●とあるスポーツジムの地下フロアにて
マッチョな鳥が、色とりどりのスポーツウェアに身を包んだぽっちゃり系男女に囲まれて見下されながら、つばと汗を飛ばし飛ばし熱く語っている。
「教祖さまは俺にこうおっしゃられた。『人間の一生は有限、つまり、食べられる食事の量も有限、ならば、全ての食事を一料理に限定して、命ある限り食べ続けるべきである』と」
チビでマッチョな鳥――ビルシャナは、六道衆・餓鬼道の信者がビルシャナ化して独立して新たに誕生したデウスエクスだ。
このスポーツジムの元インストラクターでもある。
「独立し、自ら師の教えを布教するにあたり、俺は筋肉で……いや頭を使って考えた。自分が導くべき人々の心により訴えかけるには、もっと教義を深めるべきだと」
胸の前で腕を組み、ふむふむとぽっちゃり系信者たちが頷く。
「紳士諸君! 効果的に体重を落とし、逆三角形のボディーになりたいか!」
おー、と野太い声があがる。
「淑女諸君! 効果的に体重を落とし、くびれのある腰と引き締まったヒップになりたいか!」
おー、と甲高い声があがる。
「ではこれからは『肉』だけを食したまえ。『肉』はいくら食べてもよい。タンパク質は体を作るのに必要だから。重要なのは食事の量を減らすことではない。食べる種類を変えることなのだから」
いわゆる糖質ダイエットというやつだ。
チビマッチョなビルシャナはこれを極端化させた教義を世に広めようとしていた。
●ヘリオンにて
――ぶる、ぶる、ぶる。
ゼノ・モルス(サキュバスのヘリオライダー・en0206)は振動機能付きダンベルを上げ下げしながらケルベロスたちをヘリオン内部に導いた。
「これ? うん、ボクもちょっと筋肉つけたほうがいいかな~なんて。まあ、これは気にしないで」
うっすらと額に汗を浮かせながら笑う。ちょっと顔が強張っているが。
「じゃあ、いまから『悟りを開いたビルシャナの信者が、悟りを開いてビルシャナ化し、独立して新たに信者を集めるという事件』の概要を説明するね。簡単に言うと、みんなにはビルシャナ化した人間とその信者たちと戦って、ビルシャナ化した人間を撃破して欲しいんだ」
ビルシャナ化している人間の言葉には強い説得力がある為、ほうっておくと次々と一般人が取り込まれて信者となり、また新たなビルシャナが誕生してしまう。いまの内に排除しなくては、デウスエクスが無限増産されかねない。
「ビルシャナが、スポーツジムの会員たちに自分の考えを布教している所へ突撃してもらうんだけど、戦う前にビルシャナの主張を覆すようなインパクトのある主張を行えば、会員たちの気持ちを変えて信者になる事を防ぐことができるかも。頑張って、何か考えて」
というのも、ビルシャナ信者はビルシャナが撃破されるまでの間、ビルシャナのサーヴァントのような扱いとなり、無謀にもケルベロスたちに立ち向かってくるからだ。取り巻きが多ければ多いほど、当然、戦いは苦しくなる。
「場所は駅前ビルの地下にあるスポーツクラブ。ビルシャナは仕事帰りにジムに立ち寄った、ぽっちゃり系12人の男女をジムの隅に集めて布教しているよ。周りの人たちよりも背はぐっと低いけど、逆三角形のマッチョな鳥だし、鏡の前にいるからすぐわかると思う」
そんなチビマッチョなビルシャナの攻撃方法は【孔雀炎】と【ビルシャナ経文】、【浄罪の鐘】、それにジャンピング・ヘッド・アタック……いわゆる頭突きの四種類だ。たまに、おでこではなく嘴を突きさしてくるかもしれない。
「量は食べてもいいって言うけど、一生、肉だけって極端すぎるよね。それで痩せても……体に悪そうじゃない? ボクは嫌だなぁ」
ゼノはため息とともにダンベルを降ろした。
「教義を聞いている会員たちは、チビマッチョなビルシャナの影響を受けているから理屈だけでは説得することは出来ないと思う。説得するためにはインパクトがある演出が不可欠だよ。 説得に必要な材料の経費や用意は心配しなくていいから、いろいろ考えてみてね」
参加者 | |
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リィン・リーランス(むげんの胃袋を持つ幼女・e00273) |
ヴァンアーブル・ノクト(熾天の語り手・e02684) |
神宮寺・結里花(目指せ大和撫子・e07405) |
スノードロップ・シングージ(堕天使はパンクに歌う・e23453) |
山蘭・辛夷(ネイキッドアームズ・e23513) |
アデレード・ヴェルンシュタイン(愛と正義の告死天使・e24828) |
モモコ・キッドマン(グラビティ兵器技術研究所・e27476) |
モヱ・スラッシュシップ(機腐人・e36624) |
●
ジムの中から飛び出てきた甲高い声が、廊下の壁に当たって落ち、床に吸い込まれていく。ビルシャナが熱弁を振るっているのだろう。
「『食べていいのはお肉だけ』っすか。ありっちゃありっすけど……」
姉、神宮寺・結里花(目指せ大和撫子・e07405)の呟きに、すぐ隣を歩いていたスノードロップ・シングージ(堕天使はパンクに歌う・e23453)が反応する。
「ダイエットで肉オンリー? あり得ないネ……」
肉だけでは栄養のバランスが取れない。栄養バランスが崩れれば不健康になり、モロに肌の調子が悪くなる。
「なにより、同じものばっかりじゃ飽きちゃうネー」
「うーむ、肉は嫌いではないが、それだけしか食えぬなぞ地獄に等しいのぅ。何故チキュウには美味いものが多いのに我慢せねばならぬのか……」
アデレード・ヴェルンシュタイン(愛と正義の告死天使・e24828)もスノードロップと同意見だ。
結里花もうんうん、と頷く。
「たしかに。肉オンリーだとぶっちゃけ、健康に悪いっすよね」
「ところで」
アデレードは首だけを後ろへまわして、モモコ・キッドマン(グラビティ兵器技術研究所・e27476)に声をかけた。
「重そうじゃの。運ぶのを手伝ってやろうか?」
「大丈夫。すぐそこだし」
運んでいるのは旅館やレストランなどで使われる業務用の炊飯器だ。ただでさえ重いというのに、炊きたてホカホカのごはんがフタまでぎっちり詰まっていた。
よそ見をしたからか、お喋りで気が緩んだか。アデレードの見ている前で、モモコはうっかり持ち手を離しかけた。
モヱ・スラッシュシップ(機腐人・e36624)が、とっさに横から傾いた炊飯器を手で支える。ミミックの『収納ケース』も炊飯器の底に入って支えた。
「シカシ、迷惑な教義もあったモノデス……」
「ああ、まったくだね。だいたい、ビルシャナはどいつもこいつも極端に走りすぎるんだよ」
モヱとともに憤慨する山蘭・辛夷(ネイキッドアームズ・e23513)の横で、シャーマンゴーストの『マン号』に背負われたリィン・リーランス(むげんの胃袋を持つ幼女・e00273)が、むふふ、と笑った。
(「カラアゲ、焼き鳥……今の季節ならつくねにして鍋もありなのです」)
「何、笑ってんだい?」
片眉を上げて見せる辛夷に、なんでもないと首を振る。
ジムの入り口に立った瞬間、ケルベロスたちの摂食中枢をダイレクトに刺激する音と匂いが濛々たる白い煙とともに襲い掛かってきた。
「……肉の焼けるこうばしい匂い。肉を焼くと表面の細胞が壊れ、肉の汁が流れ出る。その汁に含まれている糖とアミノ酸が反応して、美味しそうな焼色がつく。香ばしさの正体、メイラード反応というやつだ。ああ、それにしても美味しそうだね」
ヴァンアーブル・ノクト(熾天の語り手・e02684)は生唾を飲み込んだ。小さく、腹の虫が鳴る音が、いくつか重なって聞こえる。
「でも、みんなが言うように肉だけってのは、バランスが良くないねぇ……病気になってしまうよ? 日本人の場合は特に肉食に適した体の作りではないし」
ヴァンアーブルは分厚い書を脇に抱え直すと、コートのうちに手を入れて、秘密兵器――麦ご飯に、鶏ムネ肉の竜田揚げ、南瓜の煮物、ほうれん草の白和えが入ったお弁当を確認した。ケルベロスであるという以前に、一人の医者として、チビマッチョなビルシャナの主張は看過できない。
いただきます、の合唱に続いて割りばしを割る音が廊下に響く。
「よし、みんな。突入の準備はいいかい?」
辛夷がごきごきと首を回す。
「間違ったダイエット布教する鳥はキルkillデース」
スノードロップの宣言とともに、ケルベロスたちはジムに突入した。
●
「お食事中のところ、おじゃまするっすよ!」
突撃となりの夜ごはんのリポーターちっくに片腕を上げながら、結里花はジムの隅でもくもくと肉を食べるビルシャナ信者たちに近づいていった。
スノードロップが姉の肩越しに呼びかける。
「食べながらでもいいデス。アタシたちのお話、チョット聞いてくダサーイ」
煙をあげる簡易グリルの向こう側から、けたたましい声があがった。
「コケー! 出たなケルベロス! みなさーん、奴らの言うことに耳を傾けてはなりませんよ。ほら、よそ見をしているとお肉が焦げてしまいます!」
奥で煙が塊になって動いた。ビルシャナが立ちあがったらしい。しかし、その姿は黒い頭と白い煙の後ろに隠れて見えない。
「背が低いとは聞いておったが、どれだけ――」
「ほっとけ!」
アデレードの言葉に反応したビルシャナ――の影が、ぴょこぴょこ飛ぶ。
「そのぶん肉を食って鍛えている。見よ、この肉体美!!」
影の動きからなにやらポージングして決めてみせたようだが、ケルベロスたちには見えない。
この間も信者たちは、もくもくと箸を動かし肉に食らいついている。
「お主たち、本当に肉しか食べておらんのだな。偏食するぐらいであれば、食べた分だけ消費すればよかろう。と言うか、お主ら鍛えにジムに来たのではないのか?」
「クワクワーッ、偏食ではない! 肉だけ食べるのが正しい食事なのです。百獣の王ライオンがキャベツを食べますか? ニンジンを齧りますか?」
信者たちが一斉に首を振る。
「あの美しいたてがみも力強い肢体も、みーんなお肉だけで維持されているのです」
詭弁だね、と辛夷は辛らつな声を煙の幕へ叩きつけた。ケルベロスコートをかっこよくヤクザ脱ぎして大きく振り投げる。
「肉ばかり食わなくても良い筋肉は作れる。この体がその証拠さ」
腰を軽くひねり、組んだ手を添えてポージング。女性らしいなだらかな曲線とくびれを残しつつ、きゅっと引き締まった張りのある肉体美を披露した。熱くたぎった活力が、全身から溢れ出ている。
「負けん!」
コートの一振りで煙が晴れて、姿を現したビルシャナがモストマスキュラ―で対抗してきた。体を斜め前に倒して、両腕で輪をつくるアレである。
「確かにいい体を作っていマスネ。シカシ……」
そう前置きしてモヱは信者に語りだす。
「油断すれば何時でも元の木阿弥」
ケルベロスコートから一冊のファイルを取りだして広げ、ぱらぱらとめくっていく。ファイルには『その後リバウンドしてしまった例』の生々しい写真がとじられていた。
「その食生活を今後もずっと継続することは困難デショウ。行楽や趣味を諦めてまで痩せたいデスカ?」
ビルシャナの反論。
「人生は短いのです! 行楽や趣味? そんなものにうつつをぬかして肉体管理を怠っていたからブヨンブヨンの体になったのではありませんか!」
「うーん、肥満の原因はいろいろあるからねぇ。『医者』としてはそんなふうに決めつけて欲しくないな」
ヴァンアーブルの深く落ち着いた声を聞いて、信者たちは次々と箸を置いて居住まいを正した。
「糖質制限ダイエットするなら、白ご飯に麦を混ぜた麦ご飯がいいんじゃないかな。麦の食物繊維でお通じもよくなるし、高血圧や高血糖も改善するよ」
健康のためにバランスよく食品を取ることが大事と諭す。
「というわけで、『ヴァンさんの食事療法』に乗っ取った、美味しくて体のためになるお弁当を作ってきたよ。良ければ食べてね? 脂肪吸収を和らげるプーアル茶も一緒にどうぞ」
「そうデース。肉ばっかり食べるなら大豆食べる方がまだいいと思いマス。プロテインとかも大豆由来のたんぱく質が多いし、食物繊維もしっかりと取れマス。イソフラボンで肌も綺麗になるネ。バランスの悪い食事ばっかりダト……肌荒れるヨー」
結里花は妹の言葉に頷きつつ、蓋が外された重箱に箸を入れて、南瓜の煮物をひとつ食べた。
「うん、美味しい。肉だけじゃなく脳の栄養になるものもしっかりと取らないと、頭が働かないっすよ。それで仕事ができるというのか、そこのビジネスマン!」
ほどよく焼けた肉にそろりと箸を伸ばす中年の男を、びしり、と指さす。
「コケケーッ! みなさん、デブ菌の手先どもの話など、これ以上聞く必要はありません! 食べなさい! どんどん肉を食べないさい! 最高級の黒毛和牛を存分に貪り食いなさい!」
ビルシャナが肉を鉄板に乗せる。たちまち肉から脂が滴り、はじけ、炎が上がる。なんともいえぬ良い匂いが広がり、ごくりと飲み下される唾の音が次々と鳴った。
最高級・霜降り黒毛和牛が振るう美味なる音と匂いの猛威に、ケルベロスたちの目も思わず泳ぐ。
ましてビルシャナ信者に抗えるはずがない。我先にと互いに争いながら、箸を鉄板の上で焼ける肉へ伸ばしては口へ入れていく。
「んん~このカルビおいしいですね! よーし、ごはんをまいちゃおう!」
「クワー! ごはんは食べるな!! てか、貴様はケルベロス! ちゃっかり交じって厚かまし――」
モモコにジャンピング・ヘッド・アタックをかませようと、マッチョでチビのビルシャナが膝を屈めたところへ、リィンが後ろから飛びついた。
もふもふの毛に顔をうずめながら、『お肉を食べてよいのですよね? 素晴らしいのです~♪』といい、腕を前に回して逞しい大胸筋を掴む。
「コ、コケ?」
『発達した胸肉、力こぶのすごい手羽元、引き締まった腿肉、おいしそうなのです~♪』
首を後ろに回すビルシャナ。
食欲全開の目で見つめ返すリィン。
『……お肉を食べてよいのですよね?』
ビルシャナがあげた小さな悲鳴を、ばかぁん、と開かれた炊飯器の蓋の音が掻き消した。
収納ケースから茶碗を受けとったエプロン姿のマン号が、純白の湯気の向こうで次々と銀シャリを盛りつけていく。
モモコは収納ケースからおかわりを受け取ると、タレをつけた黒毛和牛のカルビをご飯に乗せてくるりと巻いた。一口で頬張り、幸せに目を潤ませる。
「はまりまへんへ」
(たまりませんね)
ついに信者たちの信心が決壊した。
水鉄砲のごとく収納ケースとマン号、いや銀シャリが山のように盛られたお茶椀に押し寄せる。
「たくさんありマス。落ち着いて、順番に並んでクダサイ」
モヱが収納ケースたちを庇いながら、信徒たちにご飯を手渡していく。
「こ、こらー! 我慢しろ、肉以外食べちゃいか―ん! 太るぞ!!」
「わらわもスイーツが好きじゃが正義を成すことによって鍛えておる! 見よ、このパワー。好きなものを我慢するな! そして、そのぶん鍛えるのじゃ」
アデレードが頭上に持ち上げたバーベルをビルシャナへ投げると、リィンはさっさとその背から降りた。
●
ビルシャナはバーベルの下で仰向けになってもがいている。
その隙にケルベロスたちはマン号たちに先導させて、洗脳が解けた人々をジムの外へ逃がす。
ヴァンアーブルがふくよかなお姉さま方に囲まれ、「先生も食後のデザートをご一緒に」と拉致されたが、もみくちゃにされながらもなんとか抜けだせたようだ。
「お待たせ。さあ、始めようか?」
開いた書を片手に微笑むと、脳細胞をフル活性させて身体機能を強化する呪文を唱え始めた。
収納ケースが食器類を、マン号がまだ焼かれていない黒毛高級和牛を急いで回収する。
「んー! では、食べたし運動でもしましょうか」
モモコは満足げに伸びをすると、斬霊刀「イズナ」を抜き放った。
「あ、でも食べてすぐ動くとお腹が痛くなっちゃうかも……」
あたりの様子をうかがうと、まだモヱとリィンが手分けしてコンロの火を消して回っていた。ビルシャナもバーベルの下だ。
なら、運動はもう少しあとで、と一番手を仲間に譲った。直心影流・法定之形の構えを取り、精神集中に入る。
「それでは一番、スノードロップ――バッキバキに砕きマス」
スノードロップは華刃剥命を振り上げた。白銀にさく青薔薇をビルシャナの血で赤く染めんと、漆黒の翼を広げて飛ぶ。
「コケーッ!!」
ビルシャナはバーベルを持ち上げると鉄棒で斧を受け止めた。が、腹に堕天使の全体重をかけた一撃をモロに喰らってしまう。
「グエッ」
開いた嘴の奥から、火の玉が勢いよく吐きだされた。
「スノー、あぶない!」
結里花はビルシャナの体から飛びおりた妹の前に体を割り込ませて、孔雀のように火の粉を広げて飛んできた火の玉を受けた。一瞬、ブロックした腕が炎に包まれる。
「あちち。あ、これぐらい回復してもらわなくても大丈夫っすよ」
アデレードは解ったとうなずくと、二対の鎌を胸の前で構えた。
「美味いものを食べに食べてエネルギーを得れば鍛錬も進む。そして、正義はなされてゆくのじゃ。チキュウの同胞達を惑わすのはやめにしてもらうぞ!」
ようやく立ちあがったビルシャナに向かって一歩大きく踏み込む。間合いが潰れた瞬間に、素早く腕を開いて燃え上がる斧を叩きつけた。
「肉は美味いだろうが!!」
「話をすり替えようとするんじゃないよ」
辛夷がエクスカリバールを振るう、振るう、振るう!
ビルシャナの羽毛が抜け、飛び、乱舞する。すけべー、と叫びながら尾の先にある浄罪の鐘を激しく振って鳴らす。
収納ケースが尻尾の根元にガブっと噛みついてトラウマを引き起こす響きを止めた。
「アンタの鶏ムネを見ても、ちっともそそられないね」
黙れ、と再び火を吐くビルシャナ。
「鶏いうな、ちがうわ!」
ダンダンと足で床を踏み鳴らすたびに、浄罪の鐘もリンリンとうるさく鳴る。
「ミンナ、下がってクダサイ!」
モヱが体内に流れる電気を突きだしたロッドの先から放逐し、仲間たちの前に雷の壁を築いた。
『そうです。鶏じゃなく、鍛えているから軍鶏なのです~。ボクは軍鶏ムネ、美味しそうだと思いますぅ』
じゅるり、と垂れた涎をぬぐいながら、リィンは全身からオーロラのような光を放つ。
『マン号、こんがり焼いちゃってください』
シャーマンゴーストが放った理力の炎が、ビルシャナを包み込んだ。
火を消そうと翼をバタバタさせる度に、香ばしい匂いが辺りに漂う。
「しかし、ビルシャナになった君、よく病気にならなかったねぇ」
病気にはならなかったが、肉食を極めた末にビルシャナになってしまうとは。感心するやらあきれるやら。
ヴァンアーブルはゆるり、と首を振ると時空凍結弾を放った。
「頃合いですね。この一撃で鶏料理の仕上げ、いえ、勝負を決めましょう!!」
モモコは全身の筋肉に力をみなぎらせ、すばやく、ゆるぎなくイズナを振りおろした。重力に引かれた刃は肉を渇望して、宙に弧を描く。
重い一太刀を浴びて、ビルシャナは主張する教義とともにまばゆい光となって消滅した。
『ああああ! お肉が、軍鶏肉が消えたぁぁぁ~』
涙を流すリィンの目の前に、マン号が焼肉のタレが入った小皿を差し出す。
キミにはまだ黒毛和牛があるじゃないか、と。
そう、残された黒毛和牛には罪はない。残して捨てるなんて言語道断。
ケルベロスたちは最後までミッションを完食、いや美味しくまっとうした。
作者:そうすけ |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年10月23日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
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