ワイルド・インフェルノ

作者:雷紋寺音弥

●歪んだ残滓
 ――北九州筑豊地域。
 かつては炭鉱都市として発展した街並みも、今やすっかりと様変わりしていた。鉄鋼所へと伸びる赤茶けた色の線路は廃線になって久しく、工場にも人の影はない。焔を失った炉は煤に覆われたまま放置され、建物自体も風雨に晒されて朽ち果てて行くのを待つばかり。
 そんな場所に、何か惹かれるものを感じたのだろうか。深夜、廃線を辿って訪れたジョルディ・クレイグ(黒影の重騎士・e00466)が見たものは、巨大なモザイクによって覆われた廃工場の姿だった。
「ワイルドスペースか……。まさか、こんな場所にまで存在していたとは」
 周囲に人の影はない。こんな場所を訪れるのは、廃墟マニアか地元の暴走族くらいだろう。
「見逃すわけには、行かないようだな」
 それでも、ここで放置しておくのも拙いと察し、ジョルディはモザイクの中へと足を踏み入れた。歪な形に入り組んだ、かつての工場。だが、彼がその奥へと歩を進めようとした瞬間、突如として無数の光線が降り注ぎ、済んでのところで身を屈めた。
「この空間を発見できるとは……。貴様……この姿に因縁のある者か?」
 見上げれば、張り巡らされたパイプの上に立っていたのは、巨大な斧を携えた男。種族としては、ドリームイーターで間違いない。しかし、その姿はさながら全身を地獄化させたジョルディそのものと言ってよく。
「我が名はワイルドハント! この空間へ足を踏み入れた者は、何人たりとも排除するのみ!」
 戦斧を掲げ、舞い降りる巨躯。並び立つ二体の重騎士は正面から互いの武器を交差させ、廃工場の中に激しい火花が炸裂した。

●地獄からの使者
「召集に応じてくれ、感謝する。ワイルドハントについて調査をしていたジョルディ・クレイグが、廃墟となっていた廃工場で襲撃を受けたようだ」
 取り急ぎ、現場に急行してジョルディに加勢し、敵を撃破して欲しい。いつも通りに語るクロート・エステス(ドワーフのヘリオライダー・en0211)ではあったが、その言葉の端には少しばかりの焦りが見えた。
「もう、感付いているやつもいると思うが……ジョルディを襲撃した敵は、ドリームイーターのワイルドハントだ。地元の暴走族の溜り場になっていた廃工場をモザイクで覆って、何らかの作戦を企てていたみたいだな」
 もっとも、その概要までは不明のまま。それを調べるためにワイルドスペースへと突入したジョルディに、敵は問答無用で襲い掛かって来た。
「敵のドリームイーターは1体のみで、全身を地獄化させた状態のジョルディに酷似した姿をしているぜ。現場の廃工場だが、中は広いから、そこまで戦闘に支障はないだろうな。まあ、ワイルドスペースのお約束で、パイプやら機械やらが、あちこち歪に絡み合った状態になっているみたいだが」
 幸いなのは、突入してからジョルディに合流するまでは、大した時間も掛からないということか。敵に先手を取られている以上、合流後の立ち回りを考える必要はあるが、ジョルディを探して迷宮と化した廃工場内を右往左往せずに済むのは救いである。
「敵の武器は手にした斧と、背中に生えた骨格だけの翼の先端から発射する光線だ。その他に、地獄化させた全身のエネルギーを胸部に集中させて、一気に放出する技も使ってくる。どれも攻撃力が高かったり、複数の相手を纏めて攻撃できたりするから、油断は禁物だな」
 その姿形こそジョルディに似るが、しかし戦い方は彼に比べ、より純粋な機械の戦士に近いもの。高火力な上に戦う間合いを選ばないため、接近戦を主軸にして戦うことの多いジョルディと同じだと思っていると、思わぬ反撃を食らうかもしれない。
「侵入した存在を、問答無用で排除する……。もしかすると、敵はワイルドの力について調査されることを、恐れているのかもしれないな」
 しかし、それを気にするよりも、今はジョルディを助け出すことが先決だ。調査に関しては戦いを終えて帰還した後、いくらでも考えることができるのだから。
 仲間の命運は、お前達の手に掛かっている。そう言って、クロートは改めてケルベロス達に依頼した。


参加者
ジョルディ・クレイグ(黒影の重騎士・e00466)
呉羽・律(凱歌継承者・e00780)
霧島・カイト(凍護機人と甘味な仔竜・e01725)
ゼルガディス・グレイヴォード(白馬師団平団員・e02880)
ヴィンセント・ヴォルフ(銀灰の隠者・e11266)
イアニス・ユーグ(赤毛・e18749)
ミカ・ミソギ(未祓・e24420)
ミーシャ・クライバーン(トリガーブレード・e24765)

■リプレイ

●地獄騎士
 配線を辿った先に佇む廃工場。草の陰で鳴く虫の音を聞きながら、ケルベロス達は目の前に広がる奇妙な空間を凝視していた。
「ほう、これがワイルドスペースか。本当に一面モザイクなのだなぁ」
 感心した様子で見上げるゼルガディス・グレイヴォード(白馬師団平団員・e02880)だったが、宵闇の中に鎮座する巨大なモザイクの塊は、それだけで生理的な不安を煽る何かがある。
「本当に場所を選ばないんだな、ワイルドスペース。ちょっとした固有結界みたいなもんじゃないか、コレ?」
 神出鬼没の空間を前にして、霧島・カイト(凍護機人と甘味な仔竜・e01725)は思わず足を止めた。捻れた空間の中に待ち受けるのは、ケルベロスの似姿を取るドリームイーター。いったい、連中の目的は何か。あまりにも謎が多過ぎて、憶測さえも決められない。
「ワイルドハント、とは、ヨーロッパの伝承……? 英雄たちの行列で、通り過ぎた後には大きな災いを産む、という……」
 かつて、自分が耳にした伝承と照らし合わせ、ヴィンセント・ヴォルフ(銀灰の隠者・e11266)もまた首を傾げた。
 伝承にある通りなら、ワイルドハントを退けるには、三つの十字架を並べれば良いはずだ。が、しかし、相手は御伽話の中の存在ではなくデウスエクス。関連性が不明な以上、恐らくは何の効果も期待できまい。
「ワイルドハント……。因縁のある者に似た姿で現れるというが……」
「迷子探しと道案内、どちらも慣れた仕事さ。気負わず行こうじゃないか」
 油断なく歩を進めるミーシャ・クライバーン(トリガーブレード・e24765)に、ミカ・ミソギ(未祓・e24420)が手慣れた様子で答えた。だが、それでもモザイクの中に足を踏み入れた瞬間、粘性の高い液体に纏わりつかれるような感覚に襲われ、なんとも嫌な気持ちにさせられた。
「……周りに、人はいないようだね」
 念のため、光の翼を広げてみるミカだったが、何の反応も感じられない。暴走族も中に捕らわれているとのことだったが、彼らはまだ無事ということか。
 その、どちらでも構わなかった。今は一刻も早く、仲間を見つけることが先決だ。
 複雑にパイプが入り組んだ工場の中を、油断なく警戒しながら進んで行く。ふと、周囲に目をやれば、そのまま捨て置かれた様々な機械が、錆びついた状態で天井や壁に張り付いている。
 重力法則さえ無視した、なんとも奇妙な空間だった。そんな中、金属と金属が激しくぶつかり合う音を耳にして、その場にいた全員が音のした方向へと目をやった。
「あれは……」
 誰ともなしに呟いたのと同時に、視界に飛び込んできたのは二人の騎士。その内の一人は、漆黒の鎧に身を包んだジョルディ・クレイグ(黒影の重騎士・e00466)。だが、もう一人は……。
「全身地獄のワイルドハントか……」
 イアニス・ユーグ(赤毛・e18749)の見据える先には、全身を地獄化させた重騎士が。
 ぶつかり合う戦斧と戦斧。しかし、明らかにジョルディの方が押されている。膂力では敵の方が上なのか、ジョルディは盾と剣も用いた三重の障壁で、ひたすらに敵の攻撃をしのいでいるだけだ。
 このままでは拙い。戦況の不利を察した呉羽・律(凱歌継承者・e00780)は、すぐさま第三の凱歌の凱歌を紡ぐ。眩き光の加護を与え、各々の武器に所有者の鋭き闘志を映し出す光の狂想曲を。
「鋭き光の剣歌よ……我等に勝利を与え給え!」
 効果としては、そこまで大幅な回復が期待できるものではない。だが、それでも始終押されていたジョルディにとって、これは戦況を覆す好機だった。
「こんなところで迷子か? 迎えに来たぞ、相棒」
「忝い! 後ろは任せたぞ!」
 大剣を杖代わりにして立ち上がり、ジョルディは改めて目の前に立つ己の似姿をした敵と対峙した。
 ここから先が、本番だ。全身地獄の狂える騎士。その一撃は凄まじい威力を誇るが、しかし何故か負ける気はしなかった。
 姿形は真似られても、決して真似できないものがある。ワイルドハントに、それを刻み込んでやるために、ケルベロス達は一斉に攻撃を開始した。

●歪んだ鏡像
 不気味に歪んだ工場内で、繰り広げられる激しい応酬。全身地獄のワイルドハントによる攻撃は、その見た目に違わぬ凄まじい威力を誇っている。
「我はワイルドハント! 貴様達、有象無象が束になったところで、我の力の前には赤子同然よ!」
 骨格だけの翼の先端から放たれる無数のレーザーが、薙ぎ払うようにして周囲を焼いて行く。鋼鉄も飴のように溶断する光線が、驟雨の如く後衛に控える者達へ向けて放たれる。
「後ろを狙って来たか!」
 咄嗟に気付いたイアニスが身を呈して壁となったが、単身で引き受けるのはあまりにも無謀だった。
「……がっ!?」
 全身を貫く無数の光。傷口が焼けるように痛み、呼吸をすることさえままならない。
 単発の威力は大したことのない一撃だが、しかし攻撃に特化したワイルドハントが使えば話は別ということか。複数人に向けられた攻撃から全ての仲間を庇おうとすれば、必然的に単発の技から庇うときよりも、一人分の負担が増してしまう。
「その身を縦にして仲間を庇う……その心意気は良し! だが、痩せ我慢もいつまで続くか?」
 ハチの巣にされかけたイアニスを前にして、勝ち誇ったように言ってのけるワイルドハント。だが、それでもイアニスは怯まない。この程度で弱音を吐くようならば、最初から前に出ることなどしていない。
「アンタのその地獄……それって本物か? もしくはただのモザイクの張りぼてか?」
 どちらにせよ、倒せば全ては解決する。不敵に笑ってケルベロスチェインを解き放ち、地獄の塊と化している敵の身体へと絡み付かせた。
「さあ、捕まえたぜ。こっから先は、俺達の時間だ」
「何っ!? 貴様、まさか最初からそれが狙いで……!!」
 拘束を振り解こうとするワイルドハントだったが、時すでに遅し。気が付けば、これを好機と判断し、他の者達も一斉に攻撃を開始した。
「ここで抑える! ヴィンセントとたいやきは、俺に合わせろ! ミーシャはイアニスのフォローを頼む!」
「了解だ……。ただ、後で甘い物でも奢ってくれよ」
 カイトの言葉に頷きつつ、ヴィンセントがちらりと横を見る。その言葉に、ボクスドラゴンのたいやきが、思わず身体を震わせたようだが、それはそれ。
「こちらは任せろ。まだ、倒れてもらっては困るからな」
 ミーシャがイアニスに気を送ったことで、先程の光線による傷が瞬く間に塞がって行く。その間に、カイトとヴィンセントはそれぞれの武器を構えて狙いを定め、たいやきも大きく息を吸い込んで。
「さあ、足を止めてやるぞ」
「どんなに強い攻撃でも、当たらなければ無意味、だからな」
 ハンマーの柄より発射された竜砲弾が、ライフルの銃口から放たれる魔法光線が、ワイルドハントの身体を左右から押し潰す。それだけでなく、なぜか小豆色をした流動体のようなたいやきのブレスが、間髪入れずに追い打ちをかける。
 まあ、知らない者が見たら、ドラゴンが餡子を吐いているようにしか見えないのだが、細かいことは気にしたら負けだ。哀れ、吐瀉物……もとい、ブレス攻撃を顔面に食らい、早くもワイルドハントの動きが鈍り始めた。
「フォローの足りない部分は、俺に任せてくれ。君達は、とにかく攻撃を」
「ありがたい限りだ! ならば思う存分、攻撃に専念させてもらおうか!」
 ケルベロスチェインを広げて防御を固めるミカを横目に、槍を構えて飛び出したのはゼルガディス。そのまま神速の如き突きの一撃で、敵の胸部を貫いた……のだが。
「おのれ……。これ以上、好き勝手にやらせるわけにはいかぬ!!」
 槍の柄を掴んで胸元から槍先を引き摺りだし、ワイルドハントは武器諸共にゼルガディスの身体を放り投げた。狙いは正確。確実に急所を貫いたにも関わらず、それでも未だこれだけの力を残しているとは。
「さすがだ、とだけは言っておこう。だが、いかに俺の真似をしたところで、その魂までは真似できぬぞ!」
 戦斧を突き付け、駆けるジョルディ。対するワイルドハントも迎え撃たんと斧を構えるが、次の瞬間、地獄化した身体が音を立てて強烈な爆発に飲み込まれた。
「ぐっ……! この程度の虚仮威しで、我を仕留められると思うな!」
 ジョルディに気を取られた一瞬の隙を突いて、律が放った念の一撃。ワイルドハントからすれば、大した威力もない技だと思ったのだろう。しかし……。
「正面! 取ったぞ!!」
 その爆発で視界が塞がれたところを狙い、高々と跳躍したジョルディが、戦斧を力任せに叩き付けたのだ。
「しまった! こちらの方が本命だったのか!?」
 全身地獄のワイルドハントを、漆黒の巨斧が斬り伏せる。未だ油断のできる状況ではなかったが、それでも徐々に戦況は、ケルベロス達の方へと傾きつつあった。

●真似できぬもの
 廃工場の中で、戦いは続く。数の利を得たとはいえ、相手は強敵ワイルドハント。苛烈な攻撃を幾度となく浴びせられる内に、壁となる者達の消耗もまた激しくなっていた。
 味方への攻撃を庇い過ぎた結果、たいやきは既に美味しく焼かれ……ではなく、完全に消滅してしまっていた。見れば、他の者達も決して消耗していないわけではなく、その顔にも疲れの色が見える。
 だが、それでも彼らがここまで戦えたのは、互いに己の役割を理解し、巧みな連携を用いていたからに他ならない。模倣存在のワイルドハントとはいえ、こればかりは真似しようにも真似られないものだ。
「どうした? アンタの持つワイルドの力とやらは、その程度なのか?」
「ふむ……。どうやら、今までの積み重ねが堪えているようだな」
 擦れ違い様に、イアニスが空の気を纏った刃で敵の脇腹を斬り付ける。同じくゼルガディスもまた日本刀を抜き放ち、美しい弧を描く斬撃で急所を抉る。これまでの戦いで動きを封じられたワイルドハントには、既に避けるだけの余裕もなく。
「わたしにこれを使わせるとはな」
 グングニル。伝説の神槍の名を冠した技で、ミーシャは敵の身体を真正面から貫いた。
「う……ぉぉ……。我が……この、ワイルドハントが……!!」
 全身地獄の怪物が、ここに来てとうとう膝を突いた。終わりは近い。だが、最後まで油断もできない。だからこそ、この瞬間に全力を集中させるべきだと、それは誰しもが言葉にせずとも解っていた。
「その身に呼び醒ませ、原始の畏怖」
「地の底へ堕つ罪過の重量。君を撃つ魔弾の名前だ」
 ヴィンセントの紡いだ漆黒の雷槌が敵を穿ち、ミカの放った弾丸、疑似的に質量を増大させた光粒子が追い打ちをかける。それだけではなく、今度はカイトが練り上げた凍が敵の身体を包み込み、そのまま氷の棺と化して封じ込めた。
「戒めるは凍気、喰らうは貪狼の顎、閉じるは氷獄への棺! 『氷獄棺:貪狼』、その欲深き者を覆え!」
 その名の冠する通り、彼の魔術は欲を以て欲深き者を棺へと閉ざす。いかに抗おうとも逃れることはできず。それはさながら、禁断の棺の名に相応しく。
「おのれぇぇぇっ! だが、この技を見て驚くがいい!!」
 それでも、未だ倒れぬワイルドハントは、己に残された最後の力を全て胸部へと集中させて行く。迸る赤と青の稲妻。全身地獄の姿は、どうやら伊達でも酔狂でもないらしい。
「受けよ! インフェルノバスタァァァッ!!」
 咆哮と共に、解き放たれるエネルギーの奔流。荒れ狂う魔獣のような一撃が捉えたのは、ワイルドハントが似姿を借りているジョルディに他ならず。
「フハハハッ! 死ね! 消えろ! そのまま灰になるがいい!!」
 勝利を確信し、高笑いするワイルドハント。だが、果たして光の奔流が過ぎ去ってしまうと、そこにあったのは未だ健在なジョルディの姿。
「……どうした? 俺の猿真似は、それで終わりか?」
 盾は抉られ、砲塔も破損してはいたが、それでもジョルディは立っていた。肉体は既に満身創痍。しかし、いかに身体を傷つけられようと、その心までは折られておらず。
「さあ、そろそろフィナーレだ。幕を下ろす準備はいいかい、相棒?」
 律の問いに、ジョルディは無言で頷いて答えた。その上で、改めて大剣を構えてワイルドハントと対峙すると、自らもリミッターを解除する。
「ワイルドハント……我が地獄の力を以て、貴様の作り出した虚構の鏡像を破断する!!」
 一時的とはいえ、それでも全身を地獄化させたことで、今やジョルディの姿はワイルドハントと遜色のないものになっていた。
 最終形態、インフェルノ・フォーム。自身のエネルギーと地獄の炎を融合させた、ソウルフレイムを纏った身体による決死の突撃。
「HADES機関オーバードライブ! 最終形態『インフェルノ・フォーム』! オオオ……滾る心が魂燃やし! 地獄の炎が悪を討つ! 受けよ超必殺!」
 砲塔の上に律を乗せ、ジョルディは躊躇うことなく敵へ突進して行く。
 まずは一撃。律の両手に握られた長剣が敵の身体を十字に斬り裂いたところで、ジョルディもまた大剣と戦斧を左右から斜めに振り下ろし。
「姿形を似せようとも……俺達の絆は真似できまい!」
「ぬぉぉぉっ! そんな……馬鹿なぁぁぁっ!!」
 十字と×字に刻まれた傷口から、地獄の力が暴走する光となって溢れ出す。こうなれば、もはや止めることは誰にも不可能。
「「鉄鴉連奏! 攻凶曲”終焉”」」
 そう、律とジョルディの二人が叫んだ瞬間、ワイルドハントは溢れ出る光の奔流に飲み込まれ、木っ端微塵に四散した。

●凱旋
 戦いの終わった廃工場には、再び静けさが戻っていた。
 この地に集まっていたはずの暴走族は、未だ姿を現さない。隠れているのか、逃げ出してしまったのか。もっとも、ワイルドスペースが消滅した今となっては、敢えて探す必要もないのだろうが。
「助かったぜ……相棒」
「まったく、無茶をしてくれるな。それにしても、ワイルドスペース……不思議な空間だったな」
 ジョルディに肩を貸しながら、律は改めて仲間達に体調を尋ねた。しかし、あれだけ奇妙な空間だったにも関わらず、取り立てて目立った変化はないようだった。
「……しっかし、ハロウィンが好きなのかね、ドリームイーターの連中。こんなに大規模に事起こしてさぁ」
「確かに、言われてみれば……」
 カイトの問いに、改めて今までの戦いを振り返るヴィンセント。今年は特に、本格的に魔女達が絡んだ事件が多かったような気がする。
(「そういえば、十二の魔女も地獄を求めていたのではなかったか?」)
 ふと、イアニスが何かを思い出したようだが、彼は敢えて口には出さなかった。
 謎の空間、ワイルドスペース。その秘密が遠からず明らかにならんことを願いつつ、ケルベロス達は廃工場を後にした。

作者:雷紋寺音弥 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年10月23日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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