悲しむ者よ、その怒りは我らの拳で受け止めよう

作者:ほむらもやし

●予知
「もうすぐハロウィンだね。ホント待ち遠しいなあ♪」
 傘のように膨らんだスカート、フリルの装飾、ピンクのリボン、まるで神にでもなろうとする魔法少女の如き衣装を身につけた女子――その名を美奈世と言う、は、背中に付けた大きな羽根を動かす紐を引いて動作を確認する。
「もう、絶望することなんて、絶対無いんだからねっ!」
 ……という感じで、自作のハロウィン衣装のできばえを確認した美奈世は鏡に映る等身大の自分を眺めながらくるりと回った。
「え? あなたち誰? え、うわっ、って、どこから入ったの?」
 そこに突然、現れたのは、2人の魔女――赤いとんがり帽子に丈の短いマントを身につけてはいるが、半身はケンタウロスの如き馬の身体を持つ、第八の魔女・ディオメデス 、もう一方は、露出度の高い、まるで南国の踊り子の如き派手な衣装を身につけた、第九の魔女・ヒッポリュテであった。
「あっ、やめてっ、何するの――」
 ビリビリビリ、メリメリバキッ! グチャッ、メリビリ。
 2人の魔女は美奈世が身につけていた、衣装をビリビリに引き裂いて、持っていた弓もベキベキにへし折った。
「ズギャァァアン!! なんでこんな酷いことするの! 2ヶ月も掛けてつくったのに、2秒でこんなにして、あんまりだ。こんなのってないよ!!」
 嘆きと悲しみ、沸き立つ怒りに、美奈世は、宇宙の道理をねじ曲げんばかりに声を荒らげる。
 次の瞬間、自分で考えた必殺パンチを繰り出そうしていた美奈世の心臓を目がけて2人の魔女はそれぞれに鍵を突き出した。
 ――ああこんなにたくさんの血が、わたしもう、死ぬんだ。
 実際には、血は出ていないし、痛みも無いはずなのだが、美奈子は思い込みに基づいて脚色し、呟いた。
「私達のモザイクは晴れなかったねえ。けれどあなたの怒りと、」
「オマエの悲しみ、悪くナカッタ!」
 2人の魔女の言葉を聞きながら、心を映す宝石を真っ黒に濁らせたかのように美奈世は意識を失い、崩れ落ちる。そして脇にはピンクの魔法少女の如き上半身と無数の繊維状の膨らみによって形成される下半身をもつ、ドリームイータと、黒翼を持ち二連のおさげをしている黒い魔女の如きドリームイーターの2体が現れる。
 次の瞬間黒い魔女のようなドリームイータはふわりと飛び上がると、出発を促すようにピンクの魔法少女の方に顔を向けるのだった。

●依頼
「誰にだって、大切にしたい物のひとつくらい。いやふたつやみっつ、もっとある人もいるかも知れないね」
 今回、事件を引き起こすのは、そうした大切な物を破壊して、怒りの心を奪う第八の魔女・ディオメデスと、悲しみの心を奪う第九の魔女・ヒッポリュテの2人。
 ケンジ・サルヴァトーレ(シャドウエルフのヘリオライダー・en0076)は、レベッカ・ハイドン(鎧装竜騎兵・e03392)が懸念していたように、ハロウィンの為に自作していた人が襲撃され、それを破壊されたことで、生み出されたドリームイーターが動き出そうとしていると告げた。
「ドリームイーターは合計2体。1体は、上半身がピンクの魔法少女の見た目で、下半身の方が無数の繊維の集まりになっている。もう1体は、二連の長いお下げと大きな黒い羽根が特徴的な黒い魔女のような見た目だ。これら2体は、まず近所を徘徊して出会った者を襲いグラビティチェインを得ようとしている。だけど、今ならまだ、このドリームイータが現場となる文化系サークル会館から遠く離れる前に到着できる」
 悲しみのドリームイーターは黒い魔女の見た目の方である。
 人間を見つけると、『物品を壊された悲しみ』を語る。
 今回の場合は自作したハロウィンの衣装を破壊された。という内容になる。
 この悲しみに対し、ドリームイーターが満足する形で理解を示さなければ、即戦闘状態になる。
 無数の繊維状の下半身を持つピンクの魔法少女っぽい方が怒りのドリームイーターである。
 攻撃手段はどちらも、ドリームイーターらしくモザイクを飛ばして来るが、そのほかに、悲しみのほうは、空中に召喚した無数のロケット弾や対戦車ライフルのような軍用火器類のようなものをぶっ放して来る。また怒りの方は因果をねじ曲げるような精神的な威圧感を発して精神を蝕ばんで来る。
「現地到着は午前6時頃、休日の早朝、大学のキャンパス内であるため、周囲に人は居ない。だから特別な人払いの必要も無い。念のためだけど、細かすぎることは気にすると胃が痛くなる。もしかすると一部の健康志向な人たちが、大学内のループ道路やペデストリアンを歩いていることもあるかも知れないけれど……、確かにそう指摘を受ければ、無いとは返せないよね。でも、わざわざ危険を冒してまで戦いの様子をスマホで撮影したり、近寄って応援しようとか思うはずないので、本当に気にする必要は無いからね」
 現場となる文化系サークル会館の南には池があり、周囲は基本的に雑木林であるため、周囲を気にせずに戦うことが出来る。細かく言えば、南には池があり、東側には建物があるから、どうしても気になるなら、西側で戦えば間違いは無いことを頭の片隅に入れておけば大丈夫だろう。なお、池は浅いが、底は泥だからきれいでは無い。
 なお怒りと悲しみを奪われた美奈世は、生み出されたドリームイーターを倒さないと眠ったまま目覚めない。
「二十歳を超えた大人で思う存分好きなことができるのも、思い起こせば大学にいる間くらいだったよ。だから世間様からみれば、ばかばかしく見えることでも、とても大切なことなんだ、だから、その大切な物を壊して怒りと悲しみを起こし、ドリームイーターを作るなんて絶対に許せない。皆は違うか?」
 そう言うと、耳を傾けてくれたケルベロスたちの顔を確りと見つめる。
「すまないけれど僕は皆を現地に連れて行くしか出来ない。一緒には戦えないけれど、許さないという気持ちは違わないと思う」
 だから宜しく頼む。そう、締めくくって、ケンジは、あなた方に信頼をこめて頭を下げた。


参加者
ファルケ・ファイアストン(黒妖犬・e02079)
レベッカ・ハイドン(鎧装竜騎兵・e03392)
空飛・空牙(空望む流浪人・e03810)
メティス・メドゥサ(オリュンポスゴルゴン三姉妹・e16443)
唯織・雅(告死天使・e25132)
猫夜敷・愛楽礼(吼える詩声・e31454)
フィーラ・ヘドルンド(四番目・e32471)
鬼灯・こよみ(カガチの裔・e39618)

■リプレイ

●キャンパスの早朝
 森の中に突き出る建物群が朝日に照らされて橙色に輝いて見えた。
「池の北側の建物、あそこが文化系サークル会館ですね」
 レベッカ・ハイドン(鎧装竜騎兵・e03392)は目標を認めると、開かれたヘリオンの扉から飛び出て背中の翼で羽ばたく。
(「……うすうす気にはなっていたが、やはり体長7メートル、まるで小さな山のようだぜ」)
 上空から見ても、その姿はでかすぎる。空飛・空牙(空望む流浪人・e03810)は降下速度を上げる重力の加速を感じながら、くるりと一回転すると、三点着地の要領で山のような魔法少女の前に降り立った。
「まぁ、愛着あるもん壊れたら凹むよな。相当前から準備してたみたいだし、俺もこのヘッドホン壊れたら……あぁ、うん。立ち直れないな、割と真面目に」
「えっ?」
 ものは試しと話しかけてみた、空牙であったが、戸惑ったような挙動を見せるドリームイーターたち。
「私も昔、お気に入りのぬいぐるみを壊された時には、思わず足(蹴り)が出ちゃいましたね……」
 その後は、ずーっと泣いていて、みんなに迷惑を掛けてしまったと、猫夜敷・愛楽礼(吼える詩声・e31454)が、続けると、怒りと悲しみ、両方のドリームイーターが、ものすごくわかるよ。と、頷いた。
「美奈世さん、衣装を壊されたの、悲しいですよね、わかりますよ。ハロウィン楽しいですもんね、とても頑張っていたんでしょうから。今からじゃあ作りなおすのも厳しいですしねえ」
 理解を示せば敵意が薄まる。って感じですか。
 そう察したレベッカも、ドリームイーターの悲しみに理解を示しながらゆっくりと着地した。

●戦い
「他人の、大事な品を……破壊することが、活動の糧……でしたか。ご当人たちにも、主張は。お有りでしょうが……、大事な品を…壊される側は。堪った物では、ありませんね……」
 あなた方を見ていると、そのように感じる。唯織・雅(告死天使・e25132)は、聴く者によってはたどたどしく感じられてしまうかも知れないが、丁寧に言葉を区切りながら告げ、メティス・メドゥサ(オリュンポスゴルゴン三姉妹・e16443)が同意を込めて頷く。
「時間を掛けた分だけ、物には想いがこもるの。……それが、一瞬で無くなるのは凄く悲しいことだと思うの」
 怒りと悲しみ、2体のドリームイーターに声を掛けた時間は長くは無かったが、それでも全員が陣立てを整えるには、充分な時間であった。
「セクメト。皆さんの援護……お願いします」
 ウイングキャットの清らかな羽ばたきの生み出す加護が広がる中、誰に促されるわけでも無く攻撃開始を決意する一同。
 ――Trick or Treatと言ったって、実際に危害を加えるのはご法度だよ。
 まして、イベントを楽しむメインは仮装なんだから、その衣装を壊すなんて酷すぎる。
「ディオメデスとヒッポリュテ 、魔女は僕らがいずれ倒す! だから、まずはその憤り、僕らがお相手しよう!」
 怒りに理解を示しつつも、ファルケ・ファイアストン(黒妖犬・e02079)は、巨大なドリームイーターの方に一歩を踏み込で、目にも止まらぬ早さでクイックドロウを放つ。直後、クラッシャーのポジション効果を加えて極限まで高められた一撃は繊維状の下半身に突き破って内部で爆ぜた。
 その一撃が戦いを始める号砲となる。
 素早い身のこなしで、動き始める黒、悲しみのドリームイーターを追って、愛楽礼は駆け出す。
 身体を覆うオウガメタルが鋼の鬼と化す刹那に、浮かぶのは昔の思い出。
 当時は、それが本当に大事で、本当に悲しかったんですよね……。
 今にして思えば幼い思い出だが、大人になって今でも、その時の思いは本物であったと言い切れる。
「もらった!」
 次の瞬間、高速で動き出した黒の魔法少女前に躍り出た愛楽礼の拳が命中し、小さな身体は突き出された拳の勢いのままに吹き飛ばされて、池に墜落、黒い泥混じりの水柱を上げ、続けて攻撃を掛けた、ライドキャリバーの火珠がその行方を見失って、水面をスピンする。
 次の瞬間、宙に現れた無数のロケットランチャーが一斉に火を噴いて弾体が霰の如くに降り注ぐ。
 巨大な炎の輝きと黒煙が立ち昇り、爆風が渦を巻いた。
 今、考え得る最大の防御で攻撃を耐え凌いだ雅と鬼灯・こよみ(カガチの裔・e39618)が、見据える先、黒の魔法少女は素早くピンクの魔法少女の回りを動き回っている。
「誇れる名では、ありませんが……告死天使が、この程度で……墜ちは、しません」
 サーヴァントと力を分かち合う分、体力は下がってしまう。それでもディフェンダーは守りの要だからと、雅は矢面に立ち、こよみもまた、陰険なやり口に傷つけられた、被害者に思いを巡らせながら、傷ついた身体でピンクの魔法少女を牽制する位置に立つ。
 フィーラ・ヘドルンド(四番目・e32471)が読み上げるのは禁断の断章。その力を背中に受けながら、こよみは踵を踏み込んで飛び上がる。
「思い通りにはさせない。怒りは私が受け止める」
 当てられるかどうかは不安だったが、やるなら今しか無いと、繰り出した流星の煌めきを宿した飛び蹴りが命中し、直後、激しい衝突音を轟かせた。
「やっぱり、あなたたちもあいつらと同じ、敵なんだ」
 ぼそりと呟くような声の響きとともに、ピンクの魔法少女の下半身がふわりと開いて、無数の繊維が絡まったような質感が複雑な模様を描く渦と変わって宙を薙ぐ、瞬間、無数のモザイクを含んだ風が湧き起こり、生まれた嵐は因果を歪めるとなって襲い来る。
 後ろから仲間に刺される、自分の攻撃が自分を打ち砕く、通常なら起こることを想像できない現象が幻となって襲い来る。
「願うは此の詩届く者に、月と夜との祝福を……」
 雅が歌い上げるのは、静かで暖かな一編の詩。もたらされるのは、月光と夜とが司る『安らぎ』と『休息』、そこに秘められた祈りと力、さらには、セクメトの翼からもたらされる清らかな気配とが重なって、因果を狂わされた自身を含む前列の者たちを癒して行く。
「あなたの好きにはさせません——」
 折り畳まれて小さな箱の中に入っていたことが想像出来ないようなアームドフォートの砲身を向けて、レベッカは無慈悲な一撃を放つ。大きな爆炎に引き裂かれたような怒りの魔法少女の半身から鮮やかなモザイクの赤が吹き出て、周囲の木々に突き刺さる。
 苦痛に吠える魔法少女の声には懸命さが滲んでいて、しかも怒りを滾らせて立ち向かってくる姿勢だけみれば、まるで学園のお友だちを助けようようとする魔法少女のようで、戦いにくさを感じさせる。
「というか、7メートルなピンク魔法少女ってさあ、もうどこ層狙いだ、これ」
 次いで空牙が怒りの魔法少女の側面から、ドラゴニック・パワーを噴射させ、加速したドラゴニックハンマーを勢いのままに振るう。僅かに掠った地が抉られて土の匂いが立ち。無駄の無い動作で斜めに振り上げた巨大なヘッドは山のような下半身に受け止められたかに見えたが、直後、勢いを支えきれずに、大きく変形する。
「これ以上、あなたの好きにはさせないわよ!」
 受け身の如き動きを見せる怒りの魔法少女の向かう先、素早い動きで回り込んだメティスが地獄の炎を纏わせた一撃を放つ。紅蓮の輝きを映す得物が煌いて、地獄の炎は急速に勢いを増す。
 戦いは狙い通り、西側に向かう形で推移しており、このまま押し切れれば多少雑木林が焼けた程度の被害しか出ないだろう。頭の中で算盤でも弾くかのように算段して、メティスは此処までは想定通りと小さく笑む。
 炎に包まれる巨体、舞い散るモザイク、この敵は怒りの感情から作り出されたドリームイーター。
 燃え盛る朱の輝きの中で塵のように舞い上がるモザイクは溶岩を噴く火山を思わせる。
 その巨大さとは裏腹に儚さを感じさせるが、これは人を見れば感情をぶつけ、理解されなければ、理解しようとしなければ、殺す。身体が動く限り、グラビティチェインを奪い取り続ける、人の感情、いやその感情のなれの果て。
 いまの彼女にとって、このドリームイーターに待ち受ける未来には破滅のイメージしか思い浮かばない。
「いけない、このままじゃあ、——が殺されてしまう!」
「どこに行くつもりですか?」
 慌てたように黒の魔法少女が救援に向かおうとするが、それを阻むように放たれたのは愛楽礼の全霊を込めた踵落とし。
「ここは断頭台、その首頂きます!」
 全身の気を踵の一点に集中した一撃が、黒の魔法少女を捉えて、追い打ちを掛けるように、火珠がキャリバースピンで体当たる。
「なぜ邪魔をするの? さっきから迷惑よ!」
 痛打を受けつつも黒の魔法少女は簡単には落ちない。ダメージは深かったが、すぐに姿勢を立て直し手の内のスイッチを押し込んだ。次の瞬間、愛楽礼を囲むように赤いモザイクの壁が出現して、大爆発を起こす。
 橙が閃き、天高く光の筋が立ち昇った。その光の中心で愛楽礼は物悲しげに瞳を伏せて、微かな悲鳴を上げて倒れ伏す。無数のモザイクに全身を穿たれ、剥き出しとなった傷口からは、呼吸に合わせて血が溢れ出して、地を赤く潤す。
 戦えない者に、癒やしを与えている余裕は無い。フィーラは愛楽礼へ向けようとしていた一手を、まだ踏ん張っている、雅の方へと向ける。再び紐解かれ、詠唱される禁断の断章の効果なのか、雅は今までに無いような怪しげな笑みを浮かべ、その隙を埋めるように、ファルケが前に躍り出る。
「そろそろ落ちそうだよねぇ」
 跳び上がり、後ろに引いた拳を、超音速で突き出す。風のような衝撃が、怒りの魔法少女の脇を突き抜けた。だが、魔法少女の巨大な身体には新たな傷はひとつもついておらず、手応えの無さに、ファルケが攻撃をしくじったと確信した瞬間、背中側から押し寄せてくる洪水の如きモザイクの奔流に飲み込まれて、ファルケは為す術もなく崩れ落ちた。
 2人が立て続けに脱落し、戦況は一挙にきな臭くなってくるが、気落ちする者はいない。今やるべきは戦えない仲間への気遣いよりも、目の前の敵を倒すことだと、誰もが理解しているから。
 直後、雅が高速演算により見破った、怒りの魔法少女の構造的弱点を破壊すると、狂ったような叫び声が上がる。
「構造的弱点、確認……破壊、完了。後は……宜しく、お願いします」
 その頭部が醜く膨れあがって、爆発し無数のモザイクを散らし、そこに飛来したウイングキャットの尻尾の環、セクメトの放ったキャットリングが追い打ちを掛ける。
「……楽しいイベントを、悲しみや怒りで満たすことは許せないの!」
「そんじゃ、その存在、狩らせてもらうぜ? 悪いが、悪く思うなよ!」
 続いて、メティス、そして空牙の電光石火の蹴りが急所を貫くと、頭部を失った怒りの魔法少女の首から赤いモザイクが赤光を放ちながら、まるで噴水のように吹き上がる。
「もうやめて! 見世物じゃないのよ」
 黒の魔法少女の悲しみに満ちた声が響くが、耳を貸そうとするケルベロスは居らず、ただ、その動きを阻むように、1体のライドキャリバー、火珠が唸りを上げている。
 もう少しで怒りの魔法少女は倒せそうだ。足止めの効果も重ねられており、打って出て自分の手で勝利を引き寄せることも出来る。だが、こよみは自分のルールに守る。溜め込んだオーラの輝きを放って、雅の傷を癒しきった。それと前後するタイミングで、レベッカの撃ち放ったバスタービームが怒りの魔法少女を包み込み、その巨体を焼き尽くした。
 光が過ぎた後に7メートルの巨体は見当たらず、完全に消滅していた。
「行かないで——!!」
 顔をしわくちゃにして一人残された黒の——悲しみの魔法少女は叫ぶ。ひどい、ひどすぎる!! 爆発する悲しみと共に数え切れないほどのロケットランチャーを召喚して、一斉に撃ち放つ。
 無数の爆炎が立ち上がり粉々に鳴った木々が空高く舞い上げられる。
 だが、見た目の派手さとは裏腹にダメージはさほどでは無かった。
 フィーラの、この日何度目かの、メタリックバーストの輝きが広がる中、雅の繰り出す破鎧衝が黒の魔法少女足首を砕くと、もともとの耐久力の低さに加えて、愛楽礼から貰ったダメージも残っていた、少女は、瞬く間に窮地に追い込まれる。
「くっ、これが私の結末だって言うの? 絶対嫌よ、私は——」
「散々、愚痴を聞いてくれた奴もいたじゃん。その言い方はあんまりじゃねえの?」
 共感を示してくれた者ばかりでは無かったが、確りと2人の怒りと悲しみに向き合ってくれた者も居ただろう。
 そう諫めるような言葉を投げる空牙の姿が視界から消える。
「ほら、死角ができてんぜ?」
 次の瞬間、一撃は黒の魔法少女の身体をあり得ない形に折り曲げて、勢いのままに地面に衝突させると、その肉体は叩き付けられた薔薇の花弁の如くに舞い上がって、消えて行く。
 土煙が風に流された後には何ひとつ残っておらず、それを以て、誰もが戦いに勝利したことを確信した。

●戦い終わって
 こよみやレベッカたちがヒールを掛けてくれたお陰で、戦いの痕跡は消えて、何ごともなかったように全てが元通りになった。
 で、一行は鍵が開いたままの文化系サークル会館の中に入って、美奈世氏の姿を探す。
「あ、いたよ。でも、ひどい。このままには、しておけないね」
 階段を上がって2階、パーテーションで区切られた左側の床に美奈世が倒れて居た。
「あんたらは、そこで回れ右や!」
 すぐに、愛楽礼が両手を腰に当てて肘を張り、ファルケと空牙に、来るな。と告げた。
 引き裂かれた魔法少女の衣装の間からは、白い肌がさらけ出されていて、フィーラが酷いと言うとおりに、男性には見せられない状態。
「女性同士でも、こういうのは良くありませんね」
 間髪を入れずに、雅とレベッカはヒールを発動し、衣装を元通りに修復するが、元に戻った衣装を見て、額に大粒の汗が滲む。
「なんか、この衣装ちょっと中二病入ってません?」
「折角直したのに、そう言うこと言っちゃあ駄目でしょう」
 間違ってはいないのだが、歯に衣を乗せないレベッカの言葉に、雅が苦笑いで応じれば、趣味というものは皆そんなものなのかなと、妙に納得した空気が流れる。
 そんなケルベロスたちの様子に目を醒ました美奈世はきょとんとした様子。だが、雅のヴァルキュリアの羽根に気がついて、触らせて——などとテンションが上がっている。
「ハロウィン……今年もお菓子がいっぱい貰える季節が近づいてきたの……じゅるり。でも、その美味し…楽しいイベントを悲しみや怒りで満たすことは許せないの!」
 今年のハロウィンは大丈夫か? 言いしれぬ不安がメティスの控えめな胸の内には満ちていたが、だが今は、目下の敵を倒し、被害者を助けられて良かった。そう思うことにした、メティスであった。

作者:ほむらもやし 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年10月29日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。