●はじまり、まじまり!
「見て、こんな可愛いキャンディ貰っちゃった!」
「私はこのリボン、オマケしてもらったよ」
大小様々なジャック・オー・ランタンとヴィランズの人形たちが彩る街の片隅。魔女の衣装に身を包んだ少女と、派手な囚人に扮した少女が黄色い声を上げている。
大通りに面しているのではなく、ノスタルジックな雰囲気が漂う商店街は、まさにハロウィン一色。少女たちの他にも、期間限定のお祭り気分を味わおうと、多様な仮装に身を包んだ人々が橙色の光が点る路地を笑顔で行き交う。
そして、そんな様子を窺う怪しげな影が、ひとつ、ふたつ……数えて、五つ。
「やっと、やっと! ハロウィンの季節!」
中でも張り切っているのは、緑の髪をした魔女姿の少女――ではなく。正真正銘の、魔女。緑の未熟魔女・アネモスだった。
「もう、未熟なんて言わせない! 『王子様』から貰ったこのチャンス、ぜーったい掴んでみせるんだよ!」
大きな青い瞳を煌かせ、箒に跨ったアネモスは引き連れたキョンシー姿の屍隷兵たちに言い付ける。
「さぁ、パンプキンキョンシー達! あの賑やかな所を襲撃して頂戴っ。あの中に、ハロウィンの魔女がいる気がするの。びびっと来たのよ。あ、でもっ。手加減はしなくていいよ。あんた達に負けるようなら、あたしが探す魔女じゃないからね!」
今日のアモネスは絶好調。これなら、他の二色の魔女との競争にだって打ち勝って、ハロウィンの魔女の力を奪い超越の魔女になれる気がする!
「いーい? ハロウィンの魔女が現れたら、すぐに私が応援に行くから! それまでは絶対に逃がしちゃ駄目だよ!」
●ウィッチ・ハント
ハロウィンの力を求め、ドリームイーターの魔女が動き出したらしい。
そうリザベッタ・オーバーロード(ヘリオライダー・en0064)が切り出したのは、街が南瓜とヴィランズで色付く時節。
困ったように、けれど何処か楽しそうな気配も漂わせ、「皆さんに解決を依頼したいのは、赤、青、緑の三人の魔女のが起こす事件です」と、少年紳士はケルベロス達に助力を請う。
「三色の魔女たちは、ハロウィンの力を持つ魔女を探し出し、その力を奪うのを目的にしています」
魔女たちの作戦はというと。
量産しておいた屍隷兵、パンプキンキョンシーを使い、ハロウィンを楽しむ人々を襲撃するというもの。どうやらハロウィンの賑わいを襲うことで、目的の魔女が出現すると考えているらしい。
「ハロウィンの力を持つ魔女、というものがどういったものなのかは不明です。ですが、襲われる人々を放置するわけにはいきませんよね」
かくしてリザベッタが告げるのは、ハロウィンの魔女なりきり大作戦。
何せ敵の目的は『魔女を探し出す』こと。ならば、屍隷兵が現れる場へ赴き、自分達がそうであると思わせればいい。
尊大で立派な魔女さまと、弟子たち。恐るべき力は秘めているけれどまだまだ未熟な魔女と、教育係。はたまた競い合う複数の魔女やら。想像を膨らませれば、湧き出すアイディアは数限りないに違いない。
「要は此方を『目的の魔女』だと思い込ませる事です。そうすればパンプキンキョンシー達は一般の方々には見向きもせずに、皆さんだけを襲ってくるでしょうから!」
色々思い描いて心が弾んだのか、常よりテンションを上げたリザベッタは少しばかり早口で語り続ける。
見事、思い込ませるのに成功したら。戦いの様子を見に来た三色の魔女が力を奪いに現れる、なんて可能性があることも!
「そうなった時には是非、そちらの魔女の撃破もお願いします。えぇ、と。ここだと出現可能性があるのは緑の魔女ですね」
そうして説明されるのは、小ぢんまりとした店舗が軒を連ねる商店街。
一帯は丸ごとハロウィンの飾りつけがされ、仮装して訪れた客には特典が受けられるというセールを実施中なのだとか。
そこへ四体のパンプキンキョンシーが登場するのは、30日の夜。雑多な界隈をオレンジ色の光が鮮やかに浮かび上がらせる頃だ。
「パンプキンキョンシー達は、飛びついて攻撃してきたり、噛み付いて此方の命を吸い上げたり……あ、お札で隠している顔から謎の怪光線を発射したりもしますね」
一体一体はさほど強い相手ではないが油断は厳禁ですよと付け足して、リザベッタはキラキラ笑う。
「折角のハロウィンです。楽しんだ者勝ちですよ。皆さんも存分に状況を楽しんで、その上でばしっと勝利して来て下さいね」
参加者 | |
---|---|
泉本・メイ(待宵の花・e00954) |
奏真・一十(寒雷堂堂・e03433) |
天見・氷翠(哀歌・e04081) |
佐久間・凪(無痛・e05817) |
久遠・征夫(意地と鉄火の喧嘩囃子・e07214) |
アラタ・ユージーン(一雫の愛・e11331) |
筐・恭志郎(白鞘・e19690) |
井関・十蔵(羅刹・e22748) |
●ウィッチ・パーティー
「っきゃ」
「何!?」
突然、商店街の全ての明かりが落ちた。驚きと戸惑いに見舞われた買い物客は、直後に響いた雷鳴のようなしゃがれ声に竦み上がる。
「さあヒヨッコ共、アタシのためにとっておきのハロウィンを準備するんだよ!」
人々は何が起きているのか理解ぬまま。されど異変はこれで終わりに非ず。
「よき夜、よき賑わい……大いに結構! みな楽しめ」
不意に煙が立ち込めた。その中より、裾の長いローブを纏い、黒と橙で装飾された匣を抱えた魔法使いが現れれば、人々の不安は募る一方。
「その高まりこそジュゾーさまの魔力の源に……あれ?」
しかし仰々しさから一転。コミカルな仕草で匣の中を覗く魔法使いに、観衆もことりと首を傾げる。
「サキミは?」
空っぽになっていた匣の中身を探す魔法使いにつられ、人々も暗闇をきょろきょろ。すると驚く事に、ぺたぺたと光の足跡が現れた。それを追った先には――。
「ふふふ、ハロウィンといったら南瓜料理は欠かせませんね! 頑張って作りますよ……って、この小動物は何ですか!」
何と謎の巨大窯をくつくつ煮立てる若い魔女が! 彼女は鍋に飛び込もうとしたふかふかの寝床が似合いそうな小動物の首根っこを掴むと、ずいっと魔法使いへ突き出す。
「気を付けて下さい! 一緒に煮込んでしまう所だったじゃないですか。ね、ガルム」
仄蒼く光る書物を反対の手に持った魔女は、魔法使いを叱責。きっと序列は魔女の方が上なのだ。でも魔女が同意を求めた小さき氷の竜は、微妙に嫌そうな顔。どうやら魔女が持つ本を嫌いなよう。
ともあれ、魔法使いは『サキミ』を見つけて一安心。知らず人々も、ほっと安堵。
でも、本当の『驚き』はここから。
どこからともなく弾む旋律が流れ始め、ぱっ、ぱっ、ぱっとスポットライトが交錯したかと思うと、空からは星の欠片が降って来たのだ!
「すごーい」
「綺麗……」
人々はうっとりと感嘆に酔う――が、それもすぐさま次なる驚嘆へ移ろう。
「邪魔なのだー!」
「お邪魔なのですー!」
表情を描かれた花が踊る道から、颯爽と現れた魔女っ子二人。彼女らは老若男女の「わぁ!」とか「可愛い」という歓声を一心に浴びてハイタッチ。
「はい、注目!」
帽子にピンクと青、黄の星を飾り、肩に翼のある猫を乗せた魔女っ子が笑う時には、買い物客らの顔も満面の笑顔に。
「私達はミニミニウィッチーズ!」
待宵花の飾りがついた帽子を被った魔女っ子のジャンプに合わせ、人々の鼓動も跳ねる。
「ようこそ、楽しいハロウィン魔女のパーティーへ! 皆に夢とお菓子を届けに来たぞ!」
「来たよ!」
プリズム煌くユニゾンに、商店街はハロウィンの魔法にかかった。
●シークレット?
地上で繰り広げられるショーの賑わいぶりをにこにこ見守っていた筐・恭志郎(白鞘・e19690)は、自分を抱えて飛ぶ久遠・征夫(意地と鉄火の喧嘩囃子・e07214)の視線に気付く。
――どうかしました?
友人であり戦友である恭志郎の視線の問いに、征夫は夜に紛れる竜翼で宙を掻いて緩く首を振る。
こと屍隷兵が絡む仕事では気を張る事が多い恭志郎が、楽しそうにしていた事に安心していた等と、わざわざ本人へ言って聞かせる必要はあるまい。
ただ、準備に万端を期した甲斐はあったとは思う。
つまり、だ。現在進行形の魔女たちの宴のあれこれは、裏方な征夫や恭志郎、そして天見・氷翠(哀歌・e04081)の働きがあってこそ。
恭志郎が隣人力と好青年ぶりを発揮して商店街の店主らに掛け合う間、征夫はミニスピーカーやら超小型のスモークマシンを仕込み。氷翠は音響や照明機材の使用方法を確認して。
いざ始まれば、サキミの光る足跡を演出するランプをタイミングよく点灯したり等々、てんやわんや。いっそ疑問な程の手馴れ具合に征夫なぞは『武者修行時代に一時期サーカスに同行していなので』と嘘とも本当ともつかぬ事を嘯いていたが。
いずれにせよ、努力は見事に結実し地上は大盛況。
魔法使いを演じる奏真・一十(寒雷堂堂・e03433)に、南瓜スープ鍋の魔女の佐久間・凪(無痛・e05817)。ミニミニウィッチーズの星帽子なアラタ・ユージーン(一雫の愛・e11331)に、花帽子の泉本・メイ(待宵の花・e00954)が買い物客らの歓声を浴び。最初の一声をばっちり決め、後はどっしり弟子達を眺める風情の老魔女ジュゾーこと、井関・十蔵(羅刹・e22748)も、侍風のシャーマンズゴーストを従え、普段は高く結い上げた白髪をばらりと降ろし、実際は爺ながら何処かで悪さしつつも人情に篤い大魔女になりきっている。
(「……でも」)
そんな中、地上のワクワクとは裏腹に氷翠の胸裡はおろおろ。何故ならこの後を考え、氷翠は髪に咲く雪柳を仕舞い、光輪や白い瀟洒なローブで『絵物語』の天使を装っているから。
(「翼繋がりで選んだけど……畏れ多くて……」)
されど氷翠の居た堪れなさは、余り長くは続かなかった。
(「――」)
察した異変に、上空から一帯を見渡す三人は無言で頷き合い。征夫はピエロ衣装に袖を通し、恭志郎はパンプキンヘッドを被る。彼ら彼女の眼は、四体の敵を捉えていた。
はらり、はらり。
氷翠が降らせた白い花吹雪は、屍隷兵到来の合図。即座にメイが謎の呪文を唱え始めると、凪は観客へ伏線を敷く。
「ふふふ……召喚魔術ってやつですね! さすがです!」
そこから先は、まさに流れるが如く。
「って、きゃー! 変なの呼び出しちゃったー!」
「お前たち、何やってんだい!」
輪と和を乱す四体の闖入者にメイが慌て。それを十蔵が一喝すると、観客たちは襲い掛かってきたパンプキンキョンシーもショーの演出であると思い込む。
「人々よ、少し離れてくれ。大魔法で目が眩むやも知れんぞ!」
一十の警告に、人々は素直に演者達を囲う輪を広げる。
「仕方ない、ここはアタシの出番だね――そぉら、よっと!」
気合と共に十蔵は加護と致しを齎す菊の花弁の嵐を巻き起こす。収まる頃には、まるで大魔女に召喚されたように恭志郎と征夫、氷翠も戦列の内へ。
「よぉし、いじめっこキョンシーから皆を守るぞ!」
愛嬌たっぷりのアラタのウィンクに、人々は口々に声援を飛ばす。
「はじめよう。君の為の膳立てだ」
一十が一つ決めたフィンガー・スナップは、パンプキンキョンシー達へ真っ先に駆け出すケルベロス達の闘志に火を点けると同時に、何とも愉快で心弾む戦場を完成させた。
●アネモス・ハント!
「そこだ、いっけー!」
顔をぺかーっと輝かせたパンプキンキョンシーは、即座に凪の拳に返り討ちに合い。
「今だよっ」
ぴょんぴょん跳ねた一体は、アラタの翼猫『先生』に足元を掬われた処にサキミのタックルを受けて転がった。
観客のエールを味方につけた戦いは、無数の瞳があるに等しく。文字通り、見る間に片が付いた。これほど『楽しい』に溢れた戦場はそう多くあるまい。そしてそれは、最高の撒き餌と化す。
「ここに居たのね!」
新たに降って湧いた声に、人々の視線は上空に集中する。其処に居たのは緑の髪をした少女。無論、ただの少女ではない。三色の魔女の一人、緑の未熟魔女・アネモスだった。
「っ!」
求めた親玉の登場に、瞬間、ケルベロス達は気色ばむ――が。
「で、誰がハロウィンの魔女? そこの私みたいに可愛い二人のどっちか? それとも……」
「アタシがハロウィンの魔女さ! 文句でもあるのかい!?」
箒に跨り滑空してきたアネモスの問いを、十蔵は問答無用で叩き落す。
「やっぱり! 私だって最初からそう思ってたんだからねっ」
――どうやらアネモス、名前通りの未熟魔女らしい。
「お前たち、いつまで遊んでいるんだいっ!」
「うわぁーっ、ごめんなさ~い!」
ぱちん、ぱちん。余裕あらば観客へウィンクアピールを忘れないアラタは、十蔵に叱られメイに駆け寄る。
「ううー。大魔女ジュゾー様に怒られたのだ」
「アラタちゃん、こういう時は一緒に頑張ろう?」
ね? とメイが咲かせた大輪の笑みは、ミニミニウィッチーズのスイッチをオン。
「よぉーし、行くのだー!」
「うん! 一緒に風を捕まえよう。ほら、飛べるよ!」
メイに背中を押されたアラタは兎の形をとりたがる攻性植物を捕食モードへ転じさせアネモスへ迫り、メイはアラタの背を追い思い出の結晶たる模型飛行機で風を生んで敵を翻弄する。
「っくぅ、私も負けないんだよ!」
言葉通り、懸命に踏ん張り耐えたアネモスは従えるコロポックルを十蔵めがけて嗾けた。
「お願い、ガルム!」
けれど凪の箱竜が盾の役目を果たす方が早い。
「生憎と、易い相手ではないのだ。ハロウィンの魔女とその弟子たちであるからな」
「偉そうに言ってないで、アンタも仕事しなっ!」
折角の蘊蓄に十蔵から怒号を飛ばされる一十。だが既知たる相手故、戯れと知る一十には演じる余裕が余りある。
「仰せの侭に、大魔女よ。ならば手塩にかけた魔性の花で――」
「御託はいいから、さっさとやんな!」
またしてもどやされ、一十は手元の花束より蔓を伸ばして敵を縛め。身動きを封じた隙にサキミがガルムへ水の属性を注ぐ。
アネモスは決して弱い相手ではなかった。しかし元より連戦を視野に入れていたケルベロス達は盤石。しかもハロウィンの魔女一味を演じ続ける事で気を惹き、自らが包囲されているのをアネモスに悟らせもしない。そして何より、ショーだと信じ続ける人々の快哉が、大いなる力となっていた。
解けぬハロウィンの魔法に、笑顔の輪が広がり続ける。しかし、氷翠だけは憂い顔。誰よりも心を拾う女は思うのだ、果たしてあの屍隷兵たちに救いはあったのか、と。この魔女の末路は哀れではないのかと。
――けれど。
「天見さん、大丈夫?」
並び立つ恭志郎に気遣われ、氷翠は一度瞼を落とし、再び世界を捉えて前を向く。
「ありがとう、平気だよ――戦いを嘆き、咲くは氷の華……繋ぐ眠りは、安らかに……」
夜を眩く彩る橙色の光に白い衣を染めて、氷翠は涙の如き水滴を幾多も出現させる。散らさねばならぬ命なら、せめて安らかに。祈りは氷の華となってアネモスを縛め砕けた。
美しい光景に、見守る人らの口から感嘆と歓声が零れる。その明るさは、救い。守る筈の人々に護られる心地に、恭志郎の口元が緩む。
「なんか……ちょっと面白くなって来ちゃった」
くすりと笑うと、恭志郎はパンプキンヘッドを物ともせずに我が身に陽炎の煌きを宿す。
「じゃあもっと楽しんで下さい!」
征夫の一言に、恭志郎は戦場を駆けた。至る踏み込みは疾く、燈火の斬撃は的確にデウスエクスを捕らえる。そこへ征夫は竜翼をひらめかせ流星と化し、アネモスの動きを幾重にも縛めた。
「ふふっ。でしたら私、大鍋の魔女も! ……いきますっ! 世界の『痛み』よ、牙を剥け!!」
魔女と言い乍ら、凪が繰り出すのは彼女の強靭かつしなやかな足が可能とさせる技。放つ蹴りの一閃は烈風となり、可愛らしい魔女服を切り裂く。
「ひどーい! ボロボロになっちゃったよ」
「はんっ。今のアンタにゃお似合いさ!」
傍らのシャーマンズゴースト、竹光にも回復の支援をさせつつ、十蔵は完全に大魔女になりきってアネモスを嘲笑する。
ハッタリにサプライズ、人を騙すのが大好物な彼にとって今宵は最高のご褒美だった!
「クライマックス。いっくぞー!」
「まじかるまじかる、ぷりてぃ、うぃっちーず☆」
アラタとメイ、向かい合って手を取りあった――かと思うと、きらーんとプリンセスモードで大変身。
「派手に行くのだ!」
「みんな、応援よろしくね♪」
まさに魔女っ子。ふわふわからキラキラに転じた二人に、観客の興奮も最高潮。完全にペースを持っていかれたアネモスはむぅと唇を尖らせる。挙句に仲間達の猛攻を経た後にアラタが射出したミサイルの直撃を受けて、ばたんきゅう。
「せっかく王子様から貰ったチャンスだったのに! さっさと力を寄越してよー!」
最早ただの癇癪。けれどピンと来たキーワードに、メイはリスのグラちゃんをしゅぽーんと投じながら訊ねた。
「ねぇ、王子様ってどんな人?」
「痛っ! えっと、それは――って、言う訳ないのっ」
パンプキンキョンシー達を圧倒したように、アネモスとの戦いも周囲から喝采が鳴り響き続けるくらいに、終始ケルベロス側の超優勢。
一矢報いようとして射掛けた風の矢もガルムに弾かれ、いつも以上に笑顔を耀かせる凪に荊が尾を引く流星の蹴りを見舞われてしまえば、未熟な魔女は立ち上がる気力さえ奪われてしまう。
「うう、ううっ。赤や青を出し抜いて、超越の魔女になるんだったのにっ、にっ!」
「アンタごときじゃ、端から無理な話だったって事だよ」
せめて退路をと視線を地面に這わせたアネモスは、ひたりと耳に圧をかける声に顔を上げた。
「……え?」
瞠られる青瞳に、ぽかんと開いた口。理由は一つ。そこにさっきまでは戦場にいなかった筈の美魔女――というか、凛とした青年っぽい魔女がいたから。
「おお、観衆よご覧あれ! 我らがジュゾーさまのご勇姿を!!」
「えぇええ!?」
アネモスは気付いていなかった。ミニミニウィッチーズが途中で衣装変えしたように、十蔵がわざわざ一拍おいてエイティーンを使用していたことに。つまり、美魔女っぽいのは十蔵。
「詐欺だよっ」
「えぇい、五月蠅い子だね。アタシに立てつこうとしたのが間違いだったってことさ!」
嵌める指輪を一撫で、魔女らしい仕草で光剣を編み出した十蔵は未熟な魔女へ駆ける。
「確かに服は同じぃい――」
「だまらっしゃい!」
冴えた一閃はハロウィンの魔女を名乗るに相応しく。モザイクに溶け逝くアネモスは、謀られていた事には最期まで気付かなかったかもしれない。
●トリート&トリート
「それでは皆様、素敵はハロウィンを!」
これにてショーは終い。恭志郎が南瓜頭を下げると、拍手の渦が巻き起こった。
「さぁ、お土産も持って帰って下さい」
ピエロな征夫がキャンディバズーカーを撃つのを皮切りに、凪もアラタもカーテンコールに応えて飴の雨を降らす。
「ハッピーハロウィン!」
「ほらほら、一つ残らず持っていきな!」
へっぽこ魔法使い一十と大魔女ジュゾーコンビは、何故か女子高生らに人気を博しながら菓子を配る。その賑やかさを背に、氷翠は祈った。
(「ゆっくり、眠ってね……」)
でも悲哀の尾は、白いローブの袖を引かれたことで少し薄れる。
「天使様、お菓子ちょうだい?」
「あ、はいっ」
母親に連れられた女の子に催促され、氷翠も思い出したように仕舞っていた菓子を手渡し。
収まらぬ余韻に、商店街はいつまでも賑わい。ミニミニウィッチーズとして同年代の少女らに囲まれながら、メイはジャック・オ・ランタンを見てふと思う。
――王子様、私もそのうち会えるかな?
作者:七凪臣 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年10月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 6/キャラが大事にされていた 3
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