三色魔女のハロウィン~夜を制する魔女は誰?

作者:林雪

●ハロウィン商店街
 都内の、とある商店街。ここには昔ながらの商店街が軒を連ねる。ここ数年は若いお客に楽しんでもらおうと、ハロウィンには各店舗の主が協力しあってコスプレをし、街中でハロウィンを盛り上げるべく頑張っているのだ。数人の魔女の帽子をかぶった地元の女子高生たちが、八百屋の前ではしゃいでいる。
「アッハ! おじさんそれ吸血鬼? 似合ってるよー!」
「いいだろ、八百屋のドラキュラ。魚辰さんは魔法使いだっつってたぞ」
「絶対見にいこ!」
「おう、そうだお菓子もっていきな、野菜クッキーだ」
「ありがとー! じゃいたずらしない!」
 この賑やかな光景を、少し離れたビルの屋上から見ている者がある。
『いいねえいいねえ、ハロウィンはこうでなきゃ……ハロウィンの夜にゃアタイの胸の炎もメラメラに燃え上がるってもんなのさ……さあお前達! 気合いを入れな! 狙いはあの街さ』
 赤の見習い魔女・フォティアは商店街を指差すと、ハロウィン襲撃用に量産していた屍隷兵『パンプキョンシー』たちに命じた。
『暴れて暴れて、ハロウィンの魔力を持つ魔女を引っ張り出してくるんだ。そしたらアタイはそいつの力を奪って、超越の魔女になる!『ジグラットゼクス』だって夢じゃない……青や緑なんかメじゃないよ!』

●赤の見習い魔女襲来!
「ハッピーハロウィーン。あ、これ? 今年はこれで行こうと思って」
 兎の着ぐるみに身を包んだヘリオライダーの安齋・光弦がヘラヘラ笑いを引っ込めて、事件概要を説明し始める。
「どうもこの季節になると騒ぎ出すね、ドリームイーターは。君たちにお願いしたいのは、赤、青、緑の3人の魔女が起こしている事件の収束だ」
 具体的には、と、一息おいて光弦が話を続けた。
「やつら、ハロウィンで盛り上がる街を襲撃するつもりなんだ。屍隷兵『パンプキョンシー』を使ってね」
 赤、青、緑の魔女達の狙いは『ハロウィンの魔女』を探し出し、その力を奪う事だという。
「ハロウィンで盛り上がる街を派手に襲えばそこにハロウィンの魔女が現れる、って思ってるらしい。それが本当なのか、一体ハロウィンの魔女っていうのがどんな力を持っているのかはわからないけど、とりあえずそんな魔女同士の争いに、普通にハロウィンを楽しんでる一般の人たちを巻き込むわけにはいかない。みんなの楽しい時間を守ってあげよう」
 兎着ぐるみながらも力強く、真面目な顔で言ってから光弦が作戦提案をする。
「パンプキョンシーたちが受けた命令は『ハロウィンの魔女を探せ』ってことらしい。だったらそれを逆手にとって利用してやろう。君たちがあたかも『ハロウィンの魔女』であるように見せかければ、きっとパンプキョンシーたちは一般人には目もくれずに君たちを狙うはずだ」
『ハロウィンの魔女』らしく振る舞いつつ、パンプキョンシーたちを撃破する。これが今回の戦いのポイントである。
「具体的なやり方は君たちにお任せするけど、誰かひとりを魔女役に決めて他はお付き役っぽく振舞うとか、ハロウィン魔女ーズだよって言うとか、何でもいい。これが上手くいけば、君たちから魔女の力を奪おうとして、きっと本命の3色の魔女も姿を見せるはずだ。出来ればそいつも倒して欲しい」
 敵が出現するのは、神奈川の駅前商店街である。昨今のハロウィンブームを受けて商店街全体が協力し、老若男女みんなが楽しめるイベントを作ろうと盛り上がっているところへ、4体のパンプキョンシーが送り込まれてくる。
「結局は屍隷兵だから、戦闘能力はそこまで高くない。すこしトリッキーな動きをするのと、毒性のある火の玉を投げてくるからそこだけ注意してね。それと、残念ながら3色の魔女の能力は今のところ全く不明だから、誘き出しをやるなら連戦を想定して対策しておいてね」
 楽しく盛り上がる夜に現れる敵を倒すため、逆にケルベロスが『ハロウィンの魔女』になりきってやろうという作戦である!
「魔女の力、っていうのがどういうものかはわからないけど、ハロウィンの魔力はドリームイーターにとって特別なものではありそう。とにかく思い込ませたら勝ちだから、頑張って誘き寄せてね! 頼んだよケルベロス!」


参加者
星詠・唯覇(星天桜嵐・e00828)
アレクセイ・ディルクルム(狂愛エトワール・e01772)
大粟・還(クッキーの人・e02487)
ルルゥ・ヴィルヴェール(竜の子守唄・e04047)
鏑木・郁(傷だらけのヒーロー・e15512)
日月・降夜(アキレス俊足・e18747)
富士野・白亜(白猫遊戯・e18883)
伊礼・慧子(臺・e41144)

■リプレイ

●魔法の夜を盛り上げろ!
 独特の熱気に包まれた商店街を楽しげに歩く、仮装姿の人々。定番のシーツの幽霊や魔女、ガイコツや黒猫に始まり、キャラクターのコスプレをする人たちの姿も多い。
 その中で、一際賑やかに『魔女』を囲んだ集団が歩く。
「トリックオアトリート!」
 戦闘を行くのは魔女の従者たち。周囲に向けて黒いマントを翻し、夜空色の翼を広げたのは吸血鬼・ドラキュラ伯爵ことアレクセイ・ディルクルム(狂愛エトワール・e01772)と、その隣には、顔や首など目立つところに派手な縫い目を這わせ、頭には特殊メイクで大きなクギを打ちつけたフランケンシュタインこと、星詠・唯覇(星天桜嵐・e00828)、勇ましげな中世風の騎士の鎧を纏うのは鏑木・郁(傷だらけのヒーロー・e15512)の3人。
「さて、誰に悪戯するかな……?」
 唯覇が両手を前に出しそれっぽくセリフを言うと、黒猫仮装姿の一般女子達がはしゃいだ。
「さあ皆さん、ハロウィンの魔女のお出ましです」
 アレクセイがそう言うや、マントを再度翻す。胸元の真っ赤な薔薇は彼の夜色の衣装に色を差し、閃かせた手のひらから小さな炎があがる。魔女を守る従者たる郁は、ジャキン、と騎士風に顔の前に剣を構えて見せる。パンプキン型のチャームがハロウィンらしい。その前に、スタリと飛び降りたのは動物変身で形態を変えた日月・降夜(アキレス俊足・e18747)だ。
「猫だよ! すごいおっきな猫」
「違うって、豹でしょ」
「違う違うあれだよ、ジャガー」
 いやまあ、チーターだけどな、と思いつつも降夜が口に咥えたチョコシガレットを女子高生たちの前に置いた。かわいー! とはしゃぐ彼女たちにひょいとお手などしてみせて、更なる歓声を誘う。そこへ。
「これで、完璧じゃないでしょうか?」
 と、ルルゥ・ヴィルヴェール(竜の子守唄・e04047)が笑顔で首にオレンジのリボンなど巻いてくれたので、今夜の降夜は可愛げ絶好調である。
「うふふ、皆さんも可愛いです……魔女のお菓子は甘くてこわーい、んですよ、どうぞ!」
 そう言いながら、仮装した一般客たちにお菓子を配り始めるルルゥはこの雰囲気が楽しくて仕方ないらしく、三角帽子の下で満面の笑顔である。ワンピースタイプの魔女服に長いマントがはためくと、紫とオレンジの布地が交互にひらひらと動くのがカラフルだった。小さいカボチャで作ったランタンをライトニングロッドにかぶせ、魔法の杖代わりに。真っ白いフードをかぶっててるてる坊主みたいになっているエトを魔女の列に引き込んで、更には日頃商店街で可愛がられている猫たちをも呼び出してと、行列はどんどん賑やかになっていく。
「出迎えご苦労! パレードが終わったらお前たちにもお菓子をやるぞ」
 魔女服に魔女帽子、そこから真っ白い猫耳を出した富士野・白亜(白猫遊戯・e18883)が集まってきた猫たちにそう声をかけると、ニャアと返事らしきものが返る。なるほど、白猫魔女ならお供に猫が沢山いるのも当然と、降夜もノリよくニャウと猫っぽい鳴き声を出してみせた。
 ふと、行列を建物の陰からこっそりと眺めている少女の姿に気づいた白亜が、真顔のまま声をかける。
「どうした、魔女のパレードを楽しめないと言うのか?」
 急に声をかけられ、どうしていいのかわからずドギマギする少女の元へ、白亜が歩み寄り、
「楽しめてないやつには悪戯だ」
 と、少女の目の前で白猫に変身して見せた。
「では、ここぞとばかりいってみましょうかねえ」
 黒とオレンジを基調にした可愛らしい魔女衣装に身を包み、大粟・還(クッキーの人・e02487)が華やかに魔女っ娘変身! と思いきや、勢いよくスマホをタップし始める。
「ねえ、魔女の人はどーしてスマホいじってんのー?」
「魔女もITの時代なんですよ、そんなツッコミ入れる子たちには、こういう目に遭います……食らえ魔女のクッキーパーリィ!」
 還が魔女っぽく声を作って軽く脅かしたその直後、辺りにはクッキーの雨が降り始め、ツッコミを入れた小学生たちも大喜びである。同じくハロウィンカラーのリボンでおめかししたウイングキャットのるーさんが若干呆れた目でチラリと見たが、こういうイベントは全力でやった方が楽しいのである!
「わーいクッキー! 魔女のクッキーだー」
 おおはしゃぎでクッキーを集めて回るのは伊礼・慧子(臺・e41144)。ペイント弾で血染めにした包帯をアクセントにあちこち巻きつけ、なりきりサタンの黒い衣装と顔にカボチャの仮面でヴィラン風……だがどうにも可愛らしい。
 ケルベロスたちの魔女パレードで、一気に盛り上がった商店街。だがその時。
「……おっ、あれも仮装かな!」
 ガイコツプリントのつなぎを着た男性が指差して言った。商店街の入り口方面から迫ってくるのは、明らかに楽しげな雰囲気からは異彩を放った4体の屍隷兵だった。御札で顔は隠れているが、中華風の衣装から露出した手足は、間違いなく死人のそれ。
「……エトちゃん、みんなが焦らないように、落ち着かせながら誘導してね!」
 オレンジのドレス姿に魔女帽子、の装いの火倶利・ひなみく(スウィート・e10573)が何かを払拭するように明るく呼びかけ、迅速に避難誘導を開始した。
「エスケープアンドトリート! ここは危ないよ~! シャレにならないハロウィン魔女の悪戯が始まるよ~!」
 笑顔のまま、半分アトラクションを装ってひなみくが一般客を誘導するのをエトも真似る。頼りないと見てか、ミミックのタカラバコが南瓜と矢印を組み合わせたエクトプラズムを出しつつフォローする。
「ひな、ありがとな! 皆、こっちだ!」
 恋人の援護を心強く受けとめ、郁も声を張る。万が一にも流れ弾で被害を出さない為にと、そちこちに神経を配る。
「ここはハロウィンの魔女ズとその仲間たちに任せて、皆は安全な所へ」
「あ、さっきの……」
「急いで、気をつけてな」
 降夜が動物変身を解いた姿で先の女子高生たちを誘導、アレクセイもまた一般客の前に、手のひらに乗せたカボチャのおばけシュークリームを差し出しながら、甘い声で告げれば、そのフェロモンに皆魅了される。
「さあ、お菓子を差し上げましょう。良い子で逃げるんですよ……いいですね?」
 避難は順調に進み、避難があらかた終わったのを確かめた慧子が念の為にと激しい殺気を放っておく。これで、一般人は巻き込まずに済むはずだ。
「今年も無粋なドリームイーターは来た、か」
 唯覇が敵を見据えて低く呟いた。
 ルルゥがランタンつきの杖を振りかざし、白亜が中央で威厳を持って腕組みする横でカボチャな慧子が並んで腕組み、還は今度こそプリンセス変身を完成させた。
「ハロウィンの魔女はここですよ! 貴方たちにハロウィンは壊させません」

●パンプキョンシー来襲!
「生意気に、きっちり隊列を組んで来てるみたいだな」
 降夜が素早く敵の布陣を読み取った。
 攻撃・防御を前に出た2体で、その後ろから阻害役が1体、もう1体離れた位置に陣取ったパンプキョンシーは恐らく毒の火の玉でケルベロスたちを狙い撃ってくるつもりだろう。どれも厄介だが、まずは後々に響かないよう阻害役から排除していく作戦を取るケルベロス。
「凍り付け」
 前衛の2体をすり抜けた降夜の拳が、周囲から熱を奪い冷気を纏う。真っ直ぐに叩き込まれた拳の接面はひどく冷たかった。もっとも、屍隷兵の皮膚には何も感じないだろうが。
「皆、まとわりつかれないように注意してな!」
 郁がそう注意を促しながら、おもちゃの兵隊を思わせる可愛らしい小型兵を前線に展開させる。見た目は可愛いが、頼もしい防衛チームである。
「私がまとわりつかれたいのは、愛する薔薇の姫にだけ……我らの宴を邪魔する者は燃やし尽くしてしまいましょうね」
 ふわり、と翼を広げたアレクセイが、煌きを足元に集約させ激しい蹴りを狙い定めて阻害役の1体に浴びせた。続いて飛び出した白亜が、壁役の1体をかわして狙う個体に攻めかかる。
「白猫魔女に、触らせてやろうか?」
 ぴくぴくっ、と真っ白な耳が動き、パンプキョンシーがそこに触れようと土気色の手を伸ばしてくる。かかったな、とそこへ激しいひっかき! 愛らしさで惹き付ける、白亜の必殺グラビティ。ヤバい可愛いモフりたい、と思わず味方まで惹き付けられる猫耳恐るべし。そこへ唯覇が先に足を止めてやるとばかりに蹴りこみ、
「楽しいハロウィンパーティーを邪魔する輩は、たとえレベル高い仮装していても容赦しませんよ!」
 還が今度はクッキーでなくオウガ粒子を撒き散らして味方の守りも固める。勿論、折を見てクッキーも撒き散らす予定ではある。
「……来るぞっ」
 降夜が叫んだとほぼ同時、前列の1体が、猛然とケルベロスたちに向かって突っ込んで来た。
『ギャギャッ!』
 存外な速度で体当たりをかましてきたパンプキョンシーに、ルルゥが憤慨する。
「びっくりしたじゃないですか、もう!」
 続いて、壁役の1体が、体を投げ出してまとわりついてこようとする。そこに身を投げ出し返したのは、唯覇のテレビウム・カラン。
「いいぞカラン、そのまま食い止めててくれ」
 唯覇が次の攻撃へ移ろうとした途端、後ろから毒の火の玉が立て続けに発射される!
『ギャッ』
 片方は郁が叩き落したが、もう一方はアレクセイのわき腹を掠めた。
「効きません……私の身体は既に、愛という名の毒に骨の髄まで冒されているのだから……」
 今回の敵・パンプキョンシーは少々数が多いものの、ケルベロスたちが普通に戦って負ける相手ではない。しかし今回は勝利に加え、『ハロウィンの魔女らしさ』を演出する必要があった。ここでケルベロスたちがハロウィンの魔女であると認められれば、送り込まれたパンプキョンシーの親玉・赤の見習い魔女を誘き寄せることが出来るのだ。
 まずは攻撃を集めた1体が、降夜のキックで地面に叩き伏せらせ、そのまま砕け散った。
「今日ほどあなたたちに早く帰って欲しいって思ったこともありません」
 慧子が守護の星座を呼び出しながら、商店街を見渡す。さっきまであんなに笑いさざめいていたこの通りに、早く皆を呼び戻したかった。これが魔女らしさなのか正直慧子にはよくわからなかったが、中断されたハロウィンパーティーの続きがしたくてウズウズするのだ。
 ケルベロスたちの攻撃は正確、かつ2人の治療班のおかげでダメージが蓄積することもなかった。再度攻撃を集め、2体目はアレクセイの矢に貫かれる。
「師を穿つ死の矢にて、安らかなる眠りを……」
 御札ごと額を射抜かれ、あえなく撃破。残るは盾役と、後方型の2体。毒の火の玉は狙いこそ正確だが、そこまでの威力はなく、毒は身に受ける端から還と慧子が浄化していく。
(「そろそろ来るか……?」)
 敵の足元を砲撃で牽制しながら郁が三色の魔女の気配を探る。
「オラァ! 我らハロウィンの魔女ズ、ここにあり!」
 と還が啖呵を切ってクッキー攻撃、ルルゥが3体目の頭めがけて、エクスカリバールを振り上げた。
「これで……!」
 思い切り真っ芯で敵を捉えた一撃で、盾役のパンプキョンシーも沈黙。残るは1体。
「さぁ、パーティーが盛り上がってきた!」
 唯覇がそう叫ぶや、歌声を発する。日頃の彼の歌声とは少し違う、それは。
「今宵は宴、さぁ喝采を! 盛大なる喝采を!」
 大衆の声を求めて歌い上げるのは唯覇ではなく、王の人格。
「ハロウィンの夜は終わらない! さあ歌え! 踊れ! 我をもっと満足させるべく手足を動かすのだ!」
 命ずるままに、パンプキョンシーは踊る。正確には、何か苦しげな唸り声をあげ、身を捩っている様子で……暫しそうしていた後に、ガクリと膝をついた最後の1体は、あっけなく塵になったのだった。
「……どうだ、気配はあるか?」
 降夜が低く呟き、白亜が耳をそばだてる。皆、表情を緊張させていたが夜の静けさのみがそこには残っていた。どうやら、魔女が出現する気配はない。
「まあ……無法者は、退治出来ましたし」
 還がそう言って息を吐く。
「結局三色の魔女はここには現れず、か」
「お疲れ様! やっぱり郁くんは、戦ってるときが一番かっこいいんだよ!」
 落胆がないわけではないが、郁も肩の力を抜いて恋人に笑いかける。
「見ていてくれましたか、姫。あなたの愛するハロウィンは、守ってみせましたよ……」
 アレクセイの言葉は相変わらず愛する薔薇の姫君へ捧げられる。ブレない。

●平和な夜は戻ったか?
 無事に戦闘を終え、中断してしまった仮装行列を再開すべく、皆で協力して壊れた箇所をヒールする。歌声でお店を直していたルルゥが、振り返って言った。
「お菓子の量が足りなかったんでしょうか……?」
 どうやら彼女は、三色の魔女の現れなかった原因を考えていたらしい。
「いやお菓子は十分あったと思うぞ?」
 と、白亜が持参のパンプキンパイとクッキーの山、それに商店街の各店で配るために用意された大量のお菓子の詰め合わせを見て言った。
「敵さんも、中々気まぐれなこったな」
 降夜が軽く肩を竦めてそう言った。
 魔女の誘き出しはかなわなかったものの、この楽しい商店街をいつまでも戦場にしておきたいわけでもない。気を取り直し、商店街の人たちとも連携してケルベロスたちは仮装行列を再開させる。せっかくの楽しい夜、盛り下がったままではいられない。ルルゥの明るい声を合図に、本日大盤振る舞いの還が、再度クッキーを降らせ始めた。
「さあ、魔女のパレードはまだまだ続きますよ!」
「クッキーの魔女の本気、見せてやんよ! ……あっ八百屋ドラキュラさん、野菜クッキー、野菜クッキー残しといて下さい」
 八百屋のおっちゃんが嬉しげな笑い声をあげ、ケルベロスたちの分を山ほど持って来てくれる。
「食べ放題ですねー」
 再度、慧子がカボチャマスクをかぶり直してはしゃぎだす。一般客もケルベロスに負けず、賑やかさを取り戻したようだ。郁とひなみくは仲良くお菓子配りに協力し、再度魔女の従者として降夜もその輪に加わった。大人も子どももケルベロスも、一緒になって悪戯したり、されたり。
「魔女姿の我が姫は、それはそれは愛らしく、正直なところ姫になら悪戯されたい……トリック一択でお願いしたい」
 アレクセイは炎の赤いバラを片手にどうやら姫語りモードに突入したらしく、安定の姫ワールドにいる。
「あっそうだ、皆にもお礼しないと……」
 とルルゥが思い出せば、白亜も頷く。
「約束だからな」
 というわけでパレード参加の商店街の猫たちも、ペット用お菓子の分け前に預かった。
「ねー、みんな、最後に記念撮影しよー! 魔女っ娘ズ可愛すぎるんだよー!」
 とひなみくがスマホを盛大に光らせて皆の姿を画像に納めた。オレンジ色の裏地を靡かせ、とんがり帽子で笑顔になるルルゥ、かぼちゃヴィランズ慧子に笑顔の苦手な白猫魔女白亜、クッキー無双のクッキー魔女還。個性豊かなハロウィンの魔女たち。少なくともこの商店街に集まった人々に楽しい思い出を与えたという点においては、間違いなく彼女達は最高のハロウィンの魔女だった。
「それにしても……ハロウィンに特別な事でもある、のか?」
 唯覇がふと疑問を感じて立ち止まる。毎年、この季節になると騒ぎ出すドリームイーター。その存在とハロウィンの魔力との関係とは一体?
 謎を残したまま、ハロウィンの夜は賑やかに更けていく……。

作者:林雪 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年10月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 5/キャラが大事にされていた 3
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