三色魔女のハロウィン~超越の魔女は、アタイがなる!

作者:柊透胡

 兵庫県神戸市、市営地下鉄沿線――駅前の小さなショッピングモールでは毎年、子供達のハロウィン仮装行列がある。
 今年のハロウィンは平日だから、始まるのは放課後の夕方。近くの児童館で仮装した子供達はショッピングモールまで練り歩き、各店舗を訪れてはお決まりの「トリックオアトリート!」を元気よく響かせる。仮装は全て子供達のお手製で、愉しげな行列を見守る大人達の眼差しも優しい、そんなほのぼのとしたイベントだった。
「皆、準備は出来た?」
「はーい!!」
 児童館の先生の掛け声に、元気の良いお返事を口々に。思い思いに仮装した子供達は、ワクワクとショッピングモール目指して列を作る。
 ――そんな子供達を、マンション屋上から見下ろす赤い影。
「ふふん、こんな小さな町もハロウィンの準備で大賑わい、結構な事だね!」
 如何にも魔女っ娘な風情の赤毛の彼女は、肉食獣めいた金の双眸を剣呑に細める。
「けど、ハロウィンは、アタイ達の時間さ! お前達、存分に暴れといで!」
 手にしたフラスコを揺らすと、ゴウと小さな火柱が上がる。彼女は『赤の見習い魔女・フォティア』――火炎の試験瓶は切磋琢磨の証。そして、帽子を侵蝕するモザイクは、彼女がまだ「ハロウィンの夢」でしかない事を示している。
「お前達が暴れれば、ハロウィンの魔力を持つ魔女がきっと現れる。その力を奪えば、アタイは『超越の魔女』になれるんだ!」
 オォォォ……。
 フォティアが児童館から歩き出した子供達を顎でしゃくれば、背後に控えるパンプキンめいた様相のキョンシー――パンプキョンシー共が唸り声を上げる。その数、3体。
「青や緑なんかに負けないよ! 超越の魔女は、アタイがなる! いつか『ジグラットゼクス』にだって、成り上がってみせるんだから!」

「定刻となりました。依頼の説明を始めましょう」
 徐に、集まったケルベロス達を見回す都築・創(青謐のヘリオライダー・en0054)。
「ハロウィンの力を求めて、ドリームイーターの魔女達が動き出した模様です」
 夏の終わりの魔力を狙ってか、ドリームイーターは同時多発の事件を起こす。
「皆さんにお願いしたいのは、赤、青、緑の3人の魔女が起こす事件となります」
 見習いであり、半人前であり、まだ未熟な彼女達は、謂わば「ハロウィンの夢」。この時の為に量産していた屍隷兵、パンプキョンシー共にハロウィンを楽しむ人々を襲わせるという。
「彼女らの目的は、ハロウィンの力を持つ魔女を探し出し、その力を奪う事。ハロウィンで盛り上がる人々を屍隷兵が襲撃すれば、目的の魔女が現れると考えているようです」
 『ハロウィンの力を持つ魔女』が如何なる者かは、ヘリオンの演算を以てしても不明だが、ハロウィンを楽しむ人々が屍隷兵に襲われる事態は看過出来まい。
「ですから、皆さんはハロウィンイベントに赴き、襲撃する屍隷兵を倒して下さい」
 創のタブレット画面が示した地図は、兵庫県神戸市。市営地下鉄沿線の駅前のショッピングモール近くだ。児童館からショッピングモールに向かう子供達の仮装行列を、3体のパンプキョンシーが襲う。
「パンプキョンシーの目的は『魔女を探し出す』事ですので、ケルベロスの皆さんこそが『ハロウィンの魔女』と装えば、子供達を放置して攻撃してくるでしょう」
 上手く利用すれば、一般人に被害を出さすに済みそうだ。
「又、戦いの様子を見た3色の魔女……こちらに出現する『赤の見習い魔女・フォティア』が、皆さんをハロウィンの魔力を持つ魔女であると判断すれば、戦場に現れて力を奪おうとするかもしれません」
 まずはパンプキョンシーを掃討し、『赤の見習い魔女・フォティア』が現れれば、その撃破も。それが今回の仕事となる。
「児童館からショッピングモールへは広めの歩道となっており、車両は乗り入れ出来ません。時刻は夕方で程なく日没となりますが、街灯も多く明るいので、戦闘に支障はないでしょう」
 屍隷兵であるパンプキョンシーは、幸い、それ程強くない。
「ハイジャンプ攻撃で踏み付けて来たり、青い鬼火を操ったりするようです。後は……手にぶら下げているジャック・オ・ランタンが癒しの笑い声を上げますので、お気を付け下さい」
 もし、パンプキョンシーとの戦いで「ハロウィンの魔女らしい演出」をアピール出来れば、『赤の見習い魔女・フォティア』も現れるかもしれない。赤毛の魔女は幾つものフラスコや試験管を具えているが、使用グラビティ等は不明だ。
「そろそろハロウィン恒例のドリームイーターの介入ですが……ハロウィンの魔力は、彼らにとって重要であるのかもしれません」
 尤も、ドリームイーターにどんな狙いがあるにせよ、企みは総て叩き潰せば良い。
「折角の楽しいハロウィンが台無しにされない為にも……皆さんの武運を、お祈りしています」


参加者
デジル・スカイフリート(欲望の解放者・e01203)
浦葉・響花(未完の歌姫・e03196)
クラム・クロウチ(幻想は響かない・e03458)
ティスキィ・イェル(ひとひら・e17392)
神無月・佐祐理(機械鎧の半身・e35450)
月見里・ゼノア(鏡天花・e36605)
ユッフィー・ヨルムンド(夢竜の魔女・e36633)
フィルメリア・ミストレス(夜の淑女・e39789)

■リプレイ

●魔女の装い
 神戸市営地下鉄沿線上、その駅前のショッピングモール近くの児童館は殊更賑やか。思い思いに仮装した子供達は誰もがワクワクした表情だ。
「トリック・オア・トリート! 悪い子はいねぇか~、食べちゃうぞ~」
 子供達に混じり、楽しそうなのは浦葉・響花(未完の歌姫・e03196)。台詞はさて置き、赤いローブを纏い杖を手にした様相は所謂西洋の魔女。敵が来るまでは子供達の遊び相手になっている。
 そう、もうすぐ、デウスエクスが襲ってくる。『ハロウィンの力を持つ魔女』を狙って。
 勿論、子供達を危険に晒す訳にはいかない。ケルベロス達は「ハロウィンの魔女」を装い、敵の注意を引く作戦だ。
(「上手い事敵を誘導して、子供達を巻き込まねェようにしてェな」)
 俗に言う黒一点のクラム・クロウチ(幻想は響かない・e03458)は、音響でサポートだ。主にバイオレンスギター(+オーディオプレイヤー)で、ハロウィンらしいBGMや効果音で雰囲気作りに勤しむ予定。ボクスドラゴンのクエレも、鳴き声でお手伝いだ。
「皆、準備は出来た?」
「はーい!!」
 魔女、というより魔女っ娘ぽいコーデの結城・美緒(ドワっこ降魔巫術士・en0015)の掛け声で、いよいよ仮装行列もスタート。ケルベロス達が子供達を囲むように、ショッピングモールへ歩き出す。
(「ハロウィンは確か、冬の始まりに魔女や魑魅魍魎たちが現れる、という伝承が元、だった筈。それでドリームイーターの魔女達も現れ始めたのかしら?」)
 ドリームイーターによるハロウィンの介入も恒例となってきた感がある。誘き寄せる魔女に合わせて、赤と黒の魔女服を着た神無月・佐祐理(機械鎧の半身・e35450)は、フェスティバルオーラを遺憾なく発しながら考え込んだ面持ちだ。
(「ハロウィンの魔女の演技ですか……」)
 具体的なイメージはよく判らないが、ハロウィンぽい仮装となっただろうか。何処か怪しげな黒のローブ姿で、カンテラをゆらゆら揺らす月見里・ゼノア(鏡天花・e36605)。クラムの演奏を背景に黄昏の空を仰げば、目深に被ったフードの下でくすくす笑う。
「万聖節前夜を目前に……招かれざるお客様のご登場かな?」
 ドゴォッ!
 咄嗟にバックステップするゼノアの前に、面妖な人影が墜ちて来る。
 ドゴォッ! ドガァッ!
 歩道の敷石を砕き、次々と降り立つその数3体。一応にパンプキンめいた装束の僵尸、人呼んでパンプキョンシーだ。
「ハロウィン魔女集団参上♪」
 無骨な襲撃と対照的に、ダブルジャンプから優雅にパンプキョンシーの前に躍り出た小柄は、悪戯っぽくウィンクさえしてみせる。
「トリックオアトリート♪ お菓子をくれない? しないなら……イタズラ、しちゃうぞ♪」
 生憎と周囲に居合わせた「大人の男性」はクラム1人。ショッピングモールに行けばいるだろうが、一般人をわざわざ戦場に連れてくるのも本末転倒だ。故に、独り蠱惑的に微笑むデジル・スカイフリート(欲望の解放者・e01203)。三角帽子に黒いマント、カボチャの装飾とオーソドックスな装いながら、肌も露な魔女装束はサキュバスらしく悩ましい。
「ハロウィンは楽しいものでなくちゃ。だから、事件は起こさせないし、誰も犠牲にさせない、よ」
 対照的に静かな微笑みは、ティスキィ・イェル(ひとひら・e17392)。やはり魔女らしくローブと帽子を着けているが、露出は控えめ。裾をお菓子で飾り立て、お菓子を詰めたカゴを下げる。花竜のクラーレも魔女の使い魔らしく、南瓜の帽子とお菓子の飾りで仮装している。
「ハロウィンに傍迷惑な方々ですわね……さっさとご退場して頂くとしましょう」
 サキュバスの証は隠して、黒とオレンジのモザイク柄のローブドレスに尖った高帽子。大きな鍵を模した杖を手に、フィルメリア・ミストレス(夜の淑女・e39789)は慇懃無礼に言い放つ。
(「赤の見習い魔女がドリームイーターなら、パッチワークの魔女達もドリームイーター。でしたら、ハロウィンの魔女もそうではございませんこと?」)
 ドリームイーターを意識して、モザイク柄をブラックスライムで蠢かせる凝りようだ。
「いらっしゃいませ。わたくしこそ、ハロウィンの力持つ魔女ですわ」
 相棒の夢竜ボルクスと同じタイル柄が、如何にもファンシーな装い。そろそろ冷え込む頃合ながら、ユッフィー・ヨルムンド(夢竜の魔女・e36633)は肩を出すタイトミニのセクシーな魔女の姿で、小さな胸を大いに張った。

●パンプキョンシー
「大変! 怖いお化けがお菓子を奪いに来たよ。でも、大丈夫。怖いお化けは私達の仲間がやっつけるわ」
 ビクリと立ち竦む子供達に、優しく声を掛ける響花。フィルメリアも声を張る。
「トリックオアトリート! デウスエクスの餌食になりたくなければ、さっさとお逃げなさい~!」
「ああ、魔女に攫われる前に、ここから離れな」
「はーい!」
 幸い、クラムのフェスティバルオーラに中てられたか、すぐ元気なお返事があった。圧倒的な魅力のオーラは裏方には寧ろそぐわないが、賑やかしにはなりそうか。
「終るまで、児童館で待っていてね」
「魔力も死者も惹かれる楽しい愉しいハロウィン……素敵な魔法を魅せてあげるよ、ほら、あっちだ」
 美緒が児童館へ子供達を逃がす間に、割って入ったゼノアの足許に星が煌く。
「招かれざる君達に……さぁ! ハロウィンの夢を魅せてあげるよ!」
 標的は、ディフェンダー。ポジションで優先順位は決めていた。だが、パンプキョンシー達は一応に同じ姿。その立ち位置もまだ判然としない。先制攻撃が叶う時、何処から仕掛けるか。
 オォォォッ!
 無から判断を下す為の僅かな躊躇も、戦闘では隙となる。機先を制し、次々と身をたわめるパンプキョンシー。ディフェンダーが動く暇があればこそ、相次ぐハイジャンプ攻撃が前衛を越えて佐祐理とフィルメリアを襲う。同時に、3体目の青い鬼火が後衛のユッフィーに爆ぜた。
 例えば右か左か、1人でも敵の挙動を量らずに済む取っ掛かりを示唆していれば、先んじて攻撃出来ただろう。
 眉を顰め、身構えるティスキィ。スターゲイザーの間合いからして、後衛は鬼火を飛ばした1体。取り敢えず、2体の片割れを無作為に狙えば、果たしてもう片方が飛び蹴りの軌道を遮る。
「右がディフェンダー、だよ」
 ティスキィの声にすかさず、デジルの機械蟹脚型バールが奔る。
「避けられた、なんて思った? 魂の残滓、刹那の精霊を作り上げなさい」
 その一撃はかわされるも、不敵に赤茶の双眸を細めるデジル。ディフェンダーの背後に魔法少女を模る。
「ハロウィンで仮装する程度にしておけば良かったのにね……折角の機会だし、たっぷり役立って貰うわよ♪」
 その呟きは、誰に向けたものか。パンプキョンシーの背後から奇襲を食らわせた魔法少女は忽ち掻き消えた――その名も、オルタストライクアナザー。デジルの得意技の1つ。
 一方、ジャマー2人に鎖で守護魔法陣を描いた響花は、その回復の呈を観察する。
 佐祐理とフィルメリア、実戦経験も同程度ならば防具耐性も同じ。だが、ダメージは恐らく佐祐理の方が深い。
(「上手く、グラビティの効果が派手に決まると良いのですが……」)
 痛みを堪え、大仰な挙措で前衛に紙兵を撒く佐祐理に、ボルクスが自らの夢をインストールするが……使役修正故か、それでもまだ全快に至らない。
「左は、クラッシャー見てェだな」
 屍隷兵と言えど、クラッシャーの火力は侮れない。打たれ弱い所から狙われても厄介だ。パンプキョンシーを挑発しようとするクラムだが……準備したオリジナルグラビティは服破りの技だ。
「魔女の邪魔してんじャねェ!!」
 やむを得ず、佐祐理に幻夢幻朧影を付与する。面妖なる幻がハロウィンのムードを高めるなら重畳だろう。同じく盾役のボクスドラゴン達は、今度こそはと身構える。
「さて、星を散らして遊ぼうか」
「いけない子達ですわね。万聖節前夜の無粋は、私達ハロウィンの魔女が許しませんわ」
 取り急ぎ敵前衛の立ち位置が見えれば、動き易くなる。改めて、ゼノアがフォーチュンスターを蹴り込めば、いっそ優雅に九尾扇を広げるフィルメリア。やはり、自らに妖しく蠢く幻影を重ねる。
「皆様、わたくし見ましたの!」
 突然、声を張るユッフィーがビシィッと指を差す。
「パンプキョンシーの中に独り、一般人の仮装にも驚いて逃げ惑う奇妙な子が! あれはきっと、偶然心が芽生えたんですわ」
 ……取り敢えず、どれを指差したか他のケルベロス達には判らなかったが、ハロウィンの魔女をユッフィーなりに解釈したお芝居とは聞いている。
「折角、魔力が満ちるハロウィンですもの。わたくし、あの子にお友達を作ってあげたいですわ」
「友達って……パンプキョンシーって量産された屍隷兵でしょ」
 丁度、避難誘導から戻ってきた美緒が眉を顰めるも、ユッフィーは自信ありげに拳を握る。
「あの子のトドメは、わたくしにお任せくださいな!」

●ハロウィンの魔女の宴
 青い鬼火の応酬にオーラの星が煌き、光が、時にお菓子が舞う。クラムが奏でるBGMは、少しおどろおどろしくも魔女達のステップを弾ませる。
「焼き南瓜にして差し上げますわね」
 力強くビートを刻むクラムの「紅瞳覚醒」に奮起されたか、一気に踏み込んだフィルメリアの鍵杖(みたいな如意棒)が紅蓮の炎を纏い、車輪の如く唸りを上げる。
「流石に本職の魔法使い、とは、いきませんか!」
 もう少し、小ぶりな武器なら尚良かっただろうけれど……アームドフォートを腰に、両手に縛霊手とチェーンソー剣を構え、佐祐理は炎輪の軌跡をなぞる。
 ケタケタケタッ!
 だが、魔女達の競演を邪魔するように、響き渡るジャック・オ・ランタンの笑い声。集中打を被る盾役に癒しと加護を齎すのみならず、燃え上がる炎をも吹き消すとは。
「後衛はメディック、みたいね」
 厄介そうな口ぶりと裏腹に、デジルは妖艶に笑んだまま。ティスキィが狙い定めて轟竜砲とスターゲイザーを以て敵の足止めに専念すれば、ゼノアは時に制圧射撃を差し挟む。スナイパーの尽力を、ジグザグの技が更に深めていく。美緒も又、ジャマーの立ち位置でメタリックバーストを繰り返した。
「……っ! こちらにヒールをお願いします!」
「了解。月の癒しは狂おしく、なんてね」
 過分の回復を避けるべく声を掛け合うケルベロス達だが、流石に響花にサークリットチェインを重ねさせる程、パンプキョンシーの攻撃はぬるくは無かった。その上で命中率の上昇を眼力が報せれば、自然と士気も上がろうというもの。
(「早くおいでなさいな、フォティア。わたくしの可愛いボクちゃんは、夢喰らいの竜。あなたをパクっと食べちゃいますわよ♪」)
 待ち切れなさげにフフッと笑みを零し、ドワーフ特有の大地をも断ち割る強撃を繰り出すユッフィー。
「チッ……寄ッてくるんじャねェよ」
 ハイジャンプを繰り返す敵に吐き捨て、クラムはケイオスランサーを力一杯放つ。
「夢の世界へ、誘ってあげる」
 漸く懐を探り、ティスキィは闇夜写す紫の試薬を居並ぶパンプキョンシーに投げた。魔風に乗った飛沫は霧と化し、紫の世界に煌くオレンジの光は魔女の囁きのように心亡き筈の屍隷兵までも惑わせる。
 閃くフィルメリアの絶空斬。ボクスドラゴン達も次々と、ブレスを吐いて傷口を抉る。
 ケタケタケタッ!
 癒しの笑い声が再び響くが、重ねて広げられた傷を塞ぐには手数が圧倒的に不足している。
 ――――!!
 程なく――ゼノアのクイックドロウに鬼火を散らされ、怯んだ所を一気に押し込んだ佐祐理のチェーンソーの刃が、凄まじいモーター音を上げて呪的守護諸共に斬り捨てる。
 唯一の盾を崩せば、一気呵成。忽ちふらつく2体目にも容赦せず、ケルベロスらの火力は爆発するようにパンプキョンシーを呑み込む。
「魔女は私達の物、ね♪」
 再度、オルタストライクアナザーで疑似ビハインドを創り上げ、デジルと魔法少女の挟撃が交錯する。あくまでもハロウィンの魔女を演出して、デジルは崩れ落ちる屍を艶然と見下ろした。

●赤き見習い魔女の訪れは――
 パンプキョンシーも、残るは1体。回復を担っていた屍隷兵を、護るものはもういない。
「皆、もうちょっとよ!」
 美緒から放出されたオウガ粒子が、更に前衛達の感覚を研ぎ澄ませる。攻撃が殺到する。
「粉々になりやがれ……!」
 溢れんばかりの怒りを無理矢理に凝縮し、轟音と共に前方へと放出する。クラムの感情の奔流に呑まれ、パンプキョンシーは体勢を崩す。すかさず、その軌跡をクエレのブレスがなぞった。
「Das Adlerauge!!」
 佐祐理のレプリカントの右目より迸るレーザーは、本来は距離計測が用途。相当に命中率は低かったが、パンプキョンシーの胸を深々と抉る。
 ケタケタケタッ!
 それでも響くジャック・オ・ランタンの笑い声を、ティスキィの音速の拳が加護諸共に消し飛ばす。クラーレもボクスタックルを敢行した。
「躊躇わず……討つ」
 ここまで来れば、篤い回復も不要だろう。響花の凍れる一撃は、屍隷兵の幾許かの熱さえも奪う。
「咲き乱れなさい、インサニア!」
 鍵杖を向けたフィルメリアより、迸る真紅の花弁の奔流。サキュバスの魔力を含む薔薇の花言葉は『狂気』。
「くすくす……邪魔はさせないよ」
 些か緩慢に身を翻さんとしたその先に回り込み、ゼノアは己の影を実体化させる。
「孤独に寄り添う影よ、解放の時は来た」
 パンプキョンシーを無形の闇が包み込めば、デジルが繰り出す旋刃脚が更に急所を抉った。
「さあ、貴方の欲望を解放しなさい?」
 ぐ、あ……。
 身を震わせ、パンプキョンシーは不自然に硬直する。欲望の解放を促しながら、行動自体を阻む残酷。響花による凍傷の追撃が、更に屍体を壊していく。
 ア、アァァァァッ!
 初めて悲鳴のような叫びを上げるパンプキョンシー。ユッフィーはボルクスの導きの下、即興の夢魔法を紡ぐ。
「夏の終わり、生と死の境に集いしハロウィンの魔力よ、我は冷たき骸と心通わさんと欲す。我が願いに応え、いかずちを糧に命授けよ!」
 最後の1体に、フランケンシュタインの雷が爆ぜる。
(「ハロウィンの魔力の鹵獲、実は本気ですのよ。今年も何が起きるか分かりませんもの!」)
 夢一杯のユッフィーだが、オリジナルグラビティとて、エフェクトの効果は額面通りでしかない。
 オォォォォ……。
 轟く雷鳴と共に落ちた賦活の雷に身を仰け反らせ、最後の1体は砂山が崩れるように霧散した。

 パンプキョンシー撃破の後、暫し警戒を強めるケルベロス達だったが、新手の出現は無かった。残念ながら、赤の見習い魔女のお眼鏡に適わなかったようだ。
「チッ……選り好みするんじャねェよ」
 舌打ちするクラムに、小さな暗竜は静かに寄り添う。
「少しでも楽しく華やかにって、気を付けた、けど……足りなかった、かな」
 肩に抱きつくクラーレを撫でて労いながら、小首を傾げるティスキィ。確かにハロウィンらしい演出は、中々難しかったかもしれない。
「あの……こんな感じで良かったんですかね……?」
「皆が工夫した結果だし、パンプキョンシーは全部倒せたんだもの。私はこれで充分と思うわ」
 消え失せたパンプキョンシーの跡で、ユッフィーは色々とガッカリしているが……少なくとも、この町の仮装行列は護られた。困惑混じるゼノアの小声に、美緒は笑顔で太鼓判を押す。
「ドリームイーターって、本当にハロウィン好きよね……確か、ハロウィンは秋の収穫祭で悪霊を追い払う儀式よね? 逆に呼び寄せてるじゃん」
 仮装を整え直す響花は溜息1つ。ケルベロスで追い払えばそれで良いけれど。何とかならないものかとも思う。
「折角のハロウィンだものね♪ 下手な邪魔は野暮というものよ」
 KYなデウスエクスなど、仮装と思われている内にさっさと退場させるに限る。物騒を呟き、デジルは妖艶に笑む。
 さあ、戦闘の傷跡をヒールしたら、仮装行列の再開だ。
「神戸、と言えばお菓子屋さん! 帰りに何か食べていきます?」
「あそこのショッピングモールにも、洋菓子屋さんがありましたわね」
 フェスティバルオーラ再び。砕けた歩道に紙兵を景気よく撒いて佐祐理が天真爛漫に提案すれば、フィルメリアも艶美に頷く。
「悪い子はいねぇか~、食べちゃうぞ~」
「……さっきも言おうと思ったんだけど。それ、季節感とかお国柄とか色々違う」
 響花の掛け声を、美緒のツッコミが追い掛けた。

作者:柊透胡 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年10月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 6/キャラが大事にされていた 1
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