●ティーパーティー四姉妹
モザイクが辺り一面を液体が揺蕩うように揺れる。
そこは海底とおぼしき不思議な空間の中に設置されたガーデンテラス。
不整合で異常な装飾美術めいた空間の中で、優雅にティーパーティーを楽しむ四姉妹がいた。
華やかな会話、香り立つ茶葉。
誰の目からも仲が良いとわかる四姉妹の元に、不意に煌びやかな男が現れた。
「……美しい星だ。ママのアップルパイにも匹敵する」
演者めいた口調で空を仰ぐ男は、視線を姉妹達へ向け見渡す。
「お、『王子様』……!」
四姉妹は揃って驚きの声を上げた。
驚きの声に王子様と呼ばれた男は一つ頷くとこう告げた。
「ティーパーティーの四姉妹。君達に、お願い事をしておこう」
「ああっ、そんな優しい言葉を掛けちゃダメだよぉ……心が、心が、壊れちゃう……!」
四姉妹の中で一番背の低い赤いエプロンドレスをきた少女――『好奇心のアリス』が胸を押さえつけて喘ぐ。
「戦闘集団と名高き『オネイロス』の精鋭部隊でも、私への恋心に耐える事は叶わぬか。ならば君達には、命令だけを残していこう」
「ああ、光栄です……必ず、この私が、王子様の期待に応えてみせます……!」
王子様の言葉に、眼鏡を掛けた少女――『優越感のアリス』が吐息を漏らしながら答えた。
「くす。楽しみにしているからね」
短い笑いを残すと、王子様は来たときと同じように音も無く姿を消した。
王子が消えると、金髪巻毛の少女――『虚栄心のアリス』が席を立ち意気揚々と姉妹達に声をかけた。
「さあ皆さん、この世でもっとも素敵なお茶会を開きますわよ! あ、ついでに私にピッタリの優美でメルヘンで華麗な会場も造ってくださいね♪」
「あはっ、『王子様』のためにも素敵な生贄を用意しなくちゃね」
銀髪の少女――『自己愛のアリス』は手にした扇子を快活に音を立て閉じると、嗜虐的な笑みを浮かべるのだった。
――その後、池袋の繁華街に現れた『自己愛のアリス』。
爛々と目を輝かせてやる気に満ちている。
「あはっ、あなたに決めた――」
そう言うと、道行く男に話しかけ一枚の招待状を渡す。
「ティーパーティーのお誘いよ。あなたのような『夢』を持つ人が必要なの」
招待状がなければ入れない、特別なティーパーティーへの誘い。
どこか誘いの断れない雰囲気に飲まれ、男は招待状を受け取ってしまう。
「ただし、あなたより優れた人がいたら、その招待状はその人に渡してね」
それだけ言うと、『自己愛のアリス』は忽然と姿を消した。
あとには、男が手にした招待状が残るだけだった――。
●
「ハロウィンの力を求めてドリームイーターの魔女達が動き出したみたいなのです」
集まった番犬達にそう告げるとクーリャ・リリルノア(ヴァルキュリアのヘリオライダー・en0262)は説明を始めた。
なんでも都内では、四姉妹の魔女が選りすぐりの一般人を招待したハロウィンのティーパーティーを行おうとしているらしい。
このティーパーティーで集めた一般人を殺害する事で、純度の高いハロウィンの魔力を手にいれようとしているようだ。
「このティーパーティーは特殊なワイルドスペースで行われるらしく、招待状が無い者は入ることができないようなのです」
付け加えると、暴力的な手段や、事情を話して招待状を手にいれた場合も、招待状が無効となり侵入することが出来なくなる。
「ただ、招待された人が、皆さんを『自分以上にティーパーティーに相応しい参加者』であると納得すれば効力を失うこと無く譲って貰うことができるようなのです」
招待状を受け取った人物の調べはついている。
つまり今回の依頼は、招待状を手にいれてワイルドスペースへ侵入、敵を撃破することになる。
「招待状を入手できなかった場合も、内部での戦闘である程度敵にダメージを与えれば侵入が可能になりますが、戦闘はかなり不利になってしまうので、できるだけ招待状を入手できるように頑張ってほしいのです」
続けてクーリャは招待状を入手する方法を説明する。
「こちらで分かっている招待される人の条件は、某かの『夢』を持っている人なのです」
『夢』というと大雑把だが、その夢に向けての努力や姿勢、関わりあいのある感情が鍵になっているようだ。
「皆さんには招待状を受け取った人が評価された部分に合わせて上手くアピールし、『ティーパーティーに相応しい参加者』であると認めさせてほしいのです」
番犬達は招待状を受け取った八人のデータを資料として受け取る。
男女、年齢も様々だがやるしかないだろう。
クーリャは次に相対する魔女の情報を伝える。
「皆さんに撃破してほしいのは『自己愛のアリス』と呼ばれる魔女なのです」
黒いエプロンドレスに身を包む銀髪の少女然とした魔女。
レイピアによる高速の突きや手にした扇子を投げ武器封じを行ってくるようだ。夢喰いらしくモザイクによる回復もできる。強敵だ。
「『自己愛のアリス』は池袋でティーパーティーを開くようなのです。皆さんにはそちらを担当して頂きますです」
招待状を持って池袋へいけば自ずと会場がわかるだろう。
あとは会場内部のワイルドスペースで魔女を撃破するだけだ。
説明を終えるとクーリャは番犬達に向けて言葉を紡ぐ。
「招待状を手にいれるのは難しいかもしれないですが……皆さんならきっと大丈夫です!」
招待状を得られなかった場合も、一般人がワイルドスペースに入ってこないように、招待状は取り上げるようにしてほしい、と付け加える。
「ハロウィンのティーパーティーに招いた一般人を殺して、ハロウィンの魔力を奪うなんて許せないのです。どうか、皆さんのお力を貸してくださいっ!」
願うように一礼し、クーリャは番犬達を送り出すのだった。
参加者 | |
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草火部・あぽろ(超太陽砲・e01028) |
シィ・ブラントネール(絢爛たるゾハルコテヴ・e03575) |
テレサ・コール(黒白の双輪・e04242) |
メアリベル・マリス(グースハンプス・e05959) |
ノイアール・クロックス(菫青石の枯草色・e15199) |
軋峰・双吉(月の借金の取り立て額が増えた・e21069) |
ロア・イクリプス(エンディミオンの鷹・e22851) |
八久弦・紫々彦(雪中花・e40443) |
●夢語り
「アンタ、御坂さんだよな?」
買い物帰りの男を呼び止め、誰何するあぽろ。
素直に頷く御坂に、草火部・あぽろ(超太陽砲・e01028)は招待状について問いただすと、譲って貰う為に、静かに自らの夢を語り出した。
「俺の夢はうちの祭神さまを『世界で一番の太陽神様にする』ことだ」
祭神の存在を世界中に知らしめて神の格を上げる。
その為にあぽろは巫女として祭神から太陽の力を借りて戦っていた。
「勿論並大抵じゃないぜ、俺が生きてる間でも無理かもしれねぇ……それなら次代の巫女に託す、最後までこの夢は諦められねえ」
――太陽は憧れだ。
暖かく、強く、常にその偉大な光で導く。そんな太陽を司る神様が誇らしいから……そして世界一になった神様に使える巫女でありたいから――。
「つまりなんだ、自分の為でもあり、神様の為でもあるんだ。全然先が見えなくても、頑張る理由としちゃ十分だ。――アンタもそうなんだろ?」
訊ねるあぽろに真剣に聞いていた御坂は頷いた。
少し考え込んだ御坂は懐から招待状を取り出しあぽろへと渡した。
「僕は少し諦めてるところがありました。でもあなたの話を聞いてもっと頑張ろうという気になりましたよ。これはあなたが持って行ってください」
家へと帰る御坂を見送るあぽろは「お互い頑張んないとな」と小さく呟くのだった。
一方その頃、他の場所でも番犬達が招待状を得るために行動していた。
ロア・イクリプス(エンディミオンの鷹・e22851)は誰かの為に教師を目指すという名尾と接触し、夢を語る。
「俺は、英雄――ヒーローを目指してたんだ」
その理由は簡単だった。英雄になれば誰かが悲しむようなことをなくせるのではないか、皆笑って過ごせるようになるのではないか、というだけだ。
正義の味方ではない、本当の英雄――。
今でこそやる気を見せることが少なくなったロアだが、英雄を目指し、自身を鍛え、四六時中駆け回り、怒られるような無茶だってしていたことがあった。
そうまでしても、ロアは誰かを助けたかった。助けた人達に笑っていて欲しかった。
「ただ、それだけ。それだけで……今も諦めきれずに俺は、英雄を目指してる」
何度失敗しても、夢を諦めることはできないんだ。
缶コーヒーを名尾に手渡し、ロアは言う。
「教師、良い夢だと思う。お互いに頑張っていこうぜ、何かあったら相談乗るしな」
こうしてロアの説得は終わる。
ノイアール・クロックス(菫青石の枯草色・e15199)とメアリベル・マリス(グースハンプス・e05959)も招待状を持つ者に接触していた。
強い力に憧れを持つ少女、武岡。
彼女の夢を聞き、番犬であると明かしたノイアールは語る。
「自分も、特殊な力を持つだけで終わるんじゃなくって、その先に行きたい……心も体も強い人になっていきたいっす!」
心の強さ――。
両親の顔が想起され、孤独を感じながら育った事をノイアールは胸中にしまいこむ。
少し寂しげに、だが明るく、ノイアールは言葉を紡ぐ。
「戦うのは人や地球を守るためだけど、強くなるのは自分自身の為っす。自分は、弱さに負けて悲しむよりも明るく笑って生きたいっす。強くなれば、自分も他人も笑っていられるっすからね!」
戦う理由と、強くなるための想い。ヒーローを目指す少女に語り聞かせた。
メアリベルもまた、自身と同じ夢を持つ帆刈と出会う。
どちらも『お嫁さん』を夢として持つ年端もいかぬ少女だが、共にその考えは現実的だ。
「ミス帆刈、アナタは世界一のお嫁さんをめざしてるのよね? 旦那様の年収は何千万ほどを想定してるの?」と、八歳のメアリベルは言う。
メアリベルの旦那には、社交界できちんとエスコートしてくれるマナーと教養は必須だ。
「でもおんぶにだっこはダメ」と、メアリベルは帆刈に言う。
旦那が破産した時に備えて保険と口座の積み立てはしっかり考えている。株の勉強だってしたい。
そう、『お嫁さん』とは旦那と共に歩く者だ。
「メアリの夢はお嫁さん。独りよがりじゃ叶えられない。大好きな人の為に何ができるか常に考えないと」
二人の少女が、未来を見据えて語らう。
残りの四名もまた同様に招待客へと接触し説得にあたっていた。
軋峰・双吉(月の借金の取り立て額が増えた・e21069)は妄想に近い夢を持つ中明と語らう。
「俺たちの夢はよォ~~、自力だけじゃあ叶わねェー。神さんだか運命だかを味方につけなくちゃならねぇ人智の外の『願い』だ。だからこそ! 大切なのはそいつらに『願い』を聞いても良いって思わせるだけの『徳』を積む努力だァ!」
見た目を気にし、いつしか『美少女に生まれ変わってチヤホヤされること』を夢とした双吉は、だからこそ『徳』が大事なのだと言う。
「俺は日頃からごみ拾いをしたり、ケルベロスとして人助けしたり、本気で『徳』を積んでいるぜ! お前はどうだ、中明!」
出会った時は殺されるのではないかと恐怖に震えていた中明だったが、話を聞き、近いものを感じ取ったのか最後は真剣に話を聞いていた。
八久弦・紫々彦(雪中花・e40443)はアイドルを目指す少女、白根澤と対峙する。
一番でありたいと願う白根澤に、紫々彦はジャズプレイヤーとして本場のステージにベーシストで立つことが夢だと伝える。
「地元で一番上手かったんだ」
一番であったことをさりげなくアピールしながら、師匠に認められるために、トッププレイヤーになる為に練習を続けていたことを明かし語る。
「この指、すごいだろ?」
そこには、弛まぬ努力の結果硬くなった指の皮がある。
舞台は違えど目指すべき場所は同じ頂点。努力の証を見せられ白根澤は堅く口を結んだ。
獣医を目指す阿比留の前にふらりと現れる、フレンチメイドの眼鏡の幼女――テレサ・コール(黒白の双輪・e04242)。
自分の夢がいつか素敵なご主人様に仕えることだと話し始める。
時に曇り無きレンズで主人を正しい道へ導き、時に後ろから支えるのが眼鏡メイドの姿なのだと力説する。
アンニュイな無表情でありながら、まるで恋に憧れる少女のように真面目に、熱意を持って語るテレサ。
「ご主人様の為にあれ。それこそが、メイドの本分です」
阿比留のように『全てへの博愛』も良いことだろう。だがテレサは対極にある『一に尽くす純愛』を、拙い言葉を紡ぎ語らった。
阿比留は、年下の少女の言葉をバカにすることなく、最後まで聞いていた。
宇宙飛行士を目指す男、宇宙田の説得にあたるのはシィ・ブラントネール(絢爛たるゾハルコテヴ・e03575)だ。
限りなく未知である宇宙へ情熱を持つ宇宙田に対して、シィは『聖王女捜索』が夢だと語る。
「聖王女の行方に関しては、現在情報が一切ないの」
不確かな存在を追い求めるシィは、宇宙田と自分、どちらも方向性は違えど果てしない物を追い求めているという共通点があると考えていた。
「けれど、諦めるわけにはいかないの!」
決して諦めない熱い想いを、宇宙田に対し敬意をもって語り続けた。
そうして、八人は自身の夢を再確認し、お茶会が開かれる池袋のビルの一室前に集まった――。
●侵入
招待状を見せ合う八人。だが、紫々彦とシィがその招待状を下げる。
「残念だが……」
「説得は失敗だったの」
白根澤と宇宙田は自分から招待状を渡すことはなかった。
「まぁしょうがないさ。前情報からでもあの二人はきつそうだったからな」
「そうっすね。気に病むことはないっすよ」
「すまないな」
「ごめんなさい」
――二人の夢が悪かったわけではない。二人の夢は白根澤と宇宙田と変わらぬほどに強い想いだった。
ただ同じように白根澤と宇宙田の夢は大きく強固だった。
同等であれば、招待状は譲れぬという、ただそれだけのことだったのだ。
「よし、気合いいれていくか」
「かなり不利になるかもしれません。気をつけて行きましょう」
待機となる二人は、侵入できるようになればすぐに行くと仲間達に伝える。
招待状を持つ六人は、ビルの一室――ワイルドスペースへと侵入していった。
モザイクに包まれた空間を進むと、そこに黒いドレスに身を包む少女――自己愛のアリスが待っていた。
番犬達に気づいたアリスが驚きの声をあげる。
「貴方たち、ケルベロス!? 一体どうやって此処に!」
「当然、招待状を入手したんだよォ」
双吉が招待状を掲げる。
「……あはっ。となれば貴方達でも構わないわね!」
扇子で口元を隠し思案していたアリスが嗜虐的に笑みを浮かべると番犬達に殺気を放つ。
緊張の走る中、テレサが瞬時にお茶を用意し、テーブルへと置く。
「まあまあ、お茶会なのですから、まずは紅茶をどうぞ」
「ふーん、何の真似かしら。でもお茶会は中止よ。それに番犬の作ったお茶なんて完璧な私に相応しくないわ」
「なんと非礼な」
テレサはアリスの非礼な態度に憤慨しつつも、優雅に、だが素早く紅茶を飲み干す。
「お粗末様でした、ではいざ」
「あはっ、死ぬ準備はできたかしら。では、貴方達の夢、私に捧げなさい!」
爆発的に膨れあがる殺気と緊張。
瞬間的に沸いた汗を拭うと、番犬達は武器を構えた。
●夢喰らう者
戦いは自己愛のアリスが優勢を保ったまま進んだ。
「あはっ、どうしたの? ケルベロスっていうのはこんなものなのかしら!」
手にしたレイピアで痛みが広がるように幾重にも突き刺してくるアリス。その動きは俊敏極まりなく、番犬達の攻撃は有効打とならない。
「ちっ、動きが速すぎる……! ノイアール、テレサ頼んだ!」
「任されたっす!」
「かしこまりました」
対する番犬達は命中率の高い後衛の攻撃を主軸に立ち回る。
一打一打を確実に当てチャンスを生み出し、そこを前衛のあぽろが狙いにいく。
「そこの後ろ、邪魔ね……!」
当然アリスも後衛の二人を狙い、手にした扇を投げ行動を阻害する。
そんな中、アリスの攻撃を一心に受けるのはメアリベルだ。使い魔のテレーゼ、ミミ蔵と共に幼い身体ながら仲間達を庇い続ける。
「あはっ、良いこと思いついちゃった!」
突如アリスが狙いを変え、メアリベルを集中的に攻撃する。
「ぅ……!」
一気に殺しはしない、徐々に痛めつけ苦しませるその攻撃に、メアリベルから苦悶の声があがる。
ふと、攻撃の手がやんだ。
「大丈夫かァ! 今回復するぞォ」
双吉がすぐさまメアリベルの手当を行う。その様を見てアリスが嗜虐的に笑った。
「あはっ、いいわその調子よ。何度だって痛めつけてあげるから、良い声で泣きなさい!」
「遊んでやがるのか……!」
ロアが飛びかかりアリスの傷口を広げるように斬り裂く。だが、意に介さずアリスはサーヴァント達を蹴散らしながら、次の狙いをあぽろに定め襲いかかった。
「全員、こうして立てなくなるまで痛めつけてあげる! そうして全員が立てなくなったら、ゆっくり殺してあげるわ! あはっ、完璧な私に相応しい戦い方!」
心底愉快そうに興奮した様子で喋るアリス。
屈辱的なそのサディスティックな戦い方の前に、だがしかし番犬達に為す術がない。
双吉が賢明にヒールを行い立て直すが、アリスも同様に自身の回復を怠らない。
ジワジワと、絞め殺されるような気分の中、次第に番犬達の疲弊が顕著になってきた。
いまや満身創痍の中、アリスのペースに巻き込まれ心が折れかける。
このまま、自分の、人々の夢を喰いものとされてしまうのか――。
――否、それは絶対にあってはならない。
招待状を受け取った人々の顔が浮かぶ。彼らの、そして自分達の夢を喰いものになどしてはいけない――!
「さあ、まずは一人目! ゆっくり倒れなさい――ッ!」
テレサを庇おうと、その傷だらけの身体を投げ出したメアリベルに凶刃が襲いかかる。
その直前。
「やらせるか――!」
裂帛の気合いと共に、アリスのレイピアを飛び込んできた紫々彦の戦斧が弾く。
「――ッ! 誰!?」
「皆をこれ以上傷つけさせはしない! 覚悟なさい!」
硝子の魚をレイピアへと変身させ、真っ向からアリスに挑み間合いをとらせるのはシィだ。
「二人とも良いタイミングだ!」
仲間を危機から救ったのは、侵入可能となり駆けつけた紫々彦とシィだ。
傷ついた仲間達に目をやり、手を貸し助ける。
立ち上がる六人の番犬達。八人が揃った番犬達の瞳はまだ死んではいない。
●夢守る者
「よくも、私の完璧な戦いの邪魔をしてくれたわね……!」
完璧な計画を崩され、怒りに身を震わせるアリス。
「ワタシたち二人で支えますよ!」
「ああ、わかってる!」
シィと紫々彦が、率先してアリスへと攻撃を加える。
「輝かしい夢を喰物にするアナタみたいなのには絶対負けない! 淑女としての格の違い、魅せてあげる!」
踊るようにレイピアと蹴りで立ち回るシィが超高速の突きを繰り出す。
「グッ――!」
「がら空きだぜ!」
紫々彦もまた戦斧を振りながら、その長い足で電光石火の蹴りを見舞う。
蹴り飛ばされたアリスが体勢を崩し、致命的な隙を晒したように見えた。
「もらった!」
すかさずあぽろが飛び出し構える。
「あはっ」
だが、その瞬間、アリスが嗜虐的な笑みを浮かべた。
(「誘われた!」)
致命的な隙を晒したのはどちらか――。
瞬間的に飛び込んでくるアリスの一撃をあぽろは防ぎようがなかった。
覚悟を決めたあぽろだが、その時は、訪れない――!
「やらせないっすよ!」
「させません!」
「俺たちの大切な夢を利用し、喰い散らかそうとしたこと! 後悔してたって許されねぇぜッ!」
「させねぇよ!」
ノイアールが、テレサが、双吉が、ロアが、満身創痍の体を動かしアリスの一撃を妨害する。
「邪魔をするなァ!」
アリスの身体を縛るように攻性植物の蔓が伸びる。
「ほらとってもお似合い! お茶会に血の華を添えるわ!」
一番重傷に近いメアリベルが最後の力を振り絞り、アリスへと反撃する。
その瞬間、あぽろはニヤリと笑った。
仲間が生み出してくれた、このチャンスを逃すわけにはいかない――!
「陰気なトコで下らねえ茶会に陰気な戦い方、ウンザリだぜ! 陽の光が足りてねーな!」
右手に生み出される爆発的な力――祭神より借り受けた太陽の力が収束する。
「喰らって消し飛べ、『超太陽砲』!!」
放たれる陽の深奥が、黒を纏うアリスを飲み込んでいく。
「そ、そんな、完璧なワタシが、お、『王子様』――!」
極大の焼却光線が、モザイクもろともすべてを吹き飛ばした。
「終わったのか――」
誰かが呟くと同時、重傷一歩手前、満身創痍の全員がその場にへたりこんだ。
夢散していくワイルドスペースを眺めながら、徐々に実感として現れる勝利を番犬達は噛みしめる。
夢喰らうものは消滅し、人々の、そして自分の夢は守られたのだ。
いつか叶える夢を思い浮かべ、番犬達に笑顔の花が咲いた――。
作者:澤見夜行 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年10月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
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