人の目に映らぬ刃

作者:久澄零太

 アーティア・フルムーン(風螺旋使いの元守護者・e02895) が後方へ飛び退いた直後、その足元が不可視の力でえぐり取られる。
「ちょっと洒落になってないんだけど……!」
 人里離れた場所にある温泉街。かつては湯治客でにぎわったここも、今となってはすっかりすたれてしまった。それでも一部のリピーターはいるようで、時折人とすれ違う中、廃業した温泉宿が連なる人の立ち入らない区画。そこに何かに呼ばれるようにしてアーティアが踏み込んで、見つけた物はひっそりと隠れるようにして広がるモザイクの空間。
 調査の為に中に入った結果、彼女を待ち受けていたのは鏡映しの自分と、目に映らない得物による襲撃。回避に専念する彼女の頬に冷や汗が伝う。
「ここを見たからには生かしては帰さん」
「しま……」
 背後からの声にアーティアが振り返った時、白刃が閃いた。

「皆集まったね!?」
 大神・ユキ(元気印のヘリオライダー・en0168)はコロコロと地図を広げて、とある温泉街を示した。
「ここに調査に向かったアーティアさんがワイルドハントに遭遇して襲われちゃうの。急いで救援に向かって!」
 元々そのつもりで備えていた番犬達の動きは速い。得物を携える者、ケルベロスコートを纏う者、それぞれ出撃準備を整える中、ユキはアーティアの写真を取り出した。
「敵はアーティアさんと全く同じ姿をしてるの。でも、雰囲気が違うから見間違えることはないと思う。それより気をつけて欲しいのは、相手の武器なんだけど……」
 急に眉根を寄せる彼女に、番犬達は首を傾げた。
「見えないの」
 その一言に、疑問符を浮かべたり、何かを察したり、反応は様々だが、少女は告げる。
「敵の武器が見えないの。だから誰を狙ってるのかも分かりにくいし、どう攻撃してくるかも凄く分かりにくいの。そのせいで避けるのも防ぐのも凄く難しいから気をつけて!」
 人の目に映らぬ武器。恐らくはグラビティの類なのだろうが、黙示することができないとなれば対処のしようがない。万全の防御陣形を敷くか、速攻で片を付ける必要があるだろう。
「あと、敵は忍者っぽいだけあって、すごく動きがすばしこいよ。攻撃が見えない事と合わせて、致命傷を受ける可能性が高いから、絶対に油断しないで」
 それまで話を聞いていた四夜・凶(蒼き灯は誰が為に・en0169)が口を開いた。その重々しい雰囲気から、覚悟が覗える。
「最悪、私が特攻して押さえます。その隙に一斉攻撃を」
 一度だけ、その身を犠牲にチャンスを作ってくれるらしい。彼というカードをどこで切るかも重要になるかもしれない。
 真剣な眼差しでありながら、その身を微かに震わせるユキは胸元で両手を握る。
「皆、約束だよ。絶対に全員で帰ってきてね……」


参加者
アーティア・フルムーン(風螺旋使いの元守護者・e02895)
ラプチャー・デナイザ(真実の愛を求道する者・e04713)
舞原・沙葉(ふたつの記憶の狭間で・e04841)
コルティリア・ハルヴァン(グレイガンズディーヴァ・e09060)
リザベラ・フォックステイル(シルバーフォックス・e15198)
ソル・ブライン(ファイヤーソルブライン・e17430)
ティナ・ロンドルセル(カーテンコールは誰がために・e22701)
シフォル・ネーバス(アンイモータル・e25710)

■リプレイ


「見えない攻撃だなんて忍者っぽい技じゃない。本当に厄介なんだから」
 斬られた首の浅い傷に手を添えて、アーティア・フルムーン(風螺旋使いの元守護者・e02895)が息をつく。
「恐らくは私と同じ風螺旋……だとしたなら空気の動きが見えるようになれば少しはマシになるかしら?」
 自分と同じ姿なら見当はつく。問題はその対処法だ。
「温泉街だし、お湯を風で巻き上げて散布したり湯をさらに熱して蒸気を発生させてもらえば……」
 そこまで考えて首を振る。得物の動きを見切るために常時湯気を維持するだけの余裕がどこにあるというのだろう……仲間一人がなぶり殺しにされてもいいなら話は別だが。
「さすがにそれはないわよね」
 牽制の為に先手を取ろうと飛び出した瞬間、もう一人のアーティアと鉢合わせに。
「あ、あらこんにちは……」
「そしてさよならだ」
 口元をヒクつかせるアーティアに、忍の貫手が迫るもその一撃を阻むように炎の矢が二人の間に撃ち込まれ、両者距離をとる。
「援軍の到着よ。変な気分ね、敵がアーティアと同じ姿というのは」
 ティナ・ロンドルセル(カーテンコールは誰がために・e22701)は周囲に炎の矢を滞空させたまま、二人の忍を見比べて首を傾げた。そして敵の体捌きを見切ったラプチャー・デナイザ(真実の愛を求道する者・e04713)がさーっと青ざめていく。
「こいつ、術の型でござるー!?」
 周囲に自身の重力鎖を散布し、敵や周囲の動きを察知することで命中精度や攻撃の軌道予測にあてる……速い話、狙の型でもなきゃ攻撃が当たらないと察したラプチャーが後ろを振り向いた。
「この戦い、お二人に我々の命運がかかってるでござるよ!!」
 ティナが小さく頷き、敵の姿を目視したコルティリア・ハルヴァン(グレイガンズディーヴァ・e09060)が自分の胸に手を当てて、少しだけ目を閉じる。
「……行くよ、クロム。私は、恐くない」
 まぶたを開けばもう不安はない。命中精度を高めるために拳銃を構えた手を逆の手で押さえつけ、発砲の反動を最小限にしながら敵の足元へ鉛弾を撃ちこむ。
「アーティにゃん生きてる?」
「なんとかね……」
 リザベラ・フォックステイル(シルバーフォックス・e15198)は忍が飛び退いたのを横目にアーティアの傷に月光のような光をあてて止血。
「危ないね……これもう少しで致命傷だよ?」
「やっぱり?」
 すんでの所で回避していた故に深手には至らなかったが、対応が遅れていれば動脈を断たれていただろう。
「凶……何も言わずに身代わりになったりしないでほしい。お前があの時のように傷つく所は、もう見たくないんだ」
 舞原・沙葉(ふたつの記憶の狭間で・e04841)の脳裏に蘇るのは、凶の体を貫通した刃と天を突く蒼白い火柱。忘れもしない、あの瞬間……。
「他の皆も、お前をカードとは思っていないからな。だから、もし無茶をしたら……」
 沙葉は首を傾げ、凶の顔を覗き込むようにしながら。
「泣くぞ?」
「えー……」
 冗談めかしていう沙葉に凶は半眼になりつつも、最後には微笑みを返して。
「まぁ、肝に銘じとく」
「そうか」
 視線を重ねた少女は得物の切先を地面に向けて、重力鎖を拡散。前衛の武器に纏わせその鋭さを増していく。
「誰一人この眼の前で死なせない。絶対に守りきる。それがわたくしの矜持ですわ」
 シフォル・ネーバス(アンイモータル・e25710)が扇を広げ、口元隠すように当てながら自分の体に重力鎖を這わせて防御体勢を整えていく。
「それで、今日はなんの集まりでしたかしら?」
 分かってないのに自己強化してたの!?


「くっ、かすりもしない……!」
 花飾りのついた紫水晶を投げるアーティア。回り込むような軌道を描いた回避の難しい物のはずが、忍はヒラリと回避。あまりの身軽さに、沙葉は攻撃の手を止めて後衛に刃の加護を飛ばしつつ。
「私たちの攻撃は届きそうにない……二人とも、頼んだぞ!」
「えぇ、なんとしても隙を……」
 刃が大きく波を打つように、中心にくびれをもつ長剣を構えるティナだが、彼女が踏み込むよりも速く敵が懐に潜り込んでおり、掌底を叩きこもうと腕を引いた。
「ヒーロー……ではないがヒーロー参上!と言っておこうか!!」
 ソル・ブライン(ファイヤーソルブライン・e17430)が二人の間に割って入り、振るわれる掌底と炎にも似た色彩の大剣がぶつかり合う。純粋な馬力ならソルが上回るが、敵は力の流れを読み彼の大剣の軌道を逸らして鳥の頭を模した装甲を殴りつけ、彼を吹き飛ばしてしまう。
「ちょっと!痛い思いするのはアタシなんだからちゃんと避けてよ!」
「無茶を言うな」
「アタシが高速戦闘用なのにアンタが鈍くさいだけでしょ!?」
 もはや廃墟と変わらぬ宿をぶち壊して瓦礫に埋もれるソル。降り注ぐ残骸を押し退けながら支援機の苦情に渋い顔をする。が、次の瞬間奥歯を噛み締めるようにして咄嗟に大剣を構え、衝撃に備えた。
「……反応速度はあるのか」
「各種伝達系は高速戦闘に対応して速度重視でな……!」
 得物で防いでなお衝撃が全身に響き、瞬く間に痛みに変わる。直撃を貰っていればコアをやられていた可能性すらあった。
「ソルさん、そのまま」
「応!」
 背後を取ったティナに素早く背面蹴りを放とうとする忍を力任せに体勢を崩させ、反撃を封じるソル。がら空きになって背中から放つ刃で大きく弧を描くようにして四肢の腱を狙うが、断ち斬るには至らない。
「まだまだ行くよ!猫キーック!!」
 コルティリアによる猫パンチ……もとい、(右腕という名の)前脚による蹴りが忍の側頭部を捉えて脳震盪を引き起こし、動きが鈍る忍へソルが両手を重ねた中に稲光を生み出す。
「我式機闘術・雷光弾!」
「遅い」
「……だろうな」
 ほぼ零距離で放たれた雷を避けて反撃に転じる忍に対し、ソルの翼のような装甲が左右一つずつ外れて連結。両剣に姿を変えたそれを見向きもせずに掴んだ。既に懐に踏み込まれて棒術は振るえないと見えたソルだが、敵の攻撃が届く寸前に瞬時にバックステップ。そう、彼の思考回路は自身と支援機、『二つ』ある。ソル自身が攻撃に意識を集中させ、支援機が咄嗟の回避をフォロー。必中と思われた攻撃が外れ、一瞬だけできた忍の隙を赤い機人は見逃さず、体を絡めとるようにして捕え、大きくブン回して地面に叩きつける。
「我式機闘術……旋追棍」
 残身と共に武装を装甲に返し、ラプチャーとスイッチ。
「さすがに今なら当たるでござろう……今まで散々一方的に攻撃してくれた分、お返しでござる!!」
 取り回しを優先して黒い短刀を生み出し突き立てるラプチャー。小さな刃は忍が避けきる前にその腕を掠め、残した小さな傷を基点に毒にも似た重力鎖が全身を駆け巡り、引き起こされた脳震盪や靭帯の痛みを加速させ、鈍重の呪いとしてその身を蝕んでいく。
「ソルさんまだ動けそう?」
「戦闘に支障はないな……こっちの鳥がうるさいが」
「うるさいって何よ!?実際アンタ死にぞこないでしょ!?」
 あくまでも、まだ戦えるというだけでガタが来ているソルの装甲に治療用の弾丸を撃ち込み、ある程度修復したところでリザベラは工具を取り出した。
「じゃあ直そうか」
「え、リザベラ、本当に大丈夫か?」
 恐る恐ると言った雰囲気のソルに、リザベラがサムズアップ。
「今年の春から工具弄ってるし、大体ノリと勢いで何とかなるから」
「!?」


「さて、どうにか攻撃が当たるところまでは持ち込めたでござるが……」
 ここから反撃、とはいかない事はラプチャー自身がよく分かっていた。事実、背後に回られ振るわれた拳をシフォルが鉄扇で受け止めてくれるまで気づけなかったくらいには状況はよろしくない。
「命中精度は落ちてないし、直撃した時のダメージ大きすぎでござらんか!?」
「え、そうなんですか?」
 忍を押し返してキョトン顔のシフォルにリザベラが遠い目をする。
「さっきソルさんが一撃で瀕死に追い詰められてたでしょ……攻撃が正確なのもあるけど、武器が見えないからリーチが読めなくて避けづらい上に、毎回急所狙って来るから、直撃貰うとただじゃ済まないの……」
 実はこの説明、三回目だったりする。シフォルの忘却癖に彼女も違う意味で疲れてしまったのか、どことなく説明がおざなりだ。
「今度こそ覚えた?」
「ええもちろん」
 真っ白おめめをキリッとさせたシフォル。問題は振り向くまでに足が三回地面に触れた事だろうか。
「今朝の朝ごはんはおにぎりとウーロン茶でした!」
「その話はヘリの中で終わったでござろう……!?」
 頭を抱えるラプチャーだが、彼女の利点も全くないわけではなく。
「あら、いつの間にか怪我を?」
 彼女は鉄扇を振るって自らに光を振りまき、傷を癒してその身をより強固にする。そして盾として部隊を支える……その度に、シフォルは自分が攻撃されたことすら忘れてしまうのだ。幾度となく武器を交えれば、その都度見てきた敵の今までの動きという『先入観』を持って臨むことになる。しかし、彼女はそれすら忘れてしまう故に……。
「やや、何か武器を……」
「っ!そちらですね!?」
 ラプチャーが忍の手先が不自然に動いた事を見抜いて、今までにない動きから新たな武器でも出るのかと思うところを、全てが初見になるシフォルには、その動きは誘導で、本命は逆の手による正面からの貫手だと見抜くことができ、直撃を貰うことなくカバーに入ることができるのだ。
「戦えば戦う程致命傷を貰う可能性が高くなる……それがシフォルにはないのは忘れやすい事の利点か……?」
 疑問符を浮かべる沙葉もまた、敵に動きを見切られて防御を掻い潜る一撃を貰っている。今まで積み上げてきた鍛錬による経験則。敵はそれを逆手にとり、番犬の思考回路の先読みをして致命傷を叩きこんでくるのだ。
「この流れは不味いですね……」
 ティナは被害状況を確認して、武器を握り直す。今回は速攻でケリをつける電撃作戦のはずだった。故に二人の狙の番犬による回避阻害から始まり、攻撃が当たる状況を作ってから一気に畳みかける……というプロットが、敵の高い回避率の前に破綻。狙の二人しか攻撃が当たらず、全員で攻撃を叩きこむまでに時間がかかってしまった。その間に番犬の癖を見抜かれ、事実上の仕切り直し……いや、素の戦闘力に差がある分、番犬側が不利だろう。
「ここらが潮時か」
 凶が避雷針を収め、拳を鳴らす。追い詰められたのは番犬だけではない。攻撃が当たらない間、番犬同士互いに加護を固め合っている。後は一斉攻撃が当たれば……。
「あちらは弱っているとはいえ、こちらの動きはガッツリ読まれてそれをフォローされるでござる。正直、押し切れるか押し切られるかの瀬戸際でござるよ……」
 だから、分かるな? 言外の意図を読んだ凶が頷き、地面を踏み締めた。
「ちょーっと待ったぁ!!」


 凶が腹をくくった瞬間、蒼月の声が響いて周囲を爆発が包み込んだ。いくつも立ち昇る水色の火柱は黒猫の火花を散らし、番犬に降り注いで傷を癒していく。
「知り合いが何か諸々危険が危ないらしいので、助けに来たよ!おぅ、敵さんは何か思春期真っただ中な十代男子には中々に刺激的な……刺激的な?」
 布面積の少ない忍を見て、アーティアを見て、頷く。
「平常運転だった!!大丈夫だ、問題無かった!」
「ごめんなさい、彼が遅刻したせいで到着が遅くなったわ」
 後ろの方で小さくなっていた翔にメルティアの言葉が突き刺さる。事務的に言う事だけ言ったメルティアは意にも介さず、浮遊機を展開。前衛の傷を癒しつつ防御陣形を整えた。
「で、出遅れたぶんしっかり働きますから!!」
 翔も慌てて鬼鋼を伸ばし、どことなくすまなそうな雰囲気を醸し出す銀色の霧が前衛に戦意と集中力を取り戻させていく。
「そんじゃ、いきますか……」
 凶が一足で忍との距離詰める。肉薄した彼の目の前から消えた忍は左に回り、心臓めがけて貫手を放つが、あえて避けない。敵を抑える為にわざと直撃を……受けるはずが、割り込んできたユウマの鉄板を繋ぎ合わせたような大剣が身代わりになり、受け止めた彼の全身を骨まで震えているのではないかと思う程の衝撃が駆け抜けていく。
「こんなのモロに食らうつもりだったんですか……!?」
 悪い、ありがとな。小さく呟いてユウマの陰から飛び出した凶が忍の腕を取り、しかし胴体を抉り抜く様な不可視の一撃が直撃するが、そちらは気にも止めない。
 左手で手首を、右手で肩を掴み骨の骨の接合部分に指を押し当てて、捻り込むようにブン投げる。遠心力に敵の体重を乗せて、更に肩に回転をかける事で関節を強引にぶっこ抜き、さらに填め直せないように衝突の瞬間右手に圧を乗せて掌底を撃ち込み、骨を砕いた。
「仕留めるなら今かしら」
 ティナの長剣が炎を纏い、火の粉が尾を引きながら肉薄。忍が跳ね起きた瞬間に交差、斬撃。体勢を崩させたところで続けざまにラプチャーが刃を振りかざせば忍が片手を軸に跳ね起き、彼目がけて拳を振るおうとした瞬間、刃をすり抜けるようにして心臓を捉えるはずだった一撃に弾丸が撃ち込まれ、機動が変わり肩を吹き飛ばす。激痛に歯を食いしばしながらもその慣性に乗り、一度空ぶった刃を構え直しながら片脚を軸に反転、背後から斬り捨てる形でラプチャーの一閃が舞う。しかし。
「ダメッ……!」
 背面蹴りで彼の得物を弾いた忍が振り向くより速く、コルティリアが飛び込んで……。
「全く、コルティ殿といい、凶殿といい、皆無茶をしてばっかでござるよ。やれやれでござる」
 咄嗟に前後を入れ替えたラプチャーが片腕をズタズタにされながらも忍の腕を掴み、篭手に仕込まれていた返しのついた刃を観察する。
「鎌鼬については風螺旋とやらの話を事前に聞いていたでござるが……なるほど。風の一撃と同時に暗器で傷を抉り、深手を負わせていたというわけでござるか」
 タネは簡単だ。風という見えない得物で敵の体を大きく傷つけて、その範囲内にある急所に暗器を撃ち込み離脱と同時に肉を引き千切る。見た目には一撃で派手にダメージを与えたように見えるが、実体は二段構えの攻撃だったのだ。これでは防いだと思った直後に暗器が防御の隙間をすり抜けて撃ち込まれるため、接近させた時点で致命傷に近い一撃を貰う事になってしまう。
「知って、どうする?」
「ごふっ!?」
「うにゃ!?」
 薄い笑みを浮かべる忍に蹴り飛ばされ、ラプチャーと彼の後ろにいたコルティリアが倒れ込む。
「分かったところで防ぎようもあるまい?」
「まぁ、もう使わせなきゃいいだけの話だけどな」
 未だ余裕を崩さぬ忍の直上。跳躍したソルの大剣が稲妻を帯び、真っ白に帯電している。
「我式機闘術……」
「馬鹿め、そんな大振りが当たるわけが……」
 フワリ、黒髪が舞う。忍が沙葉の接近に気づいた時、彼女の手は既に刀の柄にあり、鯉口を切っていた。
「攻めるタイミングがなく、互いに加護をかけあっていたからな……この一撃は重いぞ……!」
 鞘をやや下方に向けて斬り崩す様な居合抜き。脚を切り裂いて鮮血をまき散らし動きを止めた忍へ。赤い機体が迫りくる。
「超次元ソードッ!!」
 振り下ろされた大剣は袈裟切りに忍の体を貫いて、斬痕からは血飛沫の代わりに白煙を上げる。あまりの高熱に血の水分が蒸発し、傷口が焼きつけられたのだろう。
「アーティアさんの背中はお任せを。存分に力を振るってください!」
 フローネが盾を展開、アーティアに紫水晶の加護を捧げ、そっと送り出す。頷いたアーティアが手刀に纏わせたのは風の流れのようだが、違う。見る者が見れば分かるだろう。それは空気の流れなどではなく、ただの力の流転に大気が巻き込まれているのだと。
「その力は偽物が持っていていい物ではないの」
 だって、見ていて辛いから。
「これでトドメ……」
 螺旋の力は私の物であって、私の力ではない。それを自分の姿で好き勝手使われるのはあまりにも……。
「終わりよ!」
 打ち込んだ掌底は空間を押し潰し、生まれた歪みが衝撃を生んで三半規管を狂わせる。混乱する脳が頭蓋骨ごと揺さぶられて一時的に麻痺した瞬間、神経系に痛覚の誤情報が走り抜け、混乱したままの脳がそれを処理しようとして……。
「……」
 トサッ。忍の脳がオーバーロードを引き起こし、力なく崩れ落ちて消えていく……同時にモザイクが晴れ、決着を示した。
「凶……あれほど無茶をするなと……」
「泣くなよもー……」
 腹部の大きな傷にヒールを行う沙葉と、彼女の目尻の雫を拭う凶。あの時ユウマが飛び込まなければ、彼はこんなに悠長な事をしていられなかっただろう。
「アーティアさん!」
「ん……きゃ!?」
 戦闘を終えて、長いため息をつくアーティアに翔が抱き着いた。
「無事で……本当に良かったっす……俺、アーティアさんに何かあったらって思うと気が気でなかったっすよ」
「でも遅刻したのよね?」
「うっ」
「私より大切な用事があったんだ?」
「そ、そうじゃないっすけど……!」
 じとー……抱きしめた至近距離のジト目に翔はそっと目を逸らす。まだ言えない。遅刻した理由は、ここで語るべきではないのだから。
「……拙者には見れぬ、眩しい光景でござるよ」
 ラプチャーは静かに微笑み、一人ヘリの降下地点へ向かうのだった。

作者:久澄零太 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年10月18日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 3
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