鎌倉ハロウィンパーティー～継接兎が跳ねた夢

■リプレイ

●レッツ・パーティー！
　様々に飾り付けがされた会場の一角。
　ヒルダガルデ・ヴィッダー（弑逆のブリュンヒルデ・e00020）とシア・メリーゴーラウンド（回転木馬・e06321）は、周りへ置かれた照明に軽く暗幕を被せて薄暗くし、ハロウィンらしく雰囲気を作っていた。
「こっちはオッケーだよ！」
　藤原・雅（彩蒐・e01652）と２人で周囲に一般人がいないことを確認し、念のためキープアウトテープを貼ってきた火倶利・ひなみく（フルストレートフルハート・e10573）が戻ってくる。
　大きなテーブルの上に用意したのは、たくさんのシャンパングラス。
　カガリ・ロストマン（へんくつ黒兎・e06486）が、それを１つ１つ積んでいく。
「こんなに高く……お上手です、カガリ様」
「結構器用だぞ、俺」
　自慢気に手に持ったグラスを揺らすカガリ。
　そうしてタワーの形に積み終わったグラスの一番上から、ひなみくとシアがジュースを注いだ。
「じゃーん！　シャンパンならぬジュースタワーなんだよ！！」
「葡萄のジュースにして正解でしたわね。少しはホラーっぽくなりましたかしら」
「んじゃ、仕上げしてくる」
　自分の黒い兎耳と尻尾を出したままカガリが着ているのは、ところどころが破れた服。そこに桃色の蛍光インクを被って、仮装も完成。
「トリック・オア・トリート！」
　満足いくまでジュースタワーを楽しんでから、乾杯の合図代わりにみんなで声を揃え、それぞれに手にしたグラスを合わせた。
「さて、パーティー開始だ」
　罠だがね、と口の端を上げるヒルダガルデ。仮装として黒い尻尾をつけ、自らのねじれた羊の角とも相まって、悪魔っぽい見た目になっている。
　レイ・フロム（白の魔法使い・e00680）は、これといった仮装はせず、普段通りの格好でいた。
（「……いつも仮装みたいな服装だしな、俺」）
　用意した電子キーボードに指を乗せ、ハロウィンに合いそうな明るい曲を弾き始めるレイ。そのまましばらく、パーティーのＢＧＭを担うことにする。
　雅の仮装は、マント代わりに死経装を肩へ羽織った吸血鬼。
「……似合っているかな」
　あまり仮装などはした経験がないのだと、話す声に窺う響きが滲む雅に、「ばっちりなんだよ！」とひなみくが片手をぐっと突き出す。
　そんなひなみくがしている仮装は狼だった。モフモフとした付け耳に、狼の手を模した手袋、足元はレッグウォーマー。ちなみにミミックの『タカラバコ』は、羊の人形を入れるための箱っぽく装ってあったりする。
「雅くん、お菓子いっぱいだね！」
「……怖い狼さんに食べられないよう、たくさん用意しておいたからね」
　もらう気満々でわくわくしているひなみくに答えながら、カボチャのランタンを模した器に山盛り入ったお菓子を並べる雅。
「俺もあるぞ」
　その横に、カガリもお菓子が詰め込まれた箱を置く。持ってきたそれらは全て、うさぎの形をしているものばかりだ。
「はい、どうぞ」
　三角帽子を頭に被り、黒いロングスカートで魔女の仮装をしたシアは、手に提げた籠から様々な色と味を用意したキャンディーをつまみ、ぽんぽんとみんなに渡していく。
　そんなシアの背後へ、中国の死体妖怪っぽく仮装して動きまわっていた八剱・爽（ヱレクトロニカオルゴォル・e01165）が、特殊な気流を身に纏い、こっそりと近寄った。
「コイツはもらっていくぜ！」
　驚かすようにシアの耳元で言いながら、彼女の持つ籠から片手で飴玉をひとつかみにして奪っていく。
「もう、爽様……！　びっくりしましたわ」
「あっははー、ごめんなー」
　ぴょいぴょいと楽しげに飛び跳ねながら、爽は次のターゲットへと移動する。
「ヒルデちゃん～、トリック・オア・トリートだよ～！　食べちゃうんだよー！」
　がばーっと両手を上げ、勢いよく攻めるひなみく。
「よろしい、迎撃させてもらうぞ」
　ニヤリ笑みを浮かべたままヒルダガルデは、手品を披露する動きでキャラメルのコーティングと様々なトッピングが施された丸ごと１個のリンゴを取り出してみせた。
「皆さん、楽しそう……。楽しむのも、立派なお仕事なのかな」
　ふふ、と笑う黛・繭紗（ピュラモスの絲紡ぎ・e01004）の仮装はパンダ。白黒模様のテレビウム『笹木さん』とお揃いである。
「せっかくですし、お写真なんて、撮ってみましょうか？」
「ああ、それいいかも！」
　繭紗の提案に肯いて、今を記念に残すべく、ひとかたまりに集まり並ぶ。
　タイマーをセットし、カシャリ、とカメラのシャッターが切られた。

「次はダック・アップルやろうぜー」
　引き続き盛り上がる中で、爽が水を入れたタライを持ってきた。
　零さないように台の上へ置き、人数分のリンゴを水面に浮かべる。
　それをレイとヒルダガルデが覗き込む。
「手を使わずに、口で銜えて取るゲームだね」
「なるほど。面白そうだな」
「よし、負けた奴がぐるぐる巻きミイラだ」
　トイレットペーパーを手に構え、ニヤリと不敵に笑うカガリ。
「俺、負ける気しないからな」
「わたしだって負けないんだよ！」
　対抗するように、ひなみくがやる気ＭＡＸで手を挙げる。
「私も頑張ります」
　ぐ、と小さく手を握りしめるシア。顔が濡れるのは嫌だけれど、罰ゲームもできれば遠慮したい。
「うまく取れますでしょうか……」
　自信なさげにゆるく首を傾げた繭紗は、寄り添う笹木さんと顔を合わせる。
「……それでは、始めようか」
　くるん、と手にしたナイフを回し、淡く笑んで雅がゲーム開始の合図を送った。

●モザイク・ラビット
　その気配に真っ先に気付いたのは、会場の端々へと警戒の視線をやっていたシアだった。
「ヒルデ様、爽様……！」
　両隣にいた２人へと声をかける。聞き慣れた声に僅かに滲む緊張。それだけで伝わった。
　ぴょん、ぴょん。
　スキップするように飛び跳ねながら、現れたモノ。
　一拍置いて、その場の全員がそれに気付く。
「残念。ゲームの勝敗はつかず、だ」
　舌打ちしたげに赤い瞳を眇めながら、ぎっ、と腰に提げていた白兎のぬいぐるみの耳を引っ張るカガリ。
　それでもパーティーを楽しんでいた気持ちは一気に引き上げ、すぐに思考を冷えたものへと切り替えて。
　ケルベロス達は、招かれざる客を出迎えた。

　ばさり、と照明にかけていた暗幕を外す。
　明るい光に浮かび上がったのは、継接兎のドリームイーター。
「もう、じゅうぶんに素敵な時間でしたけれど……これから、たくさんのひとが待ち望む、もっともっと幸せな時間が待っているんです」
　笹木さんと共に仲間達の前へ出た繭紗は、妖精弓を構える。放たれたのはハートクエイクアロー。
「それを邪魔する悪い方には、早々に舞台を降りていただきましょう」
「ああ――心の弱みに付け込む卑劣なやり方、好みじゃないね」
　祭りを狙う無粋さに、不快を滲ませるレイ。
　ハロウィンを楽しみにしている者達がいる。こんな無粋な真似をせずとも、とレイはドリームイーターを見据えた。
「御機嫌よう、兎殿。良いハロウィンだな」
　きっちりと挨拶し――ヒルダガルデは、継接兎に旋刃脚を喰らわせる。
「ハロウィンの邪魔は許さねえよ！」
　少し前までのゆるい雰囲気は完全に消え、ひなみくはドリームイーターを真っ直ぐ睨んで鋭く叫ぶ。
「捉えるッ！」
　ひなみくの指が、継接兎の気脈を断つべく一突きにする。
　次いで、雅の『御業』がドリームイーターを焼き捨てるべく炎の弾を放った。
「……なぁ、遊ぼうぜ？」
　そう口にしたカガリの影から、黒く燃える子兎が何匹も生まれる。子兎達はドリームイーターの元へと走り、引っ張ったり叩いたり。あるいは噛みついたりと、力いっぱい『悪戯』し始めた。
「シア！」
「ありがとうございます……！」
　爽からのジョブレスオーラを受け、シアも前に出ている仲間達を聖なる光で援護するべく、攻性植物を収穫形態に変形させた。
　ぴょんぴょんと跳ねてフードの兎耳を揺らし、ドリームイーターはモザイクを巨大な口へと変える。がつりと喰らいついた先はレイ。
　回復に動く笹木さんの後、２つの妖精弓を束ねて繭紗が射ったのは漆黒の巨大矢。
「氷の騎士よ。凍てつく槍を以って我が敵を穿て」
　シャーマンズカードを手にレイは『氷結の槍騎兵』を召喚し、継接兎の身体を凍らせる。
「――その魂、私の地獄に焼べてやろう」
　呼応したのは青い炎。揺らめくそれがヒルダガルデの持つゾディアックソードへ纏わり付くようにして覆い、そして継接兎を執拗に追いかけた。
「喰らいやがれッ！」
　スターゲイザーを見舞わせたひなみくに次いで、雅の禁縄禁縛呪とカガリの指天殺によってドリームイーターの負った傷が深くなっていく。
　ぺたぺたと、出来た傷をモザイクで修復する継接兎。
　すぐさま、そこへ流星の煌く飛び蹴りを炸裂させる爽。繭紗は再びドリームイーターめがけ、ハートクエイクアローを放つ。
　レイはブラックスライムを捕食モードに変形し、ドリームイーターを丸ごと飲み込んだ。
　お開きにはまだ早い。万が一にでも逃しはしないと、ヒルダガルデは継接兎が扉や窓のほうへ行かないように確かめ、動く。
　ひなみくもそれに続き、電光石火の蹴りで急所を貫いた。
　手にした惨殺ナイフをするりと回す。雅が刀身へ映し出したトラウマに継接兎が苦悶に呻く。
　一矢を報いようとするように、回復を担うシアを悪夢で侵食せんとモザイクを飛ばすドリームイーター。
　しかしそれは、シアへ向かう攻撃を警戒していたカガリによって庇われた。
「カガリ様！」
「だい、じょうぶ……！」
　陥った催眠からどうにか抜け出し、カガリは獣化した手足に重力を集中する。そうして素速く、重い一撃をドリームイーターへと放った。
「――廻る星辰よ、極光よ、淡い光で照らし、友を癒やし給え」
　地獄の炎を揺らし、やわらかなダンスを踊るシア。映し出された淡い光にキラキラとオーロラが広がる。
　こちらの回復は充実。しっかりと声をかけ合う揃った呼吸で、攻撃を受けても誰も深手を負うことなく傷は癒やされた。
「――ド派手なのを一発、咬まそうか！」
　ドリームイーターが弱ってきたのを好機に、爽は束ねた魔術を膨大な恒星に変えて継接兎へ喰らわせた。閃くそれは華やかな打ち上げ花火に似た色彩。けれどその全ては圧倒的な暴力だった。
「――――」
　そして静かに繭紗が口にしたのは、ひとりの名前。左手の小指から伸びていく、運命を意味する赤い糸。それは次々と死角からドリームイーターの首元へ絡みつく。か細く見える魔法の糸は、けれど切れることはなくその首を締め上げていった。

　――ボン！
　白い煙と共に、継接兎の身体が消える。
　その後に残っていたのは、カボチャに寄り添う小さなうさぎの飾りだった。

●ハッピー・ハロウィン
「飾り付けに変わってしまいましたね……」
「まぁこれなら害はないだろうし、いっか」
　ひっそりとハロウィンの飾りに加わったそれを確認するようにつついてから、ようやくひとつ息を吐く。
「さて、もう一仕事するとしよう」
　少しばかり荒れてしまった周囲を片付け始めるヒルダガルデ。
　本番のパーティーが問題なく開催できるようにと、レイも手伝う。用意した余りのお菓子をおみやげにもらって帰ろうかなと考えながら。
　シアは手持ちのグラビティを使い、破損した箇所にヒールをかけていく。
　ファンタジックな仕上がりも、ハロウィンパーティーの彩りの一部にできるだろう。

「マキ君は……目を覚ましただろうか」
　片付けを進める中で、雅が気になったのは、ドリームイーターが生まれた夢の元になった少女のことで。
　カガリもずっと気がかりだった。一緒に遊ぼうって伝えられたら。
「無理に騒がなくていいって言ってやりたいよな。せっかく楽しいハロウィンなんだから！」
「うん！　ハロウィンは人を食べたりしないんだよ！　もう、ね！」
　爽の言葉に、ひなみくも肯く。
　だから――探して、会いに行こう。
　眠りから覚めた少女が、前向きな気持ちになってくれるかはわからないけれど。
　それでも、またみんなで写真を撮れたらと、繭紗は願う。
　たまには思い切って、いつもの自分からぴょんと飛び出してみる、そんな日も。
　きっと、悪くはないはずだから。

作者：長維梛	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2015年10月31日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 0／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 9
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