●写し取られた姿
荒涼とした砂混じりの風に、吹き晒された集落跡。
もう何年も前に人の絶えた廃墟の連なりを、螺堂・セイヤ(螺旋竜・e05343)は歩み進む。縁もゆかりもない廃村のうらびれた有様に、心の奥深くを微かに揺さぶられながら。
行く手に異変を認め、セイヤは目を細める。
「……予感は正しかったみたいだな」
廃村の中心部は、巨大なドーム状のモザイクに覆われていた。
調査を行おうにも、モザイクの向こう側は、外からでは窺い知れない。セイヤはしばし思案を巡らせたのち、意を決して、モザイクの内側へと足を踏み入れた。
内部は、廃村の景色をばらばらに解体し、カオスに混ぜ合わせ直したような奇怪な空間。不思議と呼吸や行動に支障はない。
異常な光景に警戒を高めるセイヤの目前に、その存在は姿を現した。
「ワイルドスペースが発見された……? この姿に、因縁のある者か」
呟くそれは、全身を禍々しい鎧に覆われた翼あるもの。揺らめく炎の如き禍々しいオーラが全身を包み、不気味に燃えている。
「この場を知られた以上、死んでもらうしかないな……ワイルドハントたるこの俺の手で!」
鎧を包むオーラがひときわ燃え盛り、兜の奥に覗ける瞳に殺気が漲る。
セイヤは虹彩をすぼめ、隙なく構えをとった。
「『怒り』と『復讐』……それは俺だけの姿だ……!」
モザイクに閉ざされたワイルドスペースで、二つの力は激突した。
●禍々しきワイルドハント
襲撃の予知を受け、戸賀・鬼灯(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0096)は迅速にケルベロス達を招集した。
「螺堂・セイヤ様の調査により新たなモザイクによる異変が発見され、内部にて、ワイルドハントの存在が確認されました」
ワイルドハントを名乗るドリームイーターは、山岳地帯の集落跡地中心部をモザイクで覆い、内部でなんらかの作戦を行っていたようだ。
そこを発見したセイヤが、ワイルドハントに襲撃を受けている。
「単独での対処はあまりに危険でございます。可及的速やかに救援に向かい、ワイルドハントを名乗るドリームイーターの撃破をお願い致します」
戦場はモザイクに覆われ、未知の粘液に満たされた特殊な空間となるが、呼吸・発声・戦闘行動に支障はない。
敵はドリームイーター1体。燃え盛る拳を叩き込む、両手の爪をクロスするように斬り払う、禍々しいオーラを逆巻かせ集団を侵食する、といった攻撃を行ってくる。
「敵はセイヤ様の暴走時と瓜二つの外見をしておりますが、全くの別人でございますゆえ、ご留意ください」
ワイルドハントはケルベロスの調査を忌避している節が見受けられる。ヘリオライダーの予知を飛び越えて、『暴走時の自分の姿』をした敵との遭遇が相次いでいる事からも、この手の単独調査の意義は大きそうだ。
「しかしながら今は、何を置いても、セイヤ様の一刻も早い救出とワイルドハントの撃破を第一に果たさねばなりますまい。皆様、よろしくお願い致します」
参加者 | |
---|---|
フラッタリー・フラッタラー(絶対平常フラフラさん・e00172) |
螺堂・セイヤ(螺旋竜・e05343) |
浦戸・希里笑(黒蓮花・e13064) |
ジャック・スプモーニ(死に損ないのジャック・e13073) |
キーア・フラム(黒炎竜・e27514) |
ウルトレス・クレイドルキーパー(虚無の慟哭・e29591) |
宮口・双牙(軍服を着た金狼・e35290) |
差深月・紫音(死闘歓迎・e36172) |
●激突する二人
拳と拳がぶつかり合う。刀と爪が斬り結ぶ。
翼持つ者と翼持つ鎧が、互いの全霊をかけて、正面から幾度となく激突する。
鎧姿のワイルドハントが鋭く身を捻り、禍々しく燃える拳で螺堂・セイヤ(螺旋竜・e05343)の顔面を捉えた。衝撃、鈍い音。しかしその手応えに、殴ったワイルドハントが忌々しげに舌打ちする。
「しぶとい奴め……!」
後方に押し込まれ、殴られた頬を赤く腫らしながらも、セイヤの瞳に漲る戦意に曇りはない。
己の暴走態――ドラゴンを滅ぼす為の拳、爪、頑強な体を突き詰めた末の、禍々しい鎧姿。それをそのまま写し取った敵を睨み据えながら、セイヤは血の混じった唾を吐き捨て、古流武術の構えを取る。
「見た目だけの偽物が……! 必ず滅ぼす……!」
――両者の激突が、モザイクの世界を震撼させた。
現場の廃村に辿り着いた一行は、早々に中央部の異変を見出し、その袂に集った。
「四度の逢瀬ですわねぇー」
ドーム状のモザイクを見上げ、フラッタリー・フラッタラー(絶対平常フラフラさん・e00172)はゆるゆるおっとりと感慨を漏らした。
「この中に、螺堂がいるのだな」
宮口・双牙(軍服を着た金狼・e35290)はケルベロスの仕事で世話になった仲間を助けようという使命感と、ワイルドハントへの興味を胸に、地獄化した左目を細める。
「一人で戦闘は危険だね……早く合流しないとね」
浦戸・希里笑(黒蓮花・e13064)の言葉に一行は頷き、あるいは異存なしと視線を返し、みな躊躇なくモザイクの内側へと足を踏み入れた。
内部は、廃村をばらばらに混ぜ合わせたような空間。荒涼とした景色のモザイクが、広大な空間全体を、あたかも砂嵐の内側のように思わせる。目がチカチカするような光景だ。
「やっぱり頼りは音だな。ここは猫の耳の良さを見せるところだろ?」
差深月・紫音(死闘歓迎・e36172)が軽薄な笑みを浮かべながら耳をそばだてた――その瞬間、派手な破壊音が空間内に轟き渡った。
「――見つけたッ!」
上空からの鋭い声。皆が見上げると、黒炎の翼を広げて空中を飛ぶキーア・フラム(黒炎竜・e27514)が中央部を指し示していた。
上空からの誘導と、戦闘音を頼りに、ケルベロス達はモザイクの世界を駆け抜け、前方に戦場を捉えた。セイヤと禍つ黒鎧の、激闘を。
押し込まれ、体勢を崩しかけたセイヤを、黒鎧の鋭い爪が襲いかかる――!
「……やらせない」
マフラーがひらりと舞う。と同時、希里笑の小柄な体が振り下ろされる爪の前に滑り込む。激しい斬撃を堪える主に代わり、ライドキャリバーのハリー・エスケープが炎を纏って躍り出、黒鎧へと横合いから突撃をかけた。
「ぐ、ぉぉぉおおぉぉ――!」
スピードを乗せた突進に押し出され、その場から引きはがされていくワイルドハント。
「暴走した姿を真似たところで、そこまでだ」
ウルトレス・クレイドルキーパー(虚無の慟哭・e29591)の銃撃が淡々と追い討ちをかけ、敵の注意を乱す。
「見分けやすくて良い事だな。……顔が見えなければ、殴るのに躊躇しなくて済む」
さらに深く踏み込み、旋刃脚で畳みかける双牙。ワイルドハントが気を取られたその隙に、セイヤの元へ仲間達が次々と合流していった。
「おいおい、まだ寝るには早いだろ?」
突然の出来事に呆然としてしまったセイヤに、紫音は戦化粧の紅をさした目元を笑わせながら、ルナティックヒールをぶつけてやる。
「援軍か……!」
施された治癒と駆けつけてきた面々の姿に、ようやくの実感を得て、セイヤは心からの安堵を零した。
「あぁ……あかり、助かった……。来てくれて、ありがとな……皆も」
旅団仲間の少女の頭を撫でてやり、他の仲間達の顔を見渡して、セイヤは少し意外そうな顔をした。
「キーア、おまえが来てくれるとはな……」
「アナタにはここで死んでもらうわけにはいかないのよ……お互い、ドラゴンを滅ぼすまでは死ねないでしょう?」
名指されたキーアはつんけんと肩をすくめつつ、メタリックバーストを展開して、セイヤを癒すと共に前衛を強化していく。
「ともあれ、思いのほかご健勝そうで何よりですよ」
ジャック・スプモーニ(死に損ないのジャック・e13073)は、孤独な戦いの中、消耗を出来る限り抑えて持ちこたえ、いまだ戦力として十分な余力を残すセイヤをそう歓迎すると、全身を地獄の炎で覆い尽くして、南瓜マスク越しに敵を見やった。
「さてさて……ぶっ放すとしましょうか」
皆の視線が、敵へと集束する。
翼を広げ、言葉なくケルベロス達の目前へと舞い戻った黒鎧のワイルドハントは、全身を禍々しいオーラで滾らせ、赤い瞳を不穏に輝かせた。
●混沌たる戦場
「またまたお会いしましたわねぇー。お変わりありませんかー?」
フラッタリーは優美に翻した扇から癒しの妖風をセイヤに送りながら、まるで世間話のように、意味深にも聞こえる言葉を敵へと投げかけた。ワイルドハントなる者共が口を割らずとも、真実は追えば知れるのだと、言外に含めながら。
鎧兜の向こう側で胡乱に目を細める気配はあったが、明確ないらえはなく、その全身に纏う不吉なオーラが急激に高まっていくのがわかった。
「侵入者共が……この場所を知られたからには――全て排除するッ!!」
鎧を包むオーラが、いよいよ激しく燃え上がった。と同時に、どこからともなく燃え上がったオーラが、後衛を陣取る面々を巻き込み逆巻いた。毒々しい津波がケルベロス達の心を侵食していく……。
「後衛から攻めるなんて……」
希里笑はオウガメタルを変形させながら、想定外の敵の行動に眉をひそめる。
「皆、力を貸してくれ……」
セイヤは静かな怒りを込めて低く呟く。
「俺の最大の力を以て、俺の偽物……復讐の化身を完全に破壊する……!」
勢いよく翼を広げ、降魔刀「叢雲」を手に敵の懐へと全身で飛び込むセイヤ。緩やかな弧を描く剣閃が、凄まじい火力を乗せて敵を激しくうち据える。
「ぐう……っ!?」
一対一で戦っていた時とは比較にならぬ威力に、まともに虚を衝かれるワイルドハント。仲間達による強化を得、治癒を受けている短時間に立ち回りを切り替え、それらが全て、敵を抉る為の純粋な火力へと結実していた。
禍々しいオーラがようやく退いた後衛から、現れたのは目にも鮮やかな赤。
「守りの薄い場所からつつくたぁ、随分とイイ根性してるじゃねぇか」
左手に日本刀を、右手にマインドリングを。ジャックを庇って『怒り』を売りつけられた紫音は、狂気の滲む笑みを浮かべた。
「さぁさ、楽しい死闘の始まりだ!」
いなせに羽織った赤い着物をなびかせ、紫音は絶空斬で激しく斬り込んだ。
「力になれるなら、いくらでも手を貸そう。……凍りつけ」
支援に駆け付けた陣内は頼もしく応えると、荒地に潜む雪豹のように気配を消し、死角から敵の急所めがけて飛びかかった。
「個で敵わぬならばー、数を以って討ちましょうー」
紙兵を疑似軍に見立て、あたかも士気を執るが如きフラッタリー。日頃とは異なる役割ながら、実を言えば昔取った杵柄、凶戦士じみた振る舞いは表に現れず、そつのない治癒と耐性が前衛に行き届いていく。
「サイレンナイッ、フィーバァァァァッ――!!!」
それまでの淡々とした口調をかなぐり捨ててシャウトするウルトレス。ベースギターの奏でる疾走感溢れるデスラッシュ・サウンドが、前衛の攻撃衝動を高めていく。
「……ふむ。退避への配慮は不要そうですねぇ」
実に活き活きとした仲間達の様子を横目に呟きつつ、ジャックはガトリングを激しく回転させ、精度を極めた連射をぶち込んだ。
「他人の深層を真似るなんて、趣味が悪いにもほどがあるわね……。すぐに……焼き尽くしてあげるわ……!」
抑えきれぬ怒りに黒炎を揺らしながら、キーアは相棒のオウガメタルを鋼の鬼へと変形させ、激しい拳で敵の鎧に罅を入れる。
「所詮紛い物ならば、その姿にある筈の力を充分に使う事も出来まい。するべきは、ただ砕くのみ、だ」
すかさず接敵した双牙が、地獄を纏わせた手吼を振り下ろし、強力な一撃をお見舞いする。
次々と攻撃に踏み込むケルベロス達。しかし連続するグラビティの結びに、治癒に専念するはずの近衛木・ヒダリギ(森の人・en0090)が飛び出したのには、一同が度肝を抜かれた。
「近衛木!?」
「ご……めん……。めのまえがまっかに……『怒り』にひきずられたんだと、思う……」
渾身の降魔真拳をあえなく躱され、後方に舞い戻ってなお、ヒダリギはぼやけた顔つきで苦しげに息をついている。
しかし対応を練る暇を与えず、ワイルドハントが攻撃を畳みかけた。燃える拳が、抉るようにセイヤの腹部に叩き込まれる。
「ぐあ……っ」
衝撃に押し込まれながら、セイヤは広げた翼を駆使して、半ばで体勢を立て直した。
「海賊を……舐めるな!」
魂を喰らう強靭な拳が、ワイルドハントへと襲い掛かった。
●心の深奥を写す姿
「自分と同じ顔した奴と戦うってのはどういう感じかねぇ」
激しくぶつかり合うセイヤとワイルドハントを眇めながら、ぽつりと零す紫音。しかしその表情は、戦闘狂の笑みを浮かべたまま。
「ま、どんな相手であれ、死闘を楽しむのが俺らしさ、だ」
赤い裾を気まぐれに翻し、雷纏う神速突きが繰り出される。
(「……その姿を使うのは何故だ?」)
激闘のさなか、双牙は素直な疑問を胸中に零す。敵に問いかけた所で答えはしまいが、ケルベロスの暴走態の姿だけを借りる事にどのような意味があるのか、疑問は尽きない。
「……まあ、殴り倒すのが最優先だな」
双牙は深く拘る事なく意識を切り替え、地獄化した両手を突き出し敵へと突撃していく。
「……人には触れちゃいけない事がある。暴走時の姿ってのは、その最たるモンだ」
ベースギターを激しくかき鳴らしながら、淡々と言い捨てるウルトレス。
「そうと知らずに模してるようだが、許される事じゃない」
弦のタッピングに合わせて、肩と腰元に光る銃口から一斉発射された砲撃が敵へと殺到し、激しく叩き据える。
「人間誰しも触れられたくない部分があると言うのに……随分と悪趣味なようですねぇ、ワイルドハントというヤツは」
爆炎の魔力を込めた大量の弾丸を、的確かつ派手に炸裂させながら、ひょいと肩をすくめるジャック。
次々と叩き込まれていく的確なグラビティ。数で攻め立てられ、徐々に行動を縛り付けられていく肉体に、黒鎧は激しく苛立つ。
「くそっ……猪口才な!」
再び黒鎧を包むオーラが燃え上がる。逆巻く毒は、やはり後衛を侵食する。
ワイルドハントは主に近距離を標的とする技を揃えながら、しかし隙あらば後衛をオーラに侵そうとしてくる。盾役達が気を張ってフォローに入るも、全てを凌ぎきれるわけではない。
これが癒し手に被弾すると、存外に厄介だった。『怒り』に乱され、回復が後手に回りがちになる。敵にとっては、攻撃が集中してダメージが増すデメリットもあるはずなのだが、特化した分野を捨てさせるメリットを重視したらしく、実際その戦術はある程度成功を見始めていた。
「ググッ……ググ、GAッ……」
『怒り』に侵されたフラッタリーのサークレットの隙間から、地獄が零れ出しそうになっている。それに気づいた希里笑が、神妙に声をかけた。
「フラッタリー」
「……大丈夫、ですわー……慣れぬポジションでは有りますがー……精一杯務め上げますゆえー」
常の戦の姿とは真逆の振る舞いなれど、此れもまた戦の理――そう自らに銘じ、懸命に怒りを抑えつけながら、自身に治癒を施していくフラッタリー。
「……わかった、炎の対処は任せて。浄命機関起動・言霊認証―――」
言うが早いか、複雑な詠唱を開始する希里笑。無量命光機。自身のコアより精製された荷電粒子を治癒の力持つ光子へと変換し、セイヤに纏わりつく炎を祓っていく。
危うくも、ケルベロス達は持ちこたえた。
ワイルドハントの攻撃は事実厄介で、想定より手こずらせてくれたが、そこが限界だった。しかと整えられ、火力を揃えたケルベロスの陣営は、多少の策を弄されたところでそう簡単に打ち崩されはせず、戦いを急速に終局へと導いていく。
「ググググ――ガアアアアアアァァァッ!! 死ね……死ねェェェェッッッ!!」
狂ったように吼え猛るワイルドハント。
我を忘れた黒鎧は、鋭い爪を掲げながら、セイヤへと突進した。
●偽りの怒りは幕を閉じる
十字に斬り払われた凶悪な爪は――空を切った。
「――!?」
付与され、増幅されを繰り返した行動阻害が結実した瞬間、驚愕と動揺が黒鎧の内側を満たしたのが、はっきりとわかった。
その刹那を、ケルベロス達は逃さない。
一瞬にしてワイルドハントの目前に飛び込んだのは、鮮やかな紅の残像を引く、紫音の凶悪な笑み。
「独学の喧嘩殺法と侮るなかれ! 間合いの詰め方はお手の物ってな!」
刀の刃とリングのエネルギーでワイルドハントを滅多切りに斬り刻み、トドメとばかりに蹴り飛ばし、さらなる斬撃で追い討ちをかける。
「――捉えた」
静かに呟き、巨大な銃口から魔法光線を照射する希里笑。エネルギーの反動に、長いマフラーが激しくはためく。
「お前は……犬の肉(エサ)だ」
ジャックが敵を示して無慈悲に断言したその瞬間、身にまとうブラックスライムが不気味な黒犬へと変貌していく。黒い猟犬。英国の伝承にある姿を模した犬が、敵の鎧をものともせずに喰らい付く。
キーアは黒炎を滾らせる。
「復讐心や怒り……そういった感情は本人だけのもの……。それを持ちえない者がいくら外見だけ真似したって意味なんて無いのよ……!」
メギドフレア。集束されたグラビティが、黒い炎となって黒鎧に直撃し、呪いの如く絡みついて炎上させていく。
「旋風の如く疾く鋭く、重ねる刃、巨岩を削り、穿ち貫く――スクリュー・パルバライザー……!」
双牙は全身を回転させながら、己自身を弾丸として敵へと突撃する。跳躍と回転速度を乗せた凄まじい威力を乗せて、地獄化した両手の手刀が敵の傷を深々と抉っていく。
「癒しの役はー、ここまでですわねぇー。……環Zeン無欠ヲ謳オウtO、弧之金瞳w∀綻ビヲ露ワ仁ス。其之ホツレ、吾gAカイナデ教ヱヤフ」
サークレットを展開させ、金色瞳と脳に捻じれ猛る煉獄を通じて敵を捉えるフラッタリー。黒鎧から漏れ出るグラビティ・チェインの切れ端を獄炎の縄で絡めとり、敵を空間に縛り付ける……。
「グゥゥ……ッ! クソッ、クソが!! 負けてなるものかァァァッ!!」
がむしゃらに体をよじり、抵抗するワイルドハント。しかし拘束を抜け切る前に、すでにウルトレスの刃が唸りを上げて肉薄していた。
「螺堂さんの真の強さは心の強さ。それは真似出来まい」
激しく回転するチェーンソーが容赦なく斬り下ろされる。刃の上げる大音声に、ワイルドハントの絶叫が重なった。
敵の限界を確信したセイヤは、漆黒のオーラを全身に漲らせる。
「あかり……最後の一撃、付き合ってくれ……!」
あかりのハンマーが変形し、銃口が敵を捉える。強烈な竜砲弾が的中、瀕死の敵をさらにその場に釘付けにする。
「――セイヤさん、偽物を打ち砕いちゃえ!」
セイヤは超高速で突撃する。黒龍を象ったオーラを、利き腕に纏いながら。
「怒りも復讐も、その為に望んだ力……その姿も! 全ては俺のモノだ……! 消え去れ、ワイルドハント……ッ!!」
オーラの拳が、破壊の一撃を叩き込む。
ワイルドハントの全身は、断末魔の叫びと共に黒龍のオーラに呑み込まれ、燃え尽きるように消え果てた。
安息を得て、ジャックはふと、周囲に纏わりつく未知の粘液の存在を思い出し、テンションを落とした。
「ああ……これは帰ったらお風呂ですかねぇ……おや?」
見回せば、周囲の風景が、潮が引くように急速に元の風景へと収束していこうとしていた。
「ああっ、探索しようと思ってたのに……やっぱり、そう簡単に尻尾を掴ませてはくれないようね」
オウガ粒子で皆を治癒していたキーアは、挑むように消えていく空間を睨み据える。
「残念ですが、仕方ありませんね。損害は軽微のようですし、ここは素直に撤収しましょうか」
ウルトレスは仲間達の状態を確かめ、提案した。火力と立ち回りの噛み合った早期撃破のおかげで、セイヤにも仲間達にも大きな損傷はない。
己の姿を写し取ったドリームイーターと空間の消滅を見届け、気持ちにひとまずの区切りをつけたセイヤは、踵を返して仲間達の元へと戻った。
「皆、助けにきてくれてありがとう。心から感謝する」
……かくて、怒りと復讐の写し身は消え、ケルベロス達は日常へと戻っていくのだった。
作者:そらばる |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年10月23日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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