鎌倉ハロウィンパーティー~哀愁のモテメン王子

作者:桜井薫

「ちくしょう、どいつもこいつも、浮かれやがって……」
 ハロウィンで賑わうキャンパスを横目に、男は苦々しげにつぶやいた。
 彼は、昔から友達というものに縁がない。
 何とか大学に合格した今年こそ……と、起死回生の大学デビューを試み、チャラいお遊びサークルに入ってみはしたが、生来コミュ障の彼が、いきなりリア充学生たちの間に混じってどうこうできるはずもなかった。
「何が、『朝までハロウィンパーティナイト!』だよ……」
 ハロウィンを控え、サークルでもパーティが開催されるが、彼を誘う者は誰もいない。かと言って、自分から参加しますと手を上げるだけの積極性も度胸もありはしない。
「羨ましくなんか、ないぞ……ちくしょう!」
 彼は一人壁に向かって、再び毒づく。
「羨ましくない……それは、嘘ですね」
「…………!?」
 と、突然、彼の目の前に、赤い頭巾を被った少女が現れた。
「本当は、パーティに参加したいのでしょう? 充実したキャンパスライフを送る、彼らのように……」
「そ、それは……まあ、参加したいかしたくないかと言えば、参加したいような気がしなくもない、というか……」
 しどろもどろに答える彼に対し、少女はその体から大きな鍵を取り出し、いきなり彼の心臓に向かって突き立てる。
「な、何を……っ!?」
 胸を突き刺し心臓部を穿たれた彼は焦るが、予想された痛みも怪我も訪れることはない。
「やはり、パーティーに参加したい……ですか。その夢、かなえてあげましょう。世界で一番楽しいパーティーに参加して、その心の欠損を埋めるのです」
 少女はつぶやき、鍵を通じて彼の『夢』を吸い上げる。
「…………」
 やがて彼は意識を失って崩れ落ち、その横に、奇妙なものが現れた。
 全身モザイクに包まれた人間とおぼしき体に、まるでおとぎ話の王子様のようにきらびやかな衣装をまとった、アンバランスな存在だ。
 赤い頭巾の少女はその姿を一瞥すると、再びどこかにかき消えてしまった……。
 
「えっと、藤咲・うるる(サニーガール・e00086)さんが調査してくれたんすけど……日本各地で、ドリームイーターが暗躍してるみたいっす」
 ダンテは集まったケルベロスたちに、説明を始める。
「出現してるのは、ハロウィンのお祭りに対して劣等感を持ってた人が、ドリームイーターになっちまった連中みたいっすね。奴らは、ハロウィンパーティーの当日に、一斉に動き出すらしいっす」
 どうやら、ハロウィンに向けて、多数のドリームイーターが出現するらしい。
「その、『ハロウィンドリームイーター』とでも呼ぼうっすかね……そいつらが現れるのは、世界で最も盛り上がるハロウィンパーティー会場、つまり、鎌倉の『ケルベロスハロウィン』パーティーの会場っす。皆さんには、パーティーが始まる直前までに、ハロウィンドリームイーターを撃破して欲しいっす!」
 皆が、心置きなくハロウィンを祝うことができるように……と、ダンテはケルベロスたちに頭を下げる。
「そのドリームイーターっすけど……全身がモザイク化した本体に、派手な王子様のコスプレをしたような奴っす。どうも、ぼっちをこじらせた願望が、モテモテで華やかでいつも誰かに囲まれてる、いわゆる『王子様』の姿を取らせたみたいで……そう考えると、ちょっと哀しいっすね」
 もちろん、だからといって放置するわけにはいかないっすけど……と、ダンテは付け加える。
「えっと、ハロウィンドリームイーターは、ハロウィンパーティーが始まると同時に現れるっす。だから、鎌倉のハロウィンパーティーが始まるよりも先に、いかにもハロウィンパーティーが始まったっぽく楽しそうに振るまえば、奴を誘き出すことができるっすよ」
 そして、おびき出したハロウィンドリームイーターを倒してほしい、とのことだ。
「奴の攻撃手段は、手に持った『心を抉る鍵』でトラウマを与えてきたり、モザイクを飛ばして悪夢で催眠状態を誘ったり、自分の傷をモザイクでヒールしたり、ってとこっす。1体だけっすけど、それなりに強いっす」
 くれぐれも気を抜かずに戦ってほしい、とダンテはケルベロスたちに念を押す。
「ハロウィンパーティーを安心して楽しむためにも、ドリームイーターはきれいさっぱり片付けないとっす。よろしくお願いするっす!」
 それができるのは皆さんだけですから……と、いつも通り信頼にキラキラ輝く目で、ダンテはケルベロスたちを送り出すのだった。


参加者
陰条路・朔之助(雲海・e00723)
シャルルーニ・シュヴァルツァー(ナイトメアリフレイン・e01166)
神崎・修一郎(地球人の刀剣士・e01225)
木霊・ウタ(地獄が歌うは希望・e02879)
文丸・宗樹(忘形見・e03473)
ブラウト・ミルヒシュトラーセ(週休八日を希望します・e05747)
九頭龍・冥(屑龍・e11303)
フェイト・テトラ(運命求めし来訪者・e17946)

■リプレイ

●準備開始!
 ここは、鎌倉ハロウィンパーティーの会場ほど近く。
 まとめて押し寄せると予知されたドリームイーターをおびき寄せるため、多くのケルベロスたちが、一足早い準備をしている。
「人からただでお菓子は貰えて、期間限定品も出る……ハロウィンは、いい」
 自分も持ってきたお菓子を準備しながらそうつぶやく文丸・宗樹(忘形見・e03473)らも、そんなケルベロスたちの集団の一つだった。
 いかにも本物のケルベロスハロウィンが始まったと思わせるため、準備はなかなかに本格的だ。皆思い思いの仮装をし、お菓子を分けあい……宗樹の仮装は僧兵の衣装に鎧を着込んだ、弁慶風のものだ。相棒のボクスドラゴン『バジル』も若武者のいでたちで牛若丸に扮し、ちょこんと可愛らしく主人の頭に陣取っている。
「楽しいパーティに参加できないのは辛いですよねぇ……せめて、私達と楽しいひと時を過ごしてもらいましょうねぇ」
 シャルルーニ・シュヴァルツァー(ナイトメアリフレイン・e01166)は、これから戦う相手にも心を寄せつつ、お菓子や飾り付けの準備をしている。彼女の仮装は、とんがり帽子にローブの伝統的な魔女……ただし、開かれたローブの前面から内側に着込んだ過激なレオタードを惜しげもなくのぞかせた、いささか目のやり場に困るアレンジのものだ。スタイルの良さもあいまって、だいぶ大変なことになっている。
「ああ、そうだな。見逃してやることはできねえけど、せめてパーティーに参加した気分ぐらいは味わわせてやろうぜ……あ、これ、クッキー持ってきた。皆で食べてくれ」
 そう言ってお菓子を配る陰条路・朔之助(雲海・e00723)は、こちらもハロウィンの王道・包帯をグルグル巻いたミイラ風の仮装だ。ちなみに、言葉遣いも容姿も名前も男そのものだが、れっきとした女性である。ファンシーな南瓜のクッキーからうかがえる女子力だけが、かろうじてその片鱗をのぞかせている。
「はい、いただきます! 僕、ずっとこんなふうに、みんなで騒ぐことに憧れてました……すごく嬉しいです!」
 フェイト・テトラ(運命求めし来訪者・e17946)は、朔之助から幸せそうにお菓子を受け取り、天真爛漫な笑顔を見せる。つい最近まで外の世界を知ることができなかった彼にとって、このパーティーは全てのものが興味深く、きらきらと輝いていた。
 ちなみに彼、と言ったが、その仮装は、可憐なお姫様である。黒いリボンでデコレーションされた白いドレスに、アッシュの髪に結ばれた大きな黒いリボン……どこからどう見ても、可愛らしい女の子だ。朔之助といい、フェイトといい、性別の壁など大したことではないのかも知れない。
「それは良かったであります、フェイト様。ドレスも良くお似合いでございます」
 フェイトのドレスを褒めるブラウト・ミルヒシュトラーセ(週休八日を希望します・e05747)も、同じく白を基調としたドレスのお姫様姿に扮している。普段の役割は自宅警備員にして戦闘メイドだが、今日は奉仕される側の格好だ。なんでも、かつて仕えた家のお嬢様をモデルにしているらしい。
 二人のお姫様が待つのは、孤独な王子様……人々に囲まれたい願望がその姿を取らせた、哀れなハロウィンドリームイーターだ。
 そんな悲しい王子様を迎えるべく、彼らのパーティーは、いよいよ本格的になっていった。

●ひとときの宴
「……さあ来い王子様。あんたの寂しさ、俺の音楽で埋めてやるよ」
 オリジナルのギター『ワイルドウィンド』を奏で、木霊・ウタ(地獄が歌うは希望・e02879)は音楽をつむぎだした。名前の通り力強く吹く風のような音色は明るく、かりそめのパーティーを楽しげに彩る。そんなウタの仮装は、これまたワイルドに海賊だ。勇壮なコートと洒落たベストに身を包み、『これぞ海賊!』といったたたずまいである。勇ましい海賊が音楽を奏でる姿は、まるで有名な世界文学のワンシーンのようだ。
「ふふ、いい曲ですねぇ。踊りましょうかぁ」
 シャルルーニは朔之助を誘い、演奏に合わせて踊りだした。ミイラと魔女のコンビがくるくると踊ると、辺りはいかにもハロウィンらしい雰囲気に包まれる。
「……俺たちも合わせるか、バジル」
 宗樹がバジルに声をかけ、曲のリズムに合わせて太鼓を叩く。バジルはベールを被った頭でこくりとうなずいて、簡単な音の出る笛を両前足で口に持っていき、こちらは主人の太鼓に合わせて軽快に吹きはじめる。
「わあ、みなさん、素敵です! これで王子様が現れたら、本当の舞踏会みたいですね」
 フェイトはそんな皆の様子を見て、満開の笑顔で目を輝かせる。
「そして王子様が近寄ってきたら、微笑みながらナイフでぐさりとすればよいのでありますか」
「いやブラウトさん、それダメっす! その通りなんすけど、もうちょっとだけ包み隠すっす!」
 さらっと物騒な答えを返したブラウトにツッコミを入れたのは、九頭龍・冥(屑龍・e11303)だ。女性ということで、彼女も仮装はお姫様か……と思いきや、なんとこちらは、モヒカンにごつい肩パッドの、いわゆる『ヒャッハー』スタイルである。お姫様に寄ってきた王子様を三下っぽく囃し立てて戦意を焚きつけよう、というコンセプトらしい。
 トゲトゲの肩パッドに、原色のモヒカンヅラに、ごつい手足のプロテクター……女のプライドを全力で遠投して作りこんだ仮装は、異彩を放つ存在感もバッチリだ。いやほんと、外野からノーバウンドでバックホームに突き刺さるプロ野球選手並みの、捨て身なプライド遠投術だ。なんだか心の涙が流れそうだが、冥は気にしない。気にしないったら気にしない。
「……噂をすれば、影か。来たようだ」
 騒ぎの合間を縫って、神崎・修一郎(地球人の刀剣士・e01225)が仲間に声をかける。彼の仮装は、王子を守る無口な全身鎧騎士だ。黒塗りした西洋鎧『黒影』をさっそうと着こなし、言葉少なに辺りを見守る様子は、寡黙な雰囲気とあいまって非常にはまっている。
 そして、彼の言葉通り、全身をモザイクに覆われ派手な衣装をまとったドリームイーター……『王子様』が、ケルベロスたちに近寄ってきた。
「……ちゃんと自分で参加しに来れたじゃん、あんた」
 朔之助はドリームイーターに向かって、少しだけ優しく声をかけた。そしてミイラ男の包帯をするすると外す。
「あんたも王子なんだよな? なら、どっちが華麗に振る舞えるか勝負だ」
 包帯の下に着込んでいたのは、こちらも王子様風の華やかな衣装だ。
「さあ王子様、一緒に踊りましょう」
 モザイクの王子様に向かって、フェイトはにっこりと微笑みかける。そして手を差し伸べ、パーティーの中心に向かって王子様を誘う。
「……私も、ご一緒するであります」
 ブラウトも王子様に歩み寄り、フェイトの反対側からダンスに誘う。かつて仕えたお嬢様のように、優雅に穏やかに微笑んで……実際にはちっとも穏やかじゃない女王様気質だったが見てくれだけは良かったな、なんてことも思い出しながら。
「…………」
 王子様はしばし戸惑うように立ち尽くしていたが、やがて彼女たちの中心におさまり、動きを合わせて踊るように動き出した。ダンスを盛り上げるように、ウタは楽しげなワルツに曲を変え、ギターを奏で続ける。
 お姫様と王子様、そして他のケルベロスたちも周りを取り囲むように踊るひととき……しばしの間、これから戦いが始まるとはとても思えないほど、和やかな時間が流れた。

●黄昏の舞踏会
 だが、祭りはいつか終わらせなくてはならない。
「お姫様たちは、そろそろ戻らないといけませんのでぇ……」
 シャルルーニが、魔法を解くように大きな身振り手振りで一回転する。そして仮装用の大きな木の杖の中からライトニングロッドを二本取り出し、素早く連結して長めのロッドに作り替える……いつも戦いで使用している、馴染みのスタイルだ。
「いい思い出が作れたか? さあ、此処からが本番のパーティタイムだ。俺達と踊ろうぜ」
 ウタも、純粋に気持ちだけを込めていた演奏を止め、代わりにグラビティの力を込める準備を整える。
「おうおう、俺様の前でさんざ見せつけてくれやがって……遊びは終わりだぜ、ヒャッハー!!」
「……!」
 さらに冥が敵意もあらわにヒャッハーしたことで、ドリームイーターの王子様は、本来の目的を完全に思い出したらしい。ケルベロスたちから飛び退るように離れ、明確に敵対の意志の感じられる気配を放つ。
「……参る!」
 機先を制したのは、修一郎だ。熟練した経験に支えられ、また極端なまでに素早さに特化した雷刃突の一撃は、強敵相手でも簡単にはよけさせない……王子様のモザイクは、いきなりの痛みに面食らうようにうごめいた。
「……受け取ってくれ!」
 彼と感情を繋いでいた朔之助が、本来の動けるタイミングよりもずっと早く、ちらつく分身を仲間に投げかける。また宗樹も、同じように状態異常に対抗する力を与える紙兵を振りまいた。
 王子様は、厄介な追加効果で戦う得意のスタイルを妨げられるいらだちを込めるかのように、大きく手元の鍵を振りかぶった。そして目の前にいたシャルルーニに、激しく振り下ろす。
「させるものか!」
 追加効果こそ退けたものの大きな傷を負った彼女に向けて、ウタはすかさず癒しの力を込めたオーラを解き放った。十分な気力に支えられた力は、完全にとはいかないまでもかなりの回復をもたらす。
「ウタくん、ありがとうですよぉ。今度は私の番ですねぇ……アナタが見た私は、どれがホンモノでしょうかぁ、王子様?」
 こちらも感情に支えられた連携で、シャルルーニはすぐに反撃の『夢幻連撃』を放つ。彼女の幻影に惑わされたのか、王子様の動きは精彩を欠き、完全な回避には至らない。シャルルーニが与えた決して軽くはない衝撃と共に、きらびやかな衣装から装飾品のかけらが舞い散った。
「…………!」
 王子様は、八つ当たりのようにモザイクの塊を解き放った。その相手は、先ほどシャルルーニの傷を癒やしたウタだ……どうやら、回復役を先に潰すつもりらしい。
「くっ、そんなんで俺の炎を消せるものかよ……!」
 まだ後衛にまでは状態異常耐性が行き渡ってないタイミングで、ウタは催眠つきの攻撃に顔をしかめた。彼にぶつけられたドリームイーターの力に呼応するかのように、地獄化した右半身の炎が勢い良く燃え盛る。
「大丈夫です、僕がフォローします」
 フェイトが素早く、もう一人の回復役として彼をフォローする。サキュバスの霧が優しくウタを包み、彼は敵味方の感覚を取り戻した……癒し手の立ち位置で状態異常の回復チャンスが二倍になっていなければ、より多くの手数を割かなければならなかったかも知れない。
 また、フェイトのビハインド『アデル』は、回復に徹するフェイトをかばうように、しっかりと彼の側に付き添っている。いつも隣に寄り添う大切な存在は、この戦いの中でも変わらずフェイトを守っていた。
「……いくぞ、バジル!」
 反撃に転じたのは、もう一組のケルベロスとサーヴァントのコンビ、宗樹とバジルだ。宗樹が高々と飛び上がりルーンアックスで王子様の頭部……小さな王冠を乗せたモザイクを叩きつけると、バジルはそれに続き、光のブレスを勢い良く浴びせかける。物理と光のコンビネーション攻撃は、着実に王子様のモザイクを削りとった。
「何時でも何処でも貴方のお傍に。ご存じでしたでしょうか。猟犬からは逃げられないのであります」
 今度はブラウトの大技が、王子様に強烈な打撃を与える。何者をも逃さない異形の猟犬にも劣らない追跡力で標的を打ち砕くのは、主に仕えしメイドの技の真髄、『真紅の花嫁』だ。王子様のモザイクは、猟犬に食らいつかれた痛みにおののくように強くゆらいだ。
「ヒャッハー、王子は消毒だー!」
 隙を逃さず、冥の無慈悲な斬撃が王子様に襲いかかる。両刃斧と機械鋸の複合した特製の武器は、竜の咆哮のように唸りを上げ、王子様のよりどころ……身にまとう華やかな衣装の力を、これまた無慈悲に削ぎ落としにかかる。
 王子様はたまらず、一旦退いて体勢を整えなおした。そして自らのモザイクで傷ついたモザイクを上書きし、深刻なダメージと不利な効果を少しでも補修しようとする。
「一ノ太刀……紅葉!」
 だがしかし、ケルベロスたちの攻撃は王子様に休息を許さない。修一郎の鋭い太刀筋が、修復されたばかりのモザイクを切り裂いた。豊富な戦闘経験の中でもドリームイーターは初めての相手になる彼にとって、今回はある意味初戦のようなもの……油断せず容赦せずの心構えで、修一郎は全力で刀を振るう。
「神崎さん、すごいです……負けないように、最後までみなさんをサポートしますね!」
 フェイトはそんな彼の剣さばきを見て、気力もあらたに回復と強化を皆に振りまく。ともに戦う仲間の勇姿が、回復に徹する彼によりいっそうの力を与えていた。
 仲間に支えられたケルベロスたちと、一人ぼっちの心が生み出したドリームイーター……状況を比較するのは、酷というものだったかも知れない。だが、それでも使命を果たすため、ケルベロスとサーヴァントたちは、王子様への攻撃を重ねていった。
「いいか、王子さんよお……」
 そして、冥が手にしたキーボードを振りかぶり、渾身の一撃を振り下ろす。
「ハロウィン乗り切ったってなぁ、クリスマスとかバレンタインでぼっちは苦しみ続けなきゃいけないんだコノヤロー!!!!」
 ある種自分にも叩きつけるように絞り出された、心の叫びと現実。
 それは最後の一撃となって、王子様のモザイクを打ち砕いた……!

●南瓜の王子様
「あらぁ、これは……?」
 王子様の立っていた地面に現れたものに気づき、シャルルーニは首を傾げながらそれを拾い上げた。
「ハロウィンの飾り、みたいだな。王子様が残していったのか……?」
 朔之助が彼女の手元を覗き込んでつぶやく。確かにシャルルーニの手にあるのは、オレンジ色も鮮やかな、ハロウィンのカボチャ飾りだった。ただのカボチャではなく、頭の部分には、可愛らしい冠が乗っかっている。
「ならば、会場に持っていってやろう。被害者の青年のためにもな」
「ああ、そうだな……あばよ、王子。安らかにな」
 そう言って冠カボチャを引き取った修一郎に、ウタはうなずき、メロディアスな鎮魂曲を奏で始める。それはまるで、ケルベロスハロウィン本番への前奏曲のようでもあった。
「今年は賑やかになりそうだな、バジル」
 宗樹はバジルと共に、もうすぐ始まる世界一賑やかなパーティーに思いを馳せる。
 様々な思いはあれど、お祭り一色に包まれる街を守ったのは、まぎれもなく彼らである。
 心置きなく『トリック・オア・トリート』の言葉を交わせる一日は、まさにこれから始まるのだった。

作者:桜井薫 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2015年10月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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