黒衣を纏う夢魔

作者:澤見夜行

●漆黒の邂逅
 頻発するワイルドハントとの遭遇。
 噂を聞きつけたシル・ウィンディア(蒼風の精霊術士・e00695)もまた、ワイルドハントの調査に乗り出していた。
 夕陽が沈み常闇が辺りを支配し始めた頃、そろそろ帰ろうかと考えていたシルは、ふと何かに導かれるように、その場を訪れた。
 廃園となった遊園地。
 その入り口から向こうが全てモザイクに包まれていたのだ。
「見つけた……これが噂になってるやつだよね」
 ワイルドスペースと呼ばれるモザイクの空間。
 辺りを警戒し、周囲に異常がないことを確認したシルは、意を決してモザイクの空間へと足を踏み入れた。
「うえぇ……なんか纏わり付いてくるよぉ……」
 身体に纏わり付く粘性の液体の感触に不快感を覚えながら、モザイクの空間を進む。
 周囲の景色は、遊園地の様々なアトラクションが無秩序に、バラバラに組み合わさり、目眩が起こりそうな光景だ。
 遊園地の中ではそれほど広くはないであろう敷地を警戒しながら進むと、不意に風切り音が聞こえた。
「――ッ!」
 確認するより早く、身体が動く。
 倒れ込んだ頭上の空間を何かが斬り裂いた。
「へぇ、今のを避けるなんて。見た目通りすばしっこいのかしら」
「あなたは――!」
 慌てて起き上がりながら間合いをとったシルの目に飛び込んできたのは、自身と同じ姿でありながら闇夜に同化する漆黒の黒衣を纏う者。
「このワイルドスペースを見つけられるなんて、きっとこの姿に因縁があるのでしょうね」
 余裕の笑みを湛える黒衣の者は魔力を左手に集中し、漆黒の剣を生み出した。
「その物言い、あなたがワイルドハントという奴ね……!」
「訳知りというわけね……なら話は早いわ。秘密を漏らすわけにはいかないの、大人しくわたしの手で死んでちょうだい!」
 有無を言わさず、漆黒の精霊術士がシルへと襲いかかった――。


 シルがワイルドハントの調査中にドリームイーターと遭遇、戦闘に入ったという情報はすぐにヘリオンに集まる番犬達に伝えられた。
 ミッションルームに駆け込んできたクーリャ・リリルノア(ヴァルキュリアのヘリオライダー・en0262)が、息を整え説明する。
「ワイルドハントを名乗るドリームイーターが廃園となった遊園地をモザイクで覆い、その内部で何らかの作戦を行っていたようなのです」
 調査をしていたシルは、そこへ進入しドリームイーターの襲撃にあったようだ。
「このままではシルさんの命が危険なのです」と、クーリャは切実に訴える。
 番犬達に課せられた依頼はシルの救出と、ワイルドハントを名乗るドリームイーターの撃破となる。
 クーリャは手元の資料を読み進めながら詳細情報を伝えてくる。
「戦闘が行われるのはモザイクに包まれた遊園地の中なのです。特殊な空間になりますが、戦闘に支障はないのです」
 廃園となっているため、周囲に一般人が近寄ることはないので戦闘に集中して大丈夫だろう。
 続けてクーリャは敵の戦闘能力について説明をする。
 敵はシルと同じ姿をしていること。
 魔力により漆黒の剣を生み出して攻撃する他、その魔力を飛ばし行動阻害を与えてくる。また、ドリームイーターらしくモザイクによる回復も備えているようだ。
 攻守を兼ね備えた強敵です、とクーリャが注意を促す。
 そうして説明を終えると、クーリャは資料を置き番犬達へと向き直る。
「ヘリオライダーの予知でも予知できなかった事件を、シルさんが調査で発見できたのは、敵の姿とも関連があるのかもしれないです。
 それに敵はワイルドの力を調査されることを恐れているのかも……?
 とにかく、無事にシルさんを救い出すために、どうか、皆さんのお力を貸してくださいっ!」
 クーリャは深々と一礼すると、番犬達を送り出すのだった。


参加者
シルフィリアス・セレナーデ(善悪の狭間で揺れる・e00583)
シル・ウィンディア(蒼風の精霊術士・e00695)
テンペスタ・シェイクスピア(究極レプリカントキック・e00991)
ラピス・ウィンディア(ビルシャナ絶対殺す権現・e02447)
愛柳・ミライ(宇宙救済係・e02784)
アストラ・デュアプリズム(グッドナイト・e05909)
ティユ・キューブ(虹星・e21021)
イズナ・シュペルリング(黄金の林檎の管理人・e25083)

■リプレイ

●親愛なる仲間達
 モザイクに包まれた遊園地に幾重にも魔力の光彩が走る。
 襲い来る夢喰いの攻撃を、シル・ウィンディア(蒼風の精霊術士・e00695)は回避重視で立ち回っていた。
(「自分の姿を見るっていうのも不思議なものだけど……」)
 幾重にも広がる漆黒の軌跡を描く剣閃を、掠りながら紙一重で回避し、流星纏う鋭い蹴りで反撃する。
「当たれば怖いけど、それの弱点はわたしがよく知ってるよっ!」
 集中が切れれば、一瞬で斬り伏せられてしまうだろう。
 綱渡りのような緊張感の中、シルはただ信じて待つ。
 ――仲間達の救援を。
 嗜虐的な笑みを浮かべながら、漆黒の収束剣を振るう夢喰い。
 その攻撃を躱しながらシルは思う。
(「このワイルドスペース、そんなにあなたにとって大切な場所なんだね」)
 自身の暴走した姿を知っているのは、自分だけのはずだ。
 自分の深層部分由来のものではないか? 疑問が浮かんだ。
 思考は中断する。
 夢喰いが大振りに振るった隙に掌底を当て、魂を喰らう。
 だが夢喰いはシルの攻撃により受けた傷を即座に回復すると、百発一中と言わんばかりに乱舞する。
 猛攻を凌ぎ続けるシルだったが、徐々に押し込まれていってしまう。
「くっ!」
 必死に間合いをとり、仕切り直す。
「ふふ、逃げ回ったところで無駄な事よ。直に捕まえるわ」
「さて、それはどうでしょうね!」
 シルが不敵な笑みを浮かべた。
 突然、夢喰いの身体が横へと跳ね飛ばされる。
 それは戦場へと乱入したテンペスタ・シェイクスピア(究極レプリカントキック・e00991)が、螺旋力をジェット噴射し、錐揉み回転しながら突撃してきた為だ。
 スライドし、土煙をあげながら停止するとテンペスタは声高らかに叫ぶ。
「天が呼ぶ地が呼ぶ人が呼ぶ、黒シル倒せと私をよぶっ!!」
 誰の目にも、テンペスタが見得を切るその背後にバックライトが輝いているのが見えるだろう。
「クッ、増援なの……!?」
 不意打ちをもらった夢喰いが立ち上がり、テンペスタを確認すると、一瞬の躊躇を見せるが、体勢を立て直し再度シルへと襲いかかる。だが、それを阻む雷が大地に落ちた。
「助けに来たっすよ!」
 シルフィリアス・セレナーデ(善悪の狭間で揺れる・e00583)がシルと夢喰いの間に雷を放ち、牽制したのだ。
「……みんな!」
 シルが快活な声を上げる。
「シルさんが地形を消滅させる前に間に合ってよかったっす」
「ちょっ、シルフィさん、なんてこというの!」
 シルフィリアスの言葉に、批難の声をあげるシル。
 だがその声は親愛な友に上げる暖かな声だ。
 ――増援が来たとしても夢喰いはその狙いを変えなかった。
 執拗にシルを狙うその一撃は、再度阻まれる。
「待たせたね」
 その身を盾として、夢喰いの一撃を阻むのはティユ・キューブ(虹星・e21021)だ。
「チッ……」
 続々と集まる番犬達に囲まれるのを恐れた夢喰いが間合いをとる。
 こうなると、夢喰いも狙いを変えない訳にはいかなかった。
 ふいに、シルの頭に手が乗る。
「あ、ラピスおねーちゃん」
 シルを見ながらポンポンと頭を叩くラピス・ウィンディア(ビルシャナ絶対殺す権現・e02447)に、誰の目からも肉親の愛情が感じられる。
 ラピスは思う。
 今日は夕食までに帰ってくるように姉も言ってた筈だった。
 それがこんな事態に巻き込まれていようとは。まったく世話のやける娘だと、半ば呆れていた。
 だが、なにより無事であったことにホッと胸を撫で下ろす。
 そうして、シルから視線を外し、相対する敵――シルの姿を模した夢喰いを見た。
「シルが二人……? どっちもかわいいわね」
 思っていた以上に妹そっくりだったので思わず本音が零れる。
 夢喰いへの語りかけは続く。
「どっちも連れて帰りたいものね。貴方、うちの子にならない?」
「ちょっと、ラピスおねーちゃん!?」
 割と本気めいた口調に、シルが悲鳴をあげた。
「世迷い言を……」
 夢喰いは意に返さない。
 そしてその返答を聞いたラピスもまた、目を細め夢喰いを睨むと敵意を向けた。
「そう。なら……可愛い妹を傷つけようとしてるみたいだし、覚悟はデキてるでしょうね?」
「邪魔な奴ら! 貴方たちは全員始末する――!」
 溢れ出す殺意が、戦場を支配する。
「さぁ、踊りましょう」
 ラピスの声を合図に、番犬達と夢喰いの戦いが始まった――。

●蒼白対漆黒
「さあ、始めるっすよ!」
 杖を振るい眩しいほどの光の奔流のなか、シルフィリアスの身体を光輝くリボンが覆う。燦然と輝くリボンはいつしかミニスカドレスへと姿を変え、シルフィリアスは魔法少女衣装に変身した。
「魔法少女ウィスタリア☆シルフィ参上っす」
 杖を構え横ピースで決めポーズをとるシルフィリアス。
 シルフィリアスが変身している最中も、戦況は動く。
「それが暴走したシルの姿か。
 そうした装いも良いけれど……やはりシルには青かね。……倒させて貰うよ」
 シルと夢喰いを見比べながらティユはそう言うと、地を蹴り夢喰いへと肉薄する。
 弱点を見抜いた一撃が、夢喰いの腕を打砕き、モザイクが吹き出した。
「シル先生、大丈夫ですか」
 駆けつけた愛柳・ミライ(宇宙救済係・e02784)がシルの傷を確認する。
「傷、癒やしますね」
 ミライは『KIAIインストール』を爛漫に歌い上げ、シルの傷を癒やしていく。
「素敵な歌だね、うん、元気出たっ!」
 シルの言葉に照れ笑いを浮かべるミライ。
「よし、わたしも前にでるねっ!」
 回復を終えたシルが、声をかけ戦列に復帰する。
「ポンちゃん、シル先生の援護を」
 ボクスドラゴンに指示を出し、戦列へと戻るミライ。
「ボックスナイト、ガードを固めて皆を守るんだよ」
 ミミックのボックスナイトに指示をだし、仲間達を癒やすのはアストラ・デュアプリズム(グッドナイト・e05909)だ。
 前線では苛烈な夢喰いの攻撃を受けながら戦う仲間達の姿が見える。
「アストラ達で支えてみせるよ……!」
 同じ位置に立つミライと頷きあう。
 仲間達を癒やすように、ミライは歌い、アストラはコメントで応援するのだった。
 前線では夢喰いとの熾烈な戦いが続いている。
 ラピスは手にした太刀を地面に突き刺すとリボルバーを取り出し、制圧射撃で牽制する。
 すぐさま太刀を引き抜くと高く飛び上がり、上空から夢喰いに襲いかかった。
 上空からの一閃を夢喰いは躱す。すぐさま二の太刀――霊体のみを汚染破壊する斬撃が夢喰いを斬り裂く。
 だが、夢喰いも即座に漆黒の収束剣を振るい反撃する。
 その一撃を左の刀で受け流すと、右の刀で、神速の突きを繰り出す。
 刀が夢喰いの肩を貫き、モザイクの血潮を噴き出させると、さらに残心から納刀された刀を、神速で抜き払う。
 神速の居合い斬りは相手の護りごと切り抜き仕留める――はずだったが、夢喰いは並々ならぬその反応速度でその一撃を躱しきった。
 互いに攻め手が欠けた瞬間、同時に飛び退るように間合いをとる。
 一瞬の攻防に互いの力量が推し量れた。
「――緋の花開く。光の蝶。さあ、いって」
 イズナ・シュペルリング(黄金の林檎の管理人・e25083)の周りを舞う緋蝶が、イズナの号令によって、一斉に夢喰いへ向かう。
 纏わりつく蝶に夢喰いの足が止まる。
 その隙を逃さずイズナが接近し、螺旋纏う掌を夢喰いに押し当て内部から破壊する。
 飛び退り跳ねながら、夢喰いが漆黒の弾丸を放つ。
 弾丸はシルの影を穿った。
「威力は低いけど……。まさか、これまで使ってくるとは思わなかったよ」
 自身にも覚えのある技を放たれ驚きの表情を浮かべるシル。
 痺れを感じる身体に力を入れ、地を蹴り走る。
 蒼白の電光石火の蹴りが漆黒たる夢喰いの腹部を捉え蹴り飛ばす。
「いくっすよー」
 シルフィリアスは手にしたマジカルロッドに魔力をあつめ、光線を打ち出す。
 光線は夢喰いの黒い模様が浮き出た腕を凍結する。
 逃げ回る夢喰いにテンペスタが急接近する。
 徹底的に腹部を狙う、その容赦のない一撃が夢喰いにくぐもった呻きを漏らさせる。
 吹き飛ばされ地面へ転がる夢喰いに、更なる追撃が襲う。
 テンペスタの身体の各部スラスターが火を噴き、瞬時に上空へと飛び上がるとテンペスタは叫んだ。
「究極っ!! レプリカントキック!!」
 無駄に洗練され、一切の無駄のない、無駄なスタイリッシュアクションを披露したテンペスタが上空からの跳び蹴りを見舞う。
 それは魂をぶっこ抜き喰らう一撃だ。
 すさまじい威力の蹴りを食らい夢喰いが大きく呻く。だが、やられてばかりではない。
 夢喰いは手にした漆黒の収束剣を振るい、反撃する。
「させないよ」
 割って入り庇うティユは、間合いを開こうとする夢喰いに追いすがり、流星纏う蹴りを見舞う。重力の楔が、夢喰いの足を鈍く重くした。
 サーヴァントのペルルもまた主に合わせて攻撃をし、付与された状態異常を増加させていく。
 ミライは仲間達を癒やしながら、シルの動きを目で追う。
 番犬として、初めての依頼でミライが出会ったのがシルだった。
(「右も左もわからない私に、年下だけれど、まるで先生みたいに優しく教えてくれたその日から、君は私にとっての先生で」)
 夢喰いの一撃を受けてシルが、膝をつく。
 すぐさま、歌に力を込めて唄い上げる。
(「これから先も、もっと、もっと、シル先生とはいろいろなことを語り合いたい。成し遂げたいんだ」)
 癒やされたシルが、立ち上がり、ミライを見て頷く。確かな師弟の絆がそこにはある。
「――だから、必ず、一緒に、帰るの」
 モザイクに包まれたその戦場に、願望こそが原動力となることを証明する唄が響き渡った。
「姿は似ていても威力は全然違うみたいだね」
 夢喰いにやられた仲間達の傷を見て、アストラは呟く。
 さすがはデウスエクスといった所かもしれない。
 夢喰いの命中率は低そうだが、油断は禁物だ。直撃を受ければただでは済まないだろう。
 『バラージストリーム』による援護を行いながら、アストラは注意深く立ち回っていく。
「いくぞ――!」
 テンペスタの突撃に合わせて、ラピスも地を蹴り夢喰いへと接近する。
 執拗に腹部を狙うテンペスタの一撃に歯ぎしりをする夢喰い。
 その側面からラピスが回り込み、手にした刀でその黒衣の身体を斬り裂いた。
「ナイスだ」
「お互いに」
 即興ながら上手くいったコンビネーションを互いに称え合った。
 ――戦いは終始、番犬達の優勢で進む。
 時が経つにつれて、夢喰いの攻撃を見切り始める番犬達。
 一方夢喰いの攻撃は、防具のおかげで被害を少なくできている。
 モザイクによるヒールを試みながら長期戦を望む夢喰いだが、回復量だけをみても、番犬達に分がある状況だ。
 徐々に疲弊していく夢喰いの姿を番犬達は感じ取れるようだった。
 シルフィリアスは、後衛に位置し牽制を主とした攻撃を続ける。
 仲間と敵の動きをよく観察し、仲間と連携しながら、追い詰めていく。
 その動きを邪魔に思った夢喰いが、突如狙いを変えてシルフィリアスに襲いかかる。
 咄嗟に後方へと飛び退り、衝撃を緩和する。
「うぅ、危なかったっすね」
「油断はダメだよ!」
 即座に仲間から回復が飛んできて傷が癒やされていく。
 イズナはシルフィリアスと共に、後衛にいながら夢喰いに状態異常を付与していく。
 戦いが長引くにつれて、夢喰いの動きにキレがなくなってきたのは、偏に的確に攻撃を当て続けるイズナの尽力があってのものと言えた。
「わたしだって皆の役に立つんだよ」
 戦力としては心許ない面をあるが、自ら適切な役割につくことで、味方へと貢献していた。
 ミライとアストラも攻撃に加わる。
 ミライがオウガメタルを纏い、その拳で夢喰いを殴りつけると、アストラも二台のスマホで複数のサイトを炎上させ、呼び起こされた効果で夢喰いを燃やす。
 今や回復に余裕がでるほどに番犬達の優勢となっていた。
 ティユは戦いながら、戦場――ワイルドスペースについて疑問を重ねる。
(「これだけ拡げてるのはワイルドスペースそのものが目的ということかね」)
「失われた時の世界……何かそこから得たいものがあるのかい?」
 ティユの問いに夢喰いは口を開くことは無い。
 秘密を守るのだけは得意なようだ。
 ならば、自らの手で謎を解き明かすしかない。そのためにもまずは、この敵を倒す。
 夢喰いの一撃をその腕で受け止めると、ティユは身を翻し炎纏う激しい蹴りで反撃した。
 番犬達のペースで進む戦いに、ついに夢喰いの集中力が切れてくる。
 今もまた、夢喰いの周りを光の蝶が羽ばたき集中力を奪っていく。
「邪魔よ――ッ!」
 イズナの放つ緋蝶に業を煮やした疲労困憊の夢喰いが、イズナへと飛びかかる。
 警戒していたイズナはすぐに間合いを取るように動く。
 鬼気迫る夢喰いの猛追を逃げ退りながら、イズナはシルを見て声をあげた。
「シルとどめよろしくね!」
 手傷を負いながらも笑顔で言うイズナ。頷くようにシルも答える。
「まかせて! おねーちゃん、合わせてっ!!」
 シルの言葉にすぐさまラピスが反応する。
「即席ではあるが……えぇ、合わせるわ」
 シルと夢喰いを挟み込むように移動し、背後から神速の居合いを放つ。
 返す刀で追撃を加え、夢喰いをシルの方へと切り飛ばす。
 そこには詠唱を重ね、膨大な魔力をため込んだシルが待ち構えている――!
「収束剣使ってきたのはびっくりだけど、わたしの切り札は……これだよっ!」
 光り輝く六芒星がシルの眼前に現れ、夢喰いを狙う。
「六芒に集いて、全てを撃ち抜きし力となれっ!」
 増幅魔法を伴う、大出力の一撃が夢喰いに直撃する。
 黒衣纏う夢喰いを蒼白き清浄の光が包み込んだ。
「これで、終わり――消えちゃえーっ!」
 シルの背中に一対の青白い魔力の翼が展開されると、駄目押しの追加砲撃がくりだされた。
「ああ――っ! 消える、私の力が――!」
 白き光柱に飲まれ断末魔の悲鳴をあげた夢喰いは、その光が消えると同時に、その存在をモザイクの塵と変え、完全に消滅していた。
 黒衣纏う夢魔は、蒼白の精霊術士によって今、倒されたのだった――。

●戦い終わって……
「心配かけてごめんなさい!」
 モザイクに覆われた空が次第に元の風景を戻していく中、周囲の修復を終え、探索も終えた面々にシルが頭を下げる。
 やはり手がかりはなく手土産はゼロであるが、シルを無事に救出できたのは喜ばしいことだった。
 頭を下げるシルを見ながら、こうして無事に友人を助けることができたのだと、皆一様に安堵し笑顔だ。
 シルもまた、そんな皆に安心し、笑顔でその場をあとにする。
「それはそれとして、夕飯の時間までに帰ってこなかったのだから、おやつ抜きよ」
「え”……そんな-!」
 夜の帳が落ちた廃遊園地に、一際悲しい声が響いたのだった――。

作者:澤見夜行 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年10月16日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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