影に堕ちし桜の太刀

作者:ハル


「ここに来るのも久しぶりだね。……でも、これは一体どういう事?」
 予感に惹かれ、アイリ・ラピスティア(宵桜の刀剣士・e00717)が訪れたのは、彼女にとって因縁浅からぬ地。かつての面影もなく、寂れ果て、長らく人が訪れていないであろう廃墟となったそこには――。
「これって、モザイクだよね? なるほどね、アレ……か」
 各地で頻発しているという、調査した土地がモザイクに覆われる例の事件。アイリの脳裏を、その事例が過ぎる。
「話には聞いていたけど、本当に滅茶苦茶だね」
 モザイクの内部は、廃墟と幻想が入り交じったような空間だった。当たり前のように建物が逆向きとなり、和風と洋風の家屋の残骸が平然と繋ぎ合わされている。少なくとも、アイリはこんな奇怪な建物など目にしたことはなかった。
「これ、気持ち悪いな」
 何よりもアイリを不快にしたのは、モザイクの中へ踏み込むと同時に纏わり付いてきた粘性の液体だ。全身にヌルヌルと纏わり付く正体不明のソレに、アイリの眉根が寄った。
 と――。
「……このワイルドスペースを発見できるとはな。まさか、この姿に因縁のある者なのかしら?」
 思案するアイリの耳に、聞き慣れた声が届き、アイリは「来た」と身構えた。
「自分の声をこんな風に耳にすると、少し変な気がするね」
 アイリと瓜二つな、着物の上に影を纏う少女――ワイルドハント。話し方のせいもあるのだろうが、アイリよりもワンオクターブ低く聞こえるワイルドハントの声は、アイリと同じ声であるにも関わらず、少しだけ印象が違って聞こえた。
「ふむ、そう? ……まぁ、どっちみち違和感なんてすぐに感じなくなるわよ。だって……貴女はここから出られない。ワイルドスペースの秘密を秘匿するために、死んでもらわないといけないんだから……」
 ワイルドハントが、アイリに刀を向ける。そうすると、ワイルドハントの纏う影が、より濃度を増した気がした。
「悪いけれど、私もまだ死ぬ訳にはいかないよ」
 死を授けようと迫る白刃に、アイリは銃声をもって、拒絶を示すのだった。


「皆さん、新たな情報が入りました。ワイルドハントを調査していたアイリ・ラピスティア(宵桜の刀剣士・e00717) さんが、襲撃を受けた模様です!」
 山栄・桔梗(シャドウエルフのヘリオライダー・en0233)の報告に、待ち構えていたケルベロス達が慌ただしく動き始める。
 桔梗は、準備を進めるケルベロス達に告げた。
「対象のドリームイーターは、自らをワイルドハントと名乗っていて、アイリさんの訪れた土地をモザイクで覆っているようです。そして、その内部で何らかの作戦を進めているとのこと」
 情報の流出を防ぐため、ワイルドハントはアイリに刃を向けている。一刻の猶予もない。
「アイリさんの命が危険です。助けに向かい、ワイルドハントを撃破してください!」
 桔梗は、続けてワイルドハントや現場の詳細について口を開く。
「現場は特殊な建物が点在し、粘液の覆われています。ですが、どうやら戦闘に支障はないようで、ワイルドハントの撃破に集中できると思います」
 ワイルドハントは、アイリと容姿は瓜二つだが、声は若干低く、また雰囲気も少し暗いものとなっている。
「刀を装備しているようで、主に剣技を使ってくる事が想定されます。また、身に纏う影は、ワイルドハントの力を増幅させるエンチャントのようですね」
 敵の数は一体だが、攻防両面で隙が少なく、油断できない力を有している。また、攻撃力も高いので、注意が必要だ。
「アイリさんとワイルドハントの姿が瓜二つなのは、何か事件に関連があるのでしょうか? このところワイルドハントの被害は頻発していますが、油断せずにアイリさんに力を貸してあげてください!」


参加者
十夜・泉(地球人のミュージックファイター・e00031)
アイリ・ラピスティア(宵桜の刀剣士・e00717)
シーネ・シュメルツェ(白夜の息吹・e00889)
ゼノア・クロイツェル(死噛ミノ尻尾・e04597)
九条・櫻子(地球人の刀剣士・e05690)
鏡・胡蝶(夢幻泡影・e17699)
植田・碧(ブラッティバレット・e27093)
一比古・アヤメ(信じる者の幸福・e36948)

■リプレイ


『九条さん、今回もよろしくお願いしますね?』
『ええ、こちらこそ。アイリさんを困らせるワイルドハントを倒しましょうね、十夜さん』
 ――そんな風に十夜・泉(地球人のミュージックファイター・e00031)と九条・櫻子(地球人の刀剣士・e05690)が挨拶を交わして数分。ケルベロス達は、アイリ・ラピスティア(宵桜の刀剣士・e00717)が囚われたワイルドスペースに踏み込み、現場へと急行していた。
「噂には聞いていたけれど……こんな感じなのね」
 興味深そうに、鏡・胡蝶(夢幻泡影・e17699)が周囲を観察する。粘液に全身を覆われながらも、呼吸器官に問題は無い。
「私は二度目だけれど、やっぱり不気味ね。敵がどうしてあんな姿を取るのか……その理由も分からないし」
 胡蝶の隣で、走りながら大きく息を吐き出したのは植田・碧(ブラッティバレット・e27093)。
「俺も知り合いのワイルドハントに一度遭遇した。問いかけにも無反応だったな」
 ゼノア・クロイツェル(死噛ミノ尻尾・e04597)の表情に、渋面が浮かぶ。ゼノアが相手取ったワイルドハントは、空間だけでなく性別まであやふやなもの。そう語るゼノアに、シーネ・シュメルツェ(白夜の息吹・e00889)が「ふゃー」と口を大きく開けて驚きを示す。
「皆さんの経験談を聞いて、私はますますワイルドハントを斬り捨てたくなってきました」
 自分がよく知る人物と、同じ顔の相手と戦う。シーネの脳裏にいくつかの顔が浮かぶが、当然気持ちの良いものではない。
「そろそろ連中を止めたい所……だよね。そのためにも、まずはアイリちゃんと合流しないと!」
 一比古・アヤメ(信じる者の幸福・e36948)にも、ワイルドハントと一度応戦した経験があった。ゆえ、その緊急性を熟知している。
「自分を殺しにかかるもう一人の自分ですか。一見夢があるようなお話ですが……」
 実際はそうではないのだろうと、泉は思う。ドッペルゲンガーのような、不吉な話しだ。
「ん?」
 と、その時ゼノアの猫耳がピクリと動く。
「あっちだ!」
 聞き慣れたアイリの声を捉えたゼノアは、その音の方向を指し示した。

(これが、私の闇に染まった姿、か。……悪くはないかな?)
 桜と影を宿した2本の刀が激突し、対照的な色合いがワイルドスペースを彩る。刀を通してビリビリと手に伝わる重い手応えと、細身の身体に刻まれた刀傷。そんな中、アイリの胸中に宿る冷たい殺意は、些かも衰えることはない。
「……この場所を利用するなんて……」
「……ふん? 何か不満でもあるのかしら?」
 不満所ではない。アイリは言葉の代わりに、殺意を十全に込めた影の斬撃を放つ。
「影は私のものよ?」
「そっちこそ。同じ攻撃ばかりが当たるとは思わない事だね」
 だが、影の斬撃は、薄笑いを浮かべたワイルドハントに回避される。すると、身を屈めたアイリの頭上数㎝上を、影を纏った刀身が過ぎ去った。
「…………」
 アイリが、宵桜を構え直す。僅かに静寂。しかし、現状で圧倒的な劣勢に立たされているのは、アイリの方である。咆哮で気合いを入れるも、回復は間に合わない。
 だが、その時――!
「お待たせしましたわ、アイリさん」
 再び迫る影を、櫻子の刀が斬り払う。
「いざ尋常に……あぁいや、1対8でした。でも、このくらいは誤差に範囲ですよね!」
 続き、テンション高くシーネが、地獄の炎を纏った鉄塊剣を振り下ろした!
「……もう一押しだったのに、残念ね」
 しかし、ワイルドハントは身軽に鉄塊剣の攻撃範囲から身を逸らす。そして、アイリを狩り逃したワイルドハントは、増援の到着に目を伏せた。その一連の余裕ぶった仕草は、ケルベロス達の怒りに火を付ける。
 ――縛り、逃さず、絡みつけ。
 ゼノアが、鎖状のエネルギーを蛇に見立て、ワイルドハントを締め上げる。加え、ジクジクと動きを鈍らせる毒が注入された事をワイルドハントが悟ると、その身に影を纏った。
「させると思う?」
 しかし、その点については十分に対策済み。直ぐさま、碧の音速の拳が、密度を増した影を払いのけようと迫る!
「……大丈夫か。先ずは態勢を立て直すことを優先しろ」
 ゼノアはワイルドハントから目を離さぬまま、アイリに告げた。
「ありがとう、ゼノア」
 仲間の労いに、アイリの殺意が僅か緩和される。今の彼女は、最早眼前のワイルドハントの姿だった時とは違うのだ。
「アイリさん、一先ず体勢を立て直しましょう? 酷い傷よ」
「……胡蝶……皆も感謝するよ」
 胡蝶が緊急手術を開始すると、共鳴が起こり、大きな力がアイリの四肢に戻ってくる。
「そうはさせない……っ、邪魔を!?」
 しかし、ワイルドハントもケルベロス達の行動を邪魔しようと、影に染まった桜を刀に纏わせた。だが、先んじて動いた櫻子が、匠の技で剣技を放つと、ワイルドハントの攻撃が一拍遅れる。
「……小賢しいわね」
 やがて、ようやく乱舞は放たれた。殺意を宿した影桜と刀が、前衛の前で狂い踊る。
「ふゃゃ!? 耐えますよ、アマリリス!」
 万全ではないアイリを守ろうと、シーネとアマリリスが鉄塊剣を盾とする。
「一先ず、アイリさんがご無事で安心しました。点を狙う攻撃には不慣れではありますが」
 前衛で身体を張ってくれている櫻子に、不甲斐ない姿を見せる訳にはいかない。ディフェンダー陣を援護するように、泉が後方から左手を軸に構えたTop Hatを伸ばし、ワイルドハントを突く。
「アイリちゃん、もう大丈夫だよね?」
「うん、お陰様でね」
 アヤメがニコリと問いかけると、アイリはそれに頷きを返す。作戦の最重要課題をクリアした事にホッと安堵したアヤメは、
「なら、後はお前を倒すだけだね!」
 分身の幻影を纏わせ、シノビとしての鋭い視線をワイルドハントへと向けた。

● 
「良いですねえ良いですね、びりびりします」
 ワイルドハントから放たれる乱舞。踏ん張っていないと吹き飛ばされそうな手応えに、鉄塊剣で応戦するシーネが気勢を上げる。列で、減衰があってこの威力。同時に、前衛に胡蝶がいくつか付与していたエンチャントが弾け飛ぶ感覚。
「シーネさん、少し下がりましょう。……警告はされていたけれど、さすがの攻撃力ね」
 胡蝶が額の汗を拭いながら、シーネに緊急手術を施した。ワイルドハントが影を纏わせる事で、バッドステータスの通りが悪い。無論、ケルベロス達も胡蝶が後衛にも破剣を付与する事で安全地帯から耐性を崩そうとするが、さすがに普段ジャマーがそうするように上手くはいかないか。
「ボクに任せて! 次はブレイクしてみせるからねっ!」
「……やるじゃないの」
「このくらい当たり前だよ!」
 思うように行かない状況ながら、笑みを浮かべたアヤメの音速の拳に、2種のエンチャントが乗せられ、ワイルドハントの防壁をようやく打ち破る。
「――っ、重いわね!」
「……褒めてくれてどうもありがとう」
 しかし、ワイルドハントはすぐに攻勢に移った。何よりも厄介なのは、ワイルドハントの影の太刀。高い威力を宿したそれに、碧が呻く。胡蝶もヒールに奔走してくれているが、後衛を無視して前衛に集中した攻撃すべてに対応することは難しく、必然的に碧は自己回復に手を取られてしまう。そのため、碧は降魔の一撃を攻撃のメインにすることを余儀なくされていた。
(幸運だったのは、その攻撃がワイルドハント相手に相性が良さそうってことね)
 碧は、胸中でそう独りごちる。降魔の一撃が、命中も威力も確保できている事が救いだと。
(継ぎ接ぎだけけのこの場所に、時を超える力……か。ワイルドハントも、別の可能性を求めているのかな? 何にしても……趣味が悪いのは間違いないけどね)
 アイリの眼前に突きつけられるひとごろしの姿。
「宵の闇にて咲き誇れ。命を啜って、鮮やかに」
 心を荒立たせるその姿を一刻も早く消し去ろうと、アイリの宵桜がワイルドハントに突き刺さり、桜はより鮮烈に咲き誇る。
「……お前らの正体。少しずつ見えてきている」
「へぇ?」
「アイリを利用したからこそお前はその姿である……違うか」
「さぁ、どうでしょうね?」
 ゼノアがいくら問いかけようと、ワイルドハントの口から出るのは曖昧な言葉ばかり。予想通りの答えとはいえ、嘆息するゼノア。これ以上は聞いても無駄と判断し、黒猫すてっぷを超速で叩き付けた。
「……別人だと分かっていても、知り合いと瓜二つの女を殴るのは気持ちいいものではないな」
 その時思わず漏れた言葉は、ゼノアの本心なのだろう。以前戦ったワイルドハントとは違い、眼前の敵はアイリに似すぎている。
「やりますわね!」
 ギリギリと、乱舞を受け止めた櫻子の刀が火花を散らす。否応なく長期戦に持ち込まれている事を、櫻子も感じていた。前衛が各個撃破されれば、当然後衛は激しい攻撃に晒されるだろう。
「でも、させませんわ!」
 櫻子は乱舞を押し返し、返す刀で空の霊力を帯びた斬撃を放つ。後衛には仲間が、何よりも彼女の戦友である泉がいるのだから。
「それは私も同じ気持ちですよ、九条さん」
 泉とて、みすみす前衛が崩壊していく様を見ているつもりはない。アイリのために集ったケルベロス達は精鋭揃い。ワイルドハント相手ならば、地力と経験で対応する事が十分に可能なはずだ。隙を見て、泉が右手から「ドラゴンの幻影」を召喚し、ワイルドハントの刀を持つ手を狙って竜の息吹を放つ。泉の攻撃で最高の精度を宿す炎は、ワイルドハントの刀を握る手を燃焼させ、その動きを一瞬ではあるが怯ませた。
「骨も残さず叩き潰して差し上げます」
「グゥ!?」
 そこに、シーネの煌めきと重力を宿した蹴りが突き刺さる。同時に、アマリリスがワイルドハントに食らい付いた。後衛に破剣が付与されて以降、少しづつではあるが、ワイルドハントの動きが鈍り始めていた。


「判決は死刑です。――後悔しろですクソ虫」
 シーネの手で回転と共に放たれた大ぶりな一撃が、ようやく動きの鈍ったワイルドハントの首筋に突き刺さる。
「……甘いわよ!」
「ふゃゃ!?」
 だが、ワイルドハントは未だ健在。反撃にシーネへと襲い掛かった斬撃は、シーネの防御を突き破り、彼女に痛烈に一撃を見舞った!
「シーネさん!」
 意識を失ったシーネを、泉が後ろに下がらせる。ディフェンダーを一人失った事で、ケルベロス達は窮地に陥るが、それはワイルドハントも同じはず。
「これ以上の長期戦は危険です。一気に決めてしまいましょう」
 泉は仲間にそう告げると、無駄を一切を省いた動きで攻勢に出る。
 ――ヒトツメ、行きますよ?
 それは、魔の理。早く重く正確に……ただそれだけを追求した攻撃が、ワイルドハントの弱点を的確につく。
「そのお言葉をお待ちしていましたわ、十夜さん」
 ――古の龍の眠りを解き、その力を解放する。桜龍よ、我と共に全てを殲滅せよ。
 櫻子の剣技が冴え渡る。剣術は、何も力ではないのだと、ワイルドハントに刻んでやろうと、櫻子の必殺の太刀が繰り出される。桜吹雪と共に一閃されるその技は、
「……綺麗ね」
 思わず、宵桜の刃と化したアイリの目をも奪う程だ。
「……何故、こんなにも美しい……の?」
 それは、影に覆われた桜では永劫至れぬ美しさ。ワイルドハントが悔しげな呻きを上げながら、苦し紛れに太刀を瞬かせる。
 その一撃は、ゼノアの肢体を袈裟懸けに切り裂き、鮮血が飛び散った。
「……チッ! お前っ!」
 ゼノアの表情が苦痛で歪み、無愛想なツリ目が怒りで細められた。猫のような素早さと柔軟性を持ち合わせるゼノアに、これだけの手傷を与えるのだから、ワイルドハントも間違いなく猛者である。
「クロイツェルくん、一旦ここは私に任せて!」
「……悪いな」
「いいのよ、気にしないで?」
 スイッチするように、碧がゼノアの前に出る。牽制のために碧が放った電光石火の蹴りは、牽制以上の成果をもたらし、ワイルドハントを歪な建物の残骸へと吹き飛ばした。
(もしあれが、身内のワイルドハントだったなら、私の太刀筋は鈍ったりするのかしら?)
 トドメの時は近い。胡蝶は、仕上げとばかりにゼノアへと、妖しく蠢く幻影で2つ目のエンチャントを付与させながら、そう思った。
 胡蝶の視線の先には碧がいる。
「……仮に碧さんだったら……なんてね」
 愚かな思考に、胡蝶は自らを笑った。いつからそんなにナイーブになったのだと、呆れたのだ。胡蝶が分かるのは、ワイルドハント相手では、決して本質や本能に手を伸ばすことができないという事。要するに、薄っぺらく、つまらない。眼前のワイルドハントがそうであるように……。
「白雪に残る足跡、月を隠す叢雲。私の手は、花を散らす氷雨。残る桜もまた散る桜なれば……いざ!」
 思案する胡蝶の思考を打ち消したのは、不敵に笑うアヤメの声。その背には翼が宿り、ワイルドハントの死角から急降下して襲い掛かる。
「螺旋の力、思い知れッッ!」
 アヤメの掌には、迸る螺旋。燐光と共に散る血飛沫は、紛うことなくワイルドハントのものだ。
「ガハアアアアッッ!?」
 流れるような連撃に、ワイルドハントが目を見開く。しかし、これで終わったと思ってもらっては困る。ゼノアが構えた槍が、稲妻を添えて突き刺さる。
「……これも因縁だろう。お前が決めてやれ」
 そして、ゼノアは言った。返事はない。だが、すぐ背後に少女の気配は感じている。
「此処を侵すのは赦さないよ。だって、ここは……私の大事な場所なんだから」
 滅んでも、アイリの胸には在りし日のままに。ワイルドハントのお株を奪うように、アイリが放った影の斬撃は、アイリが確かに踏みしめるその地を開放したのだった。

「……だめですか」
 モザイクが、消えていく。それは、見た範囲だけでなく、泉が採取した液体までも、まるで夢幻のように……。
「こっちもだめね」
 碧が、嘆息した。モザイクの中の情報は、外へは持ち出すことはできないようだ。
「結局、現状では何も分からないってことだね」
 モザイクを調べようと躍起になっていた、アヤメが肩を落とす。
「建物の幻想、残骸……アイリの記憶にないとしても……こいつらを暴くヒントになるか?」
 持ち出せずとも、ゼノアの脳裏には記憶として風景が焼き付いている。それは、ただの廃墟となった現場を静かに眺めているアイリも同じだろう。
「具合はどう、シーネさん?」
 ――と、胡蝶に治療されていたシーネが目を覚ましたようだ。シーネが弱々しいながら笑みを浮かべ、皆が安堵する。
「アイリさんも、シーネさんも、ご無事で何よりです」
 櫻子が、シーネを覗き込みながら言った。眼鏡をかけていなかった櫻子は、シーネに印象が違う点を指摘されると、頰を真っ赤に染めて恥ずかしがるのであった。

作者:ハル 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年10月18日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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