歪む紅月

作者:志羽

●歪む紅月
 阿守・真尋(アンビギュアス・e03410)はワイルドスペースの調査の為に廃ビルへと足を踏み入れた。それは不良たちがたむろするような、さびれた場所。
 崩れたコンクリートの壁、むき出しの配管。落書きなどもあり人が訪れているような気配は、多少ある。
 その中を進むうちに真尋が見つけたのは――モザイクの塊。
 部屋一つ分を占拠するような、そんなモザイクだった。
「やっぱり、あったわね」
 縁は続くというのか、先日モザイクの中へと仲間を助ける為に踏み入ったばかり。
 外からではなにも解らず、やはり足を踏み入れるしかないようだ。
 モザイクの中へ踏み入れば、元になったと思われる部屋がばらばらに組み上がっていた。むき出しの配管は変な方向に突き刺さり、窓も足元にあるような、そんな奇怪な場所。
 そしてまとわりつくような、粘性のものを感じる。
「雰囲気は同じ……けれど」
 周囲を見回した真尋は、一か所に視線を止めた。そこに人影があったからだ。
 主は違うものと紡いで、真尋が笑いかける先――そこで紅色の唇の女も、嗤う。
 細身の身に漆黒を纏う中で唇と爪は紅の色彩持ち目を引く。その女の姿は真尋が我失い力に飲まれたならば為る姿。
 その姿を真尋は見詰め、笑み向けた。すると女もにこりと、妖艶に笑み返す。
「あら、来てしまいましたのね。そう、来てしまったの……ということは、あなたこの姿に縁あるものなのね?」
 なんて不運、と女は紡ぎその爪で唇を撫でる。しゃらりと鳴るのはその手に纏う鎖の音。鈍く光るのは、右手とともにある三本の刃。
「今、この場所の秘密を漏らすわけにはいかないの。言ってる意味は、おわかりかしら?」
「うん。そうね……今までの流れから言うと、死んでもらう、というところ?」
 真尋は笑む。他の仲間達も出会って戦う道しかないのだからこの、自身の姿をしたものも、そうであるはずと。
 すると、満足げに口の端上げて女は頷いて。
「そう、その通り――死んで」
 女は唄う様に、軽やかに紡いで真尋へと襲い掛かった。

●救援
 ワイルドハントについて調査していた人がドリームイータ―の襲撃を受けたようだと、夜浪・イチ(蘇芳のヘリオライダー・en0047)は集ったケルベロス達へと告げた。
「襲撃を受けたのは――阿守・真尋さん」
 ついこの前、同じような事件の時に手を借りたばかりで、助けに行ってほしいのだとイチは続ける。
 そのドリームイータ―は自らをワイルドハントと名乗っており、『事件の場所』をモザイクで覆って、その内部で何らかの作戦を行っているようなのだ。
 このままでは真尋は危険に見舞われる。そこで近くまで送るのですぐ向かってほしいという事なのだ。
 戦いの場所となるのは、廃ビル内にあるモザイクの内側で。そのモザイクは入ってすぐわかる為、探す必要はないとイチは言う。
 また、その内部は特殊な空間ではあるが、戦闘に支障はない。
「相手となるドリームイータ―は……真尋さん。ごめん、そうとしか言いようがない。けど、雰囲気は全然違うから相手を間違えるなんてことは絶対ないよ」
 敵の攻撃は、その右手にある三本の刃並ぶ爪での攻撃。紅色の花弁による攻撃と、その花弁でもって自らを回復するというものらしい。
「すぐさま真尋さんがやられちゃう、なんてことは無いと思うけど急ぐに越したことはないから」
 乗って、とイチはケルベロス達をヘリオンへと誘う。
 まずはそこへ向かわねば、何も始まらないのだから。仲間を助けるべく、一向は現場へと急ぎ向かう。


参加者
リシティア・ローランド(異界図書館・e00054)
疎影・ヒコ(吉兆の百花魁・e00998)
リラ・シュテルン(星屑の囁き・e01169)
柊・乙女(春泥・e03350)
阿守・真尋(アンビギュアス・e03410)
篠宮・マコ(夢現・e06347)
未野・メリノ(めぇめぇめぇ・e07445)
ルリカ・ラディウス(破嬢・e11150)

■リプレイ

●それは歪み
 向かい合うのは、己の姿でもある。
 死んで、と紡いだ夢喰はその銀の爪を振り下ろした。振り払ったその爪先には赤い色。
 それは阿守・真尋(アンビギュアス・e03410)の血だ。
 痛みに一瞬、真尋が眉顰めると夢喰は妖艶な笑みをたたえ、長い爪をぺろりと舐める。
 その姿に抱くのは、決して好意的なものではない。心にある想いを、真尋はそのまま零す。
「……私は貴方のようには、決してならないわ」
 その姿は、自分が至らず、仲間を守れず。そういった絶望の末に向かう姿だと真尋は思っている。
 常に仲間を守り、癒し。そこに重きを置く真尋であればするりと受け入れられる姿ではない。
 真尋の言葉に、そうと笑う夢喰。歪な笑みは自分が浮かべるものとは思えないものだった。
「この場所で、その姿で何を企んでいるかは知らないけれど……聞いても応えなさそうな事だしね」
 何を問うても、きっと明確な答えはないのだろうと真尋は思う。
 ただ確かな事は、出会ってしまって。そしてこのまま、何事もなく別れる事が決してできない事。
「どちらにせよその姿で居座り続けるのなら、不愉快だから」
 例え一人で挑むことになろうと――倒すだけよ。
 その、真尋の声が響いた直後だ。
「一人で? 誘ってくれてもいいだろうに」
 その気だるげな声には覚えがある。
「ああ、普段とはちがう姿と言えど、真似られるのは気分の良い話では無いな」
 その声の主である柊・乙女(春泥・e03350)は紫煙をくゆらせ夢喰を見やる。
 真尋と似てはいるものの、その存在はやはり違うものだ。
 瞳細めて、目に留まったのは夢喰の手にあるその爪。そこに見えた赤に乙女の表情は厳しくなる。
「その顔で人を傷つけようというのなら尚更不愉快だ」
 殺させやしないさ、絶対にと呟いた言葉は乙女のみに聞こえるのみ。
「真尋さん大丈夫?」
 走って、傍に駆け付けたルリカ・ラディウス(破嬢・e11150)は攻撃の意志を夢喰に向ける。
「これが噂のワイルド・ハント事件なんだね」
 真尋さんとそっくり、とルリカは思う。
(「私のもどっかにいるのかもしれないけど、会ってみたいような、そうじゃないような」)
 そう思うものの、今は目の前にいる真尋のワイルドハントとのことが大事とルリカは意識を戻す。
「ワイルドハント、ですか……色々と謎の多い存在ですが真尋さんの危機とあらば」
 琥珀色の瞳瞬かせて未野・メリノ(めぇめぇめぇ・e07445)はお力になれるよう頑張りますと笑って見せた。
「――……またモザイクの中で逢うとはな。今度は俺が力に為る番だ」
 はばたきひとつ、疎影・ヒコ(吉兆の百花魁・e00998)は真尋の傍に降り立って視線を向ける。
 つい先日、自身のワイルドハントが現れた折には真尋が駆けつけてくれた。その借りを恩で返すべくヒコはここにいる。
 それを真尋も察して、心強いわと返した。
「う、わ、本当に真尋にそっくり……やりにくいなぁ、もう」
 そう思わない? と傍らの翼猫ぴろーに篠宮・マコ(夢現・e06347)は投げかける。
「暴走姿を真似るなんて、趣味が悪いったら……」
 その言葉にそうね、と頷く。
「……さて、猫の手でも人の手でもない。魔女の手助けは必要かしら?」
 興味関心は書物にのみ向いているリシティア・ローランド(異界図書館・e00054)はいつもと変わらぬ調子のようでいて。けれど彼女を知る者が聞けば珍しく意欲的と言うような心地。
 その言葉に真尋は小さく笑みを零し改めて、己が絶望の先で歪んだ姿に視線を向けた。
「尚更負けられなくなった……いいえ、負ける筈がないわね」
 この姿は、出来たなら皆に見られたくはないものだった。
 けれどひとりではないことが――今、心強くもある。
「御免なさい。皆、力を貸して頂戴」
「一人で挑まないの? 弱いわね……ワタシは、そうじゃないわ」
 その声にリラ・シュテルン(星屑の囁き・e01169)はやっぱり違うと思う。
 唄うような、声音。
 見目の、うつくしさ。
 その艶やかさは真尋と似ていて。
(「けれど、真尋様のような、温もりのない、君」)
 きゅっと星杖をリラは握って、心に感じるものを言葉にする。
「君の聲は、あいにくと、こころに響きそうに、ないわ」
 それは真尋とワイルドハントの夢喰いの――一番大きな違いだった。

●ひとりではなく
「癒しは、お任せを、どうぞ、前へ」
 リラがふるう星杖。真尋に向けた癒しの力は先ほど受けた傷を塞いでいく。
 真尋は塞がる傷をひと撫でし、夢喰と再度、今度は独りではなく皆と向かい合った。
 癒しに重き置くリラは前に立つ皆の背を見る格好となる。
「わたしは癒し手として、皆さまを、支えます」
 その背に向けるリラの視線は強く、己の為すべきことを理解しているというもの。
 代わりに、傍らから走り込んだライドキャリバーのベガー。ベガーは炎纏い、リラの代わりに攻撃を担う。
「自分と非なるものの存在か」
 その存在がどうあれ、顔見知りを襲われて座して待つほど非情ではないのでね、とリシティアは零す。
「潰すわ。徹底的にね」
 その言葉と同時に放たれた魔法の光線は夢喰を捕らえて硬直させる。
 多くの戦いで守り手、癒し手としてあった真尋。
 けれど今日は、己の姿を模した相手と対するために攻撃に重きを置いていた。
 真尋は踏み込んで、一撃を夢喰に入れる。体の中心を貫くような一撃は人として辿り着いた高みの技。
「っ……! 重い一撃ね」
「負けられないもの――あなたには」
 真尋の攻撃を受けて、夢喰は凍りつくように身を固まらせる。けれど吐く言葉は、表情は愉しげで、決して良いものではない。
 ふぅっと息吐いて紅の花弁が舞う。すると、夢喰の傷跡は消えていく。
「簡単に終わってはつまらないじゃない?」
 そう言って笑う夢喰へとダジリタが炎を纏って突撃する。
 それからとんとマコが懐に踏み込んで。
「そっくりだけど遠慮はしないよ!」
 やればできると信じて放つマコの一撃。その心が魔法となり夢喰へと叩きつけられ、その間にぴろーは清浄なる風を仲間達へと送る。
「花よ! 力を」
 真紅の花びらのようなオーラをルリカは巻き起こし、夢喰へと肉薄した。
 散華の射程を遠隔から至近距離に集約。それによってより当てやすく。
 ルリカの一撃は夢喰を捕まえ、その動きを麻痺させる。
 そこへヒコが次は俺の番と一言零し走る。
「見目麗しかろうが此処じゃ意味ねぇだろ、偽物」
 ワイルドハントと対するのはこれで三戦目。姿の似たものを相手取るという事に慣れてきたとはいえ、姿真似る存在はヒコにとっては不快そのものだ。
 その姿の在り様は、それぞれにとって様々なのだから簡単に踏み込んで良いものではないはずなのだから。
 一足で距離を詰めて飛び蹴る。その脚には重力と流星の煌めきだ。
「一緒に頑張ろうね、バイくん」
 ミミックのバイにメリノが向けた言葉。バイはエクトプラズムを吐き出して攻撃を。
 メリノは花祈奏を構える。音譜を模した彫金施した刃のない儀礼斧。勝利謳う金蓮花の蔓花が護るよう寄り添うそれの力もって、真尋へと破壊のルーンを与える。
 それに加え、守りの力の助けになるようにと乙女は紙兵を回せる。それは阻害受けても払う切っ掛けをもたらすものだ。
 夢喰は目の前にいるリシティアへと攻撃を向けた。
 けれど、その前に乙女が立ち庇いだてる。
 夢喰の攻撃は、誰かに集中してというより目の前にいる相手に向いているというような雰囲気だった。
 けれど攻撃すれば、庇いにはいられる。そして攻撃届いても、すぐに癒すリラとメリノがいる。
 それは夢喰にとって厄介なものだ。それならと夢喰は攻撃の矛先を近場にいる相手から変えた。
 紅が、メリノの視界の端に舞った。紅に抱かれその身に傷を負う。
「っ! これくらいじゃ、負けま、せん」
 歌が好きなメリノにとって、歌を生業とする真尋は一つの、憧れにも似た感情を抱く相手。
 素敵なお姉さんと思うような相手と似た姿の夢喰。
「なぜ、その姿を選ぶのでしょうか」
 メリノはほとりと零す。
 暴走した姿であっても、夢喰は夢喰だ。彼女ではない存在。
「貴女は、真尋さんではなくて――誰かが扱ってよいものではないのです、よ」
 傷は痛むが、それよりも心が痛い。その姿で振舞われる事のほうがこの身に受けた傷より響く。
 そして、その身に受けた傷は癒す事ができる。
 メリノの傷を癒す、祈りが響いて届いたのだ。
「謳いましょう。貴方に、星の、祝福を」
 くるりと星杖振るえば煌めく星屑、その軌跡。
 リラが囁く、星の謳。古き頃より謳い継がれた、祝福の謳が祈りとなってメリノの傷を癒していく。
 その様に夢喰は舌打ちをして一歩引く。
 けれどすぐさまマコが追いかけて逃がしはしない。
「ほらほら、私達もいるんだからね!」
 続けて金色の長い髪をなびかせながらルリカが竜槌構えて、振り下ろす。
 進化可能性を奪う超重の一撃は身を潰す威力を持っていた。
 戦いは均衡を保っているが、確実にダメージは与えている。
 戦いの流れが定まるのも時間の問題だった。

●ほんもの
 夢喰が銀色の爪を閃かせて振るう。その一閃は真尋を狙ったものだった。
「真尋!」
 けれどマコがその手を引いて引き離しつつ一歩踏み込んでそれを受けた。
「真尋には届かせないよ」
 切り裂かれた傷から血が落ちる。
 それを見て、傍にいた乙女がすぐにそれをカバーした。
「――立て」
 マコの受けた一閃。その上を乙女の持つ呪いが這う。それは傷口を癒すではなく喰うといったほうがしっくりくる。
 決して屈っさない。傷を喰われればまた立ち上がるのみだ。
「ありがと!」
 マコは乙女に礼を言って、人として高めた技を見舞えば夢喰の身は凍りつく。
 仲間の、前衛の皆の攻撃の手助けになれと爆破スイッチをメリノは押す。
 ぼわっと上がったカラフルな爆発。それが仲間達を鼓舞し力となる。
 夢喰の身は確実に削られている。攻撃をして、回復をしてと補ってはいたのだが、傷の深さがやがて回復を上回り始めたのだから。
「何度回復しようが無駄だ。俺はその一手上をいってやるよ」
 その身の縛りを夢喰が解けば、それを許さずヒコが動き指にはまるリングより生まれた刃で夢喰を斬りつける。
「いい加減、人真似は辞めたらどうだ? お前にゃその姿は不釣り合いだぜ」
 本当にその通りとルリカも頷く。
 夢喰の表情は苦しげにも見える。笑っているが、それはやはり歪なものだ。
 その表情にルリカは瞬いて。
「おおっと、キミやっぱ心底偽物だわ、うん」
 ダメ押しとばかりに、夢喰の束縛を増すために走るは影の如き、視認困難な斬撃。
 急所を狙って一撃は深く、夢喰が膝をつきかける。
「じゃあそろそろ退場の時間だよ。ばいばい、偽物さん。永遠にね」
 最後に送るのは、私じゃないけれどとルリカが身を引けば次の攻撃が夢喰に向かう。
「力が生み出す、ゆめまぼろし。悪巧みは、おしまいです、よ。さあ、在るべき場所へ、お還り」
 リラが投げるウイルスカプセル。それは夢喰の回復を邪魔するものだ。
 追い詰められている夢喰は、回復の精度も落とされていく。
 攻撃しくじればちっと舌打ちして距離を取ろうとするが逃がさないと影が追う。
 最小限の動きで距離を詰めたリシティア。その掌には光が集っていた。
「お前が。死として、壁として立ちふさがるなら……私が其れを斬り開く。月の光よ、溢れろ――」
 その言葉と共に巨大な光の刃が形成され夢喰の身を両断すべく振り下ろされる。その一瞬まで狂気に魅了され蝕まれるほどの光は耀きを失わない。
 けれどこちらもただやられるわけにはいかないと攻撃受けた直後に切り返す。
 紅色の花弁が舞ってリシティアを取り囲み動きを鈍らせる。
「此処で散るのは真尋でもなく、私達でもない。月の煌めきで引裂かれて、貴方が散りなさい」
 けれどその痛みもなんてことはない。リシティアは言ってほらと示す。
 真尋は一歩、踏み込んだ。
「誰の、何の思惑でこんなのが現れるのか知らないけど負けちゃだめだよ真尋! 思いっきり、やっちゃえっ」
 後ろからマコの声が響く。
 メリノも真尋さんと名を呼んで背中を押した。
 オウガメタルをその拳に纏って真尋が振るう。その拳は懐に深く入り込んでゆく。
「もう、終わりよ」
「本当に、遠慮なくやってくれたわね」
 痛いじゃないとその眉根を寄せながら夢喰の女は文句を言う。
 さよならと真尋は小さく零し、体の端から崩れていく自らの、絶望の先にある姿を打ち砕いたのだった。
 決着は、己の手で。
 真尋の身の内に潜む紅の、その姿を模した存在は本質としては違う存在。
 それでも、その姿である者との邂逅は真尋の心に抱かせるものがあったのは確かだった。

●縁
 真尋の姿を模した夢喰が消えていく。するとこの空間も消えていく。
 そのことに真尋はほっとしていた。そして駆けつけてくれた皆へと改めて向き直る。
 するとヒコが笑って。
「――……っと、心配したぜ」
「心配かけて」
 ごめんなさいと。そう紡ごうとしたのだがその先を塞がれる。
「けど、デコピン……はまたにしておいてやるよ」
 ヒコに悪戯するように言われ、思い出すのは先日の事。ふとそれを思い出し、真尋は笑み零す。
「真尋ー!」
 飛びつく勢いで真尋の傍にきたマコは周囲をくるりと回る。
 何をしてるの、という視線に怪我がないかのチェックとマコはへにゃりと笑み浮かべる。
 それは安心したからでもあるのだ。
「リシティアもありがとう」
「私には関係ないことと言える話じゃなかっただけよ」
 リシティアの言葉には、助けにくるのは当然じゃないというような。
 義と情ある相手、真尋の危機を聞いて何もしないという選択肢はなかったのだ。
「心配をかけた償いは幾らでも……本当に、ありがとう」
 そう言って、真尋が浮かべる笑み。いつもはどこか鋭いはずの瞳はやわらかさを滲ませていた。
 それは仲間への感謝のもの。
 償いはと聞いてでしたら、とリラは言う。
「真尋様、ひとつ、唄を」
 償ってほしいわけでは、決してない。
 けれど真尋自身を感じるなら歌が一番、意味あること。
「私も、ききたい、です」
 メリノもうんうんと頷く。
 真尋が歌うなら、それを聞きたいと。
「阿守の歌か。それはバーのあるところで頼む。美味い酒になりそうだ」
 乙女はそう言って、戦いの最中、消えてしまった火を煙草に。
「その後はのんびり、一緒にお話ししよう? 私はお酒が飲めなくて残念だけど……お茶でもいいし」
 良かったら、皆でとルリカがもう一つ提案すると真尋はそうね、と頷く。
 それじゃあ、ここじゃなくてどこかの店で皆の為にと微笑んで。

作者:志羽 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年10月27日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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