清涼飲料水さえあればお茶など不要!

作者:青雨緑茶

「清涼飲料水! それは、人類が生んだ文明の極致である!」
 落葉樹色づく並木道、とあるアンティークな雰囲気の喫茶店。
 年配のマスターを追い出して店を占拠したビルシャナが、信者達に説く。
「人間の一生は有限、つまり、食うだけでなく飲める物の量も有限。そして、それを用意する無駄な手間やこだわりもまた、有限たる時間を浪費する悪しきものなのだ!」
 コーラにジュース、サイダーにスポーツ飲料にと、甘い飲み物の入ったペットボトルや缶ばかりをわんさと抱えて異形の鳥は熱弁を振るう。
「なればこそ、飲むべきはペットボトルや缶入りのジュースである! 清涼飲料水である! これらは買ってくるだけですぐ飲める、しかも美味い!」
『その通りです、教祖様!』
『清涼飲料水最高です、教祖様!』
『教祖様、あのう、ペットボトルのお茶などはどう扱いましょう?』
 疑問を抱いて尋ねる信者に、ビルシャナは厳かに頷いてみせる。
「それは許可としよう。分類上も清涼飲料水であるし、何より手間がかからないというわが教義に合致する。
 しかし! 家で淹れた茶などという時間泥棒は不可である!
 水道水にパックを入れて作る麦茶などという貧乏くさい代物も不可である!
 無論、このような喫茶店など不可の象徴ッ!!」
 どうやらビルシャナにはビルシャナなりに、譲れぬ一線が存在するようである。
「当然ながら、清涼飲料水ではない牛乳やアルコールなども不可である。
 だが害悪の最たるものは何よりもお茶!!
 緑茶・紅茶・烏龍茶・その他中国茶・健康茶……すべて不可! 不可! 不可である!
 コーヒーも同罪であるぞ!! 豆から挽くなど言語道断ッ!
 許されたくばペットポトルに入って売られて出直して来い!」
 ぐびぐびっ、嘴にコーラを流し込んで、口角泡を飛ばすビルシャナ。
「さあ同志達よ! すべての飲み物を清涼飲料水とし、1年365日飲み続けるのだ!」
 信者達は歓声を上げ、我先にとビルシャナが喫茶店に持ち込んだ缶やペットボトルを開けて呷るのだった。


「要するに、ジュースが好きでお茶は嫌い、って教義なんでしょうか?」
 篶屋・もよぎ(遊桜・e13855)は事件の概要を聞いて、一言で纏めて小首を傾げた。
「大体そんな感じです。でもペットボトルや缶入りのお茶は仕方なく認めてるってビルシャナなんで、ちょっとややこしいです!」
 笹島・ねむ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0003)が、更に詳しい説明をする。
 六道衆・餓鬼道という『生きることは食す事、命ある限り思う侭に喰らうが正しい在り方』という教義を持つビルシャナの信者が悟りを開きビルシャナとなり、独立して新たに信者を集めるという事件が起きているようだ。
「いつもみたいに乗り込んでいって撃破して欲しいんですけど、やっぱりいつもみたいに、自分の考えを布教して信者を増やそうとしてます!」
 信者は戦闘になるとビルシャナのサーヴァントとして動く。ビルシャナさえ倒せば元に戻るが、何しろ普通に弱い一般人。できる限り戦闘前に説得して引き離した方が被害が軽微で済むとねむは述べる。
「ビルシャナの主張を覆すようなインパクトのある主張をすれば、きっと正気に戻ってビルシャナから離れてくれますよ!」
 続けて、ねむは資料を配る。
「ビルシャナは振りまくったコーラみたいにペットボトルから噴出する炎を放ったり、ビルシャナ以外には理解不能な経文を唱えて心を乱したりしてきます。光を放って傷を癒す事もあるみたいですね。
 信者は男女合わせて10名。
 現場である喫茶店に偶然居合わせたお客さんが、乗り込んできたビルシャナの主張に影響されてしまったみたいです。
 それで今回の説得方法なんですけど……やっぱりここは、もっとも目の敵にしてるお茶やコーヒーがポイントです。
 ビルシャナは清涼飲料水に対して『手間がかからなくて美味しい』という利点を見出しているので、それに対抗して『多少の手間がかかっても淹れたお茶やコーヒーの方が良い』と思わせる方向がいいと思います!」
「手軽なものばかりが良いとは限らないですからね~。シンプルに、美味しいお茶を淹れて飲ませてみる、とかでも良いのでしょうか?」
 もよぎの提案に、ねむは頷く。
「そうですね。あとは、お茶に合うお菓子や料理と一緒にプレゼンしてみる! とか、素敵なティータイムの雰囲気を演出して魅せつけてみる! とか……」
 それから他には、ビルシャナ自身が好んでいるのはやっぱりジュースのような甘い清涼飲料水なのでそのデメリットを説いたり、いっそお酒のが良いんじゃない? なんていう方向に持っていく手もある、と例に挙げるねむ。
 一通りの説明をして、ねむはもよぎ達ケルベロス達に元気良くエールを送る。
「ねむもジュースやサイダー好きですけど、何を飲むかは人それぞれ自由です! 上手く信者のみなさんを説得して、ビルシャナを倒して下さいね!」
 萌黄色の猫耳と尻尾を揺らして、もよぎはペットのボクスドラゴンを抱えて応じる。
「任せて下さい。自来也さん、頑張ってきましょうね~」


参加者
シオン・プリム(蕾・e02964)
四辻・樒(黒の背反・e03880)
月篠・灯音(犬好きの新妻・e04557)
篶屋・もよぎ(遊桜・e13855)
正門・絵夢(正門流の妖姫・e14620)
ルソラ・フトゥーロ(下弦イデオロギー・e29361)
美津羽・光流(水妖・e29827)
ソルヴィン・フォルナー(ウィズジョーカー・e40080)

■リプレイ


「なんだか最近、その……ずいぶんセコ……失礼。ニッチな主張を唱えるビルシャナが増えてきた気がしますね……」
 正門・絵夢(正門流の妖姫・e14620)は喫茶店を前に、仲間の誰へともなく呟く。
「ククク……人の一生は有限、故に無駄な手間やこだわりもまた、有限たる時間を浪費する悪しきものか。なるほど、のう」
 ソルヴィン・フォルナー(ウィズジョーカー・e40080)が、まさにその狭い教義の方便を諳んじて余裕たっぷりに笑う。
「今日の依頼は素敵なティータイムでありますね。楽しみであります!」
 依頼とは美味しいものを食べるもの、と培われた認識を隠そうともせずにルソラ・フトゥーロ(下弦イデオロギー・e29361)は目を輝かす。
「ひと手間かけるのが良いという事もあるのだと、奴らに教えないとな」
 四辻・樒(黒の背反・e03880)が伴侶である月篠・灯音(犬好きの新妻・e04557)に言えば、彼女も頷く。隣ではその親友のシオン・プリム(蕾・e02964)も意志は同じ。
「店とティータイムの平和は取り戻したるからな。ちょっと巻き込まれんとこまで下がっとって」
 美津羽・光流(水妖・e29827)が店の前でおろおろしている店主に告げると、あなた方は、と向けられる期待の眼差し。ケルベロスである事は明らかだが、通りすがりのお茶の妖精だと答える光流の茶目っ気に、店主は安堵を浮かべる。
「それでは皆さん、参りましょう~。そこまでですよー、ビルシャナ!」
 篶屋・もよぎ(遊桜・e13855)が先陣を切り、喫茶店の扉を開ける。
 カランコロンカラーン、8名様ご来店。さあ、説得だ!


「缶飲料やペットボトル飲料は確かに手軽で味も悪くはないかもしれません。ですが、だからといってカフェを否定するなど言語道断!」
『なんだ貴様らは!』『ケルベロスだ!』とお約束を済ませてから、真っ先に立ち向かうは絵夢。
「何が悪い! このような店、即刻潰れるべきなのだ!」
 絵夢は威嚇する異形ではなく、信者達へと言葉を向ける。
「想像してみてください。自分の彼氏彼女が、デートの最中に素敵なカフェでペットボトルのコーヒーやお茶を取り出す様子を……そして、それを見た周囲の視線を……!」
 わざわざ喫茶店に入っておきながら缶やペットボトルを握るその所業は、ラーメン屋でカップ麺を、お寿司屋でスーパーのパック寿司を取り出して誇るようなもの。
 促された想像に、信者はざわめく。
『う、それは……』
『ちょっと、格好つかないかも……』
 恐ろしい……すごく他人のフリしたい……!
「そのような惨劇を、許すわけにはいきません!」
 想像力豊かな主張が信者を動揺させる。確かに嫌である。掴みは良い感じだ!
「惑わされるな! 格好などを気にして無駄な時間を過ごす、これこそ愚かなり!」
 広がる波紋を掻き消そうと声高な鳥へ、続いて出たのは光流と樒。
「そんなん言うてジュースばかり飲んでたら寿命縮むで? 茶飲みや」
「無駄な時間とは随分だな。お茶には時間をかけて周囲の環境と共に楽しむという側面もある」
 二人は工芸茶を取り出し、ガラスのポットに入れる。
「そう、そこで俺らが美味しい中国茶淹れたるさかい堪能してや。この丸い茶葉をやな、耐熱ガラスのポットで……」
 熱湯を注ぐとポットに入れられた工芸茶は丸められていた茶葉がほどけ、その中に入っていた千日紅が色鮮やかにポットの中で花開く。
「ふぉぉおぉ! 樒、すごいのだ。お花が咲いたのだ」
 樒の傍では灯音が、邪魔にならないようにポットを覗き込みワクワク顔だ。
「工芸茶ちゅうんや。見た目も味も香りも良し」
 工芸茶とは、茶葉を細工し花を組み合せて作られたお茶。歴史の長い中国茶の中ではごく最近考案された、見て楽しみ飲んで楽しめるお茶の芸術品だ。
「特に重要なのは、大事な人のために淹れることだな」
 樒は灯音のためにお茶を注ぐ。それを受け取り、幸せそうにいただく灯音。
「アンタらには俺が淹れたるよ。ええ男が淹れたら完璧やろ」
 お茶の妖精と名乗るに相応しい緑色の癒し系チャイナ服を纏った光流がラブフェロモンを広げてお茶を注ぐ姿に、信者達はポーッとなる。
『素敵、ポットの中で花が咲くなんて』
『やだ、ドキドキする……』
 美男美女が淹れる美しいお茶。女性信者は特にノックアウトだ!
「そして、こうやって飲むお茶には自分と皆がいるのが良い。語らい、目でも楽しむ。ゆっくり時間をとるのも悪くないだろう?」
 樒はシオンにも、皆にも飲んで欲しいと目配せする。皆がカップを手に取る。
 シオンも樒の工芸茶を楽しみ、さて、と信者に向き直って。
「思い出に残る飲み物がある方もいるだろう。家族や友達、同僚と過ごし語らったその時に」
 それが缶やペットボトルの飲料の方もいるだろうが、そうでない方だっているはずだ、と灯音を横に語るシオン。彼女達はかつて朝の師団でよく一緒に珈琲を飲んでいた仲だ。
「私は一年ほど前からハーブを育て始めた。それを使ったハーブティを友人と語らいながら楽しむ時間は何より代えがたいものだった」
 ビルシャナの教義に従うならば、その時間も断らざるを得ない。親しい相手の誘いを断るのは心苦しかろう。果たしてそうまでして、その教義には守る価値があるのか。
「シオンのコーヒーも美味しいけど、ハーブティもとっても美味しいのだ」
 ハーブティをご馳走になりながら、ほっこりと微笑む灯音。微笑み返すシオン。
「それに、好みや体調に合わせて配合変えられるのは手作りの利点だ。それぞれの方の希望に合わせて配合しよう」
『受験勉強の時、母さんがコーヒー淹れてくれたっけ……』
『片頭痛に効くお茶なんて、あるかね?』
 ある者は思い出に浸り、ある者は体調の相談を持ち掛けて、シオンの説得になびく。軽い症状ならば医者にかかるよりハーブティという習慣が根付く国も世界には多い。
「むむっ……貴様ら、さっきからやたらと仲良さそうにリア充アピールしおって! そうした行動で傷つく者がいるとは考えないのか!」
「ぼっちだからってひがむのは良くないと思います!」
 お茶の方には反論できなかったのか関係ない部分にケチをつける鳥に、絵夢がざっくり返す。
 ビルシャナは図星だ! 心に深くダメージを負った!
「お次はこちらですよ~。台湾茶、ご存知でしょうか? まずは皆さんそこに腰掛けていただいて、どうぞ」
 もよぎは持参した朝焼いたばかりのスコーンとジャムを人数分配り、沸かした湯で茶器を温め、その湯を茶盤に捨てる。
「茶盤に直接お湯を捨てられるの、面白いですよね。ここに茶葉を入れて1分半きっちり待って、そのお茶を人数分の聞香杯に。まずは聞香杯で香りを楽しんで……くるっとひっくり返して茶杯にお茶を移して……」
 丁寧に手本を見せ、茶杯に注いだ黄金色の烏龍茶をいただくもよぎ。
 台湾茶と日本茶との最大の違いは、何といってもその香り高さ。もよぎの手本通りにやってみて、信者も感嘆。
『まあ、良い香り。それに美味しいのね』
「ね? 楽しくて美味しいでしょう? スコーンともよく合うのでよかったら。忙しい日々の合間にゆっくりするのも、いいものですよ」
 カエルのボクスドラゴンの自来也さんも机上で小さな椅子に掛け、どことなく優雅なポーズでティータイムをアピールする。さながら鳥獣戯画だ。
「所詮は烏龍茶ではないか! それならばペットボトルで充分である!」
「この香りをどうやってペットボトルに閉じ込めるでありますか? 無理であります!」
 異形の反論に、ルソラが言い返す。その手にはきっちりもよぎのお茶が。
「良いぞ良いぞ、効いておる。わしも参ろうぞ、手間をかけたものが如何に美味しく、そして美味いだけじゃないということをお主らに教えてやるわい!」
 ソルヴィンも人数分のチャイを用意し、皆へ勧める。
「さぁここに用意したるはただのチャイ! さぁ先ずは飲めい! どうじゃ、飲み加減は? これを覚えておくのじゃ!」
 告げてから、二つの容器を用いて、それに交互にチャイを入れ変える!
 高所からも落としたり、回りながら、踊りながらもチャイを巧みに容器間を移動させる、チャイ・パフォーマンス!
 御年を感じさせぬ豪快かつ面白おかしく魅せつけるその姿、まさに歴戦のパフォーマー!
『おおー! 爺さんすげー!』
「さぁ、こうやって淹れたチャイはどうじゃ? 温度操作と空気が入ったことで飲みやすく、スパイスの香りが引き立つじゃろう!」
 二杯目のチャイはなるほど、濃厚でエキゾチックな味わいに更に奥深さが加わっている。飲んで思わず唸る信者。
「これが清涼飲料水にはない、見て楽しい、飲んで美味しい手間ってやつじゃ!」
「んー、皆さんのお茶の良い香り、たまらないでありますね! そしてここに! ティータイムに欠かせない、美味しいケーキや、洋菓子を用意してきたであります!」
 手応えを感じ自信満々のソルヴィンに続き、畳みかけてケーキボックスを開けるルソラ。
『あっ! それ、美味しいって有名なケーキ屋さんの!』
「そうでありますよ、もうそろそろハロウィンでありますし、ハロウィンのデコレーションのケーキにしたであります!」
 パンプキンクリームのチョコケーキにはチョコのグラサージュソースがたっぷり、デコレーションはクッキーのオバケにチョコのコウモリ、シュークリームのジャック・オ・ランタン。洋菓子は黒猫のマカロンにパンプキンのプリンにフィナンシェ。どれも輝かんばかりに魅力的。
「ああ、美味しい、ケーキ美味しい……。良いのでありますか? この優雅なティータイムに、その缶やペットボトルで満足出来るでありますか?」
 仲間達の淹れたお茶を楽しみ、ケーキをいただいて、信者をチラチラなルソラ。
 こんなにも美味しいお茶の数々、それにケーキで溢れているのに、ペットボトルのお茶だけなんて……耐えられるわけがない!


 信者に魅せつけるべく、お茶やお菓子を思い思いに楽しむケルベロス。
「わぁ~、このハーブティ綺麗ですね~」
「マロウブルーというんだ。ここにレモンを加えると……」
「あっ、色が青からピンクになったであります!」
 そんなもよぎ、シオン、ルソラ。
 暫し、華やぐようなまったりとした時間が流れる。ビルシャナ達を無視して。
「……おい、貴様ら。おーい」
 先に痺れを切らしたのは鳥の方。テーブルを鉤爪でトントン叩き、呼ぶ。
 一同はそんな鳥を、キョトンと振り返って――。
「……ああ! そういやビルシャナ退治やったな!」
「わ、忘れてなんて、ないですよ?」
「いや明らかに忘れてたよね!? もう何なの貴様ら! 出てけー! 出てけぇー!」
 ハッとする光流と慌てて取り繕う絵夢、周囲に広がる馥郁たる香りを掻き消そうと鳥は翼をバサバサ。
『ダメ、もうむり……!』
『こ、こんな誘惑……!』
 一方、残る信者達も今や落ちんばかり。そこへ一手を決めるは、皆の説得で振る舞われるお茶やお菓子をしっかりご相伴にあずかっていた灯音。
「飲み物は文化、それは単なる水分補給ではない心の癒し。これで分かっただろう、お前たちはそこの鳥お化けに騙されているのだっ!!」
 お茶を離さないまま、灯音は熱弁を振るう。
「清涼飲料水はたしかに良い。手軽に飲めるし、買い置きもできて持ち運びも便利なのだ。でも、本当に清涼飲料水以外を排除してしまっていいのか? 違うっ! 断じて否っ!! 否っ、否っ!!」
「な、何だと……!」
「そんなことをすれば、清涼飲料水は終わってしまう。それは清涼飲料水の可能性を摘み取る愚行でしかない!」
 そう、清涼飲料水は大元になる飲み物があればこそ発展してきた。
 今ここに並ぶ工芸茶、ハーブティ、台湾茶、チャイ……それらと清涼飲料水とは、本来決して敵同士ではない、不可分なもの。
「なにかを否定するのではない――受け入れるのだっ!」
 灯音の突きつけた結論はインパクト充分。信者の視線は完全にケルベロスへ向いている。
「ま、惑わされるな同志達よ! こやつらはこのようなお茶会などというくだらん遊びで、諸君らの貴重な時間を無駄遣いしろと唆しておるのだぞ!」
 翼をバタつかせるビルシャナのなけなしの主張に、プリンを頬張っていたソルヴィンが見透かすように返す。
「人生は有限、そう語るおぬしの教義にも確かに一理あるのう。……しかし、じゃ。其れを説くおぬしはデウスエクス、つまり不死。矛盾してはおらんか?」
「なっ……!?」
 鋭い言葉に、ギクリと肩を揺らす鳥。ソルヴィンはそれを見逃さず、ニヤリと一言。
「おぬし、単に茶とコーヒーが苦くて嫌いなだけじゃろ?」
 一瞬の、間。
「……そっ!? そそそんな事、ああああるわけないんだからねっ!?」
『え、そうなの?』
『教祖様ってただの子供舌……?』
 その一瞬が決定打。後はもういかに弁解しようとも、信者達のヒソヒソは止まらない。
「清涼飲料水か、それともこうして淹れたお茶か……決定権は君達にある。が、君達が選ぼうとしているのはどういう道なのか、今一度知るべきだ」
 静かに決断を促すシオンに、反論などあろうはずもなかった。
『いただきますっ! お茶とお菓子、私達にもください!!』
 満場一致。ペットボトルなど放り出し、信者達は完全にこちらの保護下となった。

「おのれケルベロスめ! 後少しだったというのに!」
 最終的には自滅に近かったような気もするが、ともかく逆上する敵と戦闘開始。
「凍えて燃えてやられちゃってくださいであります!」
「せやから寿命縮むって言うたやろ?」
「手加減は! しません! えーいっ!!」
 ルソラや光流を始め仲間達が次々に攻撃し、最後はもよぎの螺旋掌によって、ビルシャナは塵と消えた。


「さて、改めてティータイムと洒落込むとしようかのう、おぬしらもどうじゃ?」
「賛成や。先輩、さっきのチャイ・パフォーマンスもっかい見してくれます?」
 ヒールを持つ者が店内を修復し、片付けを手伝ったソルヴィンや光流の提案で、残る者達でお茶会が再開される。正気に戻った信者達も、店に戻る事が出来たマスターも共に。
 樒、灯音、シオンの三人は、皆に挨拶し一足先に店を出た。
「ん、灯と一緒に飲んだお茶はとても美味しかった。プリムも今日は良い時間をありがとうな」
 樒は灯音に向かって目を細め微笑み、シオンにもお茶のお礼を言う。
「こちらこそ。工芸茶、とても綺麗だった」
「樒、シオン。時間あったら、買物一緒にいきたいな。プリムラの鉢植えも見に行きたいのだっ」
 二人の腕を引く灯音に連れられ、仲睦まじい三人は帰ってゆく。
 秋色の落葉に包まれて、店の中と外、どちらも温かな笑顔に満ちている。
「これで、無事解決ですね!」
 美味しいお茶と共にハロウィンケーキを口に運んで、もよぎは幸せそうに頬を押さえた。

作者:青雨緑茶 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年10月22日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 5/キャラが大事にされていた 1
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