鎌倉ハロウィンパーティー~イッツ!ショウタイム!

作者:緒方蛍

 オレンジや紫色に染まる街は、どこか浮かれている。
 クリスマスほどではないが、騒げる口実とあり、心待ちにしている者も多いようだった。――もちろん、楽しみにしている者ばかりではない。
「仮装しても友達いねーし……」
 ぽつりと呟いた青年の正面に、いつのまにか赤い頭巾をかぶった少女が現れた。何者かと考えるより先に、その少女が突きだした鍵が心臓を貫く。
「……本当はハロウィンパーティに参加したい、と……その夢、叶えてあげましょう。世界で一番楽しいパーティーに参加して、その心の欠損を埋めるのです」
「う……ん……」
 胸を貫かれた彼はその場に崩れ落ちる。呼吸はあるが意識は失ってしまった。その代わりのように、傍らには包帯を全身に巻いた男が現れる。ただの人間でないのは、包帯の隙間から覗くモザイクで明らかだ。
 誰かが異変に気付くより先に、包帯男と少女は姿を消した。

「今回の事件は 藤咲・うるる(サニーガール・e00086)さんが調査してくれたんすが、日本各地でドリームイーターが暗躍しているっす」
 黒瀬・ダンテが集まったケルベロスに説明を始める。
「出現したドリームイーターは賑やかなハロウィンに引け目や劣等感を持った人たちで、ハロウィンパーティー当日、一斉に動き出す計画みたいっす」
 しかもハロウィンドリームイーターが現れるのは、今年世界でもっとも盛り上がる会場、鎌倉のハロウィンパーティーの会場なのだと言う。
「皆さんには、ハロウィンパーティーが始まる前にこのドリームイーターを撃破して欲しいっす」
 ハロウィンドリームイーターは、包帯男の姿をしているのだという。
「普通の人との見分け方は、包帯の隙間がモザイクになってるっす。ちょっとわかりにくいかもしれないっすが、大雑把な巻き方なのでわかると思うっす。こいつはパーティーが始まると同時に現れるんで、パーティー開始時間より早く、まるでこれからパーティーが始まる! って感じで盛り上がれば、ハロウィンドリームイーターをおびき出すことができると思うっす」
 モザイクを飛ばしてくるグラビティを使うようだが、鍵は持っていないらしい。
 撃破した後のドリームイーターの死体は、消滅することもあれば別の何かに変わることもあるのだという。それはパーティーに花を添えるものへとなるらしい。
「ハロウィンパーティーを心置きなく楽しむために、ドリームイーターをやっつけて欲しいっす!」
 ダンテは力強くそう言った。


参加者
テュール・バルドル(エストレーヤ家専属戦闘執事・e00002)
花道・リリ(失せモノ探し・e00200)
シルク・アディエスト(巡る命・e00636)
リーナ・エスタ(クルダ流交殺法陰流・e00649)
ベルンハルト・オクト(鋼の金獅子・e00806)
綾崎・渉(地球人のガンスリンガー・e04140)
矢武崎・莱恵(オラトリオの鎧装騎兵・e09230)
雨水・朧(己を知らぬ剣鬼・e15388)

■リプレイ

●夢の支度
 鎌倉市内某所公園。8人のケルベロスはそこに集まっていた。
 目的はひとつ。ハロウィンパーティーに出現する、ドリームイーターを倒すこと。
「こんな感じでどうでしょう?」
 仮装らしい仮装はしていないが、防具のせいかメンツのせいか仮装と言えなくもない姿をしている矢武崎・莱恵(オラトリオの鎧装騎兵・e09230)がくるりと振り返り、長いテーブルに自分で花瓶に活けた花をサーヴァントのタマや、隣で別の花を活けているカボチャ娘姿のリーナ・エスタ(クルダ流交殺法陰流・e00649)に見せる。
「すごい! かわいくできたねっ♪ わたしもできたよ!」
 莱恵よりは多少ダイナミックに活けられた花に、莱恵は目を輝かせる。
 今、この公園にはケルベロスの8人しかいない。先に公園にいた一般人はいつ現れるかわからないドリームイーターを警戒し、先に避難してもらっていた。
 その代わり、と言っては何だが、ドリームイーターを呼び寄せるためのパーティをいっそうそれらしく見せるため、飾り付けを完成させようとしている。
「こちらは……これでいいかしら……」
 ジャングルジムにオバケやジャック=オ=ランタンの切り抜きなどを飾り付けた魔女姿の花道・リリ(失せモノ探し・e00200)がひとり呟くと背後の莱恵やリーナを軽く振り返る。
(「こんな若い子たちとパーティだなんて……しかも楽しそうにしてなきゃいけないのよね?」)
 何しろハロウィンのパーティが始まる、という体でおびき出すのだ。そうでなくてはドリームイーターも警戒してしまうかもしれない。
「リリお姉ちゃん、どうですか?」
「わたしたちが飾ったの、キレイだよねっ☆」
 笑顔でちょうどリリを振り返った莱恵とリーナに、慌てて頷く。
「え、ええ、そうね。とてもキレイだわ」
 頷くと、ふたりは声を上げて喜ぶ。そんな様子を見、今ここで非現実的な仮装をしていると、楽しい、という感情が湧いてくる。
(「ち、違うわ! 仕事だから楽しそうなふりをしているだけよ!」)
 自分の感情に葛藤しているリリの横から現れたのは鎌ではなく刀を手にした死神の格好をしている雨水・朧(己を知らぬ剣鬼・e15388)だ。
「とりっくおあとりーと……であってたか」
 小さく呟いたのは、あまりなじみがないからだろう。
「リーナ、莱恵、向こうのすべり台も終わった」
 もうひとり、やってきたのは狼男のかぶり物をしている綾崎・渉(地球人のガンスリンガー・e04140)、そうして遅れて来たのは英国の童話にでも出てきそうな可憐の令嬢姿のシルク・アディエスト(巡る命・e00636)だ。
「ブランコも終わりました。どうでしょう、リーナさん」
 飾り付けを取り仕切っているふたりにそれぞれ声をかけると、ふたりは揃って公園を見渡した。
「素敵だと思います」
 遅れて輪に参加したのはベルンハルト・オクト(鋼の金獅子・e00806)で、彼は英国紳士の服をどこか奇抜にした衣装で、装飾の付いたシルクハットをかぶっている。
(「こちらのハロウィンは何だか変わっているな……」)
 ベルンハルトの故郷でもメジャーなものではないから、物珍しさも相まっているのかもしれない。
(「被害を少なくして解決したいものだ」)
 思っていると、リーナが5人をぐるりと見回す。
「でも、ひとつだけ注文があるよ」
 そうしてびしっと指を突き立てた。何故だか緊張感が漂う。
 その緊張を崩すようにリーナが口を開いた。
「わたしのことはリーナ『たん』って呼んでね♪」
 がくりと皆が肩を落としたところで、ヴァンパイアの仮装をしたテュール・バルドル(エストレーヤ家専属戦闘執事・e00002)が穏やかに声をかけてくる。
「皆様、私のほうも支度が調いました」
 振り返れば、いつの間にかテーブルいっぱいに数々の菓子類が並べられている。パウンドケーキ、シフォンケーキ、クッキーその他焼き菓子、ケーキの類。男性陣向けにはサンドイッチやチーズタルトなど、あまり甘くないものも三段トレーに用意されている。
 それらを見て目を輝かせたのは、やはり女性陣だった。
「美味しそう!」
「素敵!」
「こんなにたくさん……」
「これは全部、テュールさんが?」
「執事としてはこの程度、当たり前です。たいした物ではありませんが、ハロウィンスイーツをご堪能下さいませ」
 どこか誇らしげにしているのは、彼が彼の務めに自信を持っているからだろう。
「ダージリンはファーストフラッシュ、アールグレイやアッサム、ジャスミンティーなども用意してございます」
 そうして、ベルンハルトが用意されていた機材を使って楽しげな音楽を流し始めた。
 各自が飲み物を手にすれば、さあ、パーティの始まりだ。
「音頭は任せた。派手にやってくれ」
 朧が言うと、全員が頷く。
「「「「「「「「ハッピー・ハロウィン!!」」」」」」」」
 全員が声を揃えて一斉に声を上げる。
 賑やかな談笑に、まさにパーティが始まったかに思えた。

●現実の到来
 乾杯の声が終わると、朧がさりげなくテュールに目配せをし、席を立つ。
「……こっちも派手にやらせてもらうさ」
 これだけ賑やかにしていれば、ドリームイーターもすぐにやってくるはずだ。不敵な笑みを口許に浮かべると、目算が当たったことがすぐにわかった。
 ふらふらとした足取りでやってくるのは、ヘリオライダーの予言通りに全身を包帯で巻いた男――ドリームイーターのお出ましだ。
「来たぞ!」
 鋭い声を仲間たちに投げると、鎌代わりに手にしていた刀を抜く。
 真っ先にリーナが駆け寄ってきた。
「ドリームイーター! 年に一度のハロウィンパーティを恐怖に陥れようとする非道な行い! このリーナたんがゆ゛る゛さ゛ん゛! 地球の平和は私が必ず守るゾ!」
 びしっと凛々しいポーズを決めた前口上。その隙にと動いた影はベルンハルトだ。訓練された動きで初手のスターゲイザーを叩き込む。
「わたしも負けないゾ!」
 リーナの拳が光り輝く。そうしてまばゆいほどの輝きになると包帯男との間合いを詰め、
「もっと! もっと輝けぇ!」
 気合いと疾さを込めた一撃、『光の鉄拳(シャイニングナックル)』を叩き込む!
「グァ……っ」
 惜しくも命中ではなかったが、ダメージは与えられた。
「戦闘執事の名が伊達ではないことをお見せしましょう」
 少し離れた位置から一撃を繰り出そうとしているのはテュールだ。素早く距離を縮めると、
「私のプレッシャーを撥ね除ける事が出来ますかな?」
 余裕と不敵を感じさせる一撃、グラビティシェイキング!
「行くよ、タマ!」
 かけ声とともにボクスドラゴンのタマを肩車し、突撃したのは莱恵。
「融合だ~!」
 ルーンアクスを振り回し、肩の上のタマが挑発的に鳴き声を上げる。
 確実なダメージを与え、バッドステータスもついた。流れは完全にケルベロスたちに味方している――はずだったが、包帯男のドリームイーターはモザイクで回復してしまった。
「ハロウィン……パーティ……オレハ、ヒトリ……」
 悲しげとも苦しげとも取れる呟きに、リリが眉を寄せる。
「それは自分のせいでしょ。他に当たるなんて勘違いも甚だしくてよ」
 リリの言葉に頷いた朧が刀を構える。
「……まったくだ。ドリームイーターよ、これならどうだ? 習った覚えは一つもねえが、使えるもんは使わせてもらうぜ。さあ、死体になりやがれ――!」
 花弁の形を描くような6回の斬撃は神速。逸れたが、手応えはあった。
「長く付き合うつもりはない」
 冷静な言葉を渉が呟く。その頭に狼のかぶり物はもうなかった。
「――さっさと決める」
 掌底から繰り出した降魔真拳が包帯男の正中を打ち抜いたかに見えた。
「……くっ、わずかに逸れたか……」
 悔しげな声を出した渉の前に、ドリームイーターが身に纏っている包帯がひらひらと揺れる。

●現実の終わり
 攻撃は一手、二手と重ねるが、命中は避けられている。回復もされてしまえば多少の焦りは出てきた。
「これなら……どうでしょう」
 シルクの手のひらからドラゴンの幻影が現れる。そうして勢いよく包帯男に食らい付く! 先にテュールがブレイズクラッシュで与えていた炎のダメージに重ねた。
「ガアアアア、……パーティ……コワス……」
 それでも怨嗟の声をあげる包帯男を、朧はどこか憐れみを込めた目を向けていた。
(「友がいない、か……」)
 そのことには共感しないでもないが、それとハロウィンパーティをぶち壊そうとするのは話が別だ。
「気に入らないからと、壊していいわけではない……」
 愛刀の斬霊刀・八間脱兎落椿から絶空斬が放たれる。右肩のあたりに攻撃を受けた包帯男のドリームイーターは体を軋ませるように動かすと、なおもパーティへの恨み言を言う。
 それを見て、集中力を高めていた渉が素早く動いた。
「隙有り、だ」
「ガァッ!!」
 突如として包帯男の右足が爆破される。サイコフォースだ。
 弾かれたように顔を上げたベルンハルトが包帯男を見つめる。体温の上昇。視界が朱に染まっていく。
「I Have Control」
 呟きとともに機動力の限界まで使って間合いを詰め、強烈な一撃――『限界突出刃撃(シンクノホウコウ)』を叩き込んだ!
 ドリームイーターが初めて地に膝を着く。
「何故……パーティ……呼バレナイ……」
 その呟きは、リリの癇に障った。
「……私だって、」
 柳眉を逆立てたリリの表情は険しくも美しい。
「仕事じゃなきゃ一緒にハロウィン祝う相手なんていないわよ……」
 取り出した符から、青い蝶、青い鳥がいくつも現れる。どこか幻想的だが、帯びているのは青いオーラだけではない。
「私だって友達いないんだから!!」
 包帯男へと襲いかかる蝶や鳥が、雷を纏った虎と変じる一撃、『蝶鳥雷虎(チョウチョウライコ)』には、明かな怒りと憤りが籠められていた。
「アアアアアアアアア……ッ!!!」
 黒焦げになった包帯男のドリームイーターが、ばたりと地面に斃れる。
 ぴくりとも動かなくなったことで、ようやく倒せたとわかった。

●そしてまた、夢へ
 濡れた目許を拭ったリリの傍に、テュールがやってくる。
「リリ様。私たちは友達ではないかもしれませんが……仲間です」
 今回だけではなく、これからも。
「それって、友達と一緒じゃないかな?」
 莱恵の言葉に、少し離れたところで遊具にヒールをしていたベルンハルトが振り向く。
「……なるほど、そういう考え方もあるか」
「片付けはこんなもんか。ケルベロスはアフターケアも大事だ……どうかしたのか、ベルンハルト」
「いや……なんでもない」
 渉に首を振る。
「それより、狼のかぶり物はいいのか。大切なものなんだろう?」
 戦いの時には脱いでいた。ベルンハルトがそこを指摘すると、渉は慌てて首を振る。
「あれは……! あれは、姉のリクエストだったから……!」
 だからそれを守っただけだと言い訳する。
 そんなふたりを後目に、リリはほんの少し頬を赤らめて俯いた。
「なんだか……ありがとう、皆」
「さあ、落ち着くには甘い物も有効ですよ。幸い菓子は無事ですから、お茶を淹れ直しましょう。宜しければ、皆様も執事特製ハロウィンスイーツは如何ですか?」
 気を取り直して、といったところで、小さく悲鳴を上げたのはシルクだ。
「きゃあ?!」
「なんだ……あっ?!」
 とうになくなっていたと思っていたドリームイーターの体が煙に包まれた、かと思うと「ぽよよ~ん」と間抜けた音を立てて破裂した!
「えっ、なに、倒したんじゃなかったの……?」
 リーナが慌てて煙を払う仕草をし、
「皆、気を付けろ」
 渉がリボルバー銃を構える。だが、銃口が火を噴くことはなかった。
「……なんだこれ」
 煙が晴れて現れたのは、ジャック=オ=ランタンのタワーだ。高さは2mほどあるだろうか。口の中には灯りが灯されている。
「そういえば……ドリームイーターはパーティに花を添えるものに変わるかもしれない、というお話もありましたね……」
 どこか呆然とシルクが呟く。
「かわいいね、これ。登れたらもっと良かったのにな」
 莱恵が自分の背丈の倍ほどもあるカボチャタワーを見上げた。ずいぶんと大きな飾りへ変化したものだが、たしかに子供たちは喜ぶかもしれない。
 少し離れた場所から、朧は刀の柄にやっていた手を下ろした。
 友人がいないのは朧も同じだった。だから心のどこかで、包帯男に同情もしていたのだ。
「……次は、俺にでも声をかけるんだな」
 ドリームイーターの素になったのは、どんな人物だったのだろう。
 仲間たちの賑やかな声を背に、静かにその場を後にする。
 そうして、世界で一番盛り上がるハロウィンパーティが幕を開けようとしていた――。

作者:緒方蛍 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2015年10月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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