三色魔女のハロウィン~魔女のオ・キ・テ

作者:あき缶

●みじゅくまじょとーじょー!
 顔にペイントを施してもらったお姫様姿の少女が、虎のきぐるみを着た若い父親と猫耳カチューシャをつけた若い母親に手を引かれ、ぴょんぴょん跳び、でたらめな歌を歌いながら、駅に向かっている。
「ハーローウィーン! 楽しいハーローウィーン!」
 彼女だけでなく、他の人々も思い思いの仮装に身を包み、皆が笑顔だった。
 ハロウィンイベント開催中の遊園地でたっぷり遊んだお客が帰路についているのだ。
 その様子を、モールのアーケードの上から三角座りで眺めていた緑の魔女姿の少女は、ひょいと立ち上がると、うんと伸びをした。
「はー、ハロウィン! たっのしーよねぇ! うんうん、私も楽しいよ! 『王子様』にもらった、このチャンス。絶対つかんでみせるっ! さあおいで、パンプキョンシー達っ」
 ざっと魔女の後ろに現れる南瓜とキョンシーを合わせたような怪物が五体。
 びゅんと大ぶりに振った指で仮装姿のお客達を指し示し、少女は叫ぶ。
「あの賑やかな場所を襲撃してちょうだい! もちろん、あの赤青の魔女には負けちゃダメ。手抜きは許さないよ!」
 彼女の言葉にうなずき、パンプキョンシー達はアーケードから雑踏めがけて飛び降りていく。
 その背に、魔女は叫んだ。
「ハロウィンの力を持つ魔女が現れたら、呼ばれて飛び立ち風の如く! このアネモスが行くから、絶対に逃がさないでよね!!」

●ドリームイーターの魔女アネモス
 ハロウィンはドリームイーターの季節なのかもしれない――香久山・いかる(天降り付くヘリオライダー・en0042)は、ため息をつきながら、今年もまた楽しいハロウィンをデウスエクスが邪魔する未来を告げる。
「ハロウィンの力を求めて、赤青緑の三人のドリームイーターの魔女が活動を開始したみたいや」
 魔女はそれぞれ、この時のために作っておいた屍隷兵『パンプキョンシー』を使役して、ハロウィンを楽しむ人々を襲うという。
「なんや、その魔女らの目的は、ハロウィンの力を持つ魔女とやらを探し出すことみたいや。そいつから力を奪いたいみたいやな」
 いかるも、『ハロウィンの力を持つ魔女』が何なのかは全くわからないようだ。
「せやけど、ハロウィンを楽しんどる人らが屍隷兵に襲われていい道理はあらへんやろ。とにかく、屍隷兵を倒して魔女の目論見を潰さなあかん」
 だが今回、いかるが予知したパンプキョンシーの襲撃場所は遊園地最寄り駅の近辺。人々が多すぎて避難が容易ではない場所である。
「せやから、こっちも策を練った。パンプキョンシーの目的は『ハロウィンの力を持つ魔女』を探すことや。せやから、ケルベロスの誰かが『ハロウィンの力を持つ魔女』になりすます」
 魔女になりすませば、パンプキョンシーは一般人のことは放置することが分かっている。
「しかもこの策にはもう一つ、オマケがあるんや」
 いかるはニヤリと笑う。
「緑の魔女が、君らの戦いぶりを見て『こいつこそは本物のハロウィンの力を持つ魔女だ!』と思ったら、戦場に現れるかもしれん。そこを叩く!」
 緑の魔女をおびき寄せ、彼女も撃破できれば一石二鳥だし、さらなる事件の発生も抑えられるに違いない。
 場所は、夕方の遊園地の最寄り駅である。繰り返すが、人でごった返していて、一般人の現場からの完全な避難は困難だろう。
 ハロウィンの力を持つ魔女になりきるケルベロスが最低一人は必要だ。
 屍隷兵パンプキョンシーは五体。さほど強くも賢くもないと予想される。
 呪符と体術で戦いを挑んでくるが、連携はしてこないだろう。
「んで、魔女なんやけど……こっちの方は、ごめん、名前がアネモスってこと以外の情報がないねん。現れたら、臨機応変で頼む……としか」
 いかるは申し訳なさそうに頭を掻いた。
「とにかく、敵の親玉も倒せるかもしれん一大チャンスや。戦闘というよりは、如何に『ハロウィンの力を持つ魔女』を演じられるかっちゅーのが大事かもしれんね」
 ハロウィンは仮装のイベント。演技力を求められる事件が起こるのも必然なのかもしれない――?


参加者
アリス・ヒエラクス(未だ小さな羽ばたき・e00143)
二羽・葵(地球人もどきの降魔拳士・e00282)
天崎・ケイ(地球人の降魔拳士・e00355)
村雨・ベル(エルフの錬金術師・e00811)
エルス・キャナリー(月啼鳥・e00859)
ミリナ・ブリミナー(腐っても食べたい・e11337)
リノン・パナケイア(保健室の先生・e25486)

■リプレイ

●はっぴーはろうぃーん
 遊園地でのハロウィンイベントを経て、多少の疲れは見せつつも気分は高揚している群衆。彼らの中で、道端でもこもこと白い煙を吐く大きな壺を見つけた者が足を止める。
「あれ、ハロウィンイベント出張所かな」
 と視線を向けてくる一般人を認識した少女、南瓜や幽霊、黒猫などのハロウィンモチーフで飾り付けたとんがり帽子にマント姿――所謂『魔女スタイル』なアリス・ヒエラクス(未だ小さな羽ばたき・e00143)は壺の中身をかき混ぜつつ、
「ハロウィンは全ての人々に平等よ」
 と言ってみせた。
 ここはもうすぐ戦場になる。避難させねばならない人々の足を止めることになるのだが、ハロウィンの魔女を気取るならば、ハロウィンで人々を楽しませ無くてはならないとアリスは考える。
「壺の中身はなーに?」
 好奇心旺盛な女の子がパタパタとやってきて、覗き込もうと飛び跳ねる。
 アリスは用意していたお菓子をそっと壺から取り出したかのように女の子の前に出してみせる。
「わー」
「おいしくなあれ」
 くるりと指を回して、アリスはお菓子におまじないをかけてから、善き一日を。と女の子に手渡した。
「いーなー。お菓子もらえるんだー」
 うらやましそうに指をくわえた男の子に、紫のボディスーツにわがままボディを押し込め、黒い帽子にマントと魔女セットもきっちり揃えたクノーヴレット・メーベルナッハ(知の病・e01052)が、とことこと寄ってきて、男の子にお菓子の小袋を渡す。
「ありがとー!」
 魔導書を小脇に抱えて知的な魔女きどりのクノーヴレットは、男の子の快活なお礼にニッコリ微笑んだ。
「ふふ、いい子ね♪」
 その様子を見ていた子供達が、我も我もと近寄ろうとしたとき。
 パーンと乾いた火薬の爆ぜる音がした。
 音に振り返った人々が見たのは、とんがり帽子をかぶった南瓜の被り物にマント、これまた魔女扮装の天崎・ケイ(地球人の降魔拳士・e00355)であった。
 ケイは大げさな仕草で両手を大きく広げる。
「ショーの始まりですッ! ハロウィンの魔女のッ!」
「ショー?」
 怪訝そうな人々が、ケイの指差す天空を見上げる。
「……お、おおー!?」
 魔女が二人、箒で空を飛んでいた。

●ふらいんぐうぃっち
「トリックオアトリート! お菓子の魔女です。……はい」
 箒からぶらさがるブランコに乗った、クラシック魔女スタイルの村雨・ベル(エルフの錬金術師・e00811)は、ポケットから小粒チョコレートや飴の袋をざらんざらーんと、群衆の頭目掛けてばらまいていく。ファミリアロッドの小鳥が盛り上げるかのようにグルグルとベルの周りを旋回する。
 歓声を浴びながらも、ベルは恥ずかしいのか、ミステリアススマイルの口元が震えていた。
(「い、いやいや、恥ずかしがってちゃダメです駄目です。心から魔女ぽく振る舞わないと。せっかく空飛んで運んでもらってるんですからっ」)
 そう、ベルはただブランコに腰掛けているだけ。彼女を運んでいるのは、上で箒に横座りしつつ光の翼で飛行するリノン・パナケイア(保健室の先生・e25486)なのだ。リノンは男性だが、今は長い髪を巻き、黒いドレスにケープを羽織って清楚な『魔女』を気取っている。箒には、黒猫のぬいぐるみを乗せ、釣り香炉を柄にぶら下げて、ミステリアスな演出もバッチリだ。
 リノンは目を眇めて下界を眺めていたが、ふと招かれざる客を視認する。
「……」
 すいーっと滑るようにリノンは軌道を変えた。
 それを見上げていたミリナ・ブリミナー(腐っても食べたい・e11337)は一つ大きく頷くと、息を吸い込んだ。
「うふふ、カワイイ人間たちがたぁくさん、魔女さまはどんくさいコが大好きなのよ♪」
 と言いながら、ミリナは人々を追い立てるように走り出す。
 ミリナに並走して人々を誘導するかのように、むにゅっとしたコウモリやへにょへにょの蔦、ぐちゃっとしたおばけ――多分ミリナはハロウィンモチーフのつもりなイラストが壁にひとりでに描かれていく。
 ミリナは駆けながら後方を指差す。
「わーっ! ほら、見て見て! さあさあ逃げて!」
 そこにいたのは、五体のパンプキョンシー。
 そして、
「お菓子をあげるからイタズラさせてね?」
 とパンプキョンシーにお菓子と時空凍結弾を投げつけて、注意をケルベロスに引きつけようとするエルス・キャナリー(月啼鳥・e00859)。
「ハロウィンの魔女、エルスです、レッツ・ハロウィン・パーティ!」
 オレンジと紫の横縞ストッキング、つま先がとんがったブーツ、オレンジ眩しい南瓜スカートにコウモリ翼、もちろんとんがり帽子も忘れずに。エルスも魔女スタイルに身を包んでいる。
 ノリノリな言動は非常に恥ずかしいのだが、これもまた平和のためのケルベロス活動。
「大丈夫ですよー、落ち着いて警察の人の指示に従ってくださーい!」
 二羽・葵(地球人もどきの降魔拳士・e00282)が避難誘導を手伝う。魔女の演技はしていないものの、葵もとんがり帽子はしっかり装備済みなので、ハロウィンの気分は損なっていない。
 警官たちが本格的に避難誘導を始めたため、今の今までハロウィンのショーだと思っていた一般人もこれがデウスエクス事件なのだと分かり、一斉に逃げ始めた。

●ぱんぷきょんしーほあちゃぁ!
「村雨、降りてくれ」
 リノンは言葉少なにベルに言うと、高度を下げていきつつ御業で炎を地上めがけて放った。
「あっ、お気遣いなく。大丈夫ですよぅ!」
 ベルはシュタッと地上のパンプキョンシーの真ん中めがけて、ブランコから飛び降りた。
 ケルベロスだから、高所から飛び降りたって平気である。
 ベルはそのまま牽制代わりにブラックスライムでパンプキョンシーを食らった。
 パンプキョンシーは猛烈な蹴りを返してくる。動きはまさに拳法家のそれである。
 ビシビシと浴びせられる足をロギホーンで受ける葵だが、それでも攻撃の衝撃は骨を伝って神経に痛覚として伝わってきた。
 豪ッと首をへし折らんばかりの回し蹴りがクノーヴレットを中心に中衛全体へと襲いかかる。
 主人を守るべくシュピールが庇いに入り、派手な音を立てながら飛んでいった。イヴのシャーマンズゴーストが、ミミックの治癒を祈る。
「ふふ、ここからは魔女の本気……」
 クノーヴレットは催眠の力持つ視線を敵に向けながら、クールクロスの真価を発揮した。紫のボディスーツ上に光る魔法陣や呪文が走っていく。
「ハアッ!」
 南瓜の被り物をかなぐり捨て、ケイが放つ裂帛の気合はパンプキョンシー全体へと波状に届き、屍隷兵の体勢を崩した。
「ハロウィンだから、仮装ですか。デウスエクスもユーモアがありますねえ」
 よろめく敵を見、ケイはうっすら笑う。
 人々が無事に戦場から離れたことを確認し、ミリナは黄金の果実の光を前衛に当てる。
「今日が善き一日であらんとする為に、私は猟犬の牙で在る」
 アリスが呟きながら閃かせるのは、惨殺ナイフ――屍隷兵の傷口を引き裂く。
 単身空を飛ぶリノンは、良い的だった。飛行というポジションは、単に遠距離攻撃のみ有効となるあまり有利とはいえない位置である。乱暴に言ってしまえば、地の利がほぼない、無防備なるポジションだ。
 パンプキョンシーは揃って巫符から、巨大なるランスを召喚し、ミサイルが如くリノンへと飛ばす。巨大すぎて避けようもなくリノンは立て続けに五つのランスに轢かれた。
 リノンは気合の叫びにて、気力を保つ。同様にカードで魔法陣を描き、槍騎兵を反撃に遣わすが、あえなく避けられた。
「古の刻より来たれ凍気の精霊、かの狂熱を千代の冬気に誘い給え」
 詠唱したクノーヴレットの魔導書から極寒の風、
「ねえ、お菓子をくれないの? だったら、イタズラしかないね? ドラゴンちゃん、どんどんイタズラしちゃえ♪」
 エルスの掌から、火竜が出る。温度差で屍隷兵が砕け散った。
 パンプキョンシーが苛烈に跳び蹴りを放ってくるのを、ルーンアックスを盾に葵が守る。
「大丈夫でしたか!」
 庇った相手、ベルに葵が声をかければ笑顔が返される。
「はいな、おかげさまで大丈夫ですよ。さぁて、お返しです」
 ベルが育てた地を這う攻性植物が、パンプキョンシーをガブリと食らい尽くした。

●まちびとこず
 とん、と軽く当てたアリスの掌から放たれる膨大な螺旋がパンプキョンシーを内部から弾けさせる。
「貴方達も無理やり呼び起こされて……疲れたでしょう。在るべき場所へ、お帰り」
 どぱぁんと飛び散る肉を避けてなおアリスの表情は平坦だ。
 パンプキョンシーも、残り二体。集まって集中攻撃をすれば、そこそこ脅威でも一体ずつはさほどの強さもない。数が減ればもろいものだ。
「させませんよ」
 ミリナめがけて放たれたパンプキョンシーの光弾を、ケイは難なく受け止めた。
 背後から葵が、そのパンプキョンシーを脳天から天牛の斧で叩き割る。
 残り一体となったパンプキョンシーは、とにかく敵を一人でも削らねばと思ったのか、天高く跳び上がって火柱と化した足をリノンに墜ちろとばかりに全力でぶっつけた。
「ぐっ」
 思わず呻くリノンに、ミストを与えて落下を防いだのはミリナだ。
「リノンくんは魔女さんだもの。落ちちゃったらだめだよねー」
「フリージング・パンプキン・ボム!」
 エルスがくるりと振ったお菓子の装飾を施したファミリアロッドから、時空凍結弾(フリージング・パンプキン・ボム)が走る。
 ガチリと固まった最後の一体に、クノーヴレットはそっと近寄った。
「うふふ、捕まえました……♪ さぁ、私のこの指で奏でて差し上げますから、素敵な声で歌ってくださいね……♪」
 魔の指先が踊るように屍隷兵の体中を這い回り、それの気力を蕩かしていった。
 がくり、と崩折れるパンプキョンシー。
「さ、これで全部……」
 とクノーヴレットが立ち上がった。
「今宵は不思議な夜だから、死者が甦ることもあるでしょう。……だけれど、死者を弄ぶなんて無粋な真似が許される訳ではないのだわ」
 アリスが鋭く周囲を見回す。
 乱入しないのであれば、配下であるパンプキョンシーが全滅した今しかアネモス登場のタイミングはないはずだ。
 だが……。
「…………来ない感じ、ねー?」
 ミリナは小首をかしげた。
 上空からエルスも確認するが、アネモス出現の兆候はない。
「きっと別の場所にあらわれているんですよ。こちらの依頼としては完了……じゃないでしょうか?」
 葵の言葉にケイが頷く。
「ええ。せっかくですから、ハロウィン楽しんで帰りましょうか」
「そうですね、仕事は終わったんですよね…………ぁぅ」
「ここへ呼び出す気まんまんだったんですけどねー……ひゃぅ」
 エルスとベルは急に赤面する。我に返ると中々恥ずかしいものがあった。
「あ、そうだー……、壁にお絵かきしたの、綺麗にしなくっちゃあ……」
 ハロウィン気分を出しながら人々の避難誘導をするため、とはいえ落書きには違いない。ミリナが掃除用具を探していると、戻ってきた公務員達が、デウスエクス退治でお疲れでしょうから……と後始末を引き受けてくれると申し出てくれた。
「わー、ありがとうー」
 個性的なイラストが描かれた壁をテキパキと掃除していく人々の背に、ミリナは心の中でごめんなさいを言うのだった。

作者:あき缶 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年10月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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