南瓜爆車大阪の陣~走れ! ケルベロス大捜査線!

作者:ハル


「わぁ、あれ見て! 可愛くない!?」
 ハロウィン真っ直中の大阪市内。アニメキャラのコスプレをした女性が、ある物体を指さした。
「どうやって動いてるんだろうね、ラジコンとかかな? てか、燃えてない、アレ!!?」
 視線の先にあるのは、全長1メートル半程度の南瓜の馬車であった。ハロウィンに相応しいメルヘンなその見た目は、テンションの上がりきった市内の人々に驚きを運んでいる――だけではもちろんない!
「おいおい、何しやがる!」
 騒ぎに紛れて、露天の店主が頭を抱える。人々の目を惹いた南瓜の馬車が、店主の店に突っ込み、商品を台無しにしていたのだ。
 店主は肩を落とすが、人が死んだりした訳ではない。大きな騒ぎにはならず、片隅で起こった被害など、浮かれきった雰囲気の中では気にする者は少ない。
 そして、また仮装行列の横を猛然と追い抜いていく馬車に、何も知らない人々は驚嘆を露わにするのであった。

「皆さんもお楽しみになりたい所をお呼び立てして申し訳ありません。……というのも、ハロウィンで賑わう大阪市内で、ドリームイーターの魔女達が動き出した痕跡を発見したのです。ハロウィンの力を求めているようですね」
 集められたケルベロスに、山栄・桔梗(シャドウエルフのヘリオライダー・en0233)が告げる。
「現在、大阪市内には、攻性植物の南瓜の爆車が大量発生しています。市民の方にも、一部被害が出ているとか」
 ――まさか、死者が!?
 動揺を見せるケルベロスを落ち着かせるように、桔梗は穏やかに首を振った。
「いえ、死者は出ておりません。とはいえ、……まだ、と注釈はついてしまいますが。商店街、露天、コスプレ行列の周辺を走り回り、人よりもお店の方に大きな被害が出ているのが現状です。総数は不明ですが……概算で100体以上はいるものと考えて貰って構いません」
「100体だって!?」
 ケルベロス達が口をポカンと開ける。桔梗としても、その気持ちはよく分かった。
「それぞれ単体で走り回っていて、1体1体の強さはそれほどでもありません。市内での被害の拡大を防ぎつつ、できるだけ多くの爆車を破壊して欲しいというのが、こちらからのお願いです」
 これだけの南瓜の爆車を市内に放ったのは、ヘスペリデス・アバターというドリームイーターのようだ。新たに、パッチワークの魔女に加わったという情報がある。カンギ戦士団に加わり、すでに撃破された第11の魔女・ヘスペリダスの代替品と予想されている。
「どうやら、ヘスペリデス・アバターは、カンギ戦士団に加わったヘスペリデスの力を一部受け継いでいるようです。それが、彼女が攻性植物である南瓜の爆車を操れる要因でしょう」
 問題は、目的は何か? その一点に尽きる。
「予知で得た情報を統合すると、南瓜の爆車はいずれ爆発します。具体的には、10月31日の深夜12時です。現在走り回っている爆車は、ハロウィンの魔力を集めている最中なのです。それが、時間になると自爆し、集めた魔力をヘスペリデス・アバターに回収させる算段のようですね」
 そうなれば、当然ヘスペリデス・アバターも大阪市内に潜伏している事になる。
「決して簡単ではありませんが、うまく見つけ出すことができれば、ヘスペリデス・アバター本人も撃破できる可能性はあります」
 桔梗はそこまで告げて、一旦息を整えた。
「肝心の南瓜の爆車の出現ポイントについてお話します。基本的に、ハロウィンらしい雰囲気を有す場所……例えばハロウィンに関するグッズを販売している場所ですとか、コスプレして参加する方が集まっている場所に現れるようです。また、今回は携帯電話の通話も可能となっていて、市民の方々からも、随時近い位置にいるチームに目撃情報などが寄せられる事もあるようです。ネット情報なども、参考になるかもしれませんね。出現想定場所周辺は、人混みも多いと思いますので、ご注意を。ハロウィンの雰囲気を崩さずに爆車を撃破できれば、言うことはないのですが……さすがにそれは贅沢でしょうね」
 爆車は常に移動し、一定の場所に止まっている事はほとんどない。それゆえ、通報をうけてから動いては間に合わない可能性も高いため、第一は自分の足を頼りとする事も大事だろう。逆に、常に移動を続けるという事は、戦闘の余波が周囲に及びにくいという事でもあるため、善し悪しなのだろう。
「爆車の攻撃方法としては至極単純そのもので、猛スピードで突っ込んできたり、纏う炎を放ってきたりと、その程度のものです。ポジションは各々の個体によって違ってくると思うので、幅広く対応できるよう準備しておくのが良いかと思います。ただ、知性は有しているようで、あまり侮っていると、予期せぬ奇襲を受けることもあるかもしれません」
 粗方の説明を終え、桔梗が最後に言った。
「現在の所、大阪城付近は攻性植物に制圧されており、暴車の活動は確認されていません。後は、目の前の暴車か、ヘスペリデス・アバターの発見と撃破を優先するかですが……その点は現場の判断にお任せしたいと思います。どうか、よろしくお願いします!」


参加者
福富・ユタカ(慕ぶ花人・e00109)
京極・夕雨(時雨れ狼・e00440)
八蘇上・瀬理(家族の為に猛る虎・e00484)
イグナス・エクエス(怒れる獄炎・e01025)
長谷地・智十瀬(ワイルドウェジー・e02352)
レオン・ヴァーミリオン(リッパーリーパー・e19411)
卜部・サナ(仔兎剣士・e25183)
御花崎・ねむる(微睡む瑠璃・e36858)

■リプレイ


(私達が来た以上、これ以上の被害は出させません)
 誓いを胸に、京極・夕雨(時雨れ狼・e00440)が、蝙蝠のポンチョを羽織ったえだまめと共にヘリオンから飛び出す。その際に、両手に抱えられた夥しい数のビラが撒かれた。吸血鬼のドレスの裾を抑えながら地上に降り立った彼女の瞳に、先に降下していた仲間の姿が映る。
「口頭でも説明しておくね! 南瓜の馬車を何体派手に壊せるかっていう、ケルベロスによるイベントを開催してるの。もし見かけたら、私達に連絡してね? あと、近づかないように気を付けて欲しいな」
 拡声器と割り込みヴォイスを用いて、大阪駅や梅田周辺で呼びかけているのは、御花崎・ねむる(微睡む瑠璃・e36858)。魔女の姿をしたねむるが、箒に跨がって宙に浮かんでみせると、周囲から歓声が上がった。
「とりっく・おあ・とりーとー! お菓子くーださーい!」
「Happy Halloween!」
 一方、卜部・サナ(仔兎剣士・e25183)はというと、通りすがりのお姉さん、お兄さんに声をかけ、持ちきれないくらいのお菓子をもらっていた。とんがり帽子を被った魔女の仮装をしているサナは、ウサギ耳が隠れている事と、髪色が似ている事もあって、ねむるとは姉妹のように見られているのだろう。
「ほら、ねむるも! せっかく仮装して来たんだから!」
「折角のハロウィンだしね。……楽しまなきゃ損、だよね? Trick or Treat!」
 無邪気な人懐っこさも相まって、ねむる共々大人気。
「やっているな」
 盛り上がりを眺め、ブリキの木こりの仮装をしたイグナス・エクエス(怒れる獄炎・e01025)が呟く。何も、彼女らは遊んでいる訳ではない。場の盛り上げも、作戦の一つ。
「ネットの反応はどうですか?」
 私も似たような髪色ですのに……盛り上がりに乗り遅れた夕雨が、小さくボヤキ、灰の毛先を弄りながらイグナスに問いかける。
「この辺りは他の班も多く活動しているようで、いろいろ情報が入って来てるな。ほら、見てみな?」
 イグナスは、爆車情報を立体映像に。すでに、各地で戦闘が始まっているようだ。
「肝心の魔女め、何が目的だ? 何処に潜んで――」
 イグナスがそう呟いた時。立体映像の、すぐ近くに反応が!

「猫の行進や。さぁさぁみんな、賑やかにいっくでー」
 イグナス達からそう離れていない場所……梅田の仮装ハロウィンパーティーの舞台に、八蘇上・瀬理(家族の為に猛る虎・e00484)達の姿はあった。ケットーシーの黒白の毛並みを身に纏い、虎耳と尻尾をピン! と立てた瀬理が、子供達の隣を練り歩く。瀬理が口笛を吹くと、周辺の猫が集まってきて、子供達の遊び相手になってくれた。
(後で高級猫缶分けたるからなー?)
 瀬理の賄賂が実を結んだようだ。この分だと、情報も教えてくれるに違いない。
「わー、すっげー!」
 子供達に、負けず劣らず人気があるのは、長谷地・智十瀬(ワイルドウェジー・e02352)だ。パーカーにつけた各種お化けの缶バッチが、目を惹いたのだろう。
「ハロウィンくらい、純粋に楽しませて貰いたいもんだが――と! お、おい、引っ張るな! 後な、俺らはいいけど、南瓜には絶対に近づくなよ?! 見かけたら、近づかずに連絡してくれ」
 容赦なく子供達に缶バッチが掴まれ、智十瀬は前屈みになる。そうしながらも、後ろでクスリと笑っている子供達の両親に、そう伝えた。
「はっはっはっ、可愛い子の仮装みてるだけでも愉しい。そうは思わないかな男子諸君?」
 子供に圧倒される智十瀬とは対照的に、青白い肌に縫合後が生々しいゾンビ姿のレオン・ヴァーミリオン(リッパーリーパー・e19411)は不人気。だが、その変わりに瀬理と福富・ユタカ(慕ぶ花人・e00109)を含んだ仮装女性達を目で満喫していた。そして、地図を広げると、
「レオン殿、どうでござるか?」
 周囲の人々にケルベロスである事を伝え、南瓜の爆車について周知していたユタカが、横合いから地図を覗き込んでくる。
「おっと!」
 その際、ユタカのジャックオーランタンの被り物に、通天閣へと視線を向けていたレオンは押され、苦笑を。
 ――と、その時。レオンのインカムに、連絡が入る。
「Happy Halloween! さっきはいろいろ教えてくれてありがとうでござるよ!」
 横目でユタカが情報をくれた人達にお菓子を渡す微笑ましい光景を見るレオンに入ってきた情報は、夕雨達が抗戦を開始したというもの。
 そして、タイミングを同じくして、
「よっしゃ釣れた! さぁさぁみんな、ちょい離れとってー!」
 瀬理が爆車を発見し、獰猛な笑みを浮かべる。
「とまあ、浮かれのは此処まで」
 地図を仕舞ったレオンが、仲間に戦闘開始の合図を送った。


 砂煙を上げながら、繁華街を猛然と駆け抜ける爆車の後をケルベロス達が追いすがる。旋風が舞い「きゃあ!」と、通りすがりの女性のスカートが揺れた。
「ビラ通りに、ケルベロス主催のイベントに見えるといいがな。ハロウィンの雰囲気は、壊したくないからな」
 勇敢な視線はそのままに、イグナスは解放したミサイルポットから大量のミサイルを放つ。ミサイルは、縦横無尽に走り回る爆車の前後の道を穿ちながら、やがて爆車本体の車輪に命中し、転倒させた。
「ナイスだよ、イグナス! 動きが止まれば、こっちのものなの!」
 戦闘開始から数分。幸運もあり、ようやく爆車の動きが止まったのだ。この機を逃してなるものか! 空の霊力を帯びたサナの星火燎原が、爆車を切り裂く。
「――――ッッ!!」
 だが、逃走から一転、爆車が身に宿す炎を解放した。
「えだまめ、対処しますよ!」
 炎の前に、夕雨とえだまめが立ち塞がる。爆車に対して優れた耐性を有する夕雨の防御は、爆車の炎を問題なく受け止めきる。
「夕雨さん、助かったよ!」
 ねむるが、夕雨の背後から飛び出した。二本のライトニングロッドを手にした姿は、まさに魔女。雷撃を流し込むと、爆車が大きく痙攣する。
「お見事です、ねむるさん。私も負けてはいられませんね!」
 続くのは、夕雨の癒やし。
「雨がやみませんね」夕雨が呟くと、炎の雨は降り注ぎ、日差しを赤く染め上げる。さらに、えだまめが神器の剣で斬り掛かった。
「そろそろ逃げるのを諦めたか? ぐぅっ!」
 イグナスのエネルギー光線を搔い潜るように、爆車が突進を。相打ちとなり、イグニスが数メートル後退させられる。
 そして、次の攻撃に備えたケルベロスだが、予想に反して爆車はまたも猛然と走り出す。だが、そのスピードは当初より落ちていて――。
「南瓜の爆車さん、シンデレラも乗せずに、そんなに急いでどこに行くつもりかな? 残念だけど、あなたはお城へは行けないの」
 それほど労もせず、ねむるは爆車についていき、星形のオーラを蹴り込んだ。付与されていた氷が、痛々しく爆車を苛む。
「ルナ、お願い! 力を貸してっ!」
 サナのオウガメタルが粒子を放出し、前衛に付与された炎や足止めを癒やしていく。
「まずは一つです!」
 そして、命中の補正を得た夕雨の放つオーラの弾丸が爆車に喰らいつき、宿すハロウィンの力諸共爆散させた。

「瀬理! 一旦下がれ、俺が受ける!」
「了解や! 任せたで、智十瀬!」
 智十瀬の呼びかけに従って、瀬理が下がる。変わりに前へ出た智十瀬は、超速で迫る爆車を受けとめた。
「嫌に好戦的だな。もっと追いかけなければいかないと思ったが……」
 レオンが言いながら、前衛の火力底上げの次の手として、前衛の頭上に薬液の雨を降らせた。鎮火されていく身を苛んでいた炎に、前衛二人の表情が和らぐ。
「えっ、ほんとにござるか夕雨殿?! そちらはすでに一体目を撃破したでござるか!?」
 その時、ユタカが素っ頓狂な声を上げた。どうやら、夕雨から一体目撃破の連絡が入ったようだ。しばらく応答し、連絡を終えたユタカは、一先ずの仲間の無事に安堵しつつも、
「夕雨殿がいるなら大丈夫でござろうとは思っていたが、負けてはいられぬでござー!」
 今頃、「くすっ、そっちはまだなのですか?」そう高笑いを浮かべているであろう相棒(ユタカのイメージです)に遅れを取らぬよう、螺旋を籠めた掌で応対し、風穴を開ける。
 だが、開けた穴から炎が吹き出すと、ユタカとレオンはやむを得ず後退を迫られた。爆車にはある程度の知性があるように、個体差もあるようだ。ユタカが夕雨に聞いた個体とは、眼前のそれは異なる。
「みんな気を付けてやー! 近づいたらあかんでー!」
 そんなアグレッシブな個体ゆえ、瀬理は周囲の人々に安全を呼びかける。
 そして、捕食者の本能を解放した。動物的勘から爆車の動きを嗅ぎ分け、的確に拳を突き立てたのだ。
「おおー!」
 現状をケルベロス達主催のイベントだと認識している、周囲の様々なコスプレをしている人々が歓声を上げ、パシャリと写真。どうやら、不安を与えずにはいられているよう。
「人の被害だけは出さねぇようにしねぇとな」
 智十瀬が、花びらのオーラを降らせた。
「せやな!」
 瀬理の攻撃は、命中率は七割前後。ゆえ、足止めを複数付与されると厳しくなってしまう。瀬理はそれを察し、同時に回復をしてくれた智十瀬にウインクすると、獣化した拳を握りしめる。
「援護するでござる!」
「右に同じくだな」
 そこで、熱気と優雅さという対照的な色を宿したユタカとレオンが動く。懲りずに突進を仕掛けてくる爆車の勢いを、ユタカは精神を集中させ、爆車を爆破する事で軽減。次いで、レオンの電気ショックが瀬理にさらなる力を。
「大人しくしてやがれ!」
 それは、猫らしい軽快な身のこなし。弱体化された爆車の勢いが、智十瀬の如意棒の捌きで完全に相殺された。
 そして――。
「これで終いや」
 動きの止まった所へ瀬理の拳が突き刺さると、爆車の宿す炎が掻き消え、萎れてしまうのだった。
「さて、次に向かおうか」
 レオンが言う。すでに、猫と智十瀬の声かけで情報は得ている。後は、ユタカのGPSに示されたポイントに向かえば、直に新たな爆車と出会えるだろう。ケルベロス達は、慌ただしく次のポイントに向かった。


 イグナスが爆車に星形のオーラを蹴り込み、4体目を仕留めた後……夕雨が人混みの中をダブルジャンプでピョンピョンと跳びはねている時に起こった。
「囲まれている!?」
 智十瀬からの連絡に、飛行していたねむるが目を見開いた。
「むむ! なんだかあっちが楽しそ……爆車が居そうな予感なの! ――って、それ本当なの!?」
 建物の屋根上で、貰ったお菓子をパクつきながら、ぶらり再発見で次のハロウィンポイントを探索していたサナも、緊急を悟る。
「すぐに合流できるはずです!」
「ああ、急いで合流するぞ!」
 サナとねむるの後を、心配そうな夕雨とイグナスも続いた。

 あれから、走り回って3体の爆車の撃破に成功していた瀬理、レオン、智十瀬、ユタカの4人は、3体の爆車に包囲されていた。いくら戦闘力の低い爆車とはいえ、4対3ではさすがに厳しい。前衛には突進、後衛には南瓜火が、連携して絶え間なく襲い掛かっている。
(……心配をかけているでござろうなぁ……)
 逆の立場なら、間違いなく心配すると断言できるゆえ、ユタカの表情は冴えない。だが、やられたままのつもりは毛頭無く、被り物の隙間からシトリンの瞳で、爆車を縫い止める。
「チッ!」
 智十瀬が、舌打ちと共に、突っこんでくる爆車に空の霊力を帯びた如意棒を叩き付ける。しかし、先の戦いのようにはいかず、劣勢なのは智十瀬の方だ。単体なら気にならなかったが、相手が複数となると、特にタックルでの攻撃が智十瀬に重くのし掛かる。
(あかんか!)
 数を減らそうと、瀬理の突きが、爆車を穿つ。だが、DFであった爆車は、その一撃では沈んでくれない。
 戦闘開始して2分。たった2分であるが、すでに数で押されジリ貧になりそうな気配。まして、さらなる増援が来ないという保証もない。
 レオンが、薬液の雨を前衛に降らせる。その時、ふとレオンの表情が緩んだ。
「……助かったよ」
 レオンのその言葉は、誰に向けたものか。
 ……その答えは、すぐに知れた。
 ――おやすみなさい。良い夢を。
 ふいに聞こえたねむるの声。絡みつく茨と言葉は、まさしく彼女のもの。振り返ると、予想に違わずふわりとした笑みを浮かべたふわりの姿があった。
 続き、
「夕雨殿!」
「……仕方のない人ですね、ユタカさんは」
 後衛に迫った炎を、夕雨が防ぐ。浮かべた呆れは、ユタカの事など心配していなかったと言いたげだが、額に浮かぶ汗がそれを否定していた。
「間に合ってよかったのよ。サナ達が来たからには、もう安心なの! 星の光よ、皆を癒してっ! ……スターライトっ!」
 サナが、星明かりに似た生命エネルギーを、雨から抽出。レオンが癒やしきれなかった傷をサナが癒やしていく。
 後衛の二人には、夕雨が順に気力を溜め、えだまめは神器の剣で炎を切り裂く。
「密に連絡を取り合っていたのは正解だったな」
 イグナスは、ホッと安堵を浮かべ、
「目の前のこいつらを始末するぞ!」
 2本のハンマーを合体させ、大地に叩き付ける。巻き起こった大爆発を利用して、イグナスが爆車を粉々に破壊した。
 ――そして、ジャマーに移動したレオンも含め体勢を立て直したケルベロス達は、問題なく残りの爆車も撃破したのであった。


「これで一段落やな!」
「合計で10体ですか。まぁ、ユタカさん達より多く撃破できましたし、これも美味しいのでよしとしましょうかね」
 ヒールを終え、パンプキンパイを頬張る瀬理と夕雨。損害を受けた店舗は予想以上に多く、もう空には夕日が。
「僕の読みも、捨てたモンじゃないねぇ」
 その隣では、通天閣にてヘスペリデス・アバターを撃破したとの情報に、レオンが笑みを浮かべていた。
「受け取るでござるよー!」
 ユタカは、与えられた作戦成功のご祝儀とばかりに、お菓子を配布。
「さぁさぁ! これからが本当のハロウィンの時間だよっ!」
 サナが、南瓜ランタンを掲げる。作戦中から満喫していたと思うが、それでもまだまだ! 足りないらしい。
「今夜、良い夢を見るために、まだまだ盛り上がらないとね!」
 ねむるが、目元を擦った。睡魔を堪え、より幸せな夢を見るために、眠っている場合ではない。
「俺達はどうする?」
「まっ、今日やる事は一つじゃねぇの?」
 イグナスと智十瀬も乗り気だ。
「はい、僕から君たちに。配るだけじゃなくて、せっかくだからもらう側にもなってみなよ」
 そんな彼ら、彼女らに、レオンからお菓子のプレゼント。
「え~、レオン意地悪なの! サナにもちょうだーい!」
 ただ一人、十分すぎる程のお菓子を抱えたサナにだけ、レオンがお菓子を渡すのを焦らすと、場は笑顔に包まれた。

作者:ハル 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年10月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 7
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