森の奥にいた裸の私

作者:秋津透

「やっぱりこれって……ワイルドスペース?」
 予感を覚えて来てはみたけど、と、メリルディ・ファーレン(陽だまりのふわふわ綿菓子・e00015)は小さく溜息をつく。
 ここは、青森県中津軽郡西目屋村。白神山地の中にあるこの村は、広大な山林の中に点々と小集落があるような状態なのだが、予感に導かれたメリルディが来てみると、その中の一つがモザイクに覆われていたのだ。
「ワイルドスペースってことは……わたしが予感を覚えて見つけることができたワイルドスペースってことは、やっぱりいるのかなぁ。暴走状態のわたしと同じ姿した、ワイルドハント……」
 ちょっと待ってよ、勘弁してよ、と、メリルディは唸る。いつもの彼女なら、せめて親しい友人を何人か呼んでから、ともにワイルドスペースに踏み込んだだろう。
 しかし彼女は、まるで何かに憑かれたような表情で呟く。
「確かめなきゃ……とにかく、急いで……」
 そして彼女は、モザイクに覆われた小集落……というか、山林の中へと単身踏み込んだ。

「だいたい、聞いた通りね……」
 モザイクに覆われた区域に入ったメリルディは、周囲を見回しながら呟く。
 モザイクの中は、元の建物や地形、ほとんどは樹木だが、バラバラにされて混ぜ合わされたような奇怪な場所で、まとわりつくような粘性の液体に満たされているが、呼吸にも発声にも支障はない。すべて、今までワイルドスペースを発見、探索したケルベロスたちが、報告している通りだ。
「すると、そろそろ……」
 メリルディが呟いた時、冷たい声が左前方から投げかけられた。
「このワイルドスペースを発見し入ってくるとは、この姿に因縁のある者か?」
 そう言いながら出現したのは、メリルディを少し大人びた感じにしたような、少なくとも外見はオラトリオの美しい女性。滝のように流れる豊かな髪は白く、純白の翼と見分け難い。肌はやや橙味を帯び、茨とも蔓草ともつかない植物でわずかに身体を覆っている以外には、衣服らしきものはまとっていない。
 その姿を見て、メリルディの顔が真っ赤になった。
「よ、予想してなくはなかったけど、実際に見ると衝撃的ね! 頼むから、服着て! すぐに服着て!」
「だが、今、ワイルドスペースの秘密を漏らすわけにはいかない。お前には、ワイルドハントである私の手にかかって死んでもらう」
 優雅で幻想的な姿にまったく似合わない冷徹な声で告げると、オラトリオの外見を持つ裸の美女……ドリームイーターのワイルドハントは、身にまとった蔓に支えられた魔導書とおぼしき分厚い書物のページを開いた。

「緊急事態です。青森県西目屋村でワイルドハントについて調査していたメリルディ・ファーレンさんが、ドリームイーターの襲撃を受けるようです」
 ヘリオライダーの高御倉・康が、緊張した口調で告げる。
「例によってと言いますか、ドリームイーターは自らをワイルドハントと名乗っていて、『西目屋村の小集落の一つ』をモザイクで覆い、その内部で何らかの作戦を行っているようです。急ぎ、救援に向かって、ワイルドハントを名乗るドリームイーターの撃破を行ってください。このままだと、メリルディさんが殺されてしまうかもしれません」
 口早に言って、康はプロジェクターに地図と画像を出す。
「現場はここです。モザイクに覆われた小集落は、特殊な空間になってしまっているようですが、戦闘に支障はないようです。敵のドリームイーターは単体で、メリルディさんに似た顔だちをしていますが、少し年長な感じの上、身に攻性植物とおぼしき蔓草以外何も纏っていないので、見分けをつけるのは容易です。ポジションはキャスターで、魔導書と攻性植物のグラビティをかなりの高威力で使います。正直、一対一の闘いでは、メリルディさんに勝ち目はないというぐらいの強さです」
 一気に言い放つと、康は一同を見回す。
「ワイルドハントは、今この時、ワイルドスペースの秘密を漏らすわけにはいかないと口走っているようです。単身挑んだメリルディさんの行動は無謀にも思えますが、敵の秘密作戦を直感で見事に暴いたとも言えます。どうかメリルディさんを無事に救い、ワイルドハントを撃破してください」
 そう言って、康は深々と頭を下げた。


参加者
メリルディ・ファーレン(陽だまりのふわふわ綿菓子・e00015)
ペテス・アイティオ(拾ってください・e01194)
ファン・バオロン(剥ぎ取りは六回・e01390)
毒島・漆(魔導煉成医・e01815)
ハインツ・エクハルト(光を背負う者・e12606)
フェイト・テトラ(飯マズ属性持ち美少年高校生・e17946)
セデル・ヴァルフリート(秩序の護り手・e24407)
霧島・トウマ(暴流破天の凍魔機人・e35882)

■リプレイ

●救援隊、参上!
(「強い……でも、恐ろしいほど強くはない……」)
 青森県中津軽郡西目屋村、山林の中にある小集落の一つをモザイクで覆って形成されるワイルドスペース。
 予感に従って異変を発見し、単身踏み込んだメリルディ・ファーレン(陽だまりのふわふわ綿菓子・e00015)は、これもまた予感通り、自分の暴走姿と同じ外見の敵、ドリームイーターのワイルドハントと遭遇、戦闘状態に入っていた。
(「マジメな話……もしもこいつが暴走したわたしと同じ力持ってたら、わたし、一撃で瞬殺されちゃうよ。そのくらいおっかないんだから、暴走したわたしって……」)
 とはいえ、ワイルドハントが弱いわけではない。相手はメリルディを上回る速度で先手攻撃を仕掛け、彼女は文字通りの防戦一方。自己治癒以外の行動に出る余裕がない。
 これが本当に最後まで一対一の闘いなら、メリルディに勝ち目はない。しかし、彼女には目算があった。ある程度時間を稼いでいれば、きっと……。
「見つけ、ましたあっ!」
 大声で叫びながら、セデル・ヴァルフリート(秩序の護り手・e24407)が上空から急降下してくる。正直、メリルディが内心期待していた人物とは違うが、頼もしい仲間が救援に来てくれたことには違いない。
「新手か? だが、侵入者はすべて斃すのみだ」
 冷徹に告げると、ワイルドハントは身にまとった茨とも蔓草ともつかない攻性植物を伸ばす。すると、セデルの陰から彼女のサーヴァント、ビハインドの『イヤーサイレント』が出現、攻撃を受け止める。
「ありがとう! 助かったわ!」
 セデルとサーヴァントに礼を告げ、メリルディは前衛ディフェンダーから後衛スナイパーへとポジションを変える。
「我が役は看取りと兵站。メリルディ様は私達が守ります!」
 それにしても、このような無秩序、混沌、許し難いですね、と、セデルはモザイクで無茶苦茶につぎはぎされた周囲の光景を見やって唸る。
 彼女は秩序と規律を重んじる真面目な性格……ではあるが、つい最近までエンヘリアルに仕えていたヴァルキュリアなので、秩序を正す手段は「力づく」一択である。
「諸悪の根源はお前ですね! メリルディ様の外見を盗み、殊更に無秩序な姿を晒すとは悪質な!」
 怒声とともにセデルは再度宙に飛び、美しい虹をまとう急降下蹴りをワイルドハントに叩き込む。
 同時に『イヤーサイレント』が、念動力で金縛りを仕掛ける。
「くっ!」
 続けざまに痛打を受け、ワイルドハントの秀麗な容貌がわずかに歪む。
 すると上空に、ペテス・アイティオ(拾ってください・e01194)が飛来し、心底気持ちよさそうに宣言する。
「他人の姿を盗み、人目も盗んで、こそこそと拠点を広げるワイルドハントさん! あなたの悪行、たとえ天が見逃そうとも、我らケルベロスが、このペテス・アイティオが見逃しはしません!」
 そう言うと、ペテスは頭から逆落としに急降下を仕掛け、空中で愛用の改造スマートフォン『カーディア・クローウィ』を構える。たかがスマホと侮るなかれ、『カーディア・クローウィ』はキャスター付きケースを着用しないと移動が大変、階段では立往生する超重量級。その姿は、もはやモノリス。
「必殺! 斜め45度あたーっくです!」
「うわっ!」
 殴るというよりは叩き潰す勢いで、ペテスはワイルドハントに『カーディア・クローウィ』をぶつける。ワイルドハントは自ら後方へ跳んで避けたが避けきれず、結果的に吹っ飛ばされる。
「お、おのれ……」
「ふっ、わたしを真似たワイルドハントもそうでしたけど、僻地とワイルドスペースをつなげて拠点化してますよね。そして入った人から力を奪うこの謎空間と、ワイルドハントが姿を盗んだ人とのリンク……しかもミッション地域で」
 険しい形相のワイルドハントを見据え、ペテスはドヤ顔で言い放つ。
「ワイルドスペースっていうのは、どこを経由してどことつながっているんです? 集団無意識とか深層意識とか、そういうところですか?」
「……侵入者はすべて殺す。お前が何を知ろうが、何を推測しようが、ここで殺してしまえば、それまでだ」
 当初の冷淡な口調とは明らかに違う、無理に冷静を装うような調子で、ワイルドハントが唸る。
 そして本物のメリルディが、心配そうな口調で訊ねる。
「ぺてぺて……大丈夫? 何かいつもと雰囲気違うんだけど、どっか頭でも打ったんじゃない?」
「わ、わたしは全然大丈夫です!」
 何で、そこでわたしが心配されなきゃいかんのですか、と、ペテスは一瞬情けない表情になったが、すぐに真摯な口調で訊ね返す。
「メリルディさんこそ、大丈夫ですか? もう、気持ちはわかりますけど、せめて一声かけてくれれば……すっごく心配したんですよ!」
「ごめんなさい。でも、みんなを集めて一緒に入っていったら、こいつに感づかれて逃げられそうな気がして……それに、来てくれるって信じてるから」
 メリルディの答えに、ペデスはわずかに苦笑する。
「そうでしたね。わたしの時も、そうでした」
 来てくれると信じていたから、単身で先行した。そして、みんな来てくれた。呟いて、ペテスは小さくうなずく。
 ……ちなみに報告記録を見る限り、ペテスの暴走姿を模したワイルドハントとの戦闘は、えー、かなり特異な雰囲気だったようだが、それはこの際、言わぬが花だろう。
 そして、続いて戦場へ飛来したのは、やはり自分の暴走姿を模したワイルドハントを発見、闘った経験のあるドラゴニアン、ハインツ・エクハルト(光を背負う者・e12606)だった。
「またワイルドスペースに来ることになるなんてな……でも今度は仲間を助ける為だ!」
 言い放つと、ハインツは九尾扇を振るってメリルディを治癒する。同時に、彼の陰からサーヴァントのオルトロス『チビ助』が飛び出し、口に咥えた神器の剣でワイルドハントに斬りつける。
「お、おのれ……いったい、何人……」
「メリルディさんには人望がありますのですからね! 馳せ参じる人材には事欠かないのです!」
 言い放ちながら、ライドキャリバー『アデル』に乗ったフェイト・テトラ(飯マズ属性持ち美少年高校生・e17946)が勢いよく走りこんでくる。
 そしてライドキャリバーから飛び降りると、魔導書をインストールした古い銃『αδελ』を取り出し、メリルディに治癒魔法をかける。
 一方ライドキャリバーは、フェイトが降りると同時に激しくスピンし、ワイルドハントに体当たりを仕掛ける。
 そしてフェイトは、自分の背後を指さしてメリルディに告げる。
「お待たせしましたのです! 旦那さん到着なのですよ!」
 フェイトが指さす先、メリルディの婚約者、毒島・漆(魔導煉成医・e01815)が息せき切って走ってくる。彼は地球人なので飛行能力はなく、さほど走力に優れているわけでもない。更に乗用サーヴァントもいないので、仲間に比べて多少遅れをとるのもやむを得ないのだが、それでもメリルディとしては、この登場順番はちょっと御不満である。
 そして漆は到着と同時に、ワイルドハントに重力蹴りを叩き込む。
「リルから離れろクソ野郎がっ!」
「いや、大丈夫ですよ、漆様! 私達が間に入ってますから!」
 前衛ディフェンダーのセデルが声をかけるが、もちろん漆は聞いちゃいない。メリルディを背後にかばう位置に立ち、申し訳なさそうに告げる。
「すみません、遅くなりました。怪我は無いですか?」
「……大丈夫。怪我は、ハインツとフェイトが癒してくれたわ」
 だけど漆ってば、ホントに遅いよ、と、メリルディは少しむくれた表情で呟く。
 そこへ轟然と翼を鳴らし、竜人姿のドラゴニアン女拳士、ファン・バオロン(剥ぎ取りは六回・e01390)が上空に飛来する。
「アポも取らずに押し掛けて悪いが、仲間を殺させるわけにはいかん。この空間ごと散れ、ワイルドハント」
 言い放つと、ファンはケルベロス側の男性陣を、じろっと見やって告げた。
「あと男共、あまりアレを見るな。肉眼ではなく心眼で戦え。わ・か・る・な?」
 そう言うと、ファンは前衛にオウガ粒子を放出、ダメージを癒し命中力を上げる。
 ファンの男性陣へ忠告(?)に、漆は小さく苦笑し、フェイトは不得要領な表情で、ふぇぇ……などと口走っていたが、ハインツだけはかなり本気でビビる。
「お、おう!!! あんなのどう見たってメリルなんかじゃない、メリルはもっと優しくて明るいからな! さぁ、全力でやっつけてやるんだぜ!」
「……だから、どう見てもではなく、見・る・なと言っているのがわからんか?」
 ファンが少々不穏な呟きを漏らしたが、そこへセデルが昂然と言い放つ。
「無秩序な格好なのは確かですが、生憎私としては大事な所はしっかり見えなければ相対するには十分、故に惑わされはしません! なにせヴァルキュリア育ちですからね!」
「……おい」
 竜人姿なので表情は読みにくいが、かなり憮然とした口調でファンが唸る。
 そこへ、霧島・トウマ(暴流破天の凍魔機人・e35882)が悠然と姿を現す。
「ワイルドスペースっつーけど、なんかこー、出現報告ばっか過ぎてちと怪しいよなァ。インスタント固有結界みたいなモンなんかねー?」
 おっと、先ずは要救助者救出優先っと、とトウマはメリルディを見やり、後衛に入っているのを確認すると、治癒と攻撃力向上の電撃を後衛に放った。

●偽者は語らず、消え去るのみ
「……数が多すぎる」
 魔導書を開き、ケルベロスの後衛に水晶剣を暴れこませながら、ワイルドハントは低く唸る。そこへメリルディが、時空凍結弾を撃ち放つ。
 続くセデルは、後衛を水晶剣から庇って受けた自分の傷を、オリジナルグラビティ『害悪顕現・掌握粉砕(バッドネスリアライズ・シェイクブレイク)』で治癒解消する。
「蝕む害悪よ、砕け散れ!!」
 大声で叫ぶと、セデルは自分の胸に手を当て、ダメージや状態異常を靄状にして引き出し、そのまま握りつぶす。
 同時に『イヤーサイレント』が、周囲に散らばるモザイク樹の破片に念を籠め、ワイルドハントに叩きつける。
 そしてペテスが、オリジナルグラビティ『アクセス:真理改変(コードフランケン)』を発動させる。
「極めた真理はあらゆる道に通じ、その根源を書き換えることで現在を破壊する……! 滅びよ! アクセス、コードフランケン! です!」
 グラビティアプリを起動してなんやかんやで世界の真理をデタラメに歪ませてダメージを与える(本人談)というトンデモナイ謎攻撃を受け、ワイルドハントの全身が音を立てて軋む。
 そしてハインツは、水晶剣の攻撃で強化効果を消された後衛に、オリジナルグラビティ『竜ノ加護《刃》(ドラッヘグナーデ・クリンゲ)』を放つ。
「鋭き刃よ、皆に力を!断て、削り取れ、《刃(クリンゲ)》ーーッ!!」
 詠唱とともに、ハインツの黄金オーラが回転する光の刃と化し、仲間の周囲を飛び回る。黄金の光はダメージを癒し、付与を受けた者の攻撃時には刃がともに飛んで、敵の加護を削る。
 そして彼のサーヴァント、オルトロス『チビ助』は神器の瞳でワイルドハントを睨み、炎上させる。
 一方フェイトは、ダメージが蓄積してる自分のサーヴァント、ライドキャリバーの『アデル』に向け、オリジナルグラビティ『パナケア・フィリア・ポース・ポース』を放つ。
「癒やしの女神よ、光を」
 詠唱とともに、美しい女性の姿をした光が、ライドキャリバーを包んで癒す。
 そして漆が、オリジナルグラビティ『指極・玻璃絶刀刺(シキョク・ハリゼットウシ)』を駆使する。
「元々はただの真似事ですが、知識を応用すればこんなこともできるんですよ」
 リルを危険に追いやった奴、ここで確実に仕留めます、と、言葉には出さずに呟き、漆は己の手刀を硬質なガラス状物質に変化させる。そして、踏み込んで高速で手刀を振るうと、ワイルドハントの肩から胸元のあたりが、大きく裂ける。
 更に漆が飛び下がると同時に、ファンがドラゴニックハンマーを振り上げて殺到する。
「くらえ!」
 ハンマーが唸りをあげて振り回されるがワイルドハントは素早く下がって身を躱す、と、見えた瞬間、砲撃形態になっていたハンマーから零距離射撃が放たれる。
「ぐはっ!」
 直撃され、常に浮遊状態だったワイルドハントが地に墜ちる。そこへトウマが、好機とばかりにオリジナルグラビティ『嵐獄想:葬想起(テンペストパルスノクターン)』を叩き込む。
「ああ、これが俺の知った『感情の奔流』だ。……少しばかり誇張して教えてやるよ」
 非常に数奇、かつ奇跡的な過程を経て『感情』を知り、ダモクレスからレプリカントに変化したトウマが、大量の感情データを螺旋力に乗せて強制インストールする。相手がダモクレスでなくても、定命種族の激しい感情をトウマが増幅したものが入れば、並のデウスエクスなら大抵「おかしく」なる。
 そして、ここまでどうにか冷徹を装っていたワイルドハントも、この仮借ない攻撃の前には崩れた。
「う、わ、わ、あーっ!」
 大きく目を見開き、ワイルドハントは絶叫する。トラウマを付与した、と見て、トウマは薄く嗤う。
「ったく、偽物ったろーが、心がそこにあんなら抉り取ることは出来ンだろ? 命に代えても知られたくない、その必死さを、深層を、ワイルドスペースの秘密とやらを、吐き出して貰おうじゃねェか?」
「う、う、う、わーっ!」
 トウマの問いかけが聞こえているのか否か、ワイルドハントはぶるぶると全身を震わせていたが、不意にその身体を覆う蔓が増殖し、黄金の果実を実らせる。その光を浴び、ようやくワイルドハントの目の焦点が戻った。
「はあっ、はあっ、はあっ……」
「……届かなかったか」
 ちっ、とトウマが舌打ちをする。そしてメリルディが、静かに告げた。
「……もう、終わらせよっか。夢が褪めたら次に行くだけ、戻れないんだ」
 おそらくワイルドハントは、ワイルドスペースの秘密を漏らすような状態になったら、情報を吐き出す前に発狂して壊れる、と、彼女は感じた。そして、ケルベロスの暴走のように、歯止めを失って凶暴、強大化する可能性もある。更に、あの姿で発狂しそうになられると、正直、自分も引かれそうで怖すぎる。
 そしてメリルディは、オリジナルグラビティ『夜の静寂に揺蕩う夢(スティルネス・オブ・ザ・ナイト)』を発動させる。
「さようなら」
 呟いて、メリルディは共棲する攻性植物「ケレス」を伸ばし、蔓で全身を覆ったままのワイルドハントを、更に包み込む。そして、すべての気力を奪い、縁を断ち切る。夢と異なるのは、記憶に残ること。存在が消えても、それは消せない。
「……ああ」
 吐息のようなものを漏らすと、ワイルドハントはその存在を失い、身体を覆う蔓草もろともモザイクと化して宙に溶けた。

作者:秋津透 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年10月24日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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