ハロウィンティーパーティー~嗚呼、貴方さまの為に!

作者:木乃

●アリス・パーティー四姉妹
 モザイクだらけの海底に似た世界、メルヘンなガーデンテラスがひとつ。
 紅茶と甘い焼き菓子を囲うのは、愛らしいエプロンドレスの四姉妹。
 甘美な空気に満たされるそこへ西洋の王族を思わす青年がそよ風のように現れる。
「……美しい星だ。ママのアップルパイにも匹敵する」
「「お、『王子様』……!」」
 優雅に立ち振る舞うその姿に、四姉妹は驚きと歓喜に満ちた声をあげる。
「ティーパーティの四姉妹。君達に、お願い事をしておこう」
 穏やかな微笑と声音に、褐色の魔女は可憐な乙女のように恥らう。
「ああっ、そんな優しい言葉を掛けちゃダメだよぉ……心が、心が、壊れちゃう……!」
「戦闘集団と名高き『オネイロス』の精鋭部隊でも、私への恋心に耐える事は叶わぬか。ならば君達には、命令だけを残していこう」
 『王子様』の紡ぐ言葉ひとつひとつに、ロイド眼鏡の魔女は感嘆を漏らした。
「ああ、光栄です……必ず、この私が、王子様の期待に応えてみせます……!」
「くす。楽しみにしているからね」
 全てを聞き届け、真っ赤な瞳の魔女は薔薇色の唇に弧を描く。
「さあ皆さん、この世でもっとも素敵なお茶会を開きますわよ! あ、ついでに私にピッタリの優美でメルヘンで華麗な会場も用意してくださいね♪」
「あはっ、『王子様』のためにも素敵な生贄を用意しなくちゃね」
 嗜虐的な微笑を浮かべる銀髪の魔女も黒い扇をパチリと畳み、四人の魔女達は席を立つ。

 ――夜の繁華街、細いヒールを鳴らす女性の前を林檎色の瞳をした魔女が立ち塞がる。
「貴方、パーティの華に相応しい美貌ですわね。妹達が手掛けた私自慢のパーティ会場へ招待してあげましてよ♪」
「え?え?うわ、なにこれ!?」
 豪奢な封書に驚く女性を見て虚栄心のアリスはご満悦な様子。
「そちら、貴方に差し上げます。その招待状が無ければ会場に入れませんので」
「う、うん。無くさなきゃいいんだね」
 『否!』 反論代わりに鼻先をビシリと指す。
「もし自分よりも相応しい人物が現れたならば、招待状はお渡しなさいませ……よろしいですわね?」
 有無を言わさぬ迫力に唖然とする女性は頷き返すしかなかった。

●この世でもっとも素敵なお茶会
 ハロウィンの力を求めてドリームイーターの魔女達も動きだした。
 オリヴィア・シャゼル(貞淑なヘリオライダー・en0098)の要請に緊迫した空気が張り詰める。
「都内では四姉妹の魔女が、選りすぐりの一般人を招待したハロウィンのティーパーティーを企てています。このティーパーティーに集めた一般人を殺害することで、純度の高いハロウィンの魔力を手に入れようとしているようですわ」
 だが魔女達もケルベロスを警戒しない訳がない、既に対策をとられていた。
「このティーパーティーは、特殊なワイルドスペースで行われているらしく、『招待状』が無ければ入ることも出来ないようですわ。もし暴力的な手段、事情を話して招待状を手に入れた場合も招待状は『無効』となり、侵入することが出来なくなってしまいます」
 だが、招待状を受け取るためにはルールがある――とオリヴィアは言う。
「招待された人が、皆様を『自分以上にティーパーティーに相応しい参加者』であると納得できれば、招待状を譲渡してくれるようですわ」
 オリヴィアもすでに招待状を受け取った人物について調査を済ませており、招待状さえ入手できればワイルドスペースへの侵入が可能になる。
「皆様は招待状を入手し、ワイルドスペースへ侵入して魔女を撃破してくださいませ。招待状を手に入れられなかった場合も、内部での戦闘で、ある程度のダメージを与えられれば侵入が可能になりますが……侵入した人数次第で戦闘はかなり不利になるでしょう」
 できるだけ『招待状』を手に入れられるように、頑張って欲しいとオリヴィアは付け加える。
 このチームは『虚栄心のアリス』と対峙することになる。
「どうやら『銀座』のワイルドスペースを占拠しているようですわ。内部の様子は把握できませんが、ケルベロスが侵入すれば『虚栄心のアリス』はすぐに気づくでしょうね」
 『虚栄心のアリス』は最高のパーティには最高の招待客を、と考えているらしく招待客もかなり厳選している。
「選ばれた8人は『パーティの華』『紳士・淑女』『盛り上げ役』の3タイプですわね。パーティに華を添える容姿端麗な者。身嗜みや礼儀作法を弁えた者。会場を盛り上げるための一芸に秀でた者などですわ」
 まるで自身に不足した『虚栄心』を満たすような人選だと、オリヴィアは呟く。
「『パーティの華』はいかに自分が魅力的か、『紳士・淑女』はいかに礼節を重んじているか、『盛り上げ役』はギャグや演奏でそれぞれ招待客にアピールして、ケルベロス達が上回っていることを認めれば、招待状を譲ってくれるようですわ」
 招待状の獲得後は、『虚栄心のアリス』が開くパーティ会場へ赴くことになる。
「『虚栄心のアリス』は手にしたカップやティーポットから嗤う猫、狂った帽子屋、時計ウサギを召喚して攻撃してきますわ。嗤う猫は奇怪な笑い声で錯乱させ、狂った帽子屋はアリスにお茶を注いで異常状態ごと回復し、時計ウサギは接触すると爆炎を巻き上げますわ」
 招待状を手に入れるのは難しいかもしれないが、一通でも多く入手することが作戦の要である。
「もし招待状を得られなかった場合も、ワイルドスペースに入ることを防ぐ為に招待状を取り上げるという方法もあります。効力は無効化されてしまいますし、荒事に発展させるのは気まずいかと思います……最終手段として、頭の隅に置いてくださいませ」


参加者
喜屋武・波琉那(蜂淫魔の歌姫・e00313)
フィルトリア・フィルトレーゼ(傷だらけの復讐者・e03002)
獅子鳥・狼猿(醤油サイダー・e16404)
月詠・宝(サキュバスのウィッチドクター・e16953)
ユグゴト・ツァン(不変の怪・e23397)
キャロライン・アイスドール(スティールメイデン・e27717)
天泣・雨弓(女子力は物理攻撃技・e32503)
土門・キッス(爆乳天女・e36524)

■リプレイ

●どっちが相応しいでSHOW
 ラブフェロモンを放つ喜屋武・波琉那(蜂淫魔の歌姫・e00313)は伊集院聖也と接触し、丸ノ内のカフェに居た。
「聖也さんは人を惹きつける魅力ってなんだと思う?」
「さぁ?オレの『財布』が好きな奴なら多いぜ」
 返答代わりの皮肉めいた笑み。彼は居丈高ではないのだと、今の波琉那なら分かる。
「私は華やかでも色褪せてしまう造花より、香りと自然の色で癒して散る花になりたい……かな」
 波琉那の例え話に伊集院は怪訝に眉を寄せ――ふ、と笑みをこぼした。
「金じゃ買えねぇ物は値がつかねぇから困るよな」
 伊集院のジャケットから真っ赤な封蝋を施した封書を差し出される。
 代わりに領収書を手に席を立ち、波琉那の手元に招待状だけが残った。

「会長に本日面会の予定はありません」
 汐留のとあるタワービルに潜入したフィルトリア・フィルトレーゼ(傷だらけの復讐者・e03002)だが、水戸征二郎の側近に足止めされていた。
 騒ぎに気付いて白髪頭の偉丈夫が会長室から出てくる。
「……予約のない接見は感心せんが、若い娘の不勉強か」
 社内での面会ならば電話確認がマナー。隣人力が効果したのは幸運だ。
 会長室で革張りのソファに促される。
「私、フィルトリア・フィルトレーゼと申します」
「知らん名だな、どこの娘さんだ?」
 水戸の問いにフィルトリアは言葉を詰まらせた。
 プラチナチケットは不特定多数の中の関係者と思わせられるが、特定の関係者だと思わせることは出来ない。
 口を閉ざすフィルトリアに水戸は顔をしかめた。
「約束も取り付けない、身分も明かさない、それで用件は済ませようってか?……そいつは手前勝手ってもんよ」
 会長としての水戸は毅然とした態度を崩さない、これではお茶会の誘いにも乗らない可能性が高い。
 面会を正式にとりつけていれば水戸の応対も大きく変わっただろう。
「……すみません。でも、征二郎さんの招待状がどうしても必要なんです」
 打つ手はないと悟り、フィルトリアは事情を話し始める。

「あんたじゃぁ『パーティの盛り上げ役』はこの国では二番目だぜ」
 劇場に現れた獅子鳥・狼猿(醤油サイダー・e16404)の発言に、打ち合わせ中だったせやかて宮藤は不敵な笑みを返す。
「カバだけに大口叩いたってか?ちょっとおもろいのが腹立つわ!ええよ、持ちネタ見せてもらおか」
 観客席から宮藤とスタッフが見守る中、狼猿が舞台袖に立つ――渾身の盛り上げ力に刮目せよ!!
 ハーモニカを演奏しながら狼猿が登場すると、エア敵にぶっ飛ばされたり、サモ●ンばりの巧みなアクションで一人ヒーローショーを全力で演じる。
 最後は両手を腹の前に添え――最終決戦モードな変身!!
「カバっと解決。カバっと解決――快傑カバット」
 ビシッ!とメリハリある変身ポーズにスタッフから大きな拍手が上がる。だが、宮藤は納得いかなかった。
「それ特撮やろ!?せやかて、芸人やから!特撮は門外漢やて……」
 抗議する宮藤は頬杖ついた手で顔を覆ってしばし考え込むと、
「……あんたの度胸は認めたる。場数は必要やけどな」
 と招待状をチラつかせる。大口を叩いただけはあった、と暗に宮藤は認めたのだ。

 猪瀬セレナが構内から出た直後、月詠・宝(サキュバスのウィッチドクター・e16953)の薔薇の花束が肩を掠める。
「失礼しました!お怪我はありませんか?」
「大丈夫です。お花も無事です、か……」
 栗色の長髪を揺らすセレナは頬を桜色に染めた。おそるべし恋愛脳とラブフェロモンの相乗効果。
「それよりあなたの肌を傷つけていないか心配だ」
 穏やかな笑顔で覗き込む宝、薔薇よりも情熱的で真摯な眼差しは見つめ合い……セレナは恥らうように顔を逸らす。
「では、お詫びに」
 宝は薔薇を一本渡し、数歩離れたとき――。
「あ、あのっ」
 振り向くと一通の封書が差し出され、宝が受け取るとセレナは逃げるように立ち去る。
 現時点で3通の招待状が集まった。

 ユグゴト・ツァン(不変の怪・e23397)は瀬田宗次の練習場へ面会を申し込み、ピアノ付の防音室へ通された。
「演奏を聞いて欲しいって聞いたけど」
「然り。我が音色を届ける、その為に私は此処に在る」
 瀬田が腰かけるとユグゴトがヴィオラを構えた。
 ――泡立つ恐怖。けれど底知れぬ深淵への好奇を。
 狂気を奏でるユグゴトを瀬田は険しい表情で止めた。
「ヴィオラについて僕は素人だけど、君の音は『楽しませよう』という感じが……いや、僕は評価できないと言うべきだね。僕は聴衆を楽しませたい人間だから」
 そこで致命的な勘違いに気付いた。
 ユグゴトの考えるお茶会はヘリオライダーの予知した危険なお茶会。
 真実を知らない瀬田は『楽しいお茶会』だと思っているだろう。
 あるいは、狂気を好むユグゴトとは初めから相性が悪かったか。
 招待状を出す気配はない、仕方なくユグゴトは説得に移る。

 キャロライン・アイスドール(スティールメイデン・e27717)はコンビニから出てきたマズハール・北大路に『演奏を聞いて欲しい』と申し出る。
「何か曲でも作れないかと思いまして」
 キャロラインの申し出に、北大路は何か言いたげだったが小さく頷く。
 近所の公園まで同行してもらうと、今日の為に仕立てた『和』をイメージしたムーン・コートが凛とした風を吹かせる。
 二人きりのコンサート、心より楽しんで欲しい。
 もてなしの気持ちを込めてのびやかに歌うキャロライン。
「――眠れぬ夜に 君の笑顔を思い出して この空を見上げて 歌うよ」
 歌いきったキャロラインに北大路は拍手を送り……瞼をこする。
「申し訳ない、仕事終わりで疲れているもので」
 勤め先から帰るときは接客や品出しなど、仕事で心身共に疲れている。
 労いの心を見せていれば北大路も感銘を受けただろう、なによりこの手法は瀬田向きだ。
 睡魔に抗う北大路に申し訳なく思いつつキャロラインは招待状の譲渡交渉を始める。

 佐倉井夢子の稽古場がある京橋に降り立った天泣・雨弓(女子力は物理攻撃技・e32503)は夢子の情報を端末で検索していた。
 大物女優との共演も少なくなく、常に礼儀作法を求められる環境だと窺える。
 着物の乱れを確かめていると夢子がやってきた。
「お嬢さん。髪型が崩れかかっていますよ?」
 呼び止められた夢子は雨弓が手を伸ばすより先に手櫛で直す。
 10歳なら最低限の自立心はある。雨弓は改めて「駅へ案内して欲しい」と時間稼ぎにかかった。
「素敵におめかしして、これからお出掛けですか?」
「常に他人から見られる意識を、と母から」
 優しい声色や笑みを見せつつ他愛のない会話を続け……駅に着いてしまった。
 雨弓の立ち振る舞いは良識的な大人なら当然の範囲。
 夢子がボロを出すよう誘導した方が手っ取り早かっただろう――だが夢子は雨弓をじっと見つめ、
「……少し、迷いましたが」
 と、自らの招待状を託した。

 有楽町で買い物中の稲葉明日香に黄色い悲鳴、プリンセスモードでド派手に決めた土門・キッス(爆乳天女・e36524)だ。
「小悪魔ダリア読んでからキッス憧れだったの!」
 明日香はさすがのノリの良さ、ファッション指南の求めも快諾。
(「意気投合してお友達になれば招待状ゲットよ!」)
 ――だが、明日香は女の園を制する夜の女王。
 派手さは好むが、それは流行の最先端を取り入れたもの。
 派手さを優先したキッスは個性的であるが流行に乗ったとは言い難く、指南を求めた時点で『自分以上の魅力的だ』と思わせるのは厳しかった。
「ごめん!これから用事あるんだ、そろそろ失礼するね」
 招待状は話題に上がらぬまま、明日香は申し訳なさそうに両手を合わせて走りだす。

 入手した招待状は計4通。
 残る3通は無効化され、明日香の元に1通残す形となった。

●最高のパーティ
 会場は銀座が誇る老舗デパートを飲み込んだワイルドスペース。
 粘性の液で満ちた内部はハーリキンチェックの床と、深紅の薔薇で彩られた鳥籠のようなガゼボの中に9人掛けの円卓。
 そして豪華な茶器にマカロンやタルトのスイーツタワーがテーブル中を埋めていた。
「まだお一人だけ?」
 虚栄心のアリスは明日香に恭しく一礼すると、哀愁漂うハーモニカの音が響きだす。
「だ、誰ですの!?」
「ここであったが初めまして……ここが貴様のデッドエンド」
 荒ぶるカバのポーズを決めた狼猿の名乗り口上に、アリスは美貌を引き攣らせた。
 明日香を救出すべくこの隙に宝が駆けだす。
「野犬風情が、私の庭園を荒す気ですわね!」
 アリスは時計ウサギを手近な明日香めがけて走らせ、
「ひっ!?」
 宝が覆い被さってウサギは鉄柵に激突した。
 初手をケルベロスから逸らせたのは不幸中の幸い。
 狼猿の背後から波琉那がオウガ粒子を放ち、雨弓の突撃にナノナノのだいふくが追随してハート光線を放つ。
「あれはてめぇを殺す気だ、すぐに脱出しな」
 宝の言葉に明日香は涙ながら頷くとよたよた走りだす。
 紅茶を飲むアリスが狼猿を優雅にかわすと、背後の円卓が豪快に破砕されお菓子が吹き飛ぶ。
「カバを舐めんなよ」
「なんて野蛮なっ」
 きひひきひきひひひひひきひひ!! ――ポットから溢れる猫の嗤い声がオウガ粒子を掻き消し、狼猿の脳内に響き渡る。
 脳内の声を振り払おうと暴れかけた狼猿を白いのがハートのオーラで鎮静させる。
「どこまでも追い詰めてあげる!」
 波琉那も魔弾や追尾矢を乱れ撃ちアリスを追い回す。
 動きを制限させようと仕掛けていくが、一瞬だけの効果に命中や回避を妨害する効果はない。
 だが、確実性を優先する雨弓との連携でアリスへダメージを蓄積させていた。
「この斬撃、あなたに見切ることができますか?」
 宝がウサギを受け止める隙に、雨弓は旋風を描きながら突撃する。
 二振りの鉄塊から放つ一撃はアリス自慢のエプロンドレスを裂き、空間が僅かに揺らいだ。

 度重なる攻撃に自慢の庭園も乱され、アリスに連動してワイルドスペースにも影響したようだ。
「援護しますわ! ――その傷ついた翼を広げ 再び大空高く羽ばたいていけ!」
 外で待機していたキャロライン達も突入し、Esperanza ST-98eカスタムで狼猿達に激励の歌を送る。
 『立ち去れ』の一文が書かれた鉄塊剣をユグゴトは大きく振りかぶる。
「観よ。古の存在が我等を従え、永い眠りから――!」
 怒りの炎を焚きつけ注目を集めようと力任せに叩きつけていく。しかし彼女の目論見を崩す術がひとつ――『狂った帽子屋』だ。
 あらゆる異常状態を癒すデタラメなティータイムで鎮静化させてしまう。
 治癒効果を強化し、敵の補助効果を打ち消す。アリスの立ち回りに完全に翻弄されていた。
「おーっほっほっほっほっ! その程度で気を引こうなんて、お里が知れましてよ?」
(「やはり、オネイロスとは、私の思った通り……」)
 高笑いを上げるアリスを凝視するフィルトリアが冷凍光線を放つ。溢れる高貴と圧倒する威圧感に喉を鳴らす。
 ウサギは抱えた時計ごと波琉那に突撃し、遮った宝の皮膚を爛れさせていく。
「もうやめてアリスちゃん!あなたは騙されてるのよ!」
 キッスはオーロラで延焼を抑えるとアリスに呼びかけた。巻き込んだ明日香には申し訳ない気持ちで一杯だが、目の前にいる少女も見過ごせない。
「アリスちゃん可愛いから、生きてたらまた新しい出会いが待ってる!キッスと友達になろう?キッス、アリスちゃんが大好きなの!」
 キッスの説得にアリスは金の巻き髪を揺らし、蔑み混じりの冷酷な眼差しを向ける。
「犬の言葉なんて、狂った帽子屋より信用に値しません。今すぐ消え失せたら、泣いて喜ぶマネくらいは考えてあげましてよ♪」
 露悪的で心無い言葉をポットから溢れる縞々猫がゲラゲラと嗤う。
 その声が波琉那達の正気をすり潰し、狂乱の世界へといざなった。
 相互理解などあり得ない。庭園を荒らす野犬は死を以て失せるがいい――!!

「断り方っつーのも、程度があんだろうがよ……!」
「人の命や心を傷つけて、私はあなたを許しません」
 相討ちで白いのが戦線を離脱し、序盤から庇い続けていた宝は全身から肉の焦げる臭いを漂わせていた。
 少しでも阻害しようと宝が殺神カプセルでアリスのエプロンを汚すと、次いでフィルトリアの拳がアリスのドレスを引き裂く。
(「耐性をつけても全部無力化されてしまうなんて……!」)
 錯乱するユグゴト達をキャロラインの熱唱が呼び覚まし、矛先を再びアリスに戻させる。
 補助効果は戦局を優位にしやすくするが、メディック相手では持続効果が打ち消されてしまうのが弱点と言える。
 キッスの支援も充分カバーできるほどではなく、戦局は拮抗している――はずだった。
「だいふくっ!!」
 ハートのビームを照射してアリスが止まった一瞬。雨弓の翼が光の奔流となりアリスのくびれた脇腹を抉り落とす。
 スート状のモザイクがこぼれ落ちる様子にアリスは目を見開いた。
「この……小娘風情がぁぁ!!」
 整った相貌を歪ませてアリスはヒステリックにお茶を振りまく。響き渡る猫達の奇妙な嗤い声を宝が気力で飛び込んだ。
 突き飛ばす形で音波から防いだ宝だが、心身の消耗が激しく立ち上がる余力は残っていなかった。
「貴様は此処で終わる。死の果てに至れ!」
「あなたの審美眼じゃ人の価値までは計れないみたいね!」
 精神的な疲労を感じながらもユグゴトは刃を奮い、虹の軌跡を描く波琉那の飛び蹴りがアリスの額を傷つける。
 疾駆するウサギ達の爆撃を受けながらフィルトリアが飛び込む。
「あなたに安らかな眠りは与えません、永劫の死の中で足掻き続けてください」
 清廉なる純白の炎がアリスのドレスを焼き切る。アリスから溢れるスートのモザイクに止まる気配はない。自慢の巻き髪が崩れるのも構わずアリスは髪を振り乱した。
「オネイロスの、精鋭たる、この私が……犬ごときに敗北なんてぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
「悪いが、オレッちはカバなんでね」
 喚き散らすアリスを狼猿が天高く突き上げた。ガゼボを突き抜けて真っ暗闇の空へと放ち、狼猿がその背に密着したままアリスの両腕を拘束する。
「永かった 戦いよ さらばーーーーーーーーーーーーッ!!」
 ――アリスは地上へ真っ逆さま。
 光輝で華麗なカバさんと、最期のダンスで真っ二つ!
 アリスのお茶会。楽しいお茶会。これでなんにもなくなった――。
「宙返りできない河馬は唯の馬鹿だ。だからオレッちは爪を隠すのさ」
 消失していくアリスに狼猿が背を向けると、同時にワイルドスペースも姿を消した。

 銀座も控えめながら上品なハロウィンの演出を施している。
 最高のお茶会に虚栄はいらない。最高のパーティは皆が楽しみ、皆で作り上げるものだから。

作者:木乃 重傷:月詠・宝(サキュバスのウィッチドクター・e16953) 
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年10月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 8
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