ミッション破壊作戦~悟りへ誘う回廊

作者:雷紋寺音弥

●悟り回廊破壊作戦
「召集に応じてくれ、感謝する。ミッション破壊作戦で使用したグラディウスが、再び使用可能になったようだ」
 決戦兵器『グラディウス』が、再び力を取り戻した。それにより『強襲型魔空回廊』の破壊作戦もまた実行可能になったと、クロート・エステス(ドワーフのヘリオライダー・en0211)はケルベロス達に告げた。
「もう、知っているやつも多いと思うが、念のために確認しておくぜ。『グラディウス』は、長さ70cm程の『光る小剣型の兵器』のことだ。通常の武器としては使用できないが、代わりにデウスエクス達の仕掛けた『強襲型魔空回廊』を破壊することができる」
 だが、一度でも使用してしまえば、再びグラビティ・チェインを吸収して使用が可能になるまでには相応の時間を要してしまう。つまり、現在までの攻略状況を考慮した上で、慎重に作戦を立てねばならない。
「今回、お前達にはビルシャナの連中が跋扈するミッション地域の攻略を依頼したい。一見して侵略とは無縁そうな、単なる傍迷惑なだけの連中に思われがちだが……それでも、油断はするなよ。教義の内容が色物な連中が悪目立ちしているだけで、普通に高い戦闘力を持っているやつもいるからな」
 場合によっては、色物から一転して思わぬ強敵となることもある種族。しかし、肝心の強襲型魔空回廊はミッション地域の中枢部に存在し、周辺には強力な敵が守りについている。
 唯一の攻略方は『ヘリオンを利用した高空からの降下作戦』のみ。目には目を、歯には歯を、強襲には強襲をというやつだ。
「強襲型魔空回廊を破壊するには、それを覆う半径30m程度のドーム型バリアへ、グラディウスを接触させればいい。切っ先が触れた程度であっても、使い方次第では十分にバリアを破壊できる」
 高々度からの強襲を仕掛ければ、いかに底知れぬ力を秘めたビルシャナとて、それを防ぐ手立ては存在しない。また、グラディウスがバリアに触れた際、その余波として発生する爆風に巻き込ませれば、敵の防衛戦力の大半を吹き飛ばすこともできる。
「お前達の全員がグラビティを極限まで高め、その状態でグラディウスを使用して力を合わせれば、場合によっては一撃で強襲型魔空回廊を破壊することも不可能ではないはずだぜ。まあ、場所によっては恐ろしく堅牢なところもあるだろうから、仕掛ける場所を失敗すれば、一撃で突破とは行かないだろうが……」
 幸いなのは、強襲型魔空回廊に与えたダメージが、戦闘終了後も蓄積するということだろう。しかし、現状で対象となる攻略地域は大半が初の攻略作戦となる場所ばかり。攻略難度の高い場所を選択すれば、必然的に一撃で破壊できるという確率も低くなる。
 破壊に必要とされる攻略作戦の回数は、多く見積もって10回程度。未だ無傷のままな強襲型魔空回廊が多いことを考えると、今回は次へ繋ぐことを考えた方が良い気もするが。
「最初から次へ繋ぐつもりで難度の高い場所を攻めるか、それとも攻略しやすい場所を選択して一撃突破に賭けるか……選択は、お前達に任せよう。撤退の際は、グラディウスを確実に回収しておくことも、忘れないでくれ」
 降下後の戦いでは、速攻力が重要視される。敵は爆風の影響で混乱しているため連携を取って来ることこそないが、あまり時間を掛け過ぎて、敵の増援に囲まれてしまっては逃げ場がなくなる。
「自分を召喚した人間に憑依して具現化するという特性上、連中は地味にだが確実に、地球に住まう者の命を奪っている。ビルシャナの信者も、やがてはビルシャナ化することを考えると……いずれは俺達にとって、恐ろしい敵になるかもしれないな」
 餓鬼道やヴィゾフニル明王など、新たなビルシャナの影響と思しき事件も散見されるようになってきた。だからこそ、ここで叩いておかなければ、敵の戦力はネズミ算式に増加してしまう。
 これ以上、ビルシャナ被害の拡大を許さないためにも、何かできることがあるはずだ。そう言って、クロートは改めて、ケルベロス達に依頼した。


参加者
相馬・竜人(エッシャーの多爾袞・e01889)
スノーエル・トリフォリウム(四つの白翼・e02161)
罪咎・憂女(憂う者・e03355)
アゼル・グリゴール(アームドトルーパー・e06528)
ミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815)
ジュリアス・カールスバーグ(山葵の心の牧羊剣士・e15205)
ノルン・コットフィア(星天の剣を掲げる蟹座の医師・e18080)
神苑・紫姫(ヒメムラサキ色吸血鬼・e36718)

■リプレイ

●力と責任
 島根県松江市。
 古来より数多の遺跡や神社を抱え、大陸との玄関口に用いられていたという歴史を持つ、出雲地方の中核を成す都市のひとつ。
 だが、そんな歴史のある街にでさえも、デウスエクスの魔の手は容赦なく伸びる。上空を旋回するヘリオンから眼下を見下ろし、アゼル・グリゴール(アームドトルーパー・e06528)は静かに溜息を吐いた。
「ビルシャナ、ですか……。個人的な見解としては、『悟り云々言っているが、悟りとは縁遠そうなエゴの塊のごとき連中』といったところですね」
 その実態は光の国より来訪せし集合無意識の具現化したものとされているが、しかし彼らの教義は極めて排他的かつ偏執的なのも、また事実。
「お前たちの自称悟りなど、人類社会には無用なのだと悟れ!」
 先行してヘリオンから飛び降りるや否や、アゼルは手にしたグラディウスを勢いよく光の障壁に叩き付けた。
 瞬間、巻き起こる爆発が、周囲にいた敵をまとめて吹き飛ばす。だが、それでも一人分では威力が足りないのか、障壁を砕く程の手応えが感じられない。
「グラビティチェインなんて訳わかんねえもんがあるから、争いがあるっつーのはあながち間違っちゃいねえわな。だが……」
 そこまで言って、相馬・竜人(エッシャーの多爾袞・e01889)もまたグラディウスを片手に飛び降りた。罪咎・憂女(憂う者・e03355)も、それに続く。
「グラビティ・チェインを含め力に善悪などない! あるのは、よりよい未来を目指すか否かだ!」
 この世に存在する全ての力。それに貴賎はないと憂女は叫んだ。その言葉に応えるかのようにして、グラディウスの刀身は輝きを増して行く。
「どう使うかは、それを作れる俺達が決める事だし、何をするにもテメエら叩き出した後の話だ。……つーか、全員殺してテメエも死ぬってなら、最初っから他所の敵と戦ってくれっつー話だ!」
 憂女の言葉に続けるように、竜人も静かに想いを紡ぐ。しかし、徐々にだが彼の語気は、口調は荒くなり、いつしか怒りを露わにしたものになり。
「だからよ……気に入らねえんだよ、身勝手に暴れるテメエら全員ッ! 殺すぞッッ!!」
 明確なる殺意。それが竜人の答えだった。詭弁も偽善も、取ってつけたような大義も不要。あるのは、ただ目の前の敵を屠るという強い意志、ただそれだけだ。
「国宝や湖……ここに何があり何を成してきたかも知らず。ただ、壊すのみで救いになるなど不愉快だ。人々の安寧の為ここで果ててもらおう!」
 竜人の握るグラディウスの刃が光の障壁に触れると同時に、憂女もまた自らの手にした刃を繰り出した。
 二つのグラディウスが織り成す凄まじい爆風は、さながら荒れ狂う魔獣の如く。爆発に混ざって敵の悲鳴や叫びが聞こえた気もするが、それは即ち、攻撃が効いているという証拠に他ならず。
「破壊を望む。その時点で相容れようがありませんが……」
 もはや、掛ける言葉さえ惜しいのだが敢えて言わせてもらおうと、神苑・紫姫(ヒメムラサキ色吸血鬼・e36718)は溜息一つ。それに賛同しつつ、ノルン・コットフィア(星天の剣を掲げる蟹座の医師・e18080)もグラディウス片手に飛び降りた。
「アンタらのくだらない悟りで、この地の住民の嘆きや血が溢れるのは、毎度のことながら頂けないわね」
 他人の存在を勝手に定義し、あまつさえ狂った思想に与するよう人々を誘導する。それが新たな悲劇を生み、争いの火種となるという矛盾さえも気づかずに。
 そんなビルシャナに、この地を明け渡すわけにはいかないのだ。己の正義のために力なき者を屠るのが、真の正義だとは思えない。
「少なくとも私は『死を齎す』のではなく、『人を、そして地球を護る』為に戦っていますの。タダの破壊馬鹿に成り下がっているあなた方の妄言が、我々の信念を砕けるとは思わないことですわ」
「本当にグラビティ・チェインの争奪戦をどうにかしたいなら、まずはアンタたちがここで果てなさい!」
 古来より、他者に生贄という名の犠牲を強いる者は、しかし己が率先して生贄になることは決してしない。時が来れば、最後は自分がと言いながら、果たしてその約束が、本当に履行されたことはあるだろうか?
「吸血鬼シキ……人の夜を護る者の名にかけて! ……お望み通り、あなた方を、今討ち斃して差し上げますの!」
「私たちはケルベロス……地獄の番犬! この地に住む人達に代わって、成敗されることをねっ! グラディウス! この想いを、力にっ!」
 立て続けに起こる爆発の威力が、徐々に大きくなっていった。仲間達が、次々に攻撃を重ねているからだろうか。否、単にそれだけの理由ではなさそうだ。
「私たちは『死をもたらす者』じゃない! この力を宇宙に向けるつもりなんかもない!」
 ここで想いを途切れさせてはいけない。
 この惑星に生きる、全ての命。その心を代弁するかのようにして、スノーエル・トリフォリウム(四つの白翼・e02161)は先の爆風も収まりきらない内に、敵の拠点の中枢目掛けて飛び込んだ。
「ケルベロスの力は、地球に生きる人を守るための力! それがわからないくせに、争いを語る資格なんてないんだよ! 滅びるのは、命育む平和な地球を害するあなたたちの方だぁ!!」
 デウスエクス同士にとって、戦いは死に繋がるものではない。故に、彼らの中には人間の死と、それに関わる感情を理解できない者がいるのも事実だろう。
 だが、そのことが、生と死を安っぽく語れてしまうということが、スノーエルには何よりも許せなかった。
 自分達の祖先である、大戦期に活躍したオラトリオ達。彼らが自らの存在意義まで賭けて守り通した地球を、これ以上壊させてなるものか。
「地球は滅びなきゃいけない? そんなことはない。此処に住まうボクらには必要不可欠なものだ。ビルシャナが壊す松江市の街を直すのにも、傷付いた人を癒す為にもグラビティは必要なんだ。それに……」
 バトンを引き継ぐようにして、続けて仕掛けたのはミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815)だ。
 グラビティは、殺すだけの技ではない。人も物も、等しく癒すことのできる力。デウスエクスの脅威に晒され続けている、今の地球には必要な術。
「ケルベロスは死を振り撒くだけの存在じゃない! デウスエクスの暴威から人々を護る為にあるんだよぉおお!」
 お前達が攻めて来なければ、誰が好き好んで殺し合いなどするものか。虐げる者と、虐げられる者。一方的な虐殺に搾取。それらを見逃せないからこそ、自分達は戦わねばならない。それが、超常の力を与えられた、ケルベロスに課せられた責任でもある。
「大義名分も、よそ様から借りてきたような者がどんな言葉を紡いでも、叩き潰して差し上げますよ!」
 これで止めだ。怒涛のような連続攻撃に最後の一撃を加えるべく、ジュリアス・カールスバーグ(山葵の心の牧羊剣士・e15205)は手にしたグラディウスを大きく頭上に振り被り。
「武装混剛!! グラディウス式ヨーツイブレードおぉぉ……くぁらたけわりいぃぃ!!」
 真っ向から両断するように、光の障壁へと叩き付ける。金属ともゴムともつかない奇妙な感触が手に伝わった瞬間、それは新たな爆風を読んで、周囲のビルシャナ達を灼熱の渦の中に飲み込んで行った。

●怒れる狂鳥
 爆風の過ぎ去った松江市内。
 周囲に倒れている敵の残骸を横目に、ケルベロス達は目の前に佇む障壁を、それぞれの想いを胸に秘めつつ見上げていた。
「うわぁ……。やっぱり、そう簡単には行かないよねぇ……」
 未だに健在な強襲型魔空回廊を前にして、スノーエルは改めて、ミッション地域を短期間で開放することの難しさを口にした。
「何かが足りなかった……って、わけじゃないよね。うん、そう思いたい」
 ミリムもまた悔しさを飲み込みつつも、しかし己を納得させつつ気を取り直す。
 想いは十分、威力も十分。では、不足していたのは何だろう。敢えて言うなら、それは障壁の綻びを的確に潰すだけの正確さだったのかもしれない。
 もっとも、それを計算して成すのは、それこそ至難の業である。形ばかりに気を取られ、心にもないことを叫んだところで、グラディウスは力を貸してくれない。
 今の自分達にとって、これがベストの形だったのだ。障壁を突破できなかったのは残念だが、それは単純に敵の固さがこちらの予想を上回っていただけのこと。それに、このまま黙って帰してくれるほど、敵も甘くはないはずで。
「……ぬわぁぁぁっ! 貴様達、よくも我等が魔空回廊に傷をつけてくれたな! 許さぬ! 許さぬぞぉぉぉっ!!」
 案の定、攻撃を受けても生き残った壊塵明王の内の一体が、完全にブチ切れた様子でケルベロス達の前に姿を現した。
「家賃も払わねえで我が物顔たあ、いい度胸だなあ、オイ」
「家賃? そんなもの、払う必要などなかろう! 争いを忘れられない地球人など、全て私が滅ぼしてくれる!」
 竜人の挑発などまるで気にせず、自らの野望を語る壊塵明王。そういえば、こんな性格したやつは、よくゲームのラスボスなどに出てくることも多い気が。
「うわっ、四半世紀前のラスボスと同じような事言ってますよ、この鳥!」
 あまりにテンプレート過ぎる反応に、思わず絶句して固まるジュリアス。なんというか、人類滅亡を画策することろまで、下らない部分がそっくりだ。
「単なるエゴの押し付けを『悟り』とは聞いてあきれますね」
 所詮はビルシャナ。エゴの塊のデウスエクスでしかないと、アゼルは溜息を吐きつつ身構える。同じく憂女も刃を抜いて、壊塵明王の前に立ちはだかり。
「お互い相容れずとも、牙を交える時のみは真摯にあろう」
 どちらの主張が正しいか、真っ向勝負で決めようじゃないか。そんな憂女の言葉にも、壊塵明王は下らない屁理屈で返すだけ。
「おお、なんと凶暴なケルベロス! 相容れない者は全て殺すと……やはり、お前達は危険な存在だ!!」
 自分の教義や力を棚に上げ、どの口でそんなことが言えるのだろうか。少なくとも、お前にだけは絶対に言われたくないと、ノルンと紫姫は苦笑しながら互いに顔を見合わせて。
「馬鹿は死ななきゃ治らない、か……。医者としては不本意だけど、他の人に害をなすようなら致し方ないわ」
「それ程までに破壊と滅亡を望むのであれば……まずは、今、この場所で、私達がそれを与えてあげましょう」
 言葉で解決できるとは思わない。だからこそ、最後に本当の力の使い方とやらを、この鳥頭に見せてやろう。
 壊塵明王の羽ばたきが炎を呼び、すかさず散開するケルベロス達。ミッション地域の解放作戦。第二ラウンドの始まりだ。

●本当の力
 この世の全てを破壊した後、自らも滅びると声高に叫ぶ壊塵明王。どう考えても穴だらけな主張なのだが、しかし当の本人は、それが正しいと思っているのだから困ったものだ。
 もっとも、いかに正しさを主張したところで、それに力が伴わねば意味がない。皮肉にも、力を否定したビルシャナは、しかし力によって少しずつだが確実に追い込まれていた。
「えぇい、なんとしぶとい連中よ!」
「……させないよ! ボク達の戦いは、壊すだけじゃない!」
 壊塵明王の鋭い蹴りが繰り出されるが、それは身を呈して割り込んだミリムによって受け止められた。
「大丈夫? これですぐに治してあげるんだよ。痛いのは最初だけだから、ね!」
 続けて飛来する巨大な魔導書。スノーエルの投げたものだ。ボクスドラゴンのマシュに敵の牽制を任せつつ、彼女自身は癒しの効果を纏わせた本を投げることで、味方の体力を回復させる。
「な、なんと無茶苦茶な! お前達は、宇宙に死を齎す存在ではなかったのか!?」
 これには、さすがの壊塵明王も驚いたようだが、だからと言って攻撃の手を休めるはずもなく。
「ボサっとしてると食っちまうぜ? いいからさっさと死んどけや、なぁッッ!!」
 対価も無しに土地を占拠するような輩は、叩き出されるが世の理。知らないというのであれば、せめて逝く前にその身に刻んでやると、竜人は黒竜のものと化した腕を振るって相手を叩き潰し。
「エゴにまみれた穴だらけの主張……。聞くだけ時間の無駄ですね」
 敵が起き上がるよりも早く、アゼルがアームドフォートによる一斉射を叩き込む。赤き羽毛が舞い散り、敵の悲鳴が響き渡る中、爆風も収まらぬ内に駆け出したのは、刃を携えたノルンと憂女。
「駆け抜けるわよ。 ―― 疾鳴鳥っ!!」
「これもオマケだ。受け取るがいい!」
 稲妻を纏った長刀が、鳥の鳴き声の如き轟きを以て、壊塵明王の胸元に突き刺さる。次いで、擦れ違い様に斬り付けた憂女の刃が、敵の傷を更に深く、抉るようにして広げて行き。
「ぬぅ……。か、身体が……動か……ぐはっ!?」
 痙攣し、明らかに動きが鈍ってきた壊塵明王の頭を、テレビウムのディアが手にした凶器で叩き割る。その上で、ビハインドのステラより受け取りし剣で、紫姫は全てを打ち砕く一撃を繰り出した。
「どうせ夢見るなら、滅亡よりも優しい君臨の夢を。どうせ宣うなら、破壊者よりも強き庇護者の名を。どうせ目論むなら、虚無よりも永劫に残る記憶を」
 それこそが、吸血鬼シキの臨みにして矜持。その境地を、今こそ見せる時が来たのだと。
「これぞ、『我ら』が吸血鬼幻想の本途。――手を貸して、ステラ!」
 祈りの込められた白い刃は、あらゆる障害を破壊する。幻想を保つために、不都合な現象と幻と見做して屠る剣。それは狂える魂を持った、ビルシャナ相手でも同じこと。
「いい加減、倒れてくれませんかねぇ?」
「これで終わりだ! 裂き咲き散れ!」
 最後は、ジュリアスの斬撃に合わせ、ミリムが使い捨ての刃で素早く緋色の牡丹を敵の身体に刻み込む。紅き花が咲き誇る瞬間、それは死出の刻印として、壊塵明王が望んだ『死』を与えた。
「倒しましたか……。しかし、これでも結局人命はひとつ失われてるんですよねえ」
 既に物言わぬ塊と化した敵を前に、どこか複雑な表情をして呟くジュリアス。
 ビルシャナは、自身を召喚した者の身体を乗っ取り、この世界へと具現化する。それはつまり、ビルシャナが出現した瞬間に、地球に住まう者の命が奪われているのと同じこと。
「……どうやら、こいつはグラディウスを持ってはいないみたいね」
 敵の身体を調べていたノルンだったが、この地で失われたグラディウスは、残念ながら回収することはできなかった。
「潮時ですね。撤退しましょう」
 黙祷を終え、アゼルが仲間達へと静かに告げる。
 やるだけのことはやった。後は、次にこの地を訪れる者が、その想いを引き継いでくれればよい。それが明日になるのか、それとも遠く先のことになるのか。それは、誰にも解らない。

作者:雷紋寺音弥 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年10月22日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 10/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 0
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