●遊星、悩む
「そうか……俺もいよいよ三十路か」
或る日、遊星・ダイチ(戰医・en0062)は深い溜息を吐いた。
施術白衣にゴーグル、動きやすさを重視したショートパンツにブーツ。それほど高くはない身長に幼い顔立ち。何処から如何見ても少年にしか見えないのだが、ドワーフである彼は立派な成人。しかも三十歳を迎えたばかりだ。
椅子の上で戯れに脚を組んだダイチはふと考える。
未だちいさな子供だった頃、三十歳という年齢は随分な大人であり、もっとしっかりしていると思っていた。だが、実際にはどうだろう。
二十歳も三十路も十代からの延長線上に過ぎず、遠い昔から憧れていた『大人』になったという自覚は薄い。
「……俺は、誇れる大人になれているだろうか」
誰かにとって頼れる存在でありたい。
それが普段から彼が豪語し、目指しているものだ。しかし、本当にそう在れているだろうか。歳を重ねたことを機に誰かの為に新たな何かをしたい。
暫しダイチは考え込み、そして――。
●人生相談所へようこそ
ヘリポート近くのラウンジにて。
「ということで、期間限定の特別診療を行うことにしたぜ」
仲間を集めた俺は胸を張り、一日だけ或る計画を実行すると伝えた。
先ず話したのは昔のこと。
自分が元いた地底世界で町医者をやっていたこと。ウィッチドクターであるがゆえに病魔を倒したりもしていたが、問診などの普通の医者らしいことの序に患者の相談に乗っていたこともある、ということだ。
「普段から世話になっている仲間……お前達に俺が出来ることを考えた結果だ。ちょいと健康診断がてら、診療を行おうと思ってな」
我ながら良い考えだと思うが、其処までは敢えて言わないでおいた。何故なら大人とは適度に慎み深くあるべきだからだ。
「とはいっても、ケルベロスに病気や怪我はほぼ無縁だ。だから、な」
此処からが大事だと告げ、俺は発表する。
今回、行うのは診療という名の人生相談。つまり――『人生診療』だ、と!
「ケルベロスにも日々の悩みや困りごとくらいあるだろう? それを何でも聞こう」
もしよければ、と添えて俺は仲間を見つめた。
些細なことでも、真剣に悩んでいることでもいい。悩みが見つからなければ今晩の献立でも一緒に考えよう。
それくらいの気持ちで気軽に来て欲しいと伝えた。
医療と違い、裡に抱えた苦悩は完全に取り払うことはできないかもしれない。
だが、誰かに悩みを話すことで先に繋がるものもあるはずだ。勿論、本当に健康診断に来て貰っても一向に構わない。
「いつも言っているだろう。困った事があればいつでも俺を呼んでくれ、と」
出来る限りの決め顔で俺は皆に笑顔を向ける。
決まった、と思う反面で本当の意味で仲間の力になれるだろうかという懸念もあった。だが、その辺りの心配はしないことにした。
何故なら、俺は幼い頃からずっと信じているからだ。
絆の強さを。そして、蕾のような小さな思いも、いつかは実を結ぶということを――。
●感情の移ろい
人生診療、最初の相談者はヴェアトリスとオルクス。
並んで席に座った二人は対照的で、片方は悩みなどない様子に見えた。
「俺の相談はこいつの事だ」
「僕は必要ないっていったんだけどね? 不自由はしてないよ」
「うるせぇ、オルクスは黙ってろ。それじゃあ、駄目なんだよ」
どうやらヴェアトリスはどうにかして彼だけの感情を感じて欲しいらしい。当のオルクスは教えて貰った常識があるから大丈夫だと言い、淡々とした様子だ。
「また大きな人生相談だ。しかし……うん、そうか」
「何か分かったのか?」
俺が何度か頷くとヴェアトリスは期待の籠った瞳を向ける。しかし、解決法が見つかった訳ではないと伝えると彼は残念そうな様子を見せた。
「まあ焦るな。時にオルクス、今はどんな気分だ?」
「少し良いなぁと思うよ……。でも、これもそう思った方が良くて言ってみてようと思ったのかな。これが、僕の感情かは分からないけれど」
それでも皆の笑顔が見れて嬉しい。オルクスは問いにしっかりと答えてくれた。
それがたとえ感情の真似事でもいい。繰り返すことで生まれるものもあるのだと思う、と告げるとヴェアトリスは少し肩を落とした。
「今の所はこいつと一緒に色んな事を経験して行こうと思ってんだが……」
「分かってるじゃないか。彼と一緒に過ごしてやれ。それはもうとことんまで、楽しんで遊び尽すと良いぜ」
ヴェアトリス達が楽しめばきっとオルクスは更に学んでいくはずだ。最初から解決策を知っていた彼に賞賛の眼差しを向け、俺は願う。
いつかの未来、彼らが共に心から笑いあう日が来ることを――。
●惧れを捨てて
大切だと思える人と付き合って一年。
それまではそういうことに消極的だったという唯覇。不器用ながらも彼なりに大切にしていること、しかし今のままで良いのかと悩む心。
彼が語った言葉からは、相手を大事に思うあまり現状に迷う様が見て取れた。
「彼女に見放されない為には今後どう動くべきか……相談したい」
「そうだな、まず惧れを無くすのはどうだ?」
唯覇は少し、悪い未来を恐れているように思えた。ならば先ずは見放されたくないという感情を他所にやり、本来の自分が相手と何をしたいかを考えるといい。
「きっと、唯覇の大切な人もありのままのお前が好きになったんだと思うぜ」
「そうか……見苦しい相談ですまないな」
「いいや、そんなことはないさ」
迷いや不安は誰にでもある。彼が思い悩む事もまた、大切な感情のはずだ。
●甘いレシピ
サイファが相談したのは『簡単に作れて幸せになれるスイーツのレシピ』について。
忙しくてスイーツ巡りが出来ないという彼に送る、とっておきの情報だ。
「バターナッツという品種の南瓜を知っているか?」
普通の南瓜とは違い、細長い瓢箪のような形をしたそれは皮が薄い。
そのため簡単に半分に切ることができ、電子レンジで温めるだけで食べられる。しかも甘みが強い物が多い。
そのままスプーンで掬って食べるもよし、粗目砂糖をかけてオーブンで焼いてもよし。時間をかけられるなら裏ごしして南瓜プリンに。南瓜のモンブランにしてもいい。
「……と、こんな感じだな」
「ありがとう。今度作ってみる! その時はダイチも試食してくれる?」
「勿論だ」
やはり甘い物は和む。穏やかな会話を交わし、俺達は明るく笑いあった。
●いつかの未来に
誕生日の贈り物だというクッキーをくれたのはアンセルム。
祝いに感謝を告げて彼に席を進め、真面目な相談が始まってゆく。
――もし、ケルベロスじゃなくなったらどうする?
全てを解決して、戦いの終わりが告げられた時に一体どうするか。アンセルムは俯き、傍らの人形に視線を落とす。
「俺は変わらず医者をする心算だぜ」
「そっか。ボクは……情けないけど、取り柄も学もないから」
何処か不安気な彼は未来に希望が持てないでいるようだった。
「無いなら取柄を作るのはどうだ? 物事は移り変わる。遠い先、ずっと今のままのお前で居続けたいわけじゃないだろう」
細胞ひとつをとっても日々変化している。変わらないものはないのだ。アンセルムがこの先にどう動くかは彼次第。それでも、彼の未来を応援したくなった。
●朱の箱竜
「ぎゃーうー!」
「はは。こらこら、暴れるな」
ボクスドラゴンのフレアに聴診器をあてて調子を診る。俺は獣医ではないが健康なことは分かり、主である碧人にフレアを返した。
「私の健康はまあ問題ないとして、この子がご飯たくさん食べる割に大きくならないんですよね。ご飯足りてないのか少し不安で」
「うーん、箱竜もそれぞれだからな。心配な気持ちは分かるが健康そのものだぜ」
「ギャウッ!」
碧人に抱かれたフレアはじたばたと手足を動かし、机上に置いてあったクッキーが欲しいと催促する。ほら、と一枚分けてやると箱竜は幸せそうに齧りついた。
「可愛いな」
「はい、可愛いでしょう?」
思わず呟くと碧人が深く頷く。
そして暫し、俺達はフレアの愛らしい姿をみてほのぼのとした時間を過ごした。
●病に立ち向かう
医療に関する相談を持ちかけてきたのは悠乃だ。
「今の私たちが狂月病の病魔に挑んだ場合、勝算はどれくらいと思われますか?」
旅団で狂月病について調べていると話した彼女は真剣な表情で問う。
だが、俺は首を振った。
「すまない、俺も一介のウィッチドクターに過ぎない。病魔について一概にこうとは言えないし、お前達が調べて分かっていないことは俺にも分からないんだ」
「そうですか……ありがとうございました」
そうして、俺は悠乃が帰っていく背中を見送った。
いつか成果を得られると良い。医師として未来を思う同志へ、応援を込めて――。
●想い合う二人
「シャルフィンの事が好き過ぎるのが悩みなんだ」
「マサムネが俺の事で悩みすぎるというのが気になっている」
二人一緒に訪れた彼らは互いのことを想い、悩んでいた。流石に最初は面食らったが、或る種の真剣さを感じた俺は二人の話に耳を傾けた。
マサムネ曰く、いつも優しくて天然ボケで可愛い年上の世間知らずなシャルフィンのことをずっと考えてしまうという。
シャルフィンの方はというとマサムネが変な方向に性癖をこじらせていないだろうかと心配しているらしい。
「ふふ、お前達はそのままで良いと思うぞ」
率直な意見を告げ、二人を交互に見遣った。其々の悩みを言葉にしたことで互いの思いが伝わったように見える。
「シャルフィンの悩み事は……そうだったのか、気をつけないと」
「俺の事は好きにしていい。もう一度、告げておこう」
そんな遣り取りを見つめながら俺は自然と笑みを浮かべていた。
いやはや、お熱いことで。なんて口にするとお邪魔になりそうだったので黙っておいたが、二人の姿はとても微笑ましかった。
●移り気な悩み
「ボクには……まだ告白できてないけど好きな人が居るんだ」
でも、踏み切れない。そんな相談話をしたのはユージーンだ。理由を聞くと他にも美人が多くて目移りしてしまうからだという。
「振り返れば美女美人。つい見ちゃうんだ。そういう事、無い?」
「分かる気はするが……ううむ」
「ボク、好きな自信はあるけれどずっと彼女の事を見続けれる自信がなくて」
どうすればいいかと見つめる瞳に押され、暫し考える。告白するか否か、どちらが良いか一概に言えぬ状態だが、その想いは彼自身のものだ。
「そうだな、どちらの気持ちが大きいかで決めてみたらどうだ?」
不安より好意が大きいか、その逆か。
どうか後悔のなきよう。若人の道行きが幸せなものであるように願いを込めた。
●恋に恋する
緊張した面持ちのリィナの悩みは恋愛相談。
「今が、楽しくないって、わけじゃ、ないんだけど……やっぱり、その」
自然と待つのも手だが、一度きりの人生。友達や幼馴染もたくさんいるが、その分だけ人の恋や恋愛模様を見てしまう。どうしても気持ちが先走ってしまうというリィナは始終照れており、恋に恋する少女のようだった。
「ううん、リィナは暫く今のままで居た方が良いかもしれないな」
「今の、まま……?」
「焦って誰かと付き合うと後悔することが多い。それに……そのままが尊い!」
不安そうに首を傾げる彼女に俺は率直な思いを伝える。
恋に憧れる娘。それは尊さの塊。だが、リィナ自身は釈然としない様子だった。
「そーかな、でも……やっぱり。一緒に、過ごす人、欲しくて……」
「きっとすぐにそんな人が現れるさ。リィナくらい可愛かったらな」
彼女を宥め、相談は静かに終わる。
然し俺は思う。いつか彼女が大切な人と幸せな時間を過ごす日が来て欲しい、と。
●好意と愛情と
机越しに語るアレスは真剣に、恋愛相談を持ち掛けてきた。
「自分、この前から気になっている人がいるんすよ」
アドバイスが欲しいと願った彼は胸に手を当て、その人を思い返すような仕草を見せる。これはただの好意か、恋愛なのか。それが問題らしい。
「でも、この想いが自分でも分からないっす。ただ友達としての好きなのか、本気で、愛している方の好きなのか……がはっきりとしていないっす」
「友情と恋慕か。それじゃあ、考えてみてくれ」
その人を想うと胸が苦しくなるか否か。その人を喜ばせたい、他の誰よりも幸せに笑っていて欲しいと思うか。
もしそれら全てが当てはまるなら恋の可能性が高い。
「だが、心の在り方は人それぞれ。友達のままで楽しいなら、それもありだ」
「そうっすか、考えてみるっす!」
素直に頷いてくれたアレスはとても良い青年にみえた。役に立てたのかは分からないが、彼とその人がより良い関係を築いていけるのならばそれが一番。
恋でも友愛でも、仲良きことは美しきことなのだから。
●力の在り方
鈴珠曰く、彼女の力は預かり物なのだという。
興味深く話を聞いてみると鈴珠は旅人だったその人の真似をして、ケルベロスとしての日常を過ごしているらしい。
「この手にはおおきすぎる気がするんです。ほんとうにわたしで良かったのかなって」
「成程、分不相応だと感じているのか」
俯く少女はその歳にして大きなものを抱えているようだ。己だけでは何をしていいのか分からず、このまま進んで行ってもいいのかすら悩んでいる。
「わたしは、ちいさすぎるんです」
「そう思えているなら逆に良い。不安も大きいかもしれない。だが、それを抱えられるなら鈴珠は大きくなれる可能性を秘めているはずだ」
もし模倣するだけの生き方だったとしても、それを続ける中で自分らしさが見つかるかもしれない。それに――。
「ちいさくても鈴珠はひとりじゃないぜ。俺も、皆も居る」
頼る事は弱さではない。
大きな思いを抱く小さな少女に、そう教えてやりたかった。
●記憶
部屋の隅に佇むビハインドのアルマをちらと見遣り、ロザリアは話を始めた。
「僕には、ケルベロスになる以前の記憶が無くてね」
「それは辛いな」
取り戻す方法はないかと彼は問うが、残念ながら記憶を呼び起こす術は確立していない。だが、ロザリアも最初から分かっていたようだ。
「……アルマがとても大切な存在だ、というのは覚えているのだけど」
記憶が無い彼にはアルマに執着した理由が分からないらしい。少し考え込んだ俺はロザリアとアルマを交互に見つめた。
「俺は思うんだ。失われた記憶ってのは、今は思い出すべき事ではない、と」
人とは不思議なもので自ら過去を封じ込めることがある。それは必要となった時、来たるべき時に必ず思い出す。そのような仕組みになっているはずだと持論を語ると、ロザリアは静かに瞼を閉じた。
「解決策ではなくてすまないな」
「いや、構わない」
申し訳なく思ったが、俺と彼は小さな笑みを和やかに交わす。
どうか、彼の記憶がいつか穏やかな形で戻るようにと心から願った。
●受け継ぐもの
曰く付のリボルバー銃の扱いに困っている、と話してくれたのは千笑。
いつ目が覚めるか分からぬ兄。彼が使っていたという銃は持ち主に似て偏屈で中々扱いにくいのだという。そして千笑はその銃を持った時の思いを語った。
「持つと手が震えて的が絞れないっていうか、こ……っ……怖い、のかなぁ」
それはいつも明るい彼女の意外な一面だった。
「ダイチさんにもありますか? 怖いもの」
「あるぜ。今は秘密だけどな」
そう答えると千笑は再び俯き、ちいさく呟いた。
「……私、ケルベロスとして動けなくなるのが、怖い、です」
兄と銃、そして自分の心。
彼女の裡にある思いはおそらく自身で乗り越えていくしかないものだ。話を聞くことしか出来ない自分が不甲斐なく思ったが、俺は彼女に手を差し伸べた。
「怖くなったときは誰かを頼ればいい。例えば俺とか、な?」
冗談めかしてしまったが告げた言葉は本心だ。
仲間としてこれからも宜しく頼む。強い思いを込めて、俺達はそっと手を重ねた。
焼き肉を食べる約束を交わしたのは、その少し後のこと。
●約束
ふんわりとした語り口でイチカは抱く思いを話してくれた。
彼女は約束をしない主義を貫いていたらしい。守れなかった時を思う嫌だという考えは俺から見れば誠実に感じられた。でも、とイチカは首を振る。
「約束しない主義……それをやめたくなったらどうしたらいいの?」
「普通だったら、やりたいようにやるのが一番なんだが……」
おそらく彼女は今、感情に伴う心境の変化に戸惑っている。そしてイチカはだからこそ決め難いと話した。
「だれから望まれたことでもなく、ただ自分できめるって、むずかしいことじゃない?」
「そうだな。でも一人だけ、今回の件を望む者がいる」
それは他でもないイチカ自身。
難しいと思っていても良い。だが、したいと思ったならばそれがやるべきことだ。
そう告げるとイチカは不思議そうな表情をしていた。だが、彼女がヒトとして在る以上は何れ知ることだ。
少女がいつか交わす約束はどんなものなのだろう。
その未来は、きっと――。
●彼は誰、誰は彼
未明のその名は貰い物だという。
月井の師匠に育てられ、薬師見習いとして外の世界で見聞を広めて来いと云われたのが去年の夏。それから未明は番犬として戦っている。
「おれはちゃんと、できているかな」
月井未明。名に恥じない自分で在れているかが心配なのだと語った彼女は、ちょっとだけな、と指先ほどの小さな隙間を作って笑った。
「俺にとっては、お前が未明だが……」
おそらくそういうことではないのだろう。未明が口にした言葉に返答は要らないと気付き、その眸を見つめた。小さく頷く彼女の裡にはきっと多くの思いが渦巻き、疑問や葛藤となっている。
それでも穏やかさを崩さぬ彼女の芯は強そうだ。
「そう在りたいと思う己で在るには、年月と経験を重ねていくしかないのかな」
「だろうな。しかし、その道は果てしないぜ」
理想と現実。その狭間で生きることを決めただろう彼女に敢えて挑戦的に返す。そして、俺達は手を伸ばし、軽い握手を交わした。
●強さのかたち
「えっとな、その……身長って、どうやったら伸びるんだ?」
「ぶっちゃけ遺伝だ」
意を決して相談事を話したルトに俺はきっぱりと告げた。あまりにも俺が据わった眼をしているものだからルトは慌ててしまう。
「べ、別に当て付けとか、そういうつもりじゃないんだ!」
「あはは、冗談だ。俺は同族の中では平均だからな」
わざと険しくしていた表情を崩し、気にしていないと笑ってみせる。ルト曰く、もう少しは身長が欲しいということだったのでバランスの良い食事とストレッチ方法が書かれた冊子を渡してやった。
だが、おそらく背を伸ばしたいことの背景には強さへの思いがあるのだろう。少々お節介かと思ったが言わずにはいられなかった。
「心配するな。お前は強くなっている。俺がこの目でちゃんと見ていたからな」
「ダイチ……」
視線が重なり、互いに頷く。多くを語らずともきっとルトは分かってくれた。
あの十五夜の日、彼が得た思いは更なる強さへの第一歩なのだから――。
●大人とは
机を挟み、他愛ない会話をするドワーフが二人。
「やっぱ男も女も三十からだよな!」
「それは嬉しいことを言ってくれる。だが、大人ってのは難しいぞ」
明るく笑う理弥を見ていると何だか力を貰える。俺にもこういう時期があったのだと思うと感慨深くなった。そんなことを考えていると理弥がぐっと拳を握る。
「俺らには切実な問題だと思うんだけど、大人っぽく見られたいんだよ俺も……」
「かといって流行りの付けヒゲもな」
「だよな! 遊星とは気が合うと思ってたんだよ!」
和気藹々と交わす話は実に楽しい。
それから暫し、どうすれば大人に見られるのか会議が開催された。結局、答えらしい答えは見つからなかったのだが、有意義な時間が過ごせたと感じる。
「じゃあな! また今度も大人会議しようぜー!」
「ああ、またな」
元気に駆けていく少年の背に手を振り、今日の相談は終了と相成った。
多くの仲間の話を聞くと皆が其々に思いを抱えていることが分かった。簡単に解決できることばかりではなく、俺がちゃんと力になれたかも分からない。
だが、ひとつだけはっきりと言えることがあった。
「仲間、か。良いものだな」
そして、窓辺から見える宵の空を振り仰ぐ。
其処には――希望の光のようにきらきらと輝く一番星が見えた。
作者:犬塚ひなこ |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年10月19日
難度:易しい
参加:20人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 5/キャラが大事にされていた 5
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