南瓜爆車大阪の陣~疾走・爆走・大暴走

作者:質種剰

●疾駆する南瓜
 ハロウィンを目前に控えた街並み。
 橙色をした南瓜のランタンがそこここに設置され、そのどれもが内包した灯りを目や口から色鮮やかに発散している。
 何とも賑やかで気分の浮き立つ飾り付けだ。
 だが。
 ——ブォン!
 これらの華やかな装飾には目もくれず、夜の冷えた空気の中かっ飛んでいく1台の車があった。
 黒地に紫の星柄と縁取りの三角帽子。
 それを頭に被った南瓜は、吊り上がった目と口、垂れ幕の下がった窓を有している。
 南瓜の下にはピンクゴールドだろうか、繊細なフォルムの車輪が必死にアスファルトを転がっていた。
 ポップな可愛さと優雅さを兼ね備えた南瓜車は、かような雰囲気から想像もつかない猛スピードで、夜の街を、道路を、人の波をすり抜けて滑走していく。
 その際、コーナリングを綺麗に曲がりきれなかったのか、ハロウィン用のお菓子を積んだ棚を突き崩したり、烈しい走りに驚いた人々を将棋倒しのように転ばせたりした。

●爆走車捜索隊
「ハロウィンの力を求めて、ドリームイーターの魔女達が動き出したみたいであります」
 小檻・かけら(清霜ヘリオライダー・en0031)
 様々な事件が起こる中、大阪市内では、攻性植物の南瓜の爆車(ハロウィンキャレイジ)が大量発生、市民に被害が出ているという。
「幸いな事に死者は出ていませんが、ハロウィンの飾りつけをした商店街やハロウィンパーティーの会場、コスプレした人々の行列など目掛けて暴走を繰り返しているらしいのであります」
 南瓜の爆車の総数は不明だが、概算でも100体以上の南瓜の爆車が大阪市内を駆け回っていると想定される。
「南瓜の爆車は単体で移動していて、1体1体の強さはそれほどでも無いでありますから、大阪市内を警備しつつ出来るだけ多くの敵を撃破して欲しいのであります」
 南瓜の爆車を市内に放ったのは、パッチワークの魔女に新たに加わったヘスペリデス・アバターというドリームイーターのようだ。
 ヘスペリデス・アバターは、カンギ戦士団に加わった第11の魔女・ヘスペリデスの力を受け継いでいる可能性が高く、今回の事件もその力を使っているのだろう。
「この暴走事件がハロウィンの魔力を集めるべく行われているせいか、南瓜の爆車達は10月31日の深夜12時に自爆して、集めた魔力をヘスペリデス・アバターへ届けんとするであります」
 その魔力を受け取る為、ヘスペリデス・アバターも大阪市内で潜伏中だと予想される故に、上手く見つけ出せばヘスペリデス・アバターを撃破出来るかもしれない。
「さて……南瓜の爆車達は、ハロウィンぽい雰囲気の場所を襲撃する可能性が高いですけれど、移動中なのを見つけて撃破する事もできます」
 幸い、携帯電話での通話も可能なので、市民からの目撃情報があれば随時、近い場所にいるチームへ連絡が入る手筈となっている。
「ただ、敵は常に移動していますので、通報を受けてから駆け付けるのでは間に合わない可能性も高いであります。通報に頼り過ぎない心構えが必要でありましょうね」
 南瓜の爆車は、デットヒートドライブやキャリバースピンによく似たグラビティを用いて攻撃してくる。
 また、南瓜の口をガバッと大きく開いて、攻性捕食を仕掛ける事もある。
「ヘスペリデス・アバターを撃破すれば、深夜12時に南瓜の爆車が爆発しても、ハロウィンの魔力の受け取り手が無い為、四散すると想定されます」
 かけらは説明の締め括りに、そう補足した。
「爆発の被害を防ぐには全ての南瓜の爆車を撃破するのが理想ですが、難しいと思われる場合はヘスペリデス・アバターの撃破を優先するのも良いかもしれないでありますね」


参加者
灰野・余白(空白・e02087)
ラーナ・ユイロトス(蓮上の雨蛙・e02112)
弘前・仁王(魂のざわめき・e02120)
夜陣・碧人(影灯篭・e05022)
莓荊・バンリ(立ち上がり立ち上がる・e06236)
葛籠折・伊月(死線交錯・e20118)
ハートレス・ゼロ(復讐の炎・e29646)
アンセルム・ビドー(蔦に鎖す・e34762)

■リプレイ


 大阪市は中央区、朝。
 ケルベロス達8人は、有名な大劇場を起点に南瓜爆車の捜索へと乗り出した。
「爆発するかぼちゃの馬車だなんて、悪戯にしても度が過ぎているね。何を企んでいるかは知らないけど、必ず止めよう」
 葛籠折・伊月(死線交錯・e20118)は強い決意を胸にふわりと舞い上がって、空中から南瓜爆車を探している。
 緑の髪と金の瞳が落ち着いた風情の、人派ドラゴニアンの鎧装騎兵。
 人には無口と思われがちだが、実際は多少人見知りするぐらいで、慣れると結構喋るらしい。
 引っ込み思案な性格と騎士道精神を兼ね備えたれっきとした女性——ではあるものの、白い軍服と黒くぼろぼろのマントを纏ったその佇まいから男性に間違われる事も多い。
「それにしても人通りが多いね。人の波をすり抜けて走る南瓜爆車……空から捕捉するのは困難だろうか」
 伊月は漠然とした不安に駆られつつも、懸命に目を凝らして商店街の人混みを見つめた。
「ハロウィン……お菓子! まあうちは年齢的にはあげる側なんやろうけど、ちょっとぐらいはええかのう」
 胡散臭い関西弁を操ってにこにこと笑み崩れるのは灰野・余白(空白・e02087)。
 灰色の髪と瞳を持つ螺旋忍者で、飄々として掴みどころのない性格の女性だ。
 普段は気の良い人物なのだが、敵に対しては冷酷かつ苛烈な一面も覗かせる。
 その一方、味の濃い物が好みであり、旨みとは油と塩と砂糖という認識の、いわゆる馬鹿舌だったりする。
「お菓子ーお菓子はいらんかねー」
 ともあれ、余白はポニーテールに灰色のチャイナドレスといった出で立ちをして、通行人へお菓子を配り歩く。
 ハロウィンっぽい雰囲気を演出して、南瓜爆車が向こうから突っ込んでくれるのを期待しての囮なのだ。
 尤も、南瓜爆車が目論見通り釣られてくれるかは判らないが、ハロウィンで盛り上がる街の雰囲気を無粋な捜索で壊すまいとした伊月の、心意気を感じる作戦である。
 また、地上班6人が配るお菓子にはメモが添えてあり、南瓜爆車を発見した場合の避難と通報を簡潔に呼びかけていた。
「ここ大阪にて南瓜爆車を食い倒れー!」
 莓荊・バンリ(立ち上がり立ち上がる・e06236)も、ユニコーンを模した着ぐるみに身を包み、跳んだり跳ねたりして街を練り歩いていた。
 喉の辺りと両の拳が機械だという事は判明しているものの、過去の記憶を失くしている為に色々謎の多いレプリカントである。
 加えて、口数が多くハイテンションな性格で、有り余った元気が空回りするのか粗忽者な一面も。
「ハローホロウ! おいでませ南瓜なキャレイジさん方!」
 それ故、今回のようにハロウィンらしく華やかに騒いで、南瓜爆車を誘き寄せる囮役には最適。
「お菓子くれなきゃ悪戯するよ! キャレイジさんにはとびきりの悪戯をお返しだー!」
 バンリは楽しそうにハロウィンの歌などを歌って、パフォーマンスに全力を傾けていた。
「あれだけ楽しそうに振る舞えるのも、人柄の為せる業だろうな……」
 ハートレス・ゼロ(復讐の炎・e29646)は可愛らしいバンリの様子を眺めて、心が和むような感慨を覚えていた。
 黒髪に中肉中背と、到底人の記憶へ残らなさそうに平凡な外見をしたレプリカントの青年。
 性格は至って冷静沈着、黒眼に宿る冴えた光が彼の怜悧さを物語っている。
 そんなハートレスも、今日はしっかりハロウィンの仮装済み、額にツノを着けて着物を纏い如意棒を携え、鬼に扮していた。
 ライドキャリバーのイレブンにも、車体へハロウィンのシールを貼ってデコレーションしてあって可愛い。ハロウィンのお菓子を積んだ様も健気である。
 一方。
「ハロウィンのお菓子はいかがかな? 子どもに限らず、大人にも差し上げているよ。もちろん、タダでね」
 アンセルム・ビドー(蔦に鎖す・e34762)は、着物と狐のつけ耳つけ尻尾を身に着け、人狐に扮してお菓子を配っていた。いつも一緒の蔦の少女人形にもお揃いの仮装をさせる徹底ぶり。
 灰色の長い髪と藍色の瞳を有した、物静かな鹵獲術士の男性。
 性格は可愛い物好きで、マネキンやぬいぐるみもイケるという、ぶっちゃけると人形限定の変態である。
 とはいえ、来年はいよいよ二十の坂を折り返す事もあり、これらの趣味は年齢的に辛いものがあると自覚しているようだ。
「はい、お菓子をどうぞ。悪戯は致しませんとも。少なくともボクはね」
 人々を南瓜爆車から守ろうと真面目に警戒するアンセルムだが、実はハロウィン初体験でそわそわしているのか、どことなくほわほわと浮かれた気分が窺える。
「これなんか美味しそうですよ、フレア。食べますか?」
 と、ボクスドラゴンのフレアにも配るお菓子をあげているのは、夜陣・碧人(影灯篭・e05022)。
 用心深いシャドウエルフの青年で端整な顔立ちに伊達眼鏡がよく似合うも、今は山伏装束を着込み、顔は天狗のお面を被って隠していた。
 妖精魔法なる独自のグラビティを操るのもあってか、時には子どもっぽい悪戯を仕掛けたりするそうな。
「ぎゃーうー」
 親馬鹿な碧人にとにかく溺愛されている幼いフレアは、素直に彼の手からお菓子をパリパリ齧ってご機嫌、無邪気で何とも可愛らしい。
 ちなみにフレアも碧人の山伏へ合わせて、カラスのように真っ黒な身なりであった。
 所変わって道頓堀。
「何せ飛び込みでも有名な道頓堀です、ハロウィンで人が集まるのなら危険なスポットのひとつになるでしょうしね」
 弘前・仁王(魂のざわめき・e02120)は、ひっかけ橋の辺りを探索していた。
 短く整えた黒髪と眼鏡の奥の瞳が理知的な印象を与える、降魔拳士の男性。
 日頃から物柔らかな雰囲気で、誰にでも丁寧に接する礼儀正しい性格だ。
 ちなみに、仁王の連れたボクスドラゴンは未だ名前が無いが、ゲドムガサラ撃破をきっかけにいよいよ名付けも計画しているそうな。
 仁王達が懸命に爆車を捜す上空では。
「南瓜の馬車ならメルヘンでしょうけれどねえ。ハロウィンなら乗っているのがシンデレラとは限りませんか」
 騎士の仮装も格好良いラーナ・ユイロトス(蓮上の雨蛙・e02112)が下を向いて、暴走する南瓜爆車がいないか視線を疾らせていた。
 日を透かす水色のツノを持ち、翼は池の水面を、濡れ濡れとした緑の髪は雨蛙を思わせる、ドラゴニアンの女性。
 いつも笑っているように見える顔立ちが特徴的で、内面はマイペースかつ時に辛辣。
 誰かのためより、自分のために動き、戦う——そんなポリシーを持って日々任務に挑む、ミステリアスな雰囲気のウィッチドクターである。
 ふっと、ラーナの口角が微かに上がる。
「というわけで、暴走車は破壊と参りましょうか」
 ひっかけ橋へと差し掛かる、高速移動するオレンジ色の物体を見つけたのだ。
 南瓜爆車に間違いない——ラーナはインカムで仲間へ報せを入れつつ、素早く降下していった。


 南瓜爆車がイン寄りのコーナリングで曲がってきたのを、身体を張って止めたのは碧人。
「聖域を荒らす不届き者には成敗! ってな」
 美しい虹を描く急降下蹴りを入れた後は、山伏の錫杖のつもりで握っていた如意白炎棒を伸ばして、南瓜爆車の額を貫く。
 フレアも光弾に見えるボクスブレスを吐いて、南瓜爆車の体力を着実に削った。
 そこへラーナが着地。
「南瓜には安全運転が似合うと思うのですけどねえ」
 九々鱗に覆われし拳を音速で撲りつけ、南瓜爆車の側頭部へ風穴を開けた。
「大丈夫ですか?」
 仁王は駆けつけざまに攻性植物を『収穫形態』へと変形。
 たわわに実る黄金の果実の聖なる光を照射して、碧人やフレアの怪我を治癒した。
 ボクスドラゴンも相棒の意思に忠実に、収まった封印箱ごと体当たりしている。
「ヘスペリデス・アバターは……少なくとも周囲にはいないみたいだね」
 地上に降りてからも辺りの警戒を怠らないのは伊月。
 その傍ら、嘉凛の主砲を南瓜爆車へ向けて一斉発射、オレンジの車体へ強い衝撃を与えた。
 なお、嘉凛に限らず、伊月の持つ武器4種は7人の幼馴染達の名前から1文字ずつ貰って名づけたらしい。
「まずはここやな!」
 と、南瓜爆車の車輪を狙って、機敏に跳躍するのは余白。
 メキョッ!
 光の尾を引く重い飛び蹴りをしっかと車輪へぶち当てて、奴の動きを鈍らせた。
「みんな、どうか慌てずに落ち着いて避難して」
 アンセルムは凛とした所作を心がけ、一般人へ避難を促してから前進するや、
 ——バリィッ!
 目には目を、攻性植物には攻性植物を、という訳でも無いだろうが、『捕食形態』のkedjaを南瓜爆車へとけしかけ、車体へ食らいつかせた。
 ブロロロロ——ドガシャァン!
 ハートレスを載せたイレブンは南瓜爆車を視界に入れるなり、炎を纏った車体で突撃、火傷を負わせる。
「去年と比べるとずいぶんと手荒になったものだな」
 初めて南瓜爆車と対峙したハートレスの胸に去来するものは、去年刃を交えたぱんな・こったのメルヘンな姿であろうか。
「――貴様が奪った夢、返してもらうぞ」
 否応なく高まる戦意の如く高速回転した肘から先を突き出し、南瓜爆車のフロントを凄まじい威力で破壊せしめた。
 南瓜爆車は、只管前へ——ひっかけ橋でのハロウィンイベント目掛けて突っ込もうとするも、碧人やバンリ、伊月、フレアに体を張って妨害されている。
 その内、障害物排除に思考を切り替えたのか、激しくスピンをかけて前衛陣の足を轢き潰してきた。
「ぬふっ、その程度で自分達ケルベロスの包囲網を突破できると思ったら、甘いでありますなー!」
 すかさずバンリが爆破スイッチを押して、景気良く爆発を巻き起こす。
 色鮮やかな爆煙をもうもうと発生させ、爆風を背にする前衛陣の傷を癒した。
(「これで良し……ではありますが」)
 かように仲間の治療へ務める反面、密かにハートレスの方をチラチラ見やって、彼が負傷してはいないか気にするバンリであった。
(「でへへ、流石はゼロさん、まだまだ大丈夫そうでありますな」)


「砕けいや!」
 薙ぎ払うように足を振るって回し蹴りを見舞うのは余白。
 同時に、螺旋によって歪んだ空間から飛び出た巨大な鉄の足が、息の合った動きで南瓜爆車をぶち抜き、機動停止させた。
「甘味ー甘味ー」
 まずは1体仕留めた安堵から、余白はお菓子を貪り食ってごろんごろん転がる。
 僅かな休憩を経て南瓜爆車の捜索再開。
 2体目は、発見した仁王が裏道を通り抜け、奴の予測進路へ先回りして妨害。
「行かせません」
 電光石火の蹴りで南瓜爆車の急所を貫いた。
 ボクスドラゴンもブレスを放射して追い討ちをかけ、すぐに合流した仲間達との集中攻撃の末に引導を渡した。
 3体目を倒したのは梅田だった。
 一般人の報せを受けて皆が駆けつけ、南瓜爆車をボコる最中、
「妖精は踊る、妖精は歌う。草花を踏み均し幸運の輪を残す」
 碧人は妖精を多数召喚し、自身の周囲で踊らせる。
 南瓜の仮面が愛らしい妖精達の踊りが、前衛陣に幸運と安らぎを齎し、爆車撃破の一助となっていた。
 次いで4体目。
「我が咆哮を聞け! この身は金剛、血潮は砂鉄。不撓不屈を心に誓い、我は蹂躙の堰に立つ!」
 地獄の炎を纏って伊月は名乗りを上げ、己を奮い立たせると、
「刮目せよ、我が名は伊月、帝国山狗団の葛籠折伊月!」
 護るべき人を絶対傷つけさせないという硬い意思を胸に、南瓜爆車の突進を受けて尚、仲間が来るまで持ち堪えていた。
「落ち着いて速やかに避難しろ」
 5体目はハートレスが発見した。凛とした風を纏っての声かけも忘れない。
 イレブンで追走の果てに追い詰め、待ち伏せていた仲間と袋叩きにする。
「無明に射せ。ささやかなる輝きにて恢復せよ、取り戻せ」
 バンリは小さな身体から精一杯オーラを放って、南瓜の牙に齧られたハートレスの体に回った毒を消した。
「確かに速いが……、覚えた」
 自らも加速を強めたハートレスが、空の霊力纏いし如意棒にて斬りかかる。
「オレの地獄に付き合ってもらおうか」
 既に深手を負っていた南瓜爆車の傷を正確に斬り広げて、死に至らしめたのだった。
 6体目も程なくして見つかったが、追いつくまでが大変だった。
 何せ、保険の売り文句では無いが、南瓜爆車の意識からすれば対人対物無制限。
 道中何にぶつかろうと、最終的にハロウィンの魔力が沢山集まれば良いのである。
 人間が運転している車と違って衝突を忌避する思考が皆無なだけに、南瓜爆車達は普通じゃ考えられないぐらい恐ろしいスピードで大爆走していた。
 伊月とラーナは空から目標の補足に努め、ハートレスはイレブンで爆車との差をぐんぐん縮めた。
「行けーっ!」
「兄ちゃん南瓜あっち行ったで、頑張りや!」
 通天閣での激しいカーチェイスである。一般人が応援に熱を上げて、爆車の進行ルートを予測して先回りする余白や仁王にも直接声をかけてきた。
「其は、凍気纏いし儚き楔。刹那たる汝に不滅を与えよう」
 空気中の水分を凍らせて無数の氷槍を作り出し、南瓜爆車を磔にするのはアンセルム。
 魔術により形成された氷が融ける事無く残って、爆車を苛み続けた。
「こうだったでしょうか?」
 最後はラーナがうろ覚えのコマンドから、テキトーではあるものの力の籠った足技を繰り出して、南瓜爆車を完膚無きまでに破壊した。
 この調子で、8人は夕方までに計10体の南瓜爆車を撃破。
 その頃にはヘスペリデス・アバターとの開戦の報も入り、皆は無事に南瓜爆車殲滅の任を成し遂げた安堵に包まれた。
「何よりの報告でした。これで、後は心置きなくケルベロスハロウィンを楽しめますね」
 ラーナが細い目を更に細めて言う。
「まだ食べたりんの」
 とお菓子をバリバリやっているのは余白だ。
「フレア、練り歩きはお終いですから、残ったお菓子は全部食べて良いですよ」
 碧人は朝と変わらずフレアを甘やかしている。フレアはフレアで嬉しそうにギャウッと鳴いた。
「街を駆けずり回るだけでも、ハロウィンの空気を肌身に感じられて楽しかったです」
 アンセルムは興奮冷めやらぬ風情で、
「いよいよハロウィン本番ですか……期待が膨らみますね」
 蔦の少女人形へ語りかけた。
「……そうか。任務が完了しても、ハロウィン自体はまだ終わった訳ではないのだな……」
 ハートレスはふと思案に耽る。
 果たして鬼の仮装を脱ぐべきか、どうせならこのままの格好でハロウィンを最後まで楽しむべきか。
「でへへ、これで周囲にキャレイジさんが居ないか神経を尖らず事なく、目一杯楽しめますね!」
 そんな彼と対照的に、ユニコーン着ぐるみを脱ぐ気はさらさらないバンリ。
「……良かった。ハロウィンを楽しむ人達と活気を守る事ができて」
 伊月は、仄かに赤みを帯びる空と街のそこかしこで笑っている南瓜の置物を眺めて、しみじみ呟いた。

作者:質種剰 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年10月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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