●南瓜の珍走団
大阪市内は黒とオレンジのツートンカラーに染まり、すっかりハロウィンの様相を呈していた。
商店街もかき入れ時とばかりにハロウィンセールやキャンペーンを開いている。
「おっちゃーん、飴ちゃんくれー!」
「くれんとめっちゃ悪戯するぞー!!」
「お前らいつもしとるやないか!!もってけ小坊主!」
用意していた黒飴を子供達に配っている、そのとき。
――……ドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!!
砂嵐を巻き上げるほどの猛スピードで走り抜けていく一団。
勢いに飛ばされかける子供達をおっちゃんが抱え込むようにして庇うと、嵐のようにそれは過ぎ去っていった。
「な、なんやねん、あれ……かぼちゃ?」
走り去っていくオレンジ色の荷車をおっちゃんはぽかーんと口を開いたまま見つめる。
「今年もやって参りましたわね、ハロウィンと共にドリームイーターの魔女達も動きだしましたわよ」
オリヴィア・シャゼル(貞淑なヘリオライダー・en0098)は関西方面の状況説明を始めた。
「大阪市内では攻性植物の『南瓜の爆車(ハロウィンキャレイジ)』が大量発生し、市民に被害が出ておりますわ。幸い、死傷者は出ておりませんが、ハロウィンの飾りつけをした商店街、ハロウィンパーティーの会場、仮装行列にめがけて爆走し続けているらしいですわね。南瓜の爆車の総数は不明ですが、推測では100体以上が大阪市内を駆け回っていましてよ」
幸いにも南瓜の爆車は単体で移動しており、一体一体の強さはそれほどでもないようだ。
「大阪市内を警備しつつ、出来るだけ多くの爆車を撃破してくださいませ」
しかし、攻性植物をけしかけるような魔女なんて――あの魔女しかいないはずでは?
疑問符を浮かべるケルベロス達にオリヴィアが答えた。
「南瓜の爆車を放ったのは、パッチワークの魔女に新たに加わった『ヘスぺリデス・アバター』というドリームイーターですわ。カンギ戦士団に加わった『第11の魔女・ヘスぺリデス』の力を受け継いでいる可能性が高く、今回の事件もその力を使ったのではないでしょうか」
この爆走事件は『ハロウィンの魔力を集めること』が目的らしい。
南瓜の爆車達は10月31日の深夜12時に自爆して、集めた魔力を『ヘスぺリデス・アバター』に届けるための集積装置なのだろう。
「この魔力を受け取ろうと『ヘスぺリデス・アバター』も大阪市内に潜伏していると思われますわ。上手く見つけ出せればヘスぺリデス・アバターを撃破できる見込みもあります」
そう言ってオリヴィアは作戦概要を続ける。
「ハロウィンの魔力を集めるのが目的ですから、ハロウィンらしい雰囲気の場所が襲撃される可能性が高いですわ。皆様が移動中に見つけて撃破することも可能です」
幸い『携帯電話での通話も可能』であり、市民からの目撃情報があれば最寄りのチームに随時連絡が入るようになっている。
「ですが、敵も常に移動していますわ。通報を受けてから駆けつけては間に合わない可能性も高いため、通報に頼り過ぎないようにする必要があるでしょう」
市民の協力もあるが、ケルベロス同士で時間差を埋める手立てを用意したほうが良いだろう。
大阪城付近は攻性植物が制圧しているため南瓜の爆車もその周辺には現れないようだ。全ての南瓜の爆車を撃破できれば理想的だが、難しいと判断した場合はヘスぺリデス・アバターを優先したほうが良いだろう。
「ヘスぺリデス・アバターさえ撃破すれば、南瓜の爆車が爆発してもハロウィンの魔力の受取手がなくなり、魔力は四散すると思われますわ。もし少人数で行動すれば、付近の南瓜の爆車が各個撃破しようと動く可能性もありますので、作戦中はチームで行動するようにしてくださいませ」
参加者 | |
---|---|
バーヴェン・ルース(復讐者・e00819) |
流星・清和(汎用箱型決戦兵器・e00984) |
ジゼル・クラウン(ルチルクォーツ・e01651) |
アベル・ウォークライ(ブラックドラゴン・e04735) |
白弾・萠(花星の箱・e20021) |
月詠・雛(姫向日葵・e28553) |
フローラ・スプリングス(小さな花の女神様・e29169) |
桔梗谷・楓(オラトリオの二十一歳児・e35187) |
●午前9時
10月31日当日。
大阪の巨大テーマパークもハロウィン一色、平日にもかかわらずオバケや魔女の衣装で楽しむ人々で溢れ返っていた。
海浜地区に向かったケルベロス達は上空からの奇襲作戦を展開、ツーマンセルで行動を開始する。
「わあっ!高いところから見るととっても綺麗ね!」
月詠・雛(姫向日葵・e28553)に抱えられるフローラ・スプリングス(小さな花の女神様・e29169)は目を輝かせ、雛もパーク内を見下ろす。
今回の相手は南瓜の馬車ならぬ『南瓜の爆車(ハロウィンキャレイジ)』
乗ったが最期の爆弾輸送車なり。
このペアは体格の関係でほぼ確定。致し方ない。
フローラ達の会話はインカムを通して仲間達にも聞こえている。
「――ム。白弾殿、状況は如何か?」
「園内で騒ぎは起きてないね、それとも入る必要がないのかな?」
バーヴェン・ルース(復讐者・e00819)が両手で抱えながら白弾・萠(花星の箱・e20021)に哨戒情報を伝える。
テーマパークはケルベロスも警戒するだろうと判断したのか、園内に爆車の姿はないようだ。
このペアは一番大柄な二人で合わせている。致し方ない。
「園外を警戒すべきか。アベル、移動を頼む」
「任せよ――清和、そちらはどうだ?」
ジゼル・クラウン(ルチルクォーツ・e01651)の要請で飛翔するアベル・ウォークライ(ブラックドラゴン・e04735)は外周に向けてゆっくり旋回する。
先制を狙うなら主力が組むのも致し方ない。――で、その結果。
「おっちゃんも以下同文ですー、外側調べにいこか」
「っておい!なんでこのペアなのか納得できねぇんだけど!?」
すべすべメタルボディの流星・清和(汎用箱型決戦兵器・e00984)を抱える桔梗谷・楓(オラトリオの二十一歳児・e35187)の嘆きが無線に響き渡る。内線モードでよかったね!
「楓君、小柄で抱えやすい子が良いって言うてたしー。ジゼル君は僕より背ぇあるから」
「もう! あんまり失礼なこと言うとお姉さんに報告ですよ?」
困り顔の清和と雛の通信に楓、ぐうの音も出ず。
間隔を保ちながら園外へ移動していくと、普通車道ではあり得ない速度の機影を萠が捉える。
「居た!」
萠の一言でバーヴェンとアベルが回り込むように車道へ急降下する。
「西瓜割りならぬ、南瓜割りか。景気よく爆ぜるがいい」
ジゼルの着地と同時に放たれるミサイル群。スリップする爆車めがけてアベルが脆くなった外装を瞬時に見抜く。
「……止まれ!」
大鎌で割かれた爆車が爆ぜると、次なる爆車が桜島駅方面へ向かっていく。
「彦星と援護するよ、このまま降ろして」
着地した萠はビハインドの彦星と共に車輪を蹴り抜き、地獄を纏うバーヴェンが一刀で両断する連携で着実に片付けていく。
「猪突猛進というやつか、上空は警戒していなかったようだ」
爆車がジゼル達に反応しきれていない。
前しか見ていないのであれば、頭上は死角になっていてもおかしくはないだろう。
「それじゃ、おっちゃん達も支援に……ってもうちょい丁寧に落としてぇぇぇっ!?」
楓にぶん投げられた清和だがきりもみしながら3回転にひねりを加えて華麗に着地! これには市民も納得の10点満点☆
滑走する爆車の行列へスラスターを噴き上げる清和が隊列を掻き乱していく。
助太刀すべく雛達も行列へ突進をかけた。
「行きますよフローラちゃん!」
「ええ、ふーくんも突撃よー!」
足並みの乱れる爆車にボクスドラゴンのふーくんが箱ごとタックルすれば、フローラも小さな体をバネにしてフットスタンプを叩きこむ。
地面を歪ませる一撃から、雛の凍結弾が眉間を撃ち抜き、爆車はあえなく爆散する。
「レディに傷つけてんじゃねーぞドテかぼちゃァ!!」
市民達が避難する中、街中の装飾を引きずり回す爆車の追加効果を警戒して楓が雷霆の障壁でフローラ達を囲う。
――テーマパーク近郊の海浜地区は工業地帯が集中していた。
大型のイベント会場もハロウィン当日は使用されていなかったためか、爆車の数は想定より少なかった。
●午前11時
『水族館の周りにごっついのが走り回っとるんやけど!!』
再び飛行しながら大阪港方面に向かうバーヴェン達のもとに市民からの連絡が飛んできた。
「先ほどと同様、着陸と同時に仕掛けるか」
「大阪港には文化館やミュージアムもあるのね、ぐるっと一周したほうが早いかしら」
ジゼルの提案にフローラが端末でマップサイトを確認し、水族館周辺を駆けていくキャレイジ達の下へ急行する。
「せっかくのお祭りだもの、盛り上げていかないと――みんなぁ!ハロウィン楽しんでるー!?」
大観覧車近くに降り立つとデートに来たであろうカップル達に向け、フローラはフェスティバルオーラを放つ。
歓声をあげて熱狂する雰囲気につられたのか、周回していた爆車達が続々と姿を現した。
「動作を阻害する、Cumulonimbus……起動」
雷雲を帯びたHexentanzplatzを、ジゼルが激突と同時に柄の先をぶつけて爆雷が迸る。
市民が避難する間に清和がオウガ粒子を放ち、バーヴェンとアベルも景気よく爆車を叩きあげていく。
「お祭りなら、派手にいかないとね?」
「雛もバンバン行きます!」
萠の速射が、雛の放つドラゴンの幻影が上空に放たれる。命中すると『パコーン!』と軽快な音を立てて続々と消えていく。
「ほいほい、そこのけそこのけー!」
清和が牽制のミサイル弾を放つと爆車達は直撃を避けながら、ドリフトして彦星にぶちかます。
ゴミ箱やベンチを放つ動きが鈍った。それに楓が気付き懐から薬瓶を取り出す。
「あいつら攻撃の邪魔してくるぞ、気ぃつけろよ!」
放り投げた薬液は小雨となり、動揺する仲間達の手元に落ち着きが戻る。
キャレイジを相手しながら水族館に向けて走り抜けていく。
途中で現れる爆車の数も少なく一息に押し潰せることが幸いだった。
「――ム。この地区にはあまり集まっていないように感じるな」
こめかみを小突くバーヴェンは爆車の数が少ないことに首を傾げた。
萠達のいるベイエリアは開発地域が多い。住民がいないことはないが、観光客は必然的に少なくなるからだろう。
「それでも30体近くは潰した、1体残らず潰すなら私達の働きも無駄ではない」
「だな。次はなんとかミュージアムだっけ? つまんなそうなとこだよなぁ」
アベルの言葉に同意する楓だがデートスポットにもならなさそうだと興味がない様子。やる気を大幅に削がれたものの、
「……クラシックカーの博物館か、雰囲気もコンセプトも私好みだ」
「よし行くぞ!ミュージアム救うぞ!!」
アンティーク好きなジゼルの一言で超光速手の平返し。怪気炎を上げる楓が先導するように走りだす。
文化館から大阪港駅を経由してミュージアムへ。
駅前はハロウィンで盛り上がるスーパーが点在するためか、南瓜の爆車の姿がいくつか見受けられた。
「慈悲はなく、毒の呪いを受けるがいい」
萠の腕には呪いの文字を描く錬気。絡みつく一節は獲物を捕らえると、蛇のように胴体を締め上げていく。ミシミシ、軋むオレンジの爆弾にアベルが断罪の大鎌を振り下ろす。
「人々の特別な日を、貴様らに台無しにされてたまるか!」
蒸しあがった南瓜よりも鮮やかに切り分けられた爆車は敢え無く轟沈、ミュージアム周辺の爆車も難なく解体されていった。
●午後2時
目標エリアでの掃討が済むと、バーヴェン達は南下して南港北エリアへの警戒にあたった。
イベントホールや大小の駅、ハロウィンを楽しみにしている小中高校生も多い。
雛達は市民の厚意でいくつかお菓子を分けてもらい、少し遅めの昼食をとっていた。
「お仕事が終わったら雛もパーティ参加したいなぁ……」
せっかくのハロウィン、年端もいかぬ少女が遊びたいと思うのは当然だろう。南瓜の蒸しパンに雛は満足そうに頬を膨らませる。
小腹も満たされたところで清和のアイズフォンに通信が入った。
「ケルベロス急便でーす……ほい。コスモスクエア駅やな、特急便でいきますー」
「他のチームも滞りなく進んでいるみたいだよ、僕たちも負けずに頑張ろうね」
萠も他チームの状況を確認し、目的地は決まった――小休止を終えて行動を再開する。
駅前で大立ち回りする爆車を発見し、ジゼルが放つミサイルの嵐と清和の超加速突撃が先手を打つ。
爆風から飛び出してきたキャレイジめがけてバーヴェンが刺突の構えで待ち受ける。
「直線的な軌道ならば、」
無空を絶つ一閃が走り、
「真正面から迎え撃つのみ!」
獄炎と竜の息吹を融合させた、アベルの強力な高熱線が爆車を確実に射止めていく。
「さっき確認したらニュートラム沿いにイベントホールや公園があったよ、線路に沿って移動したら早いと思う」
「いいわ、フローラも萠の意見に賛成! みんなも線路沿いから離れてねー!」
市民達に呼びかけながら楓達はニュートラム沿いを走りだす。トレードセンター前を通過するとイベントホールの密集するエリアに突入すると、再び爆車が列をなして現れた。
「雛のとっておきですよ、トリック・オア・トリートです!」
ハロウィン仕様の掛け声で引き金を何度も引き、オレンジの車体部分に容赦なく風穴を開く。
ブレーキをかけることなく前衛に急旋回しながら突撃、さらに頭上からもう一台の爆車がフローラの頭上に飛び込む。
「数が増えてきやがったな!?」
「ここが正念場ということだ、一機残らず撃滅する!」
すでに70体近くを撃破しているが、いまだ終わりが見えてこない。
アベルの言葉に防護壁を張り続けていた楓も支援に本腰をいれようと、一度攻撃の手を加える。
「親玉はドリームイーターだったな……それらしく、夢幻(ゆめまぼろし)と踊ってろ!」
ロッドから放たれるシャボンのような魔法弾はキャレイジ達の間で破裂する。かぐわしい花の香りに惑うように、一部の爆車達はあらぬ方向へ滑走し始めた。
フローラもこの隙に支援の手を加えていく。
「風さん、お花の香りをみんなに届けて!」
甘やかな香りはバーヴェンの下へ。連戦で疲弊していた精神に僅かな安らぎと強大な力を齎す。
「ほいじゃ、おっちゃんもひとつと言わず3つほど。補助ユニット射出――」
複数の補助ユニットが展開し、清和の頭上に並ぶ様相は進軍中の大艦隊を彷彿とさせた。
「ユニットパーツリビルド……パーツドッキング開始! 本日はハロウィン仕様でお送りしますー!」
追いかけるジゼル達の武装を補助ユニットが適切な形状で合体。公園まで疾走しながらトラウマ相手に暴れるキャレイジを、すれ違いざまにジゼルは鋭利な大鎌で両断する。
「これで12体、撃破。あと1体」
重厚感の増した鉄塊剣をバーヴェンが満足げに握り直す。
どうやらトラウマから脱したらしい爆車は、キュラキュラと車輪を鳴らしながら疾駆する。流れ弾にもいくつか被弾していたこともあり、大した速度ではない。
己の一刀に全神経、全力を注ぎ込み立ち合えば――これ即ち、二の太刀要らず。
鈍重な一刀は圧殺する勢いで鮮明な剣筋を爆車に描く。
「せめて祈ろう。汝の魂に幸いあれ……」
キュラキュラキュラ……ゆっくり車輪を回す爆車は崩れるように両側へ別れ、汚泥となって姿を消した。
●午後4時30分
住之江区で警戒を続けていたアベル達は、通天閣でヘスぺリデス・アバターが撃破された報を受けた。
魔女の目論見を阻止できたことに安堵の空気が広がる。
「思ったより早く終わって良かったね、彦星もお疲れ様」
萠の労いに彦星も小さく頷くと、フローラが「提案!」と元気よく手を挙げる。
「ふふ、無事解決したし、ハロウィンを楽しみましょ! トリックオアトリート!」
「雛もパーティ行きたいです!楓君、いいですか?」
「良いに決まってんだろ、スイーツ盛り合わせもあるからな!」
小さなレディの頼みを楓が断るはずもない。むしろレディからのお誘い! これを受けずしてなにが男だ!!(力説)
「――ム。そういえば菓子は用意していなかったな」
「……私も用意していなかったので悪戯されてしまうのか」
真面目なドラゴニアン二人はどうしたものかと唸り始めるが、ハロウィンの夜はまだ始まったばかり。
「おっちゃんも飴ちゃん買ってきますかねー」
「……ウエハースはお菓子に入るだろうか」
ちゃっかり清和とジゼルは最寄りのお菓子屋さんを探し始めていた。
さあさあ夜はゴーストたちの遊ぶ時間。可愛いおばけが来る前に、急いでお菓子を用意しよう。
――トリック・オア・トリート!
作者:木乃 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年10月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 4
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