お菓子作りのドリームイーター~甘く楽しく子供を食す

作者:狐路ユッカ


 ティーパーティーの帰りがけ、『王子様』は給仕をしていた娘の作ったスイーツを見つけた。
「これは……」
「あっ……」
 娘、パティシエール鈴音はしなやかに伸びてくる王子様の指がそっとプレートを取り、その上に乗ったケーキにゆっくりとフォークを突き刺してふわふわの生クリームをまとったスポンジを口へ運ぶのをただ見ているしかできない。ぱくりとケーキを口へ放り込み、唇についた白いクリームを赤い舌でゆっくりと舐めとる様に、鈴音は恋心を激しく揺さぶられ、その場に頽れた。狂気にも似た恋心に言葉を紡ぐこともできず、とろんとした瞳をしている鈴音に歩み寄り、王子様はその耳へと囁く。
「ママには負けるが、良いケーキだ。君も行き給え」

「~♪」
 ハロウィンのムードにぎわう街の中。パティシエはかぼちゃを練りこんだ生地をフライパンに流し込むところであった。
「よしよし、ふっくら仕上がったかな♪」
 片面が生焼けのうちに、かぼちゃの種を散らす。その時だった。
「っ!?」
 彼女の胸を、巨大な鍵が貫いたのだ。パティシエはフライ返しを取り落としてその場に倒れこむ。その傍らに生まれたのは、大きなパンケーキをクッションにして微笑むドリームイーターであった。
「私はおいしいパンケーキ♪ あまぁい楽しいハロウィンに……私だけが食べられる? いえいえ、私が食べましょう……! おいしい子供を食べましょう♪」
 ドリームイーター、ゼムリニキャッフェは楽し気に歌いながら、獲物である子供を求めて飛び出していった……。


「せっかくのハロウィンなのにまたデウスエクスなんてー!」
 秦・祈里(豊饒祈るヘリオライダー・en0082)はランタンを抱えてぐぬぬと歯噛みする。
「ドリームイーターの魔女達が動き出したみたいなんだよ、ハロウィンの力を手に入れるつもりなんだ」
 お祭りが台無しになるなんて、それはなんとしても食い止めないとね、と祈里は拳を握りこむ。
「で、それの一端なんだろうね……。ハロウィンの為のお菓子を作っていた女性が、いきなり現れたドリームイーターの鍵に貫かれて倒れドリームイーターを生み出してしまう事件が起こっているんだよ」
 今回襲われた女性は、カフェに勤務するパティシエのようだ。ハロウィン限定のかぼちゃ生地のパンケーキを作っていたところを狙われたらしい。
「生み出されたドリームイーターはね、子供を食べちゃうつもりなんだ。絶対、絶対あってはならないことだよ! お菓子を楽しみにしているのに、お菓子に食べられるだなんて! だから、そんな恐ろしいことが起こる前に、みんなでやっつけてほしいんだ!」
 祈里は祈るようにぎゅっと手を組む。
「ゼムリニキャッフェが現れるのは、郊外にある小さなカフェ。今から行けば、子供を襲う前に接触できるはずだよ! 大きなフォークで心臓を貫こうとしてきたり、モザイクまみれの生クリームを投げつけてきたり、大きなパンケーキ生地を叩きつけてきたりするから、十分に気を付けて……!」
 そして、祈里はひとつ深呼吸をするとにっこりと笑った。
「ハロウィンにはおいしくて楽しいお菓子が不可欠でしょ? ドリームイーターを倒して、パティシエさんのパンケーキ、完成させてあげなくちゃ。ね」


参加者
レカ・ビアバルナ(ソムニウム・e00931)
鉄・千(空明・e03694)
シエラシセロ・リズ(勿忘草・e17414)
ラクシュ・スルシュ(火眼黒豹・e17707)
影渡・リナ(シャドウランナー・e22244)
島・笠元二(悪役勉強中・e26410)
アイカ・フロール(気の向くままに・e34327)
影守・吾連(影護・e38006)

■リプレイ


 ハロウィンのムードが高まる街の中。少し外れの方にあるそのカフェに、ケルベロス達はやってきた。
「かそう? 仮装……」
 ラクシュ・スルシュ(火眼黒豹・e17707)は、ハロウィンは仮装をするものと聞いてきたので、早速シーツを被る。
「メジェドさま!」
 例の神様の顔を描いたシーツは、予想以上に前が見づらかった。
「お菓子が楽しみなイベントなのに、お菓子に食べられるのはかなり嫌だなぁ」
 シエラシセロ・リズ(勿忘草・e17414)は、苺をあしらった真っ白なワンピースを纏い、仲間たちを振り返る。
「みんなで楽しいハロウィンを取り戻して、お菓子いっぱい食べよう!」
 うん、とパティシエ姿の影守・吾連(影護・e38006)が頷いた。
「お菓子は人を笑顔にしてくれるものだよ。なのに、笑顔を奪うようなことをするなんてそんな悪いパンケーキは退治しないとね」
 鉄・千(空明・e03694)は、カボチャ色の衣装にカボチャを被って全身南瓜武装し、大きく頷く。その時だ。ガシャァン、と音を立ててカフェの入り口の扉が割れ、ゼムリニキャッフェが姿を現したのだ。
「私はおいしいパンケーキ♪ んふ、んふふふふ♪」
 楽しげに歌いながらこちらへやってくるゼムリニキャッフェに、雪女の装束を纏ったアイカ・フロール(気の向くままに・e34327)はぴしゃりと言い放つ。
「お菓子は子供たちに喜びを与えてくれるものです! それなのに恐怖を与えるだなんて……美味しそうな見た目だからって容赦しません!」
 ――ゼムリニキャッフェの見た目が随分美味しそうなのでちょっとかじってみたくなったというのは、秘密だ。傍らで雪男風の仮装をしたぽんずも気持ちはわかると言いたげな視線を投げてきた。クスクス笑っているゼムリニキャッフェに、島・笠元二(悪役勉強中・e26410)が高らかに宣言する。
「おーほっほっほ! ハロウィン限定のかぼちゃのパンケーキを狙うだなんて中々の悪ね。しかし、やり口は私の悪の美学が許さないわね……悪の神髄を見せてあげるわ!!」
 悪の神髄とは。
 このカフェを訪れようとしていた数名の一般人がきょとんとしているのを、レカ・ビアバルナ(ソムニウム・e00931)が優しく避難させる。
「どうぞご心配なく……今はまだ安全です。さぁ、落ち着いて避難してください」
「あ、ありがとう……」
 ゼムリニキャッフェの興味は、完全にこちらに向いた。ダメ押しとばかりにラクシュはかぶっていたシーツを取り去って叫ぶ。
「パンケーキは、たべるものであって、たべられるものじゃ、なんだぞ!」
(「……あれ、おかしい?? えーと、えーと……ウゥ、ニホンゴむずかしい……」)
 更に、影渡・リナ(シャドウランナー・e22244)が周囲に殺界を形成しつつ名乗りを上げる。
「お菓子は美味しく食べられてこそだね。……わたしたちケルベロスが相手だよ!」
 ゼムリニキャッフェの注意が完全にこちらに向いたその時、戦闘が幕を開けた。


「子供達の笑顔のためにも、お菓子をめいいっぱい食べるためにも全力でいくよ!」
 シエラシセロは二本のゲシュタルトグレイブを構えると勢いよくゼムリニキャッフェに躍りかかり、突きの連撃を浴びせる。
「わたし、も♪ 子供たべるぅううう!」
 ゼムリニキャッフェは手に持ったフォークをクルクルと回し、狙いを定める。そこへ、千が立ちはだかった。
「チビッ子を食べるなんて許さん! おいしいパンケーキで『はろいん』迎える為にも、悪いパンケーキをやっつけるのだ!」
「キャハハハッ!」
 どす、と鈍い音を立てて突き刺さるゼムリニキャッフェのフォーク。が、それとほぼ同時に千の強烈な旋刃脚も相手に命中していた。
「ぐ、ぅ、っひひ」
「……ッ」
 ゼムリニキャッフェは不気味に笑いながらフォークを引き抜き、地に着ける。千も、痛みにその場に膝を着いた。
「レカさん、今です!」
 レカと並び立つアイカが、ゼムリニキャッフェの追撃を許すなとばかりに声を上げる。
「この矢からは逃しませんよ」
 こくりと頷き、レカは漆黒の巨大な矢を撃ち放った。見事敵の胴体を撃ち抜き、レカはアイカに微笑みかける。
「アイカさんが隣にいらっしゃって、心強いです」
 共に、頑張りましょう、と。アイカはそれに笑顔で返事をすると、フェアリーブーツで敵へ蹴りかかっていった。着地したその後、ビュンッと勢いよく二枚のパンケーキが飛んでくる。
「危ない……ッ」
 吾連が、すかさずアイカとの間に割って入り、パンケーキに挟まれる。
「吾連さん!」
 瞬間だった。パンケーキの隙間から、パンケーキもろとも敵を弾き飛ばすように吾連が轟竜砲を撃ったのである。
 砕け散るモザイクのパンケーキに、ゼムリニキャッフェは悔しげに歯ぎしりをする。
「大丈夫」
 優しく笑って、アイカに無事を伝えると吾連は軽く服の汚れを払った。
「おーほっほっほ、私が回復を手厚く振舞ってあげるわ!」
 笠元二が前衛に立つ者達を、雷の壁で援護し回復する。その時間を稼ぐようにぽんずがキャットリングを飛ばした。
「パンケーキは、おとなしくたべられろ!」
 ラクシュが放つブレイズクラッシュは、ゼムリニキャッフェの腕を掠める。
「ぶ!」
 反撃とばかりに飛ばしてきたモザイククリームが、ラクシュの顔面に直撃した。
「……まずい」
 うえ、と苦い顔をしてふるふると頭を振り、モザイクを払う。
「……たべれないパンケーキなんっ……いらないんだぞ!!」


 パンケーキが飛び、クリームが弾け、続く応酬。
「逃さないよ」
 シエラシセロが猛禽類の狩りを思わせる速度で、笠元二により引き上げられた強度の蹴りを叩きこめば、ゼムリニキャッフェは悲鳴をあげてその場に倒れ伏した。
「放つは雷槍、全てを貫け!」
 リナは、そこを狙って雷の幻影を纏わせた槍を振り上げた。そして、そのままゼムリニキャッフェの背に突き立てる。
「あがぁあっ……」
 引き抜いたその後も、その背には幻影が纏わりつく。痺れに喘ぐゼムリニキャッフェへ、千が翼を広げながら迫る。そして、大きく振りかぶるとアイスエイジインパクトを叩きこんだ。
「ぐ、う……」
 くるりと体をひねり、ゼムリニキャッフェが足掻くように生クリームを吐き付ける。
「っ!」
「千!」
 吾連は千へ駆け寄り、ゼムリニキャッフェから引きはがすようにして庇う。
「笠元二さん!」
 回復を頼むように視線を送ると、笠元二は一度頷いて千の傍へ向かった。
「私の目の黒いうちは誰も倒れさせはしないわよ」
「ありがとう……!」
 悪役めいた言葉を放つ彼女だが、根の優しさがその瞳に現れている。千は安心して彼女のウィッチオペレーションを受けた。
「悪いパンケーキは……焼いてしまおうか」
 吾連の掌がスッと上がる。放たれる竜の幻影、燃え盛る炎が、ゼムリニキャッフェの身体を激しく焼いた。
「何度でもおかわりをどうぞ?」
 静かに歩み寄り、既に痺れと炎にまみれたゼムリニキャッフェへ、レカが黒影弾を撃ちこんだ。
 魂に重力の楔を打ち込まれ、ザァッ、と、砂を思わせるようにゼムリニキャッフェは崩れ消えて行く。
 リナは安堵のため息を漏らし、
「お菓子が人を食べちゃうなんて悪戯も過ぎるよね」
 本当にならなくて良かった、と笑うのだった。


 割れた扉に、リナがヒールをかける。壊れていた椅子とテーブルも、ラクシュの手によってテキパキと直されていった。ボロボロになっていた壁を修復しながら吾連が口を開く。
「パティシエさんは無事かな?」
 シエラシセロはキッチンのほうへ視線を向ける。
「あ……! 目を覚ましたみたいだね」
 まだ感覚が戻らないのか、すこしフラフラしながらパティシエが壁に手をつき、ゆっくりとこちらへ向かって来ていたのだ。
「あの、みなさんが……?」
 レカはサッと駆け寄ると、パティシエにヒールを施す。
「お目覚めですね、良かった……」
「はい……一体何が起きていたのか……おや」
 パティシエが顔を上げた先、それは皆がヒールをかけたためハロウィンのムードがより強調されたファンシーな店内。
「ふふ、可愛い」
「そう、ヒールしたら、『はろいん』の雰囲気、何故かもっと強くなった!」
 千がそう告げる。
「そっかぁ……! うんうん、良い感じ……あああ!」
 パティシエが急に声を上げる。
「どうしよ……もうこんな時間! 開店まで時間がない!」
 あわあわと焦りを顔に出すパティシエに、レカが問う。
「あの、あちらの生地でお菓子を作られるのですよね?」
 キッチンにあるボウルの中の生地に視線を向けると、パティシエが一つ頷いた。
「うん、これだけじゃ足りないから、もっと作らないとなんだけど」
「私達にも何かお手伝いできることはありませんか?」
「オレ、おかあさんのおてつだいちゃんとしてるから、パンケーキ作れるぞ!」
 レカの申し出と共に、ラクシュがすっと右手を上げる。
「えっ!」
「まぜるのやるぞー」
 手伝う、と笑いかけると、パティシエは嬉しそうに頷いた。
「本当ですか……! 助かります! じゃあ、生地の材料を量るのと……」
 パティシエはケルベロス達に次々指示を出していく。

「お姉ちゃんに作り方教えて貰ったし、先生に味見してもらったから自信あるのだ」
 千と吾連は顔を見合わせて笑う。
「いっぱい練習してきたんだ。皆が笑顔になるくらい美味しいのを作れるといいな」
 ゴムべらで生地をさっくりと混ぜ合わせ、熱したフライパンの上に少しずつ落としていく。南瓜入りの生地が焼ける香りが、キッチンに充満していくと自然と期待に胸が躍った。
「一度熱してから濡れ布巾でフライパンを冷やして……」
 鉄のフライパンをジュゥッ、とやると、パティシエはそれを火にかけてまた生地を入れる。
「プロの方とご一緒出来る機会なんてそうそうないですからね」
 アイカはよく観察し、焼けるのを待った。
 生地の材料をすっかり回数分に量り終え、ストックの生地も作り終えるとパティシエはケルベロス達に声をかける。
「皆さんの試食分、焼きあがりましたよ!」
 リナは焼きあがった生地を見て、友人と作ったときの事をなんとなく思い出し、温かい気持ちになる。手作りのお菓子というのは、なんだかとてもあたたかい。
 不器用ながらもコツを教わりながら頑張ったシエラシセロは、見事に焼きあがったパンケーキにクリームを添え、苺を乗せていく。皆でテーブルについて試食会のスタートである。
「素晴らしいお味です……! 南瓜とパンケーキの相性の良さを初めて知りました」
 一口食べて、レカが感嘆のため息を漏らす。甘いもの好きにはたまらないコンビネーションだ、と口元を緩める。
「吾連、千が焼いたの試食してくださいのだ!」
 千は手元にある自分が焼いたパンケーキを吾連に差し出した。吾連はそれを受け取り、口へと運ぶ。
「どうかな? おいしいか?」
「すごく美味しいよ、千!」
 ふわっと彼の顔に満面の笑み。甘くてふわふわな生地が、幸福感で胸を満たしていく。
「思わず笑顔になっちゃう美味しさだ!」
 俺の焼いたパンケーキも良かったら、とお返しにお皿を差し出す吾連。千もそれを受け取ると、一口。
「練習してきた成果、出せてるといいな」
 千は普段からは想像もつかないような柔らかな笑みを零す。基本的に無表情な彼女の笑みに、吾連は成功を確信した。
「しっとり、ふわふわ……!」
「おいしいな……!」
 ラクシュも、クリームを乗せた生地を頬張って満足そうに頷く。シエラシセロは、自分で作ったパンケーキの美味しさに笑顔を零しながら、仲間たちの顔を見遣った。食べるのは大好きだが、皆の笑顔を見るのはもっと大好きなのだ。嬉しさで胸がいっぱいになっていく。
「貴方のお菓子で笑顔になる方がいる。とっても素敵なお仕事ですね」
 レカがパティシエにそう笑いかけると、パティシエは照れくさそうに頷いた。
「そうだと、とっても嬉しいです……!」
 その時だ。
「おーほっほっほ!!」
 笠元二が大きな皿にずどぉんと大盛りのパンケーキを持ってきたのだ。
「す、すごい!」
「これが悪役的な盛り方よ。全人類の敵、恐ろしきカロリーを美しく大胆に大量に盛りに盛ったケーキ……これを食べた憐れな人々は、その後体重計に乗ることで次々と悲鳴が上がるのよ」
 すごい。すごい観点だ。
「本当に憐れよね。おーほっほっほ!」
 悪の女幹部じみた高笑いに似つかわしくない、可愛らしいパンケーキプレート(カロリーは殺人級)に、パティシエはごくりと喉を鳴らす。
「7段重ねに生クリームと苺とバター……アリよね、アリだわ……特別メニューにしても良い?」
 まさかの採用である。
 ラクシュはにこ、と笑った。
「おいしいし、たのし。な!」
「ハロウィンはみんなで楽しむものだからね」
 皆が笑顔で迎える、これでこそハロウィン。楽しいパーティーは、ケルベロス達によって守られたのであった。

作者:狐路ユッカ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年10月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 3
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