●私だって
「う、うぅっ、う……」
友人のブログや、街中のハロウィンパーティーのポスターを見るたび、悔しさが込み上げる。若くして結婚して家庭に入ったエリカは、今日も遠方に住む友人の近況報告にあげられた『ハロウィンパーティーの準備中☆』という記事に嫉妬を募らせていた。今は、田舎で夫の帰りを待ちながら家事をこなし、空いた時間はパートに出るという地味な生活。
もっと、もっと遊んでおけばよかった……!
「ハロウィンパーティーに参加したい……? その夢、かなえてあげましょう。世界で一番楽しいパーティーに参加して、その心の欠損を埋めるのよ」
突如、エリカの背後に現れた赤い頭巾の少女がエリカの胸を巨大な鍵で貫く。鍵が引き抜かれた直後にエリカの傍らに現れたモザイクの全身に血濡れのメイド服を纏うドリームイーターは、嬉々としてその場から去って行った……。
●楽しいパーティーが
笹島・ねむ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0003)は、慌てた様子で状況を報告する。
「藤咲・うるる(サニーガール・e00086)さんが調査してくれたんですが、日本各地でドリームイーターが暗躍してるみたいですっ」
うるるは心配そうにこくりと頷く。
「ハロウィンパーティー、したいけどできない……みんなは楽しそう、いいなぁって思いが膨らんで、ドリームイーターはパーティー当日の夜に一斉に動き出すつもりみたいです!」
楽しいパーティーを混乱に陥れるなんて、困ります! とねむは眉を下げる。
「場所は、一番盛り上がるパーティー会場……つまり、鎌倉のハロウィンパーティーですね。パーティーが始まる前に、なんとかドリームイーターをやっつけて欲しいのですっ!」
ぎゅっと拳を握りしめ、ねむは懇願した。
「そのドリームイーターは、血糊がいっぱいついたメイド服を着てます! モザイクを飛ばして攻撃して来たり、おっきな鍵で切り裂いてみんなのトラウマを呼び起こしたりします。気をつけてくださいね」
あっ、とねむが声を上げた。
「ドリームイーターはパーティーが始まらないと出てこないんです。だから、皆さんがパーティー開始前にあたかもパーティーなう♪ と言う感じで仮装して楽しげにしていれば誘き出すことができますね!」
「なるほど……仮装」
ナズナ・ベルグリン(シャドウエルフのガンスリンガー・en0006)が頷いて首を傾げる。
「一体どんな格好をすればいいでしょう……」
ねむは笑顔でナズナの肩を叩き、集まったケルベロス達を見るよう促した。
「みんながついてますっ! だいじょぶですよ!」
ナズナも安心したように頷く。
「はい、皆さんでハロウィンパーティーを楽しむため、必ずドリームイーターを撃破しましょう」
そうして、ケルベロス達は顔を見合わせて立ち上がるのであった。
参加者 | |
---|---|
乾・陽狩(サキュバスのミュージックファイター・e00085) |
絶花・頼犬(心殺し・e00301) |
西水・祥空(クロームロータス・e01423) |
クーデリカ・ベルレイム(白炎に彩られし小花・e02310) |
明智・珠稀(今日も元気だド変態・e02497) |
アリス・マコーニー(ダークストライダー・e02863) |
イヴ・ノイシュヴァンシュ(嫉妬の超高速移動爆弾・e07799) |
猫屋敷・睦葉(アノ手コノ手・e12776) |
●Trick!
「カーッ!」
仮面で顔を隠し、真っ黒いローブのフードを目深に被って絶花・頼犬(心殺し・e00301)は羽のような形の袖をバサバサして見せた。パッと見ただけではわからないが……。
「もしかして……その声は頼犬さんですか?」
海賊の船長の姿をした西水・祥空(クロームロータス・e01423)が、長いコートを翻して問う。
「正解~! はーい、お菓子だよー」
早速ハロウィンパーティーの始まりと言わんばかりに、頼犬はキラキラした飴玉を祥空に手渡す。祥空は、横目でちらと一般人がいないのを確認してから飴玉を受け取り自分の持っているお菓子も頼犬に勧めた。
「ありがとうございます、楽しみましょう」
せっかくだから、ドリームイーターも本当のパーティーと思ってしまうほどに自分たちも楽しんで行こう、その思いが仲間たちに伝わる。
「みんなが楽しみにしてるパーティーをぶち壊すだなんていい度胸してるわ」
十二単を纏ったイヴ・ノイシュヴァンシュ(嫉妬の超高速移動爆弾・e07799)が腕を組んで大きく息を吐いた。本番をぶち壊される前に、返り討ちにしてやりましょ、と意気込むイヴに、明智・珠稀(今日も元気だド変態・e02497)も頷いた。
「ふ、ふふ。パーティーをうらやむ気持ち、わかります。しかしだからと言って滅茶苦茶にしていい理由にはなりません」
もこもこの黒ビキニに猫耳猫しっぽ。露出度高めのどこからどう見てもアレな男はキリリとその表情を引き締め、言葉を続ける。
「私達でハロウィンを守りましょう……にゃん!」
同行した仲間たちの提案を参考にナズナ・ベルグリン(シャドウエルフのガンスリンガー・en0006)が着てきたのはボルドーのドレス。女王の貫録を出すためのティアラをつけて、ステッキを手に持ち薄く微笑んだ。
「これで、大丈夫でしょうか?」
「似合ってるじゃないですか~」
頭に矢を突き刺したキョンシー姿の猫屋敷・睦葉(アノ手コノ手・e12776)がまじまじと見つめると、少し照れくさそうに視線を逸らす。
「そうでしょうか、そうなら良かったのですが」
クーデリカ・ベルレイム(白炎に彩られし小花・e02310)は、深紅のローブに身を包み、ナズナの横に並んだ。そして、小さく首を傾げる。
「……姉妹っぽく見えたりします?」
「同じ種族で、髪と目の色が一緒ですものね」
くす、と小さく笑いかけると、クーデリカは無表情ながらも楽しげに頷く。
そんなナズナに珠稀がずい、と何かを差し出した。
「これ……は?」
「是非! こちらも着ていただけたらと!」
もちろんその格好もお似合いですがと鼻息荒く珠稀が差し出したのは――バニースーツ。
「あまり仮装など慣れてらっしゃらないようですので、見覚えがありそう、且つナズナさんに似合いそうなものをチョイスしました……!」
「なるほど、しかしかなり露出が……」
仲間たちもちょっとビビっている気がする。そこで珠稀はハッとして頬を赤らめた。
「では、せ、せめて兎耳だけでも……!」
それなら可愛いかもね、という仲間たちの声に、急きょ彼女の頭に兔耳が追加された。
黒を基調とした格調高いゴシックメイド服を身にまとったアリス・マコーニー(ダークストライダー・e02863)が、ナズナに優しく手を差し伸べる。
「どう? ボクをエスコートしてくれない?」
ダンスを一曲。と流れるような動作で一礼すると、にこりと笑ってナズナはその手を取った。
「よろしくお願いします」
真っ黒なマントにとんがり帽子を被った乾・陽狩(サキュバスのミュージックファイター・e00085)と、その傍らにいるお揃いのとんがり帽子を被ったフィリーヤは顔を見合わせて頷く。
「一曲、プレゼントしますね!」
お菓子のかごをフィリーヤに任せ、ギターをかき鳴らせば楽しげなメロディが会場に溢れ出す。
「レッツパーリィィィィ!!」
睦葉のハイテンションな掛け声が会場に響いた。睦葉は様々なお菓子をお手玉しながら会場を練り歩いて見せる。羽帽子を被った王子風の仮装をした伊勢波・晴陽と貧しいプリンセスの仮装をしたミュピエ・リクシェールが手を取り合い踊るところへ声をかける。
「トリックオアトリート!」
「ハッピーハロウィン!」
晴陽がキャンディを渡すと、睦葉はそれを受け取ってさらにお手玉の数を増やす。会場内にケルベロス達の拍手が響いた。テンペスタ・シェイクスピアが飛ばしたヒールドローンに小さなお化けの装飾がぶら下がってふよふよと浮いている様がハロウィンらしさをさらに引き立てている。
●Treat?
「お菓子をくれても悪戯します……!」
珠稀はうっとりと幸せそうに仲間たちの仮装を見つめながら祥空に歩み寄る。
「えっ……差し上げても悪戯されてしまうのですか」
祥空はドリンクを手渡しながら、苦笑する。
クーデリカは、持ってきた音楽を再生してハロウィンのムードを更に増すと満足したように会場を見回した。音楽をかけてもらったことで演奏の手を休められることになった陽狩がありがとう、と手を振ると、クーデリカも会釈を返す。
「トリック アンド トリート!」
頼犬の声に陽狩は手作りのクッキーを手渡す。
「はい、って、アンドってことはお菓子をあげても悪戯されちゃう!?」
わたわたする彼女に頼犬はにっこり笑って自分の持っているお菓子を差し出した。
「冗談だよー。はい、お菓子!」
お化けのアイシングクッキーを渡すと、陽狩は嬉しそうに受け取ってお礼を口にする。
会場内は楽しげな音楽と、『トリックオアトリート』の声、美味しそうな色とりどりのお菓子で溢れかえり、ケルベロス達の仮装が華やかさを演出している。少人数と言えど、どこからどう見ても本物のパーティーだ。
けれど、ケルベロス達はただ遊んでいるわけではない。華麗なステップを踏みながら、アリスは神経を張り巡らせる。ナズナも同様に、彼女のステップに合わせながらドリームイーターが喰いつくのを待った。祥空が記念撮影をしましょう、とカメラを取り出した瞬間、その撮影に混ざろうとするかのようにモザイクが姿を現す。
「――来たみたいだね」
アリスはダンスをやめて、万が一にでも一般人がここへ近づかないよう殺界を形成した。
「さぁ、真の宴の始まりです……!」
珠稀が高らかに宣言する。ドリームイーターは嬉しそうに鍵を振り上げ、血まみれのメイド服をはためかせて走り寄ってきた……。
●渇望は躍る
クラッシャーの頼犬、アリスはドリームイーターが行動を起こす前にとその姿の前に駆け付ける。ディフェンダーである祥空も仲間を守るべくドリームイーターの行く手に立ちはだかった。
「二刀奥義・瞬柄刃!」
頼犬は、ドリームイーターが鍵を振り降ろそうとするのとほぼ同時に己の鞘から瞬時に斬霊刀を抜き、切りつける。ギィン、と金属のかち合う音が響き、彼女がもつ鍵がはじき返された。
「アタシモ……アタシモ、仲間ニ、イレテヨォオ!」
吠えるように叫んだ女は、その声と同時にモザイクを飛ばす。モザイクを受ける寸前、クーデリカのステルスリーフがクーデリカ本人を包む。そして、モザイクを喰らった彼女はふらりとその場に膝をついた。
「キミはどこまで無粋でツマラナイ存在なんだ?」
アリスがマインドリングからすらりと光の剣を手にし、勢いよく斬りつける。
「ガッ、アァァァアア!」
「早く退場してくれないかな? ……ボクはキミを楽しませるつもりは毛頭ないんだよ」
ドリームイーターはゆらゆらと不気味にモザイクを光らせながら、そのモザイクを飛ばす。アリスを包み込んだモザイクは、アリスからじわりと知識を奪って行った。
「ハ、ハハハ! タノシイ! タノシイネ!」
ハロウィンの楽しいダンスの記憶を追体験するかのように、ドリームイーターは高らかに笑う。その隙に、イヴが背後からトラウマボールを叩きこんだ。
「ヒッ!? ウゥ、アァァッ……」
先日見た友人の『ハロウィンパーティーのメイク予行演習★』というブログ記事がドリームイーターの脳裏によみがえる。
「全く……自分勝手な子供じみた理由でパーティーぶち壊しに来てんじゃないわよ」
イヴが頽れるドリームイーターを見下ろしため息をついている間に睦葉が駆け寄り、アリスにウィッチオペレーションを施す。更に、後方から放ったナズナの祝福の矢がクーデリカを癒した。
「もう大丈夫ですよ!」
睦葉が力強く声をかけると、アリスは不敵に微笑んで頷く。
ケルベロス達の連携や絆がうらやましくなったのか、ドリームイーターはゆらりと立ち上り、手にした巨大な鍵をクーデリカに突き刺そうと前方へ突き出した。
陽狩の指示で躍り出てきたフィリーヤがボクスタックルでそれを迎え撃つ。
「グッ!?」
その衝撃に唸りふらつきながらも、再度鍵をねじ込もうと構えるドリームイーターに、次は祥空が立ちはだかった。
「させませんよ」
至近距離で叩き込まれる達人の一撃に、ドリームイーターはたまらず膝をつく。そこを狙って、陽狩が走り寄りスターゲイザーをその背に命中させた。
「ガァアァッ」
負けていられないとばかりに飛ばすドリームイーター。相打つように、珠稀の跳弾射撃がその腕を貫いた。
「く、ふふ……」
珠稀はその身に受けたモザイクに眉を顰める。
「……白炎展開」
ぽつり、クーデリカが呟く。ゴォッと真っ白な炎が彼女の手の剣を包んだ。
「呪詛装填」
そして、彼女の周りに白い炎が浮かび上がる。そのまま剣をドリームイーターに差し向け、彼女は更に宣告するように続けた。
「撃ち抜き、爆ぜよ」
ホワイトバーストがドリームイーターを襲う。着弾した箇所が爆発して、たまらず悲鳴を上げた。
「ギャアァァッ!」
立ち上がりもがくドリームイーターは陽狩により万物破砕の旋律で追撃される。続いて、頼犬の二刀斬霊波を胴体目がけて打ちこまれ、為す術もなくその場に倒れた。
「ア、タシモ……トリック、オア……トリート」
絞り出すような声を出しながら、彼女は苦しげにモザイクを飛ばす。イヴは苛立ちを露わにしながら螺旋竜巻地獄で畳み掛けた。
「そんなの暴れる理由になってないわよ」
駄々をこねるのもいい加減にしろと言わんばかりの追撃に、ドリームイーターはただ呻くばかり。傷を負った珠稀をメディカルレインで癒し、睦葉はその手を取り立たせる。
アリスが二つのマインドリングを合わせる。マインドインフィニティで突撃したのとほぼ同時に、珠稀は無数の薔薇の花びらを己の周囲に舞わせてその声を響かせた。
「く、ふふ、ふははははははは!! さぁ、私の薔薇に包まれてください、そして心地良い地獄の快楽を貴方に……!!」
アリスによる攻撃を受けてへたり込むドリームイーターの胸に真っ赤な弾丸がめり込む。
「ア……アアァ……」
ぽん、と音を立て、ドリームイーターの残骸はジャック・オ・ランタンへと姿を変える。
パーティー会場を守り抜いた安堵感に、ケルベロス達は胸をなでおろした。
「この方も共にハロウィンを楽しみたかったでしょうに……一緒にパーティーしたかったです、ね」
そっとジャック・オ・ランタンを撫でながら明智が切なげにつぶやく。その仮装がちょっと変態じみていることに突っ込めるケルベロスは一人としていなかった。
●パーティーはこれから
装飾されていた会場が、先の戦闘で少し荒れてしまったことに気付き、陽狩とクーデリカが提案する。
「みんなでヒールで直しましょう!」
ケルベロス達は、サポートで集まった者も含めて顔を見合わせ頷き合う。
そして、直していった部分は図らずもファンタジーな見た目に変わっていくものだから……。
「(ハロウィンだし、まあ、いいかな?)」
陽狩は自然と笑顔を零す。
「パーティーの続き、ってやっちゃいけない、かな?」
チラリ、と人懐っこい笑顔で頼犬が仲間たちの顔を見た。
「折角のハロウィンだし、ね?」
くすり、とアリスが微笑んだ。
「皆、ナズナ、このままパーティを楽しもうよ」
クーデリカは止まってしまった音楽をもう一度再生する。
「お菓子も料理もまだたくさんありますしね」
祥空は柔らかく微笑むと持参した物をテーブルに広げた。
ナズナも、その楽しげな様子に目を細めて深く頷いた。
「じゃあ、みんなにパーティーが始まるって伝えなくっちゃね!」
睦葉が大きな声で本当のパーティーの開始を宣言する。ドリームイーターに脅かされた会場に、今、ケルベロス達の手で平穏が取り戻された。
――本当のパーティーを、楽しむために。
作者:狐路ユッカ |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2015年10月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 7/キャラが大事にされていた 0
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