●お伽噺、開幕
神無月の夜。大都会、六本木。
異国文化の強い土地は、この国で最もハロウィンの機運高く、人々は華麗なパーティに浮かれ騒ぐ。
その頂点たる六本木ヒルズの屋上で……。
宝石箱の如き夜景を、獅子とモザイクを纏った女が見下ろしている。
「まさか、ジグラットゼクスが直接乗り込んでくるとは……これは、わたくし達パッチワークの魔女の作戦が滞っているのが原因なのでしょうね」
その顔に、かつてこの空の上で見せた微笑みはない。
それもそのはず。『王子様』はお抱えのパティシエやお茶会の姉妹のみならず、見習い魔女たちにまで機会を与えた。
その意味するところは……。
「……こうなれば、ハロウィンの中心たる六本木の街を制圧し、パッチワークの魔女の力をジグラットゼクスに見せつけねばなりませんわ」
恐怖は、ない。あるのは氷のような怒りと、名を汚された恥辱のみ。
女は、誘うように手を招く。背後に現れるは、お伽噺の獣の如き幻想魔獣の群れ。
「お進みなさい。その蹄で牙で爪で、勝利を勝ち取るのです……!」
幻想魔獣を模した屍隷兵の軍勢が、一斉に街へと駆け降る。
眼下に吹き荒れる、悲鳴と狂乱の嵐。
立ち登る血と火炎の紅に頬を当てられて、魔女は口元を吊り上げる。
街より天へと伸びる、六本の光の柱を眺めながら。
「さあ……おいでなさいな、ケルベロス。恐れを知らぬ幻想魔獣の軍勢と、パッチワーク第一の魔女・ネメアがお相手いたしましょう……」
そこは、殺戮の宴の幻想魔都。
今宵、この街で、獅子の魔女のお伽噺が、幕を開ける……。
●六本木、陥落
「緊急事態です……! ハロウィンの魔力を求めて、ドリームイーターが動きました。すでに六本木が奴らの軍勢によって陥落。その他、大阪を始めとする各地でハロウィンイベントを狙った作戦を同時展開してきました」
望月・小夜(キャリア系のヘリオライダー・en0133)は出力した資料をもぎ取る。
「六本木ではすでに死傷者多数。これほどの軍事行動に出るとは、奴らを甘く見ておりました。ドリームイーターとしては、今までで最大規模の大攻勢です」
六本木へと攻め寄せたのは敵の主力、幻想魔獣型の屍隷兵の軍勢。
率いるは、パッチワーク『第一の魔女・ネメア』。
「制圧された六本木では、中心地である6地点より『6本の光の柱』が空に伸び上がり、どこかへ力を送っているようです。幻想魔獣軍団が6地点それぞれの防衛についており、恐らくこの光柱こそがハロウィンの魔力なのだろうと推測されます」
それがどんな性質の魔力かは不明だが、このまま明け渡してよいものでないことは確実だ。
「皆さんには、六本木に出撃していただきます。ですが即時編成できる部隊のみでは、全地域の解放は難しいのが現状。戦力配分はプロである皆さんにお任せしますので、光の柱を出来る限り破壊してください」
敵地に突入し、光の柱を破壊する。
それが今回の任務となる。
●反攻作戦
「光の柱のある6地点はそれぞれ異なる幻想魔獣型の屍隷兵が防衛しております。数も多く、複数部隊で協力・連携する必要があります」
だが6地点それぞれの総戦力にはばらつきがあるという。
確実な破壊を優先するなら、弱いところから落とす堅実策が有効。もちろん逆に戦力を集中し、ネメア本陣を狙う手もある。
総戦力では劣る以上、どう攻めるかが重要だ。
「6地点の場所、敵戦力については資料にまとめました。良く読み込み、出撃地域を決定してください」
万が一、戦力が足りない場合は? その質問に、小夜は頷く。
「十全な戦力を揃えれば、敵防衛戦力を撃滅して光の柱を破壊し、地域を開放できます。ですが戦力不足の場合は敵の撃滅は諦めるしかありません。敵を防ぐか陽動している内に破壊工作を行って光の柱を破壊。敵地を離脱するといった奇策が必要でしょう」
無論、敵は猛攻撃を仕掛けてくるが、少数戦力でも任務達成の可能性はある。
「ただし屍隷兵と違ってネメア本人は指揮能力も高く、軽々しい奇策には引っかかりません。また、光の柱は耐久力が高く『近接攻撃でしかダメージを与えられない』という特性を持ちます。そのことも踏まえて、作戦を立ててください」
戦力を揃え、全力で敵と激突して地域解放を狙うか。
少数戦力で奇策を用い、一撃離脱を狙うか。
いずれにせよ、難しい任務となる。
一般人の避難は? という質問に、小夜は首を振った。
「制圧された地域の生存者の避難は終了しています。逆に言えば、制圧地域内に生存者は残っていないでしょう」
状況を呑み込み、全員が黙り込む。
「……共に連中に思い知らせてやりましょう。それでは準備が出来次第、六本木の解放に出撃いたします」
出撃準備を、よろしくお願いします。小夜はそう言って、頭を下げた。
参加者 | |
---|---|
アンノ・クラウンフェイス(ちっぽけな謎・e00468) |
エリオット・シャルトリュー(イカロス・e01740) |
月隠・三日月(紅染・e03347) |
レイ・ジョーカー(魔弾魔狼・e05510) |
リリー・リーゼンフェルト(耀星爛舞・e11348) |
一之瀬・瑛華(ガンスリンガーレディ・e12053) |
夜殻・睡(氷葬・e14891) |
言葉・彩色(妖シキ言ノ刃・e32430) |
●幻想魔都
それは、10月30日の夜。
番犬たちは隠密装備に身を包み、死地と化した六本木を進む。
明滅する電灯。火花を散らす電線や看板。乗り捨てられた車両。路地には血飛沫が飛び散り、パーティの飾りは踏み砕かれて転がる。
それを横目に見るのは、エリオット・シャルトリュー(イカロス・e01740)。
(「凄惨な悲劇の痕を残しつつ、死体さえない無人の大都会。この風景はまるで……いや、考えるな。思惑も目的も気になるが……まずは、ここまでやってくれたお返しだ」)
その肩を、相棒のファントムと共に進んでいたレイ・ジョーカー(魔弾魔狼・e05510)が、とんと叩く。
「ここだぜ。六本木グランドタワー。国内有数の企業や外資系の有名企業が名を連ねる、地上四十階建ての高層オフィスビル……だ、そうだ」
壮観だな、と、呟いた一言は、建築に対してか、それとも屋上より天へと伸び上がる光の柱に対してか。
「はてさて、錆びた臭いの鼻につくこの大都会に、これより始まる怪異譚。魔女の語るお伽噺の、始まり始まり……」
物陰から覗き見る言葉・彩色(妖シキ言ノ刃・e32430)の視線の先には、猛禽の頭と翼を持つシマウマ……ピッポグリフたちの蠢く影。一階ホールには、数匹が徘徊しているようだ。
リリー・リーゼンフェルト(耀星爛舞・e11348)が無線から流れる雑音に首を振ると、月隠・三日月(紅染・e03347)が頷いて。
「電波は駄目か。なら信号弾が次の手筈だ。重要な作戦だ。準備はしっかりと、絶対に敵を倒しきる気概で臨もう」
そして合図の信号弾を打ち上げると、配置についた全ての班がすぐさま跳躍する。
だが番犬たちがガラスを破って雪崩れ込んだ時、ピッポグリフたちはすでにこちらへ向けて身構えていた。
「!」
機関銃の如き羽の弾丸が、乱入した番犬たちを歓迎する。遥か上層からは、カササギの如く鳴き交わす声。敵襲を、感付かれたのだ。
「気付かれた! なんで……って、信号弾を打ったからよね。もうこういう場合、合図なしで、各部隊が互いの動きを信頼して動く必要がありそう……!」
リリーがその鎌で羽弾をいなして、ため息を落とす。アンノ・クラウンフェイス(ちっぽけな謎・e00468)が、その背に並んで。
「こうしてると螺旋忍軍大戦を思い出すね。でも、大丈夫。あの時は失敗しちゃったけど、今度は五分になっただけ。いくらでも取り返せる。絶対、成功させるよ!」
そう言って、二人は頷き合う。
一気に混沌の戦場と化したホール。敵は十体にも満たず、対してこちらは三十を超える。瞬く間に制圧出来る。
だが一体のピッポグリフが闘うそぶりも見せず、壊れたエレベータのシャフトへと飛び込むのを、夜殻・睡(氷葬・e14891)は見た。
「退く……いや、守りを固める気か。面倒だけど、追わなくちゃな。一階に三十人で固まってるわけにもいかない」
睡を先頭に、仲間たちはシャフトへ飛び込んでいく。殿を進む一之瀬・瑛華(ガンスリンガーレディ・e12053)が、一階の制圧に残った部隊へと呼びかけた。
「やるべき事は一つ。この建物の完全制圧。私たちは先へ行きます……! 必要チームは揃っていますが、皆さん、油断なさらず……!」
そして八人は、遥か上階へと伸びる闇の中へと、跳躍する。
待ち構えるは、果たして……。
●魔塔
シャフトの中は暗く、狭く、下水管の中のような異臭が漂う。
「……くそ。非常灯までべっとり何かで覆われてて、役に立ちやしない。油か? それとも奴らの涎か何かか?」
「やめてくれ。その謎の答えは、特に知りたくない……」
エリオットの悪態に応えた三日月の声は、うんざりと響く。
「うわ、べとべと……最悪だわ……ああもう。この戦いが終わったら、スイーツ買い占めるのよ……絶対、そうするわ」
「そうですね。ああ、スイーツと言えば。この建物には有名なお菓子メーカーの本社などもあるそうですよ」
ぶつぶつと呟くリリーを、瑛華が話題を変えて慰める。
壁に張り付きながら、すでに随分と登った。感覚を狂わせる闇の中、どこにいるのかもわからない。
その時、睡がふと、動きを止めた。
「エレベータが壊されて道が塞がってるな……その手前の階の扉が空いてるってことは……」
「さっきの奴はそこに入ったんだな。待ち構えられてるかもしれねえ。合わせて飛び出すぜ。いいか、相棒」
レイはそう言って、ファントムを見やる。
張り付けるだけ壁に張り付き、番犬たちは一斉にその灯りへと飛び出した。
「……っ!」
そして、視界に飛び込んできたものに、息を呑んだ。
そこは、先ほど話に出たお菓子メーカーのオフィスのロビー。中央にあるピラミッド型のオブジェには、可愛らしいチョコレートの箱が飾られていたのだろうが……。
今、そのオブジェを彩るものは、折り重なった人体だった。引き裂かれ、その腹腔には穴が開き、臓腑を抉り抜かれた死体の山。虚ろな眼は救いを求めるように、一様に番犬たちの方を向いている。
「謎の答えがわかったね……助けられる命は助けた方がいいって言うけど……いざやろうとすると、中々難しいね……」
アンノさえ、口の端の笑みを消す。
そう。シャフトから死体の山へ向けて伸びるのは、赤黒い血の直線。
番犬たちの足元には、縋りつくように手を伸ばしたドレスの女が転がっていた。その背にはぽっかり暗い虚が開き、肺も心臓も残っていない。
「……外から引きずり込まれた人々だね。なるほど。ここは巣窟。怪物たちの餌場……か。生臭すぎる舞台だね」
彩色の言葉通り、死体の山の背後からゆらりと現れるのは、先ほどのピッポグリフ。嘴からぶら下げた臓腑を呑み下して、高く吼える。その嘶きはこだまのように数を増やして、ロビーの奥……オフィスの薄い壁が内側から破られる。
血と死臭に満ちたオフィスから飛び出して来たのはピッポグリフの群れだった。
●死窟
敵は八体。
それは死体の継ぎ接ぎで作られた傀儡に過ぎず、感情も意志もありはしない。
それでも、なお。
「ここで何人死んだんだ……? その上この数の屍隷兵……一体、夢喰いの奴ら、幾つの命を弄びやがった!」
レイの瞳に、憎悪と嫌悪が燃え上がる。真っ先に飛び掛かって来た怪物を、その早射ちが射抜く。相棒の掃射と共に。
「こちらは悪趣味なスプラッタを見に来たわけじゃないんだ。さぁ、教えてくれないか。キミたちの『存在(いろ)』を、キミたちの『感情(ことば)』で」
恐怖を知らないなら、せめて恐怖を教えてあげよう。その言葉と共に彩色が放つは、氷の奔流。弾雨と氷風に押し返されたピッポグリフの群れに飛び込むのは、嫋やかな淑女。
「少し……心が乱れました。でも力でねじ伏せるには、ちょうど良かったかも知れません……」
瑛華が走り抜けた時。一体のピッポグリフの首を、まるで手綱の如く鎖が貫いていた。
「私たちは、あの魔女を許さない。それがあなた達とここで倒れた人々への、せめてもの手向けです。さあ……!」
動きを押さえられた怪物に突っ込むのは、螺旋の力を歌い紡ぐ小さな影。
「あの魔女は、お菓子も死も全部丸ごと自分たちの物だとでも言うつもり? こんなの……ひどすぎるわよ!」
視界の滲みを拭って、リリーの放つ怒りの連撃が化け物を打ち据える。
「我と我等へ徒成す者に……! 宇宙と虚空の理の! 捌きと裁きの鉄槌を……降せっ!」
最後の一発がシマウマの巨体を吹き飛ばし、屍隷兵は青い炎に包まれて消滅する。
脇のピッポグリフがすぐさま身を翻し、小竜巻を巻き起こして撃ち放つ。
「させないぜ」
だがその一撃を、腕を交差させて受け止めたのは、エリオット。僅かに散った血を払い、地獄の炎を青く燃ゆる鵙に変えて。その瞳がちらりと、オブジェに突き刺さったままの人々を見る。
「別にお前たちに恨みがあるわけじゃないんだ……同じ目に合わせることは、許せよ。青炎の地獄鳥よ、我が敵をその地に縛れ……!」
青炎の鳥が迸る。それは敵の体を貫くと、杭となってその躰を大地へ穿ち止める。
「楽にしてやってくれ……頼むぜ」
そういう彼の脇を跳弾の如く跳ねる影は、三日月。喚いて暴れるピッポグリフの嘴をすり抜けながら。
「ああ……こいつらも、元はこの星の生き物。助けられはしないが……なるべく楽に殺してやるさ」
紅い影がその脇へ着地した時。ピッポグリフの首が、ぽとりと落ちる。
「あの魔女には、そんな慈悲は掛けないがな」
唾棄するが如く薙刀の血を払って、三日月は吐き捨てる。
その瞳が見詰めるのは、ピッポグリフの群れが出てきたオフィス。
元々ここで働いていたスーツ姿の人々が、体に事務机や椅子を突き刺されてまとめられていた。それが、人体と家具を繋いで作った、屍隷兵の寝床だった。
その光景に得物を握り締める三日月の背に、真空の刃が一閃する。
だがその一撃を受け止めたのは、癒しの鎖の結界。アンノのサークリットチェイン。
「ボク、動物は好きなんだけど継ぎ接ぎだらけなのはちょっとね。見ていてこっちも痛々しいから、ちゃっちゃと片付けよう。ね?」
道化じみた笑みと態度を戻したのは、仲間たちの背を支えるためだろうか。
「ああ。もっとうじゃうじゃ来るかと思ったけど……こっちは四チームだから敵もちらばったのかも。一つの巣にこの数なら、このビル全体でせいぜい四十体くらいかな」
放たれた羽弾を、睡の刀が弾く。馳せ合う間に敵の脇をその刀で斬り裂きながら。
「押し切れる。屋上へ向かおう」
胸に滾った想いを凍てつかせて、今は屍隷兵を駆逐するのみ。
真に怒りをぶつけるべき者には、まだ手が届かないのだから。
「ではでは、御耳と御目々を同時に拝借。今宵を彩るは怪異譚。どうか、最期の時までお楽しみいただけますよう」
狐面の向こうで、彩色の口の端が笑む。
「今よりこの場を彩るは、蜘蛛の身体に牛頭もつ鬼の御話――」
語りのままに生まれ出ずる、巨大な牛鬼。具現化された妖怪は、飛び出すなりピッポグリフを弾き飛ばし、鳴き騒ぐその一体を踏み潰した。
「この程度の実力と数……足止めもさせるものか。残りは五匹……! 散るがいい!」
三日月が群れに飛び込み、嵐の如く刃を翻す。その斬撃に細足を裂かれ、怪物たちは嘶きながら四方に散った。その内の一匹が、窓を割って外へと飛び出す。
「……! 一匹逃げるぞ、ジョーカー殿、頼む!」
「任せな……! 逃がしはしねぇよ! 一匹残らず、ここで仕留める! 撃ち抜け、ブリューナクッ!」
乱射される羽弾を避けつつ、レイの銃口はすでに外へと逃げた鷲の頭を捉えている。放たれた光弾は空中でねじ曲がり、飛び逃げる怪物の脳髄を粉々に撃ち砕いた。
「少し取り乱したけど……やることはいつも通りよ。きっちり仕事して、全員無事で帰還する……もう躊躇しないわ。速やかに終わらせる!」
リリーの鎌、スパイラルネメシスが螺旋の軌道で飛翔する。一体のピッポグリフが空中で翼を切り裂かれ、嘶きながら落下した。
風に舞う薄布の如く、その目の前へ着地したのは、瑛華。
「ええ。弱点を掴む必要も、その余裕もなさそうですね」
瑛華がそれだけ言って立ち上がった時。怪物の胴体は、影の如き斬撃に真っ二つとなって崩れ落ちる。
「……私たちの全力の前では、すぐに片がついてしまいますもの。残りも、一気に片付けましょう」
「そうだな。残りは三……いや」
睡の言葉は、己の刃に追い付かなかった。突っ込んできた一匹と、馳せ合いざまの一刀。白く舞い散る花弁が散った時には怪物の首は落ち、体だけが無様に数歩を歩いて崩れる。
「此の華は香らず。只、白く舞い散るのみ……ん。これであと二匹だ、な」
敵は間も置かずに次々と討たれていく。階下や階上から僅かに聞こえてくるのも、嘶き声の断末魔ばかりだ。
残ったピッポグリフを、エリオットが渾身の体当たりで弾き飛ばす。彼はそのまま窓から外へ身を躍らせ、最後の一瞬で窓枠を掴んだ。
「よっ……と」
胸を抉られ、怪物は虚しく夜の空へと落ちていく。
振り返った時、最後の一匹はすでにアンノの放った炎に包み込まれ、焼け落ちていくところだった。
「掃討完了、だね。窓の外はどうかな? 他の拠点に動きは見えた? 援軍とかありそう?」
アンノがそう言って、エリオットの手を掴む。
「……いいや全く。ま、敵にとっては防衛戦。戦力を割るなんて出来ないだろうさ」
他所の光の柱に動きはない。
耳を澄ませば、ほぼ全ての場所で戦闘は終わったようだった。
ビル内の敵は駆逐され、もはや一か所を残すのみ。
八人の番犬は、上を見上げる。
仕上げの時間だった。
●屋上
三十人を超える番犬たちが、屋上へ攻め上る。
最後の拠点に、ピッポグリフたちは僅かばかり配置されていたが、この人数を相手にはいないにも等しい。
「さて。こいつらはボクに任せて。キミたちのいろを叩きつけるといいよ。あの柱へね」
彩色は吹雪を操る雪女郎の物語を胸に、向かい来るピッポグリフと対峙する。
「助かります。さて……雑な壊し方ですが、たまには良いでしょう」
瑛華はそう言って氷結の槌を腰だめに構え。
「ええ。雑で十分! 下で感じた想いを、そのまま叩き込んでやるわ!」
「さあ、相棒。仕事の総仕上げって奴だ! 突っ込むぜ!」
リリーとレイは跳躍するなり、共に拳を引く。
「夜殻殿! エリオット殿! 準備はいいか! 一斉に行くぞ!」
そして三日月の叫びに合わせ、三人が得物を引き抜いた。
狙いは目の前。天へと伸び上がる、巨大な光の柱だ。
「あはっ! 周りの班も準備できたみたい。派手なことになりそうだね! せえーのっ!」
アンノが叫ぶと同時に、全班の攻撃が四方から光の柱へと解き放たれた。
分厚い硝子に全力でぶち当たったような手応えが、全員の身に痺れとなって走り抜ける。
光の柱を包み込む、全霊の総撃。
「……!」
雷鳴に似た轟音が迸り、稲妻の如く亀裂が入る。
そして光の柱は一気に砕け散り、吸い上げられていた輝きごと小さな光片となって周囲に飛び散った。
息を呑む一同へ、きらきらと輝く光の欠片が優しく降り注ぐ。
「まるで、光の吹雪……か。随分綺麗だな。下じゃあ……あんなことになってるのにな」
振り返れば、ピッポグリフたちもその全てが地に落ちていた。
「……」
エリオットの呟きに、睡は無言のまま俯く。
それはまるで、この日の惨劇が全て夢であったかのような、物悲しいほど幻想的な光景だった……。
こうしてタワーは奪還され、呼応するように中学校の光の柱も砕けて消えた。敵は四本の柱を確保し、やがて退くだろう。
10月30日の深夜、六本木の闘いは終わる。
だが夢喰らう者どもとの闘いは、このままでは終わらない。
そして今、ハロウィンの幕が上がる。何かの予感を、抱えたままに……。
作者:白石小梅 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年10月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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