三色魔女のハロウィン~求めるはハロウィンの力

作者:天枷由良

●魔女(見習い)
 十月三十日、夜。
 ハロウィンを控える街は、既に大賑わい。
 様々な衣装に身を包んだ人々が通りを練り歩き、立ち並ぶ商店にはジャック・オ・ランタンを始めとした飾り付けと共に『仮装で全品半額!』なんて看板も設置されている。
 笑い声や歓声が止むことも、明かりが絶えることもなさそうだ。皆、夢のような時間を目一杯楽しもうとしているのだろう。

「――けれど、今日の主役はアタイたちさ!」
 一際高い建物から喧騒を見下ろして、それはモザイク揺らぐ帽子をぐいとかぶり直す。
「さぁ、パンプキョンシー! お前たちは派手に暴れてくるんだ! お前たちが大騒ぎすれば、きっとハロウィンの魔力を持つ魔女が現れる! その力を奪えばアタイは……このフォティアは! 赤の見習い魔女なんかじゃない、超越の魔女になれる! そしていつかは『ジグラットゼクス』にだって、なってみせるんだから!」
 不遜な態度で言い放つ魔女。
 その手が勢いよく振られた瞬間、顔に札を貼り付けた『パンプキョンシー』たちが、人だかりに向かって飛び跳ねた。

●ヘリポートにて
 ハロウィンの力を狙って、ドリームイーターの魔女たちが動いている。
 そう切り出したミィル・ケントニス(採録羊のヘリオライダー・en0134)は、ケルベロスたちを一瞥してから言葉を継ぐ。
「ドリームイーターの作戦は多岐にわたるようなのだけれど……皆には、赤の見習い魔女が起こす事件を防いでもらいたいの」
 赤の見習い魔女・フォティアは、青や緑の魔女と共に量産していた屍隷兵『パンプキョンシー』を用いて、人々を襲撃するようだ。
 ハロウィンに屍隷兵をけしかけてくるとは、水無月・一華(華冽・e11665)の危惧していたとおりである。
「赤・青・緑、三色の魔女たちの狙いは『ハロウィンの力を持つ魔女を探し出して、その力を奪うこと』らしいわ」
 ハロウィンの力を持つ魔女が如何なる存在かは分からないが、ハロウィンを楽しむ人々を襲うことでそれが現れると、三色の魔女たちは考えているのだろう。
 当然、放っておくわけにはいかない。
「パンプキョンシーは、魔女を探し出すことを目的としているわ。ケルベロスの皆がハロウィンの魔女であるように見せかければ、街の人々は無視して皆を攻撃してくるでしょう」
 この性質を利用すれば、人々に被害なくパンプキョンシーたちを撃破できるはずだ。
 また、戦いの様子を見たフォティアが、ケルベロスのなかに『ハロウィンの魔力を持つ魔女』がいると判断すれば、戦場に姿を現して力を奪おうとするかもしれない。
 もしもフォティアが現れた場合は、その撃破も行うことになるだろう。

「現場は、一直線に伸びる大きな通りよ。その中心部にある建物の屋上から、四体のパンプキョンシーが人だかりに飛び込んでくるわ」
 敵はひと目でそれと分かる姿をしているので、通りに立ち、注意を払っていれば発見は難しくない。
 また、戦闘が始まれば人々は一目散に逃げ出すだろうが、幸いにも真っ直ぐな道であるから、自力で避難できると思われる。
 そして、四体のパンプキョンシーが行う攻撃は全て力任せ。噛み付きや、爪などを武器にした格闘攻撃のほか、手にしたランタンから炎を飛ばしたりもするようだが、戦闘力自体はそれほど高くない。油断さえしなければ、十分に余裕を持って撃破できるはずだ。
「その際に『ハロウィンの魔女らしい演出』をすることで、フォティアが戦場に現れるかもしれないわ」
 フォティアの誘引と撃破までを狙うなら、この演出が重要になる。
 一人でも複数でも構わないが、とにかく強力なハロウィンの魔女がいると見せかけなければならない。
「もしも誘き出せたなら……屍隷兵を作るような魔女ですもの、容赦なく叩きのめしてやりましょうね」
 皆の活躍を祈っているわと、ミィルは説明を締めくくった。


参加者
佐竹・勇華(は駆け出し勇者・e00771)
ヴェスパー・セブンスター(宵の明星・e01802)
リコリス・ラジアータ(錆びた真鍮歯車・e02164)
ヴィ・セルリアンブルー(青嵐の鎧装騎兵・e02187)
瀧尾・千紘(唐紅の不忍狐・e03044)
霧島・絶奈(暗き獣・e04612)
香坂・雪斗(スノードロップ・e04791)
水無月・一華(華冽・e11665)

■リプレイ

●前夜にして最高潮
 夜闇を払うほど賑わう大通り。種々様々な仮装で練り歩く人々。
 そこへ交じるのだから、ケルベロスたちも当然、普段とは異なる装い。
「ハロウィンらしくコスプレです!」
 佐竹・勇華(は駆け出し勇者・e00771)が、南瓜の被り物みたいな帽子を被って胸を張る。着込んでいるのはマント付きの鎧で、まさしく駆け出しの騎士か勇者かという雰囲気。
 子供が「おねえちゃんかっこいい!」と声を上げながら過ぎていく。勇華も、にこやかに手を振ってみる。
 しかし、その微笑みの下の下。伸縮性抜群のオレンジかぼちゃブルマが、また直穿きだとは。まさか誰も思うまい。
「ヴィさんも格好いいですね、その鎧!」
「そうかな? ありがとう」
 丁寧に答えたヴィ・セルリアンブルー(青嵐の鎧装騎兵・e02187)は、勇華よりも重装備の全身鎧。
 いつもの笑顔も兜に隠れ、辛うじて覗く両眼は香坂・雪斗(スノードロップ・e04791)を見やる。
「俺は雪斗の魔女っ子姿も見てみたかったけどなぁ」
「魔女っ子? ヴィくん、俺と契約してくれるん?」
 小声で悪戯っぽく返した雪斗はペストマスクを被り、偽の翼が生えた黒ローブの裾を揺らしている。どうやら、魔女が使役するカラスのイメージであるらしい。なるほど、それならヴィは操られた騎士の亡霊で――さて、肝心の魔女役は。
「よいことも、わるいことも忘れて。今宵はおおいに楽しんで盛り上がっていこー♪」
 南瓜のチャームが付いた如意棒を、杖に仕立てて、くーるくる。
 ふさふさ尻尾もゆーらゆら。魔女服を纏う銀狐の瀧尾・千紘(唐紅の不忍狐・e03044)が、すっかりご機嫌でなりきって。
 さらには霧島・絶奈(暗き獣・e04612)も、尖り帽子にローブ姿。フードを目深に被った司祭風テレビウムと一緒に、妖しげなランプを掲げていた。
 その揺らめく火を見つめ、絶奈は微笑を浮かべながら思索にふける。
 ハロウィンについて。ワイルドスペースについて。それから――。
「うらめしや~、であります」
「……セブンスターさん、ですね?」
「そうであり……いえ、自分は『おばけ』であります」
 真面目な声音でふざけたことを言って、思案の芽を摘んだのはヴェスパー・セブンスター(宵の明星・e01802)。
 ヴェスパーは覗き穴を空けた白布をすっぽりと被り、両手でひらひらと翻していた。
「おばけは魔女の使い魔でありますから。ささ、ご命令を、であります」
「ご命令をです! ……です、かぼ!」
 丸みを帯びたオレンジ色のドレスに、葉のようなリボンと髪飾りをあしらった水無月・一華(華冽・e11665)も戯けてみせる。
 まだぎこちない語尾は、使い魔アピールの一環だろうか。
「何だか、見ているだけで楽しくなりますね」
 仲間たちのやりとりに、かなり気合の入った道化師姿のリコリス・ラジアータ(錆びた真鍮歯車・e02164)が、ふと呟く。
 その手にもまた、南瓜のランタン。
 ケルベロスたちはすっかり街に溶け込んで、ハロウィンのいち風景と化していた。

●前座の登場
 けれども。ケルベロスたちは、ただ遊びに来たのではない。
 夜空を見上げていた雪斗が、不穏な影を目に留めて声を張る。
 驚き釣られた人々も視線を送れば、そこから飛び込んでくるのは言葉通りの札付き。
 屍隷兵・パンプキョンシーだ。倒すべき敵の一体を見定めて、千紘は踊るように人混みを抜けると言い放つ。
「大迷惑な悪戯する子はメッしちゃいます! 我が名は、ハロウィン! 愉快で痛快なパンプキングダムの魔女!」
 そして手中のスイッチを押し込めば、途端、方々で起こる鮮やかな爆発。
 巻き上がる風。それに乗って宙へ跳ぶ勇華。
「みんなが楽しんでるハロウィンを――邪魔させはしないよ!」
 叫び、身体を捻れば、勇者の闘気に包まれた脚が鋭く風切り、敵を打つ。
 パンプキョンシーは何をするまでもなく叩き落され、南瓜飾りに突っ込んでいく。傍らにあった店の主が、慌てふためき駆け出す。
 一瞬ばかりの光景だが、仔細分からずとも人々を急き立てるには十分。悲鳴が湧き、仮装軍団は我先にと逃げだした。
 すぐさま、通りの中ほどに立つのはケルベロスだけとなり。
「……ね、覚えている?」
 南瓜飾りから這い出るパンプキョンシーと、さらに降ってくるものを見据えながら、ヴィは隣の黒ずくめに尋ねる。
「俺らが初めて会ったのも、ハロウィンの戦いだったよね。雪斗、格好良かった」
「褒めても何も出えへんよ? ……でも、そうやったね。懐かしいなぁ。ヴィくん、あの頃よりもずっとずっと頼もしくなった! 俺も負けてられへんな!」
「頼りにしているよ。魔術師殿」
 兜の下から視線を注いで、ヴィは片手を上げる。
「騎士さんも、魔女様の護衛、お願いね?」
 マスクに表情を隠したまま、雪斗も腕を振って。
 ぱちんと鳴った音を合図に、思考を戦いへと切り替えた二人を、また色とりどりの爆風が煽る。
 それを起こしたリコリスは、挨拶がてらと深々お辞儀。
「さぁさ、宴を始めましょう。一夜限りの楽しい宴を」
 道化師らしく語ると、魔女の一人を恭しく示す。
 その魔女は未だ穏やかで。けれど仮装などでは隠しきれない狂気を滲ませて言葉を紡ぐ。
「祝えよ今宵の収穫を。悪しき魂に葬送の餞を」
 死より生まれた屍隷兵に手向けるは、生命の根源を思わせる、光り輝く槍と似た何か。
 絶奈は幾つも重なる魔法陣の向こうで、一段と笑みを歪ませる。そして突き出た物体は、先程蹴り飛ばされたばかりのパンプキョンシーを一息に飲み込んでいく。
 眩い光を嫌がるように、降り立ったばかりの三体が跳ねた。
 そのまま一塊で群がろうとする先には、力を放ち続ける尖り帽子。
「ハロウィンの主役はお前らじゃないぞ。お邪魔虫は退場してもらおう」
 重厚な鎧から飄々とした声で言って、まずはヴィが一体押さえる。
 もう一体には勇華が立ちはだかり。その間をすり抜けた最後の一体は――ぴょんと跳ねて凶器を振るテレビウムが、文字通り身体を張って主人への狼藉を防ぐ。
 行く手を阻む小さな従者に拳を食らわせながら、ぎりぎりと歯噛むパンプキョンシー。
 それを見やった絶奈は「残念でしたね」と、冷ややかに浴びせて腕を振る。
「祝福しますかぼ!」
 魔女の指図に一華が応じて、台詞とは裏腹に低く疾く、地を駆けた。
 狙いは攻撃を阻まれたパンプキョンシーたちでなく、光の塊に攫われて体勢を崩したままの個体。
「雪斗くんも、お願い!」
「魔女様の仰せのままに!」
 杖振り声張る千紘に答えて、雪斗も腕を突き出す。そこからは南瓜の蔓の如く攻性植物が伸びて、何とか逃れようとする目標を絡みとった。
 満足に動くことも出来ないのなら、もはやキョンシーでなく案山子。
「お菓子をくれなきゃ南瓜の刑ですかぼー! ざっくざく!」
 勢いに乗って一突き、二突き。最後は空の霊力を穂先に宿し、自らが突いた傷を広げるように薙ぎ払う。
 鮮やかな槍さばきの前には為す術もない。一華が飛び退いたところで、パンプキョンシーはボロボロと崩れていく。
「あっけないものでありますな」
 ヴェスパーは呟き、白布の下から突き出す砲口の向きを変えた。
「一つ一つ確実に、狙い撃つであります。……あ、今の自分はおばけでありますから、呪うでありますよ」
 呪い(物理)でありますが。
 彼女なりのユーモアを混じえながら火を噴く砲台。斉射された力は、揉み合いの中から一つの影だけを正確に貫く。
「ついでに持っていけ!」
 撃ち抜かれた衝撃で生じる隙間に、ヴィが燃え上がる鉄塊剣を捩じ込んで振れば、叩きつけられるパンプキョンシーからは鈍い音が響いた。
 膝が折れ、腕も力なく垂れる。しかし弾かれたようにもたげる頭には、まだ札がそよぎ。
 魔女よりも目の前の敵を排除しようと、パンプキョンシーは牙を剥く。
 鎧が容易く砕かれ、ヴィの肩口には強烈な痛みが走った。

●炎上、退場
 血が滲み出る代わりに、痛みが全身へと染みていく。
 毒だ。後の事を考えれば無視はできないが――。
(「……これくらいなら」)
 治癒を急かすほどではないと断じて、ヴィは力一杯噛みつくパンプキョンシーに、地獄の炎弾を放つ。
 至近距離からの一撃で牙が抜けて、間合いが開いた。それは僅かなものだが、勇華が飛び込むに十分。
 牽制に蹴りを打ち、その脚とは逆側から白銀の大鎌で振るう。激しく斬り上げられた敵は、彼方に転がっていく。
 後に残った火の粉を浴びれば、ヴィには失われた生命力が幾ばくか戻ってきた。
 毒気は抜けないが、ひとまずこれでよし。そう思って剣を構え直すヴィ。
 しかし兜で表情が窺えないばかりに、当然の如く怒る者が一人。
「次に倒すんはあいつや!」
 言うが早いか、雪斗は簒奪者の鎌を手に大地を蹴った。
 偽の黒翼が真の白翼に変わって、禍々しさと神々しさが同居する。
 その猛進を止めるため、残りのパンプキョンシーたちがランタンを振るうも。
「やらせるものか!」
 勇華が、襲い来る炎の一つを拳で打ち払う。
 もう一波の炎は魔女の二人まで巻き込むほど広がったが、それで止められるはずもなく。
 体勢を立て直したばかりのパンプキョンシーに閃く刃。虚の力を込めての一撃が、腸を根こそぎ取るように敵を裂いた。
 しかし、もう蹌踉めくことすら許さない。
「穢れた魂に冥府の神の祝福を」
 佇み囁く絶奈の身体から、溢れた悪意が形を成して、斬られたばかりのパンプキョンシーを包み。
「呪いに塗れて凍えるがいいであります」
 ヴェスパーがライフルの引き金を引けば、伸びる光線に穿たれた黒球は青白く変化して、ガラスのように砕け散る。
 その中に敵の姿はなく。辛うじて残ったランタンの欠片が、屍隷兵に訪れた死を事実として示す。
「なかなか優秀なおばけです! 褒めて遣わしましょう!」
 機嫌よく言って、踊り回る千紘。
 その勢いは増すばかりで、ケルベロスたちの肌にすら伝わる程の熱気を帯び。
 やがて紅蓮の円環を作り上げた彼女は、満を持して。
「パンプキングファイアー!」
 杖の先から靡く炎で、残る二体を纏めて焼き払った。
 パンプキョンシーたちは堪らず跳び上がり。着地した瞬間、さらなる爆炎に焦がされて、高く高く夜空に舞う。
「こうも簡単にかかってくれるとは。悪戯の仕掛け甲斐がありますね」
「悪戯なら負けないかぼー!」
 見えない地雷の成果を眺めて言ったリコリスに、一華が負けじと叫んで護符を撒く。
 それから湧いた光る猫の群れは、落ちてきたパンプキョンシーへとまっしぐらに突進。
「では。私も賑やかしに、また一つ」
 リコリスは戦闘の余波で散った飾りを真鍮に似た金属と地獄で取り繕って、幾つかのカボチャ兵に仕立て上げる。
「宴も酣。如何でしょう。貴女たちも南瓜となら、さぞや楽しく踊れるかと思いますよ」
 まだ動けるのなら、ですが。
 そう付け足してから命ずれば、即席の兵隊は素早くぎこちなく、つまりは何とも奇妙奇天烈な足取りで敵に迫った。
 そして始まるのは、ダンスというより子供の取っ組み合い。
「今のうちです! 使い魔たちよ!」
「かぼー!」
 杖を振り振り、千紘がばっちりポーズを決めて掛けた号令に、一華が反応して槍による斬撃を繰り出す。
 絶奈も槍のような物体を再び喚び出して続き、すかさずテレビウムが一撃加えて抜ければ。
「さぁ魔女様、止めを!」
 雪斗が蔓を操って縛り上げ、お膳立て。
「上々です! では、焼き切って上げましょう! ――パンプキングツリー!」
 千紘の叫びを掻き消すほどの雷鳴が轟き、パンプキョンシーの足元から天に向かって、紅色の逆さ雷がサンゴのように広がっていく。
 それは瞬くほどの時間で、敵を消し炭に変えた。

「あと一体であります!」
 白布を靡かせながら最後の敵に迫ると、ヴェスパーは剣を天に掲げて言う。
「貴殿に罪はなくとも、今宵の剣は飢えているのであります!」
 上段から袈裟懸けに。まるで武士のような斬撃を受けて、しかしパンプキョンシーは踏みとどまると牙を剥く。
 ヴィが咄嗟に身体を入れ替えて庇い、牙を受けながらも二本の鉄塊剣を振り上げた。
 同じ剣でも、此方は敵を圧し潰すような十文字斬り。
 ぐしゃりと嫌な音がして……それでも、パンプキョンシーはまだ粘る。
「なら、これで決める!」
 拳を力強く握りしめると、勇華は立ち並ぶ店の軒先を蹴って夜空に跳んだ。
 それから月を背にマントを翻し。籠手に包まれた腕を敵と重ね合わせ。
「――うおぉぉぉぉぉ!! ハロウィン勇者っ、パァァァンチ!!!」
 重力に引かれて落ちる身体の全てを乗せた、渾身の一撃を見舞う。
 パンプキョンシーは土手っ腹を貫かれ、暫し立ち尽くしたあと。
 ゆっくりと、前のめりに倒れた。

●しかし待ち人来たらず
 戦いが終わって程なく。
 大通りはケルベロスたちによって修復され、元の賑やかさを取り戻しつつあった。
「……でも、出て来る気配はないですね」
 南瓜飾りを整えながら、勇華は辺りを見回す。
「ええ、残念ですが」
 答えたリコリスは、いつの間にやら道化師から、顔半分を妖しげな飾りで覆い隠したドレス姿に。
 それは赤の見習い魔女・フォティアを誘き出す第二の策であったが……どうやら本来の目的には至らず、場を賑やかすだけで終わってしまったようだ。
「元凶をとっちめてやりたかったのでありますが……」
「人々を守ることが出来たのですから、それで良しとしましょう」
 仄かに悔しがるヴェスパーに、絶奈が全品半額と書かれた看板を直しながら言った。
「そうやなぁ。俺らも大した怪我ないし」
 な、ヴィくん。
 そう呼びかけたつもりで、横を向いた雪斗は言葉を失う。
 自分より少しだけ背の高い全身鎧が、ぱかっと取り上げた兜の下に――首がない。
「――っ!!」
「……なんちゃって。へへ、驚いたー?」
 鎧に引っ込めていた首を伸ばして、笑うヴィ。
 一方で腰を抜かし、あわあわと慌てふためくばかりだった雪斗は。
「も、もう! 心臓止まるかと思った……!」
 そう返すのがやっとで、ヴィが「今年も楽しいハロウィンになるといいね」と呼びかけながら差し出した腕に縋り、何とか起き上がった。
 そんな二人を尻目に、一華は明るく楽しくかぼかぼ! と、振る舞って。
 千紘も足取り軽く付いて回りながら、跡形もなく消えたパンプキョンシーたち、死者の魂にも安らぎをと願うのだった。

作者:天枷由良 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年10月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 6
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