紅色に染まる

作者:あかつき

●秋の山
「ここ、すごい穴場かも……」
 紅葉狩りの為に、数人のグループで山登りに来た若い女性。他の友人は疲れたからと途中の平たい所で休憩しているが、元々彼女は山登りが趣味だった為に疲労は少なかった。
 こんな綺麗に紅葉しているのに、じっとしてるのは勿体無い。
 彼女は友人を置いて周りを散策していて、その場所を見つけたのだった。
 その時、彼女が見上げる紅葉の根元で、がさがさと草が揺れた。
「誰?」
 彼女が呟いた瞬間、顔を出したのは。
「人は自然に還るのが一番なんだから。ね、わかるでしょ?」
 鬼縛の千ちゃん、と呼ばれる攻性植物の中の一体。彼女が眉間にしわを寄せたその瞬間、千ちゃんは紅葉に謎の花粉を振りかける。
「何してるの?」
 彼女が首を傾げるのと紅葉が枝を振り回し始めたのは、大体同じタイミングだった。
「や、やだ……やめて!!」
 紅葉は枝を彼女の身体に巻きつけて、体内に取り込んでしまった。
「はい、よくできました!」
 千ちゃんは良い笑顔を浮かべた。

●紅葉
「茨城県の筑波山で、植物を攻性植物に作り変える謎の胞子をばらまく人型の攻性植物が現れたらしい。その胞子を受けた植物の株が攻性植物に変化し、その場にいた一般人を襲って宿主にしてしまった。急ぎ現場に向かって、一般人を宿主にした攻性植物を倒して欲しい」
 ヘリポートに集まったケルベロス達に、雪村・葵(ウェアライダーのヘリオライダー・en0249)が説明をする。
「攻性植物は一体のみ。取り込まれたのは女性だ。彼女は攻性植物と一体化しており、普通に攻性植物を倒すと一緒に死んでしまう。だが、相手にヒールをかけながら戦う事で、戦闘終了後に攻性植物に取り込まれていた女性を救出できる可能性がある。しかし、その分戦闘が長引く可能性がある。出来れば救出をお願いしたいが、第一目標は攻性植物の撃破になるだろう」
 葵はケルベロス達の顔を順番に見つめる。攻性植物は身体の一部を蔓のように変形させて攻撃して来たり、ハエトリグサのように変形させて噛み付いて来たり、黄金の実を宿して回復したりする。
「攻性植物に取り込まれてしまった人を救うのは非常に難しいだろう。だけど……紅葉を見に来て、そのまま帰ってこれなかったというのは、悲しい。だから、もし可能なら……救出してあげてくれ」
 そう言って、葵はケルベロス達を見送った。


参加者
蒼天翼・真琴(秘めたる思いを持つ小さき騎士・e01526)
ロイド・テスタメント(無へ帰す暗殺者・e03088)
パトリシア・バラン(ヴァンプ不撓・e03793)
卯真・紫御(扉を開けたら黒板消しポフ・e21351)
八尋・豊水(ハザマに忍ぶ者・e28305)
ルフィリア・クレセント(月華之雫・e36045)
ユリス・ミルククォーツ(蛍狩りの魄・e37164)
ヴィンセント・アーチボルト(ウルトラビートダウン・e38384)

■リプレイ

●散る紅葉
「紅葉、と書いて、こうよう、もみじ……ですね。本来は愛されるべきものが、その存在を歪められ、人を傷つける事に」
 攻性植物が出現したと言われるポイントまで、事前にユリス・ミルククォーツ(蛍狩りの魄・e37164)が地図で調べた安全なルートを通って向かっていくケルベロス達。ふわり、と頭上を舞う紅の葉を見て、卯真・紫御(扉を開けたら黒板消しポフ・e21351)が呟く。
「せっかくの行楽日和だっていうのに、無粋な事をしてくれるわね」
 軽い足取りで山道を行く八尋・豊水(ハザマに忍ぶ者・e28305)の後ろでは、戦闘の邪魔にならないよう気を配りながら、ヴィンセント・アーチボルト(ウルトラビートダウン・e38384)が木々の間にキープアウトテープを張り巡らせて行く。
「あれ……それにしても、落ち葉が多いですね」
 水筒のお茶で軽く口を湿らせたユリスが、頭上を見上げる。
 ひらり。ひらり。一枚、二枚。視界を埋め尽くす程になった紅色の向こう側には。
「紅葉狩りの時季となれば、自然とエサは向こうからやってくる……植物なのにアレコレ思い付くのは面白いですね」
 現れた紅葉の攻性植物に、ロイド・テスタメント(無へ帰す暗殺者・e03088)は身構え、呟く。
 蔓を自在に動かし、紅葉を散らす攻性植物。その幹の真ん中が、不気味に蠢く。その真ん中に見えるのは、意識を失った女性。ケルベロス達がその姿を認め僅かな安堵を覚えたのも束の間、周りの攻性植物はめきめきと軋むような音をさせ、女性を飲み込んで行く。徐々に幹に埋まって行く女性は、軈て助けを求めるように右手首から先を残し、幹の中に埋もれた。
「私たちが、きっと助けてあげる」
 呟きながら豊水はスカーフを指でつまみ口元を覆い、一般人の入り込めない殺界を形成する。
「攻性植物はどんな個体でも、やることは間違いなく、いつも通りのコレか……」
 豊水の殺気に包まれた空間で、相手を探すように左右に動く蔓を見詰めながら白蒼天翼・真琴(秘めたる思いを持つ小さき騎士・e01526)は心底嫌そうに顔を歪めた。しかし、どちらにせよやる事は決まっている。
「いつも通り、囚われた奴を助け出すだけだ」
 そう言うと、真琴は雲夜弦を構える。星雲を思わせる紐は、地面に展開し蟹座の紋章を描き出す。そして、真琴は静かに顔を上げ、幹から伸びる手首を見やる。
「少しの間、我慢していてくれ」
 真琴に掛けられた言葉に応えるように、僅かに指先が動いた……ような、気がした。
「ブラジルではプロレスラーの修行もしてマシタ。肉体の限界に挑戦するのがプロレスの面白さ。さぁ、プロのタフネスを見せてあげるワ!」
 パトリシア・バラン(ヴァンプ不撓・e03793)は言うなり地面を蹴って、攻性植物の蔓を掻い潜り一瞬にして距離を詰める。そして木々の隙間から天空高く飛び上がり、美しい虹を纏い急降下蹴りを浴びせた。
 千切れた蔓の先が幾つも辺りに飛び散り、途中で折れた枝はビチビチとのたうち回る。その様子は、まるで怒りに震えるようだった。
「李々」
 豊水は自身のビハインドに声をかけ、木々の根を避け走る。李々は豊水に先行するように蔦を避け、攻性植物の幹の後ろ側に回り込むと落ちた枝や葉、石や岩に念を籠めて飛ばす。攻性植物が身を蠢かせ、そちらの攻撃を避けようと躍起になっている隙を突き、豊水は飛ぶ。
「静む水面に波を立たせず……その心、鏡の如く。八尋流流血闘術!」
 紅の螺旋を纏い、豊水は攻性植物へと急降下する。
「八尋流決殺・紅螺旋烈錐脚!」
 豊水の飛び蹴りは、僅かに身を捻る攻性植物の幹の外側を確かに抉る。
「意識はありますか?! もうしばらく我慢してください!」
 抉れた幹の周辺を蠢かせ、痛みに震えるような攻性植物、その内側に取り込まれた女性に向かい、声をかけながら紫御は五本の針を取り出して、攻性植物へと投擲する。針は攻性植物の気功へと刺さり、治癒力を活性化させる。
「ちょっと回復量が心許ないでしょうか」
 然し乍ら、攻性植物は動きも見た目の傷もダメージを感じさせるもので、果たしてそれで中に取り込まれた女性の安全が確保できるか微妙なところ。これ以上のダメージは現時点では懸命でないと判断したルフィリア・クレセント(月華之雫・e36045)は、「失われた時の世界」に漂う何かの残滓を、自らの魂の内へと呼び出す。そして、グラビティチェインによって世界に適応したレプリカとして再構築し召喚する。その姿は、9本の尻尾を持つ狐。狐はこの世界に召喚された後、即座にルフィリアの顔の左半分を覆う仮面となる。
「魂の門を通り、結んだ絆を辿りて来たれ。あなたの姿は、生命を司る九尾の狐」
 そうして集めた生命力を、ルフィリアは仲間ではなく攻性植物へと賦与する。それにより、攻性植物の動きはほぼ元どおり、しかしそれでも回復不能なダメージは確実に蓄積されている。
「せっかくの紅葉の季節なのに、その紅葉した気を武器にするなんて、ゆるせませんね」
 そう言いながら、ユリスはバスターライフルを構え照準を合わせつつ、女性に向けて声を張る。
「頑張ってください! 僕たちが来たからには、もう大丈夫ですから……!!」
 女性の手にまだ生気がある事を確認しながら、その銃口からエネルギー光弾を射出する。真っ直ぐに伸びる光の帯は、攻性植物の蔦を破壊した。
 霧散した幾つもの蔦を惜しむようにうねる攻性植物は、勢いそのままにもぞもぞと枝を収束させて、捕食形態を形作る。ハエトリグサのような形に変じた攻性植物は、パトリシアの脚へと噛み付いた。
「ぐぅっ……」
 傷口から体内へと広がる毒に、パトリシアは僅かに呻きながら攻性植物を振り払い、瞬時にバックステップで距離を取る。
「おーおー、随分と情熱的な色してくれてんじゃネェか」
 紅い色のハエトリグサ。それを見たヴィンセントは、呟きながらもバイオレンスギターを構え、右手に持つピックで一度弦を軽く弾いた。
「いくぜ!」
 そして激しいロックアレンジで奏でられるのは「紅瞳覚醒」。立ち止まらず戦い続ける者たちの曲が、紅に染まる山中に響き渡る。
 戦う理由はギターを聴かせる為、しかしギターを演奏するのに理由は必要ない。何故なら、ヴィンセントの戦いはギターを聴かせる為にある。魂を込めたギターの音色は、ケルベロス達を奮起させるには十分だった。
「さて……私も、行きましょう」
 呟き、ロイドはエアシューズのローラーで地面を素早く蹴り、摩擦の熱を纏わせる。
「猟犬、参ります」
 きっと見据えるは未だ不気味に蠢く攻性植物。ロイドの言葉に答えるように残った蔓を伸ばす攻性植物の蔓をなんとか交わしつつ、体を捻った勢いで激しい蹴りを放った。
「全て無へ、その生を罰と知れ!」
 炎は攻性植物の枝を焼き、そして樹皮をも焼いていく。ぼろぼろと落ちていく樹皮と枝、その奥から女性の首元までが露わになる。

●樹は朽ちる
「もう少しの辛抱デス!」
 そこへ駆け寄るパトリシアは、そのまま飛び上がり攻性植物へとバビロンストレッチ・TGをかける。相手の身体に絡みつくパトリシアの手足、そして逸らし捻られる肉体。
「フォーティーエイトアーツ、ナンバートゥエンティトゥ! バビロンストレッチ!」
 歪んだ幹はめきめきと音を立てるが、それにより生命力が賦活され回復していくのが見て取れる。しかし、それでも回復されないダメージは蓄積されているようで。
「敵のダメージも溜まって来ているようだが……まだだな」
 目を細めて女性の様子を伺う真琴だが、小まめなヒールが功を奏してか今のところ極端に弱っている様子は見受けられない。真琴はそれを確認し、想蟹連刃を地面に突き立て、蟹座の紋章を浮かび上がらせ、ケルベロス達に守護を与える。
「そうですね……まだ余裕はありそうです」
 攻性植物の様子を同じく伺っていた紫御は、真琴に同意を示して大きく頷く。
「まだ余裕ありって事は……行っちゃうわよ、紫御センセ」
 とはいえ、かれこれダメージの調整が必要になってきてもおかしくはない頃。やりすぎないよう、とだけ念頭に置き、豊水は駆け出す。李々は遠目に構え、攻性植物に金縛りをかける。動きの鈍った攻性植物に、豊水は身を屈めて懐へと潜り込み、そして螺旋を籠めた掌を表面に伸ばす。内部を破壊するように暴れる螺旋の力に、焼け残った樹皮は捲れ、女性は身体半分が視認できるまでとなった。
 ぎゅんぎゅんと枝を振り回し暴れる攻性植物は、紅の葉を付ける枝に黄金の果実を宿し、聖なる光で自身の傷を回復しようと試みる。しかし。
「傷の癒え方が鈍って来ましたね。もう少しですが、気を抜かないようにしてください!」
 紫御は仲間達にそう注意喚起をし、自身は少し考えてからぐっと拳を握り、手加減をして攻撃を加える。
 めきめきと折れる枝を払い、ユリスはエクスカリバールを振りかぶる。
「絶対に、助け出してみせます!!」
 女の人に怪我をさせないよう、油断せずに、焦らずに。ユリスは自身に言い聞かせながら、エクスカリバールに釘を生やし、攻性植物を殴りつける。ユリスの掛けた言葉に、女性は意識はないもののぴくりと反応した。
「っ!! あと少し、頑張ってください!!」
 女性が無事であることを見て取ったユリスはぐっと気合を入れ、見切られることを織り込み済みで再度エクスカリバールを振り上げた。
「どうしたァ! 盛り上がりが足りネェぜ!」
 そんな中、ヴィンセントは無差別に振り回される蔦で傷付いた仲間達を癒すため、今度は熱く激しい、けれど明るく爽やかな、駆け抜ける夏の涼風のようなギターソロ、【Sky diver】を奏で始める。背中を押す強い追い風になるように、立ち塞がる障害を打ち砕く力となるように。ジャァン、と掻き鳴らされるギターの音色は、力強い。
「業ごと焼き尽くしてやろう!」
 音色に背中を押されるように、ロイドは駆け、そして。
「さぁ、植物は植物らしく冬になる前に枯れな? 何時かは2度と芽が出ぬようにしてやるよ!」
 繰り出される電光石火の蹴りは、攻性植物の体力を確実に削り取る。
 ぐねんぐねんと悶える攻性植物に、振り回される女性の顔色が冴えない。
「ヒールする。少し待っていろ」
 仲間達と、それから苦しげな女性に対し声をかけ、真琴は蒼き光の調べを奏でる。
「響け、壮麗の調べ。生命の息吹、来たれっ!」
「うぅ……」
 癒しの調べに僅かに反応する女性を見て、パトリシアが駆ける。
「少し、我慢なのデス」
 暴れまわる蔦で傷つけられながらも、パトリシアは螺旋の力を籠めた掌をその幹に叩き込む。
「これで終わりです」
 仲間の援護のために動き回りながら、隙をみては接近して攻撃を加えていたルフィリアが、パトリシアの攻撃を受けた衝撃に予約出来た隙を見逃す筈もなく。
「いきます」
 急所を狙った蹴りは、攻性植物の根元を貫いた。
 その瞬間、内部から破裂するように樹皮は弾け飛び、幹は木片となり舞い散る。

●紅に染まる木々の中
「危ないっ!」
 その衝撃で吐き出された女性に、紫御は駆け寄りなんとか地面に衝突する間際にキャッチした。
「う、ぅん……」
 震える睫毛が、微かに持ち上がる。
「どう、先生?」
 豊水が様子を尋ねながら駆け寄るのと、彼女が瞼を開いたのとはほぼ同時だった。
「私……?」
「もう大丈夫よ。手荒な助け方でゴメンね……」
 す、と細められる豊水の目に、被害者女性が僅かに首を横に振る。
「いいえ……きっと私、あのままじゃ……助かり、ませんでしたから」
 そう言う女性の頭を支える紫御は、女性に尋ねる。
「お怪我はありませんか? もし辛いようなら救急車の手配も致します」
 紫御の申し出に、女性は小さく首を横に振りながら身体を起こす。然し、その動作は酷く緩慢で、大きな怪我こそ無いものの万全の状態では無いだろうと察せられる。幾つかの擦り傷と、打ち身と。
「いえ、少し……疲れ、ましたけど、大丈夫です」
 心配そうに見つめるケルベロス達に、女性はなんとか立ち上がり、にこりと笑ってみせる。その顔色は、とても血色が良いと言い切れるものではなかった。
「さぁてそんじゃあ……景気付けに一発演るとするか!」
 ヴィンセントは一連のやり取りを見るや否や、ギターを構えなおしてロック調のメロディを奏で始める。女性の傷も、辺りの破損も、全て治してみせると言わんばかりの気迫の籠もった演奏に、女性の顔色が若干明るくなった。
「元気の出る、曲ですね」
 呟く女性の手を取って、豊水はその甲についた擦り傷をヒールで癒す。
「貴女を助ける事ができて、良かったわ」
 近くに開いていた穴を埋めながら歩いてきたのは、ルフィリア。
「貴女が無事で何よりです。貴女がここで帰る事が出来なければ、きっとご家族や一緒にいた人達の心にも、傷を残す事になってしまっていたでしょうから」
 ルフィリアの変わらぬ表情からは感情はまるでわからないが、それでも安堵しているであろう事は言葉に滲む。
「…………無事なら、問題ない」
 遠目にその様子を見ていた真琴は、そう呟くと木々と山肌の補修作業に取り掛かり始めた。
「助かって良かったワ!」
 パトリシアも同様に、ほっと息を吐きながら戦闘の過程で折れてしまった他の木の補修に当たる。
「周りに他の攻性植物はありませんし、もう大丈夫ですよ」
 ヒールグラビティを装備してこなかったユリスであるが、女性を心配する気持ちは他のケルベロス達と何ら変わらない。
「助けてもらった上に、傷の手当てまでしてもらって……ありがとうございました」
 頭を下げて礼を述べ、元来た道へと去っていく背に、ロイドも安堵の微笑みを浮かべる。
「ちょっと待って、送って行くわ」
 そう言って豊水はちらりと紅葉を一瞥し、女性の元へと駆けていく。
「さて……折角なので、少し紅葉を見て帰りましょうかね」
 ヒールが終わり、ほぼ元通りになった紅に染まる木々を見上げ、ロイドがぽつりと呟く。
 ひらひらと、残ったケルベロス達の元へ、紅の葉が落ちてくる。その様子は、まるで紅葉達が礼を言っているかのようだった。

作者:あかつき 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年10月30日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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