三色魔女のハロウィン~あまいお菓子と魔女のワナ

作者:ふじもりみきや


 とある学園の中庭は、夜だというのにきらきらと灯りが輝いていた。
 美しい花の咲き乱れる庭。中央には噴水が置かれている。元々は女子高だった名残からか、普段は無駄に格調高いその庭であったが、今日は温かみのあるオレンジ色と、時々紫な装飾で賑わっていた。
「先輩! 先輩、お待たせしました!」
「うん、大丈夫だ。行こう」
 小さな魔女の仮装をした少女が駆けている。今まさに始まったガーデンパーティーは、参加条件が『仮装をしていること』である。噴水の前、呼ばれて振り返った少年も、狼男の仮装をしていた。
「何から回りましょう?」
「んー。やっぱり食べ物からかな」
「そういえば、マヤのクラスがかぼちゃのお菓子を出しているって……」
 年に一度のハロウィンパーティーは、いわばこの学校の学園祭のようなものである。
 学生たちの一年で一度の楽しみであったし、同時に周辺に住む大人たちも参加できる、温かいイベントだった。
 屋台を出す学生もいれば、パーティーで出る本格的なカボチャ料理を楽しむ人もいる。カボチャをくりぬいてランタンを作るイベントもあれば、芝生に寝転がって星を見る生徒たちもいた。
 ただし全員、仮装をしていること、が条件である。
 吹奏楽部の演奏が遠くから聞こえてきている。その参加者もまた全員仮装だったし、遊びに来た父兄も、先生たちも同じなのだ。
 そんな賑やかな、温かいパーティーを……。

「ハロウィンは、アタイ達の時間さ! どいつもこいつもはハロウィンの準備で大賑わい、お前たちはあの町にいって、存分に暴れるんだ」
 壊そうと指し示すものがいた。
 赤の見習い魔女・フォティアの言葉に、パンプキョンシーたちは頷く。
 それに気をよくしたのか、フォティアもふふんと腕を組んで得意げに言った。
「お前達が暴れれば、ハロウィンの魔力を持つ魔女がきっと現れる。その力を奪えば、アタイは超越の魔女になれるんだ。だからさ、おいきよ! 青や緑なんかに負けないよ! 超越の魔女になって、いつかは『ジグラットゼクス』にだって、なってみせるんだから!」
 決意を胸に、ぐっと拳を握りしめるフォティア。
 それに呼応するかのように、パンプキョンシーたちは一斉に動き出した。


「わたしもかぼちゃは好きだな。芋、栗、南瓜。どれもいい。……言いたいことは、分かるな?」
 浅櫻・月子(朧月夜のヘリオライダー・en0036)がかすかに笑いを忍ばせて言ったので、萩原・雪継(まなつのゆき・en0037)はかすかに首を傾げて微笑んだ。
「お土産ですね?」
「その通り」
 頼んだぞ。なんて笑って。それでだ、と月子は一息つく。そしていつものように話し始めた。
「ハロウィンの力を求めて、ドリームイーターの魔女とやらが動き出した。今回、諸君らに頼みたいのは、赤青緑。その三人の魔女が起こしている事件となる。どうやら彼女たちはこの時のために、パンプキョンシーという屍隷兵を量産していたらしい」
 かわいい名前の割に計画的だな。なんて感想を月子がさしはさむ。なんだかおいしそうな名前ですね。なんて雪継も頷いた。
「まあ、それはともかく、彼女たちの目的はハロウィンの力を持つ魔女とやらを探し出して、その力を奪うことらしい。ハロウィンで盛り上がる人々を屍隷兵に襲撃させることにより、その魔女とやらが現れると思っているらしいな」
「……その、はろうぇんの魔女という方は、どのような方なのですか?」
「いや、それがさっぱりわからん。わからんがわからんなりに、ハロウィンを楽しんでいる人々を屍隷兵が襲うのは避けねばならないということだ」
 なんだろうな? なんて月子が首を傾げると、雪継の首を傾げた。
「まあともかく、そこに行って、そのはろうぇんきょんしーとやらを倒せばいいのですね」
「まあ、だいたいあってる。名前はパンプキョンシーだがな。一応、彼らの目的は『魔女を探し出す』ことらしい。故に自分たちがハロウィンの魔女のように見せかければ、一般人を放置してケルベロスを攻撃してくると思われる。……これを利用すれば、一般人に被害を出さずに屍隷兵を撃破することが容易になるだろう。……また」
 不意に、月子は口を閉ざす。少しだけ、真剣な顔で小さくうなずいた。
「戦いの様子を見た三色の魔女が、諸君らをハロウィンの魔力を持つ魔女であると判断すれば、戦場に現れてその力を奪おうとする可能性がある。もし現れた場合は、それも撃破してほしい」
 現れるかどうかは今のところ不明だが、と、月子はそう付け足した。
「パンプキョンシーの戦闘能力じたいは、屍隷兵だからそれほど強くはない。今回現れる個体は3体。気を抜かずに対処すれば難しくはない相手だ」
 そして、と月子は地図を投げてよこす。学園の見取り図のようだった。
「奴らはこのハロウィンパーティー会場の、中庭中央に現れる。パーティーの最中だから、人はそれなりにいるから、気を付けてほしい」」
 残念ながら、三色の魔女のほうは詳細が不明だと、月子は言う。それから少し考えて、
「人が愉しむための場所で暴れるなんて、相も変わらず無粋な奴らだ。ドリームイーターにとって、ハロウィンの魔力が一体何なのかは知らないが……」
 そこで、言葉を切る。
「気を付けて行っておいで。後、お土産よろしくね」
 最後のは冗談めかしていて、雪継は苦笑しながら、
「考慮しておきます。微力ながら、僕もお手伝いさせてください」
 なんて言うのであった。


参加者
西条・霧華(幻想のリナリア・e00311)
深月・雨音(夜行性小熊猫・e00887)
和泉・紫睡(紫水晶の棘・e01413)
アップル・ウィナー(キューティーバニー・e04569)
カルナ・ロッシュ(彷徨える霧雨・e05112)
虹・藍(蒼穹の刃・e14133)
巽・清士朗(町長はハロウィンの魔女・e22683)
ウエン・ローレンス(日向に咲く・e32716)

■リプレイ


 夜の学園はそれだけで何処か不思議で華やかな空気を醸し出していた。
「さあさ今こそ。今こそ決断の時……ですよ!」
「紫睡さん。なんだか顔が怖いですよ……?」
「あったりまえです! こわーい魔女の顔をしてるんですから!」
 なぜか胸を張って和泉・紫睡(紫水晶の棘・e01413)が主張して、萩原・雪継(まなつのゆき・en0037) は所在なさそうに両の手を祈るような形で組む。
「ではせめて、色が黒いほうを……」
 何か不穏な感じがするが単に仮装の話である。現に紫睡も今日は黒衣の魔女だ。ハロウィンらしい飾りに紫蕪のランプで結構本格的である。帽子を受け取る雪継に紫睡は上機嫌で南瓜のバスケットを揺らした。
「ふふ、了解です。ささ、皆さんも折角ですから。お菓子か南瓜パイをどうぞ」
「ありがとう。おひとついただくよ」
 虹・藍(蒼穹の刃・e14133)が勧められたパイを受け取る。冗談めかしてお決まりの台詞を述べる紫睡に、藍は少し微笑んだ。彼女の衣装はいつものケルベロスコートである。が……、
「しかしながらこの魔女の目はごまかせません」
「ふふ、わかっちゃったかな? ……今はまだ、秘密だよ」
 びしぃ、と指摘する紫睡に藍はそっと人差し指を唇に。揺れるオレンジのリボンと南瓜のランプだけがハロウィンの色を残していた。コートの下は紫が差し色のチャイナドレスで、ハロウィン風ではあるのだが、一般人の避難誘導のために隠しているのである。
「仮装は、お嫌ですか?」
「あ、西条さ……」
 西条・霧華(幻想のリナリア・e00311)が声をかけ、雪継は振り返って思わず押し黙った。
「意外です。あんまりそう言うのは、しないのかと」
「え……。そう、でしょうか」
 とんがり帽子に魔女風のローブを羽織りの霧華は揃いの南瓜ランプも一緒に持っている。
「私も、ささやかながらに楽しむときは楽しもうと思っていますよ。萩原さんは、おいやですか?」
「いえ、なんだか変な感じで」
 そう言う彼に霧華は儚げに微笑んだ。
「わかる気がします。私も、楽しむのは苦手ですから。……頑張りましょう。尤も……」
 ちらと、霧華は視線をやる。その先には、
「ふ……っ。ま、枯れ木も山の賑わい。……それにもしかすると万が一、本物のハロウィンの魔女がガタイのいい男性であったりする可能性も0ではなかろうと」
 きら☆。
 と。
 何か明らか男性の声で言いながら謎のポーズを決める巽・清士朗(町長はハロウィンの魔女・e22683)がいた。周囲の旅団員から様々な声が上がっている。喋らなければゴージャス系美女に見えなくもない。喋らなければ。上手く化けたものだ。
 黒い幅広のウィッチハットにシルクのローブ。同じく黒の長手袋と胸飾りで手と喉隠し。さらり流れる黒髪はちょっと危ない昼下がりの美魔女……かも……しれず。
「……いや……無い。多分無い」
 声の前にガタイが。と、一瞬騙されかけたウエン・ローレンス(日向に咲く・e32716)が首を横に振った。清士朗はぴし、とウエンの方を見る。
「どんなことでも全力を出すのが俺の流儀だ。そうは言うがウエイ。君こそ勇気が足りていないのではないか?」
「く……っ」
 胸に手を宛ててウエイは蹌踉めく仕草。ポップでダークなイメージのメイクと服装。いつもは日向を思わせるような雰囲気だが今日はひと味違う気がする。可愛い魔女は184cm。何が足りてないかと言われれば。そう、ズボン上のスカートなのです。
「そうですよ。ここは一つ極めましょう」
「そういうあなたは……」
 声をかけられ、振り返り、何だと、という感じでウエイの声が止まった。ウエイに声をかけたのはカルナ・ロッシュ(彷徨える霧雨・e05112)少年だ。
「どうせやるなら完璧にやりますよ」
 のたまう彼も目深に被った黒いとんがり帽子に魔女衣装。ポイントにジャックオーランタンとお菓子を模したアクセサリ。
 ミステリアスなロングブーツの魔女はそう、絶対領域を纏って見えそうで見えないつまりは、
 ずぼん。はいて。ない。
 いやいや。
「流石に、流石に脚はご容赦を。けれど姿形は置いておいて、心は立派に魔女ッ子(28歳)です!」
「おう、良く申した! 共に魔女道を極めようではないか!」
「この道は厳しいですよ……? ついて来られますか……?」
 おう、と異様な盛り上がりを見せる男性諸君達。
「……尤も、あそこまで頑張らなくても良いと思います」
 それを見ていた霧華がぽつんと言って、雪継も小さく頷くのであった。
「うんちょっと、流石にちょっと。可愛い子の振りは、ちょっと疲れるにゃ。やはりかわいい魔女っ子なんて、雨音に合わないかにゃ……?」
 そんなテンション高い人たちの横で、深月・雨音(夜行性小熊猫・e00887)がぽつんと呟いた。魔女っ子のとんがり帽子に小悪魔のミニスカに蜘蛛の飾り物。蝙蝠の付け羽と南瓜のステッキ。お揃いの南瓜ランタンと、どう見ても可愛い魔女ッ子なのだけれど。
「くっそ早く出てくるにゃ! ハロウィンの代わりにボッコボコしてやるにゃ!」
「深月さん本音がはみ出してます! あと深月さんは充分可愛いので心配は要りません!」
 雪継が声を上げたとき、ふっと雨音は顔を上げた。野生のカンがそれを告げた。同時に悲鳴が上がる。どこからか現れた屍隷兵、パンプキョンシーは一瞬、周囲を見回した後……。此方に向かって歩き出した。
「よーし来ましたネ! 魔女ッ子と言えば変身! 変身と言えばこの私にお任せデス!」
 アップル・ウィナー(キューティーバニー・e04569)がいち早く察知して駆ける。キラキラ閃光と共に愛の力で変身しながら突っ込んでいく。
「イッツ、ショウターイム!」
 言いながら、アップルは魔女姿に変身して黒地に金で装飾したステッキを叩きつける。
 それが……この橙の夜に始まる、戦いの合図となった。


 周囲から悲鳴が上がる。藍はコートを着たままで会場にいたスタッフや教師達に声をかけた。
「私達はケルベロスだよ。大丈夫、この襲撃のことはわかっていたから……」
 事情を説明し、放送設備を借りたいというと簡単に了承してくれた。
 避難も慣れたもので、即座に教師達が中心となって他の人たちを誘導してくれる。
「これなら、大丈夫そうだね」
 藍の言葉に雪継も微笑んだ。難しいことをする必要もないのは、きっと仲間達が魔女の演出をきっちりしていたからだろう。勿論藍が、きちんと避難指示をしたからでもある。
 三色の魔女が現れる気配はないが、間違いなくキョンシー達は引き寄せられている。
「お母さん、あっち、楽しそう」
「ダメよ、逃げなきゃいけないの」
 声が聞こえて振り返ると、むずかる子供と困るお母さん。欄は微笑んで少女の前へ。目線を合わせるようしゃがみ込んだ。
「後で、魔女さん達の所に連れて行ってあげるよ。大丈夫、すぐ終わるから」

 きゃしゃー! とキョンシーの爪が鳴る。雨音はそれを紙一重の所で後退してかわした。
「その程度の爪、何の役にもたたないにゃ! ほんとの爪のちか……」
 じゃきん。と、獣撃拳の構えを取り。そして雨音は我に返る。
「……ハロウィンの魔女・雨音、にゃ♪ お菓子をくれなきゃ悪戯しちゃうにゃ、もちろんくれてもしちゃうにゃ♪ そしてあんたたちにはさせないにゃ♪」
 アルティメットモードも決まってもの凄く可愛く言っているはずなのに微妙に本人はこれじゃないって顔をしていた。冗談のようなことを言いながらも、彼女は冷静に肉球パンチを叩き込む。
 キョンシーの身体が歪む。傷を受けながらもその一匹が、鋭い爪を振り上げた。よく解らない叫びを発しながら振り下ろされるそれを、
「そんな攻撃ひらりと避けるのが魔女の流儀ってものですよ! 僕こそはハロウィンの魔女! ここのお菓子も南瓜もハロウィンの全ては僕のモノ!」
 カルナがかわす。ひらりとスカートが翻った。みえそで見えない感じを死守するカルナである。反撃とばかりにひらひら杖を振ると、南瓜と共に炎が襲いかかった。
 炎の包まれるキョンシー。しかしその瞬間、もう一匹のキョンシーがカルナの背後に回り込む。
「わ」
「……大丈夫。下がってください!」
 その間に、霧華が割って入った。戦闘用に眼鏡を外した霧華がその攻撃を身体ごと受け止める。腕を裂かれて、血が黒衣に滲んだ。霧華が目を眇めたのは一瞬で、
「っ」
 無表情で抜刀と共に切り裂いた。そう思ったときには既に納刀している一瞬の技だった。紫睡がランプを掲げて揺らす。
「我が身に宿る十二輝石、アメジスト輝石の力よ、その身を伝う聖なる雫で満たして癒しと守りの力を与えん。アメジスティア!」
 癒しの力が展開する。そしてそして! と紫睡は視線を流す。
「これが、ハロウィンの魔力で現れる対の魔女です!」
「俺と歌お? 声を合わせて、楽しい歌を」
 紫睡の手伝いに来ていた、青い花を侍らせた狼耳尾のある真っ白い魔法使い。荒哉が求めに応えるように歌を紡ぐ。
 癒しと同時に守りの力と攻撃の力を貰い、ウエンは一つ頷いて駆けた。変身しながらの星形の蹴りが炸裂する。残ったキョンシーが爪を振り上げる。ウエンもそれを受け流そうとした……と、そこに、
「その魔女勝負、ちょっと待った!」
 ものっそ威勢のいい男性の声がして、キョンシーは釣られるように振り返った。
「……せ、先生様は魔女を狙うなら自分を狙うべきだと仰っております」
 声は清士朗のものだった。つい勝負となると気を張ってしまった。清士朗の手伝いに来ていた志苑が、慌ててそう口にした。清士朗が魔女の振りをしても声でばれてしまうので、通訳兼おつきの者達、らしい。
「……」
 キョンシーは清士朗とウエンを見比べる。
「……ウ」
「にゃ!? 何でこっちに来るにゃー!」
 くるりと方向転換、背後で肉球をとぎすませていた雨音へ向かって突進した。
「だ、大丈夫です、お任せ下さい!」
 喜ぶべきか悲しむべきか。内心複雑な気分でウエンは雨音の前へと回り込む。その爪を受け流し流す。その背後から清士朗が走った、ファミリアロッドをくるりと回し、
「にゃにゃにゃー、にゃーお!」
 おつきのひさぎが杖のペットに呼びかけるように声をかけた。その声に合わせてファミリアは出さずに清士朗は全力でキョンシーを殴りつけた。
「御主人様言ってるわん! えっと……『これはコウマの力じゃなくてロカクの術の一種よ』だ、わん!! ……あ、あれ? 技名、違う……?」
 おつきの柴わんこリリィが目をぱちぱちさせながら言っていたが、何せ攻撃を受けキョンシーの首が歪むようにずれる。しかし相手も屍隷兵。
「ウ! ウ!」
「わ、痛い、なにげに痛いです」
 ぽこぽこ爪で殴られて、雨音を庇ったウエンが言う。それで雨音も一息ついて、
「え、えとだにゃ。とにかく魔女ッ子決戦は雨音の勝ちにゃ!」
 体勢を整える。愛らしい爪が翻り、豪快に風を切った。
「それじゃ、かっこよく可愛くイタズラしましょう、にゃ♪」
 愛らしい蝙蝠のつけ羽が揺れる。腕が素早く動く。無数のパンチはまるで獣そのもので、そして、
「ぷにぷに・にくきゅう・あたっく!」
 急所に叩きつける肉球は強かった。なんだかいつも以上にキラキラ光って輝くエフェクトであったという。
 蹌踉けるキョンシー。痛みを感じてはいないのだろう。それでも身体を動かすそれに、
「なかなかしぶとい敵さんですね! ですがこのアップル・ウィナーにお任せデス!」
 くるくるとアップルが回転して、謎の光に包まれた。
「変わるわよ、バニーフラッシュ!!」
 ときにドラキュラ。ミイラ女に狼女。くるくると色々なものに変身し、アップルはそれに見合った攻撃を加える。
「Treat me or I’ll trick you」
 そして最後には元のバニー姿に戻って軽くウインクをして尋ねるのであった。
 アップルの言葉と同時に、キョンシーの一体は音を立てて崩れ落ちる。
「お待たせ! って、流石みんなだ。早いよ」
 そこに、避難を終わらせた藍が駆けつけた。バッとコートを脱ぎ捨てると、その下からは鮮やかなオレンジのチャイナドレスが現れる。残った二体の内一体のキョンシー向かって、そのまま橙の流星の如く流れるような蹴りを解き放った。
「私は『力』の魔女。ハロウィンの魔力はこの斧に集まれり! 我が力受けてみよ! 一刀両断っ!」
 蹴って吹き飛ばすとそのままの流れで斧を構えぐるりと斧を構えた。
「はい。遅ればせながら、援護します!」
 雪継も牽制するように刀を振るう。若干帽子を目深に被ってまだ照れが抜けない。
「お帰りです。それじゃあ……魔女ッ子が魔女ッ子らしく手早く終わらせましょうか!」
 カルナが声を上げると共に凍てつく八本の刃が同じキョンシーへと襲いかかった。


 そんなこんなで邪悪な南瓜は魔女達の活躍によって文字通り物理的に粉砕された。
 藍の約束を覚えていた女の子が戻ってきて、みんなで記念撮影をしていたらいつの間にかパーティーに参加していた人が集まってきて、
 手伝いに来ていた人々も交えて一大撮影会になったりしたのもまた良い思い出だ。

 そんな人混みから少し脱出して、紫睡は大切な人たちと合流する。
 それぞれ細部は違えど魔女服で、三人並ぶととても可愛い。
「ハロウィンではね、こう言うんですよ。それから……」
 丁寧にハロウィンがなんたるかを教える紫睡。それをエメリローネは目を輝かせて聞いていて、
「ふむふむ。……ふむふむ! いすくばー、とりっくおあとりーとー!」
「エメリローネさん、それはちょっと、違いますよ」
 言いながらイスクヴァの頬に星形のシールをぐりぐり押しつけたので、紫睡が笑いながら声をかけた。
「ちょっとちがう? それじゃあー、やりなおし!」
 がお! と主張する彼女。
「よし、菓子をやろう。お前の悪戯なら大歓迎だが、一先ずこれで手を打ってくれ」
 イスクヴァが言うと、エメリローネ端本棟に嬉しそうな声を上げる。紫睡と二人、思わず顔を見合わせて。そしてなんだか、優しい笑みが二人の間で零れた。

「あぁ……では、参ろうか」
 その衣装のまま清士朗達も輪を離れる。肩にはひさぎを乗せ、両隣には志苑とリリィも一緒である。
「この衣装。この衣装。サイズ直しって話はどこいったんよ」
 自分の作成した衣装を見おろしながら、ひさぎは若干悔しげである。尻尾がふらふら揺れている。このフリルの。羽の。大変だったこと!
「まあ、素敵。此方のクッキー、とても美味しいです」
 そんな彼女の様子に笑いながらも、ヒールの間に志苑はお菓子を取ってくる。みんなで分けましょう。なんて声をかけた。
「それにしても何で私が犬なんやろ。猫派やのに。猫……あ、置いていかんといて……!」
 リリィは変わらず納得がいかなさそうである。そんな彼女達の様子を、清士朗は微笑ましく見守っていた……。

 そうやって上手く抜けた人もいれば、
「ありがとう。お疲れ様。……まさかこんなに、戦い以外で大事になるとは思わなかったよ」
 藍の言葉に、霧華は微笑んでいえ、と首を横に振った。撮影会はまだ続いている。
「さあさヒールドローンを飛ばしてい……美味しそうなハロウィンパンプキンパイだ!」
「どうぞどうぞ、好きなだけ持って行って!」
 避難を手伝っていたミリムが思わず目を輝かせると、露店のおばさんが気前よく言う。
「はいはーい。お菓子はあげるけどいたずらはさせないにゃ♪」
 キラキラ可愛い魔女の雨音がお菓子を配ると、子供達の間から歓声が上がった。
「わーい、ありがとう猫のお姉ちゃん!」
「猫!?」
 因みに雨音はレッサーパンダのウェアライダーである。にゃーにゃー言っていたから間違えたのだろうが、猫、は、怒るべきか否か。ぐぬぬと迷っている間にも、
「お姉ちゃんお菓子ー!」
「にゃ! よ、よーし、全部もってけー!」
 もみくちゃにされていた。その隣でウエイも声を上げる。
「よーし、Trick or Treat!」
 その頃にはもうおすっかり衣装も慣れてきていた。元々物怖じしない正確も相まって、お菓子をばーん! と配っている。
 嬉しそうに上がるのは黄色い声で、お姉さんの歓声を受けるのも楽しい。なんだかこれはこれでハロウィンらしい気も、した。
「ハロウィンの続き、出来ましたね!」
「デスね! もちろん私も、行きマス!」
 こっちにもちょうだい! の声に応えながらウエイが言うと、アップルも頷いた。魔女らしくヒールを行いながら、くるくるとお菓子を配っている。
「うんうん、そう。お菓子ですお菓子」
 そんな横をすり抜けるようにして、ひょいとカルナはお菓子をひとつふたついただいていく。配る気は全くなく、何処か飄々とした感じであったのだが、何となく憎めない立ち振る舞いであった。
「え? くれるんですか? ありがとうございます」
 寧ろ貢いで貰っているこの感じに、それを目撃した藍は軽く笑った。
「さーて、それじゃあ私達も、パーティーを楽しもうか!」
「ええ。お土産を買わなければいけませんね」
「……あぁ」
 霧華の言葉に、雪継が小さく声を上げる。多分きっと忘れてた。霧華は微笑む。
「けれどもその前に……もう一仕事、ありそうですが」
 冗談めかして、霧華は言う。彼女達の活躍を聞きつけて、一目見ようと集まった人の波は、まだ途切れそうになかった。

作者:ふじもりみきや 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年10月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 7
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