●ハロウィンストロベリースイーツ
その場所はまるで、海底――ただし、モザイクに包まれている。
そんな不思議な風景に囲まれた、ガーデンテラス。そこに『王子様』はいた。
白磁の肌に銀髪、頭上には王冠。『王子様』と呼ぶに相応しい、眉目秀麗な彼は、スイーツを手に取った。そのスイーツは、彼の口腔の中に入れられていく。
スイーツを作った主である給仕……『パティシエール鈴音』は、彼から目を離すことはおろか、言葉を発することも、動くことすらもできなくなっている。その瞳は、狂おしいまでの恋心に染まっていた。
そんな鈴音へと『王子様』は近づいて、そっと囁く。
「ママには負けるが、良いケーキだ。君も行き給え」
「ふんふっふーん♪ クッキークッキー、ハロウィンクッキー! サークルの皆に差し入れだーっ」
女子大生、香織は鼻歌交じりにキッチンに立っていた。
ミキサーを置いて、香織は一息つく。
「よっし、苺のフリーズドライ、粉砕完了! 次はー、クッキー生地を――」
とすっ、と軽い音が上がる。
彼女の胸は、突如現れたドリームイーターの鍵で貫かれていた。
こうして生み出された、苺のスイーツを思わせる外見のドリームイーターは、歌う。
「らったったー♪ るんたったー♪ 私はお菓子、おいしいお菓子。いつもは子供に食べられちゃう。でも、今日はハロウィンだもの♪ お菓子の私が、おいしい子供をぱっくぱくー♪」
●ヘリオライダーは語る
「ハロウィンの力を求め、ドリームイーターの魔女達が動き出したようです」
白日・牡丹(自己肯定のヘリオライダー・en0151)は言う。
「これに関連すると思われることとして、ハロウィンのためのお菓子を作っていた女性が、突然現れたドリームイーターの鍵に貫かれて、倒れ、ドリームイーターを生み出してしまう事件が起こっているんです。生み出されたドリームイーターは、子供を食べてしまおうとしています……子供が食べられてしまう前に、現場に向かい、どうか撃破を。よろしくお願いします」
牡丹は説明を続ける。
「ドリームイーターは、一人暮らしをしている大学生の女性、香織さんから生み出されます。最初に出現するのはアパート室内のキッチンで、そこから玄関に移動して、外に出て、近所の児童公園に向かおうとします」
キッチンに出現した後は、どのタイミングでもドリームイーターとの接触が可能だと牡丹は言う。
「戦いやすい場所で戦ってくださって構いませんが、もし児童公園で戦うのであれば、忘れずに子供達の避難誘導をお願いします」
それから、牡丹は敵の戦闘能力について述べ始めた。
「ポジションはジャマーです。先端がフォークになった鍵を突き刺してくる攻撃と、巨大なオーブントースターを召喚して中に放り込み焼く攻撃、それにモザイクのかかった苺を食べるヒールの、3種のグラビティを使います」
最後に、牡丹はこう締めくくった。
「ドリームイーターが子供を食べるなんてダメです。必ず撃破してください。それと……無事に撃破できたら、香織さんを手伝ってお菓子を完成させてあげてもいいかもしれません」
アッサム・ミルク(食道楽のレプリカント・en0161)は、それを聞いて一つ頷いた。
「そうだね。楽しいハロウィンにはお菓子が必須! 頑張ろうね!」
参加者 | |
---|---|
小山内・真奈(おばちゃんドワーフ・e02080) |
光宗・睦(上から読んでも下から読んでも・e02124) |
エドワウ・ユールルウェン(夢路の此方・e22765) |
桜庭・萌花(キャンディギャル・e22767) |
桜手・凛歌(物理魔法少女まじかるりんりん・e27151) |
近衛・如月(魔法使いのお姉ちゃん・e32308) |
八点鐘・あこ(にゃージックファイター・e36004) |
皇・晴(猩々緋の華・e36083) |
●戦いの前に
「楽しく遊んでるとこ、ごめんね」
桜庭・萌花(キャンディギャル・e22767)が、児童公園で思い思いに遊んでいた子供達に声を掛けた。
「これからここで戦いがあって、危ないから、しばらく公園をあたしたちに貸してくれない?」
子供達がどよめいた。
さらに、萌花の後押しをする形で、光宗・睦(上から読んでも下から読んでも・e02124)が叫ぶ。
「デウスエクスは子供に狙いを定めてます! みんな逃げて!」
睦がケルベロスコートを着ていたおかげもあってか、彼女らの言葉を聞いた子供達は一目散に逃げ出した。近くにいた親も同様に、急いで避難を始める。
「押し合わないよう、どうか気をつけて」
円滑な避難のため、皇・晴(猩々緋の華・e36083)は、凛とした風を使う。晴の所作を見た一般人達は、礼儀正しくなり、邪魔し合いがなくなって混乱が抑えられた。
「こちらからにげてください」
アパート側と反対方向の出入り口へと、エドワウ・ユールルウェン(夢路の此方・e22765)が人々を誘導していく。サポートとして来たレヴィンも、隣人力を駆使し手伝った。
園内にいるのがケルベロスだけになったことを確認してから、エドワウは公園の出入り口をキープアウトテープで封鎖した。
「ほな、あとはおばちゃんに任せといてや」
小山内・真奈(おばちゃんドワーフ・e02080)が、アパート方向の出入り口にもキープアウトテープを貼る。
「これで公園側の準備はばっちりなのです。もうすぐ引きつけ班が敵を連れてやって来るはずなのです」
八点鐘・あこ(にゃージックファイター・e36004)が、公園入り口に陣取りつつ言う。
「そうだね」
アッサム・ミルク(食道楽のレプリカント・en0161)が頷いた。
少し待ったなら、やがて。
「苺ケーキさん、こっちです!」
「ドリームイーターがチャイルドイーターになっちゃダメでしょ!」
「ほらほら、悪戯できないお菓子は、私たちの方がたーべーちゃーうぞー!」
賑やかな一団が、アパート側から接近してくる。
子供らしい服装に簡単な仮装をしている、エイス。それに、魔法少女の衣装に身を包んだ、桜手・凛歌(物理魔法少女まじかるりんりん・e27151)。後ろ向きのまま近づいてくる、近衛・如月(魔法使いのお姉ちゃん・e32308)。最後に――。
「待ってー、待ってー、ぱくっと一口かじらせてー♪」
苺のお菓子を思わせる外見のドリームイーターが、ケルベロス達を追う形でやって来た。
一般人を退去させた児童公園での戦いは、こうして幕を開けたのだ。
●激突ストロベリー
「子供を食べる邪魔をするなら、こんがり焼き上げてあげる♪」
ドリームイーターによって召喚された巨大オーブンが、前衛のケルベロス達を呑み込もうとする。
「あぶないです」
「思い通りには、させませんよ」
エドワウが睦を庇う形で前に出る。晴も、真奈に代わり敵の攻撃を引き受けた。睦と真奈を除いた前衛のケルベロスやサーヴァント達が、オーブンに放り込まれ、加熱された。
あこは強く念じ、虚空からさば水煮の缶詰を1個召喚した。ヒールグラビティ、『鯖缶』である。
「ご飯よ、飛んじゃえ!」
缶詰はすぐに消える。不思議な缶詰のその力が、エドワウの体を包んだ炎の一部を消去した。
あこのウイングキャット、『ベル』も、翼を力強く羽ばたかせて風を吹かせ、傷ついた者達を癒していく。
「ありがとうございます、あこさん。でも、おれより、ほかの方を」
エドワウは言って、晴を防護する光の盾を具現化させる。ボクスドラゴン『メル』も同様に晴へとヒールを施した。
「エドワウ先輩、どうか無理はなさらず」
晴は、真奈が敵を素早く蹴りつけるのを横目に、菖蒲色の花弁を舞い散らせてエドワウを癒した。グラビティ、『菖の唄(ハナショウブ)』だ。
晴のシャーマンズゴースト、『彼岸』は、祈りを捧げる。睦へ、耐性が与えられた。
「ありがと!」
睦は彼岸の方を見て言ってから、敵へ向き直ると、翼を広げて上へと飛んだ。彼女の『乙女堕天流星(シューティングスタードロップ)』の一撃が、敵を捉えた。
「まじかるりんりんがお仕置きよっ!」
凛歌は、ぴっとポーズを決めてから、守護星座を地面に描き、前衛の守りを固めた。
テレビウムの『キュラ』は、凶器で思い切り攻撃する。上級者向けお菓子が辺りに飛んで散らばった。
「召しませ、Sweet Temptation♪」
萌花は、魔力を増幅させる口紅を塗った唇で、敵の耳元に甘い言葉を囁いた。『R.I.P. Service(リップサービス)』である。
如月のマインドリングに嵌められた宝石が、紫水晶に変化した。
「宝石の子達、悪意を跳ね除けて……コード・アメジストっ!」
如月は、『紫水晶の大結界』を前衛へ向けて展開する。薄紫のその結界は、受けた悪影響を徐々に除いてくれるものである。
エイスが仲間をキュアし補佐する傍ら、アッサムもヒールドローンを飛ばす。戦いは、まだ始まったばかりである。
●閉幕は苺の香り
「酸っぱいのは嫌なのです!!」
ドリームイーターによるフォークの一撃を受け、トラウマを喚起されたあこが、すかさずシャウト。肉球つきの手で口元を押さえており、目元には涙がにじんでいた。
「空のたまご、ころころ」
『空縞掴む神詠みの手(ブルーレース・タッチ)』で、エドワウは、あこのヒールを試みた。淡い青縞の入った粒が生まれて、ぱちぱちと弾け、あこの体内に染み渡っていく。
「星のきらめきを、ちからづよさを」
続けてエドワウはメルに命じ、属性インストールをあこへと行わせた。
「ありがとうございますなのです。もう大丈夫なのです」
礼を言うあこ。
「ほんま、ようやってくれたな、お姉さん。せやけど、こっちもいるんやで」
真奈がドリームイーターへとレーザーを撃つ。その光線は、敵に凍結をもたらした。
「決して油断はせずに――確実に」
自分に言い聞かせるように晴は呟き、装甲からオウガ粒子を放出。前衛の命中精度を高める。続いた彼岸は爪を非物質化し、敵の魂へと一撃を与えた。
戦いは、順調に進んでゆく。
もし敵の攻撃への対処を誤っていたら、このようにはならなかっただろう。
炎やトラウマを使う、かつジャマーである敵に対し、メインメンバーとして戦うケルベロスにメディックがいないのは、一見すれば不思議にも見えるだろう。
だが、メディックの頭数は、サーヴァントであるメルの他に、アッサム、それにエイス達サポートがいることで、補われている。
さらに、あこやエドワウ、晴に彼岸といったディフェンダー陣がこまめなヒールを施していることが、戦線の維持に大きく寄与していた。
加えて、ベルや凛歌、如月による仲間への耐性の付与も、戦況を良くするのに一役買っている。
その他に、前衛に多めの人数を配置したことで、敵の攻撃効率が悪くなり、ケルベロス側の被害が抑えられていたのも見逃せない点だ。
ケルベロス達の作戦は、この戦いにおいて、上手く機能していたのである。
「まじかるみらくるはいぱーりんりんるーにっくれぼりゅーしゃむっ!」
きらめきを纏いながら、凛歌はルーンの力を敵にぶつける。魔法少女の必殺技を思わせるグラビティ、『Runic Collapse(ルーニックコラプス)』である。ウル、ソーン、ハガル、ニイド、イスのルーンによって得られた、破壊と勇猛と遅延の力が、ドリームイーターを襲った。
「お見事です、桜手先輩。でも、今の詠唱の最後……」
晴が、凛歌に声をかけようとした、が。
「気にしちゃダメ、気にしちゃダメよ!」
凛歌は遮る。詠唱を噛む、ないし忘れるのは、彼女にはよくあることなのである。
「行くぞ!」
レヴィンが跳躍し、重力を宿した蹴りの一撃を敵に食らわせる。
戦いは、佳境へと突入していった。
「食べる、食べるの。ぱくぱく……食べるの……」
ドリームイーターはモザイクの苺をかじり、己を癒す。その歌声にはもう、元気の良さが感じられない。
「畳み掛けるのです!」
あこが炎纏う蹴りを放ち、ベルが逞しい前足からのひっかき攻撃を行う。
「たのしいハロウィンは、おれたちがかならずみんなにとどけます。おまえたちのすきかってにはさせません」
エドワウは、マインドリングから光の剣を生み出し、斬りつける。
続いた如月がドリームイーターを見つめ集中すれば、爆発が起きた。サイコフォースである。
「もなちゃん!」
「オッケー、お姉ちゃん」
如月の呼びかけに応じて、萌花が素早く駆け抜ける。振るわれたナイフは、敵をジグザグに刻んだ。それから萌花は呟く。
「ラストは任せるね、睦ちゃん」
「うん!」
睦は再度、翼を広げ、飛んだ。
「見た目可愛いからって容赦しないんだから!」
睦は、ドリームイーターの頭上で、翼を収納。落ちる。
「この空が、私の味方……!!」
自由落下の勢いを利用し、全力での、ネックブリーカー・ドロップ。
ドリームイーター、ストロベリー・オン・ザ・ショートケーキは、派手に地面に叩き付けられた後、苺の香りを場に残して、消滅した。
●苺クッキーを作ろう
かくして、戦いは終わった。
公園のヒールはエイスが引き受けると申し出たため、任せることにして、一行は香織のお菓子作りの手伝いに向かった。
香織は快諾し、苺クッキーの制作がスタートしたのである。
オーブンレンジが、小気味よい電子音で、加熱の完了を告げる。あこが中身を取り出した。
「もう既に美味しそうなのです。食べてしまいたいのです」
「なんでやねん。まだバターを溶かしただけやろ」
はらぺこなあこに、真奈がツッコミを入れる。
「次はふるった粉を入れるのよ。砕いた苺も一緒に……あ」
如月の指先に、フリーズドライの苺の欠片がちょこんとくっついた。
「もなちゃんも舐める?」
「ん」
おずおずと差し出された指を、萌花は軽くぺろっと一舐め。
「おいし♪」
萌花のスマイルが花咲く。
「この生地を麺棒で均等に伸ばせばいいんですね。僕に任せてください」
力仕事を進んで引き受ける晴。紳士である。
伸ばされた生地は冷蔵庫へ。生地もケルベロスも一休みタイムだ。
「お疲れ様でーす! よろしければお茶どうぞー!」
香織はハイテンションに紅茶を振る舞う。
「そういえば、クッキーの型を持ってきたって? どんなのかな?」
お茶をいただきつつ、アッサムが問えば。
「私のはこれよっ!」
凜歌はテレビウムの型を取り出す。
「おれは、お星様です」
「私は、キャンディと……あ」
睦が取り出したのは星の型。睦は、自分の手元とエドワウの手元を交互に見て。
「おそろだね☆ エドワウさん」
ぱっと明るく笑う。
「そうですね」
エドワウの表情は、変化が少ないものの、見る者が見れば嬉しそうな感情を読み取れただろう。
待つこと30分。生地は休ませ終わった。
みんなでぽんぽん楽しく型を抜く。凜歌が特に手際良く進めることができているのは、彼女がお菓子作りを得意としているからだ。
こうして型抜きしたクッキーは、予熱したオーブンへと入れられた。
しばらくすれば、やがて、甘い匂いが漂い始める。
「たのしみだねえ」
エドワウはわくわく。
「ぅー……もなちゃん、出来上がったら一緒に食べたいね……?」
如月はそわそわ。
「だよね、お姉ちゃん。ね、香織さん、焼き上がったら、味見、とか、だめかなぁ?」
如月の発言を受けて、萌花はおねだり。
「もちろん歓迎!」
香織はびっと親指立てて、萌花と如月はハイタッチ。
こうしてつつがなく焼き終えて、ちょっと冷まして、出来上がり!
オバケにコウモリ、テレビウムやキャンディ、それにお星様と、見ているだけでも楽しい仕上がりの苺クッキーだ。
「味はどうだ?」
レヴィンがラッピングしながら尋ねる。クッキーを頬張る如月の隣、一足先に咀嚼を終えて、ごくんと飲み込んだ萌花は、シンプルな一言で答えた。
「超おいしい」
おいしく楽しい、ハッピーハロウィン。
それが、ケルベロス達の守った、かけがえのないもの。
作者:地斬理々亜 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年10月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 3
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