六本木の幻想魔獣~虚栄の塔群

作者:刑部

 六本木の街を臨む場所にて……。
「まさか、ジグラットゼクスが直接乗り込んでくるとは……。これは、わたくし達パッチワークの魔女の作戦が滞っているのが原因なのでしょうね。
 ……こうなれば、ハロウィンの中心たる六本木の街を制圧し、パッチワークの魔女の力をジグラットゼクスに見せつけねばなりませんわ。お進みなさい、その蹄で牙で爪で、勝利を勝ち取るのです」
 立派なライオンの毛皮を纏った女性……ドリームイーターはパッチワークの魔女の一体、第一の魔女・ネメア。
 眦を吊り上げた彼女の号令に従い、マンティコアやスフィンクスなど、屍隷兵の幻想魔獣達が咆哮を上げ六本木の街へと雪崩れ込んで行く。
「フフフ……」
 メネアはモザイクの掛ったライオンの毛皮を撫でながら、その幻想魔獣達の背を見送るのだった。

「ハロウィンの力を求めてドリームイーターの魔女らが動き出したみたいや」
 杠・千尋(浪速のヘリオライダー・en0044)が口を開いた。
「ドリームイーターの主力を率いとるのは、パッチワークの魔女の第一の魔女・ネメアや。
 奴っこさんは幻想魔獣型の屍隷兵の軍勢を率い、ハロウィンの中心地と目されとる六本木を制圧し、ハロウィンの魔力を奪い取ろうとしとるんや。
 残念ながら既に六本木の中心地が6か所、ネメアと彼女が率いるの軍団によって制圧されとって、そこから6本の光の柱が空に立ち上っとる。……この光がハロウィンの魔力なんやと思うな」
 千尋は、ケルベロス達のざわめきが落ち付いたのを確認して先を続ける。
「ハロウィンの魔力がどんな性質のものかよーわからへんけど、このままドリームイーターに奪われて、えぇ方向に向く訳ないのは確かや。
 みんなには幻想魔獣の軍勢を撃退して、この光の柱を撃破して欲しいんや。ただ、六本木だけでもかなりの戦力が展開しとるし、他にもドリームイーターが暗躍しとる。
 全部の光の柱を破壊するのは難しいかもしれへんから、必要に応じて戦力を集中して、出来るだけ多くの光の柱を破壊して欲しいんや、頼んだで」
 と笑顔を見せる。

「ほんなら制圧されとるポイントについて説明するで、まず六本木中学校にマンティコアの群。次に六本木グランドタワーにピッポグリフの群れがおって、東京都立青山公園南地区にペガコーンの群が屯しとる」
 広げた地図でポイントを示し、ピンを刺しながら説明を続ける千尋。
「国立新美術館にスフィンクスの群れ、東京ミッドタウンにキメラの群れで、最後に六本木ヒルズ……ここに第一の魔女・ネメアが全種類の屍隷兵を率いて光の柱を守っとる」
 地図には6つのピンが刺されていた。
「それぞれなかなかの戦力やから、完全に撃退するにはいくつかのチームが協力して戦う必要があるやろう。しかも全部が同じ戦力やあれへん。メネアのおる六本木ヒルズが一番厄介やけど、中学校やグランドタワーはそれに比べると戦力は半分程や。出来るだけ多くの『光の柱』を撃破するんやったら、戦力が低い場所を優先するのがえぇやろ。
 あと作戦次第やけど、幻想魔獣の完全撃破じゃなしに光の柱を撃破して撤退する作戦やったら、そこまでの戦力は要らへんかもしれへんな」
 と、千尋は敵の各拠点の戦力にばらつきがある事を説明する。

「制圧された地域の一般人の避難は終わってるから、その辺りは安心や。
 光の柱の耐久力はかなり高いみたいやから、近接攻撃でしかダメージを与える事ができへん。敵の殲滅やのうて破壊しての撤退を目指すんやったら、破壊するまで、敵を食い止める算段も必要やで。がんばってや」
 ケルベロス達の質問に答えながら笑う千尋の口元に、八重歯が覗くのだった。


参加者
結城・レオナルド(弱虫ヘラクレス・e00032)
フラッタリー・フラッタラー(絶対平常フラフラさん・e00172)
エステル・ティエスト(紅い太陽のガーネット・e01557)
ノル・キサラギ(銀架・e01639)
ラティクス・クレスト(槍牙・e02204)
螺堂・セイヤ(螺旋竜・e05343)
コール・タール(マホウ使い・e10649)
巡命・癒乃(白皙の癒竜・e33829)

■リプレイ


 六本木中学校の校庭に突入した3チームは、早々にマンティコア達の迎撃を受けていた。
「第一の魔女・ネメア……奴の元まで辿り着けないのは口惜しいが、今は、一つでも多くこの柱を壊すのが先決」
 結城・レオナルド(弱虫ヘラクレス・e00032)が、牙を剥いて襲い掛かるマンティコアに迅雷の如き突きを見舞い、校舎の屋上から立ち昇る光の柱をちらりと見遣る。
「棘の尾なぞ幾ら揃ヱどオナモミの柔棘、其ガ老面のゴToく終焉セマれり……」
 金色瞳が開眼し、額の弾痕から迸る地獄を陽炎の如く漂わせ、普段のおっとりとした姿から豹変したフラッタリー・フラッタラー(絶対平常フラフラさん・e00172)が、レオナルドの切先に穿たれたマンティコアに『野干吼』を叩き込み、そのまま体を回転させ、脇を抜けようとする別のマンティコアに斬り掛って押し留める。
 その背後にカラフルな爆煙が起こり展開された鎖が戦う者達を護る。
「幾分の歯痒さはあるが、やる事は変わらん。敵は殺す……その為に、味方は殺させはしない」
「レブナント、一体何処からこんな敵を……」
 その爆煙を起こして味方を鼓舞したコール・タール(マホウ使い・e10649)が、赤い髪を揺らして瞳を細める隣で、巡命・癒乃(白皙の癒竜・e33829)が六本木ヒルズへと思いを巡らせ、彼女のサーヴァントであるシャーマンズゴースト『ルキノ』は、原始の炎を飛ばしつつ、敵の戦線突破を防いでいる。
 フラッタリーらに斬られながらもその尾を振り上げ、毒針を放とうとしたマンティコアを2本の槍が貫いた。
「とりあえず出てきたのは全部で10、11、12体でこいつを倒して、11体というところだな」
「一班辺り4体がノルマだね。あと3体後れを取らない様にしないとね」
 息絶えたマンティコアから槍を引き抜くラティクス・クレスト(槍牙・e02204)とノル・キサラギ(銀架・e01639)は、目配せし合うとルキノに牙を突き立てたマンティコア目掛け距離を詰めに掛る。……だが、
「全部……潰してやる!!」
「あぁ、大した数だが…全て殲滅する! 打ち貫け、魔龍の双牙ッッ!」
 上体を低く保ち、突然現れたかの如く距離を詰めたエステル・ティエスト(紅い太陽のガーネット・e01557)が、掴んだマンティコアを投げ上げると、螺堂・セイヤ(螺旋竜・e05343)が、マンティコアが地面に落ちる前に黒龍と化した右腕を叩き込む。
 その黒龍のオーラに呑み込まれるマンティコアを見て苦笑したノルとラティクスが、踵を返して別のマンティコアへと躍り掛かった。
 他の二つの班も奮戦しており、癒乃とコールの援護の元、マンティコアを押し屠りながら校庭を進むケルベロス達。
(「……恐怖は消えない。だけど、俺に勇気をくれる仲間がいる」)
 牙を剥き襲い掛って来たマンティコアの喉に突き入れた刃に滴る体液を見て、レオナルドが大きく息を吐き左右を見ると、もう1体をエステルが屠り他の班もほぼ敵を駆逐していた。
「中です! 中に七体……いえ、八体!」
 戦闘余波で体育館の壁に穴を開けた班が上げた声に、刃を濡らした体液を払うと彼らに続いて体育館へと突入する。


 壁を破る形で突入したケルベロス達を、体育館内に屯していた8体のマンティコア達が迎え撃つ。
「刃の颶風は絶える事を知ラズ、現世に在る仮初ノ命ナド陽炎のごとシ」
 だが、マンティコアよりもより獣の如く駆けたフラッタリーが剛剣を振るい、巻き起こされた旋風にマンティア達は機先を制され、
「先ずはお前だっ!」
 その風を追う様に、首に掛けたB.O 3I 麻里衣カスタムを揺らし、距離を詰めたエステルが掌底を叩き込むと、そこから螺旋の力がマンティコアの体内を駆け巡る。
「ちっ、ノル。そいつは任せたぞ!」
 エステルの一撃に痙攣するマンティコアに更に追撃を掛けようとしたラティクスは、別のマンティコア達が後衛目掛けて毒針を連射するのを見て、爪を非物質化したルキノと共に、そのマンティコアを攻め、
(「ラティクスらしい」)
 託されたノルは微笑を浮かべ、彼から贈られたハンマーをマンティコアに叩き付ける。
 そして跳び退くノルの後ろから双刀の鍔鳴りを起したレオナルド。
「心静かに……パッチワークはここには居ない……恐怖よ、今だけは静まれ!」
 駆け抜けたレオナルドの後ろでマンティコアが崩れ落ちる。
「流石に少し無理があったな」
 槍を旋回させて毒針を弾きながら仕寄ったラティクスだったが、無論それだけで全ての毒針を防げる筈もなく、次々と刺さる姿に苦笑を浮かべタールが回復を飛ばし、
「数で圧倒している事もありますが、士気が高いですね。このまま押し切れればいいのですが……」
 終始優勢に戦いを進める仲間達の姿に、回復を飛ばしながら癒乃がそうごちる。
 癒乃の言う通り、他の班も含めケルベロス達はマンティコア達を圧倒し、戦況を優位に進めている。
「やらせるか!」
 フラッタリーとルキノを押し返して蝙蝠翼を広げて舞い上がり、多数の尻尾の先を此方に向けるマンティコアを睨み返したセイヤは、自身も翼を広げて飛翔すると、跳び蹴りを見舞って魔脚甲アルビオンでそのマンティコアを叩き落とし、
「ここは一手、―――隙だらけだ―――」
 戦況の機敏を見てとったコールがその落下地点に踏み込むと、繰り出すドス黒い異腕に変えた片腕……黒腕【塗潰】を以ってマンティコアを絶命に至らしめ、胸元に精霊結晶『ウンディーネ』を踊らせて跳び退いた。
 その頃には8体居たマンティコアも2体を残すだけとなり、
「お前も喰らってやろう。その顎に呑み込まれるがいい、魔龍の双牙ッ!」
 ノルとラティクスの槍に左右から貫かれた1体を、セイヤの拳に打たれ魔龍双牙のオーラに呑み込まれる。
「向こうも片付きました。急ぎましょう」
 癒乃の声に左右を見ると、残るもう1体も別の班の攻撃に沈んでおり、既に校舎に向かって駆け出していた仲間達を追い、8つのマンティコアの骸を残して仲間の後を追う。


 校舎に突入すると、一番最寄りの階段を上がるケルベロス達。
 時折咆哮やマンティコアの動く音が聞こえるも、
「分断されても厄介だね。他の班に続いて駆け上がるよ」
 ノル達は一瞬逡巡するも、セイヤの調査で屋上に居るマンティコアの数が少ない事を把握していた事もあり、皆がノルの言に頷くと一気に屋上目指して駆け上がる。
 先行する他の班が蹴り破る勢いで屋上に躍り出ると、そこに屯していた4体のマンティコアが此方を見て牙を剥き、尾を振り上げて襲い掛かって来る。
「後ろからもお客さんだぜ」
 そして背後から駆け上がったケルベロス達を追い縋り、迫ってくるマンティコア達の音に、立てた親指で背後を指したコールがそう告げる。
「よし、前は任せる。そして、後ろは俺達に任せな」
 そう言ってセイヤが踵を返すと、他の者達も背を預ける他の班に目礼して体の向きを変え、前衛と後衛が入れ替わって後ろから迫り来るマンティコア達を迎え撃つ。
 先に背後で戦闘がはじまり、一呼吸置いて複数のマンティコア達が我先にと、階段を駆け上りながら毒針を飛ばして来る。
「吐息に混ざる血にすら獄炎を纏わせル、紗ァ、貴方ヘ業火ノ花束ヲ!」
 先頭切って飛び出して来たマンティコアにフラッタリー。
 放たれた炎は爆発しマンティコアの咆哮を赤く彩る。だが、その爆炎の中から次々と弾幕の如き毒針が降り注いだ。
「ダメージは大した事ないが、数が多いと鬱陶しい」
「回復します」
 味方を庇って前に出た為、フラッタリー、ルキノと共に針塗れになったラティクスが、紫色に変色した肌を見てごちると、後ろからの声と共に癒乃が降らせるメディカルレインが、その傷を癒してゆく。
「だが、もう残っているマンティコアはこいつらだけだろう」
「じゃあ早く倒して光の柱を壊さないとね」
 毒針の刺さった死掠殲装【黒】を翻したセイヤは、飛び掛って来たマンティコアに食らい付かれながらも、その胴に斬撃を叩き込み、同じ様に毒針に穿たれたケルベロスコートを翻したノルが、逆側から穂先を突き入れる。
「最後の悪足掻きだ。後ろは大丈夫そうだし、踏ん張れよ」
 直ぐに溜めた気力を飛ばしてセイヤを回復したコールは、時折後ろの戦況も確認し戦局全体を見渡しながら、一人も倒されない決意の元、仲間のサポートに徹している。
 後ろの班からもグラビティや回復が飛び、此方を援護してくれる中、フラッタリーに飛び掛って押し倒したマンティコアに、
「エステルさん、一気に屠ります」
「あぁ、ぶっ潰してくれる」
 レオナルドの声に応じ、駆けたエステルの拳がフラッタリーに食らい付こうとしたマンティコアの顔を跳ね上げた所に、レオナルドの一閃。斬られたマンティコアの喉から溢れた体液を浴びたフラッタリーに、
「うわっと、大丈夫? フラッタリーさん」
「浴びてヨいのは称賛だけに非ズ、返り血も硝煙も亦、称賛の一つ為レバ」
 思わずエステルが声を掛けるが、クククと笑ってゴム毬の如く跳ね起きたフラッタリーは、そのまま別のマンティコアに襲い掛かる。その動きにレオナルドが続いてマンティコアを穿ったところで、後ろの班から飛んで来たグラビティが命中し断末魔を上げたマンティコアが崩れ落ちた。
 隣を見れば、
「もう少し頑張って……生きる事は……死に向かう事。代償なき生は世の理に非ざる欺瞞……。あなたは滅びずにいられるかな……?」
 マンティコアを押し留めるルキノに声を掛けた癒乃がそのまま言の葉を紡ぎ、掌に現れた淡い生命の光は、マンティコアに与えられた仮初の命を焼き消しに掛る。己の体を掻き毟る様にしてもがくマンティコアに、
「冥土の土産だ。受け取ッ!」
 翼を広げて飛翔したセイヤが、天頂方向からマンティコアの背目掛けて黒龍のオーラを叩き込んだ。断末魔すら上げる間も無く絶命するマンティアコア。残るはノルとラティクスの2人と対峙する1体のみ。
「潰せ、風槌! 叢雲流牙槍術、弐式・窮奇!」
「コードXF-10、カリキュレーション。ターゲットロック」
 マンティコアを押し返したラティクスが、自身の闘気を乱気流に変え、繰り出す雷槍《インドラ》の穂先から迸らせる。其は圧縮した暴風の塊となってマンティコアの皮膚を裂き、そこから流れる様に風が広がり、枷となってその四肢を拘束する。そのマンティコアを見据えるノルの金色の瞳。
「演算完了、行動解析完了――スクルド・バレット!」
 ノルが繰り出す虹槍《スヴァルガパティ》は、先程ラティクスの雷槍《インドラ》によって穿たれた傷を押し広げる様に連続で突き入れられ、マンティコアはそれに耐えられずに崩れ落ちる。
 大きく息を吐いて足元をふらつかせたノルを支えたラティクスが振り返ると、屋上側のマンティコア達も駆逐し終えたところで、
「ご苦労さんだ」
 少しだけ口角を上げたコールがノルを回復してくれたのだった。


 天へと延びる光の円柱。
 その直径は8m程であろうか? 3つの班のケルベロス達がそれを囲んでいた。
「一応、固い何かがある様ですわー」
 普段の調子に戻ったフラッタリーが柱に触れた感想を述べると、皆がそれぞれ得物を構える。
「ではやるべき事をやるとするか、せーのっ」
「ルキノ、一緒に……」
 コールが異形の腕を叩き込むと、癒乃とルキノも光の柱を攻撃し、
「もっと沢山潰したかったね」
「手が届く範囲、やれる事を確実にやっていくしかないな」
 タイミングを合わせたノルとラティクスもハンマーと槍を叩き込む。その隣で、
「月がお前を呼んでいる……落ちていけ!」
「何を奪っているのか知りませんが、返してもらいますよ」
 エステルとレオナルドも渾身の力を込めた一撃を叩き込んだ。
「そーれー」
「ネメアを放置する事になったのは気掛かりだが……仕方ない」
 先程までとは違い、少し重そうに野干吼を叩き付けたフラッタリーと、六本木ヒルズの方を仰ぎ見たセイヤの一撃も見舞われる。
 次々とケルベロス達の攻撃を受けた光の柱の表面にヒビが入り、重ねられる攻撃にそのヒビが広がっていくと、硝子が爆ぜる様な音と共に光の柱を作っていた何がか砕け散り、吸い上げられていたエネルギーが光の雨となって降り注ぐ。
 その光を受けながらレオナルドは、仲間達となら恐怖を越えられるかもしれないとぼんやりと考えながら、六本木ヒルズから上る光の柱を、その黒い瞳で見つめたのだった。

作者:刑部 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年10月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。