぁんっ!!」
 相方を倒され、残る2号が泣きながら叫んでいたが、ここまでくれば、もう一押し。攻撃を遮る壁を失い、自己回復もできない2号など、ケルベロス達による集中攻撃の敵ではなく。
「まずは、あなたの動きを止めさせてもらいマス」
 神速の如き突きの一撃でモヱが敵の胸板を貫き、収納ケースもエクトプラズムで作った武器で襲い掛かる。それだけでなく、今度はシーラが冥府深層の冷気で生成された槍を呼び出し、イピナもまた時空さえも凍らせる弾丸をハンマーの柄から撃ち出した。
「冥府の風よ、氷の槍となりて仇なす者を穿て」
「ついでに、これも持って行きなさい!」
 迫る氷槍、砕け散る氷柱。絶対零度の凄まじい凍気は、2号の顔面を覆う縞パン諸共に凍らせて。
「いいぞ、激しい戦いで褌魂(フンドシック・ソウル)が昂ぶってきたぜ!」
「ふざけるなぁぁぁっ! 1号の仇だぁぁぁっ!!」
 ポージングを決めるデリックに襲い掛かる2号だったが、対するデリックもまた不敵な笑みを浮かべて身構える。
「それじゃあ貰うぞ、てめぇの魂をな!」
 敵の拳に合わせ、カウンターのように繰り出される降魔真拳。2号のパンチがデリックの頬に直撃したが、それと同時にデリックの拳もまた、敵の顔面を正面から捉え。
「ぐぁぁぁっ!!」
 凍ったパンティを木っ端微塵に砕かれて、悲しみの戦士もまた夜の闇に溶けて消えた。

●薄い本は魔法の本
 戦いを終え、路地裏のヒールを一通り終えたケルベロス達は、改めて被害者である青年、皆守・始の下を訪れていた。
「酷い目に遭われましたね……」
「まあ、修理費が必要ってことなら、ケルベロスカードの1枚でも渡すけどさ」
 イピナや流石が始めを慰めているものの、しかしどうにも言葉を選ぶ激励である。というか、この場合はカードよりもパンチラの方が喜ばれるのではないかと思うと、どうにも悶々としてしまうわけで。
「いや、大切な物なのは解る。解るが……。どう渡したものかな?」
 一応、破られた本にはヒールもかけてみたのだが、それを見た鬼人は何とも言えぬ表情で固まっていた。
 ヒールの効果によって、本の表紙は革に、中身の紙は羊皮紙になっている。おまけに、漫画の絵も壁画や墨絵のような画風に変わってしまい、エロスも何もあったもんじゃない。
 これでは薄い本というより、正真正銘の魔導書にしか見えない。何にしてもダメージが大き過ぎて、元通りに修復することは不可能だった。
「日々薄い本は出版されてイマス……過去に囚われ過ぎないことも大切デス……」
「うぅ……。そんなこと言っても、破られた中にはたくさんの絶版本がぁ……」
 懸命に慰めるモヱの言葉にも、始は涙と鼻水が混ざった顔で俯くだけ。仕方なく、リィナも始を慰めようとしたのだが、その瞬間に事件は起きた。
「……ぇと……そんなに、落ち込まないで……? パンチラ本は、また、買えば、いいし……。今までのも、いい、思い出、でしょ……?」
 そこまで彼女が言ったとき、唐突に隙間風が吹いて、彼女のスカートをまくり上げる。漫画ではなく本物のパンチラを前にした始の瞳が、思わず大きく見開かれ。
「……っ! うっひょぉぉぉぅっ!!」
 年甲斐もなく甲高い叫び声を上げたと思ったら、盛大に鼻血を出してぶっ倒れた。
「あぁっ!? だ、大丈夫ですか!!」
 慌ててシーラが駆け寄るが、既に始の頭の中は、完全にパンツ色に染まった後。
 たかがパンチラでここまで大興奮できる男。そういう意味では、彼は実に幸せな人間と言えるのかもしれない。

作者:雷紋寺音弥 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年10月26日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 3/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 0
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