●爆走のビジョン
十月三十一日――ハロウィン。
大阪の街も黒とオレンジに彩られ、熱気に溢れ、活気に満ちていた。
そこに狂気が混じった。
交差点に急ブレーキの音が響く。
タイヤ痕を残して停止したタクシーの鼻先を掠め、信号無視の暴走車が猛スピードで通過した。
普通なら、その後に盛大にクラクションと『どこ見とんじゃ、ワレェーッ!』というタクシーの運転手の怒声が続くことだろう。
だが、運転手はハンドルを握りしめた状態で固まっていた。
暴走車がただの車ではなかったからだ。
いや、そもそも車でさえなかった。
それは馬車に似た南瓜型のなにか。ただし、馬に引かれているわけではない。炎を纏った車輪を回し、自力で爆走している。
馬なき馬車は歩道に乗り上げ、アーケード街の中を突き進んだ。
「うわぁぁぁぁーっ!」
「きゃーっ!?」
「なんじゃ、こりゃー!?」
ハロウィンを楽しんでいた人々(その大半は仮装していた)が悲鳴をあげ、蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う。
たちまちのうちに南瓜はアーケード街を通り抜け、ガードレールを突き破って車道に戻り、どこか遠くに走り去った。
幸いなことに轢かれた者も撥ねられた者もいない。
しかし、悪夢が終わったわけではなかった。
「また来よったでぇー!」
南瓜が引き返してきたのだ。
先程よりもスピードを増して。
●音々子かく語りき
ヘリポートで。
「大変でーす!」
ケルベロスたちの前にヘリオイラダーの根占・音々子が息せき切って駆け寄ってきた。
「南瓜の馬車ならぬ爆車が大阪市内で暴走しまくってるんですよー! それも一台や二台じゃありません! 正確な総数は判りませんが、百台は超えているみたいです!」
ハロウィン・パーティーの会場、ハロウィンのセールをしている商店街、ハロウィンの飾りつけをされた諸々の施設、仮装した市民たちでごった返す大通り――そういった場所で南瓜の爆車たちは暴れまわり、ハロウィンの魔力を集めているという。
「爆車軍団を市内に放ったのは、パッチワークの魔女に新たに加わったヘスペリデス・アバターというドリームイーターのようです。どうやら、去年のハロウィンに事件を起こした第十一の魔女ヘスペリデスの力を受け継いでいるようですね」
ヘスペリデスはカンギ戦士団の一員でもあった。そんな彼女の力を受け継いだため、ヘスペリデス・アバターも植物を用いているのかもしれない。
もちろん、南瓜の爆車はただの植物ではない。ハロウィンの魔力をたっぷりと蓄えた後、三十一日の深夜十二時に揃って自爆するのだ。ヘスペリデス・アバターに魔力を届けるために。
「ですから、十二時になる前に爆車軍団を撃破しなくてはいけません。大阪市内を警戒し、一台でも多くの爆車をやっつけちゃってください!」
前述したように、いかにもハロウィンといった場所に南瓜の爆車は現れる。そのような場所に目星をつけて巡回する他、移動中に見つけて倒すこともできるだろう。また、携帯電話等での通話も可能なので、南瓜の爆車を目撃した市民がチームに連絡を入れてくるかもしれない。
「とはいえ、敵は常に移動していますから、目撃情報を受けてから駆け付けるのでは間に合わない可能性もあります。情報を取捨選択することも重要になってくるでしょう。それと南瓜の爆車の戦闘能力はさして高くありませんが、チームを分割して少人数で対処するのはお勧めできません。戦っている間に他の南瓜の爆車が集まり、数が逆転する恐れがありますから」
上手くいけば、南瓜の爆車たちだけではなく、ヘスペリデス・アバターを打ち倒すこともできるかもしれない。爆車から魔力を受け取るために彼女も市内のどこかに潜んでいるはずなのだから。
もし、ヘスペリデス・アバターを仕留めれば、深夜十二時に南瓜の爆車たちが爆発しても、ハロウィンの魔力は誰にも受け取られずに四散するだろう。
「爆車軍団の掃討に専念するか、ヘスペリデス・アバターを狙うか……方針はお任せします。私、皆さんを信じてますから! 素敵なハロウィンをドリームイーターの手から絶対に守ってくれると!」
力強い声で言い切る音々子であった。
参加者 | |
---|---|
ディルティーノ・ラヴィヴィス(ブリキの王冠・e00046) |
立花・恵(続非力かわいい・e01060) |
守屋・一騎(戦場に在る者・e02341) |
据灸庵・赤煙(ドラゴニアンのウィッチドクター・e04357) |
天月・光太郎(満ちぬ紅月・e04889) |
樒・レン(夜鳴鶯・e05621) |
ゼラニウム・シュミット(決意の華・e24975) |
ネリシア・アンダーソン(黒鉛鬆餅の蒼きファードラゴン・e36221) |
●快走! 駆けろ、疾風!
新世界の……いや、大阪のシンボルともいえる通天閣。
その展望台からコイン式双眼鏡で眼下を望めば、大通りで繰り広げられている死闘が見えることだろう。
もしかしたら、オラトリオのディルティーノ・ラヴィヴィス(ブリキの王冠・e00046)の絶叫も聞こえるかもしれない。
「おなか、すいたぁーっ!」
魔法で召喚されたスピーカーが震え、大音声が爆発し、ハウリングという名の見えざる炎が巻き起こり、ノイズという名の実体なき破片が撒き散らされた。騒音を響かせる迷惑行為にしか見えないが、歴としたグラビティだ。その名も『rEpeaTtRanqUilizEr(アンコール・シンドローム)』。
叫び声の直撃を受けたのは、燃える車輪を有した巨大な南瓜。パッチワークの魔女ヘスペリデス・アバターが放った南瓜の馬車ならぬ南瓜の爆車(ハロウィンキャレイジ)である。
「南瓜の馬車のくせして、シンデレラを乗せてないのか?」
天月・光太郎(満ちぬ紅月・e04889)が爆車の正面に立った。ディルティーノの攻撃で勢いを殺がれたとはいえ、爆車はまだ走り続けている。なにもしなければ、跳ね飛ばされるだろう。
もちろん、なにもしないわけがない。
「そんな中途半端な奴が生意気に南瓜ヅラしてんじゃねえ!」
光太郎はひらりと身を躱し、南瓜の側面に降魔真拳を叩き込んだ。
爆車が傾ぎ、片輪が宙に浮いた。
地に残されたほうの車輪が旋回し、アスファルトを削る音が周囲に響く。今にも横転しそうな状態のままでターンした後、爆車は体勢を立て直し、ケルベロスの後衛陣めがけて飛び込んだ。
後衛陣のうちの三人が炎の車輪に斬り裂かれ、ダメージを受けた。残る一人は無傷。柴犬の人型ウェアライダーの守屋・一騎(戦場に在る者・e02341)が盾になったからだ。
「南瓜ヅラって、どんなツラっスか?」
ダメージなど意に介することなく、一騎はレゾナンスグリードを仕掛けた。ブラックスライムが爆車に食らいつき、動きを鈍らせる。
「どんなツラをしてようと――」
ブラックスライムに覆われてない部位に立花・恵(続非力かわいい・e01060)の蹴りが命中した。エアシューズ『RocketBladeSS』による絶空斬。
「――楽しいお祭りを汚す奴ァ、許さねえ!」
恵の啖呵に歓声が沸き起こった。戦いを遠巻きに見守っていた市民たちの声だ。今日は『楽しいお祭り』であるところのハロウィンなので、多くの人々が仮装している。
「かましたれや、ケルベロスゥー!」
イグニスの仮装をした男(バカ殿じみた白塗りのメイクをしていた)がひときわ大きな声で叫んだ。
「お任せください。かましてやりますとも」
竜派ドラゴニアンの据灸庵・赤煙(ドラゴニアンのウィッチドクター・e04357)が轟雷砲を発射した。
その動きを察して、ブラックスライムが素早く飛び退き、一騎の下に戻る。
次の瞬間、爆車に砲弾が命中し、爆発音が轟いた。
そして、紙吹雪のバズーカが炸裂したステージさながらに無数の紙片が舞い散った。一騎に庇われたケルベロス――シャドウエルフの樒・レン(夜鳴鶯・e05621)が紙兵を散布したのだ。
「音々子さんが仰っていた通り、戦闘能力は高くありませんが――」
紙兵の群れに傷を癒されながら、オラトリオのゼラニウム・シュミット(決意の華・e24975)が愛用の杖『クリスタル・ウィル』を突き出した。
「――思っていた以上に数が多いですね。これは何体目だったでしょうか?」
杖の頭部に埋め込まれた水晶から電光が迸り、爆車に命中した。一見、エレキブーストのようだが、このグラビティ『レビン・センテンス』は治癒だけでなく、攻撃にも使える。もちろん、今の用法は後者だ。
「四体目……だよ」
竜派ドラゴニアンのネリシア・アンダーソン(黒鉛鬆餅の蒼きファードラゴン・e36221)がバスターライフルのトリガーを引いた。
『南瓜ヅラ』の眉間がフロストーレーザーに撃ち抜かれ、甲高い悲鳴が響き渡る。
いや、悲鳴ではなく、ブレーキ音だ。
ところどころに炎を帯びた二条の車輪痕を数メートルほど地面に刻み、爆車は停止した。
そして、消失した。今までとは打って変わって、音を一切発することなく。
もっとも、音を発したとしても、誰にも聞こえなかっただろう。市民がまたもや歓声をあげたのだから。
それを背中で聞きながら、レンが仲間たちに言った。
「敵の数は百体以上と聞いていたが、他のチームもこのペースで戦い、なおかつ終わりがまだ見えていないのだとしたら――」
「――二百を超えてるかもしれませんね」
と、ゼラニウムが後を引き取った。
彼女たちが探索を開始したのは朝の九時。阿倍野区の超高層ビルの周辺で一時間半ほどかけて三体の爆車を倒し、この浪速区に移動して四体目と遭遇した。他にも多くのチームが爆車の掃討(とヘスペリデス・アバターの探索)に従事しており、いくつかの活動区域は重なっている。しかし、どこの区域も広い上に時間のほうは重なっていないため、今のところ、他のチームと接触はしていない。
「二つ向こうの通りに爆車が現れたそうっスよ!」
携帯電話を手にして、一騎が皆に告げた。電話の相手は地元の警察。今回の作戦について事前に伝え、協力を要請しておいたのだ。
皆の反応を待つことなく、一騎は既に走り出していた。
「あー……休む暇もねえや」
一騎の後を追って走りながら、光太郎がぼやいた。
その横で赤煙が頷く。
「まったくですなぁ。盆と正月が一緒に来たかのようなハロウィンです。いっそ、クリスマスも混ぜますか?」
「いや、混ぜたらアカンやろぉーっ!」
と、見送っていた市民の一人が楽しげにツッコミを入れた。
●疾走! 目指せ、完封!
浪速区で更に三体の爆車を仕留めた後、ケルベロスは北西に進路を取り、ドーム球場の周辺を新たな狩り場とした。
ほどなく、公道で最初の獲物を見つけ――、
「八体目っス!」
――短い戦いの末、一騎がストラグルヴァインで締め上げ、とどめを刺した。
「新手が来よったでぇ! ほら、あっち! あっちやって!」
と、道路の彼方を指さして警告を発したのは、ドレッドノートに扮した年配の女。距離を置いて観戦していた市民の一人だ。
「ありがと……おばちゃん」
ドレッドノートおばちゃんに一礼して、ネリシアがオウガメタルの『グラファイト』を剣に変形させた。警告されるまもでなく、敵が接近していることには気付いていたのだが。
「誰が『おばちゃん』やねん! そこは『お姉さん』やろ!」
お約束とも言えるドレッドノートおばちゃんのリアクションに対して、他の市民たちが一斉に笑った。
その無数の笑い声に混じって、緊張感のない音が戦場に流れていく。
ディルティーノの腹が鳴ったのだ。
「南瓜が食べ放題の任務だと思ってたのにぃ……」
がくりとうなだれるディルティーノ。
その横では恵が呆れ顔をしていた。
「あんな南瓜モドキが食べられるわけねえだろ。たとえ食べることができたとしても、絶対に不味いぞ」
「この際、不味くてもいいよぉ。おなかがくちくなるのなら……」
「ディルティーノには悪いが――」
と、光太郎が話に加わった。攻撃圏内に入ってきた爆車を見据えながら。
「――南瓜野郎を食うのはこいつらの役目だ!」
叫びざまに発動させたグラビティは『術式招来・八首龍王大蛇(コード・ヤマタノオロチ)』。八つの頭を持つ……いや、八つの頭以外にはなにもない蛇が召喚され、次々と爆車に噛みついていく。
「でも、こっちが食ってばっかりじゃあ、不公平だよな。南瓜野郎にも食わせてやんな、ネリシア」
「……うん」
光太郎の言葉に頷き、ネリシアが剣型の『グラファイト』を構えた。剣型といっても、普通の剣ではない。刃がブリュッセルワッフルを模しているのだから。
「ヘビーワッフル・ストライクッ!」
ネリシアの叫びとともに、網目模様の付いた刃が爆車に突き立てられた。
「腹をすかしてる人の前で美味そうにワッフルを食いやがってぇぇぇーっ!」
と、ディルティーノが追い打ちをかけた。またもや『rEpeaTtRanqUilizEr』で。
怒声を浴びた爆車の表面に亀裂が走り、隙間から内部の炎が漏れ出る。それでも車輪を止めることなく、ケルベロスに突進していく……と、思いきや、車輪が虚しく空転し、爆車はその場に立ち往生した。『rEpeaTtRanqUilizEr』に付与されたパラライズが働いたのだ。
そこに襲いかかったのはレン。
「もしかしたら、おまえたちもハロウィンを楽しみたいのかもしれんが――」
螺旋手裏剣を握った手が横一文字に走り、それを追うようにしてシャドウリッパーの傷跡が爆車に刻まれていく。
「――魔女に利用されての乱暴狼藉は見過ごせん」
「ええ、見過ごせませんね」
ゼラニウムが『クリスタル・ウィル』を力任せに叩きつけた。撲殺釘打法である。
「この南瓜たちがデウスエクスでなければ、縦横無尽に街を走り回る様もきっと楽しいパレードのようになったのでしょうが……残念です」
悲しげな眼をするゼラニウムの前で爆車が消えていく。
これで九体。
そして、ケルベロスは次の敵を求めて走り出そうとしたが――、
「兄ちゃん、今にも死にそうな顔してるやないか! これでも食っとき!」
――一房だけ前髪が付いた肌色のカツラ(亜紗斬を意識したのだろう)を被った男がディルティーノに駆け寄り、ビニール袋を差し出した。
『兄ちゃんじゃなくて姉ちゃんだよ』などと訂正をする余裕もない(余裕があったとしても、訂正しなかったかもしれないが)ディルティーノは獲物にたかるピラニアのような勢いでビニール袋を引っ掴み、その中に入っていた紙箱を開け、狂気を含んだ狂喜の声を発した。
「肉まんだぁーっ! ありがサンクス! 大、大、大感謝だよぉー!」
「肉まんちゃう! 豚まんや!」
ヅラ男に続いて、他の市民たちもケルベロスの周囲に集まり、差し入れや激励の言葉を送り始めた。
「いやはや。大阪の方々は人情に厚いですなぁ」
ラクシュミの仮装をした美女からペットボトルのお茶を受け取りながら、赤煙が顔をほころばせた。
「いや、ディルティーノさんのひもじそうな顔を見たら、どんなに非人情な人でも、なにかあげたくなるんじゃないっスかね」
一騎が笑顔を返した。もっとも、苦笑いだが。
実のところ、彼は人見知りであり、この市民たちのように押しの強いタイプの人間が苦手だった。
しかし、当然のことながら、『苦手』な人たちを見捨てるつもりなど毛頭ない。
(「俺は戦う事しかできないから……そう、戦いしか身の置き場がないから……」)
苦笑いを顔に張り付けたまま、一騎は決意を新たにした。
(「この人たちを絶対に守る」)
●完走! 聞けよ、快報!
十五時四十二分。
チームの活動区域は北区の梅田に変わっていた。
「十三体目……発見……」
翼を広げて空を舞っていたネリシアがそう呟くと、彼女の視線を追って『グラファイト 』が地上の一点を指し示した。
ネリシアだけでなく、ディルティーノと赤煙とゼラニウムも飛んでいる。各自が翼のないメンバーを抱きかかえて。
「おハロー、皆さん! ケルベロスin梅田商店街です!」
防具特徴の『フェスティバルオーラ』を全開にして(避難を促していると同時に敵の注意を自分に引き付けているのだ)市民に語りかけながら、ディルティーノが着地した。
「は、はやく降ろせよぉー!」
と、彼女にお姫様だっこされていた恵がじたばたと暴れた。青年のような外見のディルティーノ(女)の腕の中に少女のような外見の恵(男)がいる様はなかなか絵になっているが、だからこそ当人は恥ずかしくてしかたないのだろう。
すべてのケルベロスたちが着地した頃には、市民たちはもう安全圏に避難し、十三体目の爆車は射程圏内に入っていた。
「うちの蛇どもも南瓜は食い飽きてるだろうけど……」
光太郎が何度目かの『術式招来・八首龍王大蛇』で先制攻撃を加えた。
食い飽きた様子も見せずに南瓜に食らいついていく異形の蛇に続き、レンの腕が伸びる。
「倒すことによって、おまえを解放してやろう。魔女の軛から」
掌底が爆車に触れ、螺旋の力が内部に送り込まれた。
その力が爆発した瞬間、開かれたままの南瓜の口に赤煙が腕を突き入れた。しかし、拳を打ちつけたわけでもなければ、爪で引き裂いたわけでもない。
「いたずらはご免ですので、お菓子をどうぞ! のー・とりっく! とりぃーと・おんりー!」
餅を押し込んで窒息させたのだ。『破軍葬送餅(ハグンソウソウモチ)』という名の実に凶悪なグラビティである。
喉(があるのかどうはさておき)に餅を詰まらせて、目を白黒(眼窩の奥で炎がちらついているだけだが)させながらも、爆車は蔓で反撃した。狙いは赤煙。
しかし、一騎がまたもや盾となり――、
「こっちの蔓のほうが強力っスよ」
――攻性植物を蔓触手形態に変えて、ストラグルヴァインを繰り出した。
蔓に絡みつかれ、爆車が苦しげに身を震わせる。
その震えが激しい振動に変わった。ゼラニウムが背後から撲殺釘打法を食らわせたのだ。
そして、振動が収まる前に恵が肉薄し、愛銃『T&W-M5キャットウォーク』の銃口を密着させた。
「とどめだ!」
零距離から銃弾を撃ち込むグラビティ『スターダンス・ゼロインパクト』を決めて、恵は飛び退った。
彼が滞空している数瞬の間に爆車の姿は薄れていき、着地すると同時に完全に消え去った。
その後もケルベロスたちは探索を続けたが、新たな爆車は見つからなかった。警察や市民からの目撃情報も途絶えた。
「もしかして……終わり?」
「そのようですね」
首を傾げて独白したネリシアにゼラニウムが頷いてみせた。
「今、他のチームから連絡がありました。ヘスペリデス・アバターを倒したそうです」
「そいつぁ、なにより」
光太郎が大きく息をついた。
「深夜零時どころか、日が暮れる前に終わっちまったな。俺たちの奮闘の成果ってやつかねぇ?」
と、話を振った相手は赤煙。
だが、赤煙はなにも言わず――、
「……」
――ただ、親指を立ててみせた。いつでも多弁というわけではないらしい。
「さぁーて! じゃあ、ハロウィンを楽しむとするか」
恵が皆を促し、ゆっくりと歩き始めた。走り続けた一日だったが、今夜はもう走らなくていい。
「あー、おなかすいちゃったー」
「さっき、肉まんを食べたじゃないですか」
「違うよー、ゼラニウム。あれは豚まん」
言葉を交わしながら、他の者たちが恵の後に続く。
ただ一人、レンだけはその場に残っていた。
そして、ハロウィンの飾りつけをされた街並みに視線を巡らせた後、目を閉じて片合掌をした。
爆車たちの魂が救われることを祈って。
作者:土師三良 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年10月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 3
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