三色魔女のハロウィン~マジョガリdeマジョルカ!?

作者:銀條彦

●All Hallows Eve
 すっかりと秋めいた空の下、風に揺らめくは陽気なジャック・オー・ランタンの列。
 合言葉はもちろん──Trick or Treat!

「仮装してくだけで夜パフェ半額なんて太っ腹!」
「していくだけとかいいながら力作じゃん黒ゴス魔女で来たかー」
「そっちこそカボチャつながりでシンデレラなんてめっちゃゴージャス!」
「えへへパレードたのしみー、写真とりまくろーねー♪」
 浪漫と商戦渦巻く百鬼夜行。
 カフェに居酒屋、雑貨屋衣料店に和風茶屋からラーメン店に至るまでがハロウィンに合わせて街ごと飾りたて趣向を凝らした限定商品の販売やサービスに勤しむ。
 もちろん街中でのコスプレだって自由だ。思い思いの仮装姿に身を包んだ若者達はこぞって押し寄せ、繁華街挙げてのハロウィンイベントは前夜から既に大盛況だった。

 少し離れた場所からそんな喧騒を見下ろす緑髪の少女もまたハロウィンに心躍らせる者のひとりだった。
 とんがり帽子に魔法の箒──そのいでたちはまさしく愛らしい魔女そのもの。
「やっとやっと、ハロウィンの季節だー! 『王子様』にもらった、このチャンス。私の風が絶対につかんでみせるよ!」
 未熟で半人前で見習い止まり……自らのそんな欠損を埋める為ならば何にだってスマイル全開でまっしぐら、少女はいつだって全力前進あるのみだ。
「それじゃあパンプキョンシー達、さっそくハロウィンで盛り上がってるあそこを襲撃してちょうだい!」
 無邪気な笑顔と共に緑の魔女が指さした場所はハロウィンに沸く繁華街。
 額から御札を垂れ下げた少女屍隷兵達は無言で頷くと両手両足を伸ばしたままの奇妙なポーズでぴょんぴょんと飛び跳ね、移動を開始する。
 完全に生気の失われたその蒼白の手に手に携えられたジャック・オー・ランタンもまた、ゆらゆらと路上にカボチャスマイルの影を落とし鬼火を揺らめかせる。
 忠実なるパンプキョンシー達の背中を満足げに見送る少女──緑の未熟魔女・アネモスが追って重ねた命令は全力攻撃。
「ハロウィンの力を持つ魔女が現れたらすぐに私が応援に駆けつけるから、絶対に絶対に、逃がさないでね!」
 その結果、アネモス到着前にその魔女を殺してしまってもそれはそれで問題ない。
 屍隷兵に斃される程度の魔女力など、もとより、今の彼女には必要ないのだから。

「今日の私は絶好調、良い風が吹いてるから、絶対に、赤青の魔女には負けないよ!」

●爛々たる魔女達のランタンフェスティバル
「ハロウィンの力を求めてドリームイーターの魔女達が動き出したようです」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)がケルベロスに対処を依頼したのは、それぞれに競い合う3人の魔女達が引き起こす襲撃事件だ。

 赤の見習い魔女・フォティア、青の半人前魔女・チオニー、緑の未熟魔女・アネモス──三色の魔女達はその為に用意されて来た屍隷兵・パンプキョンシーを使って、ハロウィンを楽しむ人々が集う場所を狙って襲撃させるのだという。
「彼女達の目的はハロウィンの力を持つ魔女を探し出してその力を奪う事です。ハロウィンを襲撃する事で目的の魔女も姿を現すと考えているのでしょうね……」
 ハロウィンの力を持つ魔女……が具体的にどういった存在を指すのかは不明だがイベントを楽しむ無辜の人々の命がそんなものの為の犠牲になるなど見過ごせる筈もない。
 セリカはそう断言した後、緑の魔女の命令を受けた屍隷兵によって襲撃されると予知された箇所の一つをケルベロス達に告げた。
「こちらに出現する屍隷兵は3体。使用するグラビティは遠単ばかりの様です」
 パンプキョンシー達はいずれもハロウィンの魔女を探し出す事を最優先として行動する為、ケルベロスがその魔女であると思わせる事ができれば一般人を放置してケルベロスだけをつけ狙うと予想される。
 この点を利用すれば一般人や街に被害を出すことなく屍隷兵を討伐する事も可能だろう。
「ただし……この作戦を採る場合、留意しておいていただきたい事があるのです」
 屍隷兵とケルベロスの戦いを察知した緑の魔女アネモスに『ハロウィンの魔力を持つ魔女』だと判断された場合、アネモス本人が戦場に現れて力を奪おうとするかもしれないとセリカは懸念を伝え、もしもそうなった場合は可能であれば魔女本人の撃破も行って欲しいと付け加えた。
 残念ながら三色の魔女達に関する詳細はその殆どが不明だがそういえば緑の魔女アネモスは『風』に慣れ親しむような言動が見受けられたと、ケルベロスのせめてもの一助となる為ヘリオライダーは懸命に言葉を紡いだ──そして。
「皆さんの内どなたかお一人がハロウィンの魔女の仮装で姿を現せばそれで一般客を安全に逃がすにはそれで充分でしょうけれど、敵が何をもって『ハロウィンの魔女』だと判断するのかの基準も不明瞭な事ですしいっそ全員が様々な魔女に扮して数を撃ってみるというのも一つの手かもしれません」
 最後に、セリカは至極真面目に老若男女種族不問のコスプレ大作戦を提案するのだった。


参加者
烏夜小路・華檻(一夜の夢・e00420)
ルードヴィヒ・フォントルロイ(キングフィッシャー・e03455)
海野・元隆(一発屋・e04312)
シド・ノート(墓掘・e11166)
一津橋・茜(紅蒼ブラストバーン・e13537)
ユーシス・ボールドウィン(夜霧の竜語魔導士・e32288)
草薙・ひかり(闇を切り裂く伝説の光・e34295)
人首・ツグミ(絶対正義・e37943)

■リプレイ


 つるべ落としに陽は沈み、冷え込む秋風も何のその。
 南瓜踊る祭夜の街めざし、ご陽気に『魔』纏う若者達は、続々と集い始める。

「あ、キョンシーだ、クオリティ高~っ」
「一糸乱れずってカンジだな! 3人ともスッゲーじゃん!」

 百鬼夜行へと新たに加わったのはパンプキョンシー達3体の行進だ。
 それが量産型屍隷兵などとはつゆとも考えないハロウィン客達は足を止め、ある者は手を振り、また別の者はすばやくスマホを取り出す。
 にわかに起こった喧騒にも顔色一つ変えず、ただ黙々と、列を並べてぴょんぴょんと前だけを目指す謎の3人娘。そんな様子もまたソレっぽくてクールでイイネと受け止められ、徐々に人だかりは大きくなってゆく。
 アーチ状のアーケード入口にひときわ華やかに飾られた巨大ジャック・オー・ランタンの真下に差し掛かる頃には、ちらほらと魔女コスプレの姿も増えていく。
 次なるパフォーマンスをと期待する野次馬達を掻き分け摺り抜け、ぴょっこりと。
 パンプキョンシー達の眼前へと飛び出したのは──大鍋?

「おいしくな~れ♪ おいしくな~れ♪ ヒッヒッヒッ」
 がっつりと大げさに腰を曲げナニかが煮込まれた鍋を一心不乱にかき回す魔女姿の老婆……特殊メイクで臨む一津橋・茜(紅蒼ブラストバーン・e13537)であった。
 発せられるその声に至るまでもが精一杯にしゃがれた低音ボイスでまるで対峙しただけで名前の大半を贅沢に奪い取られてしまいそうな怪しい婆っぷりである。
 そんな魔女妖婆の傍らに並び立つふたりの女性もまたいずれ劣らぬ魔女っぷり。
「ふふ、今宵の魔女鍋は黒イモリ抜きでお願いするわね」
 いかにも知的にきらりと眼鏡を輝かせナニかの肉片っぽいモノが浮き沈みする鍋をうっとりと見守るは堂々たる獣貌の魔女──ユーシス・ボールドウィン(夜霧の竜語魔導士・e32288)。
「……綺麗なオレンジ色と紫色ですねーぇ……」
 か細く小声を漏らした後、怯えるように狐頭魔女の金尻尾の影へ身を隠した人首・ツグミ(絶対正義・e37943)のいでたちもまた尖り魔女帽子に黒衣だったが他の2魔女と比べれば明らかに貧相な仕立て……の筈なのに無機質なその双眸からは底知れぬ何かが漂う。
 ガチである。ハロウィンがどうとか仮装がどうとか以上の有無を言わさぬガチ魔女たちの集会が、唐突に、アーケード前で始まったのである。

「いずれの魔女様がたも素材は大変に宜しいですのに……勿体無い……」
 烏夜小路・華檻(一夜の夢・e00420)にとっては、茜もユーシスもツグミも、充分すぎるほどに魅力溢れた女性揃い。しかも出されたお題は『ハロウィンの魔女』という胸躍るしかないこのシチュエーションで……どうしてこうなってしまったのか。
 と、作戦&演出の一環とわかっていても、ついさめざめとひとりごちてしまいそうになる彼女自身の魔女っぷりはといえば、きわめて扇情的かつ妖艶そのもの。
 魔女風カクテルドレスの漆黒と、大胆なカットの襟ぐりから覗く零れんばかりの……むしろちょっとぐらい零れちゃって欲しいなーと思わず願いたくなるような豊満すぎるバストとのコントラストは、非常にけしからんカンジで麗しい。
 垂れ下がるかぼちゃの灯すらも妖しく陰影を際立たせる魔女の為の魔法と化す。
「その点ひかり様は流石に『己の魅せ方』を熟知されている御方、と、申し上げたい処なのですが……頭上の其れは一体?」
「あははー! 本当は深海魚の風船が欲しかったトコなんだけどねー」
 並び立つ華檻がさしずめ月であるならば、草薙・ひかり(闇を切り裂く伝説の光・e34295)は太陽に擬えられるであろうタイプの美女だったが、今宵の彼女は一味違う。
 ハロウィンの力とは何かを考え抜いた末に彼女は、元々ハロウィンは冬のはじまりと共に訪れる死霊悪霊の類いを祓う行事といった意味合いも持っていた事を踏まえ、纏う魔女のコスチュームに『死神』……コードネーム「デウスエクス・デスバレス」の要素も混ぜ込むアイデアを思いついたらしい。普段とは全く雰囲気を異にしたシックなそのいでたちはさしもの彼女ほどの有名人であってもすれちがい様、遠目程度ではそれと見抜く事は難しいらしく今ここに到るまでまったく正体バレしていない。
「全くデウスエクスってのはどいつもこいつも毎度毎度、人が楽しんでる時を狙ってくるね!」
 魔女ローブの薄布越しにも極上と伝わるボディラインの持ち主たる死の大鎌の魔女の周囲では、残念ながら咄嗟には入手できなかった目当ての風船の代わりにポップにデフォルメされた熱帯魚のバルーンがぷかぷかと浮かんでいた。

 丁度その頃、愛らしくハロウィン仕様のキョンシーガールズ達の奇妙な歩みがピタリと止まり……3人娘が一斉に南瓜提灯を高く掲げようとしたその直前。

「──Trick or Treat!」
 合言葉も高らかに、空から舞い降りたのは箒にまたがるひょろり長身のとんがり帽子の魔女……ルードヴィヒ・フォントルロイ(キングフィッシャー・e03455)である。
「──Trick or Treat!」
 続けて姿を現したのは箒の魔女にも比する背丈の南瓜頭の怪人。
 海野・元隆(一発屋・e04312)は他の男性陣とは異なり己を魔女として押し通す冒険は避け、魔女のしもべとして場の盛り上げに徹しようと心に決めていた。
 仮装するなら魂から──そう、つまりは蒸留酒(スピリッツ)の出番である!
 ハロウィン限定かぼちゃ焼酎は薄皮南瓜のまろやかな喉ごしとフルーティな甘味が絶品でお洒落ボトルな見た目だけとは侮ることなかれ、なかなかの本格焼酎であった。
(「本物のハロウィンの魔女……とやらがいるとしてもまさか本当にそこらを歩いてたりはせんだろうな……?」)

「おや……もうハロウィンの季節ですかーぁ……それでは……」
 合言葉を耳にしたツグミがまずはいの一番に身を乗り出し、爛と、その眼を輝かせれば。
 みすぼらしい己を恥じ入るように控えめだった唯の魔女は、たちまちの内に、格調高くも麗しいハイテンションなハロウィンの魔女に大変身!
「今年も一晩大騒ぎといきましょーぅ!!」
 まるで灰かぶり姫の童話じみたそんな光景に惹かれるよう続々と、魔女達はかりそめの姿を脱ぎ捨て輝かしいばかりの光を纏いハロウィンの魔女へと変身を遂げてゆく。
「婆とは仮の姿! 今ここに猫耳魔女見参! です!」
 鍋抱える老婆は、燃えるように鮮烈な赤毛が印象的な少女──茜の姿を取り戻す。
「狐耳魔女も見参! ちなみに眼鏡は外れないわよ、体の一部だから!」
 色香振りまく妙齢女教師な印象だけはそのままに、狐人型から狐耳尻尾だけを残した地球人女性へとユーシスもまたその容貌をガラリと変える。
 ガチ仕様だった魔女装束も今や全身ゴージャス&ボリューミー。手にしたカボチャ型バスケットからは色とりどりなお菓子や酒瓶が覗く。
(「おばちゃん、いろいろがんばった……」)
 ただどうしてもタイツのデニール数はより高めにしてしまう三十代の乙女心。

 そしてトドメは──。
「プリンセスモードでハロウィンの魔女に変・身!」
 魔女っこシド・ノート(墓掘・e11166)今ここに──爆誕。
「お菓子をくれないと悪戯しちゃうぞー」
 たとえ40歳髭面男性がマジョマジョっとフリル翻すスカート履きでアクションしながら少女の一団を必死に取り囲んでそう言い放とうがハロウィンなのだから問題はない。
 ない筈だが──それでも尚なんらかの犯罪臭の発生は絵面的にどうしても否めなかった。

 たわわにはわわなハロウィンナイトの、よりどりみどりな魔女の味。
 ──さあ、とくと召し上がれ?


 通常、戦闘時における各種変身の敢行は貴重な1ターンを消費する行為である。が……。
 今宵これより繰り広げられる彼等彼女達の『戦い』にとってそういった瑣末な定跡など、もはや問題ではない。

「さてさて、ハッピーハロウィン♪」
 声を作り、自然に男性的特徴を覆い、ランタン掲げて魔女の箒に跨る立ち居振る舞いの端々までが定番にして王道なハロウィン淑女っぷり。
 男の娘魔女と呼ぶにはややトウが立ちかかっているかもしれないが、ルードヴィヒの拘りと細心はむしろ、西洋魔女でありながらどこか女形役者を連想させる。
 月光斬を浴びたパンプキョンシーの1体がぎこちない手振りでジャック・オー・ランタンを振るえば、取り巻く鬼火は急激にその火勢を増しルードヴィヒへと襲い掛かった。
 ──つまり彼はばっちりハロウィンの魔女候補に認定されたらしい。
(「その調子その調子♪ ……カラフルに未熟なお嬢さんの狙いは挫くよ」)

 ちなみにこの戦いで最も多くパンプキョンシーの攻撃先となりディフェンダー陣の援護を受けた魔女は華檻だった。
「なるほど殿方でもハロウィンで魔女たり得るという点については納得致しました──が」
 それでも、正直、やっぱり、緑の魔女はこの後も此処には来ない気がするといっそう諦観の色濃くした華檻の微笑の先には……。

「よーし、とっておきのお菓子をプレゼントしちゃうよー」
 野太くマジョマジョっと呪文を唱えて可憐にターンを決めれば、めっちゃ空気読んでくれたオウガメタルが振り撒く粒子をひときわキラッキラでツインクルな魔法に輝かせ、前で闘うおともだちを優しく包み込む。だがこの魔女はまだもう一段階変身を隠しもっていた。
 緑の魔女が風とともにこの場に現れたその瞬間こそが──おしゃれふんどしという名の秘められた真の魔法のはじまりであり、シドにとっては何らかの終わりとなることだろう。
「唯一のメディックである奴サンに何かあればフォローをと考えていたが……なるほどこれなら要らぬ心配だったみたいだな」
 勇気溢るるシドの戦いぶりがいたたまれずなんとなく目を逸らし続けていた元隆だったが、しばらく後、感心したように呟いた。
 魔女のしもべとして南瓜頭で道化た千鳥足からパンプキョンシーにチョッカイ掛け続ける自分同様、魔女だと言い張る魔女ではないナニかと化したシドは、まったくこれっぽっちも、敵の攻撃対象とはならなかったのだ。
 魔女としては何もかもが間違っているが治癒役としては極めて合理的かつ、正しい。
 ──とはいえそれは完全に結果論の話で、シド本人は終始マジョマジョかぼかぼとハロウィンの魔女らしさを追求し探求し少女屍隷兵相手に実践しているつもりだったのだが。
「あっすいません通報しないでください」

「んもう、プロレスラーも魔法使いだよ? 『閃光魔術』って知らないかな!」
 片膝の代わり、だらりと突き出されたジャマーキョンシーの両腕を踏み台に、ハロウィンの夜空へと飛翔したひかりの脚から繰り出された大技は光の如き一閃。
 鮮やかに叩き込まれた飛び膝蹴りの光景に、遠巻きなギャラリーからはちらほらと彼女の正体に気づくものが現れ始めた──だが本人はそんな事とは露しらず。
 魔女となっても自分のスタイルは頑と崩さない彼女に足りないのはハロウィン成分かはたまたやっぱり魔法成分か。もっぱら仲間を庇う盾役としてのみ敵の技を受け続けている事にやや異議アリの様子だった。
「うふふーぅ! 魔女の舞踏からはっ! 逃げられませんよーぅ」
 ツグミが陽気で妖気なステップ踏めば、星々の輝き纏う魔法の踵は軽やかに舞い上がり……躊躇なくドスンとジャマーの延髄めがけて追い打たれた。
「お菓子をくれないなら、悪戯してしまうわよ――刃でね?」
「部外者さん達はここでご退場といきましょう!」
 ハロウィンの魔女からの鉄槌とばかり、大鎌を閃かせたルードヴィヒのギロチンフィニッシュと虹の軌跡描く茜のファナティックレインボウが同時に振り下ろされれば、まずは撃破一丁アガリ♪


 魔女達の次なる贄はクラッシャー型。緑の魔女からの『全力攻撃』命令を律儀に守っているらしい彼女達は先に葬られたジャマー型が【破剣】付与目的で使用した以外、愚直な攻撃一辺倒だった。

「お札をもっと重ねて貼ったら止まったりしませんかね~」
 ガン無視だった婆魔女時とは一転、ハロウィンの平和を守る猫耳魔女としてディフェンダー役に徹する茜自身にも鬼火やカボチャ提灯アタックが集まりつつあった。
 彼女達ディフェンダー勢の奮戦と最後方からのイヤシの魔力の後押しで魔女軍団の勝利は早々に揺るがぬものとなっていた。

「だーれ? BBA無理すんなとかこれはひどいブラクラとか言ってるのは??」
 ミニスカ魔女姿で疾風のごとく敵陣へと切り込み、見事な脚線美の上に巣食う蜘蛛刺繍も艶めかしげな黒タイツを惜しげもなく見せつけながら。
 華麗な飛び蹴りを決めたユーシスは星の瞬きと羞恥を燃やす一筋の流星と化す。
「……なーんかこの戦い、蹴り技率が無駄に高くねえか……」
「魔法とはなにかをただ狂おしく信じるこころなんですーぅ。愛やら勇気やらこめたことにすればそれはだいたい魔法なんですーぅ!」
 酒瓶を完全にカラにした辺りでハロウィンとはそして魔法とはと悩み始めた南瓜頭の疑問をツグミが一蹴した後、炸裂したのは合体W轟竜砲。
 衝撃ではじけ飛ぶキョンシーの肢体を受け止めたのは、白き柔肌の谷間だった。
「おいでなさい。 ──今宵、お菓子よりも甘美な極上の悪戯を、貴女に」
 少女を抱き寄せて優しく囁く華檻の指先はパンプキョンシーの腰のまろみを堪能するかのようにつつりとすべり、スリットから覗く太腿を撫ぜあげる。
「さあ……わたくしと楽しい事、致しましょう……」
 甘やかな魔女の囁き。だが『惑夜の誘い(ジェイル・トゥ・ナイト)』の濃密な抱擁さえも、もはや、少女を形作る『肉』には快楽も苦痛も何ひとつ届けること叶わない。
 絡み合い溶け合い、やがては夢見るようにゆっくりと、屍隷兵は再び屍へ。
 安らかな『肉』へと還った少女の手から、ぽとり、南瓜提灯が転がり落ちるのだった。

 スナイパーキョンシー最後の鬼火が襲い掛かった先は、ひかりだった。
 彼女の闘技は、確かに、ハロウィンの夜に熱狂を齎し続けてきた故に――木偶たる屍隷兵すらも、遂に、プロレス技イコール魔法の彼女の持論を認めた瞬間であった。
「私たちの『魔力』が架ける七色の虹の橋、最後まで渡らせてあげるわ!」
 昂ぶるチャンピオンは回復を待たず仕掛けた。肌を灼くこの蒼炎だけが、死したる少女が他者へと伝える熱。
 『緑』しか知らぬ量産型に虹色のすべてを。フロント、サイド、フィッシャーマンズ、ジャーマン、タイガー、ドラゴン、そして……。
「つ、ついに出たぁーーっ!? 草薙・ひかりのッ! ジャパニーズ・オーシャン・スープレックスホールドォォーーーッ!!!」

 サバトで始まりゴングで終わり。
 魔女と幽鬼のハロウィンナイトは大喝采に包まれながら──ここでいったんの終幕。

作者:銀條彦 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年10月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 6/キャラが大事にされていた 2
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。